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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1062719
異議申立番号 異議2000-74586  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-10-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-12-26 
確定日 2002-05-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3057072号「ダイヤモンド状炭素膜作製方法」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3057072号の請求項1ないし4、6ないし7に係る特許を取り消す。 同請求項5に係る特許を維持する。 
理由 〔一〕 本件特許は、特願平9-365049号出願(特願昭63-255492号出願の分割出願)の分割出願として、昭和63年10月11日(1988.10.11)に出願されたものとみなされた出願であって、平成12年4月14日に特許権の設定の登録がされ(特許第3057072号。請求項数11)、平成12年6月26日に、その特許掲載公報が発行されたものである。
本件特許は、平成12年12月26日付けで、本件特許を取り消すべきであるとの特許異議の申立てがされた。その申立ての理由は、本件特許の願書に添付した明細書(以下では、本件特許明細書という。)の特許請求の範囲の請求項1、同7及び同8の構成の発明について、特許法第29条第1項第3号に挙げる発明に該当し、同条同項の規定に違反して、また、同請求項2、同3、同4、同6、同9、同10及び同11の構成の発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して、さらに、同請求項5の構成の発明について、特許法第36条第4項に規定する要件を備えていない出願に対して特許されたものであるということである。
当審は、平成13年5月28日付けで、同旨の取消理由を通知した(取消理由通知書の発送日 平成13年6月8日)。これに対して、本件特許権者は、平成13年8月7日付けで特許異議意見書及び訂正請求書を提出した。

〔二〕 訂正の適法性
なお、以下では、摘示文中の「・・・」の部分は、当審が転記を省略した部分である。
また、本決定書では、引用する場合をのぞき、珪素はけい素と、弗素はふっ素と、成膜は製膜と表記する。
(1) 訂正の要旨
(イ) 訂正事項1
特許請求の範囲を減縮することを目的として、
(a)本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の「下地被膜」を「窒化珪素膜または炭化珪素膜からなる下地被膜」(以下では、訂正事項1aという。)と、
(b)「ダイヤモンド状炭素膜」を「透光性ダイヤモンド状炭素膜」(以下では、訂正事項1bという。)と、また、
(c)「同じ反応容器で」を「外気に曝すことなく同じ反応容器で」(以下では、訂正事項1cという。)と訂正し、
上記請求項1を、全体として、下記のとおりに訂正する。
「部材上に窒化珪素膜または炭化珪素膜からなる下地被膜を形成する第一の工程と、
前記下地皮膜上に透光性ダイヤモンド状炭素膜を形成する第二の工程とを有し、
前記第一の工程と前記第二の工程とが外気に曝すことなく同じ反応容器で行われることを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。」
(ロ) 訂正事項2
誤記を訂正することを目的として、同請求項5の「炭化水素気体」を「弗化炭素気体」と訂正し、同請求項5を下記のとおりに訂正する。
「請求項1に記載の第二工程において、弗化炭素気体に1〜100MHzの高周波電圧を印加して、弗化炭素気体のプラズマを発生させることを特徴とするダイヤモンド状炭素膜の作製方法。」
(ハ) 訂正事項3
特許請求の範囲を減縮することを目的として、同請求項7〜10を削除する。
(ニ) 訂正事項4
明りょうでない記載を釈明することを目的として、同請求項11を請求項7と訂正する。
(ホ) 訂正事項5
段落【0001】の「本発明はこれをガラス等の透光性部材に形成するに際し、」(本件特許掲載公報の2頁左欄、19〜20行)を「本発明はこれをガラスや有機樹脂等の部材に形成するに際し、」と訂正する。
(なお、訂正事項5は、本件訂正請求書の訂正の要旨の項には、訂正事項として記載されていないが、本件訂正請求書に添附した訂正明細書には、上記訂正事項5のとおり記載されているので、当審は、一応、本件訂正請求は、本件特許明細書の記載を訂正事項5のとおり訂正することをも請求していると認める。)

(2) 訂正要件の満足
(イ) 訂正事項1
(α)訂正事項1aは、下地被膜膜の材質を窒化けい素又は炭化けい素に限定することによって下地被膜の種類を限定するものであるから、本件訂正は、訂正事項1aの点で、特許請求の範囲を減縮する訂正である。
また、本件特許明細書の段落【0009】に「本発明の下地被膜として、窒化珪素膜または炭化珪素膜を形成する。」と、段落【0044】に「特に透光性の基体が酸化珪素等のガラス部材であった場合、その下地材料を同一反応炉で反応性気体を取り替えるのみで成膜できる被膜は窒化珪素膜と炭化珪素膜」であると記載されていたのであるから、本件訂正は、訂正事項1aの点で、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正であり、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもない。
(β)「透光性ダイヤモンド状炭素膜」は、「ダイヤモンド状炭素膜」の光学的性質を限定するものであるから、本件訂正は、本件訂正事項1bの点で、特許請求の範囲を減縮する訂正である。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0029】(実施例1の一部。ただし、実施例1は窒化けい素膜上に製膜する実施例である。)には、「可視光に対し、透光性のアモルファス構造または結晶構造を有する弗素と水素とが添加された炭素または炭素を主成分とする被膜を0.1〜8μm例えば0.5μm(平面部)、1〜3μm(凸部)に生成させた」と記載されているから、本件訂正は、訂正事項1bの点で、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正であり、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもない。
(γ)「外気に曝すことなく同じ反応容器で」とは、反応本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の「同じ反応容器で」という条件に更に「外気に曝すことなく」という限定条件を付加するのであるから、本件訂正は、訂正事項1cの点で、特許請求の範囲を減縮する訂正である。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0036】(実施例4の一部)には、「この基板上にまず実施例3に示した窒化珪素膜を形成した。この反応容器を外気(特に酸素)に触れさせることなくさらに反応性気体を排除し、実施例1に示した如くこの上に弗素が添加された炭素膜を0.1〜5μm例えば0.5μmの厚さに形成した」と記載されていたのであるから、本件訂正は、訂正事項1cの点で、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正であり、特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもない。
(ロ) 訂正事項2
(a) 「炭化水素気体」「に高周波電圧を印加」しても、それだけでは、「弗化炭素気体のプラズマ」は生成しないことは明らかである。そして、本件特許明細書の段落段落【0006】には、「エチレン(C2H4)、メタン(CH4)、アセチレン(C2H2)、弗化炭素(C2F6,C3F8)のような炭化水素気体または弗化炭素またはCHF3、H2C3F6、CF、CH2F2等の弗化炭素の如き炭素弗化物気体を導入」すると記載され、さらに、【0008】には、「弗素の如きハロゲン元素を初期状態から有するC2F6とNH3+H2の反応またはC2F6とB2H6+H2との反応を用い、プラズマCVD中に炭化物気体に加えて同時に窒素(5価の添加物)またはホウ素(3価の添加物)を混入させて、・・・被膜または・・・複合膜を作ってもよい。」とされているから、本件特許明細書には、弗化炭素気体からプラズマを生成させることが記載されている。
そうすると、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項5に記載された「弗化炭素気体のプラズマ」とは、「弗化炭素気体」から発生させたプラズマの意味であると解されるから、「炭化水素気体に」「高周波電圧を印加」するのは、弗化炭素気体に高周波電圧を印加することの誤記であるとするのが妥当である(また、逆に、「弗化炭素気体のプラズマ」の記載の方が誤記であると解するのは請求項4との関係上、妥当ではない。)。
また、弗化炭素気体に1〜100MHzの高周波電圧を印加すること自体は、本件特許の出願当初の明細書に記載されていたことであり、また、この誤記の訂正は、本件特許明細書の特許請求の範囲を拡張するものとも、変更するものとも認められない。

(ハ) 訂正事項3及び訂正事項4
特許請求の範囲から請求項を削除することは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、この削除に対応して、項番号が連続するように、被削除請求項より後の請求項の項番号を訂正するのは、明りょうでない記載を釈明することを目的とする訂正である。
また、これらの訂正は、特許請求の範囲を拡張するものでもなく、変更するものでもなく、また、本件特許明細書に記載した事項の範囲内でする訂正である。

(ニ) 訂正事項5
本件特許明細書の段落【0028】には、「有機樹脂上またその他固体無機材料上にも密着させて成膜させ得る。」(本件特許掲載公報4頁7欄、21〜22行)こと、また、同段落【0030】には、「かくして部材であるガラス板、有機樹脂物上、その他の部材に炭素を主成分とする被膜、特に・・・親水性炭素膜を形成させることができた。」(同28〜32行。なお、「・・・」の部分は、当審が転記を省略した部分である。)と記載されていること、また、本件特許明細書の段落【0001】の「ガラス等の透光性部材」の記載が訂正事項5の「ガラスや有機樹脂等の部材」の代表例であることが周知であること、さらに、訂正事項5が本件特許明細書中の「発明の属する技術分野」の記載に関するものであることからみて、本件訂正は、訂正事項5の点で、明りょうでない記載を釈明することを目的としている認めることができ、かつ、本件特許明細書に記載した事項の範囲内であり、また、本件特許明細書の特許請求の範囲を拡張するものとも、変更するものとも認められない。

(ホ) また、訂正事項1から同5までのすべての訂正事項を総合しても、本件訂正は、すべての訂正要件を備えているものと認められる。

(ヘ) なお、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項4から同6までの各請求項の末尾の記載は、「ダイヤモンド状炭素膜の作製方法」となっているところ、本件訂正請求書に添付された訂正明細書では、いずれも、「ダイヤモンド状炭素膜作製方法」となっているが、「ダイヤモンド状炭素膜の作製方法」の記載と「ダイヤモンド状炭素膜作製方法」の記載とが全く同義の記載であることは明らかであるから、実質的な訂正ではないと認めることができる(このような単なる字句上だけの訂正を単独ですることは、訂正の目的として不適当であると解されるが、本件訂正請求では、実質的な訂正でないとしても、まったく支障がないと考えられる。)。

