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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
管理番号 1062735
異議申立番号 異議2000-73040  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-09-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-08-04 
確定日 2002-05-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3011391号「触媒化された稠密層を有するイオン輸送膜」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3011391号の請求項1ないし11に係る特許を取り消す。 
理由 〔一〕 本件特許は、平成6年1月12日(1994.1.12)に米国でした出願に基づいて優先権を主張して、平成7年1月11日に出願され(特願平7-2606号)、平成11年12月10日に特許権の設定の登録がされ(特許第3011391号。請求項数 12)、平成12年2月21日に特許掲載公報が発行されたものである。
これに対して、本件特許は、本件特許の願書に添付した明細書(以下では、本件特許明細書という。)の全請求項に係る発明は、特許法第29条第2項に違反して特許されたものであるから、また、本件特許は特許法第36条に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、本件特許を取り消すべきであるとの特許異議の申立てがされた。
当審は、本件特許権者に上記特許異議の申立てと同旨の取消理由を通知し、本件特許権者は、意見書を提出するとともに、本件特許の願書に添付した明細書の訂正を請求した。

〔二〕 訂正の可否
以下では、本件特許の願書に添付した明細書を本件特許明細書という。
(1) 訂正事項
(イ)(a) 訂正事項1a
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1、同4及び同7の「稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層」の記載を「混合伝導性多成分金属酸化物稠密層」と訂正する。
(イ)(b) 訂正事項1b
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の「多孔質層に隣接する第一表面と、」「触媒でコートされた第二表面とを有する稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層」の記載を「第一表面と、第二表面とを有する混合伝導性多成分金属酸化物稠密層」と訂正し、かつ、同時に、同項の第一表面及び第二表面について、「第一表面は、」「触媒でコートされ、前記第二表面は、多孔質層に隣接しており、」と訂正する。
(イ)(c) 訂正事項1c
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び同7の「国際純正応用化学連合による元素の周期表のII、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XV族およびFブロックランタニドから選ばれる金属または金属酸化物からなる触媒でコートされた第二表面とを有する稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層」の記載を、
「第一表面」「を有する混合伝導性多成分金属酸化物稠密層」であって、「前記第一表面は、白金、パラジウム、ルテニウム、金、銀、ビスマス、バリウム、バナジウム、モリブデン、セリウム、プラセオジミウム、コバルト、ロジウムおよびマンガンから選択された金属およびその金属の酸化物からなる群から選択されてなる金属または金属化合物からなる群から選択された触媒でコートされ」ていると訂正する。

(ロ) 訂正事項2
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項7の混合伝導性多成分金属酸化物及び多孔質層について、「前記混合伝導性多成分酸化物稠密層および前記複数の多孔質層は独立して式
【化2】
前記」と限定する。
(ハ) 訂正事項3
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項5を削除し、同請求項6から同12までの各請求項の項番号を順に繰り上げて、請求項5から同11までとする。

(2) 訂正条件の満足
(イ)(a) 訂正事項1aに関して
(α) 本件訂正は、その訂正事項1aの点で、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1、同4及び同7の「稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層」の「稠密な」の語は、「層」を修飾するものであるから、「混合伝導性多成分金属酸化物稠密層」と訂正することは、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正である。
(β) 本件訂正は、その訂正事項1aの点で、本件特許明細書に記載した事項の範囲内でする訂正であり、実質上、特許請求の範囲を拡張する訂正でもなく、また、変更する訂正でもない。

(イ)(b) 訂正事項1bに関して
(α) 訂正事項1bの内容は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の第一表面を第二表面に変更し、第二表面を第一表面に変更するものである。
これらの変更は、稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層の二つの表面の番号付けの順序を本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項7(本件訂正後の請求項6)の第一表面と第二表面の番号付けの順序に一致させるものであるから、本件訂正は、その訂正事項1bの点で、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正である。
(β) 本件訂正は、その訂正事項1bの点で、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正である。
(γ) 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の構成の発明は、その構成中の第一表面を第二表面とし、第二表面を第一表面としても、発明全体の構成には何の変更もないから、本件訂正は、その訂正事項1bの点で、実質上、特許請求の範囲を拡張する訂正でもなく、また、変更する訂正でもない。

(イ)(c) 訂正事項1cに関して
(α) 訂正事項1c中、第二表面を第一表面に変更する部分は、訂正事項1bの判断のとおりである。
(β) 訂正事項1c中、(i)「国際純正応用化学連合による元素の周期表のII、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XV族およびFブロックランタニドから選ばれる金属または金属酸化物からなる触媒」を、(ii)「白金、パラジウム、ルテニウム、金、銀、ビスマス、バリウム、バナジウム、モリブデン、セリウム、プラセオジミウム、コバルト、ロジウムおよびマンガンから選択された金属およびその金属の酸化物からなる群から選択されてなる金属または金属化合物からなる群から選択された触媒」に訂正する部分は、(i)が(ii)を包含しているから、本件訂正は、この点で、特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂正である。
(γ) 上記(β)の(ii)の金属は、本件特許明細書の段落【0012】及び【0020】に列挙されていた金属であるから、本件訂正は、上記(β)の(i)を同(ii)に減縮する点で、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正である。
(δ) 本件訂正は、上記(β)の(i)を同(ii)に減縮する点で、特許請求の範囲を実質上拡張する訂正でもなく、変更する訂正でもない。

(ロ) 訂正事項2に関して
(α) 訂正事項2は、「混合伝導性多成分金属酸化物」及び「多孔質層」の構成物質種を特定するものであるから、本件訂正は、訂正事項2の点で、特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂正である。
(β) 本件特許明細書の段落【0010】には、「イオン輸送膜は触媒でコートされた第一表面および複数の多孔質層に隣接している第二表面を有する混合伝導性多成分金属酸化物稠密層から」なること、及び「各多孔質層は混合伝導性多成分金属酸化物」「の一つまたは混合物から形成されうる」と記載され、この記載をも受けて、同段落【0013】には、「膜の多孔質および稠密層をつくるのに使用される多成分金属酸化物は」「電子伝導性および酸素イオン伝導性を示す。したがって、これらの物質は一般に混合伝導性酸化物と称する。」と記載され、引き続いて、同段落【0014】には、「適切な混合伝導性酸化物は、式
【化6】
(γ) 本件訂正は、訂正事項2の点で、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更する訂正ではない。

(ハ) 訂正事項3について
本件訂正は、訂正事項2の点で、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂正であり、かつ、この削除にともない、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項6から同12までの請求項番号をくりあげるものであるから、明りょうでない記載を釈明することを目的とする訂正である。
また、本件訂正は、訂正事項3の点で、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正であり、特許請求の範囲を実質上拡張し、また、変更する訂正ではない。

(3) 以上によれば、本件訂正請求は、適法な訂正を請求するものであるから、本件訂正を認める。

〔三〕 特許の要件の検討
以下では、本件訂正請求によって訂正された本件特許明細書を単に本件特許明細書という。

〔三〕A 本件特許明細書の記載の摘示等
(イ) 特許請求の範囲
「【請求項1】 第一表面と、第二表面とを有する混合伝導性多成分金属酸化物稠密層からなり、前記第一表面は、白金、パラジウム、ルテニウム、金、銀、ビスマス、バリウム、バナジウム、モリブデン、セリウム、プラセオジミウム、コバルト、ロジウムおよびマンガンから選択された金属およびその金属の酸化物からなる群から選択されてなる金属または金属化合物からなる群から選択された触媒でコートされ、前記第二表面は、多孔質層に隣接しており、
前記混合伝導性多成分酸化物稠密層および前記多孔質層は独立して式
【化1】
【請求項2】 前記多孔質層の平均孔半径が10マイクロメーターよりも小さい請求項1のイオン輸送膜。
【請求項3】 前記稠密層が0.01マイクロメーター〜500マイクロメーターの範囲の厚さを有しており、前記多孔質層が1マイクロメーター〜2ミリメーターの範囲の厚さを有する請求項1に記載のイオン輸送膜。
【請求項4】 前記混合伝導性多成分金属酸化物稠密層が0.01オーム-1cm-1〜100オーム-1cm-1の範囲の酸素イオン伝導率、および1オーム-1cm-1〜100オーム-1cm-1の範囲の電子伝導率を示す請求項1に記載のイオン輸送膜。
【請求項5】 前記多孔質層が、前記稠密層から離れた距離の関数として増加する平均孔半径を有する請求項1に記載のイオン輸送膜。
【請求項6】 第一表面と、第二表面とを有する混合伝導性多成分金属酸化物稠密層からなり、第一表面は、白金、パラジウム、ルテニウム、金、銀、ビスマス、バリウム、バナジウム、モリブデン、セリウム、プラセオジミウム、コバルト、ロジウムおよびマンガンから選択された金属およびその金属の酸化物からなる群から選択されてなる金属または金属化合物からなる群から選択された触媒でコートされ、前記第二表面は、複数の多孔質層に隣接しており、
前記混合伝導性多成分酸化物稠密層および前記複数の多孔質層は独立して式
【化2】
前記それぞれの多孔質層は不連続な平均孔半径を有し、各それぞれの多孔質層の平均孔半径は前記稠層からの距離の関数として前の多孔質層の平均孔半径より大きいイオン輸送膜。
【請求項7】 請求項1のイオン輸送膜を利用する、酸素含有ガス混合物から酸素を回収する方法。
【請求項8】 請求項1のイオン輸送膜を利用する、有機化合物の酸化方法。
【請求項9】 請求項1のイオン輸送膜を利用する、窒素酸化物をガス状の窒素と酸素に変換する方法。
【請求項10】 請求項1のイオン輸送膜を利用する、硫黄酸化物を硫黄と酸素に変換する方法。
【請求項11】 請求項1のイオン輸送膜を利用する、メタンをより高級の炭化水素に変化する方法。」

