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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B41M
審判 全部申し立て 2項進歩性  B41M
管理番号 1062917
異議申立番号 異議2001-73367  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-08-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-17 
確定日 2002-08-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第3176941号「感熱記録材料」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3176941号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3176941号の請求項1に係る発明は、平成2年12月17日に出願され、平成13年4月6日にその特許の設定の登録がなされ、その後、江波戸昌美より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされた後、意見書が提出されたものである。

その特許請求の範囲の請求項1に係る発明は請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 支持体上に熱により呈色する感熱発色層を設け、更に該感熱発色層上に樹脂及び充填剤を主成分とする保護層を設けてなる感熱記録材料において、該保護層中の充填剤として、マイクロトラック法による体積平均粒子径が1μm以下であり、しかも粒子径4μm以下の粒子が90(体積)%以上を占める水酸化アルミニウム又は/及び酸化アルミニウムを保護層固形分の10〜50重量%用いたことを特徴とする感熱記録材料。」

2.特許異議申立の概要
特許異議申立人 江波戸昌美は、
甲第1号証:特開平1-210381号公報
甲第2号証:特開昭62-59081号公報
甲第3号証:特開昭55-30943号公報
甲第4号証:特開昭57-14093号公報
甲第6号証(昭和電工アルミナ事業部「PRODUCT GUIDE アルミナ/ハイジライト」第1〜7、11頁、1987年8月発行)
を提出し、本件請求項1係る発明は、甲第1ないし4号証及び甲第6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
本件請求項1に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願平2-22682号(甲第5号証:特開平3-227294号公報)の出願の願書に最初に添付された明細書に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
また、本件特許明細書の記載は特許法第36条の規定を満たさないので、本件特許は特許を受けることができない、と主張する。

3. 甲号各証の記載
甲第1号証には、
(1a) 「【請求項1】プラスチックフィルム又は合成紙上に発色剤および該発色剤と接触して呈色する呈色剤を含有する感熱記録層を設け、該感熱記録層上に水溶性樹脂又は水分散性樹脂を主成分とする中間層を設け、さらに該中間層上に電子線によって硬化し得る樹脂を含有するためのオーバーコート層を設けた感熱記録体において、中間層のベック平滑度が3000秒以上であり、該オーバーコート層中に平均粒子径が15μm以下である有機又は無機顔料を0.5〜15重量%含有せしめたことを特徴とする感熱記録体。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【請求項4】オーバーコート層中に含有せしめる有機又は無機顔料の平均粒子径が5μm以下である請求項(1)記載の感熱記録体。」(特許請求の範囲)
(1b)「かくして形成された中間層上に電子線硬化性樹脂と特定量の有機又は無機顔料を含有するオーバーコート層が設けられる」(第6頁左下欄第13〜5行)
(1c)「本発明において電子線硬化性樹脂層中に含有せしめられる顔料としては、例えば炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化珪素、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸亜鉛、タルク、カオリン、クレー、焼成クレー、コロイダルシリカ等の無機顔料やこれらの無機顔料を有機酸で表面処理した顔料、スチレンマイクロボール・・・・・・・・・・・・、生澱粉粒等の有機顔料等が例示される。」(第8頁左上欄第13行〜右上欄第6行)と記載され、
(1d)実施例には、オーバーコート層に含有せしめる無機顔料として、平均粒径が0.15〜1μmの範囲にある炭酸カルシウム、カオリン、二酸化チタン、スルフォアルミン酸カルシウム、タルクが使用された例が記載されている。
また、(1e)「本発明の感熱記録対は、記録走行性、筆記性、画質に優れており、記録濃度が高く、優れた光沢度を有する記録体であった。」(第11頁左上欄下から5〜2行)と記載されている。

甲第2号証には、
(2a)「【請求項1】支持体上に、ロイコ染料と顕色剤とを含有する感熱発色層を設け、その上にオーバーコート層を設けた感熱記録材料において、該オーバーコート層中に、結着剤と、充填剤としての水酸化アルミニウムを含有させたことを特徴とする感熱記録材料。」(特許請求の範囲)
(2b)「〔目的〕
本発明は、前記のような難点を伴なうことなく、低エネルギーで高濃度に発色し、耐油性、耐水剥離性及び記録画像の信頼性が高く、かつヘッドマッチング性に優れた感熱記録材料を提供することにある。」(第2頁左上欄第13〜19行)
(2b)「オーバーコート層構成成分の使用量は、結着剤については20〜70重量%、水酸化アルミニウムについては、5〜45重量%で、好ましくは10〜30重量%で、かつオーバーコート層乾燥付着量を1.0〜6.0g/m2にすることによって好ましい結果が得られる。結着剤の使用量が、20重量%未満及び水酸化アルミニウム量が50重量%より多いと油脂類や可塑剤等による浸透防止が不十分であり、結着剤の使用量が70重量%より多く又、水酸化アルミニウムが5重量%未満ではオーバーコート層として機能するまでの時間が長くなるので好ましくない。」(第2頁左下欄第17行〜右下欄第7行)と記載されている。

