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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01G
管理番号 1062736
異議申立番号 異議2000-74359  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-06-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-12-05 
確定日 2002-04-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3048352号「マンガン酸リチウムの製造方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3048352号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 [一]手続の経緯
特許第3048352号は、平成10年12月2日に特許出願され、平成12年3月24日に登録の設定がなされ、その後、その請求項1乃至5に係る発明の特許に対して特許異議申立人金田三郎により特許異議の申立てがなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成13年10月5日に訂正請求がなされたものである。

[二]訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の記載を下記の通り訂正する。
「【請求項1】電解析出した二酸化マンガンを粗粉砕、中和した平均粒径20〜40μmの電解二酸化マンガンを、粒子相互を衝突する方式の粉砕機で微粉砕した後、篩分けし、得られた平均粒径3〜20μmの電解二酸化マンガンをリチウム原料と混合、焼成し、上記篩分けされた平均粒径3μm未満の電解二酸化マンガンを回収することを特徴とするマンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項2】上記焼成が750℃以上で行われる請求項1に記載のマンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項3】上記請求項1又は2に記載の製造方法によって得られたマンガン酸リチウムからなる非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項4】上記請求項3に記載の正極材料を用いた正極とリチウムを吸蔵、脱蔵できる負極と非水電解液とから構成される非水電解質二次電池。」

(2)訂正事項b
明細書の段落番号【0009】の記載を下記の通り訂正する。
「本発明は、上記知見に基づきなされたもので、電解析出した二酸化マンガンを粗粉砕、中和した平均粒径20〜40μmの電解二酸化マンガンを、粒子相互を衝突する方式の粉砕機で微粉砕した後、篩分けし、得られた平均粒径3〜20μmの電解二酸化マンガンをリチウム原料と混合、焼成し、上記篩分けされた平均粒径3μm未満の電解二酸化マンガンを回収することを特徴とするマンガン酸リチウムの製造方法を提供するものである。」

2.訂正の目的の可否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、請求項1について、i)電解析出した二酸化マンガンの粗粉砕、中和後の平均粒径を20〜40μmに限定し、加えて、ii)篩分けされた平均粒径3μm未満の電解二酸化マンガンを回収する工程を追加すると共に、請求項2を削除し、併せて、特許請求の範囲全体の記載を整合させるものである。したがって、訂正事項aは特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また、上記訂正事項bは、明細書の段落番号【0009】の記載について、上記特許請求の範囲の記載の訂正に整合させるためのものであり、明りょうでない記載の釈明に相当する。
そして、上記i)については、特許明細書の段落番号【0011】に「この粗粉砕、中和された電解二酸化マンガンの平均粒径は20〜40μm程度である。」と記載されており、また、上記ii)については、特許明細書の段落番号【0015】に「他方、篩分けされた平均粒径3μm未満の電解二酸化マンガンは系外に放出され、サイクロン等で回収されて新たな用途に使用される。」と記載されている。したがって、いずれの訂正事項についても、特許明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるから新規事項の追加に該当しない。また、いずれの訂正事項についても実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

[三]特許異議の申立についての判断
1.本件発明
本件特許の請求項1乃至4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」乃至「本件発明4」という。)は、平成13年10月5日付で訂正された特許明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】電解析出した二酸化マンガンを粗粉砕、中和した平均粒径20〜40μmの電解二酸化マンガンを、粒子相互を衝突する方式の粉砕機で微粉砕した後、篩分けし、得られた平均粒径3〜20μmの電解二酸化マンガンをリチウム原料と混合、焼成し、上記篩分けされた平均粒径3μm未満の電解二酸化マンガンを回収することを特徴とするマンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項2】上記焼成が750℃以上で行われる請求項1に記載のマンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項3】上記請求項1又は2に記載の製造方法によって得られたマンガン酸リチウムからなる非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項4】上記請求項3に記載の正極材料を用いた正極とリチウムを吸蔵、脱蔵できる負極と非水電解液とから構成される非水電解質二次電池。」

