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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特39条先願  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1062835
異議申立番号 異議2000-73914  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-10-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-10-17 
確定日 2002-07-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第3034218号「透明積層体及びそれを用いた調光体及びディスプレイ用フィルター」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3034218号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第3034218号は、平成9年3月25日に出願された特願平9-71873号の特許出願に係り、平成12年2月18日にその特許権の設定登録がなされたものであって、その請求項1〜9に係る発明(以下、請求項m(m=1〜9)に係る発明を「発明m」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】透明基体(A)の一方の主面上に透明薄膜層(B)、隣接層(C)が(A)/(B)/(C)の順で形成されてなる透明積層体であり、500nm〜600nmの波長範囲で、該透明基体(A)のアドミッタンスYs=xs+iysを始点とするアドミッタンス軌跡が透明薄膜層(B)を積層することによって到達する終点Ye=xe+iyeと、隣接層(C)のアドミッタンスYa=xa+iyaとで定義される|(xa-xe)+i(ya-ye)|が、|(xa-xe)+i(ya-ye)|<0.4であることを特徴とする透明積層体。
【請求項2】隣接層(C)が、粘着材層または接着剤層であることを特徴とする請求項1に記載の透明積層体。
【請求項3】透明薄膜層(B)が、高屈折率透明薄膜層(B-1)、金属薄膜層(B-2)が透明基体(A)側から順次、(B-1)/(B-2)を繰り返し単位として1回以上繰り返し積層され、さらにその上に少なくとも高屈折率透明薄膜層(B-1)が積層されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明積層体。
【請求項4】透明薄膜層(B)が、高屈折率透明薄膜層(B-1)、金属薄膜層(B-2)が透明基体(A)側から順次、(B-1)/(B-2)を繰り返し単位として3回以上繰り返し積層され、さらにその上に少なくとも高屈折率透明薄膜層(B-1)が積層されてなり、面抵抗が3Ω/□以下、可視光透過率が50%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明積層体。
【請求項5】高屈折率透明薄膜層(B-1)が、主として酸化インジウムで構成されることを特徴とする請求項3又は4に記載の透明積層体。
【請求項6】金属薄膜層(B-2)が、銀または銀を含む合金で構成されることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の透明積層体。
【請求項7】請求項1〜6のいずれかに記載の透明積層体を用いた調光体。
【請求項8】請求項1〜6のいずれかに記載の透明積層体を用いたディスプレイ用フィルター。
【請求項9】請求項4〜6のいずれかに記載の透明積層体を用いたプラズマディスプレイ用フィルター。」

2.申立ての理由の概要
これに対し、特許異議申立人・大谷 保(以下、「申立人A」という。)は、甲第1号証(米国特許第5,071,206号明細書)、甲第2号証(特開平1-149003号公報)及び甲第3号証(特開平7-320663号公報)(以下、甲第n号証を「甲n」、該甲号証記載の発明を「甲n発明」という。)を提出し、
