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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
管理番号 1062932
異議申立番号 異議1998-75585  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-12-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-11-17 
確定日 2001-05-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第2764702号「血圧監視装置」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2764702号の特許を取り消す。 
理由 1.本件の発明
特許第2764702号の請求項1に係る発明は、平成7年3月16日に出願され、平成10年4月3日にその設定登録がなされ、その後、日本コーリン株式会社より特許異議申立がなされ、平成11年2月9日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年4月26日に特許異議意見書が提出されたものであり、以下のとおりの血圧監視装置である。
「カフを用いて血圧測定を行なう血圧測定手段と、外部からの操作に応じて上記血圧測定手段に測定開始を指示する指示手段と、上記血圧測定手段が測定した血圧値のみを表示する血圧値表示手段と、外部から入力される脈波伝播時間変動分閾値を記憶するメモリと、生体の大動脈側の脈波上の時間間隔検出基準点を検出する時間間隔検出基準点検出手段と、上記大動脈側の脈波より遅れて現われる末梢血管側の脈波を検出する脈波検出手段と、上記時間間隔検出基準点検出手段と上記脈波検出手段とのそれぞれの検出出力に基づき脈波伝播時間を計測する脈波伝播時間計測部と、計測した2つの脈波伝播時間から脈波伝播時間変動分を算出する演算手段と、算出された脈波伝播時間変動分が上記メモリから読み出される脈波伝播時間変動分閾値を超えたか否かを判定する判定手段と、この判定手段の出力および上記指示手段の指示のいずれかに基づいて上記血圧測定手段を制御し、カフによる被験者の血圧測定を行なう制御手段とを有することを特徴とする血圧監視装置。」
2.特許異議の申立ての概要
申立人 日本コーリン株式会社は本件の請求項1に係る発明は甲第1〜5号証の刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨また、本件の請求項1に記載された「外部からの操作に応じて上記血圧測定手段に測定開始を指示する指示手段」及び「上記血圧測定手段が測定した血圧値のみを表示する血圧値表示手段」は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないので、同法第113条第1号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。
甲第1号証:米国特許第4,566,463号明細書(クラス128/682)(以下「刊行物1」という。)
甲第2号証:特開平4-200439号公報 (以下「刊行物2」という。)
甲第3号証:特開昭62-155829号公報
甲第4号証:特開平2-45033号公報
甲第5号証:西独国特許出願公開第2605528号明細書(1977)(以下「刊行物3」という。)
3.取消理由通知の概要
本件の請求項1に係る発明は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである、というものである。
4.特許法第29条第2項について
4-1 刊行物の記載
<刊行物1>
▲1▼生体の末梢部分における血流量の減少は生体の循環器官の異常に正確に対応する点に着目し、カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段を備え、手動測定選択スイッチSW3の操作に応じて血圧測定手段によりカフを用いた血圧測定を行うとともに、指尖脈波検出器により検出された血流信号SIから脈波振幅のピーク値を求め、2つのピーク値の変化率Hrがピーク減少設定器において予め設定された変化率の上限値を越えた場合には、血流量の大幅な減少すなわち循環器官の異常と判定して前記血圧測定手段によりカフを用いた血圧測定を行い、血圧値を表示器に表示する自動血圧測定装置について説明されている。(第5欄第40行乃至第6欄第45行、第9欄第3行乃至第60行、第10欄第14行乃至第31行、第10欄第41行乃至第56行)。
