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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01C
管理番号 1062812
異議申立番号 異議1999-70808  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-06-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-03-04 
確定日 2002-03-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第2806802号「チップ抵抗器」の特許請求の範囲の第1項に記載された発明についての特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2806802号の特許請求の範囲の第1項に記載された発明についての特許を取り消す。 
理由
1.手続の経緯
本件特許第2806802号の特許請求の範囲の第1項に記載された発明についての出願は、昭和62年10月22日に特許出願した特願昭62-267839号の一部を、平成6年7月11日に新たな特許出願(特願平6-158706号)としたものであって、平成10年7月24日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。そして、その後、その特許について、特許異議申立人片山誠、及び青木進より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成12年4月28日に特許異議意見書が提出されると共に訂正請求(後日取下げ)がなされた後、再度の(訂正拒絶理由を兼ねる)取消理由が通知され、その指定期間内である平成13年5月1日に特許異議意見書が提出されると共に訂正請求がなされた後、訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内に特許権者から何らの応答もなかったものである。

2.訂正の適否について
〔2-1〕訂正発明
平成13年5月1日付けで提出された訂正明細書の特許請求の範囲の第1項に記載された発明は次のとおりのものである(以下、「訂正発明」という。)。
「絶縁性セラミック基板の基板表面の両端部に一対の電極が形成され、前記一対の電極に接続されるように前記基板表面上に抵抗体が印刷形成され、前記抵抗体の上にガラスコートが施され、前記抵抗体及び前記ガラスコートにはレーザトリミングによるトリミング溝が形成され、前記ガラスコートの上に前記トリミング溝を埋めるように全体的にオーバコートが施されているチップ抵抗器であって、
前記オーバコートが、前記トリミング溝を完全に埋め且つ前記ガラスコートを全体的に覆うエポキシ樹脂等のレジンコートからなることを特徴とするチップ抵抗器。」

〔2-2〕引用刊行物に記載された発明
訂正発明に対し、当審において平成13年6月25日付けで通知した訂正拒絶理由において示した刊行物1〜4には、それぞれ、以下の発明が記載されている。

絶縁基板2の基板表面の両端部に一対の電極4、6が形成され、前記一対の電極に接続されるように前記基板表面上に抵抗体8が形成され、前記抵抗体の上に第1のガラス層10が施され、前記抵抗体及び前記第1のガラス層にはレーザトリミングによるトリミング跡の切欠き12が形成され、前記第1のガラス層の上に前記トリミング跡の切欠きを埋めるように全体的に第2のガラス層14が施されているチップ抵抗器であって、
前記第2のガラス層が前記第1のガラス層を完全に埋め且つ前記第1のガラスコートを全体的に覆うものであるチップ抵抗器。
絶縁基板の表面の両端部に一対の導電性金属パッドが形成され、前記一対の導電性金属パッドに接続されるように前記基板表面上にレジスタペーストの塗布層によりレジスタが形成され、前記レジスタの上にガラス被膜が施され、前記レジスタ及び前記ガラス被膜にはレーザトリミングによるトリミング溝が形成され、前記レジスタ及びガラス被膜上にエポキシまたはシリコン被覆膜のような保護プラスチック被覆膜を基板表面全体に塗布したチップ抵抗器。
絶縁基板11の基板表面の両端部に一対の電極12、13が形成され、前記一対の電極に接続されるように前記基板表面上に抵抗体14が印刷形成され、前記抵抗体の上にガラスのオーバコート15が施され、前記抵抗体及びオーバコートにはレーザトリミングによるトリミング溝16が形成され、前記トリミング溝を埋めるようにエポキシ樹脂等の低温硬化材料でオーバコートされたチップ抵抗器。
セラミック基板の基板表面の両端部に一対の電極2、2が形成され、前記一対の電極に接続されるように前記基板表面上に抵抗皮膜3が印刷形成され、前記抵抗皮膜にトリミング溝が形成され、この上に前記トリミング溝を完全に埋めるように全体的にエポキシ樹脂系の合成樹脂塗料で保護膜4が施されているチップ抵抗器。

〔2-3〕対比
訂正発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明における「絶縁基板」、「第1のガラス層」、「トリミング跡の切欠き」、及び「第2のガラス層」は、それぞれ、訂正発明における、「絶縁性セラミック基板」、「ガラスコート」、「トリミング溝」、及び「オーバコート」に相当する。そうすると、両者は、次の点で一致する。
絶縁性セラミック基板の基板表面の両端部に一対の電極が形成され、前記一対の電極に接続されるように前記基板表面上に抵抗体が印刷形成され、前記抵抗体の上にガラスコートが施され、前記抵抗体及び前記ガラスコートにはレーザトリミングによるトリミング溝が形成され、前記ガラスコートの上に前記トリミング溝を埋めるように全体的にオーバコートが施されているチップ抵抗器であって、
前記オーバコートが、前記トリミング溝を完全に埋め且つ前記ガラスコートを全体的に覆うチップ抵抗器。
そして、次の点で相違する。
トリミング溝を埋めるオーバコートに関し、訂正発明においては、エポキシ樹脂等のレジンコートからなるものであるのに対し、上記刊行物1に記載された発明においては、ガラス層で形成されている点。

