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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
管理番号 1062842
異議申立番号 異議2002-70487  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-12-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-02-27 
確定日 2002-08-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第3202869号「希土類元素燐酸塩の製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3202869号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3202869号の請求項1に係る発明についての出願は、平成6年5月25日に特許出願され、平成13年6月22日にその特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 丸山千秋 より特許異議の申立てがなされたものである。

2.特許異議申立てについて
(1)本件発明
特許第3202869号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「燐酸水溶液に希土類元素酸性水溶液を添加する沈殿反応において、予め該反応終了後のスラリー中の燐酸以外の遊離酸濃度が1.5 mol/L 以下となるように希土類元素酸性水溶液中の希土類元素濃度および遊離酸濃度を調整した希土類元素酸性水溶液を燐酸水溶液に添加し、添加途中あるいは添加終了後に少なくとも一度は該混合液の液温60℃以上 100℃以下に昇温して沈殿反応を完結させることを特徴とする単一あるいは複合希土類元素燐酸塩の製造方法。」

(2)申立ての理由の概要
特許異議申立人 丸山千秋 は、下記の甲第1号証及び該甲第1号証の訳文として甲第2号証を提出し、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、該甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明の特許は、取り消されるべきものである旨主張している。
甲第1号証:欧州特許出願公開第0581622号明細書(1994)
甲第2号証:特開平6-171914号公報

(3)甲第1号証に記載された発明
甲第2号証の訳文によれば、甲第1号証には、希土類燐酸塩の製造法に関し、下記の記載がある。
ア.希土類の可溶性塩を含有する第一溶液を、燐酸イオンを含有し且つ2よりも低い初期pHを有する第二溶液に連続的に且つ撹拌下に導入し、沈殿間に沈殿媒体のpHを2よりも低い実質上一定の値に制御し、次いでこれによって得られた沈殿物を回収し、そして最後にそれを必要ならば熱処理することを特徴とする式LnPO4 (式中、Lnはランタニド及びイットリウムよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を表わす)の希土類燐酸塩の製造法。(甲第2号証 特許請求の範囲 請求項1)
イ.本発明に従った方法の第三の重要な特徴に従えば、沈殿媒体のpHは、2よりも下そして好ましくは1〜2の間のpH値で制御さければならない。
「制御したpH」とは、燐酸イオンを含有する溶液に塩基性化合物又は緩衝溶液を加えることによって沈殿媒体のpHをある一定の又は実質上一定の値に維持すること(これは可溶性希土類塩を含有する溶液の導入と同時に行われる)を意味するものと理解されたい。(甲第2号証 第4頁第5欄6〜14行【0015】段落及び【0016】段落)
ウ.沈殿は、・・・水性媒体中で実施されるのが好ましい。(甲第2号証 第4頁第5欄21〜23行【0017】段落)
エ.希土類塩を含有する溶液の導入間に、沈殿媒体のpHは徐々に低下する。・・・、沈殿媒体のpHを所望の一定の値(これは、2よりも下でそして好ましくは1〜2の間でなければならない)に維持する目的で、この媒体中に塩基が同時に添加される。(甲第2号証 第4頁第6欄19〜24行【0023】段落)
オ.例3 ・・・沈殿間のpHはアンモニア溶液の添加によって1.4に調整される。沈殿工程の終わりに、反応媒体は、60℃で更に1時間維持される。次いで、沈殿物は、ろ過によって容易に回収され、水洗され、その後に空気中において60℃で乾燥される。(甲第2号証 第6頁第10欄37〜49行【0045】段落)
ここで、「沈殿工程の終わり」とは「添加途中あるいは添加終了後」を意味するものと認められる。

