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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1063627
審判番号 不服2000-7888  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-04-11 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-05-25 
確定日 2002-08-15 
事件の表示 平成10年特許願第275300号「電気電子器具の内部構造」[平成12年4月11日出願公開(特開2000-106495号)]拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.[手続の経緯と本願の発明]
本願は、平成10年9月29日の出願であって、その出願に係る発明は、平成11年9月16日付、平成14年3月25日付の各手続補正に係る明細書における、特許請求の範囲の請求項1〜7のそれぞれに記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。
【請求項1】「発熱性電子素子を内部に備えた電気電子器具の内部構造であって、
前記電気電子器具の筐体のうち該電気電子器具の使用者と接触する人体接触箇所の内面に配置された断熱部材と、
前記断熱部材と前記発熱性電子素子との間にて両者に接触した状態且つ前記筐体に接触しない状態で配置された熱伝導部材と
を備えたことを特徴とする電気電子器具の内部構造。」(この請求項1に係る発明を、以下、「本願発明」という)
【請求項2】 前記人体接触箇所がノートパソコンのパームレスト部又はビデオカメラの筐体の把手部であることを特徴とする請求項1記載の電気電子器具の内部構造。
【請求項3】 前記熱伝導部材は、該熱伝導部材に蓄積された熱を放熱するための放熱部材を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の電気電子器具の内部構造。
【請求項4】 前記放熱部材は、前記熱伝導部材の外周に設けられていることを特徴とする請求項3記載の電気電子器具の内部構造。
【請求項5】 前記放熱部材は、前記熱伝導部材の内部を通過するヒートパイプであることを特徴とする請求項3記載の電気電子器具の内部構造。
【請求項6】 前記断熱部材は、セラミック系繊維、ガラス繊維又は多孔質体によって形成された部分を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電気電子器具の内部構造。
【請求項7】 前記熱伝導部材は、熱伝導性シリコーンによって形成された部分を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電気電子器具の内部構造。

2.[引用例とその記載事項の概要]
これに対して、当審における、平成14年1月22日付の拒絶理由通知で引用された、本願の出願前の頒布に係る刊行物とその記載事項の概要は次のとおりである。
第1引用例:特開平4-354010号公報
第2引用例:特開平8-167433号公報
(1)上記第1引用例には、次のア〜オの記載があり、また、同引用例に図示されたところから、カの認定ができる。
ア 「図1はノートブック形の小型コンピュータの前面部斜視図である。キーボード4等が搭載された筺体1の前面部に外気の入気孔5が設けられており、後面部に排気孔6が設けられている。また、ディスプレイ3を囲む外板2の上面部には排気孔7が設けられている。ディスプレイ部は回転部8を中心として前後に自由に動くことができる。図2は図1の例の裏面部斜視図を示したものである。前記ディスプレイ部にも通気孔7,9が設けられており、外気は入気孔9より入り、排気孔7より放出される。図3は図1の縦断面であり、図4は図3のA-A横断面である。ここで、LSIチップ12を搭載する基板11は、柔軟構造の熱伝導部材13を介して高温放熱体14と熱的に結合されている。」(段落番号【0007】)
イ 「柔軟構造の熱伝導部材13は、」「例えば、ポリエチレンもしくはポリプロピレン等の絶縁性樹脂をアルミ箔の両面に薄くフィルム状に積層してなるシートで作られたパック(袋)内に熱伝導性グリース、熱伝導性シリコン油もしくはフロリナート液等の良熱伝導性の液を封入したもの、あるいは、上記パック内にパックの両内面間に亘る金属コイルばね、コ字形金属板ばね、金属たわしの如き金属ウールを上記液と共に封入したものである。」(段落番号【0008】)
ウ 「図7は前記高温放熱体14の一部をヒートパイプ20で構成した例であり、図8にそのB-B断面を示す。周知の如く、ヒートパイプは、内部に毛細管物質を施し、部分真空中に少量の液体を封入した金属製密封パイプよりなり、液体の蒸発によってパイプの1端から熱を吸収し、蒸気の凝縮によってパイプの他端で熱を放出するものである。」(段落番号【0012】)
エ 「図23、図24は、筺体1内部に挿入してLSIからの発熱を効率良く放熱体に伝えるための柔軟構造の熱伝導部材13に関し、その性能を向上させるための機構に関する。」
「なお、本実施例では、熱伝導部材13はキーボードとディスプレイ外板2との間の筺体1の部分に接しており、該筺体部分が放熱体としての機能を果たしている。これは、筺体1の上記部分は一般にコンピュータ使用中に人が触れない部分であるから、この部分を放熱体としても用いても差支えないとの考慮に基づく。」(段落番号【0018】)
オ 「図26は、図23,24の実施例において、入気孔5、その他、図1,2の実施例の如く、適所に入気孔および排気孔を設け、筺体1に接していない熱伝導部材13を入排気による空気で放熱する様にした実施例を示す。」(段落番号【0020】)
カ 図26において、ノートブック型の小型コンピュータの筺体1の内部にLSIチップ12が設けられ、このLSIチップ12に熱伝導部材13が接触している点、及び、上記熱伝導部材13との間に空間を介してキーボード4及びキーボード4前面部分が配置されている点が認められる。
(2)また、上記第2引用例には、次の記載がある。
「PCTサーミスタをフィルム状断熱材で包んだ状態でバッテリケース内に具備するようにして、過電流によるPCTサーミスタのジュール熱がケース及びバッテリーに伝わり難くする。」(段落番号【0008】)
「保護素子の発熱が断熱材によりバッテリーケース及びバッテリーに伝わり難くなり、」「また、バッテリーケースの溶融を防止でき、火傷等の危険防止にもなる。」(段落番号【0016】)

