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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1062781
異議申立番号 異議2000-74553  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-05-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-12-25 
確定日 2002-06-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3055621号「非水電解液二次電池」の請求項1〜4、6〜10、12、13、15〜18に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3055621号の請求項1〜4、6〜10、12〜13、15〜18に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3055621号の請求項1〜4,6〜10,12,13,15〜18に係る発明についての出願は、平成10年11月2日に特許出願され、平成12年4月14日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人斉藤秀和により特許異議の申立がなされ、取消理由の通知(平成13年8月15日付け)がなされ、その指定期間内である平成13年10月17日に訂正請求がなされ、さらに、取消理由通知(平成14年4月10日付け)の手交がなされると同時に平成14年4月24日に訂正請求がなされたものである。(なお、平成13年10月17日付けの訂正請求は取り下げられた。)

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
(1)訂正事項a
(a-1)特許請求の範囲の請求項1,2,3,4における
「【請求項1】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、電池内に粒径が50μm以下のイオウ単体、もしくは硫酸塩を含むことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】 正極電極内に粒径が50μm以下のイオウ単体、もしくは硫酸塩を含有させるか、あるいは電解液に粒径が50μm以下のイオウ単体、もしくは硫酸塩を溶解させておくことを特徴とする請求項1記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】 [リチウム・マンガン複合酸化物]:[イオウ粉末]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.011≦aとなる混合比率で正極電極中に粒径が50μm以下のイオウ単体、もしくは硫酸塩を混合させたことを特徴とする請求項1または2記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】 電解液10mlに対し、イオウ粉末0.02g以上となるように粒径が50μm以下のイオウ単体、もしくは硫酸塩を溶解した電解液を使用することを特徴とする請求項1または2記載の非水電解液二次電池。」を、
「【請求項1】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、電池内に粒径が50μm以下のイオウ単体を含むことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】 正極電極内に粒径が50μm以下のイオウ単体を含有させるか、あるいは電解液に粒径が50μm以下のイオウ単体を溶解させておくことを特徴とする請求項1記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】 [リチウム・マンガン複合酸化物]:[イオウ粉末]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.011≦aとなる混合比率で正極電極中に粒径が50μm以下のイオウ単体を混合させたことを特徴とする請求項1または2記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】 電解液10mlに対し、イオウ粉末0.02g以上となるように粒径が50μm以下のイオウ単体を溶解した電解液を使用することを特徴とする請求項1または2記載の非水電解液二次電池。」と訂正するとともに、
(a-2)明細書の段落【0023】第2行(特許公報第8欄第12行)の
「粒径が50μm以下のイオウ単体、もしくは硫酸塩」を、
「粒径が50μm以下のイオウ単体」と訂正する。
(a-3)特許請求の範囲の請求項12における
「請求項12】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、正極電極がリチウム・マンガン複合酸化物に硫酸マンガンを添加させたものよりなるか、または電解液中に硫酸マンガンを溶解させておくことを特徴とする非水電解液二次電池。」を、
「請求項12】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、正極電極がリチウム・マンガン複合酸化物に硫酸マンガンを添加させたものよりなることを特徴とする非水電解液二次電池。」と訂正する。
(2)訂正事項b
(b-1)特許請求の範囲の請求項13における
「【請求項13】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、[リチウム・マンガン複合酸化物]:[硫酸マンガン]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.053≦aとなる混合比率で正極電極中に硫酸マンガンを含有させることを特徴とする非水電解液二次電池。」を、
「【請求項13】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、[リチウム・マンガン複合酸化物]:[硫酸マンガン]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.053≦aとなる混合比率で正極電極中に硫酸マンガンを混合することを特徴とする非水電解液二次電池。」と訂正するとともに、
(b-2)明細書の段落【0036】における
「この際、Mn塩は正極電極中に含有させても」(段落【0036】第1行、特許公報第10欄第4〜5行)、
「混合比率で正極電極中に含有させたり」(段落【0036】第7行、特許公報第10欄第13行)を、
「この際、Mn塩は正極電極中に混合させても」、
「混合比率で正極電極中に混合させたり」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書の段落【0072】の表2における
「実施例2」を、
「実施例3」と訂正する。
(4)訂正事項d
明細書の段落【0084】第1行(特許公報第16欄第45〜46行)の
「まずマンガン酸リチウム、導電性付与剤を乾式混合し」を、
「まずマンガン酸リチウム、導電性付与剤、硫酸マンガンを乾式混合し」と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書の段落【0089】第4行(特許公報第18欄第7行)の
「実施例9と同様に」を、
「実施例10と同様に」と訂正する。
(6)訂正事項f
明細書の段落【0093】の表3における
「比較例4」を、
「比較例2」と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aの(a-1)は、特許請求の範囲の請求項1,2,3,4において「粒径が50μm以下のイオウ単体、もしくは硫酸塩を」を、「粒径が50μm以下のイオウ単体を」と訂正するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
訂正事項aの(a-2)は、上記訂正(a-1)と整合を図るためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
訂正事項aの(a-3)は、特許請求の範囲の請求項12において「硫酸マンガンを添加させたものよりなるか、または電解液中に硫酸マンガンを溶解させておく」を、「硫酸マンガンを添加させたものよりなる」と訂正するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
訂正事項bの(b-1)は、明細書の段落【0041】第1行の記載「正極電極中に混合する硫酸マンガン」、及び、明細書の段落【0064】第1〜3行「[実施例2]実施例1で合成したマンガン酸リチウムを正極活物質とし、導電性付与剤、バインダーとしてのPTFEに加え硫酸マンガンの粉末を混合・混練し正極を作製し」に基づいて、特許請求の範囲の請求項13における「硫酸マンガンを含有させること」を、「硫酸マンガンを混合すること」と訂正するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
訂正事項bの(b-2)は、上記訂正(b-1)と整合を図るためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
訂正事項cは、明細書の段落【0071】第1〜3行の記載「実施例3および比較例1のコインセルのサイクル評価温度による#50/#1(1サイクルめの放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合)容量残存率(%)を表2に示す。」に基づいて、表2の「実施例2」を「実施例3」に訂正するものであり、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当する。
訂正事項dは、明細書の段落【0084】第4〜6行(特許公報第16欄末行〜第17欄第2行)の記載「正極中の固形分比率はマンガン酸リチウム:導電性付与剤:硫酸マンガン:PVDF=75:10:5:10(重量%)とした。」に基づいて、明細書の段落【0084】第1行の「まずマンガン酸リチウム、導電性付与剤を乾式混合し」を、「まずマンガン酸リチウム、導電性付与剤、硫酸マンガンを乾式混合し」と訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書に訂正に該当する。
訂正事項eは、明細書の段落【0089】において、「実施例9と同様に」を「実施例10と同様に」と訂正して、比較例2は、「電解液に硫酸マンガンを溶解せず、1MのLiPF6を支持塩とし、エチレンカーボネート(EC)+ジエチルカーボネート(DEC)=50+50(体積比)を溶媒としたものを電解液とした以外は実施例10と同様に18650円筒セルを作製した。」とするものであるが、明細書の段落【0083】〜【0087】の記載から、実施例9は、1MのLiPF6を支持塩とし、エチレンカーボネート(EC)+ジエチルカーボネート(DEC)=50+50(体積比)を溶媒とした電解液を用い、正極中に硫酸マンガンを含有した18650円筒セルを試作するものであるのに対し、実施例10は、1MのLiPF6を支持塩とし、エチレンカーボネート(EC)+ジエチルカーボネート(DEC)=50+50(体積比)を溶媒とし、加熱脱水処理した硫酸マンガンを溶解させた電解液を用い、18650円筒セルを試作するものであるから、比較例2は、電解液に硫酸マンガンを含有しないこと以外は実施例10と同様に18650円筒セルを試作したものであることは明らかである。
よって、訂正事項eは、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当する。
訂正事項fは、表3における「比較例4」を「比較例2」と訂正するものであるが、明細書には「比較例4」は記載されていないこと、及び、明細書の段落【0091】第1行の記載「過充電試験は比較例2で微かな蒸気〜発煙であった」に基づくと、表3において、過充電試験が「微かな蒸気〜発煙」である「比較例4」は、「比較例2」であることは明らかであるから、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、上記訂正事項a〜fのいずれの訂正も願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
2-3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立についての判断
3-1.特許異議申立の概要
特許異議申立人斉藤秀和は、下記の甲第1〜4号証を提出し、請求項1〜4に係る発明は、甲第1または2号証に記載された発明であり、請求項6〜8,10に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項12,13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、請求項15に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1,3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項16,17に係る発明は、甲第1または2号証に記載された発明であるか、甲第4号証または甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項18に係る発明は、甲第1または2号証に記載された発明であるか、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜4,6〜8,10,12,13,15〜18に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号または第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである旨、また、請求項9に係る発明の特許は、特許法第36条の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから取り消されるべき旨、主張している。
甲第1号証:特開平10-182159号公報
甲第2号証:特開平10-40911号公報
甲第3号証:特開平4-198028号公報
甲第4号証:J.Electrochem.Soc.,Vol.144,No.4,p.1159〜1165(1997)

3-2.本件発明
請求項1〜4,12,13については上記2で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1〜4,6〜10,12,13,15〜18に係る発明(以下、「本件発明1〜4,6〜10,12,13,15〜18」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4,6〜10,12,13,15〜18に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、電池内に粒径が50μm以下のイオウ単体を含むことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】 正極電極内に粒径が50μm以下のイオウ単体を含有させるか、あるいは電解液に粒径が50μm以下のイオウ単体を溶解させておくことを特徴とする請求項1記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】 [リチウム・マンガン複合酸化物]:[イオウ粉末]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.011≦aとなる混合比率で正極電極中に粒径が50μm以下のイオウ単体を混合させたことを特徴とする請求項1または2記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】 電解液10mlに対し、イオウ粉末0.02g以上となるように粒径が50μm以下のイオウ単体を溶解した電解液を使用することを特徴とする請求項1または2記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、電池内にイオウ含有ガスを含むことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項7】 正極電極内に正極活物質としてイオウ含有ガスを接触させたリチウム・マンガン複合酸化物を含有させるか、あるいは電解液にイオウ含有ガスを溶解させておくことを特徴とする請求項6記載の非水電解液二次電池。
【請求項8】 電解液100mlに対し、イオウ含有ガス1ml以上をバブリングした電解液を使用することを特徴とする請求項7記載の非水電解液二次電池。
【請求項9】 リチウム・マンガン複合酸化物10gに対し、イオウ含有ガス1ml以上を接触させたことを特徴とする請求項7記載の非水電解液二次電池。
【請求項10】 前記イオウ含有ガスは、二酸化イオウまたは硫化水素である請求項6から9のいずれかに記載の非水電解液二次電池。
【請求項12】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、正極電極がリチウム・マンガン複合酸化物に硫酸マンガンを添加させたものよりなることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項13】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、[リチウム・マンガン複合酸化物]:[硫酸マンガン]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.053≦aとなる混合比率で正極電極中に硫酸マンガンを混合することを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項15】 硫酸マンガンの粒径が50μm以下のものを使用することを特徴とする請求項12から14のいずれかに記載の非水電解液二次電池。
【請求項16】 リチウム・マンガン複合酸化物がスピネル構造よりなることを特徴とする請求項1から15のいずれかに記載の非水電解液二次電池。
【請求項17】 リチウム・マンガン複合酸化物の[Li]/[Mn]比が0.5〜0.65であることを特徴とする請求項16記載の非水電解液二次電池。
【請求項18】 電解液中に含有される支持塩がLiClO4、LiI、LiPF6、LiAlCl4、LiBF4、CF3SO3Liから選ばれる少なくとも1種類よりなることを特徴とする請求項1から17のいずれかに記載の非水電解液二次電池。」

