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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04F
管理番号 1063661
審判番号 不服2000-2769  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-01-11 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-03-02 
確定日 2002-08-14 
事件の表示 平成10年特許願第172459号「張付タイルの剥落防止工法」拒絶査定に対する審判事件[平成12年 1月11日出願公開、特開2000- 8585]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は平成10年6月19日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成11年5月10日付けの手続補正書によって補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】無機質硬化物に張付けられたタイル面の目地部より、前記無機質硬化物の厚み方向に挿入孔を穿設し、前記挿入孔の穿設後に挿入孔の内部に樹脂を充填し、前記樹脂の充填後に、フレキシビリティを有するヘアピン状の2又形状軸体を前記挿入孔に圧入するとともに2又形状軸体の折曲げた膨出部が前記目地部内に突出するように定着し、前記2又形状軸体の定着後に目地部に沿い鋼線を配設するとともに前記鋼線を膨出部に遊嵌状に張架し、前記鋼線を目地部に張架した後に目地充填をして前記膨出部や鋼線を埋設するようにした、ことを特徴とする張付タイルの剥落防止工法。」
なお、平成12年4月3日付けでされた手続補正は、却下された。

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前の平成4年3月5日に頒布された特開平4-70473号公報(以下、「引用例1」という。)には、
(a)「コンクリート躯体に貼設されたタイル層におけるタイル目地部より、前記コンクリート躯体内に打込ピンを同ピンの先端部が前記目地部内に突出するように圧入、定着し、前記打込ピンの突出先端部間に亘って鋼線を張架することを特徴とするタイルの剥落防止工法。」(特許請求の範囲請求項1)、
(b)「(1)はコンクリート外壁、(2)は同外壁(1)の表面に接着モルタル(3)を介して貼設されたタイル、(4)は同タイル(2)の浮上りによって生じたタイルと外壁との間に生起した空隙部である。而して壁面からの浮上りを生起した前記タイル(2)の収縮目地をカッターで切断し、タイル(2)の目地部(5)より前記コンクリート外壁(1)に打込ピン(6)を、同ピンの先端部が目地部(5)内に突出するように圧入する。第5図は前記打込ピン(6)を示し、同ピンの主体を構成する円筒状片の先端部には軸方向に延びる割截部(7)が設けられ、同割截部(7)の端部には鋼線保持用凹部(8)が連設されている。更に前記円筒状片の基端部には軸線方向に延びる複数の割截溝(9)が設けられ、円筒状片における同割截溝(9)部分に楔片(10)が嵌挿され、前記打込ピン(6)をタイル目地部よりコンクリート外壁(1)に圧入すると、楔片(10)が円筒状片に楔入することによって、前記割截溝(9)によって形成された複数の遊離片(5a)が拡開してコンクリート外壁(1)内に圧入し、同外壁(1)に前記打込ピン(6)が定着されるように構成されている。かくして前記タイル(2)の目地部(5)よりコンクリート外壁(1)に打込ピン(6)を圧入して同外壁(1)に定着したのち、相隣る打込ピン(6)の目地部(5)内に突出する先端部間に亘って鋼線(11)を配設するとともに、同鋼線(11)を前記打込ピン(6)の割截部(7)に沿って同ピン(6)の軸方向に押込み、同割截部(7)に連設された鋼線保持用凹部(8)に糸巻きの糸端止めのように係止し、かくして相隣る前記打込ピン(6)間に鋼線(11)を張架するものである。(第1図参照)次いで前記目地部(5)に目地モルタルまたはシール(12)を填装するものである。(第2図及び第4図参照)(第2頁右上欄第12行〜右下欄第6行)、