2.引用刊行物記載の発明
(1)これに対して、当審において平成13年5月23日付けで通知した取消の理由に引用した特開平10-172567号公報(異議申立人が提出した甲第1号証。以下、「引例1」という。)には、「二酸化マンガン又は熱分解して二酸化マンガンになるマンガン化合物の粉末又はスラリーと、水酸化リチウムの水溶液又は硝酸リチウムの水溶液とを混合し、乾燥したのち、650〜900℃の温度領域で焼成することを特徴とするリチウム電池正極材としてのマンガン酸リチウムの製法」(【請求項1】)が記載されている。
また、使用する二酸化マンガンの平均粒径については「原料として使用する二酸化マンガンとしては電解二酸化マンガン、化学合成二酸化マンガンが挙げられ、・・・。このようなマンガン原料は予め湿式粉砕又は乾式粉砕し分級して平均粒径を30μm以下、好ましくは0.5〜5μm、さらに好ましくは5μm前後とするのが良い。」(段落番号【0006】)と記載されており、また、そのマンガン酸リチウムの製法における焼成工程について、【実施例1】、【実施例2】には「850℃」で焼成する旨記載されている。
さらに「実施例1、2又は比較例1のサンプルと・・・試験用正極材とした。こうして得られた正極材と・・・金属リチウム箔をボタン型電池用セル内に積層した。電解質として1モル/リッターのLiClO4を溶解した体積比1:1のプロピレンカーボネートとジメトキシエタンの混合溶媒を用いた。このような構成で電池を作成し、充放電試験を行った。」(段落番号【0017】)とも記載されている。

(2)同じく、特開平5-54886号公報(異議申立人が提出した甲第2号証。以下、「引例2」という。)には、「非水電解液二次電池用活物質の製造方法」(発明の名称)が示されており、「本発明の非水電解液二次電池用活物質の製造方法は、合成時に部分的に焼結したリチウムーコバルト複合酸化物を粉砕するに際して、その衝撃力、・・・をジェット気流の速度を変更することによって容易に抑制できる流体エネルギーミル等を用い、・・・粒子の壁とのまたは粒子相互間の衝突による粉砕を行い、粒度を調節することにより、せん断、破断によって粒子が受ける変質を防止するようにしたものである。」(段落番号【0010】)と記載されている。
また、「本発明によるリチウムーコバルト複合酸化物を粉砕力を抑制しながら粉砕したものを正極活物質粉末として用いることにより、高容量で、サイクル劣化の小さな非水電解液二次電池が得られる。」(段落番号【0029】)とも記載されている。

(3)同じく、特開平10-265224号公報(異議申立人が提出した参考資料1。以下、「引例3」という。)には、「マンガン酸リチウムの製造方法及び非水溶媒二次電池」(発明の名称)が示されており、「水酸化リチウム(LiOHあるいはLiOH・H2O)は、通常、100〜700μm程度の非常に大きい粒径の状態で市販されているが、これを粉砕する方法は通常のジェットミルやボールミルなどの機械的粉砕法により容易に行える。・・・ジェットミルや乾式ボールミルなどの乾式法がより好ましい。」(段落番号【0007】)、「Liイオンが一方的にマンガン化合物中へ拡散するために、マンガン化合物の結晶状態にも大きく影響される。例えばマンガン化合物が粉砕により粒径が小さくなって結晶性が悪くなると、得られるLiMn2O4も結晶性が低下し、その結果、容量低下、サイクル特性の低下を来す。」(段落番号【0014】)と記載されている。
また、実施例においては750℃で焼成を行う旨記載されている(段落番号【0027】12行)。

3.対比、判断
(1)本件発明1について
引例1には、微粉砕、分級した後の電解二酸化マンガンの平均粒径は30μm以下、好ましくは0.5〜5μm、さらに好ましくは5μm前後と記載されているところ、かかる平均粒径の値は本件発明1における微粉砕した後、篩分けして得られる電解二酸化マンガンの平均粒径3〜20μmと重複するものであり、特に好ましいとされている5μm前後は本件発明1で特定される上記範囲に包含されている。
また、引例1に記載の「分級」は、粉砕によって得られた粉体をその粒径によって分離することと解されるところ、本件発明1における「篩分け」は、粉体の分級のための具体的操作として慣用されているものであるから、本件発明1における「篩分け」と引例1に記載の「分級」が技術的に相違するものとは認められない。
そこで、本件発明1と引例1に記載の発明とを比較すると、両者は「電解二酸化マンガンを微粉砕した後、篩分けし、得られた平均粒径3〜20μmの電解二酸化マンガンをリチウム原料と混合、焼成するマンガン酸リチウムの製造方法」である点で一致しており、本件発明1においては、a)電解析出した二酸化マンガンを粗粉砕、中和して微粉砕前の電解二酸化マンガンを得ている点、b)平均粒径20〜40μmの電解二酸化マンガンを、粒子相互が衝突する方式の粉砕機で微粉砕する点、c)篩分けされた平均粒径3μm未満の電解二酸化マンガンを回収する点、で相違している。