3.[発明の対比]
本願発明(請求項1の発明)の構成事項と第1引用例に記載された事項とを対比する。
上記エ及びオとして摘示したところからみて、第1引用例に記載されている「LSIチップ12」は「発熱性電子素子」であることが明らかであり、「内部にLSIチップ12が設けられ」た「小型コンピュータの筺体」は、本願発明でいう「発熱性電子素子を内部に備えた」「電気電子器具の筐体」に相当する。
そして、第1引用例記載の「キーボード」やキーボードの「前面部分」は「人体接触箇所」であって、図26に示された、上記カで指摘する、熱伝導部材13とキーボード等との間に介在している「空間」が、本願発明における「断熱部材」と同様に、人体接触箇所の内面に配置された断熱機能部を構成していることは自明である。
更に、図26に関する上記オの記載に加えて、上記カの認定をあわせ参酌すると、第1引用例には、小型コンピュータの筐体の内部構造に関して、上記の「空間」と「LSIチップ12」との間にあって、両者に接触している「熱伝導部材13」が、「筺体1に接していない」状態で配置されることが開示されているといえる。
したがって、本願発明と引用例記載の発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点> 「発熱性電子素子を内部に備えた電気電子器具の内部構造であって、
前記電気電子器具の筐体のうち該電気電子器具の使用者と接触する人体接触箇所の内面に配置された断熱機能部と、
前記断熱機能部と前記発熱性電子素子との間にて両者に接触した状態且つ前記筐体に接触しない状態で配置された熱伝導部材と
を備えた電気電子器具の内部構造」である点。
<相違点> 前記人体接触個所の内面に配置された断熱機能部が、本願発明では「断熱部材」であるのに対して、引用例1に記載された発明では「空間」である点。