(ト) 以上のとおりであるから、本件訂正は、適法な訂正であって、認めるべきものである。

〔三〕 本件特許明細書の記載
以下では、本件訂正によって訂正された本件特許明細書を本件特許明細書という。
以下の摘記は、本件訂正請求によって訂正された部分を除いて、特許掲載公報による。
ただし、下記中、〔〕は当審が加入したものであって、〔〕で囲んだ部分の記載は、特願昭63-255492号出願及びこの出願に対する特許番号第2775263号の特許掲載公報並びに特願平9-365049号出願の当初明細書及びこの出願に対応する特許番号第2923275号の特許掲載公報には存在しないことを意味している。
(イ) 特許請求の範囲
「【請求項1】 部材上に窒化珪素膜または炭化珪素膜からなる下地被膜を形成する第一の工程と、
前記下地皮膜上に透光性ダイヤモンド状炭素膜を形成する第二の工程とを有し、
前記第一の工程と前記第二の工程とが外気に曝すことなく同じ反応容器で行われることを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。
【請求項2】 請求項1に記載の第一の工程において、
ターボ分子ポンプを用いて、前記反応容器内の不要気体を排気することを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。
【請求項3】 請求項1に記載の第二の工程において、
ターボ分子ポンプを用いて、前記反応容器内の不要気体を排気することを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。
【請求項4】 請求項1に記載の第二の工程において、
炭化水素気体に1〜100MHzの高周波電圧を印加して、炭化水素気体のプラズマを発生させることを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。
【請求項5】 請求項1に記載の第二工程において、
弗化炭素気体に1〜100MHzの高周波電圧を印加して、弗化炭素気体のプラズマを発生させることを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。
【請求項6】 請求項1に記載の第二の工程において、
前記部材に負の自己バイアス電圧を印加して、前記ダイヤモンド状炭素膜を形成することを特徴とするダイヤモンド炭素膜作製方法。
【請求項7】請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記部材は酸化物であることを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。」
(ロ) 段落【0001】、【発明の属する技術分野】
「本発明は、親水性を有し、その固有抵抗が5×1013Ωcm以下の炭素または炭素を主成分とする被膜に関する。本発明はこれをガラスや有機樹脂等の部材に形成するに際し、この部材上に透光性を有し、部材と密着性を有する窒化珪素膜〔または炭化珪素膜〕を形成し、さらにその上に炭素または炭素を主成分とする被膜を形成する多層構造の部材に関する。〔そして本発明ではこの多層膜を同じ反応容器内で形成するものである。〕本発明は、3価または5価の不純物を水素または弗素とともに炭素または炭素を主成分とする保護用皮膜中に添加し、親水性の程度の制御、ビッカース硬度の制御および電気伝導度の制御をせんとするものである。」
(ハ) 段落【0004】及び【0005】、【課題を解決するための手段】の一部
「〔【0004】【課題を解決するための手段】上述した課題を達成するために、本発明では、部材上に下地被膜を形成する第一の工程と、前記下地皮膜上にダイヤモンド状炭素膜を形成する第二の工程とを同じ反応容器で行う。
【0005】更に、本発明では、反応容器内で部材に下地被膜を形成し、前記反応容器内を外気に曝すことなく前記反応容器内で前記下地被膜上にダイヤモンド状炭素膜を形成する。本発明の炭素または炭素を主成分とする被膜即ちDLC(ダイヤモンド状炭素膜)及び下地被膜はプラズマCVDによって形成される。〕」
(ニ) 段落【0006】、【課題を解決するための手段】の一部
「炭素または炭素を主成分とする薄膜の形成として、エチレン(C2H4)、メタン(CH4)、アセチレン(C2H2)、弗化炭素(C2F6,C3F8)のような炭化水素気体または弗化炭素またはCHF3、H2C3F6、H3CF、CH2F2等の弗化炭素の如き炭素弗化物気体を導入し、さらに3価または5価の添加物、代表的にはそれぞれホウ素用のジボラン(B2H6)、弗化ホウ素(BF3)またはアンモニア(NH3)、弗化窒素(NF3)を添加した。そして成膜された被膜中に3価または5価の添加物は0.1〜10原子%とした。このとき水素または弗素は5〜30原子%が添加されていた。」
(ホ) 段落【0008】、【課題を解決するための手段】の一部
「本発明方法での成膜に際し、弗素の如きハロゲン元素を初期状態から有するC2F6とNH3+H2の反応またはC2F6とB2H6+H2との反応を用い、プラズマCVD中に炭化物気体に加えて同時に窒素(5価の添加物)またはホウ素(3価の添加物)を混入させて、親水性表面を有せしめ、また厚さ方向に均一な濃度勾配を設けた炭素を主成分とする被膜または添加物の有無を制御した多層の複合膜を作ってもよい。」
(ヘ) 段落【0009】、【課題を解決するための手段】の一部
「〔本発明の下地被膜として、窒化珪素膜または炭化珪素膜を形成する。これら被膜は非酸化物材料でなるため、炭素または炭素を主成分とする被膜の密着性が向上される。〕」
(ト) 段落【0022】、【実施例】の一部
「水素と六弗化二炭素(C2F6)とを導入すると、水素が弗素を引き抜き、残ったC-F結合による弗素が添加されたSP3結合を多数有するダイヤモンド状炭素膜(DLCともいうが、添加物が添加されたDLCを含めて本発明は炭素または炭素を主成分とする被膜という)を成膜できる。またジシラン(Si2H6)を(35)より、アンモニア(NH3)を(34)より導入して、プラズマCVD反応を生ぜしめて窒化珪素膜を形成することができる。」
(チ) 段落【0023】、【実施例】「実施例1」の一部
「この反応容器(7)の上下に第1の一対の電極を同一形状を有せしめて第1および第2の電極(3-1)、(3-2)をアルミニウムの金属メッシュで構成せしめる。このそれぞれの電極には第1および第2の電磁エネルギ供給手段(15-1)、(15-2)を有する。それぞれの電源である供給手段より1〜100MHzの交番電圧例えば13.56MHzの高周波電圧を発し、その電磁エネルギをLCRで構成される反応容器内のインピーダンスとマッチングさせるためのマッチングボックス(16-1)、(16-2)を有する。」
(リ) 段落【0025】、【実施例】「実施例1」の一部
「反応性気体はノズル(25)より下方向に放出される。バイアス電圧の直流電源(17-2)、第2の交番電圧電源(17-1)の周波数を10Hz〜100KHzよりなるバイアス手段(17)により供給される。そしてこのバイアスはスイッチ(10)が(11-2)のとき基体または部材に供給される。」
(ヌ) 段落【0026】、【実施例】「実施例1」の一部
「かくして反応空間(8)にプラズマが発生する。排気系(25)は、圧力調整バルブ(21)、ターボ分子ポンプ(22)、ロータリーポンプ(23)を経て不要気体を排気する。これらの反応性気体は、反応空間(8)で0.001〜1.0torr例えば0.05torrとした。」
(ル) 段落【0028】、【実施例】「実施例1」の一部
「反応性気体は、例えばエチレンと弗化炭素の混合気体とした。その割合はC2F6/C2H4=1/4〜4/1とし、代表的には、1/1である。この割合を可変することにより、透過率および比抵抗を制御することができる。基体または部材(1)の温度は室温〜150℃、代表的には外部加熱することなく室温に保持される。かくして被形成面上は比抵抗1×106〜5×1013Ωcmを有し、光学的エネルギバンド巾1.0〜5.5eVを有し、有機樹脂上またその他固体無機材料上にも密着させて成膜させ得る。」
(ヲ) 段落【0029】、【実施例】「実施例1」の一部
「可視光に対し、透光性のアモルファス構造または結晶構造を有する弗素と水素とが添加された炭素または炭素を主成分とする被膜を0.1〜8μm例えば0.5μm(平面部)、1〜3μm(凸部)に生成させた。成膜速度は100〜1000Å/分を有していた。」
(ワ) 段落【0034】、【実施例】「実施例3」
「この実施例は下地材料用被膜として窒化珪素を形成する例である。反応性気体として図2でジシラン(Si2H6)/NH3を(35)より、アンモニア(NH3)を(34)より供給して、(Si2H6)/NH3=1/3〜1/10とした。外部より加熱することなく、実施例1と同じく、0.05torrの圧力で高周波を加えた。すると窒化珪素膜をこれらの上面に100Å/分の成膜速度で形成することが可能となった。」
(カ) 段落【0035】、「実施例4」の一部
「この実施例は図1(C)に示したものである。図2のプラズマ処理装置を実施例と同様に用いた。そして板状の基体ホルダをプラズマ空間(8)内に配設し、その両面に被形成面を有する基板(1)を保持し、ここに多層に被膜を形成した例でありこの基体としてはガラス板がある。このガラス板は自動車、オートバイ、航空機、船舶のフロントウィンド、サイドミラー、サイドウインド、リアウインドまたは家庭の窓であり、その外気に触れる両側である。」
(ヨ) 段落【0036】、「実施例4」の一部
「この基板上にまず実施例3に示した窒化珪素膜を形成した。この反応容器を外気(特に酸素)に触れさせることなくさらに反応性気体を排除し、実施例1に示した如くこの上に弗素が添加された炭素膜を0.1〜5μm例えば0.5μmの厚さに形成した。」
(タ) 段落【0038】、「実施例4」の一部
「本実施例において、ガラスは酸化珪素よりなり、酸素を含有し、弗化物気体とは反応しやすいために、DLCを形成する前に耐酸素性を有するバッファ層として透光性でかつ緻密性がよい窒化珪素膜(45-1)を形成した。そして耐弗素性を酸化珪素より有する窒化珪素上に弗素が添加された炭素膜または炭素を主成分とする被膜(45-2)を積層した。この図1(C)の縦断面図はフロントウインドのみならず、サイドウインド、ミラー表面であってもよい。」
(レ) 段落【0040】、「実施例5」
「本発明の実施例において、下地材料としてジシランとエチレンとをプラズマ雰囲気中に導入し、炭化珪素(SiXC1-X 0<X<1)を形成し、その上に炭素または炭素を主成分とする被膜を形成した。すると、この炭化珪素の光学的エネルギバンド巾が1.5〜2.5eVであるため、黄色の半透光性の下地材とすることができた。さらに炭素被膜の密着性向上にもきわめて有効であった。」
(ソ) 段落【0043】、【発明の効果】の一部
「〔本発明方法により、部材上に下地被膜することにより、炭素または炭素を主成分とする被膜を部材上に密着性良く形成することが可能になる。また同一反応容器内で下地被膜と炭素または炭素を主成分とする被膜を形成するため、下地被膜表面を外気に曝すことなく炭素または炭素を主成分とする被膜を形成できるため、より密着性が向上される。更に、本発明によって、〕電気伝導度を有しかつ親水性の表面を有する保護膜を作ることが初めて可能となった。特に窓等の透光性表面にはほこりがたまったり、また雨の日その表面張力があると内部より窓を通して外部を見んとしても、雨粒の乱反射のためによく外を見ることができない。本発明はかかる欠点を除去し、透光性基体または部材上に親水性の炭素または炭素を主成分とする被膜を形成したものである。」
(ツ) 段落【0044】、【発明の効果】の一部
「特に透光性の基体が酸化珪素等のガラス部材であった場合、その下地材料を同一反応炉で反応性気体を取り替えるのみで成膜できる被膜は窒化珪素膜と〔炭化珪素膜であり、〕これらはともに非酸化物材料である。さらに耐弗素気体被膜である窒化珪素膜を下地材料に用いることは基体を弗素で損傷させないため有効である。それらの成膜に際しては成膜温度を概略同じ温度の室温〜150℃で形成し生産性を向上できた。」

