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審決分類 審判 全部無効 特174条1項 無効とする。(申立て全部成立) E05C
管理番号 1063562
審判番号 無効2000-35202  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-07-02 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-04-14 
確定日 2002-08-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第2896568号の特許無効審判事件について、併合の審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 無効2000-35202 特許第2896568号の請求項1〜7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。無効2000-35318 特許第2896568号の請求項1〜7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成 7年 7月30日 出願
(優先権主張:特願平6-255990号
優先日:平成6年9月12日、
優先権主張国:日本)
平成 9年12月 3日 審査請求、手続補正(第1回)
平成10年 3月13日 拒絶理由通知
平成10年 4月13日 手続補正書(第2回)
平成10年 7月23日 拒絶理由通知
平成10年 8月21日 手続補正書(第3回)
平成11年 1月22日 特許査定
平成11年 3月12日 設定登録
平成12年 4月14日 審判請求(無効2000-35202)
平成12年 6月14日 審判請求(無効2000-35318)
平成12年 6月16日 答弁書(無効2000-35202)
平成12年 8月19日 答弁書(無効2000-35318)
平成12年 9月11日 弁駁書(無効2000-35202)
平成12年10月31日 答弁書(第2)(無効2000-35202)
平成12年11月14日 答弁書(第3)(無効2000-35202)
平成12年12月18日 弁駁書(無効2000-35318)
平成14年 6月 5日 併合審理通知

第2 本件特許の請求項に係る発明
本件特許の請求項1〜7に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定された次のとおりのものである。
「【請求項1】家具、棚等の本体内に装置本体を固定し、開き戸側に係止具を設け、前記装置本体内に軸支されず突出可能に収納された係止手段が地震時に突出して前記係止具に係止するロック方法において、該係止状態は開き戸がわずかに開かれた位置で開き停止する係止状態である開き戸のロック方法
【請求項2】家具、棚等の本体内に装置本体を固定し、開き戸側に係止具を設け、前記装置本体内に軸支されず突出可能に収納された係止手段が地震の前後方向ゆれに起因して上下方向に突出し前記係止具に係止するロック方法において、該係止状態は開き戸がわずかに開かれた位置で開き停止する係止状態である開き戸のロック方法
【請求項3】収納されている係止手段が地震時に突出する請求項1又は2のロック方法を用いた家具
【請求項4】収納されている係止手段が地震時に突出する請求項1又は2のロック方法を用いた棚
【請求項5】家具、棚等の本体内に固定された装置本体内に軸支されず収納された係止手段が突出することによりわずかに開かれて開き停止した開き戸が閉止位置に戻る際にその開き戸の動きで前記係止手段の突出が戻される開き戸の解除方法
【請求項6】請求項1又は2のロック方法と請求項5の解除方法を用いた家具
【請求項7】請求項1又は2のロック方法と請求項5の解除方法を用いた棚」

第3 請求人の求めた審判
1.無効2000-35202(以下「請求A」という)の請求人株式会社イナックス(以下「請求人A」という)の求めた審判
請求人Aは、以下の(1)〜(8)に示す理由を挙げ、本件出願に係る手続補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「当初明細書」という)に記載された事項の範囲を大きく逸脱して為されたものであって、特許法第17条の2第3項の規定に反する違法な補正であるから、本件特許の請求項1〜7に係る特許は、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とし、審判費用を被請求人の負担とすることを求め、証拠方法として、甲第1〜4号証を提出し、さらに、被請求人の答弁書に対する弁駁書において甲第5、6号証を提出した。
甲第1号証:本件特許の出願時の明細書の抜粋
甲第2号証:特許第2860295号公報
甲第3号証:実用新案登録第3016794号公報
甲第4号証:米国特許第5312143号明細書
甲第5号証:米国特許第5,035,451号明細書の抜粋
甲第6号証:米国特許第5,152,562号明細書の抜粋