3-3.各甲号証に記載された発明
甲第1〜4号証には、それぞれ次のとおりの発明が記載されている。
甲第1号証:特開平10-182159号公報
「【請求項1】硫黄含有量が1,000ppm以下である事を特徴とするリチウムマンガン酸化物。」(特許請求の範囲の請求項1)
「【請求項6】請求項1・・・に記載のリチウムマンガン酸化物を正極として使用することを特徴とするリチウム二次電池。」(特許請求の範囲の請求項6)
「【発明の属する技術分野】本発明は、非水系電池用正極活物質として使用するリチウム含有複合酸化物及び・・・そのリチウムマンガン酸化物を正極として使用するリチウム二次電池に関する物である。」(段落【0001】)
「・・・スピネル構造型リチウムマンガン酸化物(以下、リチウムマンガン酸化物)は、放電時に4V付近及び3V付近に平坦部分のある二段放電を示す事が知られ、4V付近の作動領域で可逆的にサイクルさせる事ができれば、高いエネルギーを取りだすことが期待できる。又、他の正極活物質に比べて資源的にも豊富であって、かつ安価であるという理由から、近年最も注目されている二次電池用正極活物質である。」(段落【0002】)
「・・・リチウムマンガン複合酸化物を正極に用いた二次電池は、初期容量が低く、さらに充放電を繰り返していくと、しだいに放電容量が減少していってしまうという問題点があった。」(段落【0003】)
「本発明の目的は・・・リチウムマンガン酸化物の新規な製造方法を提案し、さらにこの正極活物質を用いた・・・二次電池を提供する事である。」(段落【0004】)
「・・・従来よりリチウムマンガン酸化物の出発原料として用いられている二酸化マンガンは一般的に硫黄を3,000ppm程度以上含有しており・・・。」(段落【0005】)
「本件発明のリチウムマンガン複合酸化物中の硫黄含有量としては・・・。硫黄含有量が1,000ppm以下では、全ての硫黄が構造中に取り込まれても、初期容量は、理論量の90%をとりだす事は可能であり、また、不純物としての硫酸塩及び硫化物は検出されない。1,000ppmを越えると、この硫黄の作用については明らかにされていないが、硫黄は、リチウムマンガン酸化物中において硫酸根として存在し、複合酸化物中の2価のMnと結合してしまい、4価のMn種を増加させてしまい、容量を低下させる。・・・」(段落【0007】)
「・・・リチウムマンガン酸化物のリチウム/マンガン比はLi/Mn=0.95〜1.20/2.00が好ましい。・・・」(段落【0011】)
「・・・リチウム二次電池で用いる電解質としては・・・炭酸プロピレン、炭酸ジエチレン・・・の少なくとも1種類以上の有機溶媒中に過塩素酸リウム、四フッ化ホウ酸リチウム、トリフルオロメタン酸リチウム等のリチウム塩の少なくとも1種類以上を溶解したもの・・・を用いることができる。」(段落【0014】)
「・・・実施例1 [リチウムマンガン複合酸化物の製造] 硫黄含有量が200ppmのMn2O3とLi2CO3をLi/Mn=1.10/2.0で混合後・・・ペレットとした後、大気中で室温から650℃まで3.25時間で昇温し、650℃で10時間保持した後、室温まで6時間で降温して、リチウムマンガン酸化物を得た。・・・」(段落【0020】)
「比較例1 Mn源として硫黄含有量が3,000ppmのの電解二酸化マンガン(γ-MnO2)を使用した以外は、実施例1と同様にしてリチウムマンガン酸化物を得た。・・・」(段落【0023】)
「実施例4[電池の構成] 実施例1〜3及び比較例1で製造したリチウムマンガン複合酸化物を、導電剤のポリテトラフルオロエチレンとアセチレンブラックとの混合物・・・を、重量比で2:1の割合で混合した。混合物の75mgを・・・メッシュ(SUS316)上にペレット状に成形した後、200℃で5時間、減圧乾燥処理を行った。これを・・・正極に用いて、負極には・・・リチウム片を用いて、電解液にはプロピレンカーボネートに過塩素酸リチウムを・・・溶解したものを・・・セパレータに含浸させて・・・電池を構成した。」(段落【0024】〜【0025】)
表1には、比較例1で製造したリチウムマンガン酸化物を用いた正極の硫黄含有量は、2,500ppmであることが記載されている。
甲第2号証:特開平10-40911号公報
「【請求項1】 マンガン酸化物からなる正極と、リチウムを活物質とする負極と、非水電解液とを備えた非水電解液二次電池において、
上記マンガン酸化物は、硫酸塩を含む添加剤が添加されたマンガン化合物を熱処理してなるものを用いることを特徴とする非水電解液二次電池。」(特許請求の範囲の請求項1)
「・・・本発明は、マンガン酸化物からなる正極と、リチウムを活物質とする負極と、非水電解液とを備えた非水電解液二次電池に関わり、特にマンガン酸化物からなる正極の改良に関するものである。」(段落【0001】)
「・・・このマンガン酸化物を用いた正極では電圧が3V以上になるため、マンガン酸化物と電解液との反応が進行しやすい。その結果、電池を長期保存した場合に放電特性が低下したり、二次電池のサイクル特性の劣化を引き起こすなどの問題が生じている。・・・」(段落【0003】)
「・・・本発明は、この種電池に使用される正極活物質と電解液との反応を抑制し、二次電池の保存特性を向上させる優れた正極材料を提案するものである。」(段落【0005】)
「・・・マンガン化合物は・・・スピネル型マンガン酸化物(LiMn2O4)・・・などのマンガンとリチウムとの複合酸化物が最適である。」(段落【0008】)
「・・・硫酸塩は、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、銅の硫酸塩からなる群から選択された少なくとも1種が使用でき、具体的には、FeSO4・7H2O、CoSO4・7H2O、NiSO4・7H2O、ZnSO4・7H2O、CuSO4・5H2Oからなる群から選択された少なくとも1種が好ましい。」(段落【0009】)
「この種電池の溶質としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、LiCF3(CF2)3SO3等を使用することができる。」(段落【0011】)
「・・・(実験例1)・・・ 図1に、本発明の1実施例としての扁平形非水電解液二次電池の半断面図を示す。リチウム-アルミニウム合金からなる負極1は負極集電体2の内面に圧着されており・・・正極缶5の内底面には正極集電体6が固定されており、この正極集電体6の内面には本発明の要点である正極7が固定されている。この正極7と前記負極1との間には、電解液が含浸されたセパレータ8が介装されている。・・・前記正極7においては、添加剤としてマンガンに対して10モル%のFeSO4・7H2O(硫酸塩:粉末)、マンガン化合物である二酸化マンガン(MnO2)粉末に添加、混合し、375℃で熱処理したものを活物質として用いている。・・・前記負極1は、リチウム-アルミニウム合金を所定寸法に打ち抜き、負極集電体3の内面に固定している。そして、電解液には、エチレンカーボネート(EC)と1,2-ジメトキシエタン( DME)との混合溶媒(体積比で50:50)に、溶質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1モル/リットルの濃度で溶かしたものを使用している。これを用いて・・・本発明電池Aを作製した。」(段落【0016】〜【0020】)
「・・・前記実験例1で示した二酸化マンガン(MnO2)の代わりに、マンガンとリチウムの複合酸化物であるリチウム含有二酸化マンガン(Mn:Li=70:30(原子比))を用いた。リチウム含有二酸化マンガンとは、化学式MnO2+Li2MnO3で表記される酸化物である。その他は、上記本発明電池Aと同様にして、本発明電池Bを作製した。」(段落【0027】)
「・・・本発明電池Bは、比較電池Yに比べ、保存後の容量劣化が少なく、保存特性に優れていることが分かる。尚、この結果は、二酸化マンガンを用いた実験例1よりも顕著であり、本発明にかかる硫酸塩の添加が適していると言える。そして、この傾向は、スピネル型マンガン酸化物(LiMn2O4)であっても同様に観察される。・・・」(段落【0031】)
甲第3号証:特開平4-198028号公報
「(1)粒径10μm以下の粒子から成るLiMn2O4。
(2)マンガン酸化物とリチウム材料との混合物を焼成することによりLiMn2O4を製造する方法において、前記マンガン酸化物に、BET比表面積が150m2/gから500m2/gのγ型結晶構造を有する二酸化マンガンを用いることを特徴とする、特許請求の範囲第一項記載のLiMn2O4の製造方法。
(3)負極にリチウム又はリチウム合金を用い、電解質に非水電解質を用いる非水リチウム二次電池において、正極に特許請求の範囲第一項記載のLiMn2O4を用いることを特徴とする非水リチウム二次電池。」(特許請求の範囲第1〜3項)
「本件発明は・・・粒径10μm以下の粒子から成るLiMn2O4とその製造方法並びにその用途に関するものである。」(第1頁右下欄第4〜7行)
「スピネル骨格構造をもつLiMn2O4は、リチウムイオンを結晶構造内にドープ、脱ドープすることが可能である。この特性から、LiMn2O4は近年リチウム二次電池の正極材料として注目されるようになった。」(第1頁右下欄第14行〜第2頁左上欄第1行)
「Mn2O3とLi2CO3をLi:Mn=1:2(モル比)で混合し、650℃で6時間、850℃で14時間空気中で焼成する方法で得られたLiMn2O4を正極に用いているが・・・十分な正極性能を得るに至っていない。これは、焼成を高温で長時間行っているために粒子の焼結反応が進み、粒子径の成長が起こして表面積が低下し、利用効率が低下するためである。」(第2頁左上欄第10〜18行)
「γ型結晶構造を有する二酸化マンガンは・・・通常の電解二酸化マンガンの製造条件よりも高い硫酸濃度及び高い電流密度で電解反応を行うことで製造される。」(第3頁右上欄第14〜18行)
「実施例1 (LiMn2O4の作製)・・・粒子状の電解二酸化マンガンを得た。この電解二酸化マンガンは分析の結果、BET比表面積190m2/g・・・γ型の結晶構造を持つ二酸化マンガンであった。・・・次に、この二酸化マンガン43.5gと酸化リチウム3.75gを乳鉢で混合した後、850℃で20時間焼成した。得られた化合物のX線回折及び化学組成分析を行った。・・・分析の結果から、この化合物はLiMn2O4であると同定できた。また、SEM観察から粒径は5μm以下であることが分かった。」(第4頁右上欄第3行〜左下欄第4行)
「(電池の構成)得られたLiMn2O4、導電材のカーボン粉末及び結着材のポリテトラフルオロエチレン粉末を・・・混合した。この混合物75mgを・・・ペレットに成型した。これを・・・正極として用い、・・・負極にはリチウム箔・・・から切り抜いたリチウム片を用い、電解液には、プロピレンカーボネートと1,2ジメトキシエタンを・・・混合した混合液に過塩素酸リチウムを・・・溶解した電解液を・・・セパレータに含浸させて・・・電池を構成した。」(第4頁左下欄第下から8行〜右下欄第6行)
「比較例1 ・・・二酸化マンガンに市販の電解二酸化マンガン(BET比表面積50m2/g、γ型結晶構造)を用いたこと以外は、実施例1と同様にLiMn2O4を作製した。X線回折からは、得られた化合物は、LiMn2O4であると同定されたが・・・粒径は約50μmであることが分かった。次に、これを・・・正極に用いた以外は実施例1と同様な電池を構成した。」(第4頁右下欄第14行〜第5頁左上欄第3行)
甲第4号証:J.Electrochem.Soc.,Vol.144,No.4,p.1159〜1165(1997)
「有機リチウムイオン電池電解液への添加剤としての二酸化硫黄の作用」(第1159頁第1〜2行)
「最近の我々の研究室の研究により、二酸化イオウは、Liイオン二次電池のグラファイト負極に対する不動態化剤として用いられ得ることが明らかになった。電解液の還元電位のみならず、他の添加剤電位よりもかなり高い電位において、二酸化イオウは、グラファイト表面に十分な不活性膜を形成することが見出された。」(第1159頁左欄第2〜9行)
「SO2-有機電解液中でのグラファイト電極の挙動は、完全な電池構成において、LiNiO2正極に対し、C/5率で試験された。・・・SO2(99.9+%・・・)は、分子篩コラム・・・を通して有機溶媒中にバブリングされた。電解液中のSO2濃度は、0.1〜20w/oの範囲で、電池を昇圧することなく変化した。試験に用いられた溶媒は、プロピレンカーボネート(PC・・・)、ジメチル及びジエチルカーボネート(DMC及びDEC・・・)である。・・・LiAsF6・・・及びLiPF6・・・がSO2が導入された後の有機溶媒に加えられた。Li塩の最終濃度は常に1mol/lであった。・・・SO2を含有する種々の電解液の導電率の値が決定された。・・・」(第1159頁右欄第24行〜第1160頁第3行)
第1図には、1M濃度の(a)LiAsF6及び(b)LiPF6に対し、SO2(〜20w/o)を含有するDMC、PC、及びDEC溶液の比電気伝導度の値(mS cm-1)が示されている。
第2図には、1M濃度の(a,上)LiAsF6及び(b,下)LiPF6を含有するDMCを主成分とする電解液中のSO2濃度(0,1,4,8,10%w/o)に対応する、比電気伝導度の値(mS cm-1)が示されている。

