• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02C
管理番号 1062807
異議申立番号 異議2001-72219  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-08-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-08-06 
確定日 2002-08-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第3135925号「安定な液体酵素組成物とコンタクトレンズ洗浄及び殺菌系への使用方法」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3135925号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許3135925号の請求項1〜6に係る発明についての出願は、平成8年6月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年6月7日、1995年10月18日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成12年12月1日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、大塚重治、及び株式会社メニコンより特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成14年7月3日に意見書が提出されたものである。

II.特許異議の申立てについて
1.特許異議の申立て理由の概要
(1)特許異議申立人大塚重治は、下記甲第1〜5号証を提出して、請求項1〜6に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1〜6に係る発明の特許は、取り消されるべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開平4-231054号公報(以下、「刊行物1」という)
甲第2号証:特開平2-289255号公報(以下、「刊行物2」という)
甲第3号証:特開平3-284725号公報(以下、「刊行物3」という)
甲第4号証:特開平4-143718号公報(以下、「刊行物4」という)
甲第5号証:特開平5-76587号公報(以下、「刊行物5」という)
(2)特許異議申立人株式会社メニコンは、下記甲第1〜3号証、及び参考資料1〜3を提出して、請求項1〜6に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1〜6に係る発明の特許は、取り消されるべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開平6-194610号公報(以下、「刊行物6」という)
甲第2号証:特開平5-76587号公報(「刊行物5」に同じ)
甲第3号証:特開平4-231054号公報(「刊行物1」に同じ)
参考資料1:「化学大辞典3縮刷版」第110、111頁グリセリンの項、共立出版株式会社、昭和56年10月15日縮刷版第26刷発行
参考資料2:本件特許の平成12年7月24日付手続補正書第1頁
参考資料3:本件特許の国際公開第96/40854号パンフレット、第44〜47頁

2.本件発明
特許3135925号の請求項1〜6に係る発明は、明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された、次のとおりのものと認める。
「【請求項1】コンタクトレンズを洗浄しかつ殺菌する方法にあって、
レンズを殺菌する有効量の抗菌剤を含有する殺菌水溶液中にレンズを入れる工程と;
前記殺菌溶液中に、レンズを洗浄するための有効量の酵素と、50〜70%v/vの炭素数2〜3ポリオールと、4〜8%w/vのホウ酸塩又はホウ酸化合物と、水とを含む少量の液体酵素洗浄組成物を分散させて、殺菌剤/酵素水溶液を形成する工程と;
レンズを前記殺菌剤/酵素水溶液中にレンズを洗浄かつ殺菌するために充分な時間浸漬する工程と
を含む方法。
【請求項2】前記洗浄組成物が少なくとも9000PAU/mlの量のパンクレアチン又はトリプシンと、50%v/vの量のプロピレングリコールと、7.6%w/vの量のホウ酸ナトリウムとを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】前記洗浄組成物中の酵素濃度が0.05〜5.0%w/vである、請求項1記載の方法。