[特許法第17条の2第3項の規定に反する理由の概要]
(1)請求項の記載から、当初明細書の請求項に記載の「地震のゆれにより」、「障害物を磁力によりロック位置に保持する」の記載が削除されたことにより、障害物が地震のゆれによらないで移動するものや、障害物(係止手段)を磁力によりロック位置に保持しないものまでが含まれる表現になっているが、当初明細書には、磁力で係止手段をロック位置に保持しするものしか開示されていない。
(2)請求項1、2に記載の「該係止状態は開き戸がわずかに開かれた位置で開き停止する係止状態である」について、当初明細書には、発明の目的、効果との関連においてその構成を思想的、概念的に展開した既述はなく、実施例の記述は、開く方向にも閉じる方向にも移動阻止されているもののみであり、戻り防止しない場合のロックについては全く開示されていない。
(3)請求項5に記載の「開き戸が閉止位置に戻る際にその開き戸の動きで係止手段の突出が戻される」は、当初明細書に記載の「開き戸を押すことによって戻るもの」以外に、開き戸が戻る過程で係止解除するあらゆるものを含む広い概念である。
(4)請求項1記載の「係止手段が地震時に突出して」、請求項2記載の「係止手段が地震の前後方向ゆれに起因して上下方向に突出」には、当初明細書に記載の係止体が地震のゆれそのものにより移動するもの以外に、地震センサによりロック棒が電磁的吸引力で突出する場合や、ばねの力で移動する場合等、地震時に係止体が突出するあらゆる場合が含むかのような記載となっている。
(5)請求項1、2に記載の「装置本体内に軸支されず突出可能に収納された係止手段が・・・突出して前記係止具に係止」、請求項5に記載の「装置本体内に軸支されず収納された係止手段が突出することにより」は、当初明細書に記載の、係止体(14)がローラー(15)上に支持され地震のゆれで突出するものだけでなく、それ以外の装置本体内に軸支されず突出可能に収納された係止手段のあらゆるものを含む表現になっている。
(6)請求項5の記載は、地震の際のロックの解除とは全く関係のない内容となっており、対象を著しく拡大している。
(7)請求項1、2に記載の「係止手段が・・・係止具に係止する」は、係止具の形態や係止具に対する係止体の係止の仕方について限定が付されておらず、当初明細書に記載された内容を拡大するものである。
(8)請求項3、4、6、7の記載は新規事項を含む請求項1、2を引用した記載となっているからこれらの請求項の記載も新規事項を含んだ内容のものである。

2.無効2000-35318(以下「請求B」という)の請求人株式会社奥田製作所及び株式会社カワノ(以下「請求人B」という)の求めた審判
請求人Bは、以下の(1)〜(9)の理由により、本件特許の請求項1〜7に係る特許を無効とし、審判費用を被請求人の負担とすることを求め、証拠として甲第1〜15号証及び検甲第1号証を提出し、さらに、被請求人の答弁書に対する弁駁書において参考資料1、2を提出した。