3-4.対比・判断
3-4-1.本件発明1について
本件発明1は、電池内にイオウ単体を含ませることにより、硫酸マンガンを電池内に含有させた場合と同様に、正極活物質であるリチウム・マンガン複合酸化物中のMnへのSの触媒毒作用効果により、正極活物質-電解液界面の活性点を減少させ、同時に溶出したMnイオンの活性を低下させることができるため、正極活物質―電解液界面での電解液の分解反応およびカーボン材料やLi金属、Li合金などの負極表面上へのMnイオンが関係する種々の還元反応等の副反応を抑制することができ、サイクル特性、かつ保存特性に優れた電池が得られるものである(段落【0037】〜【0038】、【0042】参照)。
これに対し、甲第1号証の比較例1記載の発明は、Mn源としてイオウ含有量が3000ppmの電解二酸化マンガン(γ-MnO2)を使用した以外は、実施例1と同様にして、即ち、イオウ含有量が3000ppmの電解二酸化マンガンとLi2CO3をLi/Mn=1.10/2.0で混合後、ペレットとした後、大気中で室温から650℃まで3.25時間で昇温し、650℃で10時間保持した後、室温まで6時間で降温して得たリチウムマンガン酸化物(リチウム・マンガン複合酸化物に相当)を活物質として正極に用い、負極にはリチウム片を用いて、電解液にはプロピレンカーボネートに過塩素酸リチウムを溶解したものをセパレータに含浸させて、電池を構成することが記載され、表1には、比較例1の正極は、イオウ含有量は2500ppmであることが示されており、甲第1号証の段落【0007】の記載から、イオウ含有量が1000ppmを超えると、イオウは、リチウムマンガン酸化物中において硫酸根として存在し、複合酸化物中の2価のMnと結合することが分かるから、比較例1の正極中の1500ppm(2500ppm-1000ppm)のイオウは、複合酸化物中のMnと結合して硫酸マンガン(MnSO4)を形成しており、1000ppmのイオウは、不純物として正極中に存在しているものと認められる。
よって、本件発明1と甲第1号証の比較例1記載の発明を対比すると、両者は、正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池である点で一致し、前者は、電池内に粒径が50μm以下のイオウ単体を含むのに対し、後者は、電池内に不純物としてのイオウを1000ppm含む点で相違する。
上記相違点について検討する。
甲第1号証に記載される不純物としてのイオウは、その含有量がリチウム・マンガン酸化物中1000ppm以下では、全てのイオウが構造中に取り込まれても、初期容量は、理論容量の90%をとりだすことが可能であり、また、不純物としての硫酸塩及び硫化物は検出されない(甲第1号証の段落【0007】参照)のであるから、甲第1号証の比較例1の不純物としてのイオウ1000ppmは、リチウム・マンガン複合酸化物の構造内部に取り込まれているものと認められる。そして、イオウはどのような形態でリチウム・マンガン複合酸化物の構造内部の存在するかは記載されていないのであるが、リチウム・マンガン複合酸化物の構造内部に存在するということは、本件発明1におけるように、電池内にMnへの触媒毒作用を奏する物質として存在すること(本件段落【0037】、【0042】参照)、即ち、正極電極内にイオウ粉末として、正極活物質であるリチウム・マンガン複合酸化物、導電性付与剤、バインダーとともに存在すること(段落【0044】、実施例3参照)とは、技術内容を異にするものである。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一ではない。
本件発明1と甲第2号証記載の発明を対比すると、甲第2号証記載のマンガン酸化物からなる正極と、リチウムを活物質とする負極と、非水電解液とを備えた非水電解液二次電池は、マンガン酸化物として、硫酸塩を含む添加剤が添加されたマンガン化合物を熱処理してなるスピネル型マンガン酸化物(LiMn2O4、リチウム・マンガン複合酸化物に相当、段落【0008】参照)を用い、正極に添加する硫酸塩として、FeSO4・7H2O、CoSO4・7H2O、NiSO4・7H2O、ZnSO4・7H2O、CuSO4・5H2Oからなる群から選択された少なくとも1種を用いるのであるから、両者は、正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池である点で一致するが、前者は、電池内に粒径が50μm以下のイオウ単体を含むのに対し、後者は、電池内にイオウ単体を含まない点で相違する。
よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明とも同一ではない。

3-4-2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、粒径が50μm以下のイオウ単体は、正極電極内に含有させるか、あるいは電解液に溶解させておくことを規定するものであるから、「3-4-1.本件発明1について」で述べた理由により、甲第1、2号証に記載されたいずれの発明とも同一ではない。

3-4-3.本件発明3について
本件発明3は、本件発明1または2において、粒径が50μm以下のイオウ単体は、[リチウム・マンガン複合酸化物]:[イオウ粉末]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.011≦aとなる混合比率で正極電極中に混合させることを規定するものであるから、「3-4-1.本件発明1について」で述べた理由により、甲第1、2号証に記載されたいずれの発明とも同一ではない。

3-4-4.本件発明4について
本件発明4は、本件発明1または2において、電解液10mlに対し、イオウ粉末0.2g以上となるように粒径が50μm以下のイオウ単体を溶解した電解液を使用することを規定するものであるから、「3-4-1.本件発明1について」で述べた理由により、甲第1、2号証に記載されたいずれの発明とも同一ではない。