【請求項4】抗菌剤が0.00001%〜0.05%w/vのポリクオー夕ニウム-I含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】殺菌溶液が約0.5%w/vの塩化ナトリウムと、
約0.05%w/vの二ナトリウムエデテートと、
約0.02%w/vのクエン酸1水和物と、
約0.6%w/vのクエン酸ナトリウム2水和物と、
約0.001%w/vのポリクオー夕ニウム-Iと
水と
を含み、pH7.0を有する請求項1記載の方法。
【請求項6】殺菌剤/酵素溶液が150〜350mOsモル/kgのオスモラリテイを有する、請求項1記載の方法。」

3.各刊行物の記載事項
(1)刊行物1:特開平4-231054号公報
(1a)「【請求項1】レンズの殺菌に有効な量の重合体型抗菌剤および錯化剤からなる第一成分ならびに眼科的に許容される酵素からなる第二成分との2成分混合型組成物にして、・・・
該第一成分の該錯化剤の量は、所定量の該組成物をコンタクトレンズの洗浄及び殺菌用溶液を形成するのに充分の量の眼科的に許容される液体に溶解したときに該溶液中約0.03〜約0.7重量/容量%の錯化剤濃度を与えるに充分の量であり、該錯化剤はクエン酸、エチレンジアミン四酢酸、酢酸及び医薬として許容されるこれらの塩類からなる群から選択され;
該第二成分の該酵素の量は、所定量の該組成物をコンタクトレンズの洗浄及び殺菌用溶液を形成するのに充分の量の眼科的に許容される液体に溶解したとき該溶液中約50蛋白分解活性単位/mlに等しいかまたはそれ以下の酵素濃度を与えるに充分の量であり;
該第一成分と該第二成分が使用前に別々に保存されることを特徴とするコンタクトレンズ洗浄および殺菌用2成分混合型組成物。
【請求項4】組成物が溶液型である時の該重合体型抗菌剤の濃度が約0.000001〜約0.01重量/容量%の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項9】溶液型である時の組成物の浸透力が約150〜約300mOsm/kgの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項10】該酵素がパンクレアチン、・・・からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項14】該第二成分が錠剤の形であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項16】コンタクトレンズを殺菌するに充分な量の・・・重合体型抗菌剤、および約0.03〜約0.7重量/容量%のクエン酸、エチレンジアミン四酢酸、酢酸及び医薬として許容されるこれらの塩類からなる群から選ばれる錯化剤からなる水溶液中へのコンタクトレンズを浸漬し:
該水溶液中に眼科的に許容される酵素を約50蛋白分解活性単位/mlに等しいか、またはそれ以下の濃度をあたえるような量を供給し;そして
得られる水溶液にレンズの洗浄および殺菌に充分な時間コンタクトレンズを浸漬することを特徴とするコンタクトレンズ洗浄および殺菌する方法。」(請求項1、4、9、10、14、16)
(1b)【発明が解決しようとする課題ならびに手段】欄には、「本発明は、上記抗菌剤を酵素と組合せるとある条件のもとコンタクトレンズの洗浄・殺菌のため非常に有効に利用することができるという知見にもとづいている。おそらくは酵素と抗菌剤との間に結合が生じるため相互に効力の阻害が生ずるとの従来の実験結果、また酵素と抗菌剤の組合せ利用による洗浄・殺菌では2つの素材の一方または両方を大過剰に使用する必要があるとの以前の予測からすると、この知見は驚くべきことである。」(【0005】)、「本発明は、部分的には、上記の酵素-抗菌剤間の結合を除去または弱めることを可能にする特定の組成物種の利用についての知見から導かれている。・・・酵素と抗菌剤の結合は酵素と抗菌剤間の結合を抑制するある種の錯化剤の利用により実質的に除去され、両者の効力が維持される。」(【0006】)