甲第3号証には、
(3a)「無色又は淡色性染料とフェノール性物質を発色要素とした感熱記録紙において、その発色層中に水酸化アルミニウムを含有させることを特徴とする感熱記録紙。」(特許請求の範囲)
(3b)「本発明者等は充填材料として水酸化アルミニウムを配合することによって、発色濃度が高く、鮮明な印字記録が得られ、長時間連続記録においても、カス付着たスティキングが少なく、かつ、摩耗性が極めて少ないなどの特徴を有する、記録適性の優れた感熱記録紙を造り得ることに成功した。」(第3頁左下欄第7〜17行)
と記載され、
実施例1には発色層中に「水酸化アルミニウム(昭和電工社製、商品名「ハイジライトH-42」)を配合した感熱記録紙が記載されている。

甲第4号証には、
(4a)「通常無色又はやや淡色のロイコ体と、該ロイコ体と熱時反応して発色せしめる有機酸又はフェノール性酸性物質とを発色成分として含有する感熱発色層を支持体上に設けた感熱記録材料において、前記感熱発色層中に、水酸化アルミニウムと、鉱物性ワックスとを含有せしめたことを特徴とする感熱記録材料。」(特許請求の範囲)
(4b)「水酸化アルミニウムは平均粒径が0.1〜1μのものが好ましく、その使用量は前述の発色成分1に対して0.5〜10重量部の割合で用いられるのが良い。」(第3頁左上欄第4〜7行)
(4c)「本発明の感熱記録材料は、ヘッド摩耗も少なく、耐久性も良く、カス付着、画像のゆがみ等がなく、鮮明な画像が得られ、満足のゆく結果となる。」(第3頁右上欄第10〜13行)と記載されている。

甲第5号証には、
(5a)「紙支持体上に電子供与性無色染料前駆体と電子受容性化合物の程色反応を利用した感熱記録層を設け、さらに感熱記録層上に水溶性高分子と顔料からなる保護層を設けた断熱記録材料において、該顔料として平均粒径7.0μm以下の水酸化アルミニウムを保護層の総重量の5〜75重量%添加し、かつ該保護層の乾燥塗布量が1.0〜7.0g/m2であることを特徴とする感熱記録材料。」(特許請求の範囲)と記載され、
(5b)実施例3には、水酸化アルミニウム(昭和軽金属(株);ハイジライトH-42;平均粒径1.0μm)を保護層に用いた感熱記録材料が記載されている。(第6頁右上欄第10行〜右下欄第19行)

甲第6号証には、セディグラフで測定した「ハイジライトH-42」の粒度分布からみて約2μ以上の粒子はほとんど含まれていないこと及び平均粒径が1μmであることが示されている。