(ロ) 【0002】の一部(4欄1〜9行)【発明の背景】の一部
「混合伝導体から形成された膜は酸素含有混合物から酸素を分離する、中規模のおよび大規模の工程において固体電解質よりもしばしば好ましく、これは混合伝導体が高められた温度で酸素イオンと電子の両方を伝導し、外部回路、例えば電極、内部接続及び電源なしに作動することができるからである。これに対して、固体電解質は酸素イオンのみを伝導し、作動するためにはこのような外部回路を必要とする。」
(ハ) 【0003】の一部(4欄14〜19行)、【発明の背景】の一部
「固体電解質の例にはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)およびビスマス酸化物が含まれる。混合伝導体の例には、チタニアドープされたYSZ、プラセオジミア改質YSZが含まれ、そしてさらに重要ななのは種々の混合金属酸化物で、これらのうちのいくつかはペロブスカイト構造を有する。」
(ニ) 【0004】(4欄20〜32行)、【発明の背景】の一部
「高められた温度で作動する、混合伝導性酸化物から形成された膜は、膜の向かい合う側で酸素分圧に違いがあるときに、酸素含有ガス混合物から酸素を選択的に分離するのに使用することができる。酸素の輸送は、酸素分子が酸素イオンに解離し、このイオンが膜の低圧側に移動し、ここでイオン再び結合して酸素分子を形成し、この間に電子は電荷を保存するため酸素イオンとは反対の方向に移動して起こる。酸素が膜を透過する速度は主に二つの因子、膜内の拡散速度および界面の酸素交換の運動速度;すなわち供給ガス中の酸素分子が膜の供給側の表面で移動性の酸素イオンに変換され、そして再び膜透過側で酸素分子に戻る速度によって制御されている。」
(ホ) 【0011】(6欄5〜16行)、【本発明の概要】の一部
「本出願人らは、列記された種類のセラミック膜により示される酸素流量が、触媒複合膜上に付着されている部位に依存していることを発見した。本出願人らは、予想に反して、複合膜を作っている稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層の片側のみに列挙された触媒を付着させる方がこの膜の両側に付着させるよりも優れた酸素流量が得られるということを発見した。さらに、本出願人らは、稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層および多孔質層からなる複合膜によって示される酸素流量が、先行技術で教示されているように多孔質層上に触媒を付着させるよりも稠密層の表面上に付着させた方が予想に反して増加するということを発見した。」
(ヘ) 【0012】の一部(6欄17〜19行)、【本発明の概要】の一部
「本発明のイオン輸送膜の稠密層の記載された表面上に付着される触媒には酸素分子の酸素イオンへの解離を触媒化させる任意の物質が含まれる。」
(ト) 【0017】(7〜8欄)、【発明の詳述】の一部
「特許請求の範囲のイオン輸送膜は、完全に接続された小孔をもたない多成分金属酸化物の一つまたは混合物からなり、作動温度で電子および酸素イオンを伝導することができる。本発明の膜の稠密層は二つまたはそれより多い多成分金属酸化物の一つまたは混合物から形成され、各多成分金属酸化物には少なくとも二つの異なる金属の酸化物または少なくとも二つの金属酸化物の混合物が含まれ、ここで多成分金属酸化物は約500℃より高い温度で電子伝導性および酸素イオン伝導性を示す。従って、これら物質は一般に混合伝導性酸化物と称する。特許請求の範囲のイオン輸送膜の稠密層を形成するに使用される多成分金属酸化物は混合伝導性酸化物である。」
(チ) 【0019】(8欄)、【発明の詳述】の一部
(リ) 【0030】(11欄)、【発明の詳述】の一部
「複合膜の多孔質層が混合伝導性酸化物で形成される場合、このような多孔性混合伝導性酸化物層は稠密な混合伝導性酸化物層のための適合する機械的支持体として作用し、酸素の二つの相互に作用する拡散通路(孔を通るおよび固体を通る)を提供する。ガス-固体酸素交換の表面運動速度の限界(surface kinetic rate limitations)は、支持体、特に稠密層付近の小さな孔構造における大きな「活性」表面の有効性によって緩和される。一方、拡散を妨げる小さな孔の影響は、固体中の速いイオン伝導によって緩和される。」
(ヌ) 【0032】(12欄)、【発明の詳述】の一部
「混合伝導性酸化物で作られた一つ又はそれより多い活性な多孔質支持体を使用する、本発明の表面が触媒化されたイオン輸送膜は、このような活性多孔質層が単位体積あたりの活性ガス-固体界面面積を増加させて表面の運動限界を打ち消すので特に高い酸素流量が提供される。従って、各多孔質層内で所定の多孔度が維持されて平均孔半径が減少されると、酸素流量を減少させる表面運動限界はこれに対応して減少させることができる。0.1〜約10マイクロメーターの範囲の平均孔半径を有し、稠密な混合伝導性層に隣接するよう設定された、適度に薄い多孔質混合伝導性酸化物層は表面の運動限界を打ち消すように界面面積が増大されているが、著しい圧力の低下または物質輸送の抵抗を生じない。」
(ル) 【0034】(12欄)、【発明の詳述】の一部
「出願人の、表面が触媒化されたイオン輸送膜によって提供される利点は、酸素がイオン輸送膜の稠密な混合伝導性酸化物層を通ってイオンになって輸送される機構を完全に理解して展開することによって、最も良く理解することができる。慣用のイオン輸送膜によって観察される酸素流量は「表面の運動限界(surfacekinetic limitation)」および「バルクの拡散限界(bulk diffusion limtaition)」によって制御されている。表面の運動限界は、イオン輸送膜の供給側のガス相の酸素分子を移動性の酸素イオンに変換することおよび酸素イオンをイオン輸送膜の透過側で酸素分子にもどすことにかかわる多くの段階の一つまたはそれより多くによって引き起こされる酸素流量への拘束である。バルクの拡散限界は、稠密な混合伝導性酸化物層を通る酸素イオンの拡散率に対応する酸素流量への拘束である。付加的な拡散の拘束は酸素分子が多孔質層の孔を通って移動することに関するものである。」
(ヲ) 【0046】(16欄)、実施例の一部
「実施例1〜7から得られた結果を図2にグラフで示す。膜の供給側に触媒白金表面を有する二つのイオン輸送膜(実施例1および7で製造された)では、それぞれ10および14sccm/cm2という予期せぬほど高い定常状態の酸素流量を示した。これに対して、膜の両側に白金コーティングを有する実施例4で製造されたイオン輸送膜は約3.5sccm/cm2の定常状態酸素流量を示し、白金触媒をコートされていない実施例3で製造されたイオン輸送膜は約5sccm/cm2の定常状態酸素流量を示した。従って、先行技術に教示されているように膜の両側と比較してイオン輸送膜の供給側のみに列記された触媒を塗布した場合に予期せぬ利益が関された。膜の供給側は酸素分圧がより高い方の側に相当する。」
(ワ) 【0051】(18欄)
「実施例12(理論) 表面が触媒化された複合イオン輸送膜を使用して酸素含有ガス混合物から酸素を回収する方法
1993年8月31日発行の米国特許第5,240,480号(’480特許)(この明細書は参照によりここに組み込まれている)に示されている詳細なコンピューターモデルを使用して本実施例を行った。このコンピューターモデルは稠密層の供給または透過側のいずれかの上に多孔質層を有する混合伝導性層の稠密層を含むイオン輸送膜を通る酸素輸送を記載している。’480特許の表2には、La0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-Zから形成された隣接する稠密および多孔質層を含む複合膜で形成されたモデルの複合膜に使用されるパラメーターが上げられている。以下に示されている表には、金属触媒が付着された第一表面および工程の作動条件下では混合伝導性ではない物質で形成され多孔質層に隣接している第二表面を有する稠密な混合伝導性酸化物層からなる、図1Bのイオン輸送膜の触媒化された表面層のパラメーターが挙げられている。表中に示されているパラメーターk1、k2、kaおよびkdは’480特許のデータと併せて本明細書の実施例7で得られたデータ最小二乗法を適用してえられた。」
(カ) 【0053】(19欄)
「この実施例は種々の膜の配置に関してコンピューターシミュレーションによって得られた酸素流量の値を例証している。コンピューターシミュレーションを使用して得られた結果は以下のとおりである:ラン1では多孔質支持体に隣接する第一表面を有する稠密な混合伝導性酸化物層からなる膜を利用して、2.36sccm/cm2の酸素流量が得られた。ラン2では触媒層でコートされた第一表面および多孔質支持体に隣接する第二表面を有する混合伝導性層からなる膜を利用して、2.71sccm/cm2の酸素流量が得られた。ラン1とラン2で得られた結果を比較すると、複合膜の稠密層に触媒を塗布すると、酸素流量が9.7%増加するということがわかった。」
(ヨ) 【0052】【表1】
表1には、「多孔質層-多孔度(porosity)32%、孔直径5μm、厚さ1.49mm」と付記されているにすぎない。
なお、本件特許明細書には、その特許請求の範囲に記載された構成については、全面的に具体的で詳細な記載は存在しない。

〔三〕B. 引例の記載の認定
(1) 欧州特許出願公開公報0438902A2(以下では、引例1という。)
ただし、下記中、かぎ括弧「」で囲んだ部分は、逐語的に訳したことを示す。
(イ) 41頁(Claimsの第4、5、14項)
「 4. 素子が(A)ペロブスカイト構造を有する混合金属酸化物材料及び(B)伝導性被覆、触媒又は触媒を含有する伝導性被覆からなることを特徴とする、酸素を酸素イオンに還元する能力を持つ第一表面、酸素イオンと酸素消費ガスとを反応させる能力を持つ第二表面、第一表面と第二表面との間の電子伝導経路及び第一表面と第二表面との間の酸素イオン伝導経路を有する、電気化学的反応器又は反応電池に用いられる素子。
5. 触媒が硫黄還元触媒である第4項の素子。
14. (i)酸素を酸素イオンに還元する能力を持つ第一表面、酸素を酸素消費ガスと反応させる能力を持つ第二表面、第一表面と第二表面との間の電子伝導経路及び第一表面と第二表面との間の酸素イオン伝導経路からなる素子、
(ii)第一表面に接する第一経路、及び
(iii)第二表面に接する第二経路、
からなる(A)電気化学的電池を備え、そして
(B)第一経路を通じて酸素含有ガスを通し、一方、
(C)第二経路を通じて、置換芳香族化合物を生産するための水素含有芳香族化合物及び第二の水素含有化合物との混合物からなる酸素消費ガスを通す
ことからなる芳香族化合物を置換するための電気化学的方法。」
(ロ) 5頁、55行〜6頁、21行(「DESCRIPTION OF THE PREFERRED EMBODIMENTS」の一部)
「 本発明の電気化学的反応器の一つの具体化は、図1のように、図式的にあらわされる。図1では、反応器1の側面図及び断面図は第一ゾーン2が素子4によって第二ゾーン3から隔離されていることをしめしている。第一ゾーンの外周は反応管5によって定められ、第二ゾーンの外周は反応管6によって定められている。反応管5及び6は、それぞれガラス封着材7及び8によって素子4と気密な封着を形成している。供給管9及び10は、それぞれ、酸素含有ガス11及び酸素消費ガス12をゾーン2及び3に導いている。出口ポート13及び14は、それぞれ、反応したガス15及び16がゾーン2及び3に離脱できるようにしている。
実際には、空気のような酸素含有ガス又はガス混合物は、第一ゾーンに通され、素子と接触し、また、反応ガス含有供給ガスのような酸素消費ガス又はガス混合物は、第二ゾーンに通され、素子と接触する。酸素含有ガス又はガス混合物が素子に接触すると、酸素は酸素イオンに還元され、酸素イオンは、素子4を通って第二ゾーンに面する表面に輸送される。第二ゾーンでは、酸素イオンは、酸素消費ガス又はガス混合物と反応し、また、電子を遊離する。電子は、素子4を経由して第一ゾーンに面する表面に帰還する。」(6頁10行まで)
酸素含有ガスとしては、空気のほかにNOx、SOxなどがあり、酸素消費性ガスとしては、メタンなどがある。また、本発明によって、合成ガス、オレフィンを製造できる。
(ハ) 6頁、43〜46行(Multi-component membraneの項の一部)
「 上記したように、本発明の電気化学的反応器で用いられる固体多成分膜は、なんらかの電子伝導性材料となんらかの酸素イオン伝導性材料との、ち密で、気密な多相混合物及び/又はペロブスカイト構造を有し、かつ、電子伝導性と酸素イオン伝導性の両方を有する、気密な単相混合金属酸化物である。」
(ニ) 8頁、33〜51行〔(1)multi-phaseの項の一部〕
本発明のペロブスカイト構造の混合金属酸化物の化学式(II)が示されている。
(ホ) 9頁、31〜34行〔(1)multi-phaseの項の一部〕
ペロブスカイト構造混合金属酸化物中のCrは、電子伝導性を増加させる。
(ヘ) 10頁、20〜36行(Single-phase mixed metal oxide の項の一部)
「 上記したように、本発明の電気化学反応器で用いられる固体多成分膜は、多相多成分膜に代わるものとして、又は多相材料に加えて用いられるが、ペロブスカイト構造を有し、電子伝導性及び酸素イオン伝導性の両方を有する、気密な“単相”混合金属酸化物である。」(10頁20〜23行)
本発明で有用なペロブスカイト材料の特定の例は、LaCoOx、La.6Sr.4CoOx、La.2Sr.8CoOx、YCoOx、YBa.2Cu.3Ox などがある。
(ト) 11頁、41〜50行(The Elementの項の一部)
「 上に言及した“要素”は、好ましくは、
(A-1)酸素を酸素イオンに還元する能力を有する金属、金属酸化物又はそれらの混合物で被覆された第一表面及び酸素イオンと酸素消費ガスと反応する能力を有する金属、金属酸化物又はそれらの混合物で被覆された第二表面を有する固体電解質を包含し、その両被覆は操作温度で安定で電子伝導性であり、かつ、外部電子伝導回路に結合されていることを条件としており、
(A-2)第一表面と第二表面とを有し、ち密で気密な、電子伝導相及び酸素イオン伝導相の多相混合物を含有する固体多成分膜を包含する。
要素(A-1)は、以下で、さらに詳細に記載されている。」
(チ) 12頁、19〜25行〔The Elementの項の一部〕
伝導被覆層が触媒を含有する場合には、電気化学的反応速度は増加する。
(リ) 12頁、57行〜13頁、1行〔The Elementの項の一部〕
「コア21の内側面では、酸素イオンは、その内側面に触れて、酸素消費性ガスと反応する。この反応過程で、酸素イオンは二つの電子を失い、その電子は、コア21の内側面からコア21の外側面に移動する。」
(ヌ) 13頁、31〜38行〔The Elementの項の一部〕
図8に、本発明の素子が示されている。その素子は、多成分膜又は固体電解質のコア41の一つの表面42が酸素を酸素イオンにに還元するのに有用な材料43で被覆されている。この被覆層は、電池のカソード側となる。コア41の第二の表面44には、アノード側となるもう一つの材料45がある。二つの被覆層は、外部回路によって結線46,47を通って結合できるが必須ではない。コアが電気伝導性材料を含んでいないときは、外部回路が必要である。外部回路には電流計をおいてもよい。二つの伝導被覆層(電極)に電圧をかけるために、バッテリーを外部回路中においてもよい。
(ル) 13頁、51行〜14頁、1行〔The Elementの項の一部〕
素子は、触媒を有することができ、その触媒は、固体多成分膜表面に分散又は混在して存在することができる。例えば、硫黄還元触媒が素子のカソード側に存在することがある。多孔質基板(1)、伝導被覆層(2)及び/又は触媒(3)は、別々の層として存在していてもよいが、これらの機能は、一つ又は二つの材料に結合してもよい。
(ヲ) 22頁、18〜24行
本発明の電池は、第一表面に隣接又は被覆(コート)した触媒を有することがある。触媒は、硫黄酸化物及び窒素酸化物の還元を容易にする。触媒は、固体電解質表面の伝導層中に分散させることが記載されている。
(ワ) 23頁7〜11行
「 次の諸例では、酸素消費ガスは図1に図示された反応器に類似した実験用反応器で処理された。
多成分膜製造例(Multi-component Membrane Preparation Examples)
例A-1から例A-14で用いられる多成分膜」
(カ) 24頁(Multi-component Membrane Preparation ExamplesのExample F の項)
ち密で気密なLa.2Sr.8CoOx膜を製造した。
(ヨ) 27頁、52行〜28頁、3行〔Oxygen FluxのExample A-7の項〕
例Fのペロブスカイト製のディスクについて、57% H2, 21.5% CO2, 16.5% CH4, 5.0% Arの混合ガスによって、1100℃での酸素流量を測定した。
(タ) 表1(28頁)
例A-7〔上記(ヨ)〕の場合と同じようにして、La.2Sr.8CoOx, La.2Ca.8CoOx,Gd.2Sr.8CrOx, La.2Sr.8Fe.8Cr.2Ox, La.2Sr.8Fe.8Mn.2Oxについて、酸素流量を測定した。
(レ) 38頁、27〜34行
比較例C/2及びC/3では、触媒を存在させて、回路が開いている場合に、SO2の還元は、20%より少ない。