(1c)「本発明においては、第1成分及び第2成分のいずれについても、固体であっても液体であってもかまわない。本発明のコンタクトレンズ洗浄ならびに殺菌システムは、さまざまな態様で実施可能である。・・・別々の製剤とする場合、抗菌剤は固体状でも提供可能だが、通常は溶液の形で提供される。酵素洗浄剤成分は固形・液状いずれでも提供可能であるが、包装及び投薬を考慮すると発泡性(effervescent)錠剤組成物が望ましい。・・・もしも単一製剤中に両者をまとめるのであれば、二つの成分は酵素成分を錠剤の核部分とし、そして抗菌剤を該酵素核の周囲に外層とする層状体にすることができ、そしてその酵素核と外層の抗菌剤との間にシール剤及び/または徐放性コーテイングをはさむこともできる。
酵素が徐放性錠剤として製剤されるか酵素と抗菌剤を組合せて単一錠剤とされる上述の本発明の態様では、徐放性コーテイングは・・・重合体素材のうちのいかなるものでもよい。徐放性コーテイングには更にプロピレングリコール、・・グリセリン、・・・公知の可塑剤を用いることができる。」(【0018】、【0019】)
(1d)実施例1には、A.殺菌溶液として、クエン酸ナトリウム2水和物、クエン酸1水和物、EDTA2ナトリウム、食塩、及びポリクァッドを表記の量用意し、精製水と混合してから、ミキサーで撹拌して成分溶解させ、精製水を溶液に加えて、pH7.0の値を得、次いで溶液を濾過し、滅菌容器に入れ、キャップをする。B.酵素洗浄成分錠剤として、パンクレアチン(6X)、クエン酸、重炭酸ナトリウム、ポリエチレングリコール(3350粉末)、打錠用糖、アルコール十分量を混合し、公知の常法により適切な大きさと硬度をもつ錠剤成形すること(【0020】〜【0022】)、が記載されている。

(2)刊行物2:特開平2-289255号公報
(2a)「1.タンパク質分解酵素および抗菌剤を用いてコンタクトレンズを同時に洗浄および消毒する方法であって、前記酵素並びに眼適用において使用される四級アンモニウム塩およびビグアニドから選択された抗菌剤を含有する水性系と前記レンズとが接触され、ここで前記系の浸透圧値が前記抗菌剤の活性を実質上阻害しないレベルに維持されることを特徴とする方法。
7.前記浸透圧値が約200〜約600mOsm/kg水である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
11.コンタクトレンズを洗浄および消毒するための組成物であって、6.5〜8.5のpHを有し、・・・組成物。」(請求項1、7、11)
(2b)「改良された同時の洗浄および消毒方法を開発するために、錠剤の形のタンパク質分解酵素を、・・・抗菌剤としてヘキサメチレンピグアニドポリマーを含む溶液と組合わせて試験した。・・・微生物効能実験は、該抗菌剤がそれらの最初の実験の間に或る種の微生物を殺すのにあまり効果的でなかった・・・抗菌剤の消毒能力は、使用する薬剤に最適な重量オスモル濃度の条件下で最も効果的であることが発見された。溶液の浸透圧レベルが高すぎると、抗菌剤の或る種の微生物を殺すのにあまり効果的でなくなる。従って、本発明によれば、・・・酵素を抗菌剤と組合わせて使用し、・・・消毒は適当な浸透圧条件において最も効果的であることがわかった。」(第3頁左上欄第3〜19頁)
(2c)タンパク質分解酵素について、パンクレアチン、トリプシンの例示され(第3頁右下欄下から2行)、酵素は、「液体または固体の形において、通常追加の成分と共に使用することができる。好ましくは、酵素は錠剤または粉末のような固体形において提供され、使用前に水溶液と混合される。」(第3頁右上欄第16〜19行)
(2d)酵素に含めることのできる緩衝剤として、ホウ酸塩が例示され、通常、重量/容量(w/v)において約0.01〜約2.5%の量入れること(第4頁左下欄第9〜17行)、消毒液の成分には、張度調製剤として塩化ナトリウムを約0.01〜2.5%(w/v)使用すること(第4頁右下欄第14〜19行)、が記載されている。

(3)刊行物3:特開平3-284725号公報
(3a)「酵素及び水溶性有機物を含有する混合溶媒である第1処理液と、着色剤を含有し、前記第1処理液を希釈するための第2処理液とからなり、ハードコンタクトレンズの洗浄を行う際に、第1処理液と第2処理液とを混合して用いることを特徴とするハードコンタクトレンズ用洗浄液。」(特許請求の範囲)
(3b)発明の目的として、「コンタクトレンズ保存ケース中で用いても、保存液との識別が容易で、安全性の高いコンタクトレンズ洗浄液を提供することにある。」(第2頁左上欄第5〜8行)