以下、相違点a)乃至c)について検討する。
(1-a)相違点a)について
電池用材料としての二酸化マンガンを得るに際し、電解して得られた二酸化マンガンを粗粉砕、中和することは、当該分野における周知の技術的事項(必要ならば、特開平3-122968号公報、特開平3-80121号公報を参照。)であるから、引例1に記載のマンガン酸リチウムの製造方法において当該工程を採用することに格別の技術的困難性はない。
(1-b)相違点b)について
粉体状の製品を得るための粉砕機の種類は、所望の粒径や粉砕効率等を考慮して当業者が選択するものであり、引例2、3に記載されているように、二次電池用粉粒体の製造技術において、粒子相互が衝突する方式の粉砕機、例えば、ジェット粉砕機を用いることは知られているところ、引例1に記載の二次電池材料としての電解二酸化マンガンの粉砕のためにかかる粉砕機を適用し得ることは当業者が容易に想到できることである。また、かかる粉砕の方式を電解二酸化マンガンの粉砕に適用したことにより格別の効果を奏しているものとも認められない。
さらに、このとき、微粉砕工程に供給する電解二酸化マンガンの平均粒径をどの程度とするか、すなわち、どの程度の平均粒径となるまで粗粉砕を施すかについても、所望の粒径や系全体の粉砕効率等を考慮して当業者が適宜決定すべき設計的な事項にすぎないものと認められ、かつ、本件発明1においてかかる微粉砕前の平均粒径を20〜40μmに特定したことにより格別の効果を奏するものとも認められない。
(1-c)相違点c)について
引例1においては、一定範囲内の平均粒径を有する二酸化マンガンを得るために分級操作をする旨記載されてはいるものの、微小粒子を分離回収する点について、明示的には記載されていない。しかしながら、一般に、粉砕、分級(篩分けを含む。)操作を行うことによって粉体状の製品を得る場合、特に一定範囲内の平均粒径や粒度分布を有する製品を得ようとする場合には、具体的な分級操作としてかかる範囲外の粒径を有するもの(粒径が粗い粒子と微小粒子)をそれぞれ分離、排出したり、また、上記範囲外の粗い粒子は粉砕工程に再投入する等のことは、当業者が目的とする粒径範囲を得るために必要に応じて採用しうる事項であり(必要ならば、「化学装置別冊 粉体技術の基礎知識」株式会社工業調査会、1997年9月9日発行、例えば、p.17左欄、p.24左欄等を参照されたい。)、かかる具体的操作を引例1に記載のマンガン酸リチウムの製造方法における「分級」として適用すること、さらに、不要な分離、排出物を適宜回収し、材料に応じては再利用を図る程度のことは、当業者による通常の創作能力の発揮にすぎない。
さらに、上記回収される微小粒子の粒径の上限については、製品として所望の平均粒径、粒度分布に応じて当業者が適宜設定し得るものであり、例えば、引例1に記載の発明においても、平均粒径として約5μm前後を実現するためにある好適な値を見いだすことに格別の技術的困難性は認められない。そして、特許明細書の記載を参酌してもかかる特定の値として3μmを採用したことにより格別の効果を奏するものとも認められない。
してみると、引例1に記載されている発明において、篩分けされた平均粒径3μm未満の電解二酸化マンガンを回収することは、当業者が容易に想到し得る技術的事項と認められる。
なお、本件発明1においては、かかる回収を採用することにより特許明細書に記載の「微粉末の電解二酸化マンガンをマンガン酸リチウムのマンガン原料として用いないため、このような微粉末に起因する焼結時の粒子相互の焼結が防止される」(段落番号【0015】)という効果を奏するとしても、かかる効果は、上記で検討したように、必要とするよりも細かい粒径の微粒子を回収することに格別の技術的困難性が認められない以上、かかる回収を採用することによりもたらされる結果にすぎないものであり、進歩性の判断を左右するものではない。