3-4-5.本件発明6について
本件発明6は、電池内にイオウ含有ガスを含ませることにより、硫酸マンガンを電池内に含有させた場合と同様に、正極活物質であるリチウム・マンガン複合酸化物中のMnへのSの触媒毒作用効果により、正極活物質-電解液界面の活性点を減少させ、同時に溶出したMnイオンの活性を低下させることができるため、正極活物質―電解液界面での電解液の分解反応およびカーボン材料やLi金属、Li合金などの負極表面上へのMnイオンが関係する種々の還元反応等の副反応を抑制することができ、サイクル特性、かつ保存特性に優れた電池が得られるものである(段落【0037】〜【0038】、【0042】、【0043】参照)。
本件発明6と甲第4号証記載の発明を対比すると、甲第4号証記載のLiNiO2正極とグラファイト負極を用いた有機リチウムイオン電池(リチウムイオン非水電解液二次電池)は、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の有機溶媒に二酸化イオウをバブリングすることにより添加した後に、LiAsF6、LiPF6等のLi塩を溶解してなる電解液を用いたものであるから、両者は、正極にリチウムの複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、電池内にイオウ含有ガスを含む非水電解液二次電池である点で一致し、リチウムの複合酸化物が、前者はリチウム・マンガン複合酸化物であるのに対し、後者はリチウム・ニッケル複合酸化物である点で相違する。
上記相違点について検討する。
甲第4号証には、LiNiO2正極とグラファイト負極を用いたリチウムイオン非水電解液二次電池において、電解液に二酸化イオウを含有させることにより、グラファイト負極表面が電解液や添加剤に対し不活性化されるとともに、電解液の比電気伝導度が向上することが記載されているが、二酸化イオウがリチウム・マンガン複合酸化物中のMnへの触媒毒作用を有することは記載されていないから、甲第4号証記載の発明において、正極活物質-電解液界面での電解液の分解反応及び負極表面上へのMnイオンが関係する種々の還元反応等の副反応を抑制することを目的として、正極をリチウム・ニッケル複合酸化物に代えて、リチウム・マンガン複合酸化物とすることは、当業者が容易になし得ることではない。
よって、本件発明6は、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3-4-6.本件発明7について
本件発明7は、本件発明6において、正極電極内に正極活物質としてイオウ含有ガスを接触させたリチウム・マンガン複合酸化物を含有させるか、あるいは電解液にイオウ含有ガスを溶解させておくことを規定するものであるから、「3-4-5.本件発明6について」で述べた理由により、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3-4-7.本件発明8について
本件発明8は、本件発明7において、電解液100mlに対し、イオウ含有ガス1ml以上をバブリングした電解液を使用することを規定するものであるから、「3-4-5.本件発明6について」で述べた理由により、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3-4-8.本件発明10について
本件発明10は、本件発明6から9のいずれかにおいて、イオウ含有ガスは、二酸化イオウまたは硫化水素であることを規定するものであるから、上記「3-4-5.本件発明6について」で述べた理由により、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3-4-9.本件発明12について
本件発明12は、正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、正極電極がリチウム・マンガン複合酸化物に2価のMn塩である硫酸マンガンを添加したものよりなることにより、2価Mnイオンは、3価または4価のMnイオンよりも先に電解液中に溶解するため、活物質として用いるLiMn2O4やLiMnO2、Li2Mn2O4を主とするリチウム・マンガン複合酸化物中のMnよりも先に電解液中に溶解する結果、電解液中のMn濃度が上昇し活物質からのMn溶出を抑制するとともに、Mn溶解の際に生じたSO42-分によるSのMnへの触媒毒作用効果により正極活物質―電解液界面の活性点を減少させ、同時に溶出したMnイオンの活性を低下させるので、正極活物質―電解液界面での電解液の分解反応およびカーボン材料やLi金属、Li合金などの負極表面上へのMnイオンが関係する種々の還元反応等の副反応を抑制することができ、サイクル特性、かつ保存特性に優れた電池が得られるものである(段落【0037】〜【0038】参照)。
本件発明12と甲第1号証の比較例1記載の発明(「3-4-1.本件発明1について」参照)を対比すると、両者は、正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、正極電極がリチウム・マンガン複合酸化物に硫酸マンガンを含むものよりなる非水電解液二次電池である点で一致し、前者は、硫酸マンガンを添加したものであるのに対し、後者は、原料である電解二酸化マンガンに含有されるイオウに由来して、不純物としてリチウム・マンガン複合酸化物に含まれるものである点で相違する。
上記相違点について検討する。
本件発明12の硫酸マンガン(MnSO4)は、正極に添加されることにより、活物質であるLiMn2O4やLiMnO2、Li2Mn2O4等のリチウム・マンガン複合酸化物中のMnよりも先に電解液中に溶解する結果、電解液中のMn濃度が上昇し活物質からのMn溶出を抑制するとともに、Mn溶解の際に生じたSO42-分によるSのMnへの触媒毒作用効果により、正極活物質-電解液界面での電解液の分解反応及び負極表面上へのMnイオンが関係する種々の還元反応等の副反応を抑制するという作用、効果を奏するものである。
これに対し、甲第1号証記載の発明は、硫酸マンガンは正極に含まれる不可避不純物としての認識しかないのであるから、活物質からのMnの溶出の抑制、及び、SのMnへの触媒毒作用効果により、正極活物質-電解液界面での電解液の分解反応及び負極表面上へのMnイオンが関係する種々の還元反応等の副反応を抑制する目的で、外部から硫酸マンガンを正極に添加する本件発明12とは、技術的に異なるものである。
よって、本件発明12は、甲第1号証に記載された発明と同一ではない。

3-4-10.本件発明13について
本件発明13と甲第1号証の比較例1記載の発明(「3-4-1.本件発明1について」参照)を対比すると、前者は、[リチウム・マンガン複合酸化物]:[硫酸マンガン]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.053≦aとなる混合比率で正極電極中に硫酸マンガンを混合するのに対し、後者は、硫酸マンガンは正極電極中に不純物として含まれている点で相違するが、活物質からのMnの溶出の抑制、及び、SのMnへの触媒毒作用効果により、正極活物質-電解液界面での電解液の分解反応及び負極表面上へのMnイオンが関係する種々の還元反応等の副反応を抑制する目的で、外部から硫酸マンガンを混合する本件発明13は、硫酸マンガンが原料に由来する不可避不純物として正極に含まれる甲第1号証記載の発明とは、技術的に異なるものである(「3-4-9.本件発明12について」参照)。
よって、本件発明13は、甲第1号証に記載された発明と同一ではない。

3-4-11.本件発明15について
本件発明15は、本件発明12から14のいずれかにおいて、硫酸マンガンの粒径が50μm以下のものを使用することを規定するものである。
甲第3号証には、正極活物質として粒径50μm以下のLiMn2O4が記載されており、該記載事項に基づけば、正極添加剤は活物質の粒径程度あるいはそれより小さくすることは当業者とって容易であっても、「3-4-9.本件発明12について」及び「3-4-10.本件発明13について」で述べたように、甲第1号証の記載事項からは正極に硫酸マンガンを添加、或いは混合することは導き得ないから、本件発明15は、甲第1号証記載の発明と同一ではなく、また、甲第1、3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

3-4-12.本件発明16について
本件発明16は、本件発明1〜15のいずれかにおいて、リチウム・マンガン複合酸化物がスピネル構造よりなることを規定するものであるから、「3-4-1.本件発明1について」、「3-5-9.本件発明12について」及び「3-4-10.本件発明13について」で述べた理由により、甲第1、2号証に記載されたいずれの発明とも同一ではなく、また、「3-4-5.本件発明6について」で述べた理由により、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
さらに、甲第1〜3号証には、正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池が記載されているが、甲第4号証に記載される二酸化イオウを電解液にバブリングする技術は、正極にリチウム・ニッケル複合酸化物を用いた非水電解液二次電池に関するものであり、正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池に適用することは、当業者にとって容易ではない(「3-4-5.本件発明6について」参照)のであるから、本件発明16は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

3-4-13.本件発明17について
本件発明17は、本件発明16において、リチウム・マンガン複合酸化物の[Li]/[Mn]比が0.5〜0.65であることを規定するものであるから、「3-4-12.本件発明16について」で述べた理由により、甲第1、2号証に記載されたいずれの発明とも同一ではなく、また、甲第4号証、または甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

3-4-14.本件発明18について
本件発明18は、本件発明1〜17のいずれかにおいて、電解液中に含有される支持塩がLiClO4、LiI、LiPF6、LiAlCl4、LiBF4、CF3SO3Liから選ばれる少なくとも1種類よりなることを規定するものであるから、「3-4-1.本件発明1について」、「3-4-9.本件発明12について」及び「3-4-10.本件発明13について」で述べた理由により、甲第1、2号証に記載されたいずれの発明とも同一ではなく、また、「3-4-5.本件発明6について」及び「3-4-12.本件発明16について」で述べた理由により、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

3-5.明細書の記載不備について
異議申立人は、本件発明9における「リチウム・マンガン複合酸化物10gに対し、イオウ含有ガス1ml以上を接触させた」ことについては、発明の詳細な説明に記載されていない旨主張するが、本件明細書の段落【0077】第1〜3行(特許公報第16欄第7〜10行)には、「[実施例7]実施例1で合成したマンガン酸リチウムを密閉容器に入れ、容器内にマンガン酸リチウム10gに対し、1.2mlの量の二酸化イオウを封入し、そのまま24時間放置した。」との記載があり、「リチウム・マンガン複合酸化物10gに対し、イオウ含有ガス1ml以上を接触させた」ことは、発明の詳細な説明に記載されているから、上記特許異議申立人の主張は採用しない。