[請求人Bの主張する無効理由の概要]
(1)第1の無効理由
本件請求項1〜4に係る発明は、本件特許の優先日よりも前に出願され本件出願後に国際公開された甲第3号証(WO96/01935)に記載の発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきである。
(2)第2の無効理由
本件特許請求の範囲には、単なる目的又は課題のみが記載されており、係る課題を解決するための具体的手段が不明であるので、本件方法の発明は未完成であり、本件請求項1〜7に係る特許は、特許法第29条柱書きの「発明」を構成しないから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(3)第3の無効理由
本件特許は、明細書の記載が不備であるから特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、本件請求項1〜7に係る特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。
(4)第4の無効理由
本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、本件請求項1〜7に係る特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。
(5)第5の無効理由
本件請求項1、2、5に係る特許は、願書に最初に添付された明細書及び図面(甲第5号証)に記載された事項の範囲内にないものを包含していること、及び本件特許に関して、被請求人が提訴(甲第2号証)した特許侵害差止等請求事件におけるイ号物件に関し、イ号物件のロック原理や解除原理が本件特許発明の範囲に含まれるとの被告の主張(甲第4号証)を勘案すると、本件請求項1〜7に係る特許は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていない補正がなされた特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきである。
(6)第6の無効理由
被請求人の別の出願に係る特許であって、4つの特許出願(甲第7、8号証他)に基づく国内優先権主張を伴った特許第2873441号公報(甲第6号証)に係る特許の特許法第39条の規定の適用についての判断基準日は、特願平7-201255号(甲第8号証)の出願日である平成7年7月4日であり、本件特許発明は優先権に係る先の出願(甲第9号証)には記載されていなかったものであるから、特許法第39条の規定の適用についての判断基準日は現実の出願日である平成7年7月30日である。
そして、本件の請求項1、3〜7に係る発明は、特許第2873441号公報(甲第6号証)に記載の発明と同一であるから、請求項1、3〜7に係る特許は、特許法第39条第1項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(7)第7の無効理由
(a) 本件請求項1〜7に係る発明は、特公昭62-36112号公報(甲第11号証)に記載の発明であるから、本件請求項1〜7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(b)本件請求項1〜4に係る発明は、米国特許第5,152,562号明細書(甲第12号証)又は米国特許第5,312,143号明細書(甲第13号証)に記載の発明であるから、本件請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(8)第8の無効理由
(a) 本件請求項1〜7に係る発明は、特公昭62-36112号公報(甲第11号証)の記載に基いて、当業者が容易に発明することができたものであり、本件請求項1〜7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(b)本件請求項1〜4に係る発明は、米国特許第5,152,562号明細書(甲第12号証)又は米国特許第5,312,143号明細書(甲第13号証)の記載に基いて、当業者が容易に発明することができたものであり、本件請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(c) 本件請求項1〜7に係る発明は、米国特許第5,035,451号明細書(甲第14号証)の記載に基いて、当業者が容易に発明することができたものであり、本件請求項1〜7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(9)第9の無効理由
本件特許発明に関し、特許法第29条の2の規定の適用についての判断基準日は上記「第6の無効理由」で述べた理由により、現実の出願日である平成7年7月30日であり、本件請求項1〜4に係る発明は、本件特許の29条の2の規定の判断基準日よりも前に出願され本件出願後に公開された登録実用新案第3016794号公報(甲第15号証)に記載の考案と同一であるから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条の2の規定違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

第3 被請求人の主張
1.請求人Aの主張に対して
被請求人は、概略次の(1)、(2)のように主張し、無効審判請求は理由なし、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として乙第1〜17号証を提出した。
(1)請求項記載の用語、文言は、図5、6に基づく実施例の記載等、当初の明細書の記載から一義的に導かれる表現であり、新規事項(New Matter)を持ち込んだことにはならない。 (2)請求人は実施例に含まれる不必要な構成要件を省略して発明を把握し特許請求の範囲として表現することを認めた特許法第36条の問題と新規事項(New Matter)を補正によって付加することを禁止する特許法第17条の2第3項の問題を混同している。また、請求人は、特許法第17条の2第3項の新規事項(New Matter)の付加の禁止という原則は当初の明細書に記載されていなかった新たな事項を持ち込んではならないという原則であって実施例に抽象化された発明の表現手段としての特許請求の範囲の説明的又は簡略的な表現を禁止する趣旨ではないことを理解していない。