1)発明1〜7は、甲1発明と同一の発明であるから、請求項1〜7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、
、2)発明1〜9は、甲1〜3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、
と主張する。
また、特許異議申立人・三浦 敬明(以下、「申立人B」という。)は、甲1(平成9年5月22日(国内優先権主張 平成8年5月28日(特願平8-133982号。以下、該出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明を「第1優先権発明」という。)、平成8年10月22日(特願平8-279503号。以下、該出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明を「第2優先権発明」という。)、平成8年12月3日(特願平8-322854号。以下、該出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明を「第3優先権発明」という。)に出願された特願平9-132343号に係る特許第3004222号明細書)及び甲2(甲1に係る前記特願平9-132343号を分割の原出願とする点で、平成9年5月22日出願とみなされ、かつ甲1に係る出願と同一の3件の国内優先権主張を伴う特願平11-107593号出願に係る特許第3004271号明細書)を提出し、
1)発明1〜9は、甲1、2に示す先願特許の請求項記載の発明と同一の発明であるから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものであり、
2)本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項又は同第6項(第4号を除く)に規定する要件を満たしていない、
と主張する。

3.申立人の主張の適否の判断
3の1.申立人Aの主張について
3の1の1.主張1)について
3の1の1の1.甲各号証の記載内容
はじめに、前記甲3に関し、申立人Aは、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)中の「4.証拠方法」(20頁参照)欄では上記「特開平7-320663号公報」を甲3として挙げ、その複写物を甲3の現物として提出する一方、申立書本文中では該公報とは別物の「特開平8-55581号公報」を甲3とし、その記載内容に基づく主張を行っている(4頁表中の請求項9についての「証拠」欄及び、19頁最下行〜20頁3行参照」)ため、以下、上記特開平8-55581号公報(以下、「甲3の2」という。)の内容についても職権により摘記、検討する。
a.甲1
ア.「この発明は、熱線反射フィルムに関し、詳しくは、赤外反射干渉フィルターを形成する複数の誘電体層及び金属層からなる複合フィルム……に関する。」(1欄15〜18行)、
イ.「この発明の目的は、選択的に熱、すなわち、赤外線を反射し、一方で可視波長の高透過性を与える改善された透明Fabry-Perotフィルターを提供することにある。」(2欄37〜41行)、
ウ.透明基体(TRANSPARENT SUPPORT)14上に、該基体14側からみて、境界層(BOUNDARY LAYER)21/光学的に透明な金属層(OPTICALLY TRANSPARENT METAL LAYER)16″/スペーサー層(SPACER LAYER)18′/同金属層16′/スペーサー層18/同金属層16/境界層、又は外層(OUTER LAYER)22からなる干渉フィルター(INTERFERENCE FILTER)12を設け、さらにその上に保護層(PROTECTION LAYER)32、あるいは接着剤(ADHESIVE)51を設けた複合フィルムの構成(FIG.3〜6)。
エ.「“透明な金属層”は、実質的な透明性を担保する厚さの銀……あるいはその合金からなる均一な……層である。」(4欄49〜53行)、
オ.「3つの透明金属層16、16′、16″の間のスペーサー層18、18′は同一でも異なっていてもよく……屈折率約1.75〜約2.25の誘電体が好ましい。この範囲の屈折率を有する物質には……酸化インジウム、酸化錫……それらの混合物……が含まれる。」(5欄59行〜6欄12行)、