〔四〕 引例の記載
(1) 特開昭62-86161号公報(本件特許異議の本件特許異議の申立人が提示した甲第1号証。以下では、引例1という。)
(イ) 特許請求の範囲
「 主成分が炭化水素と水素とからなり、かつ熱電子放射材、高周波によるプラズマ放電、あるいはマイクロ波によるプラズマ放電などにより活性化された加熱反応混合ガスの流れの中に、炭化タングステン基超硬合金、炭化チタン基サーメット、または炭窒化チタン基サーメットからなる加熱基体を置くことによって前記基体の表面に人工ダイヤモンド皮膜を析出形成するに際して、その前処理として、主成分がSiの水素化物と、水素およびアルゴンのいずれか、または両方からなる反応混合ガスの流れの中に、300〜1000℃の温度に加熱した前記基体を置くことによって、その表面に平均層厚:0.1〜2μmのSi蒸着膜を形成し、このSi蒸着膜の形成によって、引続いて行なわれる人工ダイヤモンド皮膜の析出形成における反応初期に析出するダイヤモンド結晶核の増大をはかることを特徴とする析出形成速度の速い人工ダイヤモンド皮膜の形成方法。」
(ロ) (2頁左上欄、4〜11行)〔従来の技術〕の一部
「 これらの人工ダイヤモンド皮膜の析出形成には多数の方法が提案されているが、この中で反応混合ガスを加熱し、活性化する手段として、
(a) 熱電子放射材、
(b) 高周波によるプラズマ放電、
(c) マイクロ波によるプラズマ放電、
以上(a)〜(c)のいずれかを採用する方法が代表的方法として注目されている。」
(ハ) (2頁右上欄、9行〜同、左下欄5行)〔従来の技術〕の一部
「 また、上記(b)方法は、・・・炭化水素と水素で構成された反応混合ガスを流入させ、・・・排気し、この間、反応容器1内の雰囲気圧力を数torr〜数10torrに保持すると共に、・・・例えば周波数:13.56MHz、出力:500Wの条件を付加して反応容器1内の基体5の周囲にプラズマ放電を誘起させ、このプラズマ放電によって反応混合ガスの加熱活性化と基体表面温度の上昇をはかり、・・・基体表面にダイヤモンド皮膜を析出形成せしめる方法であり、例えば特開昭58-135117号公報に記載される方法がこれに相当するものである。」
(ニ)(3頁左上欄、4行〜下から5行)〔問題点を解決するための手段〕の一部
「その前処理として、主成分がSiの水素化物と、水素およびアルゴンのいずれか、または両方からなる反応混合ガスの流れの中に、300〜1000℃の温度に加熱した前記基体を置き、その表面に平均層厚:0.1〜2μmのSi蒸着膜を形成しておくと、このSi蒸着膜は、引続いて行われる人工ダイヤモンド皮膜の析出形成に際して、反応初期におけるダイヤモンド結晶核の析出を一段と促進させる作用をもつことから、速い析出形成速度での人工ダイヤモンド皮膜の形成が可能になり、この際Siの一部または全部が炭化されてSiCになっても同様な効果が得られるという知見を得たのである。」
(ホ) 実施例1〜実施例3には、まず、反応容器1中で、SiH4(実施例3では、SiHCl3)/H2を用いて、基体表面温度500、600、800℃、反応容器内雰囲気圧力 0.5、 0.1、1 torrの条件で「Si蒸着膜を形成し、ついで引続いて、」(4頁左上欄、2行)、反応容器1中で、CH4/H2を用いて、基体表面温度800、900、900℃、反応容器内雰囲気圧力10、20、20 torrの条件で人工ダイヤモンド被膜を形成したことが記載されている。

(1-1) 特開昭58-135117号公報〔炭化水素からダイヤモンドの名称をつけられる炭素についての技術常識の一部として、当決定で新たに引用し、摘示するものであって、取消理由中では明示的には引用されていない引例。ただし、この引例は、引例1中で引用されている。上記(1)(ハ)参照。以下では、引例1/1という。〕
(イ) (1頁右下欄、下から10行〜末行)
「この従来のプラズマ法では、炭化水素プラズマまたはアルゴンプラズマが使用されていた。この方法によると、得られるダイヤモンドは非晶質であるか、またはダイヤモンドに近い結晶構造のものであるが、完全なダイヤモンド結晶構造のものは得られなく、例えば、これらのダイヤモンドは電子線反射回折において禁制反射が現われたり、これを460℃に加熱すると、水素ガスが遊離発生して気泡を作り、750℃で加熱すると黒鉛になる等の欠点を持ったものであった。」
(ロ) (3頁左上欄、4〜11行)
「高周波水素プラズマだけで、他の加熱を行わない場合には、非晶質ダイヤモンドまたは結晶化の程度の低いダイヤモンドが生成する。完全な結晶構造を有するダイヤモンドを作るためには気相反応部分を加熱することが必要である。その加熱温度は600〜1200℃、好ましくは、700〜1100℃である。1200℃を超えるとグラファイトが混入あるいはグラファイトとなる。」

(2) Vacuum /volume35 /numbers 10-11 /1985, pp.493〜497(「Pumping systems」と題する論文。本件特許異議の申立人が提示した甲第2号証。以下では、引例2という。)
〔当審注。 以下の(ロ)及び(ハ)は、先の取消理由では摘示しなかった記載であり、本決定にあたって、念のために追加した摘示部分である。〕
(イ) 493頁、冒頭の抄録
「薄膜技術の科学者は利点及び不利点をもつポンプ系を選択する機会がある。高真空ポンプは拡散ポンプ、クライオポンプ、ターボ分子ポンプ又はイオンポンプでもよい。これらは系をその操作圧力に予備排気するために粗引きポンプを必要とする。これらのポンプの機構と性能を、ことに薄膜技術で使用することに関して、記述した。真空沈積に対しては、清浄さは重要な要素であるが、スパッタリング技術に対しては、特に有害ガスを使用する場合には、ガスの取り扱いが主な基準である。」
(ロ) 494頁、右欄、下から6〜4行(Turbomolecular pumped systemの一部)
ターボ分子ポンプ系は多くの点で拡散ポンプ系に類似しており、類似の基準がその適用及び性能にあてはまる。
(ハ) 496頁、右欄〔Conclusions〕
「上記から、薄膜の製造及び処理の科学者又は技術者は、ポンプ系について、いくつかの選択をもっている。これらの技術のあるものについては、選択は明確であるが、他の場合には、異なる方法の得失を比較考量し、最も満足にみえるものを選択することになる。・・・。まとめると、現在のすべての薄膜形成及び処理技術に対して適したポンプ系が存在する。利用可能なポンプを選択できるが、清浄さ又はガス取り扱いに対して高い要求がある場合には、注意深く選択することが重要である。」