(c)「前記の方法によれば、目地部(5)においてコンクリート外壁(1)に圧入、定着された打込ピン(6)における目地部(5)内に突出する先端部間に張架された鋼線(11)によって、前記目地部(5)内の目地モルタルまたはシール(12)及びタイル(2)裏面の接着モルタル(3)がコンクリート外壁(1)に係止され、タイル(2)の剥落が防止される。」(第2頁右下欄第7〜13行)
と記載され、これらの記載を含む明細書及び図面の記載からみて、引用例1には、「コンクリート外壁に貼設されたタイルの目地部より、前記コンクリート外壁の厚み方向に、打込ピンを圧入するとともに打込ピンの先端部の鋼線保持用凹部が目地部内に突出するように定着し、前記打込ピンの定着後に目地部に沿い鋼線を配設するとともに前記鋼線を鋼線保持用凹部に張架し、前記鋼線を目地部に張架した後に目地モルタルまたはシールを填装して前記鋼線保持用凹部や鋼線を埋設するようにしたタイルの剥落防止工法」の発明が記載されているものと認められる。
また、同じく、本願の出願前の平成8年8月6日に頒布された特開平8-199830号公報(以下、「引用例2」という。)には、
(a)「既存仕上げモルタルの表面よりコンクリート躯体に連続して穿孔した挿入孔・・・に納まる形状、すなわち、フレキシビリティを有したヘアピン状の2又形状軸体の折曲げた膨出部に棒状係止部材を連結したことを特徴とする既存モルタルの剥落防止連結材。」(特許請求の範囲請求項1)、
(b)「既存モルタルの剥落防止連結材1は、・・・平板状の金属鋼材等からなり、フレキシビリティを有するヘアピン状の2又形状に形成し、先端部2は、広がる方向に付勢されていて、他端は略円弧状に折曲げられて膨出部3を形成した軸体4で、該膨出部3に連結形成された棒状係止部材5とから構成されている。また、前記円弧状に折曲げられて形成された膨出部3に鋼材等の金属線からなる直線状の棒状係止部材5を挿入連結して、例えばタイル貼の壁面のメジ部に添わせて直線状の溝を形成した所に挿入して、モルタルを充填して貼り付けタイルの剥落防止を行うもの等が実施例として考えられる。」(段落【0026】【0027】)、
(c)「ヘアピン状の2又形状軸体4は、先端部を縮めた状態にして、一本の棒形状にして、コンクリート躯体Pと既存モルタルMに連続して穿設された挿入孔Hに挿入する。この軸体4は挿入された後、先端部が弾性力によって広がろうとする作用が発生して物理的に強力にコンクリート躯体と既存モルタルを連結するものである。」(段落【0030】)、
(d)「前記棒状係止部材5は、前記軸体4の膨出部3に挿入係合可能な太さの鋼線等の金属丸棒線・・・からなり、その長さは適宜目的に合わせ軸体4の膨出部3に挿入して係合状態とする。そして、該軸体4と棒状係止部材5が、図3に良く示されているように、コンクリート躯体Pと既存モルタルMに連続して穿設された挿入孔H・・・に挿入され、該挿入孔H・・・に接着剤を介して固定される。」(段落【0032】【0033】)、
(e)「第2工程 まず、前記挿入孔H・・・に接着剤Aを充填する。次に、図4に良く示されているように、予め準備してある剥落防止連結材1の軸体4の円弧状に折曲げた膨出部3に棒状連結部材5を連結し、前記挿入孔H・・・に挿入して、接着剤Aを介して固定する。」(段落【0040】【0041】)
と記載され、これらの記載を含む明細書の記載及び図面の記載からみて、引用例2には、「コンクリート躯体に穿設された挿入孔の内部に接着剤を充填し、接着剤の充填後に、フレキシビリティを有するヘアピン状の2又形状軸体を挿入孔に挿入するとともに2又形状軸体の折曲げた膨出部が突出するように定着し、2又形状軸体に鋼線を配設したタイルの剥落防止工法」の発明が記載されているものと認められる。