(3c)酵素使用量が0.01〜50w/v%の濃度であること(第2頁左下欄第4〜6行)、第1処理液には、酵素の安定化のためにグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールを5〜50w/v%含有し、50w/v%を超えて使用しても安定化に顕著な上昇は認められないこと(第2頁左下欄第11〜右下欄2行)、第1処理液は、必要に応じてソルビトール10〜30w/v%、ホウ砂50〜100(対ソルビトール比)%の安定化剤を添加できること(第2頁左下欄第9〜末行)、洗浄剤に菌が増殖するのを防止し、その洗浄液が長期間保存できるように防腐剤を第1処理液中及び/又は第2処理液中に各々に0.001〜1w/v%添加できること(第3頁右下欄第14〜第4頁左上欄2行)
(3d)実施例1には、第1処理液は、ゼラチン、ソルビトール、ホウ砂、エタノール、グリセリン及び精製水からなる水溶液に、ビオプラーゼを溶解したもので、第2処理液は、ホウ酸、ホウ砂、塩化ナトリウム、EDTA-2Na、ヒビテン20%液(住友製薬(株)製殺菌剤(グルコン酸クロルヘキシジン))などの成分を精製水に溶解させたもので、第1処理液を第2処理液で20倍に希釈し、洗浄剤を得たこと(第4頁右上欄下から5〜右下欄19行)、が記載されている。

(4)刊行物4:特開平4-143718号公報
(4a)「(1)蛋白質分解酵素と、水混和性ポリオールと、ホウ素化合物と、アスコルビン酸誘導体を少なくとも含み、安定化された液体であることを特徴とするコンタクトレンズ用汚れ除去剤。
(3)水混和性ポリオールを40-95重量%含有することを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ用汚れ除去剤。
(4)ホウ素化合物を0.01-1重量%含有することを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ用汚れ除去剤。」(特許請求の範囲1、3、4)
(4b)本発明の目的として、「毒性が低く、洗浄効果の優れた酵素を用い、溶液状でも長期保存安定性が優れ、患者にとってより簡便に使用出来る溶液タイプのコンタクトレンズ用汚れ除去剤を提供することを目的とするものである。」(第2頁右下欄第12〜16行)、水混和性ポリオールとして、プロピレングリコールの例示(第3頁左上欄下から4行)、が記載されている。

(5)刊行物5:特開平5-76587号公報
(5a)「【請求項1】有効量の蛋白質分解酵素を含有する溶液に対して、グリセリンの5〜40%(w/v)とホウ酸及び/又はホウ酸塩の4〜20%(w/v)とを、グリセリンの100重量部に対してホウ酸及び/又はホウ酸塩が10〜100重量部となる割合で、それぞれ含有せしめたことを特徴とするコンタクトレンズ用液剤組成物。
【請求項3】請求項1又は2に記載のコンタクトレンズ用液剤組成物を、水性媒体で希釈し、得られた希釈液にコンタクトレンズを接触させることによって、該コンタクトレンズに付着する汚れを除去せしめることを特徴とするコンタクトレンズの洗浄方法。
【請求項4】請求項1又は2に記載のコンタクトレンズ用液剤組成物を、水性媒体で希釈し、得られた希釈液にコンタクトレンズを、5℃〜80℃の温度で、1分から24時間接触させた後、更に該希釈液中で煮沸消毒を行なうことを特徴とするコンタクトレンズの洗浄方法。」(請求項1、3、4)
(5b)【解決課題】として、「溶液の浸透圧を比較的低く抑制しつつ、溶液中で酵素を良好に安定化させることにあり、以て非含水性コンタクトレンズに対しては勿論、含水性コンタクトレンズに対しても、安全に且つ手軽に使用することのできる、洗浄効果の高いコンタクトレンズ用洗浄液を提供すること、また、そのような液剤組成物を用いて、コンタクトレンズを効果的に洗浄する方法を提供することにある。」(【0008】)、
【解決手段】として、「酵素安定化成分としてグリセリンとホウ酸及び/又はホウ酸塩とを併用することにより、浸透圧が生理的レベルから極端に離れることを防止しつつ、蛋白質分解酵素を溶液中で安定に保ち得ることを見い出したのである。」(【0009】)
(5c)酵素として、トリプシンが例示され(【0021】)、酵素配合量は0.01〜20w/v%程度(【0022】)、この液剤のpHが5〜10で、溶液の防腐剤として、0.001〜lw/v%の範囲でソルビン酸カリウム、・・・α-4-〔1-トリス(2-ヒドロキシエチル)塩化ァツモニウム-2-ブテニル〕ポリ〔1-ジメチル塩化アンモニウム-2-ブテニル〕-ω-トリス(2-ヒトロキシエチル)塩化アンモニウム(=ポリクオータニウム)が例示され(【0028】)、実施例3には、液体酵素を含水性ソフトコンタクトレンス用保存液と混合して浸透圧が305mmol/kg となること(【0040】)、の実施例5には、同様に混合した後の浸透圧が311mmol/kgであること(【0043】)、が記載されている。