カ.「境界層は、同一又は異なった誘電体であってよく、すべてをスパッタリングにより析出させる場合には、簡単にするため、スペーサー層と同じ材料から作られることが好ましい。」(6欄52〜59行)、
キ.ポリエチレンテレフタレート基体上に、酸化インジウムからなる誘電体層及び銀からなる透明金属層をこれらを繰り返し単位として3回繰り返し、更にその上に上記誘電体層を設けてなる薄膜層が設けられ、更にガラスを積層するための接着剤層(PVB)が該薄膜上に設けられてなる多層フィルターA〜G(11〜12欄。実施例参照)。
b.甲2
ク.「VDTフィルター用積層体」(詳細については、請求項1〜25参照)。
c.甲3
ケ.「ディスプレイデバイスのフェイス保護装置及び方法」(同請求項1〜10参照)。
d.甲3の2
コ.「カラー表示用プラズマディスプレイパネル」(同請求項1〜4参照)、
サ.「本発明は、……不要電磁波の輻射を抑制することのできるカラー表示用PDPを提供することを目的とするものである。」(段落【0004】)。
3の1の1の2.対比・判断
a.発明1について
発明1(前者)と甲1発明(後者)とを対比すると、後者のFIG.3〜6(前記ウ参照)の「複合フィルム」、すなわち「透明積層体」に着目した場合、その「透明基体」、「接着剤層」は、それぞれ、前者の「透明基体(A)」、隣接層(C)が接着剤層である態様(請求項2参照)の「隣接層(C)」に相当し、また、請求項3、5、6で規定する態様にある前者と前記ウ〜キから把握される後者との対比より、後者の「干渉フィルター」(前記ウ参照)は前者の「透明薄膜層(B)」そのものに相当するから、
両者は、
「透明基体(A)の一方の主面上に透明薄膜層(B)、隣接層(C)が(A)/(B)/(C)の順で形成されてなる透明積層体」
に係る点で一致するものの、
甲1には、前者における、
「500nm〜600nmの波長範囲で、該透明基体(A)のアドミッタンスYs=xs+iysを始点とするアドミッタンス軌跡が透明薄膜層(B)を積層することによって到達する終点Ye=xe+iyeと、隣接層(C)のアドミッタンスYa=xa+iyaとで定義される|(xa-xe)+i(ya-ye)|が、|(xa-xe)+i(ya-ye)|<0.4である」点(以下、この点を「アドミッタンス要件」という。)について記載されていない。
この点に関し、申立人Aは、後者の実施例A〜F(前記キ参照)の積層体について、本件特許明細書の記載に従い、その500nm、550nm、600nmにおける|(xa-xe)+i(ya-ye)|の値を計算したところ、いずれも0.4より小さい値を示した(申立書12頁上段の表参照)から、後者の「透明積層体」は、上記アドミッタンス要件を満たしている、と主張する。
しかしながら、後者(=甲1発明)の上記実施例A〜Fについて上記値を計算するには、隣接層(C)、すなわち、接着剤であるPVB(甲1の8欄65〜66行にもあるとおり、接着剤として用いられることが周知のポリビニルブチラールの略称と解される。)の光学定数が必要である(実際、前者(=発明1)で隣接層(C)に相当するアクリル系粘着材については、「波長500〜600nmにおいてna=1.64、ka=0」である旨、本件特許明細書段落【0094】に明記されている。)にもかかわらず、甲1中にはその値について記載されていない。
そして、一般に、工業製品としてのPVBは、ビニルブチラール、酢酸ビニル、ビニルアルコールの共重合物と考えられ、その組成によって物理的性質等が変化する(必要があれば、「化学大辞典8 縮刷版」共立出版株式会社(1993年6月1日第34刷)、769頁「ポリビニルブチラール」項参照)ところ、甲1中のPVBについての「Monsanto PVB」(11欄30行)、「DuPont PVB」(同32行)との記載は、基体であるポリエチレンテレフタレートが製造会社(ICI社)及び品番(ICI 393)まで明確である(同12行参照)のとは対照的に、単に製造会社(モンサント社又はデュポン社)と樹脂の一般名の略称を示すにとどまり、具体的にどのようなPVBが使用されたかまでを示すものではない。