3-6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜4,6〜8,10,12,13,15〜18に係る特許は、特許法第29条第1項第3号または第29条第2項のいずれの規定にも違反してなされたものではなく、また、本件発明9に係る特許は、特許法第36条の規定を満たしていない特許出願に対してされたものでもないから、本件発明1〜4,6〜10,12,13,15〜18に係る特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜4,6〜10,12,13,15〜18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非水電解液二次電池
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、電池内に粒径が50μm以下のイオウ単体を含むことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
正極電極内に粒径が50μm以下のイオウ単体を含有させるか、あるいは電解液に粒径が50μm以下のイオウ単体を溶解させておくことを特徴とする請求項1記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
[リチウム・マンガン複合酸化物]:[イオウ粉末]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.011≦aとなる混合比率で正極電極中に粒径が50μm以下のイオウ単体を混合させたことを特徴とする請求項1または2記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
電解液10mlに対し、イオウ粉末0.02g以上となるように粒径が50μm以下のイオウ単体を溶解した電解液を使用することを特徴とする請求項1または2記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記イオウ単体が、吸着水または構造水を持たないもの、あるいは加熱脱水処理を行ったものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、電池内にイオウ含有ガスを含むことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項7】
正極電極内に正極活物質としてイオウ含有ガスを接触させたリチウム・マンガン複合酸化物を含有させるか、あるいは電解液にイオウ含有ガスを溶解させておくことを特徴とする請求項6記載の非水電解液二次電池。
【請求項8】
電解液100mlに対し、イオウ含有ガス1ml以上をバブリングした電解液を使用することを特徴とする請求項7記載の非水電解液二次電池。
【請求項9】
リチウム・マンガン複合酸化物10gに対し、イオウ含有ガスが1ml以上を接触させたことを特徴とする請求項7記載の非水電解液二次電池。
【請求項10】
前記イオウ含有ガスは、二酸化イオウまたは硫化水素である請求項6から9のいずれかに記載の非水電解液二次電池。
【請求項11】
正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、電解液10mlに対し、イオウ粉末0.02g以上を溶解した電解液を使用することを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項12】
正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、正極電極がリチウム・マンガン複合酸化物に硫酸マンガンを添加させたものよりなることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項13】
正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、[リチウム・マンガン複合酸化物]:[硫酸マンガン]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.053≦aとなる混合比率で正極電極中に硫酸マンガンを混合することを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項14】
正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、電解液中の2価Mn濃度をbで表したときに,18ppm≦bの範囲にあるように硫酸マンガンを溶解させた電解液を使用することを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項15】
硫酸マンガンの粒径が50μm以下のものを使用することを特徴とする請求項12から14のいずれかに記載の非水電解液二次電池。
【請求項16】
リチウム・マンガン複合酸化物がスピネル構造よりなることを特徴とする請求項1から15のいずれかに記載の非水電解液二次電池。
【請求項17】
リチウム・マンガン複合酸化物の[Li]/[Mn]比が0.5〜0.65であることを特徴とする請求項16記載の非水電解液二次電池。
【請求項18】
電解液中に含有される支持塩がLiClO4、LiI、LiPF6、LiAlCl4、LiBF4、CF3SO3Liから選ばれる少なくとも1種類よりなることを特徴とする請求項1から17のいずれかに記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水電解液二次電池に関し、さらに詳細には充放電特性、特に高温におけるサイクル寿命および容量保存特性・自己放電性を改善し安全性に優れたリチウム二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
リチウムイオン二次電池としては、正極にLiCoO2を用い、負極としてグラファイトないしは非晶質炭素を用いるものが知られている。この材料系を用いると、例えば特開昭55-136131号公報に開示されているように、LiCoO2、LiNiO2を正極とし金属Liを負極とした場合、電池電圧は約3.9〜4.5Vであり、理論的エネルギー密度は1100Wh/kgという高エネルギー密度の発現が期待されている。しかしながら実験的には充放電に利用しうるエネルギーは、理論エネルギー密度に比較しはるかに小さい値しか得られていない。従って、実用レベルでの利用可能なエネルギーにおいてはさらに小さな値に留まっていることは言うまでもない。
【0003】
この理由は、例えば正極活物質がLiCoO2の場合、充電によってLiCoO2からLiイオンが放出されると、もともと3価であったCoがLiの放出による電荷の変化を補償する形で、一部4価の状態となり、その4価のCoの不安定さのためにLiCoO2のホスト構造が変化し、その結果、特性劣化が生じてしまうためと考えられている。Journal of Electrochemical Society Vol.139, No.8, pp2091 -2097 (J.N.Reimers, J.R.Dahn)では、Liイオンの放出量と電位変化の関係および格子定数の関係から、ホスト構造結晶系の相図を作成し、六方晶系/単斜晶系の相転移を報告している。また同様の報告は電気化学協会大会や電池討論会等においても既に幾つか見られる。
【0004】
上記問題の解決を目指して、例えば特公平4-24831号公報にはLiCoO2のCoの一部を他の金属で置換することが開示されている。また、Material Research Bulletin Vol.27, pp327-337あるいはSolid State Ionics Vol.53-56, pp681-687では、低温で焼成することにより、2次元的な層状構造ではなく3次元的なホスト構造であるスピネル構造を持ったLiCoO2の評価も行っている。
【0005】
しかしながら、いずれの方法によっても自己放電の低減やサイクル特性の向上には限界があった。
【0006】
また、LiCoO2の原料であるCoは資源的にも問題視されており、当然コスト面で非常に不利である。その理由としては、大陸地殻中におけるCoの存在比がもともと小さいこと、Coを目的とした鉱石採取があまりなく、他の鉱石資源の副産物として採取されるケースが多いこと、Coの産出国は政情不安であることなどが挙げられる。(新金属データブック 金属時評、工業レアメタル No.105, pp76-81等)従って、将来、様々な分野にリチウムイオン二次電池が応用されることを予想した場合、Coの資源的な問題は重要である。
【0007】
一方、LiCoO2代替材料として期待が集まるLiNiO2も、不可逆容量が大きいこと、高品位すなわち正極材料として相応しい特性を示す材料の合成が困難であること、湿度に対する配慮等のハンドリングの煩わしさがあること、環境負荷が心配されること、LiCoO2に対するコスト的なメリットが最終製品の段階ではそれほど大きくないこと等、未だに実用化に向けての課題は山積している。このような状況から注目を集める正極材料の一つとしてマンガン酸リチウムが挙げられる。この材料系は1950年代には既に磁気的な挙動の研究対象として報告(Journal of American Chemical Society Vol.78, pp3255-3260)されていたものであるが、1983年にMaterial Research Bulletin Vol.18, pp461-472においてM.M.Thackerayらが電気化学的にLiイオンを出し入れ可能なことを報告して以来、リチウム二次電池の正極材料としての検討がなされてきた(例えば、Journal of Electrochemical Society Vol.136, No.11,pp3169-3174あるいはJournal of Electrochemical Society Vol.138, No.10, pp2859-2864)。このマンガン酸リチウムは化学式LiMn2O4で表されるスピネル構造をとり、λ-MnO2との組成間で4V級の正極材料として機能する。スピネル構造のマンガン酸リチウムはLiCoO2等が有するような層状構造とは異なる3次元のホスト構造を持つため、理論容量のほとんどが使用可能であり、サイクル特性に優れることが期待される。
【0008】
ところが、実際にはマンガン酸リチウムを正極に用いたリチウム二次電池は、充放電を繰り返すことによって徐々に容量が低下していく容量劣化が避けられず、その実用化には大きな問題が残されていた。
【0009】
そこでマンガン酸リチウムを正極に用いた有機電解液二次電池のサイクル特性を向上させるべく種々の方法が検討されている。例えば、合成時の反応性を改善することによる特性改善(特開平3-67464号公報、特開平3-119656号公報、特開平3-127453号公報、特開平7-245106号公報、特開平7-73883号公報等に開示)、粒径を制御することによる特性改善(特開平4-198028号公報、特開平5-28307号公報、特開平6-295724号公報、特開平7-97216号公報等に開示)、不純物を除去することによる特性改善(特開平5-21063号公報等に開示)などが挙げられるが、いずれも満足のいくサイクル特性の向上は達成されていない。
【0010】
以上とは別に特開平2-270268号公報では、Liの組成比を化学量論比に対し十分過剰にすることによってサイクル特性の向上を目指した試みもなされている。同様の過剰Li組成複合酸化物の合成については、特開平4-123769号公報、特開平4-147573号公報、特開平5-205744号公報、特開平7-282798号公報等にも開示されている。この手法によるサイクル特性の向上は実験的にも明らかに確認できる。
【0011】
また、Li過剰組成と類似の効果をねらったものとして、Mnスピネル材料LiMn2O4と、この材料よりもLiリッチなLi-Mn複合酸化物Li2Mn2O4、LiMnO2、Li2MnO3等を混合させて正極活物質として用いる技術も、特開平6-338320号公報、特開平7-262984号公報等に開示されている。ところがLiを過剰に添加したり、または別のLiリッチな化合物と混合させたりすると、サイクル特性が向上する一方で充放電容量値・充放電エネルギー値の減少するため、高エネルギー密度と長サイクル寿命を両立させることができない問題があった。これに対し、特開平6-275276号公報では、高エネルギー密度、ハイレートな充放電特性(充放電の際の電流が容量に対して大きいこと)の向上、反応の完全性を狙い、比表面積を大きくする試みがなされているが、逆に高サイクル寿命の達成は困難である。
【0012】
一方、Li-Mn-Oの三成分の化合物に別の元素を添加することによって特性向上を図る検討も行われてきた。例えば、Co、Ni、Fe、CrあるいはAl等の添加・ドープである(特開平4-141954号公報、特開平4-160758号公報、特開平4-169076号公報、特開平4-237970号公報、特開平4-282560号公報、特開平4-289662号公報、特開平5-28991号公報、特開平7-14572号公報等に開示)。これらの金属元素添加は充放電容量の低減を伴い、トータルの性能として満足するためには更に工夫が必要である。
【0013】
他元素添加の検討の中で、ホウ素添加は充放電容量の減少をほとんど伴わずに、他の特性、例えばサイクル特性、自己放電特性の改善が期待されている。例えば特開平2-253560号公報、特開平3-297058号公報、特開平9-115515号公報でその旨が開示されている。いずれも二酸化マンガンまたはリチウム・マンガン複合酸化物をホウ素化合物(例えばホウ酸)と固相混合またはホウ素化合物の水溶液に浸漬し、加熱処理をすることによりリチウム・マンガン・ホウ素の複合酸化物を合成している。これらのホウ素化合物とマンガン酸化物との複合体粒子粉末は表面活性が低減しているため電解液との反応が抑制され容量の保存特性が改善されることが期待された。
【0014】
しかしながら、単にホウ素添加ということだけでは、粒成長やタップ密度の低減等が生じ、電池としての高容量化には直結しなかった。また、合成条件によってはカーボン負極との組み合わせ時の実効的な電位範囲における容量低下が見られたり、電解液との反応抑制が不十分なことがあり、保存特性の改善に必ずしも効果があったわけではなかった。
【0015】
上記のようにマンガン酸リチウムのサイクル特性改善には種々のアプローチが試みられてきたが、現在、主流となっているCo系に匹敵するサイクル特性、特に高温使用環境下では劣化機構が促進されるため、高温使用でのサイクル特性の実現にはさらなる工夫が求められている。とりわけノートパソコンや電気自動車等、今後の応用分野の広がりを考えると、高温でのサイクル特性確保は重要件を増していると言える。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
以上、述べてきたようにマンガン酸リチウムLiMn2O4は現在主流の正極活物質LiCoO2の代替材料として大きな期待を集める複合酸化物であるが、従来の合成方法によって合成されたLiMn2O4を用いた場合には、以下のような問題点があった。
【0017】
第1の問題は充放電サイクルに伴う容量劣化である。この原因はLiの出入りに伴う電荷補償としてMnイオンの平均価数が3価と4価の間で変化し、そのためJahn-Teller歪みが結晶中に生じてしまうこと、およびマンガン酸リチウムからのMnの溶出ないしはMn溶出が起因するインピーダンス上昇にある。この問題点の解決のため、これまで、合成方法の改善、他遷移金属元素添加、Li過剰組成等が検討されてきたが、高放電容量の確保と高サイクル寿命の両面を同時に満足させるには至っていない。
【0018】
第2の問題は自己放電による保存容量の減少である。この原因は主に電解液に対するマンガン酸リチウムの安定性が不十分なためであると思われる。そこでB化合物との複合粒子化によりマンガン酸リチウム粒子表面の活性点を低減する試みがなされたが、実用に供するほど十分な効果は得られていない。
【0019】
特に高温環境下における使用では第1の問題および第2の問題劣化はともに促進されることが、用途拡大の大きな障害となっている。
【0020】
このようにLiCoO2の代替材料として期待を集めるマンガン酸リチウムであるが、実際に電池として評価を行った場合、改良すべき問題点が存在している。それにもかかわらず起電力の高さ、放電時の電圧平坦性、サイクル特性、エネルギー密度等、現在の高性能二次電池に求められる性能を満足できるポテンシャルを期待できる材料系が限られるため、充放電容量劣化のない、サイクル特性、保存特性の優れた新たなスピネル構造のマンガン酸リチウムが求められている。
【0021】
そこで本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、電池特性、特に充放電サイクル特性、保存特性、さらには安全性に優れたリチウム・マンガン複合酸化物を正極活物質として用いた非水電解液二電池を提供することを目的とする。
【0022】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は上記の目的を達成するために種々の検討を重ねた結果、本発明を完成した。
【0023】
本発明は、正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、電池内に粒径が50μm以下のイオウ単体を含むことを特徴とする非水電解液二次電池に関する。
【0024】
また本発明は、正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、電池内にイオウ含有ガスを含むことを特徴とする非水電解液二次電池に関する。さらに本発明は、正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、正極電極がリチウム・マンガン複合酸化物に硫酸マンガンを添加させたものよりなるか、または電解液中に硫酸マンガンを溶解させておくことを特徴とする非水電解液二次電池に関する。
【0025】
【発明の実施の形態】
前述したように、マンガン酸リチウムLiMn2O4は現在主流の正極活物質LiCoO2の代替材料として大きな期待を集める複合酸化物であるものの、従来のLiMn2O4を用いた電池は(1)高エネルギー密度(高充放電容量)の実現と高サイクル寿命の両立が困難であること、(2)自己放電による保存容量の減少の2点で問題があった。
【0026】
この原因としては、電池製造の技術的な問題ならびに電解液との相性等も指摘されているが、正極材料自体や正極材料起因の影響によるものに着目すると以下のようなことが考えられる。
【0027】
まず高エネルギー密度が実現できない原因としては、反応の不均一、相の分離、LiとMnの組成比の過剰な不均衡、不純物の影響、タップ密度の不足等が挙げられる。
【0028】
反応の不均一ならびに相の分離は合成プロセスに依存するが、乾式混合後に焼成するプロセスの場合は、主に混合の均一性、出発原料の粒径と焼成温度によって決定される。すなわち、固相表面で反応が進行するため、Li源とMn源の混合が不十分であったり、粒径が粗すぎたり、焼成温度が高すぎたりすると、Mn2O3、Mn3O4、Li2MnO3、LiMnO2、Li2Mn2O4、Li2Mn4O9、Li4Mn5O12のような相が生成され、電池電圧の低下、エネルギー密度の低下を引き起こす。
【0029】
充放電サイクルに伴う容量劣化の原因はLiの出入りに伴う電荷補償としてMnイオンの平均価数が3価と4価の間で変化し、そのためJahn-Teller歪みが結晶中に生じてしまうこと、およびマンガン酸リチウムからのMnの溶出ないしはMn溶出が起因するインピーダンス上昇にある。すなわち充放電サイクルを繰り返すことにより充放電容量が低下する容量劣化の原因としては、不純物の影響、マンガン酸リチウムからのMnの溶出および溶出したMnの負極活物質上あるいはセパレータ上への析出、活物質粒子の遊離による不活性化、さらには含有水分により生成した酸の影響、マンガン酸リチウムからの酸素放出による電解液の劣化等が考えられる。
【0030】
単一スピネル相が形成されているとした場合、Mnの溶出はスピネル構造中の3価のMnが4価のMnと2価のMnに一部不均化することにより電解液中にMnが溶解しやすい形になってしまうこと、Liイオンの相対的な不足から溶出してしまうことなどが考えられ、充放電の繰り返しにより不可逆な容量分の発生や結晶中の原子配列の乱れが促進されるとともに、溶出したMnイオンが負極あるいはセパレータ上に析出して、Liイオンの移動を妨げると思われる。またマンガン酸リチウムはLiイオンを出し入れすることにより、立方体対称はJahn-Teller効果により歪み、単位格子長の数%の膨張・収縮を伴う。従ってサイクルを繰り返すことにより、一部電気的なコンタクト不良が生じたり、遊離した粒子が電極活物質として機能しなくなることも予想される。
【0031】
さらにMn溶出に付随してマンガン酸リチウムからの酸素の放出も容易になってくると考えられる。酸素欠陥の多いマンガン酸リチウムはサイクル経過により3.3Vプラトー容量が大きくなり、結果的にサイクル特性も劣化する。また、酸素の放出が多いと電解液の分解に影響を与えると推測され、電解液の劣化によるサイクル劣化も引き起こすと思われる。
【0032】
従って、Mn溶出を低減させること、格子の歪みを軽減すること、酸素欠損を少なくすること等が対策として導き出される。
【0033】
次に、自己放電による保存容量の減少の原因としては、電池の製造プロセス起因の正負極のアライメント不足、電極金属屑混入等の内部ショートの現象を除外すると、保存特性の改善も、電解液に対するマンガン酸リチウムの安定性の向上、すなわちMnの溶出、電解液との反応、酸素の放出等の抑制に効果があると考えられる。
【0034】
そこで本発明では、電池内にMn塩から溶解した2価のMnイオンを含ませることにより、電解液中のMn濃度を上昇させて、活物質からMnが溶出するのを抑制する。
【0035】
用いられるMn塩としては、例えば、硫酸マンガン、炭酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等の2価のマンガン塩を挙げることができるが、中でも硫酸マンガンが好ましい。硫酸マンガンを用いると、2価Mnイオンの添加効果と、後述するイオウ化合物の添加効果とを併せ持つことになるからである。
【0036】
この際、Mn塩は正極電極中に混合させても、電解液中に溶解させてもどちらでもよい。いずれの場合もMn塩を電池内に含有させることにより効果が得られ、使用量は用いるMn塩により適宜選らぶことができるが、特に効果が明確に表れるためには、電解液中の2価Mn濃度が18ppm以上になるように含ませることが好ましく、硫酸マンガンを用いる場合は[リチウム・マンガン複合酸化物]:[硫酸マンガン]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.053≦aとなる混合比率で正極電極中に混合させたり、電解液中の2価Mn濃度が18ppm以上になるように溶解させて用いることができる。
【0037】
正極電極中に硫酸マンガン等の2価Mn塩を含有させた場合は、2価Mnイオンが3価または4価のMnイオンよりも先に電解液中に溶解する。従って、活物質として用いるLiMn2O4やLiMnO2、Li2Mn2O4を主とするリチウム・マンガン複合酸化物中のMnよりも先に電解液中に溶解する。その結果、電解液中のMn濃度が上昇し活物質からのMn溶出を抑制する。また、特に硫酸マンガンを用いた場合は、Mn溶解の際に生じたSO42-分によるSのMnへの触媒毒作用効果により正極活物質-電解液界面の活性点を減少させ、同時に溶出したMnイオンの活性を低下させる。これにより、正極活物質-電解液界面での電解液の分解反応およびカーボン材料やLi金属、Li合金などの負極表面上へのMnイオンが関係する種々の還元反応等の副反応を抑制することができる。
【0038】
このためサイクル特性、かつ保存特性に優れた電池が得られる。さらに、硫酸マンガンは正極活物質であるリチウム・マンガン複合酸化物と反応させる必要がないため、活物質自体は純度が高く結晶性の高いものを使用できる。従って、微量に加えた硫酸マンガン粉末の重量分だけの容量ロスに留めることが可能で、容量低下を極力低く抑えることができる。
【0039】
一方、電解液中にあらかじめ硫酸マンガンを溶解させた場合も、上記と同様の効果が得られる。また電池容量の低下もほとんど招かない。
【0040】
このように正極電極中に硫酸マンガンを含ませたり、または電解液中に硫酸マンガンを溶解させたりすることにより、サイクル特性および容量保存特性を改善することができるが、加えて安全性確保の面でもメリットがある。過充電、短絡、高温環境放置時などの電池使用上において異常な事態になった場合、電池内部に二酸化イオウと考えられるガスが発生し、ディスコネクトデバイス等の安全機構を迅速に機能させることができる。
【0041】
正極電極中に混合する硫酸マンガンあるいは電解液中に溶解させる硫酸マンガンは、電解液との反応を考慮すると、50μm以下の粒径が望ましく、吸着水または構造水を持たないもの、または加熱脱水処理を行ったものが好ましい。
【0042】
さらに、本発明で電池内にイオウ、または硫酸マンガン以外のイオウ化合物を含ませた場合にも、硫酸マンガンを用いた場合と同様なMnへの触媒毒効果が認められる。
【0043】
用いられるイオウまたはイオウ化合物としては、イオウ単体;二酸化イオウ、硫化水素等のイオウ含有ガス;硫酸マンガン、硫酸リチウム等の硫酸塩を挙げることができる。この中でも、イオウ単体、二酸化イオウ、硫化水素、および硫酸マンガンが好ましい。
【0044】
イオウ単体は、イオウ粉末として正極電極中に含有させたり、電解液中に溶解して用いることができ、イオウ含有ガスは電解液中に溶解させて用いたり、リチウム・マンガン複合酸化物に接触させるだけでもよい。
【0045】
イオウ単体を正極電極中に含有させる場合、または電解液中に溶解させる場合には、電解液との反応を考慮すると、イオウの粒径は50μm以下が望ましく、吸着水または構造水を持たないもの、あるいは加熱脱水処理を行ったものが好ましい。また、二酸化イオウ、硫化水素等のイオウ含有ガスについても不純物の含有量が小さい方が好ましい。
【0046】
イオウまたはイオウ化合物の使用量は、用いるイオウまたは化合物の種類により適宜選ぶことができるが、明確な効果が表れるためには、[リチウム・マンガン複合酸化物]:[イオウ粉末]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.011≦aとなる混合比率で正極電極中にイオウを混合させたり、電解液10mlに対し、イオウ粉末0.02g以上を溶解した電解液を使用したり、電解液100mlに対し、イオウ含有ガス1ml以上をバブリングした電解液を使用したりすることが好ましい。
【0047】
本発明に用いられるリチウム・マンガン複合酸化物はリチウム、マンガンおよび酸素からなる酸化物であり、LiMn2O4等のスピネル構造のマンガン酸リチウム、Li2Mn2O4、およびLiMnO2等を挙げることができる。この中でも、LiMn2O4等のスピネル構造のマンガン酸リチウムが好ましく、スピネル構造をとる限り[Li]/[Mn]比が0.5からずれていてもよく、[Li]/[Mn]比としては、0.5〜0.65、好ましくは0.51〜0.6、最も好ましくは0.53〜0.58である。
【0048】
また、同様に、マンガン酸リチウムがスピネル構造をとる限り[Li+Mn]/[O]比は、0.75からずれていてもよい。
【0049】
また、リチウム・マンガン複合酸化物の粒径は、正極を作製するのに適したスラリーは作製の容易さ、電池反応の均一性を考慮すると、重量平均粒径で、通常5〜30μmである。
【0050】
このようなリチウム・マンガン複合酸化物は、次のようにして製造することができる。
【0051】
マンガン(Mn)原料およびリチウム(Li)原料として、まずLi原料としては、例えば炭酸リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム等のリチウム化合物を用いることができ、Mn原料として例えば電解二酸化マンガン(EMD)、Mn2O3、Mn3O4、化学二酸化マンガン(CMD)等の種々のMn酸化物、炭酸マンガンや蓚酸マンガン等のマンガン塩などのマンガン化合物を用いることができる。しかし、LiとMnの組成比の確保の容易さ、かさ密度の違いによる単位体積あたりのエネルギー密度、目的粒径確保の容易さ、工業的に大量合成する際のプロセス・取り扱いの簡便さ、有害物質の発生の有無、コスト等を考慮すると電解二酸化マンガンと炭酸リチウムの組み合わせが好ましい。
【0052】
その際、出発原料を混合する前段階として、リチウム原料およびマンガン原料を必要に応じて粉砕し、適当な粒径にそろえることが好ましい。
【0053】
本発明の非水電解液二次電池は、このように硫酸マンガンやイオウ化合物等を含むリチウム・マンガン複合酸化物を正極(電解液の方に2価Mnイオンやイオン化合物を溶解させる場合は、含ませなくてもよい)として用いる。
【0054】
一方、対する負極活物質としては、リチウム、リチウム合金またはリチウムを吸蔵・放出しうるグラファイトまたは非晶質炭素等の炭素材料を用いる。
【0055】
セパレータは特に限定されないが、織布、硝子繊維、多孔性合成樹脂皮膜等を用いることができる。例えばポリプロピレン、ポリエチレン系の多孔膜が薄膜でかつ大面積化、膜強度や膜抵抗の面で適当である。
【0056】
非水電解液の溶媒としては、通常よく用いられるもので良く、例えばカーボネート類、塩素化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類等を用いることができる。好ましくは、高誘電率溶媒としてエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ-ブチロラクトン(GBL)等から少なくとも1種類、低粘度溶媒としてジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エステル類等から少なくとも1種類選択し、その混合液を用いる。EC+DEC、PC+DMCまたはPC+EMCが好ましい。
【0057】
支持塩としてはLiClO4、LiI、LiPF6、LiAlCl4、LiBF4、CF3SO3Li等から少なくとも1種類を用いる。本発明では、酸性を生成しやすい支持塩を用いても、電解液中の酸を抑制できるので、特にLiPF6またはLiBF4を用いたときに最も効果を発揮し得るので好ましい。支持塩の濃度は、例えば0.8〜1.5Mである。
【0058】
電池の構成としては、角形、ペーパー型、積層型、円筒型、コイン型など種々の形状を採用することができる。また、構成部品には集電体、絶縁板等があるが、これらは特に限定されるものではなく、上記の形状に応じて選定すればよい。
【0059】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]マンガン酸リチウムの合成には、出発原料として炭酸リチウム(Li2CO3)および電解二酸化マンガン(EMD)を用いた。この出発原料の混合の前段階として、反応性の向上と目的粒径を有するマンガン酸リチウムを確保するために、Li2CO3の粉砕およびEMDの分級を行った。
【0061】
通常の固相反応合成法では、マンガン酸リチウムの粒径は、焼成前のEMDの粒径によりほぼ決定される。すなわち、目的粒径のマンガン酸リチウムの合成は、焼成前のEMDの目的粒径での分級によって確保される。マンガン酸リチウムは電池の正極活物質として用いる場合、反応の均一性確保、スラリー作製の容易さ、安全性等の兼ね合いにより、5〜30μmの平均粒径が好ましい。そこでEMDの粒径はマンガン酸リチウムの目的粒径と同じ5〜30μmとした。
【0062】
Li2CO3はD50粒径が1.4μmとなるように粉砕を行い、[Li]/[Mn]=1.05/2となるように混合した。これは均一反応の確保のためには5μm以下の粒径が望ましいと考えられるからである。
【0063】
次にこの混合粉を酸素フローの雰囲気下、800℃で焼成した。得られたマンガン酸リチウムの粒子中の粒径1μm以下の微小粒子を空気分級器により除去した。この時、得られたマンガン酸リチウムの比表面積は約0.9m2/gであった。タップ密度は2.17g/cc、真密度は4.09g/cc、D50粒径は17.2μm、格子定数は8.236Åという粉体特性であった。
【0064】
[実施例2]実施例1で合成したマンガン酸リチウムを正極活物質とし、導電性付与剤、バインダーとしてのPTFEに加え硫酸マンガンの粉末を混合・混練し正極を作製し、金属Li対極の2320コインセルを試作した。ただし、硫酸マンガン粉末は事前処理として、100℃にて12時間、真空乾燥を行ったものを用いて、正極の混合比をマンガン酸リチウム:導電性付与剤:PTFE:硫酸マンガン=76:10:10:4として混練した後、約0.5mの厚さに圧延したものをφ15mmに打ち抜いて用いた。負極は厚さ1mm、φ17mmの金属Liを用い、電解液は1M LiClO4プロピレンカーボネート(PC)+ジメチルカーボネート(DMC)=50+50(体積比)の混合溶媒を、セパレーターには厚さ25μmのポリプロピレン多孔膜を用いた。
【0065】
[比較例1]実施例1で合成したマンガン酸リチウムを正極活物質とし、正極合剤中に硫酸マンガンを含まないこと以外は実施例2と同様にして、金属Li対極の2320コインセルを試作した。正極は、マンガン酸リチウム、導電性付与剤およびPTFEを80:10:10の重量比で混練し、約0.5mの厚さに圧延したものをφ15mmに打ち抜いて用いた。負極、電解液、セパレーターは実施例2と同様のものを用いた。
【0066】
[評価試験例1]実施例2および比較例1で試作したコインセルを用いて充放電サイクル試験を行った。サイクルは充電、放電ともに0.5mA/cm2の定電流とし、充放電電圧範囲は3.0〜4.5V vs Liで行った。また評価温度は10℃から60℃まで10℃きざみとした。
【0067】
実施例2および比較例1のコインセルのサイクル評価温度による#50/#1(1サイクルめの放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合)容量残存率(%)を表1に示す。実施例2のコインセルの方がサイクル温度を上昇させても容量残存率が高い。
【0068】
【表1】

