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審決分類 審判 一部無効 特174条1項 無効とする。(申立て全部成立) E05B
管理番号 1063734
審判番号 無効2000-35319  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-08-06 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-06-14 
確定日 2002-08-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第2926114号の特許無効審判事件について、併合の審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 無効2000-35203 特許第2926114号の請求項1〜9に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。無効2000-35319 特許第2926114号の請求項2、4、5、6、8及び9に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。無効2000-35489 特許第2926114号の請求項1〜9に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成 7年 7月16日 出願
(優先権主張:特願平6-274214号、
優先日:平成6年10月1日)
平成 9年 3月 6日 審査請求・手続補正書(第1回)
平成10年 3月11日 拒絶理由通知
平成10年 4月15日 手続補正書(第2回)
平成10年11月20日 拒絶理由通知
平成10年12月19日 手続補正書(第3回)
平成11年 3月16日 特許査定
平成11年 5月14日 設定登録
平成12年 1月28日 特許異議申立(異議2000-70312)
平成12年 4月14日 審判請求(無効2000-35203)
平成12年 6月14日 審判請求(無効2000-35319)
平成12年 6月16日 答弁書(無効2000-35203)
平成12年 7月11日 取消理由通知(異議2000-70312)
平成12年 8月19日 答弁書(無効2000-35319)
平成12年 9月11日 審判請求(無効2000-35489)
平成12年 9月20日 訂正請求(異議2000-70312)
平成12年10月20日 訂正拒絶理由通知(異議2000-70312)
平成12年10月31日 答弁書(第2回)(無効2000-35203)
平成12年11月14日 答弁書(第3回)(無効2000-35203)
平成12年12月11日 弁駁書(無効2000-35319)
平成12年12月11日 訂正請求書を補正する手続補正書
(異議2000-70312)
平成13年 3月 5日 異議決定(異議2000-70312、
訂正を認める。維持。)
平成13年 4月13日 審尋(無効2000-35489)
平成13年 4月13日 審尋(無効2000-35319、応答無し)
平成13年 6月18日 弁駁書(無効2000-35203)
平成13年 6月18日 回答書(無効2000-35489)
平成13年 9月 3日 答弁書(無効2000-35489)
平成14年 6月12日 併合審理通知

第2.本件発明
本件特許は、平成9年3月6日付け手続補正により【特許請求の範囲】の項と【課題を解決するための手段】の項が補正され、平成10年4月15日付け手続補正により【特許請求の範囲】の項と【課題を解決するための手段】の項が補正され、平成10年12月19日付け手続補正により【特許請求の範囲】の項と【発明の効果】の項が補正され、特許されたものであり、特許時の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである。

「【請求項1】家具、吊り戸棚等の本体内に固定された装置本体の動き可能な係止手段が開き戸の係止具に地震時に振動を経て係止する開き戸の地震時ロック装置
【請求項2】家具、吊り戸棚等の本体内に固定された装置本体に動き可能に係止手段を設け該係止手段が開き戸の係止具に地震時のゆれが原因で振動を伴わず係止するロック方法において開き戸を閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させ開き戸の解除を伴って戻る際に弾性手段の抵抗が作用する開き戸の地震時ロック方法
【請求項3】わずかな開きを保持可能に弾性手段の強さを設定した請求項2の開き戸の地震時ロック方法
【請求項4】請求項1、2又は3を用いた吊り戸棚
【請求項5】請求項1、2又は3を用いた家具
【請求項6】閉じる方向の動きで係止解除される際に弾性手段の抵抗が存在する解除方法を用いた地震時に開き停止される開き戸
【請求項7】閉じる方向の動きで係止解除される際に弾性手段の抵抗が存在する解除方法を用いた地震時に開き停止される開き戸において解除を達成するに十分な距離を確保した隙間を有して地震時に開き停止される開き戸
【請求項8】請求項6又は7を用いた吊り戸棚
【請求項9】請求項6又は7を用いた家具」