このように、甲1の記載によっては実施例A〜FにおけるPVBを特定できない以上、実施例A〜Fについて前記|(xa-xe)+i(ya-ye)|の値を計算する場合、いかなるPVBを用いるかについて申立人の恣意が入らざるを得ず(前者の前記アドミッタンス要件を知った上で、該要件を充足するPVBを選択することも十分可能である。)、よしんば、申立人主張の計算結果が前記の表のとおりであったとしても、それがそのまま後者の実施例A〜Fそのものについての計算結果であるということはできない。
そして、甲1に記載がないにもかかわらず、該アドミッタンス要件が当業者にとって自明のものと解するに足る根拠も見出せない。
したがって、前者、すなわち、請求項1に係る発明は、甲1発明と同一の発明ということはできない。
b.発明2〜6について
発明2〜6(前者)は、前記のとおり、請求項1を直接、あるいは間接的に引用し、発明1(後者)をさらに技術的に限定した「透明積層体」に係るところ、前提となる後者の新規性が甲1発明によっては否定できないのであるから、それと同じ理由により、甲1発明によっては前者の新規性を否定することはできない。
c.発明7について
発明7は、「請求項1〜6のいずれかに記載の透明積層体を用いた調光体」に係るところ、前提となる「請求項1〜6のいずれかに記載の透明積層体」の新規性が甲1発明によっては否定できない以上、それと同じ理由により、甲1発明によっては発明7の新規性を否定することはできない。
3の1の2.主張2)について
a.発明1について
甲1には、発明1の必須の構成である前記アドミッタンス要件について示唆するところは存在しない。
もっとも、特許異議申立人はこの点について、「|(xa-xe)+i(ya-ye)|の値を小さくするということは、極限すれば両者の屈折率を近づけるという程のことである。なお、媒質とその隣接層の屈折率を近づけることで反射率を下げることは、フレネルの公式を持ち出すまでもなく当業者の技術的常識である。従って、|(xa-xe)+i(ya-ye)|の値を例えば0.4以下程度に小さく設定することは、その思想として何ら新規なものではない。」(特許異議申立書第14頁第8〜13行)と主張している。
しかしながら、甲1には上記のように干渉フィルター(透明薄膜層)の隣接層に用いられるPVBの光学定数については、屈折率を含めて何ら記載されておらず、もとより隣接層と透明薄膜層との屈折率の関係をどのように設定するかについても全く言及されていない。また、「媒質とその隣接層の屈折率を近づけることで反射率を下げることが当業者の技術的常識」であったとしても、甲1所載の複合フィルムのように、光が空気層-隣接層-透明薄膜層-透明基体と透過するものにおいて、いずれの層間の屈折率を近づければフィルム全体としての反射率を下げ得るかは全く不明というほかはない。それゆえ、反射率の低下を図って隣接層(PVB)の屈折率を透明薄膜層の屈折率に近づけることが甲1に記載乃至示唆されているとすることはできず、まして、|(xa-xe)+i(ya-ye)|の値を小さくすることが甲1に開示されているなどとは到底いえない。
そして、甲2〜3(甲3の2を含む)は、もっぱら発明8〜9に係る「(プラズマ)ディスプレイ用フィルター」という特定用途の「物」に関して引用されているにすぎず、前記アドミッタンス要件を充足する発明1の「透明積層体」自体について何ら教示するものではない。
したがって、発明1は、甲1〜3発明に基づき当業者に想到容易であったということはできない。
b.発明2〜6
発明2〜6(前者)は、前記のとおり、請求項1を直接、あるいは間接的に引用し、発明1(後者)をさらに技術的に限定した「透明積層体」に係るところ、前提となる後者の進歩性が甲1〜3発明によっては否定できない以上、それと同じ理由により、甲1〜3発明によっては前者の進歩性を否定することはできない。
c.発明7〜9
発明7〜9の進歩性を否定する申立人の主張は、結局、請求項1〜6に係る「透明積層体」の進歩性が甲1〜3発明により否定されることを前提とするところ、前記のとおり、該前提は誤りであるから、申立人の主張は採用できない。
3の2.申立人Bの主張について
3の2の1.主張1)について
3の2の1の1.甲各号証の記載内容
a.甲1