(2) 米国特許第5,240,480号明細書(以下では、引例2という。){なお、引例2は、本件特許明細書で引用されている。上記〔三〕A.(ワ)参照}
(イ) 特許請求の範囲の第1項及び第15項
「1. 膜が10μmより小さい平均孔半径を有する多孔質層及び連通孔を有しないち密層からなり、その多孔質層とち密層とは接触しており、かつ、各層は、500℃より高い温度で電子および酸素イオンを伝導する能力を有する多成分金属酸化物である、酸素含有気体混合物から酸素を分離する能力を有する膜。
15. 膜が連通孔を有しないち密層及び複数の多孔質層からなり、その各多孔質層は異なる平均孔半径を有し、ち密層から離れる距離の関数として各多孔質層の平均孔半径がその先行する多孔質層の平均孔半径より大きく、かつ、前記多孔質層及びち密層は、500℃より高い温度で電子および酸素イオンを伝導する能力を有する多成分金属酸化物から独立に形成されているものである、酸素含有気体混合物から酸素を分離する能力を有する膜。」
(ロ) 4欄、55行〜5欄、2行
組成物膜の多孔質の混合伝導性をち密な混合伝導層に接触させ、その平均孔半径10μm以下であるとすることにより、酸素流束を改善できる。
(ハ) 6欄、3〜15行
多孔質層及びち密な層は金属酸化物からなり、その多成分金属酸化物は、酸素イオンだけでなく電子をも伝導する混合伝導性である。
(ニ) 6欄、15〜34行
(ホ) 6欄、39〜50行
まず、それぞれの多孔質層の空孔率及び平均孔半径は、充分な機械的強度を保持しながら酸素流束を阻害しないようにする。第二に、それぞれの多孔質層内の孔及びその連絡通路は、酸素流束を阻害しないほどに大きくなければならず、製造工程で孔をふさいだり、操業中にち密層を弯曲させるほどには大きくてはいけない。第三に、それぞれの多孔質層は、分離及び剥離に関連する問題を少なくするために、化学反応性、付着性及び熱膨張性に関して、ち密層と相互適合的でなければならない。
(ヘ) 6欄、66行〜7欄、36行
多孔質層(複数)は、ち密な混合伝導性酸化物層に適合的な機械的支持体として働き、また、相互に作用する二つの酸素拡散経路、つまり、孔及び固体をとおる経路、をつくる。殊にち密層の近傍で、支持体が小さな孔構造内の大きな活性表面であることによって、気-固酸素交換に対する表面における速度制限(律速)を緩和できる。他方、固体の速いイオン伝導によって、拡散を阻害する小孔の効果を緩和することができる。
本発明の膜は、多孔質支持体層の固体相がITM(第5欄、24〜26行参照)による酸素イオン及び電子の輸送に関して「不活性」ではなく、「活性」であるから、優れた酸素流束を与える。
(ト) 7欄、37〜45行
ち密な混合伝導層の厚さは、典型的には、0.01〜約500μmであるが、好ましくは、構造上の健全性の点から許される限り薄く加工され、約100μmより薄い。ち密な混合伝導層に接触している多孔質混合伝導性酸化物層は、1μmから約2mmの厚さである。
(チ) 8欄、20〜30行
図2Bは、多孔質混合伝導層を有する複合膜をしめす。多孔質混合伝導層は、実際上、複数の独立に積層した層であり、これらの層は、ち密な混合伝導性層から離れる距離に応じてより大きな孔径を有している。任意数の層を用いることができるが、多孔質層が、ち密な混合伝導層との界面から離れるにしたがい0.5から約10μmに増大する平均孔半径を有するろうと状の孔構造を有するようなものである。
(リ) 8欄、39〜53行
図2Cは、複合膜が二以上の接触している多孔質混合伝導性酸化物層を含み、その一つは、ち密な混合伝導性酸化物層に接触している。ち密な混合伝導性酸化物層に接触している多孔質の混合伝導性酸化物層は、約10μmより小さい平均孔半径を有し、かつ、連続する混合伝導性酸化物層のそれぞれは、ち密層からの距離の関数として段階的に増加する平気孔半径をを有する。それぞれの層は、図2Bの例によって沈着された層(複数)よりも大きな厚さをを有している。それぞれの多孔質混合伝導性酸化物層の平均孔半径は階段状の構造を示す。
(ヌ) 10欄、11〜18行
日本特許出願61-21717号(当審は、特願昭61-21717号の出願の明細書自体ではなく、特開昭61-21717号公報の特許出願公開公報を指すと認める)は、La1-xSrxCo1-yFeyO3-d(x=0.1〜1.0、y=0.05〜1.0)式の混合伝導性ペロブスカイトを教示している。この型の酸化物は、約800℃で、約10-2ohm-1cm-1の酸素イオン伝導性及び約102ohm-1cm-1の電子伝導性を示す。
(当審注。 特開昭61-21717号公報には、その発明は、「酸素イオン伝導性および電子伝導性を合わせ持つ混合伝導性固体電解質を用いることにより、電極と外部回路を必要とせず、酸素の分離を行う方法を提供する。」と記載されている。同公報2頁、左上欄、下から5〜2行参照。)
(ル) 10欄、27〜38行
このイオン化/脱イオン化過程に供給するために必要な電子の回路は、酸化物内でその電子伝導性によって、内部的に維持される。典型的な混合伝導性多成分金属酸化物は、0.01ohm-1cm-1〜100ohm-1cm-1の酸素イオン伝導性および1ohm-1cm-1〜100ohm-1cm-1の電子伝導性を示す。
(ヲ) 17欄、18〜21行(Example1の項)
図1の酸素透過実験データは、混合伝導性La0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-xについてのものである。
(ワ) Example2〜6に、引例2の発明の実施例が示されている。

(3) 「日本セラミックス協会学術論文誌」、VOL.97(4)、467-472(1989)(本件特許異議の申立人が提示した甲第3号証の1。以下では、引例3という。)
(イ) 467頁左欄、「1.緒言」直下1行〜468頁左欄、16行
「 Coなどの遷移金属を含むペロブスカイト型酸化物は酸素欠陥型の不定比性をとりやすく、酸化物イオン導電性キャリアがともに電荷担体である混合導電性を示す。例えばAサイトにLaとSr、BサイトにCoとFeを複合した(La1-xSrx)(Co1-yFey)O3は、500℃〜900℃の間で安定化ジルコニアよりも1〜2けた高い酸化物イオン導電率と、102S・cm-1以上の電子導電率を併せ持つ優れた混合導電性材料である。著者らはこの混合導電性ペロブスカイト型酸化物の新しい応用として、約500℃以上の高温で使用可能な酸素の選択透過膜としての特性を検討した。(La1-xSrx)(Co1-yFey)O3などのCoを含むペロブスカイト型酸化物の緻密焼結体を、酸素分圧の異なる二室の隔壁として用いるという非常に簡単なセパレーター構造で、高酸素分圧側から低酸素分圧側へ酸素を選択的に透過(抽出)でき、その透過速度(透過係数)は十分に大きいことを明らかにしている。したがって、緻密かつ高温でも安定なペロブスカイト型酸化物膜の作成技術が確立できれば、高温での酸素透過(分離)膜としての実用性が大きく拡大するものと期待される。
ペロブスカイト型酸化物膜を機械的強度を備えた酸素透過デバイスにするには、多孔性支持体上に膜を形成させる非対称構造が最も有効と考えられる。この場合、酸素透過デバイス用多孔性支持体の備えるべき条件としては、
(1) 孔中の酸素ガスの拡散が律速とならないだけの十分に大きい貫通孔を有していること。
(2) 空隙率が大きく、しかも機械的強度が高いこと。
(3) ペロブスカイト型酸化物膜との密着性が良好なこと。
(4) 支持体材料とペロブスカイト型酸化物が反応する場合には、生成物が酸素透過能を低下させないこと。
(5) 高温での使用を考えると、支持体材料と透過膜材料の熱膨張率がほぼ等しいこと(膜のクラック発生防止)。
などがあげられる。・・・。したがって、透過膜材料と同じペロブスカイト型酸化物で多孔性支持体を作製すれば、(3)〜(5)の条件を満足すると考えられ、本研究ではLa0.6Sr0.4CoO3(以下LSCOと略す)を用いて多孔性支持体の作製を試みた。」
(ロ) 472頁左欄、9〜14行
「 (2) 出発粉体の粒子径を焼成温度を変えることにより制御し、充填時の粒間気孔を残す方法により多孔性支持体の作製を試みた。
粒径10μm以上の礫状粒子からなるLSCO(1400)粉体を用いて1400℃で焼結させた場合に、空気透過率、機械的強度ともに比較的高い多孔性支持体が得られた。」
(ハ) 472頁左欄、下から4行〜同右欄、4行
「 (3) LSCO(1400)粉体をふるいにより分級して用いたところ、LSCO(1400)(<44mm)以外の粉体を用いた場合に空気透過率が大きく向上した。細孔径、空気透過率は出発粉体の粒子サイズとともに減少する傾向は見られたが、LSCO(1400)(44-74mm)を用いた場合に、20〜30μmの比較的均一な開孔部を持ち多孔構造も安定な、酸素透過デバイス用として最も適した多孔性支持体が得られた。」

(4) 「日本セラミックス協会学術論文誌」、VOL.97(5)、533-538(1989)(本件特許異議の申立人が提示した甲第3号証の2。以下では、引例4という。)
(イ) 533頁左欄、下から14〜7行
「 混合伝導性のペロブスカイト型酸化物の緻密膜を隔膜として用い、その両側に酸素分圧の異なる雰囲気を接すれば、500℃以上の温度では高酸素分圧側から低酸素分圧側への酸素の選択的な透過が可能である。すなわち、酸素分子は高酸素分圧側でイオン化し、酸化物イオンとして膜中を移動した後、低分圧側で放電して酸素ガスとして放出され、それに必要な電子(あるいはホール)も膜中を速やかに移動する。」
(ロ) 534頁左欄、10〜16行
「 2.1 多孔性支持体
La、Sr、Coの酢酸塩を出発原料として1400℃で空気中、5時間焼成して得られたLSCO粉体(・・・)を直径10mm、厚さ約2mmに加圧成形し、1400℃、3時間、空気中で焼結させてディスク状の多孔性支持体を得た。」
(ハ) 535頁右欄、下から2行〜同左欄、下から2行
「 PD10支持体上へ1.6,2.7,4.5mg/cm-2のLSCO粉体を積層させ、1400℃で1時間焼結させた後の空気透過率を測定した(図4)。」
(ただし、上記中、「・・・」の部分は、転記を省略した部分である。なお、PD10とは、LSCO製の多孔性支持体であり、LSCOとは、La0.6Sr0.4CoO3を指す。)
(ニ) 536頁右欄、3.2.2 積層回数の影響
「 1回の積層量を2.0mg/cm-2に固定してせきそうと1400℃での焼結を繰り返し、その効果を調べた(図6)。空気透過率は積層回数の増加とともに減少して、4回の操作でほぼ0になっており、支持体表面の開口をほぼ塞ぐことができた。・・・。4回の焼結を経ても内部の多孔構造は保たれており、また表面に厚さ約15μmの内部とは明らかに構造の異なる成層膜が形成されている。・・・。」
(ただし、上記中、「・・・」の部分は、転記を省略した部分である。)
(ホ) 538頁右欄、総括の(2)〜(4)
「(2) 懸濁液噴霧積層法では1回の積層量を2〜3mg/cm-2とし、積層と1400℃での焼結を4回繰り返すことにより、厚さ約15μmの緻密膜が作製できた。
(3) (2)で作製した薄膜素子は、同温度で作製した厚さ1.5mmの緻密焼結体よりも約2倍の酸素等加速度を示した。
(4) 酸素透過速度を更に向上させるためには、多孔性支持体の開口部を更に高分散させ、有効面積を大きくするとともに、緻密薄膜の表面偏析を防止する方法を検討する必要がある。」