本件特許に対する異議申立事件(異議2000-70312)における平成12年9月20日付け訂正請求書(平成12年12月11日付け手続補正で補正された。)でした訂正(以下、本件訂正という。)の内容は、特許時の特許請求の範囲の請求項1を訂正するものであって、平成13年3月5日付けの異議決定で訂正が認められ、当該異議決定は確定しているから、本件発明は、上記訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】家具、吊り戸棚等の本体内に固定された装置本体の動き可能な係止手段が開き戸の係止具に、係止手段を振動開始させるゆれが係止に到る大きさのゆれでない地震の地震時に、振動を経て係止する開き戸の地震時ロック装置において係止した係止具と共に動かず保持される係止手段とした開き戸の地震時ロック装置
【請求項2】家具、吊り戸棚等の本体内に固定された装置本体に動き可能に係止手段を設け該係止手段が開き戸の係止具に地震時のゆれが原因で振動を伴わず係止するロック方法において開き戸を閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させ開き戸の解除を伴って戻る際に弾性手段の抵抗が作用する開き戸の地震時ロック方法
【請求項3】わずかな開きを保持可能に弾性手段の強さを設定した請求項2の開き戸の地震時ロック方法
【請求項4】請求項1、2又は3を用いた吊り戸棚
【請求項5】請求項1、2又は3を用いた家具
【請求項6】閉じる方向の動きで係止解除される際に弾性手段の抵抗が存在する解除方法を用いた地震時に開き停止される開き戸
【請求項7】閉じる方向の動きで係止解除される際に弾性手段の抵抗が存在する解除方法を用いた地震時に開き停止される開き戸において解除を達成するに十分な距離を確保した隙間を有して地震時に開き停止される開き戸
【請求項8】請求項6又は7を用いた吊り戸棚
【請求項9】請求項6又は7を用いた家具」
(以下、請求項1〜9に係る発明を本件発明1〜9といい、訂正前の請求項1〜9に係る発明を本件訂正前発明1〜9という。)

第3.各審判請求の概要・被請求人の答弁等
1.無効2000-35203(以下、「請求A」という。)
(1)請求人「株式会社イナックス」は、審判請求書において、本件訂正前発明1〜9に係る特許は、以下の理由により無効とすべきものである旨主張し、証拠方法として甲第1〜9号証を提出し、さらに下記答弁書に対する弁駁書において参考資料1〜4を提出した。
(ア)本件特許は、上記平成10年12月19日付けの手続補正書(第3回)による補正(以下、本件補正という。)により特許となったものであるが、本件補正は、出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内でしたものとはいえず、新規事項の追加を含むものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
また、本件特許について行われた本件訂正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反して行われた補正がそのまま残存しており、本件発明1〜9に係る特許も無効理由を依然として内包するものである。
(2)被請求人は、上記請求に対して答弁書を3回提出し、請求人の主張する無効理由はない旨反論し、証拠方法として、乙第1〜18号証を提出した。

2.無効2000-35319(以下、「請求B」という。)について
(1)請求人「株式会社奥田製作所」、及び「株式会社カワノ」は、審判請求書において、本件訂正前発明2、4、5、6、8及び9に係る特許は、以下の理由により無効とすべきものである旨主張し、証拠方法として甲第1〜13号証及び検甲第1号証を提出し、さらに下記答弁書に対する弁駁書において参考資料1、2を提出した。
(イ)本件訂正前発明2、4、5、6、8及び9は、未完成発明であり、特許法第29条第1項柱書の規定を満たしておらず、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
(ウ)本件訂正前発明2、4、5、6、8及び9は、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、具体的手段が不明であり、本件特許は、、特許法第36条第6項第1、2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。
(エ)本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであるから、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
(オ)本件訂正前発明2、4、5、6、8及び9は、国内優先権の主張を伴ったものであるが、先の出願に記載されておらず、特許法第39条の規定の適用についての判断基準は、現実の出願日であり、甲6号証に記載の先願発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
(カ)本件訂正前発明2、4、5、6、8及び9は、甲第10号証に記載の発明であり、本件訂正前発明6は、甲第11、12又は13号証に記載の発明であり、あるいは、本件訂正前発明2、4、5、6、8及び9は、甲第10号証に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号あるいは同条第2項の規定に違反するものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
(2)被請求人は、上記請求に対して答弁書を提出し、請求人の主張する無効理由はない旨反論し、証拠方法として、乙第1〜9号証を提出した。