2.請求人Bの主張に対して
被請求人は、概略次の(A)〜(D)のように主張し、無効審判請求は理由なし、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として乙第1〜22号証を提出した。
(A)特許法第29条第1項第3号第29条第2項及び第29条の2(第1、7、8、9の無効理由)に対して
甲第3、11〜15号証のいずれの文献も、本件請求項1に係る発明の構成の一部を開示しているに過ぎずそれらを寄せ集めても無効理由に到底ならない程度のものである。
(B)特許法第29条第1項柱書き及び第36条第6項第2号(第2、3の無効理由)に対して
本件特許の特許請求の範囲は極めて明確であり発明として必要な構成は記載されている。
(C)特許法第36条第6項第1号及び第17条の2第3項(第4、5の無効理由)に対して
請求Aに対する答弁書における主張(上記第3 1.参照)を引用し、請求人の主張は理由がないと主張している。
(D)特許法第39条第1項第3号(第6の無効理由)に対して
本件特許の請求項1及び請求項5の発明はその優先日において先願の被請求人の別特許第2873441号の請求項3の発明に対して「軸支されず」という効果を伴った構成要件による限定発明又は選択発明になるのであって、ダブルパテントではない。
本件特許の請求項3、4、6、7は従属クレームであるが、前述と同様の理由で先願の特許第2873441号の請求項6、7のダブルパテントではない。

第4 当審における判断
1.請求Aにおける具体的理由(1)、(2)の主張及び請求Bにおける「第5の無効理由」の主張は共通する点があるから、これらについてまとめて検討する。

2.請求人A及び請求人Bは、本件出願に係る手続補正が、特許法第17条の2第3項の規定に反するとする具体的理由として、本件特許の請求項1、2の「係止状態は開き戸がわずかに開かれた位置で開き停止する係止状態」との概念には、当初明細書に記載の「障害物を磁力によりロック位置に保持する」以外のものまで含むものとなっているから、当初明細書に記載された事項の範囲内のものとはいえない点を主張している。