(5) 日本化学会編、竹原善一郎著、「新化学ライブラリー 電池-その化学と材料」(大日本図書株式会社、1988年発行)(以下では、引例5という。)、212頁、「8.4 気体活物質」の項
(イ) 214頁、17〜18行
「高出力密度を必要とする燃料電池では、触媒として白金を添加する。」
(ロ) 215頁、図8.15直下、第1行〜216頁、1行
「 高温型固体電解質燃料電池では、電極は1,000℃程度の高温で、酸化性雰囲気におかれるから金属電極は使いにくい。電極材料には、高温の酸化性雰囲気で安定なペロブスカイト構造の遷移金属酸化物が用いられる。LaCoO3、LaMnO3、PrCoO3、PrCrO3などである。これらの酸化物のなかで酸素のカソード還元に対して触媒性が優れ、電子伝導率の大きいものを選ばねばならない。図8.15にこれら酸化物と導電率の大きい他の金属酸化物の電子導電率を比較して示す。ランタン(La)系酸化物のほうが、プラセオジウム(Pr)系酸化物よりも導電性が大きい。ストロンチウムなどの2価のアルカリ金属をドープした非化学量論的組成の酸化物は導電性が高い。コバルト(Co)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)などは、Co3+-Co4+、Mn2+-Mn3+、Fe2+-Fe3+などの電子交換が容易で、
O2+4e- -> 2O2- (8.51)
の反応に対して触媒作用を示す。」

〔四〕 特許を取り消す理由
なお、以下では、酸素イオン伝導性と電子伝導性を兼ね備えた電気伝導性を混合伝導性ということがある。

(1) 引例の記載の要約及び引用発明の認定
(1-1) 引例1の記載の要約及び引例1に記載された発明の認定
(イ) (α)多孔性支持体の上に、気密であり、酸素イオン伝導性かつ電子伝導性である単一相ペロブスカイト型物質の固体膜が存在し、この固体膜の上に電気伝導性被覆層が存在する電気化学反応器及びこの反応器を使用する電気化学的方法の発明が記載されている。また、(β)特許請求の範囲の第4項には、「素子が(A)ペロブスカイト構造を有する混合金属酸化物材料及び(B)伝導性被覆、触媒又は触媒を含有する伝導性被覆からなることを特徴とする、酸素を酸素イオンに還元する能力を持つ第一表面、酸素イオンと酸素消費ガスとを反応させる能力を持つ第二表面、第一表面と第二表面との間の電子伝導経路及び第一表面と第二表面との間の酸素イオン伝導経路を有する、電気化学的反応器又は反応電池に用いられる素子。」の構成の発明が記載されている。
(ハ) (α)酸素イオンは、固体膜の第二表面で酸素消費剤と反応して、電子を固体膜の第二表面に残し、(β)多成分固体膜が電気伝導性材料を含んでいないときには、外部回路が必須である{上記〔三〕B.(1)(ヌ)参照}とされている一方、(γ)回路が開いているときでも、触媒があれば、SO2 の還元が起きる(ただし、20%より小さい){上記(イ)、〔三〕B.(1)(レ)参照。}し、また、(δ)La.2Sr.8CoOx, La.2Ca.8CoOx,Gd.2Sr.8CrOx, La.2Sr.8Fe.8Cr.2Ox, La.2Sr.8Fe.8Mn.2Oxなどのペロブスカイト製のディスクは、外部回路がなくても、酸素を輸送する{上記〔三〕B.(1)(タ)参照}ことが記載されている。
(ニ) (α)電気伝導層及び触媒の機能は、一つ又は二つの材料に組み合せることができ、(β)電気伝導性被覆層は、触媒を含むことがあり、触媒は、(γ)多成分固体膜の第一表面上の電気伝導性被覆層に、又は(δ)カソード側に層として、また、コートされて存在することがあり、(ε)亜鉛フェライトは、SO2還元の優れた電極触媒である{上記〔三〕B.(1)(チ)、(ル)、(ヲ)、(レ)参照}。
(ホ) そうすると、引例1には、
「 ペロブスカイト層の第一表面上に電気伝導被覆層とともに触媒が存在し、第二表面は多孔質層に隣接している、第一表面と第二表面とを有する気密なペロブスカイト層及び多孔質層によって形成され、
の発明が記載されている。
以下では、上記発明を引例1発明という。

(1-2) 引例2の記載の要約及び引例2に記載された発明の認定
(イ) 多孔層は、ち密層の機械的強度をたかめる{上記〔三〕B.(2)(ホ)、(ヘ)参照}。
(ハ) (α)多孔層の平均孔径は、10μmより小さく、(β)多孔層の厚さは、1μmから2mmの間であり{上記〔三〕B.(2)(ト)参照}、(γ)多孔層は、ち密層との界面から離れるに従って、平均孔径が0.5から10μm以上に増大する、漏斗型の孔構造であってもよい{上記〔三〕B.(2)(チ)、(リ)参照}。
(ニ) ち密層の厚さは、0.01〜500μmである(100μmより薄い方が好ましい){上記〔三〕B.(2)(ト)参照}。
(ホ) 複数の多孔層をかさねる場合がある。その場合、複数の多孔層は異なる平均孔半径をもち、各多孔層の平均孔半径が先行する多孔層の平均孔半径よりち密層からの距離の関数として大きくなる{上記〔三〕B.(2)(イ)、(リ)参照。}。
(ヘ) 混合伝導性多成分酸化物は、0.01ohm-1cm-1〜100ohm-1cm-1の酸素イオン伝導性および1ohm-1cm-1〜100ohm-1cm-1の電子伝導性を示す{上記〔三〕B.(2)(ヌ)、(ル)参照}。
(ト) そうすると、引例2には、
「 平均孔径が10μmより小さく、厚さが0.01〜2mmである多孔層及び連通孔を有せず、厚さが0.01〜500μmであるち密層からなり、多孔層と緻密層とが接しており、かつ、これらの各層が混合伝導性多成分金属酸化物からなり、
以下では、上記発明を引例2発明Aという。
また、引例2には、下記の発明が記載されている。
「引例2発明Aの膜において、複数の多孔層があり、その各層は異なる平均孔半径をもち、各多孔層の平均孔半径が先行する多孔層の平均孔半径よりち密層からの距離の関数として大きい膜。」
以下では、上記構成の発明を引例2発明Bという。

(1-3) 引例3の記載の要約
(イ) AサイトにLaとSr、BサイトにCoとFeを複合した(La1-xSrx)(Co1-yFey)O3は、500℃〜900℃の間で安定化ジルコニアよりも1〜2けた高い酸化物イオン導電率と、102S・cm-1以上の電子導電率を併せ持つ優れた混合導電性材料である。
(ロ) 酸素透過デバイスの機械的強度を増すために、多孔質支持体上にペロブスカイト型酸化物膜を形成する。
(ハ) 酸素透過膜材料と同じペロブスカイト型酸化物で多孔性支持体を作製する。

(1-4) 引例4の記載の要約
(イ) 混合伝導性のペロブスカイト型酸化物のち密膜において、酸素分子は高酸素分圧側でイオン化し、酸化物イオンとして膜中を移動した後、低分圧側で放電して酸素ガスとして放出され、それに必要な電子(あるいはホール)も膜中を速やかに移動する。
(ロ) 多孔性LSCO(La0.6Sr0.4CoO3)支持体上にLSCOち密膜を積層した。また、積層を繰り返した。
(ハ) 酸素透過速度を更に向上させるためには、多孔性支持体の開口部を更に高分散させ、有効面積を大きくする必要があると考えられる。

(2) 本件特許発明1と引例発明との比較
以下では、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1から請求項11までの各請求項の構成の各発明を請求項番号に対応して、それぞれ、本件特許発明1から同11という。本件特許発明1から同11までの発明を全体として本件特許発明と総称することがある。

(2-1) 同一点及び相違点
(イ) 相違点1
本件特許発明1は、イオン輸送膜であるのに対して、引例1発明は電気化学的装置の発明である。
以下では、上記相違点を相違点1という。

(ロ) 相違点2
上記相違点を相違点2という。

(ハ) 相違点3
引例1には、引例1発明の電界化学的装置の気密なペロブスカイト層のペロブスカイトがFブロックランタニドであるとは記載されていない。
以下では、この相違を相違点3という。

(ニ) 相違点4
本件特許発明1では、ち密層の第一表面に「白金、パラジウム、ルテニウム、金、銀、ビスマス、バリウム、バナジウム、モリブデン、セリウム、プラセオジミウム、コバルト、ロジウムおよびマンガンから選択された金属およびその金属の酸化物からなる群から選択されてなる金属または金属化合物からなる群から選択された触媒でコートされ」ている。
これに対して、引例1発明では、第一表面に触媒を被覆(コート)して存在させることができるとされているにすぎない。
本件特許発明1と引例1発明とでは、触媒の存在態様に格別相違があるとは認められない。
しかしながら、本件特許発明1の触媒は、上記特定金属又はその酸化物の触媒であるのに対して、引例1発明の触媒は、その化学種が特定されていない点で相違している。
以下では、上記相違点を相違点4という。

(ホ) 本件特許発明1と引例1発明とは、上記相違点1から同4の各相違点以外の点では、相違していない。
なお、本件特許発明1の稠密層の「稠密」とは、引例1発明のペロブスカイト層のち密性及び気密性と、実質的に同一である。

(2-2) 相違点についての判断
(イ) 相違点1について
(α)本件特許発明1は、「イオン輸送膜」の第一表面から第二表面にイオンを輸送するにあたって、第二表面に生じた電子を輸送するための外部回路を要するものではないと解される。
(β)イオン輸送を持続させ、また、加速するために、イオン輸送によって生じた電荷を外部回路を経由して帰還させること、又は、外部回路において電圧を印加することは、電気化学的反応一般に慣用の技術ではあるが、だからといって外部回路が絶対必要であるということはなく、電気化学的反応を実行するためには、遊離した電子を経路を確保できさえすれば、十分であることは技術常識である。
(γ)引例1には、多成分固体膜が電子伝導性であれば、開回路でも反応が進行する場合があることが記載されている{上記〔四〕(1)(1-1)A.(ハ)参照}。ペロブスカイトが電子伝導性を有している場合には、ペロブスカイトを使用したイオン輸送膜では、電子を帰還させるための外部回路がなくても、イオン輸送を持続させることができることは、当業者には、技術常識上明らかなことである。
(δ)そうすると、たとえ、引例1には、電気化学的反応装置に外部回路を付属させる場合が多く説明されているとしても、混合伝導性ペロブスカイトを使用した場合については、外部回路を付属させないことが示唆され、また、引例2の上記記載をあわせて考えれば、本件特許発明1は、相違点1の点で、格別の工夫をしているとは認められない。

(ロ) 相違点2について
引例3及び同4に記載されている発明では、酸素が酸素イオンに還元される酸素透過デバイスにおいて、酸素透過膜と多孔層とを同じペロブスカイト(LSCO)でつくることが記載されている。
(γ)なお、本件特許発明1のイオン輸送膜は、上記引例発明2Aのち密層/多孔質層複合体のち密層層第一表面に触媒を付着させたものともかんがえることもできるが、下記(ニ)の相違点4に関する判断に示したとおり、本件特許発明1で列挙されている触媒は、反応を特定して触媒効果の高い触媒を選択したものでもないから、列挙された触媒と多孔質層の材質との相関関係もまた格別特異的なものではない。そうすると、酸素を酸素イオンに還元するために列挙された触媒を選択して、上記引例発明2Aの膜体の酸素接触側に付着させておく程度のことは、当業者が容易にできることである。

(ハ) 相違点3について
希土類元素がLaである場合は、相違点3は、重複している。希土類元素が例えばPrの場合は、Prもランタニドとしてよく知られているものであるから、たとえ、引例1にPrが具体的に説明されていなくても、当業者ならば、必要に応じて、ペロブスカイトを構成する成分としてPrを選択することができる。
そして、本件特許発明は、ランタニドとしてFブロックランタニドを選択したことによって、Fブロックランタニドでないランダニドを選択した場合に比較して、予想外の効果を奏したことも認められない。
そうすると、相違点3は、実質的な相違であるとは認められない。

(ニ) 相違点4について
(α)本件特許発明1では、列挙され、特定されてはいるが触媒として一般的によく使用されている触媒をイオン輸送膜の第一表面上にコートしている(実施例が示されている触媒はPtだけである)。
これに対して、引例1には、ペロブスカイト膜上で、例えば亜鉛フェライトを電極触媒として用いることが記載されている。また、電気化学的反応(例えば、電極反応)において、気-固界面の固体側(例えば、電極側)に触媒を存在させることは、ごく普通に試みられていることである。さらに、例えば、引例5によれば、燃料電池において、Ptが電極触媒としてもちいられ、FeやCoなどが酸素の酸素イオンへの還元の触媒であることが周知であることが示されている{上記〔三〕B.(5)参照。}。
そして、本件特許発明1では、触媒として多数の金属又はその金属酸化物が列挙されてはいるが、これらの物質種は、触媒として一般的によく知られたものであるだけでなく、本件特許発明1では、イオン輸送膜の第一表面及び第二表面で起きる化学反応との特別の関係のもとで各触媒が選定されているわけでもない。
以上によれば、ペロブスカイト構造の多成分固体膜を用いるイオン輸送膜においても、一般的によく知られている触媒をそのイオン輸送膜の第一表面(酸素と接触する側)に付着させて、酸素イオン生成を加速する程度ことは、当業者が容易にできることである。
(β)酸素から酸素イオンが生成する過程を促進するために、酸素ガスがイオン輸送膜に接触する側の一方(つまり、第一表面の片側)だけに、多数列挙された広範な触媒から反応に応じて適宜選択できる触媒を存在させることは、格別の創意工夫であるとは認められない(触媒は反応を加速するためのものであるから、反応が開始する位置又はその近傍に、反応を加速する触媒を付着させておくことは、当然のことである。)。
(γ)触媒層の作製方法として、コート法は、周知慣用の方法である。
(δ)そうすると、本件特許発明は、相違点4の点で、格別の工夫をしているとは認められない。