〔2-4〕判断
そこで、上記相違点について検討する。上記刊行物2に記載された発明における、「導電性金属パッド」、「レジスタ」、及び「ガラス被膜」は、それぞれ、訂正発明における、「電極」、「抵抗体」、及び「ガラスコート」に相当する。また、刊行物2に記載された発明は、レジスタ(抵抗体)及びガラス被膜(ガラスコート)にレーザトリミングによるトリミング溝を形成し、前記レジスタ(抵抗体)及びガラス被膜(ガラス被膜)上にエポキシまたはシリコン被覆膜のような保護プラスチック被覆膜を基板表面に塗布するものであることより、この保護プラスチック被覆膜は前記トリミング溝を埋めるようなオーバコートであり、また、この保護膜は基板表面全体に塗布されるものであり、前記ガラス被膜(ガラスコート)を全体的に覆うものであることは明らかである。上記刊行物3にも、チップ抵抗器において、抵抗体と該抵抗体の上に施されたガラスのオーバコートにはレーザトリミングによるトリミング溝が形成され、前記トリミング溝を埋めるようにエポキシ樹脂等の低温硬化材料でオーバコートすることが記載されており、また、刊行物4に記載の発明も、抵抗皮膜(抵抗体)の上に全体的に施されたエポキシ樹脂系の合成樹脂塗料の保護膜は抵抗皮膜に形成されたトリミング溝を完全に埋めるものである。したがって、上記刊行物1に記載された発明においても、トリミング溝を完全に埋めるように第1のガラス層(ガラスコート)の上に全体的に施されている第2のガラス層(オーバコート)を、上記刊行物2〜4に記載された発明のような、エポキシ樹脂等のレジンコートからなるものとすることは当業者が容易に想到できたものである。
そして、そのことによって生じる効果も、上記刊行物1〜4に記載された発明から当業者が十分に予測できる範囲のものである。
なお、特許権者は平成13年9月18日付けの意見書(上記訂正拒絶理由に対する指定期間を経過した後提出されたものである)において、刊行物2に記載の保護プラスチックコーティング(オーバコート)の厚みはトリミング溝を完全に埋めるほど厚いものではなく、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を組み合わせてもトリミング溝を完全に埋めることのないチップ抵抗器が得られるだけである旨主張するが、上記〔2-2〕において示したように、刊行物1に記載された発明はオーバコートがトリミング溝を完全に埋め且つガラスコートを全体的に覆うものであるので、特許権者の上記主張は採用できない。
したがって、訂正発明は、上記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

〔2-5〕むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

3.特許異議申立てについて
〔3-1〕申立ての理由の概要
申立人片山誠は、甲第1号証(特開昭62-31192号公報)、甲第2号証(特開昭59-141288号公報)、甲第3号証(実願昭61-33977号(実開昭62-145338号)のマイクロフィルム)、甲第4号証(特開昭60-84845号公報)、甲第5号証(特開昭62-2564号公報)、甲第6号証(特開昭58-147141号公報)、及び、甲第7号証(実願昭61-17365号(実開昭62-128637号)のマイクロフィルム)を提出し、本件特許の特許請求の範囲の第1項に記載された発明は、上記甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、また、同じく申立人青木進は、甲第1号証(特開昭58-101号公報)、甲第2号証(特開昭60-27104号公報)、甲第3号証(特開昭61-268001号公報)、甲第4号証(特開昭55-74105号公報)、及び、甲第5号証(特開昭49-105152号公報)を提出し、本件特許の特許請求の範囲の第1項に記載された発明は、上記甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許請求の範囲の第1項に記載された発明についての特許を取り消すべき旨、主張する。

〔3-2〕本件発明
本件特許の発明の要旨は、その特許請求の範囲の第1項に記載された次のとおりのものである。(以下、「本件発明」という。)。
「絶縁性セラミック基板の基板表面の両端部に一対の電極が形成され、前記一対の電極に接続されるように前記基板表面上に抵抗体が印刷形成され、前記抵抗体の上にガラスコートが施され、前記抵抗体及び前記ガラスコートにはトリミング溝が形成され、前記ガラスコートの上に前記トリミング溝を埋めるように全体的にオーバコートが施されているチップ抵抗器であって、
前記オーバコートが、レジンコートからなることを特徴とするチップ抵抗器。」