[実施例3]実施例1で合成したマンガン酸リチウムを正極活物質とし、導電性付与剤、バインダーとしてのPTFEに加えイオウの粉末を混合・混練し正極を作製し、金属Li対極の2320コインセルを試作した。ただし、イオウ粉末は事前処理として、100℃にて12時間、真空乾燥を行ったものを用いた。
【0069】
正極の混合比はマンガン酸リチウム:導電性付与剤:PTFE:イオウ=79:10:10:1として混練した後、約0.5mの厚さに圧延したものをφ15mmに打ち抜いて用いた。負極は厚さ1mm、φ17mmの金属Liを用い、電解液は1M LiClO4プロピレンカーボネート(PC)+ジメチルカーボネート(DMC)=50+50(体積比)を、セパレーターは厚さ25μmのポリプロピレン多孔膜を用いた。
【0070】
[比較評価例2]実施例3および比較例1で作製したコインセルを用いて充放電サイクル試験を行った。サイクルは充電、放電ともに0.5mA/cm2の定電流とし、充放電電圧範囲は3.0〜4.5V vs Liで行った。また評価温度は10℃から60℃まで10℃きざみとした。
【0071】
実施例3および比較例1のコインセルのサイクル評価温度による#50/#1(1サイクルめの放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合)容量残存率(%)を表2に示す。実施例3のコインセルの方がサイクル温度を上昇させても容量残存率が高い。
【0072】
【表2】