3.無効2000-35489(以下、「請求C」という。)について
(1)請求人「松下電工株式会社」は、審判請求書において、本件訂正前発明1〜9に係る特許は、以下(キ)〜(シ)の理由により無効とすべきものである旨主張し、証拠方法として甲第1号証の1〜甲第8号証を提出した。さらに当審の審尋に対する回答書において、本件発明1〜9に係る特許は、以下(ス)〜(ソ)の理由により無効にすべきものである旨主張し、参考資料を提出した。
(キ)本件訂正前発明1、4、5は、甲第1号証の1あるいは、甲第2号証の1に記載の発明であり、特許法第29条第1項3号の規定に違反するものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
(ク)本件訂正前発明1、4、5は、甲第1号証の1、甲第2号証の1、甲第3号証の1に記載の発明の全部又は一部に基いて、また同発明2〜9は甲第3号証の1及び甲第6号証に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
(ケ)本件訂正前発明1、6、7は、甲第4号証あるいは甲第5号証の出願当初の明細書に記載された発明であり、特許法第29条の2の規定に違反するものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
(コ)本件訂正前発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、また明確でもなく、本件特許は、特許法第36条第4、6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。
(サ)本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであるから、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
(シ)本件訂正前発明1は、甲第7号証の請求項1の後願であり、これの上位概念であり、本件訂正前発明2、6、7は、甲第8号証の請求項1の後願であり、これの上位概念であり、本件訂正前発明3、4、5、8、9は本件訂正前発明1、2、6、7を引用するものであるからそれぞれ特許法第39条第1項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきものである。
(ス)本件発明1、4、5は、甲第1号証の1に記載されたものであって、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するものであるか、甲第1号証の1、甲第2号証の1、参考資料に記載された発明の全部又は一部に基いて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであって、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきものである。
(セ)本件訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する特許法第126条第2項の規定に違反するものであり(回答書では、「特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書き・・・」と記載されているが、上記した趣旨と解される。)、本件特許は、特許法第123条第1項第8号により無効とすべきものである。
(ソ)本件訂正により付加された事項は、特許法第36条第4項、第6項に規定する要件を満たしていないから、特許法第123条第1項第4号により無効とすべきものである。
(2)被請求人は、上記請求に対して答弁書を提出し、請求人の主張する無効理由はない旨反論した。

第4.当審の判断
1.上記請求Aにおける無効理由(ア)についての検討
(1)「弾性手段」について
請求人は、無効理由の1つの具体的事例として、補正により「弾性手段」という文言が加入されたが、「弾性手段」の文言は出願当初明細書の特許請求の範囲には記載がなく、この文言を加入することにより出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲外のものを含むことになる旨述べている。