〔3-3〕引用刊行物に記載された発明
本件発明に対し、当審において平成13年2月21付けで通知した取消理由において示した刊行物1〜4(当審において平成13年6月25日付けで通知した訂正拒絶理由における上記〔2-2〕で示した刊行物1〜4)には、それぞれ、次の発明が記載されている。
絶縁基板2の基板表面の両端部に一対の電極4、6が形成され、前記一対の電極に接続されるように前記基板表面上に抵抗体8が形成され、前記抵抗体の上に第1のガラス層10が施され、前記抵抗体及び前記第1のガラス層にはトリミング跡の切欠き12が形成され、前記第1のガラス層の上に前記トリミング跡の切欠きを埋めるように全体的に第2のガラス層14が施されているチップ抵抗器。
絶縁基板の表面の両端部に一対の導電性金属パッドが形成され、前記一対の導電性金属パッドに接続されるように前記基板表面上にレジスタペーストの塗布層によりレジスタが形成され、前記レジスタの上にガラス被膜が施され、前記レジスタ及び前記ガラス被膜にはトリミング溝が形成され、前記レジスタ及びガラス被膜上にエポキシまたはシリコン被覆膜のような保護プラスチック被覆膜を基板表面全体に塗布したチップ抵抗器。
絶縁基板11の基板表面の両端部に一対の電極12、13が形成され、前記一対の電極に接続されるように前記基板表面上に抵抗体14が印刷形成され、前記抵抗体の上にガラスのオーバコート15が施され、前記抵抗体及びオーバコートにはトリミング溝16が形成され、前記トリミング溝を埋めるようにエポキシ樹脂等の低温硬化材料でオーバコートされたチップ抵抗器。
セラミック基板の基板表面の両端部に一対の電極2、2が形成され、前記一対の電極に接続されるように前記基板表面上に抵抗皮膜3が印刷形成され、前記抵抗皮膜にトリミング溝が形成され、この上に前記トリミング溝を埋めるように全体的にエポキシ樹脂系の合成樹脂塗料で保護膜4が施されているチップ抵抗器。

〔3-4〕対比
本件発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明における「絶縁基板」、「第1のガラス層」、「トリミング跡の切欠き」、及び「第2のガラス層」は、それぞれ、訂正発明における、「絶縁性セラミック基板」、「ガラスコート」、「トリミング溝」、及び「オーバコート」に相当する。そうすると、両者は、次の点で一致する。
絶縁性セラミック基板の基板表面の両端部に一対の電極が形成され、前記一対の電極に接続されるように前記基板表面上に抵抗体が印刷形成され、前記抵抗体の上にガラスコートが施され、前記抵抗体及び前記ガラスコートにはトリミング溝が形成され、前記ガラスコートの上に前記トリミング溝を埋めるように全体的にオーバコートが施されているチップ抵抗器。
そして、次の点で相違する。
ガラスコートの上に施されトリミング溝を埋めるオーバコートに関し、本件発明においては、レジンコートからなるものであるのに対し、上記刊行物1に記載された発明においては、ガラス層で形成されている点。

〔3-5〕判断
そこで、上記相違点について検討する。上記刊行物2に記載された発明における、「導電性金属パッド」、「レジスタ」、及び「ガラス被膜」は、それぞれ、訂正発明における、「電極」、「抵抗体」、及び「ガラスコート」に相当する。また、刊行物2に記載された発明は、レジスタ(抵抗体)及びガラス被膜(ガラスコート)にトリミング溝を形成し、前記レジスタ(抵抗体)及びガラス被膜(ガラス被膜)上にエポキシまたはシリコン被覆膜のような保護プラスチック被覆膜を基板表面に塗布するものであることより、この保護プラスチック保護膜は前記トリミング溝を埋めるようなオーバコートであり、また、この保護膜は基板表面全体に塗布されるものであり、前記ガラス被膜(ガラスコート)を全体的に覆うものであることは明らかである。上記刊行物3にも、チップ抵抗器において、抵抗体と該抵抗体の上に施されたガラスのオーバコートにはトリミング溝が形成され、前記トリミング溝を埋めるようにエポキシ樹脂等の低温硬化材料でオーバコートすることが記載されており、また、刊行物4に記載の発明も、抵抗皮膜(抵抗体)の上に全体的に施されたエポキシ樹脂系の合成樹脂塗料の保護膜は抵抗皮膜に形成されたトリミング溝を埋めるものである。したがって、上記刊行物1に記載された発明においても、トリミング溝を埋めるように第1のガラス層(ガラスコート)の上に全体的に施されている第2のガラス層(オーバコート)を、上記刊行物2〜4に記載された発明のような、エポキシ樹脂等のレジンコートからなるものとすることは当業者が容易に想到できたものである。
そして、そのことによって生じる効果も、上記刊行物1〜4に記載された発明から当業者が十分に予測できる範囲のものである。

〔3-6〕むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、上記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-02-05 
出願番号 特願平6-158706
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (H01C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 下野 和行今井 義男平塚 義三北村 明弘井上 信一  
特許庁審判長 片岡 栄一
特許庁審判官 吉村 宅衛
治田 義孝
登録日 1998-07-24 
登録番号 特許第2806802号(P2806802)
権利者 北陸電気工業株式会社
発明の名称 チップ抵抗器  
代理人 西浦 嗣晴  

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