(3) J. Appl. Phys. 52(10), October 1981(本件特許異議申立人が提示した甲第3号証。以下では、引例3という。)
(イ) 冒頭抄録(p.6151)
「イオンビーム法及び炭化水素ガス(C4H10, C2H6, C3H8, and CH4)及びラジオ周波数(rf)プラズマ分解法によるダイヤモンド状炭素膜は透過型電子顕微鏡を用いて検査されてきた。これらの検査はこれらの膜が主としてアモルファスであることを示しているが、異なる相の形成を示す両型の薄膜からは単結晶及び多結晶回折パターンが得られた。これらの相のあるものは等軸晶系であると考えられ、炭素の新しい型であり得る。炭化水素ガスのrfプラズマ分解法による炭素膜を二次イオン質量分析の結果についても議論した。」
(ロ) 6151頁左欄、1〜11行(I.INTRODUCTIONの一部)
「機械的に硬く、電気絶縁性である炭素薄膜をいくつかの方法で作ることができる。最近かなり注目されているプロセスは、炭化水素(C4H10, C2H6, C3H8, and CH4)のラジオ周波数(rf)プラズマ分解及び低エネルギー炭素イオンビーム沈積法である。これらの技術で生産した膜は、硬くて、絶縁性、化学的に不活性、かつ光学的に透明であるのでダイヤモンド状といわれる。これらの膜は、また、これらの方法で炭素イオンの生成が共通段階であることを示すためにi-C(i-炭素)といわれることもある。
(ハ) 6151頁左欄、下から2行〜同右欄、10行
「 i-C膜が有する諸性質は、耐摩耗性被膜、保護被膜、及び反射防止膜を包含する種々の応用に関して興味深い。われわれはイオン-ビーム法及び炭化水素ガスのrfプラズマ分解によって生産したi-C膜のいくつかの性質が沈積工程のパラメーターによってしばしばかなり変化することを観察した。これらの変化を理解する努力として、イオン-ビーム法及び炭化水素ガスのプラズマ分解法によって生産したいくつかの膜を透過型電子顕微鏡で検査し、また、種々の電子分光技術を用いて評価した。」
(ニ) 6151頁右欄、下から9行〜6152頁左欄、11行(II EXPERIMNTALの一部)
「 図1は、炭化水素ガスのrfプラズマ分解に用いられる系の概略図である。(・・・。)被覆される基体を12.5cm直径の水冷電極上に置いた。この電極はアノード又は13.56-MHz rf 電力供給源の発熱側として作動する。所望の炭化水素ガス(C4H10, C2H6, C3H8, 及びCH4)を標準で1-2cc/minの割合で系の頂部から導入し、また、系内の分解圧を制御するために系を拡散ポンプで排気した。
スライドガラス上に沈積した膜は、rf電力の圧に対する比が増加すると、軟質(かみそり刃で容易に傷つく)から硬質(かみそり刃による傷つけに抵抗性の)に突然転移する。転移時のこの比の値は、約100W/Torr.である。軟質膜は、典型的な炭化水素膜に見かけが非常に似ており、硬質膜に比較して、屈折率が非常に低い。すなわち、0.6μmで、軟質膜では、n≒1.5であり、ハードな膜では、n≧2.0である。ここでは、硬質膜だけを調べた。」(当審注。ただし、この引例では、上記中、「n≒1.5」の式の「≒」の部分には、同義の別の数学記号が使用されている。表記の都合上、当審は、転記に際して、「≒」の記号を使用した。)

(4) J. Appl. Phys. 54(8), August 1983(本件特許異議申立人が提示した甲第4号証。以下では、引例4という。)
(イ) 冒頭抄録
「rfプラズマ中のベンゼン蒸気からの、アモルファス水素化硬質炭素(a-C:H)薄膜沈積について記述する。a-C:Hはガラス、石英、Si、Ge及びGeAs上に沈積させた。負の自己バイアスVB及びガス圧Pは、沈積工程の正確な制御のために重要な二つのパラメーターである。VB 及びPに対する成長速度及び沈着温度の依存性を決定した。これは、薄膜を形成するイオンの平均エネルギーEの経験式を与える。a-C:Hの屈折率(IRで1.85-2.20)、光学的ギャップ(0.8-1.8eV)及び密度(1.5-1.8g/cm3)を測定した。光学的ギャップは膜中の結合水素の含量に対して直線的に変化する。a-C:Hの密度は平均イオンエネルギーEに比例する。われわれは、10.6μmでGe上の反射防止膜としてa-C:Hを適用性を実証し(反射率<10.6μmで0.2%)・・・た。」
(ロ) 4590頁左欄、9〜17行
「 以下では、その材料を関係が近いアモルファスシリコン(a-Si)と同様にa-Cという。他の著者たちはダイヤモンド状炭素又はi-炭素といっている。a-Cの膜は、実質量の水素(25at.%程度)を含有している。a-Cのこの水素化形をa-C:Hという。これは、ガラス状又は熱分解炭素(これらは電導性であり光学的に不透明である)及びエピタキシャル結晶ダイヤモンド薄膜と明確に区別すべきである。」
(ハ) 4590頁左欄、下から11行〜同右欄
「 この報文では、rf放電で炭化水素ガスから沈積したa-C:Hについて報告する。この方法は、興味深い応用可能性をもっている。というのは、広い面積(数インチ直径)の被膜を高速(1000Å/min程度)で均一に沈積させることができるからである。
a-Cには、IR光学素子及びSi-太陽電池の保護及び反射防止被膜又は改善された摩擦抵抗性の金属部品のための減摩被膜のような、多くの期待できる応用がある。
a-Cの応用を制限するかもしれない三つの問題点は次のとおりである。」
(1)例えば、ハロゲン化物、硫化物又はセレン化物に対する付着性は一つの問題である(一つの可能性のある解決法はイオンインプランテーションのために十分高いエネルギーを用いることである。)。
(2)薄膜の圧縮応力が相対的に高い。
(3)一応のところ、被膜硬度を犠牲にしなければ、可視光吸収率を減少させるのがむつかしい。
(ニ) 4590頁右欄、9行〜4591頁左欄、7行
「 硬質炭素膜を炭化水素ガス中のrfグロー放電で沈積させた。真空系は、rf電極を備えた真空室、高真空ターボ分子ポンプ及び高速の基本ポンプ系からなっている。2.3-MHzのrf電力を、π型マッチングネットワークを経由して、12cm径の電極に容量的に結合する。電極は基材保持具としても働く。rf発生器の50-Ω出力とグロー放電系の間のインピーダンスマッチングはrf電力計で制御する。メガヘルツグロー放電では基本的にイオンに比べて電子の移動性が高いために、電力電極に負のdc自己バイアス VBをかける。」
(ホ) 4594頁左欄、3〜10行
「 a-C:Hの二つの重要な非光学的性質は、抵抗ρ及びヌープ硬度Hである。ρはa-C:H被覆Si基材で測定し、典型的には1012Ωcmであった。ヌープ硬度は異なる硬度の基材上の、等しい厚さのa-C:H被覆の一系列について決定した。こうして、基材の硬度の影響を除くことができた。被覆の硬度は、100g-荷重に対して、1250と1650kp/mm2の間にわたる。」

(5) 特公昭62-7267号公報(本件特許異議申立人が提示した甲第5号証。以下では、引例5という。)
(イ) 特許請求の範囲
「1 1種以上の炭化物または/及び窒化物を含む超硬合金を母材とする被覆超硬合金において、該母材に隣接する内層が、IVa、Va、VIa族元素の炭化物、窒化物、硼化物、酸化物及びこれらの化合物、混合物並びにAl2O3、AlN、B4C、Si3N4、SiO2から選ばれた1種以上より成り、外層はダイヤモンドより成ることを特徴とするダイヤモンド被覆超硬合金工具。
2 特許請求の範囲第1項において、内層の厚みが0.1〜10μmであり、外層の厚みが0.1〜10μmであることを特徴とするダイヤモンド被覆超硬合金工具。」
(ロ) 2欄、下から2行〜3欄、9行
「 この超硬合金の表面に気相よりダイヤモンドを被覆しようとした場合、本来ダイヤモンドを合成する際の触媒となるべき物質が存在すると合成しにくくなるばかりでなく、例え被覆できたとしても高温で使用した場合にダイヤモンド膜が変態を起してグラファイト化してしまい本来の高硬度を利用することができない。従ってCoやNiを含む超硬合金に直接被覆するのは好ましくない。そこで安定したダイヤモンド被覆膜を得るために超硬合金とダイヤモンドの間に中間層を介した被覆超硬合金を提案するものである。」
(ハ) 3欄、29〜35行
「 なお、ダイヤモンドの被覆方法としては水素と炭化水素の混合気流をWフィラメントを2000℃程度の高温に加熱することによって励起するWフィラメント法、高周波、マイクロ波を印加して励起するプラズマ法などのいわゆるCVD法が良く知られている。又、炭素イオンのイオンビームによるイオンビームデボジションなども好ましい。」

(6) 特公昭63-5470号公報(本件特許異議申立人が提示した甲第6号証。以下では、引例6という。)
(イ) 特許請求の範囲
「1 硬質分散相が、主として元素周期律表の4a、5a、および6a族の金属、並びにSiの炭化物、窒化物、炭窒化物、および炭酸窒化物のうちの1種または2種以上で構成され、一方結合相が、主として鉄族金属、並びに元素周期律表の5aおよび6a族の金属のうちの1種または2種以上で構成された超硬質合金基体工具部材の表面に、元素周期律表の4a、5a、および6a族の金属、並びにSiおよびBの炭化物、窒化物、炭窒化物、および炭酸窒化物のうちの1種の単層または2種以上の複層で構成された硬質化合物相を最内層として、この硬質化合物層の少なくとも2層と、気相合成法により形成したダイヤモンド層の少なくとも1層とからなる交互積層構造を有する表面被覆層を形成してなる耐摩耗性のすぐれた表面被覆工具部材。」