加えて、微粉砕前の二酸化マンガンの平均粒径が20〜40μm、微粉砕及び篩分けによりマンガン酸リチウムの原料として利用される二酸化マンガンの平均粒径が3〜20μm、篩分けにより回収される二酸化マンガンの平均粒径が3μm以下と、それぞれの平均粒径値を限定した点を併せて検討しても、かかる平均粒径値の限定の結合によって、製造されるマンガン酸リチウムの特性や二酸化マンガンの利用率等の点で格別の効果を奏しているものとも認められない。

したがって、本件発明1は、引例1乃至3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2乃至4について
引例1には、上記(1)で指摘した点に加え、750℃以上で焼成を行う点、例えば、実施例1、2では850℃で焼成を行う点が記載されている。また、段落番号【0017】には、その実施例で製造したマンガン酸リチウムを正極材料として用い、不織布、セパレータ、リチウム箔を積層し、非水電解質を用いた二次電池による測定結果が記載されている。
してみると、本件発明2乃至4は、いずれも上記(1)で検討した相違点a)乃至c)でのみ引例1に記載の発明と相違している。そして、その対比、判断については、(1)で検討したとおりである。
したがって、本件発明2乃至4は、いずれも引例1乃至3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1乃至4は引例1乃至3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1乃至4についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1乃至4についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
マンガン酸リチウムの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 電解析出した二酸化マンガンを粗粉砕、中和した平均粒径20〜40μmの電解二酸化マンガンを、粒子相互を衝突する方式の粉砕機で微粉砕した後、篩分けし、得られた平均粒径3〜20μmの電解二酸化マンガンをリチウム原料と混合、焼成し、上記篩分けされた平均粒径3μm未満の電解二酸化マンガンを回収することを特徴とするマンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項2】 上記焼成が750℃以上で行われる請求項1に記載のマンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項3】 上記請求項1又は2に記載の製造方法によって得られたマンガン酸リチウムからなる非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項4】 上記請求項3に記載の正極材料を用いた正極とリチウムを吸蔵、脱蔵できる負極と非水電解液とから構成される非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はマンガン酸リチウムの製造方法に関し、詳しくは、焼成時に粒子相互の焼結が生じにくく、鉄分の混入も少なく、また非水電解液二次電池用正極材料とした時に良好な電池特性を有するマンガン酸リチウムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
近年のパソコンや電話等のポータブル化、コードレス化の急速な進歩によりそれらの駆動用電源としての二次電池の需要が高まっている。その中でも非水電解質二次電池は最も小型かつ高エネルギー密度を持つため特に期待されている。上記の要望を満たす非水電解質二次電池の正極材料としてはコバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)等がある。これらの複合酸化物はリチウムに対し4V以上の電位を有していることから、高エネルギー密度を有する電池となり得る。
【0003】
上記の複合酸化物のうちLiCoO2、LiNiO2は、理論容量が280mAh/g程度であるのに対し、LiMn2O4は148mAh/gと小さいが、原料となるマンガン酸化物が豊富で安価であることや、LiNiO2のような充電時の熱的不安定性が無いことから、EV用途等に適していると考えられている。
【0004】
このマンガン酸リチウム(LiMn2O4)のマンガン原料としては、安価、かつ豊富であることから電解二酸化マンガンが適している。通常、電解二酸化マンガンは電解析出後に、粗粉砕、中和してマンガン原料として用いられる。
【0005】
この粗粉砕、中和して得られた電解二酸化マンガンは、平均粒径が20〜40μm程度であり、これをマンガン原料として好適な平均5μm程度に微粉砕する必要がある。しかし、従来の微粉砕においては、得られる電解二酸化マンガンの平均粒径は10μm程度であり、このような電解二酸化マンガンを用いてマンガン酸リチウムを製造し、非水電解液二次電池用正極材料とした時に、塗工性が悪く、またハイレート特性を損なうという問題がある。しかも、電解二酸化マンガン中に鉄分等の不純物が混入し、マンガン酸リチウムの性状に悪影響を及ぼすという問題も生じる。
【0006】
また、この微粉砕においては、電解二酸化マンガンの微粉末が副生するが、このものもマンガン原料として用いると、リチウム原料との焼成時に粒子相互の焼結を促進させる恐れがある。
【0007】
従って、本発明の目的は、焼成時に焼結が生じにくく、鉄分の混入も少なく、また非水電解液二次電池用正極材料とした時に良好な電池特性を有するマンガン酸リチウムの製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、検討の結果、電解二酸化マンガンの微粉砕において、粒子相互を衝突する方式の粉砕機で微粉砕し、マンガン酸リチウム原料としての二酸化マンガンを5μm前後とし、かつその際に副生する微粉末を回収することによって、上記目的を達成し得ることを知見した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、電解析出した二酸化マンガンを粗粉砕、中和した平均粒径20〜40μmの電解二酸化マンガンを、粒子相互を衝突する方式の粉砕機で微粉砕した後、篩分けし、得られた平均粒径3〜20μmの電解二酸化マンガンをリチウム原料と混合、焼成し、上記篩分けされた平均粒径3μm未満の電解二酸化マンガンを回収することを特徴とするマンガン酸リチウムの製造方法を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の製造方法を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の製造方法の一実施形態を示す概略図である。同図において、1は電解二酸化マンガン貯槽、2は粉砕機(粒子相互を衝突する方式の粉砕機)、3は粉砕物貯留槽、4は篩分槽、5は原料貯留槽(A)、6はリチウム原料、7は原料貯留槽(B)、8は計量槽(A)、9は計量槽(B)、10は混合機、11はホッパー、12は焼成用容器、13は焼成炉をそれぞれ示す。