▲2▼上記自動血圧測定装置について、生体の手足または末梢部の動脈における血流量の異常減少…等の循環器官の異常を検出した時に、異常検出手段から異常信号が発生される。そして、血圧測定制御手段において各異常信号の発生毎に予め定められた一連の測定ステップが実行されて、その時の血圧値が測定される。すなわち、手術中または手術後の生体の状態を把握するために、循環器官の異常が発生した時に血圧測定が実行されるのである。循環器官が正常に機能してしている間は不必要な血圧測定が実行されない。したがって、本自動血圧測定装置によれば、生体の血圧測定を生体の異常伏態の発生と関連させずに周期的に行う従来の自動血圧測定装置に比較して、頻繁なカフによる圧迫に起因する不快感が緩和されると説明されている。(第2欄第35行乃至第64行、Fig.3,4)
<刊行物2>
第4頁左上欄第1行乃至右上欄第20行、第4図には、第1図に示す腕時計型血圧データ表示装置の動作の説明として「心電波検出器34は、第1図で説明した心電波検出電極8,及び21(裏蓋21)を有しており、例えばその心電波検出電極8に当てがわれた右手指先と、心電波検出電極21に接触している左手首とから心電波(心電図R波)を検出して、その検出した心電波信号を、制御部33に出力する。また、脈拍検出部35は、第1図で説明したLED5、ホトトランジスタ5、および仕切7を0しており、それらが埋設されている凹面25に当てがわれた右手指先の血液の脈波を感知して、脈拍を検出して、その脈拍信号を制御部33に出力する。この脈流の感知・検出は、血液中のヘモグロビンが特定波長の光を良く吸収する性質を利用しており、即ち、LED5から発した光が前記指先の皮膚表面を透過したのち反射されてホトトランジスタ6に入力するまでの間に、血液中のヘモグロビンから受けた吸収作用により、指先を流れる血液の量に逆比例して減光することを利用して脈拍を検出している。これは、指先を脈流が通過した時は血液の量は多く、その血液の量に応じて、LED5から出た光が多く吸収されるため反射光は少なくなり、ホトトランジスタ6に入力する光量は脈拍に対応して減増する波動を描く。この入力反射光の減増はホトトランジスタ6により電圧信号に変換され、その変換された電圧信号が前記脈拍信号として制御部33に出力されるものである。そして、上記心電波が体内を瞬時に流れる電気信号であり、R波を発生する心臓の脈動と同時刻に体表面に到達して心電波検出部34により検出されるのに対して、一方の脈拍は、血管の形質その他の理由に起因する抵抗を受けて、送り出された脈動の発生時刻より遅れて体表面、即ち、指先に到達して脈拍検出部35により検出される。制御部33は、心電波検出部34から入力する心電波信号と、脈拍検出部35から入力する脈拍信号とに基づいて両者間の時間差(脈拍の遅れ時間)を検出し、その検出された遅れ時間データと、予め設定されている基準データとに基づいて血圧データを算出し、その算出した血圧データをデコーダ・ドライバ部36に出力する。」と記載されている。
4-2 本件の発明と刊行物1、2に記載された発明との対比
(1)本件の請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを比較すると、刊行物1に記載された発明における、「指尖脈波検出器により検出された血流信号SIから脈波振幅のピーク値を求め、2つのピーク値の変化率Hrがピーク減少設定器において予め設定された変化率の上限値を越えた場合には、血流量の大幅な減少すなわち循環器官の異常と判定」すること及び本件の請求項1に係る発明における「算出された脈波伝播時間変動が上記メモリから読み出される脈波伝播時間変動分閾値を超えた」ことは、いずれも血圧値と関連のある生体情報が所定の変動分閾値を超えたことに相当する。そして、刊行物1に記載された発明における「手動測定選択スイッチSW3」は、本件の請求項1に係る発明における「外部からの操作に応じて上記血圧測定手段に測定開始を指示する指示手段」に相当する。また、刊行物1に記載された発明における「手動測定選択スイッチSW3の操作に応じて血圧測定手段によりカフを用いた血圧測定を行うとともに、指尖脈波検出器により検出された血流信号SIから脈波振幅のピーク値を求め、2つのピーク値の変化率Hrがピーク減少設定器において予め設定された変化率の上限値を越えた場合には、血流量の大幅な減少すなわち循環器官の異常と判定して前記血圧測定手段によりカフを用いた血圧測定を行」うことは、本件の請求項1に係る発明における「判定手段の出力および上記指示手段の指示のいずれかに基づいて上記血圧測定手段を制御し、カフによる被験者の血圧測定を行なう」ことに相当する。
(2)してみると、両者は「カフを用いて血圧測定を行なう血圧測定手段と、外部からの操作に応じて上記血圧測定手段に測定開始を指示する指示手段と、上記血圧測定手段が測定した血圧値を表示する血圧値表示手段と、血圧値と関連のある生体情報を検出し、生体情報の変動分を予め記憶した値と比較し、所定の変動分閾値を超えたか否かを判定する判定手段と、この判定手段の出力および上記指示手段の指示のいずれかに基づいて上記血圧測定手段を制御し、カフによる被験者の血圧測定を行なう制御手段とを有することを特徴とする血圧監視装置。」の点で一致する。