[実施例4]実施例1で合成したマンガン酸リチウムを正極活物質とし、比較例1と同様にして金属Li対極の2320コインセルを試作した。正極は、マンガン酸リチウム、導電性付与剤およびPTFEを80:10:10の重量比で混練し、約0.5mmの厚さに圧延したものをφ15mmに打ち抜いて用いた。
【0073】
電解液は1MのLiPF6を支持塩とし、プロピレンカーボネート(PC)+ジエチルカーボネート(DEC)=50+50(体積比)を溶媒としたものに加熱脱水処理した硫酸マンガンを溶解させたものを用いた。このときのMn濃度は190ppmであった。負極、セパレーターは実施例2と同様のものを用いた。
【0074】
[実施例5]実施例1で合成したマンガン酸リチウムを正極活物質とし、比較例1と同様にして金属Li対極の2320コインセルを試作した。正極は、マンガン酸リチウム、導電性付与剤およびPTFEを80:10:10の重量比で混練し、約0.5mmの厚さに圧延したものをφ15mmに打ち抜いて用いた。電解液は1MのLiPF6を支持塩とし、プロピレンカーボネート(PC)+ジエチルカーボネート(DEC)=50+50(体積比)を溶媒としたものに加熱脱水処理したイオウ粉末を溶解させたものも用いた。このときのイオウの濃度は560ppmであった。負極、セパレーターは実施例2と同様のものを用いた。
【0075】
[実施例6]実施例1で合成したマンガン酸リチウムを正極活物質とし、比較例1と同様にして金属Li対極の2320コインセルを試作した。正極は、マンガン酸リチウム、導電性付与剤およびPTFEを80:10:10の重量比で混練し、約0.5mmの厚さに圧延したものをφ15mmに打ち抜いて用いた。
【0076】
電解液は1MのLiPF6を支持塩とし、プロピレンカーボネート(PC)+ジエチルカーボネート(DEC)=50+50(体積比)を溶媒としたものに二酸化イオウガスをバブリングさせたものとした。このときバブリングしたこのときの二酸化イオウ量は電解液10mlに対し1.0mlであった。負極、セパレーターは実施例2と同様のものを用いた。このときの電解液中のイオウ濃度は620ppmであった。
【0077】
[実施例7]実施例1で合成したマンガン酸リチウムを密閉容器に入れ、容器内にマンガン酸リチウム10gに対し、1.2mlの量の二酸化イオウを封入し、そのまま24時間放置した。尚、この操作は乾燥空気中で行った。
【0078】
[実施例8]実施例1で合成したマンガン酸リチウムを実施例7で示した処理を施したものを正極活物質とし、比較例1と同様にして金属Li対極の2320コインセルを試作した。正極は、マンガン酸リチウム、導電性付与剤およびPTFEを80:10:10の重量比で混練し、約0.5mmの厚さに圧延したものをφ15mmに打ち抜いて用いた。
【0079】
電解液は1MのLiPF6を支持塩とし、プロピレンカーボネート(PC)+ジエチルカーボネート(DEC)=50+50(体積比)を溶媒としたものとした。負極、セパレーターは実施例2と同様のものを用いた。
【0080】
[比較評価例3]実施例4、5、6、8および比較例1で試作したコインセルを用いて充放電サイクル試験を行った。サイクルは充電、放電ともに0.5mA/cm2の定電流とし、充放電電圧範囲は3.0〜4.5V vs Liで行った。また評価温度は60℃とした。
【0081】
実施例4、5、6、8および比較例1のコインセルのサイクル特性を図1に示す。(ただし1サイクル目の放電容量を100%とし、各サイクルの容量残存率を示す。)50サイクルまでの容量残存率を比べると実施例6、実施例8、実施例5、実施例4の順序で残存率が高い。これは実施例4においてはイオウ成分のMnへの触媒毒効果の他にマンガン酸リチウムからのMn溶解量の抑制に対する効果が加わったためと考えられる。
【0082】
なお、実施例6、7において作製したコインセルは硫化水素など他のS含有ガスについても同様の効果が認められた。
【0083】
[実施例9]実施例1で合成したマンガン酸リチウムを正極活物質として18650円筒セルを試作した。
【0084】
まずマンガン酸リチウム、導電性付与剤、硫酸マンガンを乾式混合し、バインダーであるPVDFを溶解させたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に均一に分散させスラリーを作製する。そのスラリーを厚さ25μmのアルミ金属箔上に塗布後、NMPを蒸発させることにより正極シートとした。正極中の固形分比率はマンガン酸リチウム:導電性付与剤:硫酸マンガン:PVDF=75:10:5:10(重量%)とした。一方、負極シートはカーボン:PVDF=90:10の比率となるように混合しNMPに分散させ、厚さ20μmの銅箔上に塗布して作製した。電解液は1MのLiPF6を支持塩とし、エチレンカーボネート(EC)+ジエチルカーボネート(DEC)=50+50(体積比)を溶媒としたものを用いた。セパレーターは厚さ25μmのポリプロピレン多孔膜を使用した。
【0085】
[実施例10]実施例1で合成したマンガン酸リチウムを正極活物質として18650円筒セルを試作した。
【0086】
まずマンガン酸リチウム、導電性付与剤を乾式混合し、バインダーであるPVDFを溶解させたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に均一に分散させスラリーを作製する。そのスラリーを厚さ25μmのアルミ金属箔上に塗布後、NMPを蒸発させることにより正極シートとした。正極中の固形分比率はマンガン酸リチウム:導電性付与剤:PVDF=80:10:10(重量%)とした。一方、負極シートはカーボン:PVDF=90:10の比率となるように混合しNMPに分散させ、厚さ20μmの銅箔上に塗布して作製した。
【0087】
電解液は1MのLiPF6を支持塩とし、エチレンカーボネート(EC)+ジエチルカーボネート(DEC)=50+50(体積比)を溶媒としたものに加熱脱水処理し硫酸マンガンを溶解させたものを用いた。
【0088】
ただし電解液中のMn濃度b(表3)は5ppmから3052ppmとなるように硫酸マンガンを溶解させた。セパレーターは厚さ25μmのポリプロピレン多孔膜を使用した。
【0089】
[比較例2]電解液中に硫酸マンガンを溶解せず、1MのLiPF6を支持塩とし、エチレンカーボネート(EC)+ジエチルカーボネート(DEC)=50+50(体積比)を溶媒としたものを電解液とした以外は実施例10と同様に18650円筒セルを作製した。このときの電解液中のMn濃度は0.1ppm以下であり装置の検出限界以下であった。
【0090】
[比較評価例4]実施例9、実施例10および比較例2で作製した円筒セルを用いて、18650円筒セルの安全性試験を行った。安全性評価項目は過充電試験および短絡試験である。過充電試験は12V、3Cの条件で行い、短絡試験は4.2V満充電状態、室温で強制短絡を行った。その他の試験条件の詳細はUL-1642に準じた。
【0091】
過充電試験は比較例2で微かな蒸気〜発煙であったのに対し、実施例10は全ての円筒セルで発煙発火無しであった。短絡試験ではMn濃度が9ppm以下の電解液の円筒セルが微かな蒸気〜発煙であったのに対し、Mn濃度が18ppm以上の円筒セルは全て発煙発火無しであった。以上の結果は、強制短絡状態での温度上昇により二酸化イオウガスが発生しディスコネクトデバイスが作動しやすくなったためと考えられる。
【0092】
この結果から、過充電、短絡の安全性の面では、電解液中のMn濃度bは18ppm以上が望ましいことが分かった。
【0093】
【表3】