(3) 本件特許発明2〜6と引例発明との比較
本件特許発明2〜6の、多孔層平均孔半径、稠密層の厚さ、稠密層の酸素イオン伝導率及び電子伝導率、多孔層の平均孔半径の層間変移の値は、引例2発明A及び引例2発明Bの対応する値と同様であるから、本件特許発明2〜6は、これらの点で格別の工夫をしたものとは認められない。
なお、本件特許発明1は、その稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層の第一表面に触媒コート層を作製しているが、この触媒コート層が第一表面上に存在するために、その多孔質支持体として、引例2A発明及び引例2B発明の特定の支持体を利用できないとは認められない。

(4) 本件特許発明7〜11と引例発明との比較
本件特許発明7〜11の化学反応は、いずれも、引例1に記載されている{上記〔三〕B.(1)(ロ)参照。なお、当審は、引例1のこの記載中、「olefins」は、高級炭化水素に包含されると解する。}。本件特許発明7〜11は、特定の反応を選定したことに格別の困難があったものとは認められない。

(5) 本件特許発明1は、上記相違点1から相違点4までの相違点によって、予想外の効果を奏したものとも認められない。本件特許発明2〜11の各発明についても、触媒の選定、イオン輸送膜体の構造(多孔質層の構造をふくむ。)及び反応の選定の点によって、予想外の効果を奏したものとは認められない。
なお、本件特許明細書には、本件特許発明について、その構成をすべて備えた実施例その他の具体的説明はみあたらない。わずかに具体的に説明されている例は、コンピュータシミュレーションによるもの{上記〔三〕A.(ヨ)参照。}であって、本件特許発明が予想外の効果を奏するものであることを確認することもできない。

(6) そうすると、本件特許発明1〜11は、当業者が、引例3及び引例4並びに引例5の記載を参酌して、引例1に記載されている発明及び引例2に記載されている発明の基づいて、容易に発明をすることができた発明である。