上記理由について検討するが、本件発明2、6、7は、本件訂正で訂正されておらず、本件訂正前発明2、6、7と同じである。また、本件出願当初明細書に対してなされた補正あるいは訂正は、【特許請求の範囲】の項、【課題を解決するための手段】の項、及び【発明の効果】の項に対してのみであり、明細書のその他の項及び図面は、補正あるいは訂正されていない。
そこで、本件出願当初明細書及び図面を検討する。
本件出願当初明細書の特許請求の範囲の記載は、
「【請求項1】地震のゆれの力で動き可能に支持され開き戸の係止具に係止される係止手段と、閉止状態から開き戸がわずかに開かれた位置で前記係止手段を停止する装置本体の停止部とからなる地震時ロック装置
【請求項2】前後方向の地震のゆれの力で動き可能に支持され開き戸の係止具に係止される係止手段とした請求項1記載の地震時ロック装置
【請求項3】請求項1又は2記載の地震時ロック装置においてわずかに開かれた開き戸を押しその背面の係止手段に動きを伝えて解除する解除方法
【請求項4】請求項1又は2記載の地震時ロック装置においてわずかに開かれた開き戸の隙間から手で操作して解除する解除方法」
であり、「弾性手段」という文言はない。
本件出願当初明細書の【従来の技術】及び【発明が解決しようとする課題】の項には、従来において解除が容易な開き戸の地震時ロック装置は未だ開発されていなかったことから、本発明は以上の従来の課題を解決し解除が容易な開き戸の地震時ロック装置の提供を目的とするとされるのみで(1欄20〜25行、参照箇所については、請求Bにおける甲第4号証として提出された本件特許の公開特許公報を参照。)、特許請求の範囲の「弾性手段」の具体的な解釈の指針となる記載はない。
また、【発明の効果】の項には、本発明の効果として、「開き戸がわずかに開かれた位置でロック状態となるため開き戸を押したり手で操作するだけで容易にロックが解除される」ことなどが記載されているが、「弾性手段」に直接触れた記述はない。
本件発明2、6、7の「弾性手段」に関して、本件出願当初明細書の【実施例】の項には、以下の記載がある。
「一方係止手段(4)の戻り路に弾性手段(6)が設けられている。」(1欄43〜44行)
「当然のことながらゆれの力は開き戸(2)を閉じる方向にも作用するがロック位置で係止手段(4)は装置本体(3)の弾性手段(6)に押さえられている。該弾性手段(6)の押さえ力はゆれの力より大きく設定されているため係止手段(4)はその位置で停止する。次に地震が終わり開き戸(2)を開くには使用者は開き戸(2)を強く押す。これにより図4に示す様に弾性手段(6)が退いていき一定以上退くと弾性手段(6)による押さえが外れる。」(2欄6〜15行)
「次に弾性手段(6)としてコイルばねを前後方向に設け係止手段(4)の後退に伴いコイルばねの前端下縁が傾斜しながら後退し係止手段(4)の初期状態への復帰を容易にしている。」(2欄26〜29行)
「ゆれの力が開き戸(2)を閉じる方向に作用してもロック位置で係止手段(14)は装置本体(3)の弾性手段(6)に押さえられ開き戸(2)はそれ以上動かない。次に地震が終わり開き戸(2)を開くには使用者は開き戸(2)を強く押す。これにより図9に示す様に弾性手段(6)が傾斜しながら退いていき一定以上退くと係止手段(14)は上方へと滑り弾性手段(6)ではね上げられ図1の初期状態へと戻ることになる。」(2欄39〜47行)
「除具(8)の突出に伴い装置本体(3)の支点手段(3e)の前端に解除具(8)の一側端が弾性手段(9)の力で突出する。ゆれの力が開き戸(2)を閉じる方向に作用し解除具(8)が退こうとしても磁石(4e)の吸着力(てこにより吸着力の数倍乃至数十倍の力)以上の力でなければ解除具(8)は退かない。従ってこの位置で開き戸(2)はロックされるのである。次に地震が終わり開き戸(2)を開くには使用者は開き戸(2)を強く押す。これにより図13に示す様に解除具(8)は支点手段(3e)を中心に回動し係止手段(4)を押して磁石(4e)が吸着体(7)から離れるのである。磁石(4e)が離れた後はばね(4f)の力で係止手段(4)は図10の初期状態へと戻ることになる。」(3欄29〜42行)
(図16〜図22に関する説明において、「ばね手段」、「ばね」の記載があるが、図16〜図22に示すものは、開き戸を閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させ開き戸の解除を伴って戻るものでも、閉じる方向の動きで係止解除されるものとも認められないので、本件発明2、6、7の実施例とは認められない。)

以上の記載及び図面からみて、本件発明2、6、7の「弾性手段」に関して具体的な開示があるのは、図1〜13に示された4種類の実施例(図1〜9の弾性手段(6)、図10〜13の弾性手段(9)である。なお、このうち図5の弾性手段はコイルばねと明記されている(2欄26〜27行)。)であるが、いずれの実施例も「弾性手段」は、ドア側ではなく吊り戸棚等の本体側に係止手段や解除具と共に設けられ、係止手段ないし解除具が初期状態に戻る経路に位置し、係止手段ないし解除具が戻るのを抑える機能を持ったものになっている。

一方、本件発明2、6、7は、平成10年12月19日付けの本件補正によって補正されたものであって、本件発明2は、「・・・開き戸を閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させ開き戸の解除を伴って戻る際に弾性手段の抵抗が作用する・・・」と、本件発明6は、「閉じる方向の動きで係止解除される際に弾性手段の抵抗が存在する解除方法を用いた地震時に開き停止される開き戸」と、本件発明7は、「閉じる方向の動きで係止解除される際に弾性手段の抵抗が存在する解除方法を用いた地震時に開き停止される開き戸・・・」と、なっているところ、弾性手段の具体的状態については特定されていない。したがって、本件発明2、6、7の「弾性手段」は、開き戸側に設けられるものも、初期状態に戻る経路に位置しない係止手段ないし解除具を抑えるもの、さらには、係止手段ないし解除具が戻るのを抑える機能を持たないものも含まれることとなる。

よって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲の範囲内でしたものとは認められず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2)「装置本体の停止部」について
請求人は、無効理由の1つの具体的事例として、本件出願当初の明細書及び図面には、装置本体が停止部を有するもののみが記載されていたにもかかわらず、特許請求の範囲からこの限定が削除され、装置本体が停止部を有さないものも含まれることとなった旨述べている。