4. 対比判断
4.1 特許法第29条第2項違反について
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、マッチング性の改良された感熱記録材料を提供すること、特に詳しくは、保護層を改良することにより、サーマルヘッドによる印字時のカス付着性、スティッキング性が改善され、しかもヘッド摩耗性が低い感熱記録材料を提供することを目的とするものである。(本件明細書【0007】)
これに対し、甲第1号証には、
基体上に、感熱記録層、中間層、オーバーコート層を順次設けた感熱記録体であって、オーバーコート層中には平均粒子径が5μm以下の無機顔料を0.1〜25重量%含有せしめることが記載されている。
そして、該無機顔料の例として、多数の無機顔料名と共に酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムが挙げられているが、実施例には、平均粒子径が0.15〜1μmの範囲にある炭酸カルシウム、カオリン等の酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム以外の無機顔料が用いられている。
したがって、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムをオーバーコート層に含有させるにあたって如何なる平均粒子のものを採用できるのか具体的に記載されてはいない。
甲第1号証のオーバーコート層は本件発明の「保護層」に相当する。
そこで、本件発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、
「支持体上に熱により呈色する感熱発色層を設け、更に該感熱発色層上に樹脂及び充填剤を主成分とする保護層を設けてなる感熱記録材料において、該保護層中の充填剤が水酸化アルミニウム又は酸化アルミニウムを保護層固形分の10〜25重量%用いた感熱記録材料」で一致し、次の点で相違する。
保護層中の充填剤として、本件発明が、「マイクロトラック法による体積平均粒子径が1μm以下であり、しかも粒子径4μm以下の粒子が90(体積)%以上を占める水酸化アルミニウム又は/及び酸化アルミニウムを用いた」のに対し、
甲第1号証に記載の発明では、「平均粒径が5μm以下の水酸化アルミニウム又は酸化アルミニウムを用いる」ことが示唆されているにすぎず、平均粒子径が如何なる方法で測定されたのか、粒径が体積平均値であるか否か、平均粒子径が4μm以下の粒子が占める割合、については明記されていない。
そこで、甲第2ないし4号証及び甲第6号証を検討する。
甲第2号証には、支持体、感熱発色層、オーバーコート層からなり、該オーバーコート層に水酸化アルミニウムを含有させた感熱記録材が記載されているが水酸化アルミニウムの粒径についての記載はない。
甲第3号証には、発色層中に水酸化アルミニウムを含有させることにより、カス付着やスティッキングが少なく摩耗性が極めて少ない感熱記録紙に関するものであり、水酸化アルミニウムとして、昭和電工社製、商品名「ハイジライトH-42」を用いた実施例が記載されている。
甲第6号証には、「ハイジライトH-42」が、平均粒子径1μmで約2μm以下の粒子はほとんど含まない水酸化アルミニウムであることが示されているが、 セディグラフ法で測定した粒径であり、本件発明のマイクロトラック法とは測定方法が相違する。
そして、粉体の粒度の測定において、同一試料であっても、測定方法の違いによりまた、粒径の定義の違いによって粒の径、粒度分布が異なる値をとることは当業者が熟知するところであり、ここでのセディグラフ法とマイクロトラック法での測定結果が同じになることを推測させる文献は何もない。
したがって、甲第3号証の実施例において使用された「ハイジライトH-42」が、本件発明と同一の粒子特性を有している水酸化アルミニウムであるとすることはできない。
また、甲第3号証は、本件発明の上記相違点に係る粒子特性を有する水酸化アルミニウムが本件発明の上記目的を達成することができることを示唆するものでもない。
甲第4号証には、感熱発色層中に水酸化アルミニウム含有せしめた感熱記録材料が記載され、水酸化アルミニウムが平均粒径0.1〜1μmであることが示されているが、本件発明の上記相違点に係る粒子特性を有する水酸化アルミニウムを記載または示唆するものはない。
以上検討したように、甲第1ないし4号証及び6号証には、本件発明の上記相違点については記載されていないし、該相違点に係る粒子特性を有する水酸化アルミニウム又は/及び酸化アルミニウムが本件発明の上記目的を達成することができることを示唆するものでもない。
したがって、本件発明が、甲第1ないし4号証及び6号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4.2 特許法第29条の2違反について
甲第5号証(特願平2-22682号の出願当初の明細書)には、支持体上に感熱記録層、保護層を有する感熱記録材料に関し、保護層には平均粒径7.0μm以下の水酸化アルミニウムを5〜75重量%含有することが記載されている。
そして、実施例3には、「ハイジライトH-42」(平均粒子径1.0μm)を保護層に含有させた感熱記録材料が記載されている。
「ハイジライトH-42」が本件発明の「マイクロトラック法による体積平均粒子径が1μm以下であり、しかも粒子径4μm以下の粒子が90(体積)%以上を占める水酸化アルミニウム又は/及び酸化アルミニウム」と同一のものであるとすることはできないことは、前項4.1で検討したところであるから、甲第5号証に記載の発明には、本件発明の構成要件である「マイクロトラック法による体積平均粒子径が1μm以下であり、しかも粒子径4μm以下の粒子が90(体積)%以上を占める水酸化アルミニウム又は/及び酸化アルミニウム」が記載されていないこととなるから、本件発明が甲第5号証に記載されているとすることはできない。

4.3 特許法第36条違反について
特許異議申立人は、本件特許明細書には保護層中の水酸化アルミニウム、又は酸化アルミニウムを保護層固形分の10〜50重量%と限定するのにも関わらず、実施例では、50重量%含有する例が記載されているにすぎず、詳細な説明の実施例以外の記載をみても「10〜50重量%」の範囲における作用効果が全く説明されていないので、この数値範囲の臨海的意義が不明瞭であり特許法第36条第4項又は第6項に違反するものと主張する。
しかしながら、明細書段落【0012】には、「アルミニウム化合物の使用量は保護層全固形分に対し5〜90重量%、特に好ましくは10〜50重量%である。」と記載され、アルミニウム化合物が10〜50重量%の範囲内で本件発明の目的が達成できることが示唆されており、更に、同範囲内にある50重量%での実施例が記載されているのであるから、本願発明はアルミニウム化合物が10〜50重量%の範囲内で所期の目的を達成できることはこれらの記載から明らかであり、特許法第36条第4項又は第6項を満たすものである。

5.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により上記の通り決定する
 
異議決定日 2002-07-29 
出願番号 特願平2-411120
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B41M)
P 1 651・ 531- Y (B41M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 裕美  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 植野 浩志
伏見 隆夫
登録日 2001-04-06 
登録番号 特許第3176941号(P3176941)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 感熱記録材料  
代理人 池浦 敏明  

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