(2-3) まとめ
以上によれば、本件特許は、本件特許明細書の特許請求の範囲の全請求項の発明について、発明特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
したがって、本件特許は、拒絶をしなければならない特許出願に対して特許されたものである。
よって、平成6年法律第16号附則第14条の規定に基づく、平成7年政令第205号第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
触媒化された稠密層を有するイオン輸送膜
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 第一表面と、第二表面とを有する混合伝導性多成分金属酸化物稠密層からなり、前記第一表面は、白金、パラジウム、ルテニウム、金、銀、ビスマス、バリウム、バナジウム、モリブデン、セリウム、プラセオジミウム、コバルト、ロジウムおよびマンガンから選択された金属およびその金属の酸化物からなる群から選択されてなる金属または金属化合物からなる群から選択された触媒でコートされ、前記第二表面は、多孔質層に隣接しており、
前記混合伝導性多成分金属酸化物稠密層および前記多孔質層は独立して式
【化1】
AxA′x′A″x″ByB′y′B″y″O3-z
(式中、A、A′、A″は元素の周期表の1、2および3族並びにFブロックランタニドからなる群より選ばれ、B、B′、B″はDブロック遷移金属から選ばれ、ここで0<x≦1、0≦x′≦1、0≦x″≦1、0<y≦1、0≦y′≦1、0≦y″≦1、x+x′+x″=1、y+y′+y″=1であり、zは化合物の電荷を中性にする数である)によって表される多成分金属酸化物の1つまたは混合物によって形成されるイオン輸送膜。
【請求項2】 前記多孔質層の平均孔半径が10マイクロメーターよりも小さい請求項1に記載のイオン輸送膜。
【請求項3】 前記稠密層が0.01マイクロメーター〜500マイクロメーターの範囲の厚さを有しており、前記多孔質層が1マイクロメーター〜2ミリメーターの範囲の厚さを有する請求項1に記載のイオン輸送膜。
【請求項4】 前記混合伝導性多成分金属酸化物稠密層が0.01オーム-1cm-1〜100オーム-1cm-1の範囲の酸素イオン伝導率、および1オーム-1cm-1〜100オーム-1cm-1の範囲の電子伝導率を示す請求項1に記載のイオン輸送膜。
【請求項5】 前記多孔質層が、前記稠密層から離れた距離の関数として増加する平均孔半径を有する請求項1に記載のイオン輸送膜。
【請求項6】 第一表面と、第二表面とを有する混合伝導性多成分金属酸化物稠密層からなり、前記第一表面は、白金、パラジウム、ルテニウム、金、銀、ビスマス、バリウム、バナジウム、モリブデン、セリウム、プラセオジミウム、コバルト、ロジウムおよびマンガンから選択された金属およびその金属の酸化物からなる群から選択されてなる金属または金属化合物からなる群から選択された触媒でコートされ、前記第二表面は、複数の多孔質層に隣接しており、
前記混合伝導性多成分金属酸化物稠密層および前記複数の多孔質層は独立して式
【化2】
AxA′x′A″x″ByB′y′B″y″O3-z
(式中、A、A′、A″は元素の周期表の1、2および3族並びにFブロックランタニドからなる群より選ばれ、B、B′、B″はDブロック遷移金属から選ばれ、ここで0<x≦1、0≦x′≦1、0≦x″≦1、0<y≦1、0≦y′≦1、0≦y″≦1、x+x′+x″=1、y+y′+y″=1であり、zは化合物の電荷を中性にする数である)によって表される多成分金属酸化物の1つまたは混合物によって形成され、そして
前記各それぞれの多孔質層は不連続な平均孔半径を有し、各それぞれの多孔質層の平均孔半径は前記稠密層からの距離の関数として前の多孔質層の平均孔半径よりも大きいイオン輸送膜。
【請求項7】 請求項1のイオン輸送膜を利用する、酸素含有ガス混合物から酸素を回収する方法。
【請求項8】 請求項1のイオン輸送膜を利用する、有機化合物の酸化方法。
【請求項9】 請求項1のイオン輸送膜を利用する、窒素酸化物をガス状の窒素と酸素に変換する方法。
【請求項10】 請求項1のイオン輸送膜を利用する、硫黄酸化物を硫黄と酸素に変換する方法。
【請求項11】 請求項1のイオン輸送膜を利用する、メタンをより高級の炭化水素に変換する方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の技術分野】
本発明は、先行技術の酸素イオン伝導性膜と比較して実質的に改善された酸素流量を示す混合伝導性酸化物で形成された、新規な、表面が触媒化された複合イオン輸送膜に関する。膜は第一表面および第二表面を有する稠密層からなる複合構造を有しており、稠密層の第一表面は触媒でコートされている。膜は酸素含有ガス混合物から酸素を分離する方法を含む種々の幅広い方法に使用することができる。
【0002】
【発明の背景】
酸素イオン伝導性物質から形成された固相膜は、酸素を含有する流れから酸素を分離するための工業的な方法における使用に有望である。考えられる用途の範囲は、医療用の小さなスケールの酸素ポンプから大規模の複合ガス化混合サイクル(integrated gasification combined cycle,IGCC)プラントにわたる。この技術には二つの明確に異なる膜物質、固体電解質および混合伝導体が包含される。混合伝導体から形成された膜は酸素含有ガス混合物から酸素を分離する、中規模のおよび大規模の工程において固体電解質よりもしばしば好ましく、これは混合伝導体が高められた温度で酸素イオンと電子の両方を伝導し、外部回路、例えば電極、内部接続および電源なしに作動することができるからである。これに対して、固体電解質は酸素イオンのみを伝導し、作動するためにはこのような外部回路を必要とする。
【0003】
固体電解質および混合伝導性酸化物から形成される膜は酸素選択性であり、このような膜が典型的には約500℃よりも高い温度にかけられた場合、固体格子中に動的に形成された酸素アニオン空孔を通して酸素イオンを輸送することができる。固体電解質の例にはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)およびビスマス酸化物が含まれる。混合伝導体の例には、チタニアドープされたYSZ、プラセオジミア改質YSZが含まれ、そしてさらに重要なのは種々の混合金属酸化物で、これらのうちのいくつかはペロブスカイト構造を有する。
【0004】
高められた温度で作動する、混合伝導性酸化物から形成された膜は、膜の向かい合う側で酸素分圧に違いがあるときに、酸素含有ガス混合物から酸素を選択的に分離するのに使用することができる。酸素の輸送は、酸素分子が酸素イオンに解離し、このイオンが膜の低圧側に移動し、ここでイオンは再び結合して酸素分子を形成し、この間に電子は電荷を保存するため酸素イオンとは反対の方向に移動して起こる。酸素が膜を透過する速度は主に二つの因子、膜内の拡散速度および界面の酸素交換の運動速度;すなわち供給ガス中の酸素分子が膜の供給側の表面で移動性の酸素イオンに変換され、そして再び膜の透過側で酸素分子に戻る速度によって制御されている。
【0005】
混合伝導性酸化物によって形成された膜は、ポリマーの膜よりも実質的に酸素選択性が優れている。しかしながら、このような改善された選択性の価値は、混合伝導性酸化物から形成された膜を使用してプラントを作り操作するのにかかるより高い費用と比較検討されなければならない。それはこのようなプラントが熱交換器、高温でのシールおよび他の高価な装置を必要とするからである。混合伝導性酸化物から形成された典型的な先行技術の膜は商業的なガス分離用途に使用するには十分な酸素透過性を示さない。
【0006】
特願昭61-3-4169号にはSr(1+x)/2La(1-x)/2Co1-xMexO3-dおよびSrMe′O3(ここで、Me=Fe、Mn、CrまたはVa、0<=x<=1そしてMe′=Ti、ZrおよびHfである)からなる混合焼結体から形成された膜を利用する酸素透過装置が開示されている。この実施例には焼結した膜本体を銀、パラジウムまたは白金含有化合物中に浸して、このような膜の表面全体を含浸することによって酸素アニオン伝導性を適度に改善することができると述べている。
【0007】
Solid State Ionics 37,253-259(1990)にはさらにまた特願昭61-3-4169号に示されている膜が開示されており、ここでは金属酸化物の混合物を焼結する前に金属酸化物の混合物にパラジウム金属を加えてパラジウム含有多成分金属酸化物を形成している。パラジウムを含む焼結された試料ではパラジウムを含まない試料よりもより高い「酸素アニオン伝導性」が示された。
米国特許第4,791,079号には、不浸透性の混合イオン-および電子-伝導性セラミック物質の第一層並びに多孔性の触媒含有イオン伝導性セラミック物質である第二層からなる、新規な混合イオン-および電子-伝導性触媒セラミック膜が教示されている。第二層の好ましい組成は、8〜15モル%のカルシア、イットリア、スカンジア、マグネシア、および/またはそれらの混合物で安定化されたジルコニアである。この膜は炭化水素の酸化および脱水素方法における使用に適している。
研究者らは優れた酸素流量並びに工業的な方法に使用できる十分な機械的強度および性質を示す薄いセラミックの膜の研究を続けている。
【0008】
【本発明の概要】
本発明は幅広い種々の方法への適用に適した、新規な、表面を触媒化された複合イオン輸送膜に関する。最も一般的な実施態様では、イオン輸送膜は第一表面および第二表面を有する稠密な混合伝導性多成分金属酸化物からなる複合構造を有しており、ここでは第一表面は触媒でコートされている。明細書および特許請求の範囲を通じて、「稠密な」層は完全に接続された小孔をもたないものと解釈すべきである。
【0009】
別の実施態様では、イオン輸送膜は、多孔質層に隣接する第一表面および列挙された触媒でコートされた第二表面を有する稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層からなる。この実施態様には混合伝導性多成分金属酸化物、酸素イオン伝導性物質、電子伝導性物質または500℃より高い膜作動温度で電子または酸素イオンを伝導しない物質から形成された単一の多孔質層からなるイオン輸送膜が含まれる。多孔質層は混合伝導性多成分金属酸化物から作られるのが好ましい。単一多孔質層の平均孔半径はその横断面を通じて一定であるかまたは稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層との界面からの距離とともに増加しうる。
【0010】
さらに別の実施態様では、イオン輸送膜は触媒でコートされた第一表面および複数の多孔質層に隣接している第二表面を有する混合伝導性多成分金属酸化物稠密層からなり、各それぞれの多孔質層は不連続な平均孔半径を有しており、各多孔質層の平均孔半径は稠密層からの距離の関数として前の多孔質層の平均孔半径よりも大きい。この実施態様の膜の各多孔質層は混合伝導性多成分金属酸化物または前述の物質の一つまたは混合物から形成されうる。稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層の隣の多孔質層は同一または異なる混合伝導性多成分金属酸化物またはそれらの混合物で形成されるのが好ましい。
【0011】
本出願人らは、列記された種類のセラミック膜により示される酸素流量が、触媒が複合膜上に付着されている部位に依存していることを発見した。本出願人らは、予想に反して、複合膜を作っている稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層の片側のみに列挙された触媒を付着させる方がこの膜の両側に付着させるよりも優れた酸素流量が得られるということを発見した。さらに、本出願人らは、稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層および多孔質層からなる複合膜によって示される酸素流量が、先行技術で教示されているように多孔質層上に触媒を付着させるよりも稠密層の表面上に付着させた方が予想に反して増加するということを発見した。
【0012】
本発明のイオン輸送膜の稠密層の記載された表面上に付着される触媒には酸素分子の酸素イオンへの解離を触媒化させる任意の物質が含まれる。適切な触媒にはInternational Union of Pure and Applied Chemistryによる元素の周期表のII、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XV族およびFブロックランタニドから選ばれる金属および金属の酸化物が含まれる。適切な金属には白金、パラジウム、ルテニウム、金、銀、ビスマス、バリウム、バナジウム、モリブデン、セリウム、プラセオジミウム、コバルト、ロジウムおよびマンガンが含まれる。
【0013】
膜の多孔質および稠密層を作るのに使用される多成分金属酸化物は二つまたはそれより多くの多成分金属酸化物の一つまたは混合物から形成され、各多成分金属酸化物は、少なくとも二つの異なる金属の酸化物または少なくとも二つの異なる金属酸化物の混合物を含み、ここで多成分金属酸化物は約500℃より高い温度で電子伝導性および酸素イオン伝導性を示す。したがって、これらの物質は一般に混合伝導性酸化物と称する。
【0014】
適切な混合伝導性酸化物は、式
【化3】
AxA′x′A″x″ByB′y′B″y″O3-z
(式中、A、A′、A″はIUPACで採用されている元素の周期表の1、2および3族並びにFブロックランタニドからなる群より選ばれ、B、B′、B″はDブロック遷移金属から選ばれ、ここでは0<x≦1、0≦x′≦1、0≦x″≦1、0<y≦1、0≦y′≦1、0≦y″≦1、x+x′+x″=1、y+y′+y″=1であり、zは化合物の電荷を中性にする数である)によって表される。列記された構造のA、A′またはA″はカルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびマグネシウムからなる群より選ばれる2族の金属であるのが好ましい。好ましい混合伝導性酸化物が式LaxA1-xCoyFe1-yO3-z(式中、xは0と1の間、yは0と1の間であり、Aはバリウム、ストロンチウム、またはカルシウムから選ばれる)によって表される。
【0015】
本発明の表面が触媒化されたイオン輸送膜は、ガス反応物質またはガス反応物質から形成された生成物が膜の性能に過度に悪影響を与えることがない任意の方法に組み込むことができる。適切な方法には酸素の生成、炭化水素を含む有機化合物の酸化、窒素および硫黄酸化物の分解などが含まれる。例えば、出願人の表面が触媒化されたイオン輸送膜の一つによって第二ガス区画室から分離されている第一ガス区画室中へ酸素含有ガス混合物を導入し、そして第一ガス区画室中の酸素分圧を過剰にすることによって、および/または第二ガス区画室中の酸素分圧を減少させることによって第一と第二ガス区画室の間に正の酸素分圧差を設定することによって酸素含有ガス混合物から酸素を分離することができる。イオン輸送膜は酸素含有供給ガスが膜の触媒化表面と接触するよう設置される。酸素含有ガス混合物は約500℃よりも高い温度で膜と接触され、酸素含有ガス混合物を酸素の透過流れと酸素減少ガスの流れとに分離され、酸素透過流れが回収される。
【0016】
【発明の詳述】
本発明は酸素含有ガス混合物から酸素を分離する方法を含む幅広い種々の用途に使用するのに適した、新規な、表面が触媒化されたイオン輸送膜に関する。最も一般的な実施態様では、表面が触媒化されたイオン輸送膜は第一表面および第二表面を有する稠密な多成分金属酸化物層からなる複合構造を有し、ここでは第一表面が触媒でコートされている。この実施態様は図1Aに示されており、これは触媒でコートされた単一表面を有する稠密な混合伝導性層を例証しており、本明細書中に、より詳細に記述されている。
本出願人のイオン輸送膜の配置は、膜の稠密層の両側ではなく片側のみに触媒を置く点で先行技術と異なり、予想に反して酸素流量が改善される結果となった。例えば、本発明の背景の部分で引用されている特願昭61-3-4169号およびSolid State Ionics 37,253-259(1990)に示されている物品は多孔質支持層を有しない稠密な多成分金属酸化物層からなる膜を開示しており、ここでは触媒は稠密層の両側に置かれている。
【0017】
特許請求の範囲のイオン輸送膜は、完全に接続された小孔をもたない多成分金属酸化物の一つまたは混合物の稠密層からなり、作動温度で電子および酸素イオンを伝導することができる。本発明の膜の稠密層は二つまたはそれより多い多成分金属酸化物の一つまたは混合物から形成され、各多成分金属酸化物には少なくとも二つの異なる金属の酸化物または少なくとも二つの金属酸化物の混合物が含まれ、ここで多成分金属酸化物は約500℃より高い温度で電子伝導性および酸素イオン伝導性を示す。従って、これらの物質は一般に混合伝導性酸化物と称する。特許請求の範囲のイオン輸送膜の稠密層を形成するのに使用される多成分金属酸化物は混合伝導性酸化物である。
【0018】
適切な混合伝導性酸化物は、構造
【化4】
AxA′x′A″x″ByB′y′B″y″O3-z
(式中、A、A′、A″は元素の周期表の1、2および3族並びにFブロックランタニドからなる群より選ばれ、B、B′、B″はDブロック遷移金属から選ばれ、ここでは0<x≦1、0≦x′≦1、0≦x″≦1、0<y≦1、0≦y′≦1、0≦y″≦1、x+x′+x″=1、y+y′+y″=1であり、zは化合物の電荷を中性にする数である)によって表される。明細書および特許請求の範囲中の元素の周期表へなされるすべての引用は、International Union of Pure and Applied Chemistryにより採用されている表を参照すべきである。
【0019】
列記された構造のA、A′またはA″はカルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびマグネシウムからなる群より選ばれる2族の金属であるのが好ましい。稠密な多成分金属酸化物層は典型的には0.01オーム-1cm-1〜100オーム-1cm-1の範囲の酸素イオン伝導率および約1オーム-1cm-1〜100オーム-1cm-1の範囲の電子伝導率を示す。
好ましい混合伝導性酸化物は式LaxA1-xCoyFe1-yO3-z(式中、xは0と1の間、yは0と1の間であり、Aはバリウム、ストロンチウム、またはカルシウムから選ばれる)によって表される。稠密層がLa0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z、Pr0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-zおよびLa0.2Ba0.8Co0.6Cu0.2Fe0.2O3-zからなる群より選ばれる多成分金属酸化物から選ばれるのがもっとも好ましい。
【0020】
イオン輸送膜の稠密層の列記された表面上に付着される触媒には、酸素分子の酸素イオンへの解離または酸素イオンの酸素分子への再会合を触媒化する任意の物質が含まれる。適切な触媒には元素の周期表のII、V、VI、VII、VIII、IX、XV族およびFブロックランタニドから選ばれる金属または金属酸化物が含まれる。適切な金属には白金、パラジウム、金、銀、ビスマス、バリウム、バナジウム、モリブデン、セリウム、プラセオジミウム、コバルト、ルテニウム、ロジウムおよびマンガンが含まれる。
【0021】
触媒は金属粒子の懸濁液を膜の稠密層に塗布する;金属塩の溶液を稠密層上に噴霧するかまたは金属塩溶液を稠密層上に分散させることによってイオン輸送膜の稠密な混合伝導性層に塗布することを含む任意の慣用的な方法により施用することができる。他の適切な方法にはスクリーン印刷、浸漬塗り、プラズマスプレーおよびフレームスプレー、物理蒸着、例えば電子ビームによる蒸発またはスパッタリングおよび化学蒸着が含まれる。
本出願人は、本発明の予期されなかった利益を達成するには稠密な混合伝導性層の表面全体を触媒でコートする必要はないことを強調する。例えば、触媒の任意の選ばれたパターンをスクリーン印刷、マスキングおよび他の技術によって複合膜の稠密層の表面上に付着させることができる。このようなパターンは当分野でよく知られ、現在使用されている技術によって設計および施用することができる。
【0022】
ここで、触媒を複合膜の稠密層に施用する塗布技術について述べると、以下の一般的な方法が利用される。所望の触媒、例えば白金は複合膜の列記された稠密層をコーティングすることによって塗布することができる。例えば、Engelhard Incから市販入手可能な、テルペン中に懸濁されたミクロンサイズの白金粒子からなる白金インキ#6926を、ブラシまたはローラーを使用して複合膜の稠密層に塗布することができる。インキのコーティングは空気乾燥され、膜は装置中に装填され、触媒インキ中に存在しうる有機バインダーおよび溶媒を蒸発および燃焼させるために約550℃より高い温度にゆっくり加熱される。
【0023】
また、触媒は所望の触媒の溶液で表面を噴霧することによって稠密層の表面に塗布されうる。例えば白金は適切な量のPt(Acac)2をアセトン中に溶解して製造された白金アセチルアセトネートPt(Acac)2の0.01モル溶液を使用するこのやり方で塗布することができる。この溶液はキャリアーガスとして窒素を使用するクロマトグラフィー噴霧器中に装填される。溶液を複合膜の稠密層の表面上に噴霧し、白金の50nmの厚さの連続コーティングが得られる。アセトン溶媒を蒸発させ、稠密層がPt(Acac)2でコートされた複合膜が得られる。次いで膜を試験装置中に装填し、約550℃より高い温度にゆっくり加熱する。温度はPt(Acac)2が分解してイオン輸送膜の稠密層上に白金触媒および有機物の蒸気を作るのに十分高くなければならない。
【0024】
適切な溶媒中の所望の触媒の溶液を付着させて、複合膜の稠密層の表面に所望の触媒を塗布しうる。例えばアセトン中Pt(Acac)2の溶液を複合イオン輸送膜の稠密層の表面上に移すかまたは分散させることができる。アセトンを蒸発させ、Pt(Acac)2でコートされた複合膜の稠密層を残す。膜を加熱しPt(Acac)2を分解すると、イオン輸送膜の稠密層の表面上に白金触媒の所望のコーティングを形成する。
【0025】
図1Bに示されている一つの実施態様では、表面が触媒化されたイオン輸送膜は多孔質層に隣接した第一表面および一つまたはそれより多い列記された触媒でコートされた第二表面を有する稠密な混合伝導層からなる。この実施態様には多成分金属酸化物、酸素イオン伝導性物質、電子伝導性物質または膜の作動する温度で電子も酸素イオンも伝導しない物質から形成された単一の多孔質層からなる、表面が触媒化されたイオン輸送膜が含まれる。稠密な混合伝導層に隣接する多孔質層は本明細書に引用されている多成分金属酸化物の一つまたは混合物から作られる。図1Bにおいて、単一の多孔質層の平均孔半径はその横断面を通じて一定である。
【0026】
別の一つの実施態様では、表面が触媒化されたイオン輸送膜は複数の多孔質層を含む。各それぞれの多孔質層の平均孔半径は図1Cに示されているように、稠密な混合伝導性多成分金属酸化物との界面からの距離にともなって増加することができ、この図には実際には稠密な混合伝導性層から離れる距離の関数として順次より大きな孔半径を有する複数の個別に置かれた層である多孔質層を含む複合膜が示されている。層の数は多孔質層が、稠密な混合伝導性酸化物層との界面から離れるにつれて0.5から約10マイクロメーターまたはそれ以上に増加する平均孔半径を有する漏斗型の孔構造を効果的に有するような任意の数が使用される。これらの層は、複数の層で形成された未焼成の状態から出発して作ることができ、ここでは各それぞれの層は順次より大きな粒子からなっている。極薄の固相膜を製造する好ましい技術は1992年1月3日に出願された米国特許出願第07/816,206に示されており、これはAir Products and Chemicals,Inc,Allentown,PAに譲渡されている。
【0027】
図1Dに示されている別の一つの実施態様では、イオン輸送膜は列記された触媒でコートされた第一表面および複数の多孔質層に隣接する第二表面を有する多成分金属酸化物の稠密層からなり、各それぞれの多孔質層は不連続な平均孔半径を有し、ここでは各それぞれの多孔質層の平均孔半径は稠密層からの距離の関数として前の多孔質層の平均孔半径よりも大きい。
図1Dの実施態様の膜の各それぞれの多孔質層は混合伝導性多成分金属酸化物、酸素イオン伝導性物質、電子伝導性物質、作動温度で電子も酸素イオンも伝導しない物質の一つまたは混合物から形成されうる。稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層に隣接する多孔質層は混合伝導性多成分金属酸化物またはそれらの混合物から形成されるのが好ましく、そしてそれぞれ後に続く多孔質層の平均孔半径が稠密層からの距離の関数として段々に増加する平均孔半径を有すると同時に、平均孔半径は約10マイクロメーター未満であることが好ましい。熱膨張率が適合し、膜の作動温度で各層間の化学反応が最小となる限り任意の多孔質層の組み合わせを利用することができる。
【0028】
工程の作動条件下で混合伝導性でない適切な多孔性物質の例は、高温で酸素と適合する金属合金、金属酸化物安定化ジルコニア、例えばイットリア安定化ジルコニアおよびカルシウム安定化ジルコニア、セリア、アルミナ、マグネシア、シリカ、チタニア、並びにそれらの化合物および混合物が含まれる。
図1Eは二つの多孔質層からなる、表面を触媒化されたイオン輸送膜を例証しており、第一多孔質層は稠密な混合伝導性層に隣接するよう設置された混合伝導性多孔質層であり、第二の多孔質層は工程作動条件下で混合伝導性でない物質でできており、第一の多孔質層に隣接している。稠密および多孔質層が列挙された用途、例えば酸素含有ガス混合物から酸素を分離する工程において使用される条件下で化学的および機械的に適合する限りは、多成分金属酸化物の任意の組み合わせを使用することができる。
【0029】
上記実施態様でそれぞれ引用した複合膜の多孔質層の厚さは複合膜の機械的強度を十分にするために変化することができる。各多孔質層の所望の厚さは以下の考察によって調節される。第一に、各多孔質層の多孔性および平均孔半径は十分な機械的強度を維持しながら酸素流量を妨げないように調節すべきである。第二に、各多孔質層内の孔または孔のチャンネルは酸素の流れが妨げることのないように十分幅広くすべきであり、しかしながら製作中に孔が埋まったり操作中に稠密層の裂けが起こったりするほど幅広くてはならない。第三に、各多孔質層は割れおよび離層に関する問題を低減するよう化学反応性、接着性および熱膨張に関して稠密層と適合しなければならない。
【0030】
複合膜の多孔質層が混合伝導性酸化物で形成される場合、このような多孔性混合伝導性酸化物層は稠密な混合伝導性酸化物層のための適合する機械的支持体として作用し、酸素の二つの相互に作用する拡散通路(孔を通るおよび固体を通る)を提供する。ガス-固体酸素交換の表面運動速度の限界(surface kinetic rate limitations)は、支持体、特に稠密層付近の小さな孔構造における大きな「活性」表面の有効性によって緩和される。一方、拡散を妨げる小さな孔の影響は、固体中の速いイオン伝導によって緩和される。
【0031】
稠密な混合伝導層の厚さは、典型的には0.01マイクロメーター〜約500マイクロメーターの範囲であるが、稠密層は構造保全に対する配慮から許されるかぎり薄く作られ、約100マイクロメーター未満の厚さであることが好ましい。稠密な混合伝導層と接触および隣接している多孔性の混合伝導性酸化物層は1マイクロメーター〜約2ミリメーターの範囲の厚さを有する。稠密な混合伝導性層に接触していない多孔質層は、混合伝導性酸化物または混合伝導性でない物質のいずれから形成されているにかかわらず、ガス拡散を妨げない極限の厚さの範囲に機械的強度を保証する所望の厚さにすることができる。典型的には複合膜の全厚さは約5mm未満であるが、それより大きい厚さの膜も考えられる。稠密層は0.01マイクロメーター〜約500マイクロメーターの範囲の厚さを有することが好ましい。
【0032】
混合伝導性酸化物で作られた一つまたはそれより多い活性な多孔質支持体を使用する、本発明の表面が触媒化されたイオン輸送膜は、このような活性多孔質層が単位体積あたりの活性ガス-固体界面面積を増加させて表面の運動限界を打ち消すので特に高い酸素流量が提供される。従って、各多孔質層内で所定の多孔度が維持されて平均孔半径が減少されると、酸素流量を減少させる表面運動限界はこれに対応して減少させることができる。0.1〜約10マイクロメーターの範囲の平均孔半径を有し、稠密な混合伝導性層に隣接するよう設定された、適度に薄い多孔質混合伝導性酸化物層は表面の運動限界を打ち消すよう界面面積が増大されているが、著しい圧力の低下または物質輸送の抵抗を生じない。
【0033】
任意の所望の厚さの所望の多成分金属の薄い稠密層は、既知の技術によって列挙された多孔質層上に置くことができる。例えば、膜の複合体は最初に多成分金酸化物の比較的粗い粒子から多孔性体を形成して製造することができる。次に、同じ物質または類似の、適合する多成分金属酸化物のより微細な粒子のスラリーを多孔性物質上にコートし、そして未焼成の状態に硬化し、次いで二つの層系を焼成し複合膜を形成する。
代わりに、本発明の複合膜は、慣用の化学蒸着技術によって所望の多孔質基体上に所望の混合伝導性酸化物の稠密層を施用し、続いて焼結させて所望の稠密層を得ることにより製造することができる。最適な稠密コーティングを得るには、バルク中の平均孔半径と比較して多孔性支持体の表面ではより小さな平均孔半径が使用されうる。これは孔半径および多孔度のような特性の異なる二つまたはそれ以上の多孔質層を使用することによって達成されうる。
【0034】
出願人の、表面が触媒化されたイオン輸送膜によって提供される利点は、酸素がイオン輸送膜の稠密な混合伝導性酸化物層を通ってイオンになって輸送される機構を完全に理解して展開することによって、最もよく理解することができる。慣用のイオン輸送膜によって観察される酸素流量は「表面の運動限界(surfacekinetic limitations)」および「バルクの拡散限界(bulk diffusion limitation)」によって制御されている。表面の運動限界は、イオン輸送膜の供給側のガス相の酸素分子を移動性の酸素イオンに変換することおよび酸素イオンをイオン輸送膜の透過側で酸素分子に戻すことにかかわる多くの段階の一つまたはそれより多くによって引き起こされる酸素流量への拘束である。バルクの拡散限界は、稠密な混合伝導性酸化物層を通る酸素イオンの拡散率に対応する酸素流量への拘束である。付加的な拡散の拘束は酸素分子が多孔質層の孔を通って移動することに関するものである。
【0035】
本発明は、このような膜を使用する工程に関連して要求される高温条件下で構造的な保全性が維持される膜を提供しながら、非常に薄い稠密な混合伝導性酸化物層に関する酸素流量の運動限界を克服する、表面が触媒化された複合膜を提供するものである。
本発明の膜は、酸素含有ガス混合物を主題となる膜によって第二のガス区画室から分離されている第一のガス区画室へ運ぶこと、第一ガス区画室の酸素分圧を過剰にするおよび/または第二ガス区画室の酸素分圧を減少させることによって第一と第二ガス区画室の間の正の酸素分圧の差を確立すること;酸素含有ガス混合物を、約500℃よりも高い温度で列記されたイオン輸送膜の触媒化された表面に接触させ、圧縮された酸素含有ガス混合物を酸素透過流れおよび酸素減少ガスの流れに分離すること並びに酸素透過流れを回収することによって酸素含有ガス混合物から酸素を回収するのに使用することができる。
【0036】
任意の慣用の装置が本発明のイオン輸送膜を収容するのに使用され、これによって膜は第一および第二のガス区画室の間の仕切りを形成する。代表的な装置はAir Products and Chemicals,Inc.,Allentown,PAに発行されている米国特許第5,035,727号に開示されている。表面を触媒化されたイオン輸送膜は、酸素含有ガス混合物が触媒の存在する膜の側と接触するように装置中に設定される。
本発明の複合膜は二酸化炭素、水および揮発性炭化水素から選ばれる一つまたはそれより多くの成分を含む酸素含有ガス混合物から酸素を分離することができる。このようなガス混合物中に存在する酸素の量は一般には酸素約0.01体積%〜50体積%の範囲である。好ましい酸素ガス含有ガス混合物は大気中の空気である。
【0037】
第一および第二区画室間の酸素分圧の違いは、工程温度を第一区画室中に存在する酸素含有ガス混合物中の酸素を吸収、解離およびイオン化させるのに十分な温度に高めたときに、分離が遂行される駆動力を提供する。酸素はイオンの形態で膜を通って輸送される。純粋な酸素生成物は第二ガス区画室中に集められ、ここでは酸素イオンは電子の放出および再会合によって中性の酸素分子に変換される。第二ガス区画室は第一ガス区画室よりも低い酸素分圧の状態にある。
第一および第二ガス区画室の正の酸素分圧の差は、第一区画室中の空気を、約1気圧よりも大きいかまたは等しい圧力で酸素透過流れを回収するのに十分な圧力に圧縮することによって作り出すことができる。典型的な圧力は約15psia〜約250psiaであり、最適な圧力は酸素含有ガス混合物中の酸素の量に依存して変化すると考えられる。工程のこの段階を実施するに必要な圧縮を達成するのに慣用のコンプレッサーを使用することができる。もしくは、第二ガス区画室を酸素透過物を回収するのに十分な圧力に排気して第一及び第二ガス区画室間の正の酸素分圧差を達成することができる。
【0038】
工程の最終段階は適切な容器中に実質的に純粋な酸素を貯めるかまたはこれを別の工程に移動させるかによって酸素含有ガス混合物を回収することからなる。酸素透過物は典型的には、一般に少なくともO2約90体積%、好ましくは約95体積%よりも多いO2そして特別には99体積%より多いO2を含むガスとして定義される純酸素または高純度の酸素からなる。
本発明の表面が触媒化されたイオン輸送膜はガス反応物または同じものから形成された生成物は膜の性能に過度の悪影響を与えることがない任意の工程に組み込むことができる。適切な工程には酸素生成、炭化水素を含む有機化合物の酸化、窒素および硫黄酸化物の分解などが含まれる。
以下の実施例は出願人の特許請求の範囲の工程をさらに例証するものである。このような実施例は例として挙げるものであって、特許請求の範囲を限定しようとするものではない。
【0039】
実施例1
白金触媒化La0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜
直径3/4インチ、厚さ120μmのLa0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜の片側にテルペン中白金粒子の懸濁液を塗布した。テルペンを蒸発させた。膜とアルミナ管の間に適切なガラスリングを置き、膜をアルミナ管に取り付けた。膜の集成体をガラスが軟化する853℃に加熱し、膜とアルミナ管との間のシールが得られた。1000sccmの空気を膜の白金コートされた側を通過させて流した。2200sccmのヘリウムを膜の透過側を通過させて流した。膜の両面の圧力は1気圧であった。酸素がヘリウム掃引流れに入るにつれて酸素が膜を通って透過した。ヘリウム流れ中の酸素濃度はポテンシオメトリックジルコニア酸素センサーで測定した。定常状態条件下での膜の計算された酸素の流量は膜面積cm2あたり酸素10sccmであった。
【0040】
実施例2(比較例)
白金触媒化La0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜
直径3/4インチ、厚さ120μmのLa0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜の片側にテルペン中白金粒子の懸濁液を塗布した。テルペンを蒸発させた。膜とアルミナ管の間に適切なガラスリングを置き、膜をアルミナ管に取り付けた。膜の集成体をガラスが軟化する853℃に加熱し、膜とアルミナ管との間のシールを得た。1000sccmの空気を膜の白金コートされた側と反対側に接触させ、そして2200sccmのヘリウムを膜の触媒側を通過させて流した。膜の両面の圧力は1気圧であった。酸素が供給側から透過側へ膜を通って透過し、ヘリウム掃引流れに混入された。ヘリウム流れ中の酸素濃度はポテンシオメトリックジルコニア酸素センサーで測定した。定常状態操作条件下での膜の計算された酸素の流量は、膜面積cm2あたり酸素2.6sccmであった。
【0041】
実施例3(比較例)
白金触媒化La0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜(触媒なし)
直径3/4インチ、厚さ120μmのLa0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜を、膜とアルミナ管の間に適切なガラスリングを置き、膜をアルミナ管に取り付けた。この膜は表面に物質をなにも塗布しなかった。膜の集成体をガラスが軟化する853℃に加熱し、膜とアルミナ管との間のシールを得た。1000sccmの空気を膜の他の側を通過させて流した。そして2200sccmのヘリウムを膜の他の側を通過させて流した。膜の両面の圧力は1気圧であった。酸素は膜を通って空気からヘリウムへ透過した。ヘリウムがポテンシオメトリックジルコニア酸素センサーを有するペレットに接触した後、ヘリウム流れ中の酸素濃度を測定した。計算された酸素の流量は、膜面積cm2あたり酸素5sccmであった。
【0042】
実施例4(比較例)
白金触媒化La0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜
直径3/4インチ、厚さ120μmのLa0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜の両側にテルペン中白金粒子の懸濁液を塗布した。テルペンを蒸発させた。膜とアルミナ管の間に適切なガラスリングを置き、膜をアルミナ管に取り付けた。膜の集成体をガラスが軟化する853℃に加熱し、膜とアルミナ管との間のシールを得た。1000sccmの空気を膜の他の側を通過させて流した。そして2200sccmのヘリウムを膜の他の側を通過させて流した。膜の両面の圧力は1気圧であった。酸素は膜を通って空気からヘリウムへ透過した。ヘリウムがポテンシオメトリックジルコニア酸素センサーを有するペレットに接触した後、ヘリウム流れ中の酸素濃度を測定した。計算された酸素の流れは、膜面積cm2あたり酸素3.5sccmであった。
【0043】
実施例5
銀触媒化La0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜
直径3/4インチ、厚さ120μmのLa0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜の片側に、イオンビームスパッタリングで銀の50オングストロームのコーティングを付着させた。膜とアルミナ管の間に銀リングを置き、膜をアルミナ管に取り付けた。膜の集成体を銀リングが軟化する952℃に加熱し、膜とアルミナ管との間のシールを得た。次いで膜を843℃に冷却した。1000sccmの空気を膜の銀コートされた側を通過させて流した。そして2200sccmのヘリウムを膜の他の側を通過させて流した。膜の両面の圧力は1気圧であった。酸素は膜を通って空気からヘリウムへ透過した。ヘリウムがポテンシオメトリックジルコニア酸素センサーを有するペレットに接触した後、ヘリウム流れ中の酸素濃度を測定した。計算された酸素の流量は、膜面積cm2あたり酸素6.8sccmであった。
【0044】
実施例6
パラジウム触媒化La0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜
直径3/4インチ、厚さ120μmのLa0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜の片側に、イオンビームスパッタリングでパラジウムの50オングストロームのコーティングを付着させた。膜とアルミナ管の間に銀リングを置き、膜をアルミナ管に取り付けた。膜の集成体を銀リングが軟化する950℃に加熱し、膜とアルミナ管との間のシールを得た。次いで膜を850℃に冷却した。1000sccmの空気を膜のパラジウムコートされた側を通過させて流した。そして2200sccmのヘリウムを膜の他の側を通過させて流した。膜の両面の圧力は1気圧であった。酸素は膜を通って空気からヘリウムへ透過した。ヘリウムがポテンシオメトリックジルコニア酸素センサーを有するペレットに接触した後、ヘリウム流れ中の酸素濃度を測定した。計算された酸素の流量は、膜面積cm2あたり酸素6.1sccmであった。
【0045】
実施例7
白金触媒化La0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜
0.0836gの白金アセチルアセトネートを20ccのアセトンに溶解した。白金アセチルアセトネート溶液をクロマトグラフィー噴霧器中に置いた。0.015ccの溶液を直径3/4インチ、厚さ120μmのLa0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜の片面に噴霧した。膜とアルミナ管の間に適切なガラスリングを置き、膜をアルミナ管に取り付けた。膜の集成体をガラスが軟化する856℃に加熱し、膜とアルミナ管との間のシールが得られた。1000sccmの空気を膜の白金コートされた側を通過させて流した。そして2200sccmのヘリウムを膜の他の側を通過させて流した。膜の両面の圧力は1気圧であった。酸素は膜を通して空気からヘリウムへ透過した。ヘリウムがポテンシオメトリックジルコニア酸素センサーを有するペレットに接触した後、ヘリウム流れ中の酸素濃度を測定した。計算された酸素の流量は、膜面積cm2あたり酸素14sccmであった。
【0046】
実施例1〜7から得られた結果を図2にグラフで示す。膜の供給側に触媒白金表面を有する二つのイオン輸送膜(実施例1および7で製造された)では、それぞれ10および14sccm/cm2という予期せぬほど高い定常状態の酸素流量を示した。これに対して、膜の両側に白金コーティングを有する実施例4で製造されたイオン輸送膜は約3.5sccm/cm2の定常状態酸素流量を示し、白金触媒をコートされていない実施例3で製造されたイオン輸送膜は約5sccm/cm2の定常状態酸素流量を示した。従って、先行技術に教示されているように膜の両側と比較してイオン輸送膜の供給側のみに列記された触媒を塗布した場合に予期せぬ利益が観察された。膜の供給側は酸素分圧がより高い方の側に相当する。
【0047】
実施例8(理論)
メタンを一酸化炭素および水素に変換する方法直径3/4インチ、厚さ120μmのLa0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜の片側にテルペン中白金粒子の懸濁液を塗布する。テルペンを蒸発させる。膜とアルミナ管の間に適切なガラスリングを置き、膜をアルミナ管に取り付ける。膜の集成体をガラスが軟化する1000℃に加熱し、膜とアルミナ管との間のシールを得る。1000sccmの空気を膜の白金コートされた側を通過させて流す。メタンを膜の反対側を通過させて流す。膜の両面の圧力は1気圧である。酸素は膜を通って空気からメタンへ透過する。メタンは部分的に酸化され一酸化炭素および水素を形成する。白金触媒により、より高い酸素流量が得られる。
【0048】
実施例9(理論)
窒素酸化物をそれらの対応する分解生成物に変換する方法直径3/4インチ、厚さ120μmのLa0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜の片側に、テルペン中白金粒子の懸濁液を塗布する。テルペンを蒸発させる。膜とアルミナ管の間に適切なガラスリングを置き、膜をアルミナ管に取り付ける。膜の集成体をガラスが軟化する853℃に加熱し、膜とアルミナ管との間のシールが得られる。窒素酸化物を含むガスの流れを膜の白金コートされた側を通過させて流す。窒素酸化物含有流れよりも低い酸素分圧を有するガス流れを膜の反対側に通過させて流す。膜の両面の圧力は1気圧である。酸素は膜を通って窒素酸化物含有流れからもう一方の流れへ透過する。窒素酸化物は膜と接触して分解される。白金触媒により、より高い酸素流量が得られる。
【0049】
実施例10(理論)
メタンをより高級の炭化水素に変換する方法直径3/4インチ、厚さ120μmのLa0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜の片側にテルペン中白金粒子の懸濁液を塗布する。テルペンを蒸発させる。膜とアルミナ管の間に適切なガラスリングを置き、膜をアルミナ管に取り付ける。膜の集成体をガラスが軟化する853℃に加熱し、膜とアルミナ管との間のシールが得られる。窒素酸化物を含むガスの流れを膜の白金コートされた側を通過させて流す。1000sccmの空気を膜の白金コートされた側を通過させて流す。メタンを膜の反対側を通過させて流す。膜の両面の圧力は1気圧である。酸素は膜を通って空気からメタンへ透過する。メタンは反応し、エタン、エチレンおよび他の炭化水素を形成する。白金触媒により、より高い酸素流量が得られる。
【0050】
実施例11(理論)
硫黄酸化物をそれらの対応する分解生成物に変換する方法直径3/4インチ、厚さ120μmのLa0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-z膜の片側にテルペン中白金粒子の懸濁液を塗布する。テルペンを蒸発させる。膜とアルミナ管の間に適切なガラスリングを置き、膜をアルミナ管に取り付ける。膜の集成体をガラスが軟化する853℃に加熱し、膜とアルミナ管との間のシールが得られる。硫黄酸化物を含むガスの流れを膜の白金コートされた側を通過させて流す。硫黄酸化物含有流れよりも低い酸素分圧を有するガス流れを膜の反対側を通過させて流す。膜の両面の圧力は1気圧である。酸素は硫黄酸化物含有流れからもう一方の流れへ膜を通って透過する。硫黄酸化物は膜と接触して分解し硫黄と酸素が得られる。白金触媒により、より高い酸素流量が得られる。
【0051】
実施例12(理論)
表面が触媒化された複合イオン輸送膜を使用して酸素含有ガス混合物から酸素を回収する方法1993年8月31日発行の米国特許第5,240,480号(’480特許)(この明細書は参照によりここに組み込まれている)に示されている詳細なコンピューターモデルを使用して本実施例を行った。このコンピューターモデルは稠密層の供給または透過側のいずれかの上に多孔質層を有する混合伝導性層の稠密層を含むイオン輸送膜を通る酸素輸送を記載している。’480特許の表2には、La0.2Ba0.8Co0.8Fe0.2O3-zから形成された隣接する稠密および多孔質層を含む複合膜で形成されたモデルの複合膜に使用されるパラメーターが挙げられている。以下に示されている表には、金属触媒が付着された第一表面および工程の作動条件下では混合伝導性ではない物質で形成された多孔質層に隣接している第二表面を有する稠密な混合伝導性酸化物層からなる、図1Bのイオン輸送膜の触媒化された表面層のパラメーターが挙げられている。表中に示されているパラメーターk1、k2、kaおよびkdは’480特許のデータと併せて本明細書の実施例7で得られたデータ最小二乗法を適用して得られた。
【0052】
【表1】