ア.「透明基体(A)の一方の主面上に、高屈折率透明薄膜層(B)と、銀又は銀を含む合金からなる金属薄膜層(C)とが、高屈折率透明薄膜層(B)と金属薄膜層(C)との組み合わせ(B)/(C)を繰り返し単位として3回以上6回以下繰り返して積層され、さらにその上に高屈折率透明薄膜層(B)が積層されてなり、金属薄膜層と高屈折率透明薄膜層との積層構造によって導電面が形成され、該導電面における面抵抗が3Ω/□以下であり、可視光線透過率が50%以上であり、かつ、820nm〜1000nmの波長領域の光線透過率が当該波長領域の全域において20%以下である透明積層体であり、当該基体(A)から最もはなれて積層されている高屈折率透明薄膜上に、透明な粘着材または透明な接着剤層又は透明な保護層を積層しても、可視光線反射率の増加が2%以下であることを特徴とする透明積層体。」(請求項1)、
イ.「透明基体(A)から最もはなれて積層されている高屈折率透明薄膜(B)上に隣接して透明な粘着材又は透明な接着剤層又は透明な保護層が
積層されていることを特徴とする請求項1……に記載の透明積層体。」(請求項3)。
b.甲2
ウ.「プラズマディスプレイに取り付けられて使用されるフィルターにおいて、透明基体(A)の一方の主面上に、高屈折率透明薄膜層(B)と、
銀又は銀を含む合金からなる金属層(C)とが、高屈折率透明薄膜層(B)と金属薄膜層(C)との組み合わせ(B)/(C)を繰り返し単位として3回以上6回以下繰り返して積層され、さらにその上に高屈折率透明薄膜層(B)が積層されてなり、金属薄膜層と高屈折率透明薄膜層との積層構造によって導電面が形成され、該導電面における面抵抗が3Ω/□以下であり、可視光線透過率が50%以上であり、かつ、820nm〜1000nmの波長領域の光線透過率が当該波長領域の全域において20%以下である透明積層体と、金属を含む電極、透明保護膜(D)、反射防止膜、アンチニュートンリング層、アンチグレア層、及び透明成形体(E)からなる群から選ばれた2種類以上の付加層とを備えてなり、かつ、色素を含有することを特徴とするプラズマディスプレイ用フィルターであり、当該基体(A)から最もはなれて積層されている高屈折率透明薄膜層(B)上に、透明な粘着材または透明な接着剤層又は透明な保護層を積層しても、可視光線の反射率の増加が2%以下である透明積層体であることを特徴とするプラズマディスプレイ用フィルター。」(請求項1)、
エ.「透明基体(A)から最もはなれて積層されている高屈折率透明薄膜(B)上に、透明な粘着材または透明な接着剤層又は透明な保護層を積層しても、可視光線反射率の増加が2%以下である積層体に隣接して透明な粘着材又は透明な接着剤層又は透明な保護層が積層されていることを特徴とする請求項1……に記載のプラズマディスプレイ用フィルター。」(請求項3)。
3の2の1の2.対比・判断
a.発明1について
aの1.訂正後の甲1発明
特許法第39条第1項にいう発明が同一か否かの判断の対象となる発明は、「請求項に係る発明」であるところ、甲1に係る特許第3004222号の請求項1及び3については、本件特許異議申立後になされた該特許に対する特許異議申立事件(=異議2000-72913号)中で、下記のとおりに訂正されているから、以下、発明1との異同の判断は、訂正後の甲1発明の請求項を基準として行う。。
ア′.「透明基体(A)の一方の主面上に、厚さ10〜100nmの高屈折率透明薄膜層(B)と、銀又は銀を含む合金からなる厚さ4〜30nmの金属薄膜層(C)とが、高屈折率透明薄膜層(B)と金属薄膜層(C)との組み合わせ(B)/(C)を繰り返し単位として3回以上6回以下繰り返して積層され、さらにその上に厚さ10〜100nmの高屈折率透明薄膜層(B)が積層されてなり、金属薄膜層と高屈折率透明薄膜層との積層構造によって導電面が形成され、該導電面における面抵抗が3Ω/□以下であり、可視光線透過率が50%以上であり、かつ、820nm〜1000nmの波長領域の光線透過率が当該波長領域の全域において20%以下である透明積層体であり、当該基体(A)から最もはなれて積層されている高屈折率透明薄膜上に、厚さが0.5〜50μmでありかつ波長500〜600nmの光に対する屈折率が1.45〜1.7の透明な粘着材または透明な接着剤層又は透明な保護層を積層しても、可視光線反射率の増加が+1%以下であることを特徴とするディスプレイ用フィルター用透明積層体。」(請求項1)、
イ′.「透明基体(A)から最もはなれて積層されている高屈折率透明薄膜(B)上に隣接して透明な粘着材又は透明な接着剤層又は透明な保護層が積層されており、積層後の可視光線反射率の増加が+1%以下であることを特徴とする請求項1……に記載の透明積層体。」(請求項3)。