上記理由について検討するが、前記第4.1.(1)で述べたように、本件発明2、6、7は、本件訂正で訂正されておらず、本件訂正前発明2、6、7と同じである。

そこで、本件出願当初明細書及び図面を検討する。
本件出願当初明細書の特許請求の範囲の請求項1には、「・・・係止手段を停止する装置本体の停止部・・・」という記載があり、他の請求項2〜4はいずれも請求項1を引用するものであるから、本件出願当初の特許請求の範囲には、装置本体が停止部を有するもののみが記載されていた。
本件出願当初明細書の【従来の技術】及び【本発明が解決しようとする課題】の項には、従来において解除が容易な開き戸の地震時ロック装置は未だ開発されていなかったことから、本発明は以上の従来の課題を解決し解除が容易な開き戸の地震時ロック装置の提供を目的とすることが記載され(1欄20〜25行)、【課題を解決するための手段】の項には、「発明は以上の目的達成のために地震のゆれの力で動き可能に支持され開き戸の係止具に係止される係止手段と、閉止状態から開き戸がわずかに開かれた位置で前記係止手段を停止する装置本体の停止部とからなる地震時ロック装置等を提案するものである。」(1欄27〜32行)と記載されており、装置本体が停止部を有さないことが任意である旨の記載も、装置本体を有さないことが任意である旨の記載もない。
また、【発明の効果】の項には、本発明の効果として、「開き戸がわずかに開かれた位置でロック状態となるため開き戸を押したり手で操作するだけで容易にロックが解除される」ことなどが記載されている。

本件出願当初明細書の【実施例】の項には、以下の記載がある。
「図1は本発明の地震時ロック装置を示し、該ロック装置は家具、吊り戸棚等の本体(1)に固定された装置本体(3)を有する。該装置本体(3)には地震のゆれの力で動き可能に係止手段(4)が支持される。係止手段(4)は係止部(4a)を有し装置本体(3)の停止部(3a)で停止されるものである。」(1欄35〜41行)
「すなわち開き戸(2)が図1の様に閉じられた閉止状態では家具、吊り戸棚等の本体(1)側の装置本体(3)に開き戸(2)側の係止具(5)が近接している。この状態で地震が起こると図2に示す様に係止手段(4)が動いて係止具(5)に接触する。更にゆれの力により図3に示す様に開き戸(2)がわずかに開くと係止手段(4)の係止部(4a)が係止具(5)の係止部(5b)に係止される。この状態で係止手段(4)の係止部(4a)は装置本体(3)の停止部(3a)で停止され開き戸(2)はその位置でロックされる。当然のことながらゆれの力は開き戸(2)を閉じる方向にも作用するがロック位置で係止手段(4)は装置本体(3)の弾性手段(6)に押さえられている。」(1欄47行〜2欄9行)
「図5は本発明の他の地震時ロック装置を示し、該ロック装置は図1乃至図4に示したものと比較し次の特徴を有する。すなわち係止具(5)に磁石(5c)が設けられ係止手段(4)(鋼特にばね鋼等の強度と弾性のあるものが望ましい)が地震のゆれの力でロック位置へと動いた際にその位置(図2の位置に相当)を保持し作動を確実にする。次に装置本体(3)における係止手段(4)の支持はローラーRを介して支持されている。」(2欄16〜24行)
「この状態がロック状態であり係止手段(14)は装置本体(3)の停止部(3a)(正面から見ると十字状の溝)で停止され開き戸(2)はその位置でロックされる。ゆれの力が開き戸(2)を閉じる方向に作用してもロック位置で係止手段(14)は装置本体(3)の弾性手段(6)に押さえられ開き戸(2)はそれ以上動かない。」(2欄36〜42行)
「図10は本発明の他の地震時ロック装置を示し、該ロック装置は図1と同様に家具、吊り戸棚等の本体(1)内(特にその天板下面)に固定された装置本体(3)を有する。すなわち図10は家具、吊り戸棚等の天板下面に固定された状態を上から見た図であり装置本体(3)の軸(3f)に回動可能に係止手段(4)が支持される。」(2欄48行〜4欄4行)
「図12の状態は係止手段(4)が係止具(5)を係止する一方装置本体(3)の停止部(3a)にも係止されている。従つて開き戸(2)の係止具(5)は係止部(4a)を介して装置本体(3)の停止部(3a)でロックされることになる。このロック状態(図12の状態)では係止手段(4)の前面に接触して設けられた解除具(8)が図10の状態の位置から前方へ押され突出している。図示の様に装置本体(3)がマグネット(10)のマグネットキャッチ機能を有する場合にはマグネット(10)の先端位置より突出することになる。解除具(8)の突出に伴い装置本体(3)の支点手段(3e)の前端に解除具(8)の一側端が弾性手段(9)の力で突出する。」(3欄19〜31行)
(図16〜図22に示すものは、開き戸を閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させ開き戸の解除を伴って戻るものでも、閉じる方向の動きで係止解除されるものとも認められないので、本件発明2、6、7の実施例とは認められない。また、図14、15に示すものは、弾性手段の記載がないので、これも本件発明2、6、7の実施例とは認められない。)
以上の記載及び図面からみて、本件発明2、6、7の実施例に相当するである図1〜13に示すもののうち、図1〜4、図6〜9、図10〜13に示すものにおいては、装置本体3が停止部3aを有するものが符号と共に記載され、図5に示すものにおいては、3aの符号の明示はないものの、図1〜4に示したものと比較し特徴点のみを説示しているものであり、図1〜4の停止部と同じ位置に同様の記載がされているから、図1〜4に示すものと同様に、装置本体が停止部を有するものが記載されているものと認めらる。
つまり、当初明細書及び図面において、開き戸を閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させ開き戸の解除を伴って戻るもの、あるいは閉じる方向の動きで係止解除されるものとしては、装置本体が停止部を有するもののみが記載されており、装置本体が停止部を有さないことが任意である旨の記載も装置本体を有さないことが任意である旨の記載もない。