(6)刊行物6:特開平6-194610号公報
(6a)「【請求項1】バチルス属由来セリンプロテアーゼの有効量と金属キレート剤とを含み、更にホウ酸及び/又はホウ砂の含有によって、かかるセリンプロテアーゼが室温下で安定化されていると共に、浸透圧値が200〜600mOsm/kg水に調整されてなる処理液を用い、該処理液を必要時に分注し、該分注した処理液にコンタクトレンズを浸漬することを特徴とするコンタクトレンズの洗浄、保存方法。
【請求項2】バチルス属由来セリンプロテアーゼの有効量と金属キレート剤とを含み、・・・処理液を用い、該処理液を必要時に分注し、・・・洗浄した後、80℃〜100℃に加熱して、殺菌することを特徴とするコンタクトレンズの洗浄、殺菌方法。
【請求項3】前記処理液が、更に、多価アルコールを0.5〜2%(w/v)の割合において含有することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。」(請求項1、2、3)
(6b)作用・効果欄には、「本発明で使用する処理液にあっては、蛋白分解酵素が、生理的浸透圧で且つ金属キレート剤の存在下において、効果的に安定化されているものであり、蛋白分解酵素と金属キレート剤との一液化が有利に達成されているものである。それ故に、長期間保管した後にも、それら蛋白分解酵素及び金属キレート剤によって極めて優れた洗浄効果を発揮することができ、また、始めから生理的浸透圧に調整されていることから、希釈操作が一切不要であり、必要時に必要量を分注するだけで、・・・全てのコンタクトレンズに対して、そのまま適用することができ、コンタクトレンズの変形や眼刺激等の問題が生じることがない特徴を有している。」(【0017】)
(6c)処理液について、ホウ酸及び/又はホウ砂が酵素安定化剤として、通常、0.05〜2%(w/v)程度の割合で含有し、処理液の酵素安定化効果をより高めるために、多価アルコールを0.5〜2%(w/v)の割合添加しても良いこと(【0025】【0026】)、処理液には、保管している間の菌の増殖を抑える目的で、例えばソルビン酸や安息香酸、ビグアニド類、4級アンモニウム塩類等の防腐剤を添加しても良いこと(【0033】)
(6d)実施例には、ソルビン酸カリウムおよび安息香酸ナトリウム(防腐剤)、ズブチリシンA、エスペラーゼ8.0Lおよびサビナーゼ(バチルス属由来セリンプロテアーゼ)、グリセリン、ホウ酸およびホウ砂等を含む成分を量り取り、精製水で定溶して処理液を調製すること(【0038】〜【0040】)、が記載されている。

3.対比・判断
本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という)と刊行物1に記載された発明とを対比する。
刊行物1には、抗菌剤と錯化剤から成る水溶液に、レンズを浸漬し、該水溶液中に酵素を供給するコンタクトレンズの洗浄・殺菌方法であって、水溶液は、第一成分と第二成分とから成る2成分混合型組成物を含み、上記摘記事項(1a)の請求項14によれば、第二成分である酵素成分は、錠剤であることが示されているが、上記摘記事項(1c)によれば、液体でも良いことが記載されており、この酵素液体は、抗菌剤水溶液に添加するものであって、又酵素と抗菌剤を組合わせて単一錠剤とするときには、除放コーテイングとして、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜3ポリオールを用いても良いことが記載されており、そして、「抗菌剤」は、本件発明1の「殺菌剤」に相当するから、
両者は、「コンタクトレンズを洗浄しかつ殺菌する方法にあって、
レンズを殺菌する有効量の抗菌剤を含有する殺菌水溶液中にレンズを入れる工程と;
前記殺菌溶液中に、レンズを洗浄するための有効量の酵素と、炭素数2〜3ポリオールと、水とを含む少量の液体酵素洗浄組成物を分散させて、殺菌剤/酵素水溶液を形成する工程と;
レンズを前記殺菌剤/酵素水溶液中にレンズを洗浄かつ殺菌するために充分な時間浸漬する工程とを含む方法」で一致しているが、
本件発明1が、炭素数2〜3ポリオールを50〜70%v/vの割合で用いているのに対して、刊行物1の記載では含有割合についての記載がない点(相違点1)、
本件発明1が、4〜8%w/vのホウ酸塩又はホウ酸化合物を用いているのに対して、刊行物1の記載ではこの記載がない点(相違点2)、で相違している。