(7) 特開昭61-189958号公報(本件特許異議申立人が提示した甲第7号証。以下では、引例7という。)
(イ) 特許請求の範囲
「(1) 絶縁基板上に、列状に分離して形成された複数の発熱体と、各発熱体を個別に通電発熱しうるよう形成された電極とを有し、この電極および前記発熱体上に堆積抵抗率103〜1013Ω・cmの耐熱材よりなる第1層、および高硬度炭素よりなる第2層が順次形成されたサーマルヘッド。
(2) 第2層が、プラズマまたはイオンを使用して低温低圧で形成されたダイヤモンド状炭素である特許請求の範囲第1項記載のサーマルヘッド。」
(ロ) 2頁左下欄、5行〜12頁
「我々の開発した方法は、メタンガスを材料ガスとして10〜20Paの低圧力でこれをプラズマ化し、プラズマもしくはプラズマ中のイオンを加速電界によって基板に噴射し、基板を加熱することなく、最高5000Å/分程度の高速で成膜することが可能なものであり、我々はプラズマ・インジェクションCVD法と称している(以下、PI-CVD法と略す。)。
(ハ) 2頁左下欄、13〜19行
「 PI-CVD法によって形成した膜は、SP3ないしSP2の電子配置を含む、ダイヤモンドに近い結合状態のアモルファス状炭素からなっており、ビッカース硬さは2000〜3000Kg/mm2であり、耐摩耗性はSi3N4等と同等以上である。また熱伝導率は0.6cal/cm・sec.・℃程度、体積抵抗率は成膜条件により107〜1013Ω-cmの範囲となる。」
(ニ) 2頁右下欄、6〜14行
「 PI-CVD法は、CVD法の一般的な特徴を有しており、膜はち密でピンホールの発生が無いため、膜厚は2〜5μmでも充分な耐環境性を示す。
一方、CVD法の欠点もまた有しており、任意の基板に成膜することは出来ない。すなわち、膜の付着力を確保するためには、炭素との化学的親和力を持つ基板材料でなければ保護膜として機能させることはできない。」
(ホ) 2頁右下欄、下から3行〜3頁左上欄、5行
「 また、PI-CVD法ではプラズマもしくはプラズマ中のイオンを加速して成膜するため、成膜しようとする基板の体積抵抗率が高い場合には、基板が正電荷によって帯電し、成膜のために加速されて飛んできたイオンを反発してしまい、高硬度の炭素膜を形成することが出来ない。実験によれば1013Ω-cm以上の基板に対しては成膜不可能であった。」
(ヘ) 3頁左上欄、下から3行〜同右上欄、1行
「発熱体7および電極8,9の間には絶縁基板6の表面が露出しているが、絶縁基板6は通常セラミックス基板の表面をガラスでグレーズしているため、その体積抵抗率は1015Ω-cm以上である。」
(ト) 3頁右上欄、2行〜下から4行
「 11は、PI-CVD法で形成された高硬度炭素よりなる保護膜であるが、前述の様に、この膜が形成されるためには、基板材質およびその体積抵抗率が限定されるため、発熱体7,電極8,9、および絶縁基板6の三種の材質があらわれている表面に直接成膜することは不適当である。すなわち本実施例の場合には、発熱体7以外の表面に形成される炭素膜は、付着力が弱いか、もしくは成膜されない。
このために、保護膜となる第2層11の下に、第1層10を形成して、第2層11を強く形成することを可能としている。第1層10に求められる特性は、電極8、9間の絶縁分離をするに十分な電気抵抗と、第2層たる炭素との強い化学結合性および、PI-CVD法を行うために必要な1013Ω-cm以下の体積抵抗率である。」(当審注。番号は、第1図参照)
(ト) 3頁左下欄、11行〜同右下欄、5行
「 要求特性のうち、電極8、9間の絶縁分離に関しては、完全な絶縁体である必要はなく、103Ω-cm程度以上の体積抵抗率があればよい。すなわち、PI-CVD法を行うに必要な条件とあわせて103〜1013Ω-cmの体積抵抗率を有する耐熱性の材料であり、かつ、炭素と強い結合をつくる物質であればよい。
そのような条件を満足する材料として、例えば、SiCが選ばれる。SiCは103〜105Ω-cmの体積抵抗率を示す耐熱材であり、Siは炭素と共有結合で結びつくため、PI-CVD法による成膜の下地としても十分である。また各種のSi(単結晶、多結晶、アモルファス等)も103〜1010Ω-cm程度の体積抵抗率を持ち、第1層の材質として適当である。」

〔五〕 判断
以下では、本件特許明細書の特許請求の範囲の各請求項1〜7の構成の発明を、その各請求項番号に応じて、本件特許発明1〜7という。
なお、以下では、引用する場合を除き、窒化けい素、炭化けい素は、それぞれ、SiN、SiCと略記することがある。

(1) 本件特許発明1について
(1-1) 引例1記載の発明の認定
(イ) 引例1の特許請求の範囲{上記〔四〕(1)(イ)参照}には、下記構成の発明が記載されている。
「 基体の表面に人工ダイヤモンド被膜を析出形成するに際して、その前処理として、Si蒸着膜を形成し、引続いて人工ダイヤモンド被膜を析出形成させることを特徴とする人工ダイヤモンド被膜の形成方法。」
(ロ) さらに、引例1には、同一反応容器を使用して、上記Si蒸着膜の形成と人工ダイヤモンド被膜の析出形成とを引き続いて実施する場合が記載されている{上記〔四〕(1)(ホ)参照}から、上記(イ)の記載からみて、引例1には、下記の構成の発明が記載されていると認められる。
「 基体の表面に人工ダイヤモンド被膜を析出形成するに際して、その前処理として、Si蒸着膜を形成し、同一反応容器を使用して、引き続いて人工ダイヤモンド被膜の析出形成させることを特徴とする人工ダイヤモンド被膜の形成方法。」
以下では、上記構成の発明を引例1発明という。

(1-2) 本件特許発明1と引例1発明との対比
本件特許発明1の第一の工程は、引例1発明のSi蒸着膜を形成する工程(以下では、引例1発明の第一工程という。)に対応し、本件特許発明2の第二の工程は、引例1発明の人工ダイヤモンド被膜の析出形成させる工程(以下では、引例1発明の第二工程という。)に対応している。
本件特許発明1は、二工程法によって、中間層を介して炭素皮膜を作製する点では、引例1発明と同じ方法である。
しかしながら、本件特許発明1は、引例1発明と下記の三点で相違している。
(イ) 本件特許発明1の第二工程では、透光性ダイヤモンド状炭素膜が形成されるのに対して、引例1発明では、人工ダイヤモンド被膜が形成される点(以下では、相違点1という。)
(ロ) 本件特許発明1の第一の工程では、SiN又はSiCが製膜されるのに対して、引例1発明の第一工程では、Si蒸着膜が製膜される点(以下では、相違点2という。)、及び
(ハ) 本件特許発明1では、第一の工程と前記第二の工程とが「外気に曝すことなく同じ反応容器で行われる」のに対して、引例1発明では、第一工程と第二工程とが「同一反応容器を使用して、引き続いて」行われる点(以下では、相違点3という。)