【0011】
マンガン酸リチウムのマンガン原料である電解二酸化マンガンは、電解槽1で電解によって製造される。例えば、電解液として所定濃度の硫酸マンガン溶液を用い、陰極にカーボン板、陽極板にチタン板を用い、加温しつつ、一定の電流密度で電解を行い、陽極に二酸化マンガンを電解析出させる。次に、電解析出した二酸化マンガンを陽極から剥離し、粗粉砕した後、水酸化ナトリウム等で中和させる。この粗粉砕、中和された電解二酸化マンガンの平均粒径は20〜40μm程度である。
【0012】
図1に示されるように、電解二酸化マンガン貯槽1に貯留された上記平均粒径20〜40μmの電解二酸化マンガンは粉砕機2に導入されて微粉砕される。ここで用いられる粉砕機2は、粒子相互を衝突する方式の粉砕機であり、例えば日本ニューマチック工業(株)社製のPJM式ジェットミル等が例示される。このような粉砕機を用いることによって、電解二酸化マンガンの平均粒径は、20μm以下となる。
【0013】
従来の粉砕機を用いて微粉砕した電解二酸化マンガンの平均粒径は15μm程度であり、この電解二酸化マンガンをマンガン酸リチウムのマンガン原料として用いた場合には、得られるマンガン酸リチウムを非水電解液二次電池用正極材料とした時に、塗工性が悪く、またハイレート特性を損なうという問題がある。しかも、電解二酸化マンガン中に鉄分が混入し、マンガン酸リチウムの性状に悪影響を及ぼすという問題も生じる。上記粒子相互を衝突する方式の粉砕機を用いた場合には、電解二酸化マンガンに鉄が混入するという問題が生じない。
【0014】
粒子相互を衝突する方式の粉砕機2で粉砕された電解二酸化マンガンは、粉砕物貯留槽3に貯留された後、篩分槽4に導入され、篩分けされる。ここで、篩分けされた平均粒径3〜20μm、例えば平均粒径5μmの電解二酸化マンガンは、原料貯留槽(A)5に貯留される。
【0015】
他方、篩分けされた平均粒径3μm未満の電解二酸化マンガンは系外に放出され、サイクロン等で回収されて新たな用途に使用される。この平均粒径3μm未満の電解二酸化マンガンは、電解二酸化マンガン総量に対して5〜20重量%程度粉砕時に発生する。本発明では、このような微粉末の電解二酸化マンガンをマンガン酸リチウムのマンガン原料として用いないため、このような微粉末に起因する焼成時の粒子相互の焼結が防止される。
【0016】
一方、リチウム原料6としては、炭酸リチウム(Li2CO3)、硝酸リチウム(LiNO3)、水酸化リチウム(LiOH)等が用いられるが、特に炭酸リチウムが好ましく用いられる。このリチウム原料は原料貯留槽(B)7に貯留される。
【0017】
原料貯留槽(A)5に貯留された電解二酸化マンガン、原料貯留槽(B)6に貯留された炭酸リチウム等のリチウム原料は、それぞれ計量槽(A)8、計量槽(B)9で所定量計量され、混合機10にて混合される。電解二酸化マンガンとリチウム原料のLi/Mnモル比は0.50〜0.60が好ましい。
【0018】
混合機10で混合された混合原料は、ホッパー11を経て、焼成用容器12に充填される。混合原料はそのままでもあるいは造粒して使用してもよい。造粒方法は、湿式でも乾式でも良く、押し出し造粒、転動造粒、流動造粒、混合造粒、噴霧乾燥造粒、加圧成形造粒あるいはロール等を用いたフレーク造粒でも良い。
【0019】
このようにして焼成用容器12に充填された混合原料は、焼成炉13内に投入され、600〜1000℃、好ましくは750〜1000℃で焼成することによってマンガン酸リチウム、例えばスピネル型マンガン酸リチウムが得られる。ここで用いられる焼成炉としては、プッシャー炉、ローラーハースキルン炉、ロータリーキルンあるいは静置炉等が例示される。焼成時間は1時間以上、好ましくは5〜20時間である。この焼成においては、上記した微粉末の二酸化マンガンに起因する粒子相互の焼結は生じにくい。
【0020】
このようにしてマンガン酸リチウムが得られる。このマンガン酸リチウムは、上記したように鉄分の混入も少ない。このマンガン酸リチウムは、塗工性が良好で非水電解質二次電池の正極材料として好適に用いられる。
【0021】
本発明の非水電解質二次電池では、上記正極材料とカーボンブラック等の導電材とテフロンバインダー等の結着剤とを混合して正極合剤とし、また、負極にはリチウム又はカーボン等のリチウムを吸蔵、脱蔵できる材料が用いられ、非水系電解質としては、六フッ化リンリチウム(LiPF6)等のリチウム塩をエチレンカーボネート-ジメチルカーボネート等の混合溶媒に溶解したものが用いられるが、特に限定されるものではない。
【0022】
本発明の非水電解質二次電池は、ハイレート特性等の電池特性を向上させることができる。
【0023】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の製造方法によって、焼成時に焼結が生じにくく、鉄分の混入も少なく、また非水電解液二次電池用正極材料とした時に良好な電池特性を有するマンガン酸リチウムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は、本発明の製造方法の一実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
1:電解二酸化マンガン貯槽
2:粉砕機(粒子相互を衝突する方式の粉砕機)
3:粉砕物貯留槽
4:篩分槽
5:原料貯留槽(A)
6:リチウム原料
7:原料貯留槽(B)
8:計量槽(A)
9:計量槽(B)
10:混合機
11:ホッパー
12:焼成用容器
13:焼成炉
 