そして、血圧と関連し、被検者に測定時の負担をかけない生体情報として、本件の請求項1に係る発明は、生体の大動脈側の脈波上の時間間隔検出基準点を検出する時間間隔検出基準点検出手段と、上記大動脈側の脈波より遅れて現われる末梢血管側の脈波を検出する脈波検出手段からの検出出力に基づく脈波伝播時間を利用しているのに対し、刊行物1に記載された発明では、「指尖脈波検出器により検出された血流信号SIから脈波振幅のピーク値Hを求め」これを生体情報として用いている点で相違する。
4-3 判断
上記相違について検討するに、心電波検出部により検出される心電波(心電図R波信号)(本件の請求項1に係る発明の「時間間隔検出基準点」に相当)と、脈拍検出部により検出される脈拍信号(本件の請求項1に係る発明の「大動脈側の脈波より遅れて現われる末梢血管側の脈波」に相当)とに基づいて、両者間の時間差(本件の請求項1に係る発明の「脈波伝播時間」に相当)を検出し、その時間差と、予め設定された時間差と基準データとの関係を参照して、血圧値を間接的に測定することが刊行物2において公知である。刊行物2に記載された発明における「時間差」は、刊行物1に記載された発明における生体情報と同じく、カフを用いた血圧測定による血圧値を正確に反映するのではなく、カフによる血管への負担を軽減して血圧値を推定するために取得する生体情報である。
してみると、刊行物1に記載された発明における、「指尖脈波検出器により検出された血流信号SIから脈波振幅のピーク値を求め」た生体情報に代えて、刊行物2に記載された時間差(本件の請求項1に係る発明の「脈波伝播時間」に相当)を検出する手段によって検出される時間差を採用することは当業者が容易に想到できたものと認められる。
そして、時間差(本件の請求項1に係る発明の「脈波伝播時間」に相当)を検出する手段を採用することによる効果も、刊行物1,2から予測される範囲のものである。
なお、本件の被申立人は、特許異議意見書において、刊行物2に記載された脈波伝播時間を検出するものに比べて、刊行物1の生体情報は、低血圧状態が続く場合や薬剤使用時には血圧値の異常を正確に反映しない旨主張している。しかし、血圧値の異常を監視する生体情報として、新たに見出した生体情報を選択した場合は別として、血圧値と関連する公知の生体情報を選択する場合には、当業者であれば、血圧値の異常を監視する生体情報としてできる限り血圧値を正確に反映する生体情報を選択することは当然のことである。よって、刊行物2の生体情報が比較的正確に血圧値を反映するという事実は、刊行物2の内容が公知である以上、刊行物1に記載された発明の生体情報として刊行物2に記載された生体情報を適用することを困難にするという根拠とはならない。
6.特許法第17条第2項について
(1)本件の特許明細書に記載された「外部からの操作に応じて上記血圧測定手段に測定開始を指示する指示手段」は、願書に最初に添付された明細書の「【0015】 キー14は、手動操作でカフ2を用いた血圧測定を行なうか、脈波伝播時間変動分閾値△Ts を更新する場合に押される。」という記載に基づくものであり、この記載の事項に含まれる事項である。
(2)また、本件の特許明細書に記載された「上記血圧測定手段が測定した血圧値のみを表示する血圧値表示手段」は、願書に最初に添付された明細書の段落番号【0016】【0017】【0019】【0021】【0023】【0024】に記載されていた事項に基づくものであり、これら記載事項の範囲内のものである。
(3)従って、上記(1)及び(2)を含む補正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定により、なお従前の例によるとされる、改正前の特許法第17条第2項の規定を満たすものである。
7.むすび
以上のとおり、本件の請求項1に係る発明は、刊行物1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
従って、本件の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-07-19 
出願番号 特願平7-56940
審決分類 P 1 651・ 121- Z (A61B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 山本 春樹  
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 新井 重雄
藤原 敬士
登録日 1998-04-03 
登録番号 特許第2764702号(P2764702)
権利者 日本光電工業株式会社
発明の名称 血圧監視装置  
代理人 本田 崇  
代理人 神戸 典和  
代理人 中島 三千雄  
代理人 池田 治幸  

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