(1-3) 上記(1-2)で指摘した各相違点に対する判断
(イ) 相違点1について
(α)本件特許発明1の「透光性ダイヤモンド状炭素膜」は、特別に定義されているわけでもなく、また、その構造又は製造方法が特定されているわけでもない。そして、引例1/1に記載された、炭化水素から製造され、ダイヤモンドの名称をなんらかの意味でつけられている炭素についての技術常識{上記〔四〕(1-1)参照}からみて、本件特許発明1でいう「ダイヤモンド状」とは、(α1)ダイヤモンドに似た外観又は性質を示すが、ダイヤモンドではない炭素(例えば、非晶質ダイヤモンド)を指すだけでなく、(α2)天然のダイヤモンドと同じ構造の炭素を少なくともある程度は含有している人工的に製造した炭素をも指している解される。
(β)引例3には、「硬くて、絶縁性、化学的に不活性、かつ光学的に透明であるのでダイヤモンド状といわれる」{ここで、「ダイヤモンド状」は、「diamondlike」の訳語である。上記〔四〕(3)(ロ)参照}とされているが、この記載は、炭素の結合構造について何ら言及していないのであるから、引例3では、「ダイヤモンド状」炭素が天然ダイヤモンド構造の炭素を含有していると含有していないとにかかわらず、「ダイヤモンド状」炭素としていると解される。
(γ) 以上によれば、本件特許発明1の「透光性ダイヤモンド状」炭素の語は天然ダイヤモンドと同じ構造の炭素を含有している場合を排除している用語とは認められない。
ところで、(δ)本件特許明細書には、本件特許発明1の「透光性ダイヤモンド状炭素膜」の一例として、その段落【0005】には、「ダイヤモンド状炭素膜」はプラズマCVD法に形成されると記載され{上記〔三〕(ハ)参照}、また、ダイヤモンド状炭素膜の物性、構造については、同段落【0029】には、「可視光に対し、透光性のアモルファス構造または結晶構造を有する弗素と水素とが添加された炭素または炭素を主成分とする被膜」と記載されている{上記〔三〕(ヲ)参照}。これに対して、(ε)引例1発明の人工ダイヤモンド被膜は、「主成分が炭化水素と水素」である反応ガスを用いて、「高周波によるプラズマ放電、あるいはマイクロ波によるプラズマ放電などにより活性化された加熱反応混合ガスの流れの中」{上記〔四〕(1)(イ)参照}で形成されるものであるから、引例1発明の人工ダイヤモンド皮膜は、本件特許発明1の「透光性ダイヤモンド状炭素」と重複していると認められる(なお、引例1には、その人工ダイヤモンド被膜が透光性であるとは明記されていないが、その人工ダイヤモンドの製造方法からみて、当審は、引例1発明の人工ダイヤモンドは、透光性であるとするのが妥当であると考える。なお、本件特許権者は、その特許異議意見書で引例1発明の人工ダイヤモンドは透光性であるかどうかについては、なにも意見を述べていない。)。
また、(ζ)引例3及び引例4にはアモルファス炭素が記載されている。このアモルファス炭素は、透明なダイヤモンド状炭素であって、本件特許発明1の透光性ダイヤモンド状炭素と同じ炭素種であると認められる{透光性については、上記〔四〕(3)(ロ)、(ニ)及び〔四〕(4)(イ)〜(ハ)参照}。そして、透光性ダイヤモンドを部材に沈積させること自体は、引例3及び引例4に記載されている{ガラス部材に透光性ダイヤモンド状炭素を被覆する場合については、引例3の上記〔四〕(3)(ニ)の記載参照}。
そうすると、透光性ダイヤモンド状炭素膜によって部材を被覆することは、当業者が容易に想到できることである。
ただし、相違点1中の、透光性ダイヤモンド状炭素を第二工程でSiN又はSiC上に沈積させる点については、下記(ロ)で判断する。
(ロ) 相違点2について
炭素系被膜で部材表面を被覆する場合に、部材に対する炭素系被膜の付着力を改善したり、また、膨張率の相違によって発生する応力を緩和するなどのために、SiN、SiC等の中間層を設けることは慣用方法である(例えば、引例1、引例5〜引例7の記載を参照)。引例7には、ダイヤモンド状炭素{上記〔四〕(7)(イ)の特許請求の範囲の第2項参照。}をその付着力の観点からSiCを中間層とすることが記載され、また、引例1には、中間層としてSiを用いると、Siは人工ダイヤモンドとSiCを形成するため、人工ダイヤモンドの付着力が大きくなることが記載されている。
そうすると、本件特許発明1において、第二工程で作製する膜が透光性ダイヤモンド状炭素膜であっても、当業者は、この膜が人工ダイヤモンドと同様に炭素の一般的性質を示すことを容易に予想できるから、引例1発明で、中間層としてSiが使用され、その上に人工ダイヤモンド膜で被覆されているにもかかわらず、透光性ダイヤモンド状炭素膜で部材を被覆する際に、その中間層として、Siに代えて、SiCを使用することは、当業者が容易に想到できることである。
(ハ) 相違点3について
引例1には、「反応容器内を外気に曝すことなく」ということは明記されていないが、引例1の記載の全体からみて、引例1の実施例{上記〔四〕(1)(ホ)参照}では、技術常識上、わざわざ積極的に反応容器を外気に曝しているとは考えられない。ただし、引例1発明の実施例で、Si蒸着膜形成工程と人工ダイヤモンド皮膜析出形成工程との間で、積極的に外気に触れさせてはいないとしても、事実上、例えば両形成工程間の移行に長時間を要した場合は、反応容器の構成上不可避的に、反応容器がある程度外気に触れている可能性がないではないが、このようなことは、本件特許発明1でいう「外気に曝す」ことであるとは認められない(本件特許明細書には、本件特許発明1でいう「外気に曝す」ことが、引例1発明について上記で想定したような、全くあり得ないことではない外気との接触をもさける趣旨であることをうかがわせる記載はない。)。
そうすると、引例1発明で「同一反応容器を使用して、引き続いて」という操作は、本件特許発明1でいう意味で「外気に曝すことなく」行われていると認められる、【実施例】「実施例1」の一部。
また、たとえそうではないとしても、製膜のための反応容器内を外気に曝すことは、技術常識上、中間層膜の酸化等をともないがちであるから、好ましくないことは、容易に予想できる。
そうすると、反応容器を外気に曝すことがないようにする程度のことは、当業者が容易に想到できることである。
(ニ) そして、本件特許発明1は、相違点1から同3までの工夫によって、予想外の効果を奏したものとも認められない。
(ホ) したがって、本件特許発明1は、引例3から引例7までの各引例に記載された発明を考慮して、引例1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明であると認められる。

(2) 本件特許発明2及び同3について
ターボ分子ポンプは、製膜技術で必要に応じて使用されているものである{上記〔四〕(2)の引例2の記載及び引例4の上記〔四〕(4)(ニ)の記載参照}。
そして、本件特許発明2は、ターボ分子ポンプを選択使用することによって、予想外の効果を奏したものとも認められない。
したがって、本件特許発明2および同3は、引例2から同7までの各引例(ことに、引例2および引例4)に記載された発明を考慮して、引例1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明であると認められる。

(3) 本件特許発明4について
引例3及び引例4には、炭化水素を13.56MHz又は2.3MHzの高周波を印加してプラズマ化することによって、ダイヤモンド状炭素膜を製作することが記載されている{上記〔四〕(3)(ニ)及び同(4)(ニ)参照}。
したがって、本件特許発明4は、引例2から同7までの各引例(ことに引例3及び引例4)に記載されている発明を考慮して、引例1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明である。

(4) 本件特許発明5について
引例1から同7までの各引例(ことに、CVD法による炭素膜に関する引例3、同4及び引例7)には、原料として、特に「弗化炭素」を選択して、ダイヤモンド状炭素膜を作製することについては格別の記載がない。
したがって、本件特許発明5は、引例1から同7に記載されている発明に基づいて、当業者が容易に発明することができた発明であるとは認めることができない。
当審は、他に本件特許発明5について、本件特許を取り消すべき理由を発見しない。

(5) 本件特許発明6について
引例4には、rfプラズマ放電法によって、a-C:Hと略称されるダイヤモンド状炭素膜を成膜するにあたり、負の自己バイアスをかけることが記載されている{上記〔四〕(4)(イ)参照}。
したがって、本件特許発明6は、引例2から同7までの各引例(ことに、引例4)に記載された発明を考慮して、当業者が引例1発明に基づいて、容易に発明をすることができた発明である。

(6) 本件特許発明7について
引例3には、酸化物の一種であるガラススライド上にダイヤモンド状炭素膜を製膜することが記載されている{上記〔四〕(3)(ニ)参照}から、部材として酸化物を使用する程度のことは、当業者が容易にできることである。
この場合、部材がガラス製であるために、SiNやSiCの中間層を介して、ダイヤモンド状炭素膜を製膜することが容易に想到できないとする格別の理由はない{引例7にはガラスでグレーズした基板上に製膜することが記載されている。上記〔四〕(7)(ヘ)参照。}。
そうすると、本件特許発明7は、引例2から引例7までの各引例(ことに、引例3)に記載された発明を考慮して、当業者が引例1発明に基づいて、容易に発明することができた発明である。