aの2.申立人の主張
発明1(前者)に対し、申立人Bは、甲1の請求項3及び甲2の請求項3記載の発明(後者)を基準とし、後者は前者を充足するものであり、なかんずく、前者の前記アドミッタンス要件、すなわち、「|(xa-xe)+i(ya-ye)|<0.4」との点については、
(1)両者は、積層体に隣接して透明な粘着材又は透明な接着剤層又は透明な保護層保護層を形成すると可視光線反射が著しく増大してしまうという、解決すべき技術課題が共通であり、
(2)透明積層体の薄膜形成面上に隣接層を形成する前後の可視光線反射率(Rvis)を測定した前者の実施例1(段落【0111】、【表1】参照)と、甲1の段落【0158】の【表3】記載の実施例1とは同一内容であり、
(3)甲1も光学アドミッタンス図を用いる手法で光学設計することを記載している、
等の理由から、後者でいう「当該基体(A)から最もはなれて積層されている高屈折率透明薄膜上に、透明な粘着材または透明な接着剤層又は透明な保護層を積層しても、可視光線反射率の増加が+1%以下(甲1発明について。前記ア′参照)、または2%以下(甲2発明について。前記ウ、エ参照)である」という点(以下、まとめて「反射率増加要件」という。)を単に言い換えただけにすぎない、と主張する。
aの3.当審の判断
既述のとおり、甲1発明に係る特許出願日、及び該発明に係る出願を適法な分割の原出願とする甲2発明についてのみなし出願日は、本件特許出願日(=平成9年3月25日)より後の平成9年5月22日である結果、甲1〜2記載の発明のうち、発明1に対して特許法第39条第1項でいう先願の地位を有するのは、本件特許出願日前の国内優先権主張日を有する、前記第1〜3優先権発明に相当する部分のみにすぎない。
そうした観点で第1〜3優先権発明の内容を検討すると、第1優先権発明(請求項の数25)は「電磁波シールド用透明積層体およびそれを用いたディスプレイ用フィルター」に係り、第2優先権発明(請求項の数9)は「ディスプレイ用光学フィルター」に係り、第3優先権主張発明(請求項の数9)は「透明積層体およびそれを用いたディスプレイ用フィルター」に係るものではあるものの、それら三者についての特許出願時の願書に最初に添付した明細書(=出願当初明細書)中には、前記反射率増加要件が記載されておらず、また、それを具体化した甲1の前記段落【0158】の「粘着材貼合前後の可視光線反射率」の測定結果(=実施例1)もまったく記載されていない。
そして、第1〜3優先発明についての出願当初明細書中で記載を欠くそれらの事項は、甲1〜2発明についての現実の出願時にはじめて記載された(例えば、甲1の出願当初明細書の内容を表す特開平10-217380号公報中の請求項1、請求項3、段落【0154】、同【158】、同【163】〜【164】参照)というのが現実である。
そうすると、国内優先権主張の基礎となる出願の出願当初明細書中に記載のない反射率増加要件を備えている点で、後者(=甲1の請求項3及び甲2の請求項3記載の発明)については国内優先権主張の効果はなく、その出願日は前者(=発明1)についての特許出願日(=平成9年3月25日)より後の前記現実の特許出願日(=平成9年5月22日)とみるほかはない。
したがって、申立人B主張のとおり、アドミッタンス要件以外の構成が一致し、前者のアドミッタンス要件が後者の反射率増加要件を言い換えたにすぎないものであるとしても、そもそも後者は前者に対し特許法第39条第1項にいう先願に相当するわけではないから、これに反する申立人Bの主張は、その前提の点ですでに失当である。
b.発明2〜9について
発明2〜9は、直接ないし間接的に請求項1を引用する関係にあるから、発明1について述べたところと同一の理由により、申立人の主張を採用することはできない。
3の2の2.主張2)について
申立人Bは、
a.請求項1記載の光学アドミッタンスの差|(xa-xe)+i(ya-ye)|という特性自体は当業者に知られているとしても、単にそのように光学設計するという以外に|(xa-xe)+i(ya-ye)|<0.4という特性を奏することができる具体的手段を直ちに認識できないから、請求項1に係る発明の外延が不明確であり、