4.[相違点の検討]
(1)断熱機能部を「空間」とするか、(空気以外の)「断熱部材」とするかは当業者が適宜決定するべき通常の選択的設計事項である。(この点については、実開昭63-10962号公報、実願平2-3903号(実開平3-96474号)のマイクロフィルム(明細書部分第5頁5〜7行)、特開平2-268235号公報(第3頁左上欄4〜6行、同右上欄14〜15行)の各周知例を参照されたい)
したがって、第1引用例に示された、断熱機能部としての「空間部」に代えて、例えば、第2引用例や上記周知例に示された(空気以外の)「断熱部材」を設けたものとすることは、当業者が容易に想到できることであって、格別困難とはいえない。
(2)なお、請求人は、当審で通知した拒絶理由に対する平成14年3月25日付意見書(第5〜6頁)において、(第1引用例に開示されるような)熱伝導部材と筐体の人体接触箇所との間の「空間」では、「伝導による熱移動が発生しないだけであって、対流および放射による熱移動は発生することになるので、筐体の人体接触箇所の温度は上昇」するのに対し、本願発明では「断熱部材」を設けることにより、「伝導による熱移動はもちろんのこと、対流および放射による熱移動をも抑制することで、「空間」以上に断熱を図ることができ」る点で、その「断熱効果に格段の違い」がある旨の主張をしている。
しかし、上記のような作用効果の相違は、上述した「選択的設計事項」に起因する自明のものであって、当業者が通常予測しうる範囲内のものというべきである。
(3)請求人は、更に、上記の主張に続いて、第1引用例に示されている上記の「空間」が「断熱機能を有する部分」であることは「当業者にとって自明」とする拒絶理由の見解は必ずしも適切ではなく、むしろ、第1引用例の図3や図12には、「わざわざ「空間」を設けることにより、その「空間」内に生ずる対流を利用した熱移動で放熱を図る技術」が記載されているところから、上記の「空間」は「熱移動機能を有する部分」とみるべき旨の主張もしている。
しかし、上記エとして摘示した「熱伝導部材13はキーボードとディスプレイ外板2との間の筺体1の部分に接しており、該筺体部分が放熱体としての機能を果たしている。これは、筺体1の上記部分は一般にコンピュータ使用中に人が触れない部分であるから、この部分を放熱体として用いても差支えない」という第1引用例の記載からみて、上記の「空間」は「断熱機能」をも果たすべきものとして配されていることが明らかである。しかも、「熱伝導部材13」の放熱は、後述するヒートパイプ等、対流のための「空間」を必要としない手段によっても図れるのであるから、第1引用例中に、図3や図12のような、「対流を利用」して熱伝導部材を放熱をする実施例の開示があるからといって、上記の「空間」に代えて、(空気以外の)「断熱部材」を設けたものとすることの絶対的な阻害要因となるわけではない。

5.[請求項2以下の発明について]
(1)第1引用例には、「LSIチップ12を搭載する基板11は、柔軟構造の熱伝導部材13を介して高温放熱体14と熱的に結合されている」こと(上記ア)、「高温放熱体14の一部をヒートパイプ20で構成」すること(上記ウ)、熱伝導部材としては、「パック(袋)内に熱伝導性グリース、熱伝導性シリコン油」を封入したものがあること(上記イ)、が記載されている。
(2)請求項2の発明では、「人体接触箇所」が「パソコンのパームレスト部又はビデオカメラの筐体の把手部」であることが規定されるが、当該パームレスト部や把手部の過熱状態が好ましくないことは明らかであって、そのような部分の断熱を図ることは格別困難とはいえない。
(3)請求項3の発明は、熱伝導部材が「該熱伝導部材に蓄積された熱を放熱するための放熱部材を備えている」構成を備えるものであるが、このような構成は、上述のとおり、第1引用例(上記ア)に実質上開示されている。
(4)請求項4の発明では、「前記放熱部材は、前記熱伝導部材の外周に設けられていること」が規定されているが、このようなことは、常識的な設計事項である。
(5)請求項5の発明に係る「ヒートパイプ」については、上述のとおり、第1引用例(上記ウ)に開示がある。
(6)請求項6の発明で規定される、断熱部材を「セラミック系繊維、ガラス繊維又は多孔質体によって形成」することは、当該技術分野において周知・慣用の技術事項である。
(7)請求項7の発明に係る「前記熱伝導部材は、熱伝導性シリコーンによって形成された部分を有すること」については、上述のとおり、第1引用例(上記イ)に実質上開示されている。
(8)以上の指摘から明らかなように、請求項2以下の発明も、本願発明と同様に、第1引用例及び第2引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.[むすび]
以上のとおり、本願発明及び本願請求項2以下の発明は、いずれも、上記の各引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願の上記各発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-06-12 
結審通知日 2002-06-18 
審決日 2002-07-01 
出願番号 特願平10-275300
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 千葉 成就中島 成  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 藤井 昇
ぬで島 慎二
発明の名称 電気電子器具の内部構造  
代理人 田中 敏博  
代理人 足立 勉  

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