(4)対比、判断
上記(3)に摘記した事項からみて、甲第1号証には、
「燐酸イオンを含有し且つ2よりも低い初期pHを有する水性の第二溶液に、希土類の可溶性塩を含有する水性の第一溶液を添加する沈殿反応において、沈殿間に燐酸イオンを含有する溶液に塩基性化合物又は緩衝溶液を加えることにより沈殿媒体のpHを2よりも低い実質上一定の値に制御し、添加途中あるいは添加終了後に混合液の液温を60℃に昇温して沈殿反応を完結させる単一あるいは複合希土類元素燐酸塩の製造方法。」
なる発明が記載されていると認められる。
本件発明(前者)と上記甲第1号証に記載された発明(後者)とを対比すると、後者における「第二溶液」は、燐酸イオンを含有することからみて、前者における「燐酸水溶液」に相当し、後者における「第一溶液」は、希土類の可溶性塩を含有することからみて、希土類元素水溶液といえるものであるから、両者は、
「燐酸水溶液に希土類元素水溶液を添加する沈殿反応において、希土類元素水溶液を燐酸水溶液に添加し、添加途中あるいは添加終了後に混合液の液温60℃に昇温して沈殿反応を完結させる単一あるいは複合希土類元素燐酸塩の製造方法。」で一致し、
i.燐酸水溶液が、前者は、pHについて何の特定もないのに対し、後者は、2よりも低い初期pHを有するものである点、
ii.前者は、希土類元素水溶液が酸性で、予め反応終了後のスラリー中の燐酸以外の遊離酸濃度が1.5 mol/L 以下となるように希土類元素水溶液中の希土類元素濃度および遊離酸濃度を調整したものであるのに対し、後者は、希土類元素水溶液についてかかる特定がなく、沈殿間に燐酸水溶液に塩基性化合物又は緩衝溶液を加えることにより沈殿媒体のpHを2よりも低い実質上一定の値に制御するものである点、
の2点で相違する。
これらの相違点について、甲第1号証の訳文である甲第2号証を検討しても、甲第1号証には、燐酸水溶液の初期pHを2よりも低い値とすると共に、沈殿間に燐酸水溶液に塩基性化合物又は緩衝溶液を加えることにより沈殿媒体のpHを2よりも低い実質上一定の値に制御する代わりに、燐酸水溶液に、予め反応終了後のスラリー中の燐酸以外の遊離酸濃度が1.5 mol/L 以下となるように希土類元素酸性水溶液中の希土類元素濃度および遊離酸濃度を調整した酸性の希土類元素水溶液を添加することを示唆する記載は見出せない。
そして、本件発明は、燐酸水溶液に、予め反応終了後のスラリー中の燐酸以外の遊離酸濃度が1.5 mol/L 以下となるように希土類元素酸性水溶液中の希土類元素濃度および遊離酸濃度を調整した希土類元素酸性水溶液を添加することを構成要件としたことにより、希土類元素燐酸塩蛍光体の原料として有用な希土類元素燐酸塩をアンモニア等の中和剤を全く使用せずに95%以上の高収率で得られるという本件明細書に記載された格別な効果を奏するものである。
よって、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるとも認められない。
なお、特許異議申立人は、本件明細書に記載された実施例1の反応終了後のスラリー中の遊離硝酸濃度が甲第1号証に記載された発明における沈殿媒体のpH値の範囲内に含まれる旨主張している。
しかし、本件発明は、燐酸水溶液に添加する希土類元素酸性水溶液中の希土類元素濃度および遊離酸濃度を調整することにより、反応終了後のスラリー中の遊離硝酸濃度を上記本件明細書の実施例1に記載された値にしたものであるのに対し、甲第1号証に記載された発明は、所定の初期pHを有する燐酸水溶液を用い、且つ沈殿間に燐酸水溶液に塩基性化合物又は緩衝溶液を加えることにより沈殿媒体のpHを上記の値としているのであるから、両発明は方法の発明としての構成において異なるといわざるを得ない。
よって、特許異議申立人の上記主張によっては、本件発明が甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-07-17 
出願番号 特願平6-111016
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C01B)
P 1 651・ 121- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大工原 大二  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 唐戸 光雄
岡田 和加子
登録日 2001-06-22 
登録番号 特許第3202869号(P3202869)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 希土類元素燐酸塩の製造方法  

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