そこで、上記相違点について検討する。
(相違点1)について
酵素の安定剤として、炭素数2〜3ポリオールを用いることが記載されているのは、刊行物3〜6であるので、これ等について検討する。
そこで、まず、刊行物3には、ハードコンタクトレンズ用洗浄液であって、上記摘記事項(3d)によれば、実施例1において、第2処理液に殺菌剤(ヒビテン20%液)を添加しており、又摘記事項(3c)によれば、炭素数2〜3ポリオールを5〜50w/v%含有すること、50w/v%を越えて使用しても安定化には寄与しないことが記載されている。ここで、炭素数2〜3ポリオール含有量を、グリセリンの密度1.262g/ml(25℃)、例示ポリオールの中で一番密度の小さいプロピレングリコールの密度1.038g/mlで、v/v%に換算すると、グリセリンで4.0〜39.6v/v%、プロピレングリコールで4.8〜48.2v/v%となり、上記相違点1である含有割合50〜70%v/vになっていない。
次に、刊行物4には、蛋白質分解酵素と、水混和性ポリオールと、ホウ素化合物とを少なくとも含む、安定化された液体コンタクトレンズ用汚れ除去剤であって、水混和性ポリオールを40-95重量%、ホウ素化合物を0.01-1重量%含有することが記載されている。しかしながら、上記摘記事項(4b)によれば、刊行物4の記載は、毒性が低く、洗浄効果の優れた溶液状でも長期保存安定性が優れ、患者にとってより簡便に使用出来る液体汚れ除去剤、即ち液体酵素洗浄剤についてのみで、殺菌については何も記載されていない。
ところで、通常、抗菌剤(殺菌剤)と洗浄剤の酵素とを組み合わせると、両者の間に結合が生じ、効力が阻害されてしまう。そこで、刊行物1では、特定の錯化剤を特定の濃度で用い(上記摘記事項(1b)参照)、刊行物2では、酵素と抗菌剤との水性系の浸透圧値を調整することにより(上記摘記事項(2b)参照)、この効力阻害を防いでいるものである。そうすると、刊行物4の記載は、あくまでも液体酵素洗浄剤であって、殺菌・抗菌について、何の言及、示唆すらないものであるから、ここでの水混和性ポリオール(プロピレングリコール)の含有割合を、刊行物1での殺菌剤/酵素水溶液に適用することは、当業者にとって容易に想到できるとは云えない。
更に、刊行物5、6の記載は、酵素による洗浄と煮沸(加熱)殺菌との組合せであって、そこでは酵素の安定剤として、刊行物5では、グリセリンを5〜40%(w/v)(上記摘記事項(5a)参照)、刊行物6では、グリセリンを0.5〜2%(w/v)(上記摘記事項(6a)参照)含有させるものであって、刊行物5には、溶液の防腐剤として、殺菌剤を用いること(上記摘記事項(5c)参照)が示されていても、酵素の安定剤として上記相違点1での含有割合を示唆するものではないし、刊行物6もかなり低い割合である。そもそも、刊行物5、6は、酵素による洗浄と煮沸(加熱)殺菌との組合せであって、そこでの酵素の安定剤使用割合を、刊行物1に直ちに適用できるものではない。それは通常、抗菌剤(殺菌剤)と洗浄剤の酵素とを組み合わせると、何らかの対処を講じないと両者の間に結合が生じ、効力が阻害されてしまうからである。
以上のとおり、刊行物2〜6の記載からも、炭素数2〜3ポリオールを50〜70%v/vの割合で用いていることを、当業者が容易に想到できるものではない。
そうすると、上記相違点2について、検討するまでもなく、本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得ないものである。
そして、本件発明1は、上記した殺菌水溶液中に、少量の液体酵素洗浄組成物を分散させた殺菌剤/酵素水溶液を用いる構成により明細書に記載された、殺菌剤の抗菌活性に不利に影響せず、安定性の大きい持続期間を示し、非常に容易な使用を可能にしたという、刊行物1〜6の記載からは予測することのできない効果を奏しているものである。
よって、本件発明1は、刊行物1〜6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、特許異議申立人株式会社メニコンは、本件発明1と刊行物5、6との対比で、概略次のような主張をしている。
a.刊行物5、6には、コンタクトレンズの洗浄保存方法、加熱による洗浄殺菌方法も記載されているから、コンタクトレンズの洗浄保存を行なうとともに加熱なしで殺菌を行なうことは、当業者であれば容易に想到し得る。