b.請求項3及び4は、繰り返し積層回数に関してそれぞれ「1回以上」、「3回以上」という上限のない範囲を規定している点で、発明の外延が不明確であり、
c.請求項1に係る発明及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜9に係る発明は、透明積層体についての記載が不明確であるため、単に|(xa-xe)+i(ya-ye)|<0.4となるように光学設計するというだけでは、本件特許明細書に記載されている発明特定事項に基づいて本件特許発明を実施しようとする当業者に対し、通常期待される程度を越える試行錯誤的努力を課す点で、本件特許明細書の記載は、いわゆる実施可能要件を満たしておらず、
d.本件特許明細書段落【0040】に記載されているように、繰り返し積層回数が2回以下であると、近赤外線の低透過率、可視光線の低反射率、低抵抗性を同時に達成することは困難であるので、繰り返し積層回数が1回又は2回の場合についても、透明積層体がディスプレイ用フィルターとして有効であるかどうか不明確であり、
e.また、繰り返し積層回数が4回以上であると可視光線透過率が比較的低くなり(同段落【0043】参照)、さらに7回以上であると可視光線透過率が低くなる(同段落【0040】参照)ため、繰り返し積層回数がこれらの回数以上である透明積層体に係る部分についての請求項1又は請求項1に直接又は間接的に従属する請求項2〜9について、実施可能でない部分を含んでいることについての合意的疑義が生じ、この点に関して不明確である、
と主張する。
しかしながら、
a.前記|(xa-xe)+i(ya-ye)|<0.4との特性を奏する(=前記アドミッタンス要件を充足する)ことができる具体的手段については、本件特許明細書段落【0049】に一般的説明がなされ、かつ、実施例1(同段落【0094】参照)等に詳細に説明されているうえ、そもそも発明1(〜9)は、前記特性を有する「物」に係る発明であり、その特性自体、当業者が疑義なく理解できるものであることからして、発明1(〜9)の外延は明確であり、
b.請求項3及び4は、請求項1を直接又は間接的に引用する点で前記アドミッタンス要件を充足することが前提となっており、該要件を充足する範囲内で繰り返し積層回数の上限は自ずから定まるから、上限規定がなされていないからといって発明の外延が不明確とはいえず、
c.申立人の主張は、透明積層体の説明が不明確であることを前提とするところ、該前提が失当であることはa項で述べたとおりであるから、本件特許明細書の記載は実施可能要件を欠くものとはいえず、
d.請求項1のアドミッタンス要件を充足する透明積層体を使用する限り、積層回数3回以上の場合と完全に同等とはいえないとしても、従来例との対比において明細書記載の所期の効果が奏せられるものと解される(それに対し申立人は単に疑義を呈するにとどまり、本件発明が所期の効果を奏さないことを何ら立証しているわけではない。)から、本件特許明細書の記載は不明確とはいえず、
e.積層回数4回以上あるいは7回以上の場合についても、上記d項で積層回数1〜2回の場合について述べたところと同様であり、別段、本件特許明細書の記載は不明確であるとはいえない。
以上のとおりであるから、申立人B主張のa〜eのいずれの点についても、本件特許明細書の記載に不備があるとはいえない。

4.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-07-05 
出願番号 特願平9-71873
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
P 1 651・ 537- Y (B32B)
P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 4- Y (B32B)
P 1 651・ 536- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 鴨野 研一
須藤 康洋
登録日 2000-02-18 
登録番号 特許第3034218号(P3034218)
権利者 三井化学株式会社
発明の名称 透明積層体及びそれを用いた調光体及びディスプレイ用フィルター  

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