3.当初明細書の記載事項
本件特許の請求項1、2の「開き停止する係止状態」に関し、当初明細書(請求Bの甲第5号証参照)には、以下の記載が認められる。
ア.「家具、住宅、棚等に固定された装置本体に動き可能に支持された障害物が地震等のゆれにより移動し開き戸の開放を阻止するロック装置において該障害物を磁力によりロック位置に保持する開き戸のロック保持方法」(【請求項1】)
イ.「【従来の技術】従来において地震等の際に開き戸をロックする開き戸の地震時ロック装置においてそのロックを確実に保持するロック保持方法の開発が求められていた。
【発明が解決しようとする課題】本発明は以上の従来の課題を解決し地震等の際に開き戸をロックする開き戸の地震時ロック装置においてそのロックを確実に保持するロック保持方法の提供を目的とする。」(【0003】〜【0004】)
ウ.「地震が起きた場合にはばね手段(1)は振動し一定以上の振幅になると磁石(2)は本体側金具(4)に吸着する。これにより突状体(8)は対象物側金具(6)の係止手段(7)としての孔に嵌入されこれをロックする。この結果開き戸(61)(62)はマグネットキャッチ(40)のマグネット(44)の吸着力では地震に耐えられず開こうとしても突状体(8)のロックで開くことはない。以上で明らかな通り家具、住宅、棚等の本体(91)に固定された装置本体(41)に動き可能に支持された障害物としての突状体(8)が地震等のゆれにより移動し開き戸(61)(62)の開放を阻止するロック装置において該障害物は磁石(2)の磁力によりロック位置に保持されているのである。以上で明らかな通り家具、住宅、棚等の本体(91)に固定された装置本体(41)に動き可能に支持された障害物としての突状体(8)が地震等のゆれにより移動し開き戸(61)(62)の開放を阻止するロック装置において該障害物は磁石(2)の磁力によりロック位置に保持されているのである。磁石(2)の磁力に直接ロック力を負担させているのではなくロック位置を磁石(2)の磁力で保持しているのである。」(【0005】)
エ.「図3及び図4は以上の実施例で説明した磁石(2)が直接ロック力を負担するのではなくロック位置を磁力により保持している旨の原理を理解するための装置を示し、該装置はばね手段(1)(図示のものは板ばね)の一端に取り付けられた磁石(2)を有する。・・・該突状体(8)としてのねじは磁石(2)の下方へと突出し鋼等の磁性体(磁石にくっつく材料)で作られた本体側金具(4)の係止手段(5)としての孔の上方に位置決めされる。・・・次に地震等の振動が起きるとばね手段(1)は振動を始めてゆれが大きければ振動も大きくなる。一定以上の振幅になると磁石(2)は本体側金具(4)に吸着する(振動は吸着で終了する)。これにより突状体(8)としてのねじは図4に示す様に本体側金具(4)の係止手段(5)と対象物側金具(6)の係止手段(7)を貫通した状態となる。この突状体(8)の状態は磁石(2)で保持されその保持状態において係止手段(7)が動こうとすると突状体(8)は係止手段(5)と係止手段(7)の両者に当接して動き路方向の剪断力を受ける。」(【0007】)
オ.「次に図5及び図6は本発明のロック保持方法が組み込まれた他の開き戸の地震時ロック装置を示し、該開き戸の地震時ロック装置は本体(13)内に係止体(14)が前後移動可能にローラー(15)上に支持されている。開き戸の地震時ロック装置は図6に示す様に家具、住宅、棚等の本体(91)の天板下面等にその本体(13)が取り付けられる。地震の際には図5(初期状態)から本体(13)内の係止体(14)が前方に移動し図6に示されている様に開き戸(61)の係止具(16)の凹所(17)に係止される。係止具(16)の凹所(17)には磁石(17a)が設けられ係止体(14)の先下端が吸着してロック状態が保持される。すなわち開き戸(61)の開放を阻止するロック位置において障害物としての係止体(14)を磁力により吸着保持し開き戸(61)のロック状態を保持するのである。ロック解除は開き戸(61)を強い(地震時の開き戸(61)にかかる加速度による戻り力以上の)力で押すことにより係止体(14)がばね(19)を押し縮めていきそれを通過させて慣性で係止体(14)を図5(初期状態)の状態に復帰させる。・・・次に図7及び図8は本発明のロック保持方法が組み込まれた他の開き戸の地震時ロック装置を示し、該開き戸の地震時ロック装置は図5及び図6と比較し次の特徴を有する。すなわち本体(13)の正面にマグネット(44)が設けられマグネットキャッチ機能により係止体(14)が地震等の際にロック位置に移動するまで開き戸(61)を静止させておくのである。」(【0008】)
カ.「(1)本発明の開き戸のロック保持方法は特に開き戸の開放を阻止するロック位置において障害物を磁力によりロック位置に保持するため確実なロックが可能になる。(2)本発明の開き戸のロック保持方法は特に開き戸の開放を阻止するロック位置において障害物を磁力によりロック位置に保持するためコンパクトに構成可能である。」(【0009】)
キ.図6には、開き戸(61)が本体(91)よりわずかに離れた状態、すなわちわずかに開かれた状態で、係止体(14)が磁石(17a)に吸着され、さらに係止体(14)の前端は装置本体の前端(開口側)の垂下部に当接し、後端はバネ(19)に当接し、開き戸の移動が阻止されている状態が示されている。
図7には、装置本体(13)の正面にマグネット(44)が設けられ、開き戸(61)が本体(91)よりわずかに離れた状態、すなわちわずかに開かれた状態で、係止体(14)が磁石(17a)に吸着され、さらに係止体(14)の前端は装置本体の前端(開口側)の垂下部に当接し、後端はバネ(19)に当接し、開き戸の移動が阻止されている状態が示されている。