3.対比、判断
本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明の「コンクリート外壁」、「タイルの目地部」、「目地モルタルまたはシールを填装」及び「タイルの剥落防止工法」は、それぞれ、本願発明の「無機質硬化物」、「タイル面の目地部」、「目地充填」及び「張付タイルの剥落防止工法」に相当し、引用例1記載の発明の「打込ピン」も、本願発明の「2又形状軸体」も「剥落防止用部材」であり、引用例1記載の発明の「鋼線保持用凹部」も、本願発明の「膨出部」も、どちらも剥落防止用部材に設けられた「鋼線保持部」であるから、両者は、
「無機質硬化物に張付けられたタイル面の目地部より、前記無機質硬化物の厚み方向に、剥落防止用部材を圧入するとともに剥落防止用部材の鋼線保持部が目地部内に突出するように定着し、前記剥落防止用部材の定着後に目地部に沿い鋼線を配設するとともに前記鋼線を鋼線保持部に張架し、前記鋼線を目地部に張架した後に目地充填をして前記鋼線保持部や鋼線を埋設するようにした張付タイルの剥落防止工法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:本願発明では、無機質硬化物に挿入孔を穿設し、その挿入孔に剥落防止用部材を圧入しているが、引用例1記載の発明では、挿入孔の有無が明確にされていない点。
相違点2:本願発明の剥落防止用部材は、フレキシビリティを有するヘアピン状の2又形状軸体で、挿入孔に樹脂を充填した後に圧入されるものであり、鋼線保持部として、2又形状軸体の折曲げた膨出部を有しており、鋼線は膨出部に遊嵌状に張架しているのに対し、引用例1記載の発明の剥落防止用部材は、打込ピンであり、鋼線保持部は、鋼線保持用凹部であり、鋼線が鋼線保持用凹部に遊嵌状に張架されているか否か明確にされていない点。

上記相違点について検討する。
相違点1について
引用例1記載の発明の打込ピンのような、主体となる円筒状片の基端部に設けられた軸線方向に延びる複数の割截溝部分に楔片を嵌挿し、圧入の際に、楔片が円筒状片に楔入することによって、割截溝によって形成された複数の遊離片が拡開して対象物に固定される形式の打込ピンを対象物に圧入する際に、予め固定対象物に穿設された挿入孔に圧入し固定することは、本願出願前普通に行われていたことであり(特開平4-209224号公報、特公平5-28296号公報、実願昭62-71197号(実開昭63-178607号)のマイクロフィルム等参照)、引用例1記載の発明において、固定対象物がコンクリート躯体であることを考慮すると、予め穿設された挿入孔を当然備えていたものと認められるので、相違点1に係る本願発明の事項は、引用例1に記載されていたに等しい事項と認められる。したがって、この点は実質的な相違点とは認められない。

相違点2について
引用例2には、コンクリート躯体(本願発明の「無機質硬化物」に相当する。)に穿設された挿入孔の内部に接着剤(本願発明の「樹脂」に相当する。)を充填し、接着剤の充填後に、フレキシビリティを有するヘアピン状の2又形状軸体を挿入孔に挿入するとともに2又形状軸体の折曲げた膨出部が突出するように定着し、2又形状軸体に鋼線を配設したタイルの剥落防止工法の発明が記載されており、引用例2の図1、図5の記載からみて、引用例2記載の発明において、鋼線は膨出部に遊嵌状に張架されているものと認められる。そして、引用例1記載の発明の打込ピンの構成、打込ピンの固定対象物への固定方法、及び、打込ピンと鋼線との相互関係において、引用例2記載の発明の2又形状軸体、2又形状軸体のコンクリート躯体への固定方法、及び、2又形状軸体と鋼線との相互関係を適用して、相違点2に係る本願発明の事項とすることは、当業者が容易になし得るものと認められる。

4.むすび
したがって、本願発明は、引用例1及び2記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-06-06 
結審通知日 2002-06-11 
審決日 2002-06-24 
出願番号 特願平10-172459
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青山 敏長島 和子深草 誠  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 鈴木 公子
蔵野 いづみ
発明の名称 張付タイルの剥落防止工法  
代理人 福田 伸一  
代理人 福田 賢三  
代理人 福田 武通  

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