訂正の要旨 訂正の要旨 (特許第3048352号(2000年 異議 第74359号))
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の減縮を目的として、【特許請求の範囲】の記載を下記のとおり訂正する。
「【請求項1】電解析出した二酸化マンガンを粗粉砕、中和した平均粒径20〜40μmの電解二酸化マンガンを、粒子相互を衝突する方式の粉砕機で微粉砕した後、篩分けし、得られた平均粒径3〜20μmの電解二酸化マンガンをリチウム原料と混合、焼成し、上記篩い分けされた平均粒径3μm未満の電解二酸化マンガンを回収することを特徴とするマンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項2】上記焼成が750℃以上で行われる請求項1に記載のマンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項3】上記請求項1又は2に記載の製造方法によって得られたマンガン酸リチウムからなる非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項4】上記請求項3に記載の正極材料を用いた正極とリチウムを吸蔵、脱蔵できる負極と非水電解液とから構成される非水電解質二次電池。」
(2)訂正事項b
明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書の段落番号【0009】の記載を下記のとおり訂正する。
「本発明は、上記知見に基づきなされたもので、電解析出した二酸化マンガンを粗粉砕、中和した平均粒径20〜40μmの電解二酸化マンガンを、粒子相互を衝突する方式の粉砕機で微粉砕した後、篩分けし、得られた平均粒径3〜20μmの電解二酸化マンガンをリチウム原料と混合、焼成し、上記篩い分けされた平均粒径3μm未満の電解二酸化マンガンを回収することを特徴とするマンガン酸リチウムの製造方法を提供するものである。」
異議決定日 2002-02-28 
出願番号 特願平10-343239
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C01G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 大工原 大二  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 服部 智
唐戸 光雄
登録日 2000-03-24 
登録番号 特許第3048352号(P3048352)
権利者 三井金属鉱業株式会社
発明の名称 マンガン酸リチウムの製造方法  
代理人 羽鳥 修  
代理人 羽鳥 修  

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