4.以上の記載によれば、当初明細書において「開き戸がわずかに開かれた位置で開き停止する係止状態」として具体的に開示されたものは、図5、6の実施例及び図7、8の実施例に示された、「係止体が磁力によりロック位置に保持され、開き戸がわずかに開かれた位置で、係止体の前端は装置本体の前端の垂下部に当接し、後端はバネに当接し、開き戸は地震のゆれ程度では、開く方向にも閉じる方向にも移動が阻止される」もののみであり、図1、2に示された実施例、図3、4に示された原理の説明においては、「装置本体のバネ手段が磁力により本体側金具に保持され、バネ手段前端の突状体が開き戸の係止手段に係止し、地震のゆれによる開き戸の移動が阻止される」ものが示されているものの、当初明細書において「開き停止する係止状態」として開示されているのは、「係止体が磁力によりロック位置に保持され、地震のゆれによる開き戸の移動が阻止される係止状態」のみであり、その他の「開き停止する係止状態」については、当初明細書に何ら記載されていない。
一方、本件請求項1、2に記載された「開き戸がわずかに開かれた位置で開き停止する係止状態」という事項には、「係止体が磁力によりロック位置に保持され、開き戸がわずかに開かれた位置で、地震のゆれによる開き戸の移動が阻止される」もの以外に、例えば請求Aの甲第2〜4号証、請求Bの甲第3、12、15号証に記載のように、係止体が磁力以外の手段によりロック位置に保持されるもの、「開き戸」の開き方向への移動は一定位置で停止するが、閉じる方向への一定の移動は許容される係止状態、すなわち「開き戸がばたつく係止状態」のものをも包含することとなるのであり、このことは、被請求人自身、請求Bの甲第2号証において、本体側の係止手段が開き戸の係止具に係合し開き戸がばたつく係止状態となる、請求人Bの実施するイ号物件が、本件請求項1、2に係る特許の技術的範囲に含まれていると主張していることからも明らかである。
しかし、そのような「磁力以外の手段による保持」、「開き戸がばたつく係止状態」は、上記のとおり当初明細書には示されておらず、本件請求項1、2に記載された「開き戸がわずかに開かれた位置で開き停止する係止状態」という事項は、当初明細書に記載された事項の範囲内とすることはできない。
したがって、本件特許の請求項1、2に記載された事項は、当初明細書に記載された事項の範囲内ではなく、本件請求項1〜7に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第1号に該当する。

5.被請求人の主張に対して
被請求人は、上記第3 1.に示したように、出願人が不必要と判断した構成要件を省略して発明を把握した上で該発明を特許請求の範囲にすることは特許法第17条の2第3項の新規事項の問題とはならない旨主張する。
しかしながら、本件の当初明細書に記載された発明は、上記4.で述べたとおり、「係止体(障害物)が磁力によりロック位置に保持され、開き戸がわずかに開かれた位置で移動が阻止される」ものであり、当初明細書には、それにより、上記3.カに記載された特有の作用効果を奏することが記載されている。
そうすると、当初明細書においては、係止体(障害物)を磁力以外の手段で保持することは開示されておらず、請求項1に記載の「障害物を磁力によりロック位置に保持する開き戸のロック保持」は、被請求人が主張するような不必要な構成要件とみることはできない。
そして、上記4.で述べたように「開き戸がわずかに開かれた位置で開き停止する係止状態」ことを発明を特定する事項としたことにより、本件請求項1、2に係る発明は、当初明細書に記載されていない事項を包含するものとなる。
なお、明細書又は図面の補正は、当初明細書の記載事項の範囲内でなければならないという特許法第17条の2第3項の規定は、特許法第36条の規定とは別の問題であり、当初明細書に記載の発明を上位概念で表現したことにより、当初明細書の記載事項内でない事項を含むことになる明細書又は図面の補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

第5 むすび
以上のとおり、請求Aの他の無効理由及び請求Bの他の無効理由について検討するまでもなく、本件請求項1〜7に係る特許は、無効とすべきものである。
審判に関する費用については特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-06-18 
結審通知日 2002-06-21 
審決日 2002-07-02 
出願番号 特願平7-225669
審決分類 P 1 112・ 55- Z (E05C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 南澤 弘明  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 山口 由木
長島 和子
登録日 1999-03-12 
登録番号 特許第2896568号(P2896568)
発明の名称 開き戸のロック方法  
代理人 吉田 和夫  
代理人 中村 敬  
代理人 安田 敏雄  
代理人 安田 敏雄  

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