【0053】
この実施例は種々の膜の配置に関してコンピューターシュミレーションによって得られた酸素流量の値を例証している。コンピューターシュミレーションを使用して得られた結果は以下のとおりである:ラン1では多孔質支持体に隣接する第一表面を有する稠密な混合伝導性酸化物層からなる膜を利用して、2.36sccm/cm2の酸素流量が得られた。ラン2では触媒層でコートされた第一表面および多孔質支持体に隣接する第二表面を有する混合伝導性層からなる膜を利用して、2.71sccm/cm2の酸素流量が得られた。ラン1とラン2で得られた結果を比較すると、複合膜の稠密層に触媒を塗布すると酸素流量が9.7%増加するということがわかる。
【0054】
出願人らは、列挙された触媒が開示されたイオン輸送膜の片側、特に多孔性の不活性層に隣接するよう設置された稠密な多成分金属酸化物層上に付着される場合に予期せぬ優れた酸素流量が得られることを明らかにした。本発明の表面が触媒化されたイオン輸送膜は、対応する先行技術の膜と比べて増大した酸素流量を示すので、出願人の表面が触媒化されたイオン輸送膜を利用する商業的なプラントでは、所定の酸素生成を達成するのに先行技術の膜より、より小さい表面積しか必要としない。
本発明を記述してきたが、出願人の発明の寄与は特許請求の範囲に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【図1】
Aは触媒でコートされた一つの表面を有する単一の稠密な混合伝導性(MC)層からなる表面が触媒化されたイオン輸送膜を、Bは多孔質層に隣接する第一表面および触媒でコートされている第二表面を有する稠密なMC層からなる表面が触媒化されたイオン輸送膜を、Cは触媒でコートされた第一表面および稠密なMC層から離れる距離の関数として順次より大きい孔半径を有する複数の個別におかれた多孔質層を有する稠密なMC層からなる表面が触媒化されたイオン輸送膜を、Dは二つまたはそれより多くの不連続な多孔質層であって、各それぞれの層は稠密なMC層から離れた距離の関数として順次より大きな平均孔半径を有するものからなるCの実施態様に類似の表面が触媒化されたイオン輸送膜を、そしてEは触媒でコートされた第一層および複数の多孔質層に隣接している第二表面であって、稠密な混合伝導性酸化物層に接触していない一つまたはそれ以上の多孔質層は混合導体ではない物質でできている前記第二表面からなる表面が触媒化されたイオン輸送膜を示す図である。
【図2】
触媒が混合伝導性膜の稠密層の種々の表面に適用されている種々のイオン輸送膜を使用して達成された酸素流量を示すグラフである。
 