〔六〕 したがって、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項5に記載の構成の発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対して特許されたものではない。
また、本件特許は、同請求項1から同4まで、並びに同6及び同7に記載の構成の発明について、特許法第29条第2項に規定に違反して特許されたものであり、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対して特許されたものである。
よって、平成7年政令205号第4条第2項の規定によって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ダイヤモンド状炭素膜作製方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材上に窒化珪素膜または炭化珪素膜からなる下地被膜を形成する第一の工程と、
前記下地被膜上に透光性ダイヤモンド状炭素膜を形成する第二の工程とを有し、
前記第一の工程と前記第二の工程とが外気に曝すことなく同じ反応容器で行われることを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の第一の工程において、
ターボ分子ポンプを用いて、前記反応容器内の不要気体を排気することを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。
【請求項3】
請求項1に記載の第二の工程において、
ターボ分子ポンプを用いて、前記反応容器内の不要気体を排気することを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。
【請求項4】
請求項1に記載の第二の工程において、
炭化水素気体に1〜100MHzの高周波電圧を印加して、炭化水素気体のプラズマを発生させることを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。
【請求項5】
請求項1に記載の第二の工程において、弗化炭素気体に1〜100MHzの高周波電圧を印加して、弗化炭素気体のプラズマを発生させることを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。
【請求項6】
請求項1に記載の第二の工程において、
前記部材に負の自己バイアス電圧を印加して、前記ダイヤモンド状炭素膜を形成することを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、
前記部材は、酸化物であることを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、親水性を有し、その固有抵抗が5×1013Ωcm以下の炭素または炭素を主成分とする被膜に関する。
本発明はこれをガラスや有機樹脂等の部材に形成するに際し、この部材上に透光性を有し、部材と密着性を有する窒化珪素膜または炭化珪素膜を形成し、さらにその上に炭素または炭素を主成分とする被膜を形成する多層構造の部材に関する。そして本発明では、この多層膜を同じ反応容器内で形成するものである。
本発明は、3価または5価の不純物を水素または弗素とともに炭素または炭素を主成分とする保護用被膜中に添加し、親水性の程度の制御、ビッカ-ス硬度の制御および電気伝導度の制御をせんとするものである。
【0002】
【従来の技術】
一般にプラズマCVD法においては、平坦面を有する基板上に平面状に成膜する方法が工業的に有効であるとされている。さらに、プラズマCVD法でありながら、スパッタ効果を伴わせつつ成膜させる方法も知られている。その代表例である炭素膜のコ-ティングに関しては、本発明人の出願になる特許願『炭素被膜を有する複合体およびその作製方法』(特願昭56-146930昭和56年9月17日出願)が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、部材表面を保護するために炭素または炭素を主成分とする膜を形成する方法に関するものであり、部材上に炭素または炭素を主成分とする被膜を密着性良く形成する方法を提供する。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を達成するために、本発明では、部材上に下地被膜を形成する第一の工程と、前記下地被膜上にダイヤモンド状炭素膜を形成する第二の工程とを同じ反応容器で行う。
【0005】
更に、本発明では、反応容器内で部材に下地被膜を形成し、前記反応容器内を外気に曝すことなく前記反応容器内で前記下地被膜上にダイヤモンド状炭素膜を形成する。
本発明の炭素または炭素を主成分とする被膜即ちDLC(ダイヤモンド状炭素膜)及び下地被膜はプラズマCVDによって形成される。
【0006】
炭素または炭素を主成分とする薄膜の形成として、エチレン(C2H4),メタン(CH4),アセチレン(C2H2),弗化炭素(C2F6,C3F8)のような炭化水素気体または弗化炭素またはCHF3,H2C3F6,H3CF,CH2F2等の弗化炭素の如き炭素弗化物気体を導入し、さらに3価または5価の添加物、代表的にはそれぞれホウ素用のジボラン(B2H6),弗化ホウ素(BF3)またアンモニア(NH3),弗化窒素(NF3)を添加した。そして成膜された被膜中に3価または5価の添加物は0.1〜10原子%とした。このとき水素または弗素は5〜30原子%が添加されていた。
【0007】
かくしてSP3軌道を有するダイヤモンドと類似のC-C結合をつくり、比抵抗(固有抵抗)1×106〜5×1013Ωcm代表的には1×107〜5×1011Ωcmを有するとともに、ビッカ-ス硬度700〜5000Kg/mm2,光学的エネルギバンド巾(Egという)が1.0eV以上、好ましくは1.5〜5.5eVを有する可視領域で透光性のダイヤモンドと類似の特性を有する被膜を形成した。
【0008】
本発明方法での成膜に際し、弗素の如きハロゲン元素を初期状態から有するC2F6とNH3+H2の反応またはC2F6とB2H6+H2との反応を用い、プラズマCVD中に炭化物気体に加えて同時に窒素(5価の添加物)またはホウ素(3価の添加物)を混入させて、親水性表面を有せしめ、また厚さ方向に均一な濃度勾配を設けた炭素を主成分とする被膜または添加物の有無を制御した多層の複合膜を作ってもよい。
【0009】
本発明の下地被膜として、窒化珪素膜または炭化珪素膜を形成する。これら被膜は非酸化物材料でなるため、炭素または炭素を主成分とする被膜の密着性が向上される。
【0010】
本発明で用いるプラズマCVD装置には、反応空間の一端側および他端側に互いに離間して一対の電極(第1および第2の電極)を配設する。さらにそれぞれ独立した電磁エネルギ供給手段およびマッチングボックスを有する。そしてそれぞれの電極にマッチングボックスを介して供給される電磁エネルギの位相を互いに制御する位相調整器を有する。
【0011】
それぞれの電極から発せられる電磁エネルギを用い、反応空間にKWレベルの大電力を供給し、かつそれぞれの電極の位相を制御して相乗効果を有するプラズマを反応空間で発生せしめたものである。
【0012】
この空間内に直流または交流バイアスを加えるための第3の電極を必要に応じて設ける。一対の電極間の空間(プラズマ空間)に被処理面を有する基体、部材をホルダを用いて配設する。反応空間は減圧にされ、反応性気体が供給される。反応性気体のプラズマ化のため、一対の電極のそれぞれには所定の電力および周波数の電磁エネルギが電磁エネルギ供給手段、マッチングボックスを介して供給される。このそれぞれの電極には、接地に対して互いに位相が概略180°または概略0°となるよう異なった高周波電圧をそれぞれの高周波電源より印加し、互いに対称または同相の交番電圧が印加されるよう位相調整器で調整、制御する。
【0013】
結果として合わせて実質的に1つの高周波の交番電圧とし、プラズマ空間にKWレベルの大電力を印加し、反応性気体を完全に分解、電離させるための高周波プラズマを誘起させる。さらにそのそれぞれの高周波電源の他端を接地せしめる。
【0014】
またさらに発生させる場合、基体または部材を挟んで直流(自己または外部よりの直流バイアス用電圧)または交番(交流バイアス用電圧)電圧を印加する。自己直流バイアス方式の場合、第2の交番電圧で一方の電極側で加速されたイオンが部材の被形成面上をスパッタしつつ、被形成面上に強く被膜化またはエッチングをさせる。
【0015】
第1の交番電圧がそれぞれ独立した電磁エネルギ供給手段およびマッチングボックスをへてそれぞれの電極に印加させる場合、また概略0°即ち0±30°以内の場合と概略180°即ち180±30°以内の場合では反応空間全体へ均一に広げるためには後者即ち180±30°以内(概略180°)が優れていた。また、90±30°以内の位相度ではプラズマが特に一方の電極側にかたよってしまった。
【0016】
これは反応空間内でイオンを双方の電極で一方から他方の電極にまた他方の電極から一方の電極に大きく運動させる位相とすることにより、空間をより広く、プラズマ化し、そのイオンを運動させるためと推定される。
【0017】
上記本発明人による特許出願(特許願昭56-146930)においては、プラズマCVD装置は、一対の電極のみを用いる平行平板型であり、1つの高周波電源より導出した2つの出力端をそれぞれの電極に連結し、一方の電極(カソ-ド側)に基板を配設し、自ら発生するセルフバイアスを用いて平坦面の上面に炭素膜を成膜する。
【0018】
かかる1つの高周波電源を用いるため、平行平板型のプラズマ反応方法においては、電極の一方の側の電極に平行に密接して基板を配設してその上面にプラズマCVDがなされる。
そのため、大量生産をせんとしても、単に電極を大面積とし、形成する膜も1層の被膜を一方の電極面でのみ処理するもので生産性が悪い。さらにこの基体または部材に独立してバイアスを印加することが難しく、薄膜形成に最適なプロセス条件を探すことが困難である。
【0019】
さらに基体または部材にバイアス印加をしたエッチング方法に関しても、多量に同時に処理をすることができない。このため、大容量空間で一度に多数の部材に対し膜を形成する方法またはエッチングする方法が求められていた。
上述した本発明に用いるプラズマCVD装置はかかる目的をも達成することが可能である。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に図面に従って本発明の作製方法を記す。
【0021】
【実施例】
「実施例1」図2は、基体または部材上にプラズマ反応法により薄膜形成またはエッチングを行う方法を実施するためのプラズマ処理装置の概要を示す。
図面において、プラズマ反応装置の反応容器(7)はゲ-ト弁(9)で外部と仕切られている。ガス系(30)において、キャリアガスである水素またはアルゴンを(31)より、反応性気体である炭化水素気体、例えばメタン(CH4),エチレン(C2H4)を(32)より、弗化炭素気体である弗化炭素(C2F6,C3F8)を(33)より、3価または5価用の気体であるB2H6またはNH3を(34)より、ジシラン(Si2H6)を(35)より、反応容器のエッチング用気体である弗化窒素または酸素を(36)より、バルブ(28)、流量計(29)をへて反応系(50)中にノズル(25)を経て導入する。
【0022】
水素と六弗化二炭素(C2F6)とを導入すると、水素が弗素を引き抜き、残ったC-F結合による弗素が添加されたSP3結合を多数有するダイヤモンド状炭素膜(DLCともいうが、添加物が添加されたDLCを含めて本発明は炭素または炭素を主成分とする被膜という)を成膜できる。
またジシラン(Si2H6)を(35)より、アンモニア(NH3)を(34)より導入して、プラズマCVD反応を生ぜしめて窒化珪素膜を形成することができる。
【0023】
この反応容器(7)の上下に第1の一対の電極を同一形状を有せしめて第1および第2の電極(3-1),(3-2)をアルミニウムの金属メッシュで構成せしめる。
このそれぞれの電極には第1および第2の電磁エネルギ供給手段(15-1),(15-2)を有する。それぞれの電源である供給手段より1〜100MHzの交番電圧例えば13.56MHzの高周波電圧を発し、その電磁エネルギをLCRで構成され反応容器内のインピ-ダンスとマチングをさせるためのマッチングボックス(16-1),(16-2)を有する。
【0024】
このマッチングボックスより導入端子(4-1),(4-2)をへてそれぞれの電極(3-1),(3-2)に電磁エネルギが供給される。第1および第2の電源(15-1),(15-2)は同一周波数の同一波形を原則とするが、定倍波形を用いてもよい。それぞれの電源の位相は位相調整器(26)で180°±30°以内に互いに制御されている。
【0025】
反応性気体はノズル(25)より下方向に放出される。バイアス電圧の直流電源(17-2),第2の交番電圧電源(17-1)の周波数を10Hz〜100KHzよりなるバイアス手段(17)により供給される。そしてこのバイアスはスイッチ(10)が(11-2)のとき基体または部材に供給される。
【0026】
かくして反応空間(8)にプラズマが発生する。排気系(25)は、圧力調整バルブ(21),タ-ボ分子ポンプ(22),ロ-タリーポンプ(23)を経て不要気体を排気する。これらの反応性気体は、反応空間(8)で0.001〜1.0torr例えば0.05torrとした。
【0027】
かかる空間において、0.5〜50KW(単位面積あたり0.005〜5W/cm2)例えば1KW(単位面積あたり0.1W/cm2の高エネルギ)の第1の高周波電圧を加える。さらに第2の交番電圧による交流バイアスの印加により、被形成面上には-50〜-600V(例えばその出力は1KW)の負の自己バイアス電圧が印加されており、この負の自己バイアス電圧により加速された反応性気体を基体または部材上にスパッタしつつ成膜し、かつ緻密な膜とすることができた。
【0028】
反応性気体は、例えばエチレンと弗化炭素の混合気体とした。その割合はC2F6/C2H4=1/4〜4/1とし、代表的には1/1である。この割合を可変することにより、透過率および比抵抗を制御することができる。基体または部材(1)の温度は室温〜150℃、代表的には外部加熱をすることなく室温に保持させる。かくして被形成面上は比抵抗1×106〜5×1013Ωcmを有し、光学的エネルギバンド巾1.0〜5.5eVを有し、有機樹脂上またその他固体無機材料上にも密着させて成膜させ得る。
【0029】
可視光に対し、透光性のアモルファス構造または結晶構造を有する弗素と水素とが添加された炭素または炭素を主成分とする被膜を0.1〜8μm例えば0.5μm(平面部),1〜3μm(凸部)に生成させた。成膜速度は100〜1000Å/分を有していた。
【0030】
かくして部材であるガラス板、有機樹脂物上、その他の部材に炭素を主成分とする被膜、特に炭素中に水素または弗素を30原子%以下含有するとともに、0.3〜10原子%の濃度にホウ素または窒素が混入した親水性炭素膜を形成させることができた。
【0031】
有機物上に100〜2000Åの厚さにエチレンのみによる第1の炭素を設け、さらにその上にC2F6と水素とアンモニアとを用いて弗素と窒素と水素とが添加された親水性炭素を主成分とする被膜を多層に形成させることができた。
【0032】
「実施例2」この実施例は実施例1で用いた装置により、図1に示す如く、有機物の部材要部上に炭素を主成分とする膜を作製した例である。 図1(A)において、アルミニウムの筒上に基体として、有機樹脂が設けられたOPC(有機感光導電体)ドラム(1)を用いたもので、その上に光伝導体または保護膜としてDLC膜(45)を形成したものである。
【0033】
図1(A),(B)において、このプラスチックス基体(1)は軽量であり、この上への密着性向上のためエチレンと水素とを用いて0.01〜0.1μmの厚さに形成した。さらにその上にC2F6とNH3とH2との混合気体を用いて比抵抗が1×106〜5×1013Ωcm好ましくは1×107〜5×1012Ωcmの膜を0.2〜2μmの厚さに親水性を有する炭素膜を形成した。かくしてOPCドラム上に本発明方法により窒素が4.5原子%,弗素および水素が10〜30原子%添加された炭素を主成分とする被膜を作製することができた。
【0034】
「実施例3」この実施例は下地材料用被膜としで窒化珪素を形成する例である。反応性気体として図2でジシラン(Si2H6)/NH3を(35)より、アンモニア(NH3)を(34)より供給して、(Si2H6)/NH3=1/3〜1/10とした。外部より加熱することなく、実施例1と同じく、0.05torrの圧力で高周波を加えた。すると窒化珪素膜をこれらの上面に100Å/分の成膜速度で形成することが可能となった。
【0035】
「実施例4」この実施例は図1(C)に示したものである。図2のプラズマ処理装置を実施例と同様に用いた。そして板状の基体ホルダをプラズマ空間(8)内に配設し、その両面に被形成面を有する基板(1)を保持し、ここに多層に被膜を形成した例でありこの基体としてはガラス板がある。このガラス板は自動車、オ-トバイ、航空機、船舶のフロントウインド、サイドミラ-、サイドウインド、リアウインドまたは家庭の窓であり、その外気に触れる面側である。
【0036】
この基板上にまず実施例3に示した窒化珪素膜を形成した。この反応容器を外気(特に酸素)に触れさせることなくさらに反応性気体を排除し、実施例1に示した如くこの上に弗素が添加された炭素膜を0.1〜5μm例えば0.5μmの厚さに形成した。
【0037】
本発明において、特にこの炭素または3価または5価の添加物に加えて弗素が添加された炭素を主成分とする被膜は親水性を有し、また静電気の発生によるゴミの付着を防ぐため、その比抵抗は1×106〜5×1013Ωcmの範囲、特に好ましくは1×107〜1×1011Ωcmの範囲とした。
【0038】
本実施例において、ガラスは酸化珪素よりなり、酸素を含有し、弗化物気体とは反応しやすいために、DLCを形成する前に耐酸素性を有するバッファ層として透光性でかつ緻密性がよい窒化珪素膜(45-1)を形成した。そして耐弗素性を酸化珪素より有する窒化珪素上に弗素が添加された炭素膜または炭素を主成分とする被膜(45-2)を積層した。この図1(C)の縦断面図はフロントウインドのみならず、サイドウインド、ミラ-表面であってもよい。
【0039】
図1(E)は曲面上に対し形成したものである。 これらは実使用上風切りが強く、また鉱物質のほこりが衝突しやすく、結果として失透、濁りが摩耗により発生しやすいため、本発明は優れたものである。
【0040】
「実施例5」本発明の実施例において、下地材料としてジシランとエチレンとをプラズマ雰囲気中に導入し、炭化珪素(SixC1-x0<X<1)を形成し、その上に炭素または炭素を主成分とする被膜を形成した。すると、この炭化珪素の光学的エネルギバンド巾が1.5〜2.5eVであるため、黄色の半透光性の下地材とすることができた。さらに炭素被膜の密着性向上にもきわめて有効であった。
【0041】
「実施例6」この実施例は図1(D)の形状である。装置は実施例1を用い、下地材料として実施例4と同様に窒化珪素膜、その上に親水性の炭素膜を形成した。図1の層において、基板ホルダを板状とし、その両面にそれぞれの基板(11),(11’)を配設して形成したものである。その結果、それぞれの基板(11),(11’)上には片面のみに窒化珪素膜(45-1),(45-1’)とその上に炭素または炭素を主成分とする被膜(45-2),(45’-2)が積層して形成された。その結果、炭素膜(4)と同様にガラス等の上にも炭素膜を密着して形成することができた。そして片面の雨があたる表面のみに形成することにより、生産性を2倍にすることができた。その他は実施例4と同様である。
【0042】
「実施例7」この実施例は実施例1で用いた装置を用いた。図2において、酸素(O2)または弗化窒素(NF3)のみを導入し、基体または部材または反応容器、ホルダ上の被膜のエッチング除去を100〜300Å/分の速度でした。この実施例において、エッチングされる材料は炭素または炭素を主成分とする被膜(プラズマ酸素でエッチングされる)、窒化珪素(NF3のプラズマによりエッチングされる)である。
【0043】
【発明の効果】
本発明方法により、部材上に下地被膜することにより、炭素または炭素を主成分とする被膜を部材上に密着性良く形成することが可能になる。また同一反応容器内で下地被膜と炭素または炭素を主成分とする被膜を形成するため、下地被膜表面を外気に曝すことなく炭素または炭素を主成分とする被膜を形成できるため、より密着性が向上される。
更に、本発明によって、電気伝導度を有しかつ親水性の表面を有する保護膜を作ることが初めて可能となった。特に窓等の透光性表面にはほこりがたまったり、また雨の日その表面張力があると内部より窓を通して外部を見んとしても、雨粒の乱反射のためによく外を見ることができない。本発明はかかる欠点を除去し、透光性基体または部材上に親水性の炭素または炭素を主成分とする被膜を形成したものである。
【0044】
特に透光性の基体が酸化珪素等のガラス部材であった場合、その下地材料を同一反応炉で反応性気体を取り替えるのみで成膜できる被膜は窒化珪素膜と炭化珪素膜であり、これらはともに非酸化物材料である。さらに耐弗素気体被膜である窒化珪素膜を下地材料に用いることは基体を弗素で損傷させないため有効である。それらの成膜に際しては成膜温度を概略同じ温度の室温〜150℃で形成し生産性を向上できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の基体または部材上に被膜を形成した例およびその要部を示す。
【図2】
本発明のプラズマ装置の概要を示す。
【符号の説明】
1 基体
45 DLC
 