一方、本件発明2、6、7は、平成10年12月19日付けの本件補正によって補正されたものであって、本件発明2は、「家具、吊り戸棚等の本体内に固定された装置本体に動き可能に係止手段を設け該係止手段が開き戸の係止具に地震時のゆれが原因で振動を伴わず係止するロック方法において開き戸を閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させ開き戸の解除を伴って戻る際に弾性手段の抵抗が作用する開き戸の地震時ロック方法」と、本件発明6は、「閉じる方向の動きで係止解除される際に弾性手段の抵抗が存在する解除方法を用いた地震時に開き停止される開き戸」と、本件発明7は、「閉じる方向の動きで係止解除される際に弾性手段の抵抗が存在する解除方法を用いた地震時に開き停止される開き戸において解除を達成するに十分な距離を確保した隙間を有して地震時に開き停止される開き戸」と、なっているところ、本件発明2は、「装置本体」を有しているが、「停止部」を有する旨の特定はなく、本件発明6、7に至っては、「装置本体」を有する旨の特定さえない。したがって、本件発明2、6、7は、「装置本体」が「停止部」を有さないもの、あるいは「装置本体」そのものを有さないものが含まれることとなる。

よって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲の範囲内でしたものとは認められず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(3)被請求人の主張に対し
被請求人は、請求Aにおける答弁書において、
「2.4 特許法第17条の2第3項の趣旨
請求人は実施例に含まれる不必要な構成要件を省略して発明を把握し特許請求の範囲として表現することを認めた特許法第36条の問題と新規事項(New Matter)を補正によって付加することを禁止する特許法第17条の2第3項の問題を混同している。
前者は特許請求の範囲が実施例の上位概念(……ここで用いる上位概念とは不必要な構成要件を省略したという意味)であるという特許請求の範囲と実施例相互の関係の問題であって、後者は当初の実施例に示されていなかった新規事項(New Matter)を補正によって付加し発明が拡大されることを禁止するという問題である。
前者も後者も実施例と比較して発明が一見”広くなる”ことは共適しているが前者によって”広くなる“との意味は不必要な構成要件を省略したから一見”広くなる”のでありこの意味では”本来開示されていた発明というものの範囲”を特許請求の範囲として最大に表現したに過ぎず新規事項(New Matter)の付加とは全く異質なものである。
本件特許においての「弾性手段の強さ」の強弱、「開き戸の解除を伴って戻る」原因の力及び「閉じる方向の動きで係止解除」の原因の力のいずれも”不必要な構成要件”として省略したのであるから前者の問題であることは明らかである。
請求人はこの基本的なことを理解していない。
言い換えれば請求人は発明と実施例を混同するのみならず特許請求の範囲は実施例の構成要件のなかで不必要なものを省略して記述するものであるという基本的なことを理解していない。」(15頁1行〜15頁22行)
「3.2請求人は係止手段が装置本体の停止部で停止される実施例であることから特許請求の範囲の記載はその様な係止手段でなければならないと主張する。
しかしこれは「発明」と「実施例」を混同し特許法第17条の2第3項が特許請求の範囲を実施例に一致させることを要求しているかのごとき誤った解釈をしていることに基づくものであることは前述の通りである。
請求人は「当業者としては実施例に示された内容以上のことを当初明細書の記載から想到することは困難」と主張する。
しかしこれこそ「発明」と「実施例」を混同した主張であって実施例によって開示された発明というものは実施例という具体的なものの範囲内に抽象化されたものである。
従って本件特許の全ての請求項の発明は「実施例に示された内容以上」ではないのであり「実施例という具体的なものの範囲内に抽象化された発明」すなわち「開示されていた発明」なのである。」(20頁15〜21頁4行)
「請求人は本件特許の請求項2の「開き戸の解除を伴って戻る際に弾性手段の抵抗が作用する」なる表現が甲第7号証(USP5312143号)との関係で広過ぎる表現であるから係止手段の弾性手段が強いという下位概念にまで限定すべきと主張する。