訂正の要旨 (1) 訂正事項
(イ)(a) 訂正事項1a
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1、同4及び同7の「稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層」を「混合伝導性多成分金属酸化物稠密層」と訂正する。
(イ)(b) 訂正事項1b
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の「多孔質層に隣接する第一表面と、」「触媒でコートされた第二表面とを有する稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層」の記載を「第一表面と、第二表面とを有する混合伝導性多成分金属酸化物稠密層」と訂正し、かつ、同時に、同項の第一表面及び第二表面について、「第一表面は、」「触媒でコートされ、前記第二表面は、多孔質層に隣接しており、」と訂正する。
(イ)(c) 訂正事項1c
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び同7の「国際純正応用化学連合による元素の周期表のII、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XV族およびFブロックランタニドから選ばれる金属または金属酸化物からなる触媒でコートされた第二表面とを有する稠密な混合伝導性多成分金属酸化物層」を、
「第一表面」「を有する混合伝導性多成分金属酸化物稠密層」であって、「前記第一表面は、白金、パラジウム、ルテニウム、金、銀、ビスマス、バリウム、バナジウム、モリブデン、セリウム、プラセオジミウム、コバルト、ロジウムおよびマンガンから選択された金属およびその金属の酸化物からなる群から選択されてなる金属または金属化合物からなる群から選択された触媒でコートされ」ていると訂正する。
(ロ) 訂正事項2
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項7の混合伝導性多成分金属酸化物及び多孔質層について、「前記混合伝導性多成分酸化物稠密層および前記複数の多孔質層は独立して式
【化2】
AxA′x′A″x″ByB′y′B″y″O3-z(式中、A、A′、A″は元素の周期表の1、2および3族並びにFブロックランタニドからなる群より選ばれ、B、B′、B″はDブロック遷移金属から選ばれ、ここで0<x≦1、0≦x′≦1、0≦x″≦1、0<y≦1、0≦y′≦1、0≦y″≦1、x+x′+x″=1、y+y′+y″=1であり、zは化合物の電荷を中性にする数である)によって表される多成分金属酸化物の1つまたは混合物によって形成され、そして
前記」と限定する。
(ハ) 訂正事項3
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項5を削除し、同請求項6から同12までの各請求項の項番号を順に繰り上げて、請求項5から同11までとする。
異議決定日 2001-12-11 
出願番号 特願平7-2606
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B01D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 奥井 正樹杉江 渉  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 冨士 良宏
野田 直人
登録日 1999-12-10 
登録番号 特許第3011391号(P3011391)
権利者 エアー.プロダクツ.アンド.ケミカルス.インコーポレーテッド
発明の名称 触媒化された稠密層を有するイオン輸送膜  
代理人 佐藤 辰男  
代理人 西村 公佑  
代理人 佐藤 辰男  
代理人 高木 千嘉  
代理人 西村 公佑  
代理人 高木 千嘉  

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