b.本件発明1では、殺菌溶液中に、50〜70%v/vの炭素数2〜3ポリオールを含む液体酵素洗浄組成物を少量分散させている。ここで殺菌溶液に対して液体酵素洗浄組成物は少量であり、たとえば殺菌溶液5mlに対して液体酵素洗浄組成物1滴(30μl)であるから(本件特許公報6頁12欄32〜40行)、殺菌溶液/液体酵素洗浄組成物の溶液全体中の液体酵素洗浄組成物の量は約0.6%v/vである。すると、ポリオールの量は液体酵素洗浄組成物中では50〜70%v/vであるが、殺菌溶液/液体酵素洗浄組成物の溶液全体中では約0.3〜0.42%v/vとなる。同様に、殺菌溶液中に、4〜8%w/vのホウ酸塩又はホウ酸化合物を含む液体酵素洗浄組成物を少量分散させているから、殺菌溶液/液体酵素洗浄組成物の溶液全体中のホウ酸塩又はホウ酸化合物の量は約0.012〜0.12%w/vとなる。これに対して、刊行物5、6の記載は、炭素数2〜3ポリオール、ホウ酸塩又はホウ酸化合物とも液体酵素洗浄組成物の溶液全体中の割合は、上記値と重複しているから、刊行物1記載の殺菌剤/酵素水溶液に適用して本件発明1を構成することは容易である。
そこで、上記主張について、検討する。
aの点について;上で述べたとおり、通常、抗菌剤(殺菌剤)と洗浄剤の酵素とを組み合わせると、両者の間に結合が生じ、効力が阻害されてしまうという技術常識が存在しており、そこへ、酵素洗浄と加熱殺菌の組合せの記載における酵素安定剤の使用割合を適用することは、何の創意工夫なくしては可能ではなく、適用すること自体困難性を伴うものである。
bの点について;本件発明1では、殺菌溶液中に、50〜70%v/vの炭素数2〜3ポリオール、4〜8%w/vのホウ酸塩又はホウ酸化合物を含む液体酵素洗浄組成物を少量分散させており、その安定剤の特定割合の液体酵素洗浄組成物を用いることを、構成要件とするものである。そして、殺菌溶液に液体酵素洗浄組成物を少量添加したときの混合溶液中の安定剤割合が、いくら刊行物5、6での液体酵素洗浄組成物の溶液中の安定剤割合と重複するとしても、刊行物5、6の記載は、洗浄と加熱殺菌を併用するものであって、本件発明1での上記特定割合の安定剤を含む液体酵素洗浄組成物自体が記載ないし示唆されていない以上、これ等の記載から、本件発明1の構成を導くことはできない。
よって、上記異議申立人の主張も採用できない。

さらに、請求項2〜6に係る発明は、本件発明1の構成をすべて引用して、更に構成上の限定を加えるものであるから、上記と同じ理由により、刊行物1〜6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

なお、参考資料1は、グリセリンの密度を示し、参考資料2は、本件特許公報の請求項2における「9000PAU/ml」の記載は、本件特許の平成12年7月24日付手続補正書によれば、「900PAU/ml」の誤植であること、参考資料3は、本件の請求項5における「二ナトリウムエデテート」は、刊行物1記載の「EDTA2ナトリウム(エチレンジアミン四酢酸の2ナトリウム塩)」と同じであること、を示しているものである。

III.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては請求項1〜6に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜6に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-07-15 
出願番号 特願平9-501951
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G02C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平井 聡子峰 祐治  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 植野 浩志
伏見 隆夫
登録日 2000-12-01 
登録番号 特許第3135925号(P3135925)
権利者 アルコン ラボラトリーズ,インコーポレイテッド
発明の名称 安定な液体酵素組成物とコンタクトレンズ洗浄及び殺菌系への使用方法  
代理人 浅村 肇  
代理人 佐木 啓二  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 浅村 皓  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