しかし甲第7号証との関係で広過ぎる表現であるとの主張自体失当であり、その理由は本件特許の請求項2は甲第7号証と比較して開き戸の戻る動きで解除するという非常に重要な特徴があるのである。
従って係止手段の弾性手段が強いという下位概念にまで限定すべきとの請求人の主張は全く説得力がない。
ここでも特許法第17条の2第3項は特許請求の範囲と実施例を一致させることを要求しているものではないことを確認すべきである。」(21頁19行〜22頁7行)
と述べ、出願人が不必要と判断した事項を省略して発明を抽象化し、該発明を特許請求の範囲とすることは、特許法第17条の2第3項の要件を満たすものである旨主張する。
しかしながら、本件当初明細書に記載された事項は、前述したとおり、「弾性手段」に関しては、装置本体に係止手段や解除具と共に設置され、係止手段ないし解除具が初期状態に戻る経路に位置して、係止手段ないし解除具が戻るのを抑える機能を持つもののみであり、また、開き戸の停止に関しては、装置本体が停止部を有するもののみであり、それ以外の態様の開示がされていない以上、本件補正のように当初明細書に記載された事項以外の態様をも含むようにすることは、まさに新規事項の追加であり、被請求人が不必要な事項と判断して省略することが許されるものとは到底いえない。
したがって、前記のとおり、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正がなされた特許出願に対してなされたものである。

2.上記請求Bにおける無効理由(エ)についての検討
請求Bにおける無効理由(エ)の具体的事例である「弾性手段」に関する本件補正は、前記第4.1.(1)に記載したように、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3.上記請求Cにおける無効理由(サ)についての検討
請求Cにおける無効理由(サ)の具体的事例である「弾性手段」に関する本件補正は、前記第4.1.(1)に記載したように、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

第5.むすび
以上、請求Aにおける無効理由(ア)には理由があり、本件発明1〜9に係る特許は、特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
また、請求Bにおける無効理由(エ)には理由があり、本件発明2、4、5、6、8及び9に係る特許は、特許法第123条第1項第1号に該当し、請求Bの他の無効理由について検討するまでもなく、無効とすべきものである。
さらに、請求Cにおける無効理由(サ)には理由があり、本件発明1〜9に係る特許は、特許法第123条第1項第1号に該当し、請求Cの他の無効理由について検討するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用は、特許法第169条第2項の規定によで準用する民事訴訟法第61条の規定を適用して、いずれも被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-06-24 
結審通知日 2002-06-27 
審決日 2002-07-11 
出願番号 特願平7-210921
審決分類 P 1 122・ 55- Z (E05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 五十幡 直子  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 山口 由木
長島 和子
登録日 1999-05-14 
登録番号 特許第2926114号(P2926114)
発明の名称 地震時ロック装置及びその解除方法  
代理人 平野 和宏  
代理人 安田 敏雄  
代理人 吉田 和夫  
代理人 安田 敏雄  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 中村 敬  

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