訂正の要旨 (イ) 訂正事項1
特許請求の範囲を減縮することを目的として、
(a)本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の「下地被膜」を「窒化珪素膜または炭化珪素膜からなる下地被膜」(以下では、訂正事項1aという。)と、
(b)「ダイヤモンド状炭素膜」を「透光性ダイヤモンド状炭素膜」(以下では、訂正事項1bという。)と、また、
(c)「同じ反応容器で」を「外気に曝すことなく同じ反応容器で」(以下では、訂正事項1cという。)と訂正し、
上記請求項1を、全体として、下記のとおりに訂正する。
「部材上に窒化珪素膜または炭化珪素膜からなる下地被膜を形成する第一の工程と、
前記下地皮膜上に透光性ダイヤモンド状炭素膜を形成する第二の工程とを有し、
前記第一の工程と前記第二の工程とが外気に曝すことなく同じ反応容器で行われることを特徴とするダイヤモンド状炭素膜作製方法。
(ロ) 訂正事項2
誤記を訂正することを目的として、同請求項5の「炭化水素気体」を「弗化炭素気体」と訂正し、同請求項5を下記のとおりに訂正する。
「請求項1に記載の第二工程において、弗化炭素気体に1〜100MHzの高周波電圧を印加して、弗化炭素気体のプラズマを発生させることを特徴とするダイヤモンド状炭素膜の作製方法。」
(ハ) 訂正事項3
特許請求の範囲を減縮することを目的として、同請求項7〜10を削除する。
(ニ) 訂正事項4
明りょうでない記載を釈明することを目的として、同請求項11を請求項7と訂正する。
(ホ) 訂正事項5
明りょうでない記載を釈明することを目的として、特許明細書の段落[0001]の「本発明はこれをガラス等の透光性部材に形成するに際し、」を「本発明はこれをガラスや有機樹脂等の部材に形成するに際し、」と訂正する。
異議決定日 2002-03-25 
出願番号 特願平11-19780
審決分類 P 1 651・ 121- ZD (C23C)
P 1 651・ 534- ZD (C23C)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 中島 庸子加藤 志麻子宮澤 尚之  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 野田 直人
唐戸 光雄
登録日 2000-04-14 
登録番号 特許第3057072号(P3057072)
権利者 株式会社半導体エネルギー研究所
発明の名称 ダイヤモンド状炭素膜作製方法  
代理人 加藤 恭介  
代理人 加藤 恭介  

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