【0094】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように本発明によれば、電池内に2価Mn塩を存在させることにより活物質であるリチウム・マンガン酸化物からのMn溶出が抑制される。また電池内にイオウまたはイオウ化合物を存在させることにより、イオウ成分のMnへの触媒毒効果によりMnの活性が低下し副反応の進行が抑えられる。従って、本発明の非水電解液二次電池は、充放電サイクル、特に高温における充放電寿命が大きく改善される。さらに電池内に硫酸マンガンを存在させた場合、過充電時、温度上昇時に二酸化イオウガスの発生が生じ、安全性が向上する。
【0095】
また、本発明の非水電解液二次電池は、安価な材料で、かつ電池作製プロセス上で特別な装置を必要としないのでコスト面でのメリットも大きく、工業的な意義は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明および従来のコインセルの放電容量およびサイクル特性を示す図である。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1)特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1,2,3,4における
「【請求項1】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、電池内に粒径が50μm以下のイオウ単体、もしくは硫酸塩を含むことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】 正極電極内に粒径が50μm以下のイオウ単体、もしくは硫酸塩を含有させるか、あるいは電解液に粒径が50μm以下のイオウ単体、もしくは硫酸塩を溶解させておくことを特徴とする請求項1記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】 [リチウム・マンガン複合酸化物]:[イオウ粉末]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.011≦aとなる混合比率で正極電極中に粒径が50μm以下のイオウ単体、もしくは硫酸塩を混合させたことを特徴とする請求項1または2記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】 電解液10mlに対し、イオウ粉末0.02g以上となるように粒径が50μm以下のイオウ単体、もしくは硫酸塩を溶解した電解液を使用することを特徴とする請求項1または2記載の非水電解液二次電池。」を、
「【請求項1】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、電池内に粒径が50μm以下のイオウ単体を含むことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】 正極電極内に粒径が50μm以下のイオウ単体を含有させるか、あるいは電解液に粒径が50μm以下のイオウ単体を溶解させておくことを特徴とする請求項1記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】 [リチウム・マンガン複合酸化物]:[イオウ粉末]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.011≦aとなる混合比率で正極電極中に粒径が50μm以下のイオウ単体を混合させたことを特徴とする請求項1または2記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】 電解液10mlに対し、イオウ粉末0.02g以上となるように粒径が50μm以下のイオウ単体を溶解した電解液を使用することを特徴とする請求項1または2記載の非水電解液二次電池。」と訂正する。
(2)特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項12における
「請求項12】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、正極電極がリチウム・マンガン複合酸化物に硫酸マンガンを添加させたものよりなるか、または電解液中に硫酸マンガンを溶解させておくことを特徴とする非水電解液二次電池。」を、
「請求項12】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、正極電極がリチウム・マンガン複合酸化物に硫酸マンガンを添加させたものよりなることを特徴とする非水電解液二次電池。」と訂正する。
(3)明りょうでない記載の釈明を目的として、特許請求の範囲の請求項13における
「【請求項13】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、[リチウム・マンガン複合酸化物]:[硫酸マンガン]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.053≦aとなる混合比率で正極電極中に硫酸マンガンを含有させることを特徴とする非水電解液二次電池。」を、
「【請求項13】 正極にリチウム・マンガン複合酸化物を用いた非水電解液二次電池において、[リチウム・マンガン複合酸化物]:[硫酸マンガン]=100-a:a(重量%)と表したときに、0.053≦aとなる混合比率で正極電極中に硫酸マンガンを混合することを特徴とする非水電解液二次電池。」と訂正する。
(4)明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書の段落【0023】第2行(特許公報第8欄第12行)の
「粒径が50μm以下のイオウ単体、もしくは硫酸塩」を、
「粒径が50μm以下のイオウ単体」と訂正する。
(5)明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書の段落【0036】第1行(特許公報第10欄第4〜5行)の
「この際、Mn塩は正極電極中に含有させても」を
「この際、Mn塩は正極電極中に混合させても」と訂正する。
(6)明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書の段落【0036】第7行(特許公報第10欄第13行)の
「混合比率で正極電極中に含有させたり」を
「混合比率で正極電極中に混合させたり」と訂正する。
(7)誤記の訂正を目的として、明細書の段落【0072】の表2における
「実施例2」を、
「実施例3」と訂正する。
(8)明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書の段落【0084】第1行(特許公報第16欄第45〜46行)の
「まずマンガン酸リチウム、導電性付与剤を乾式混合し」を、
「まずマンガン酸リチウム、導電性付与剤、硫酸マンガンを乾式混合し」と訂正する。
(9)誤記の訂正を目的として、明細書の段落【0089】第4行(特許公報第18欄第7行)の
「実施例9と同様に」を、
「実施例10と同様に」と訂正する。
(10)誤記の訂正を目的として、明細書の段落【0093】の表3における
「比較例4」を、
「比較例2」と訂正する。
異議決定日 2002-05-17 
出願番号 特願平10-312173
審決分類 P 1 652・ 113- YA (H01M)
P 1 652・ 537- YA (H01M)
P 1 652・ 121- YA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三宅 正之  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 酒井 美知子
板谷 一弘
登録日 2000-04-14 
登録番号 特許第3055621号(P3055621)
権利者 日本電気株式会社
発明の名称 非水電解液二次電池  
代理人 福田 修一  
代理人 河合 信明  
代理人 京本 直樹  
代理人 福田 修一  
代理人 河合 信明  
代理人 京本 直樹  

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