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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1063903
審判番号 不服2001-9345  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-06-06 
確定日 2002-08-29 
事件の表示 平成10年特許願第298532号「波長分散補償器」拒絶査定に対する審判事件[平成12年 4月28日出願公開、特開2000-121987]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本願は、平成10年10月20日の特許出願であって、その発明は特許請求の範囲の請求項1〜6に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】 光パルス伝送路における波長分散を低減させる波長分散補償器において、
前記波長分散補償器は、屈折率の異なる媒質を2次元格子状または3次元格子状に周期的に配列したフォトニック結晶を含み、前記フォトニック結晶の波長分散特性によって光パルス信号の波長分散補償を行うことを特徴とする波長分散補償器。」
2.引用文献について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平10-83005号公報)には、次の事項が記載されている。
「【0007】【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、小さな設置スペースで光信号を遅延させることができる光機能素子、および光信号の遅延や屈折率制御を利用して各種光機能材料の機能を有効に発揮できる光機能素子を提供することにある。
【0008】【課題を解決するための手段】
本発明の光機能素子は、フォトニック・バンドを形成するように、屈折率の異なる材料を周期的に配列した構造を有し、フォトニック・バンド端に対応する光の波長が、透過させようとする光の波長の近傍に設定されていることを特徴とするものである。」(3頁左欄段落【0007】〜【0008】)
「【0022】
屈折率(または誘電率)の異なる材料を周期的に配列したフォトニック・バンド構造を形成するには、2種の材料を面心立方構造または体心立方構造に配列することが考えられる。従来、フォトニック結晶の代表例としては、ドリルで誘電体に規則的な孔を開けたマイクロ波領域のフォトニック結晶(E.Yablonovitch,T.J.Gmitter and K.M.Leung,Phys.Rev.Lett.,67,2295(1991))や、ガラスファイバーの束を加工して作製された赤外領域のフォトニック結晶(K.Inoue,M.Wada,K.Sakoda,A.Yamanaka,M.Hayashi,and J.W.Haus,Jpn.J.Appl.Phys.,33,L1463(1994))が知られている。しかし、可視光の波長程度の周期で三次元的な配列を実現することは困難である。したがって、フォトニック・バンド構造を形成するには、2種の材料を一次元的に配列することが現実的である。」(4頁右欄段落【0022】)
「【0051】
本発明においては、屈折率の異なる材料を周期的に配列した構造を有する媒質として、規則正しい相分離構造を持つブロック共重合体を用いることもできる。ある種のブロック共重合体は、規則正しい相分離構造を形成し、しかもそれが規則正しく配列することが知られている(E.L.Thomas,D.B.Alward,D.J.Kinning,and D.C.Martin,Macromolecules 19,2197(1986);H.Hasegawa,H.Tanaka,K.Yamasaki,and T.Hashimoto,Macromolecules 20,1651(1987))。これらの共重合体をトルエンなどの溶媒に溶解し、キャスト法やスピンコート法により薄膜を形成すると、自己形成力によりミクロ相分離構造を示す。ミクロ相分離構造は、海島構造、ラメラ構造、シリンダー構造、バイコンティニュアス構造などと呼ばれている。このようなブロック共重合体の薄膜においては、屈折率が異なる二種の相が規則的に配列しているので、フォトニック結晶となり得る。このようなフォトニック結晶は作製が容易で製造コストを低減できる。
【0052】
ブロック共重合体を用いたフォトニック結晶では、2種の高分子の側鎖を変化させることにより屈折率を制御することができる。また、オスミウム錯体などの錯体を一方の高分子鎖に選択的に染み込ませて屈折率を制御することもできる。共重合体を形成する高分子として感光性のものを用いれば、フォトニック結晶を形成した後に、導波路を形成することもできる。導波路が形成できれば、光通信分野における分散補償器として使用できる。」(7頁左欄段落【0051】〜同頁右欄段落【0052】)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開平10-90634号公報)には、次の事項が記載されている。
「【0041】
図4は、3次元フォトニックバンドを実現する構成例を示す。基本単位を立方体とし、立方体の頂点に第1の複素屈折率を有する球体が配置されている。この基本単位が、3次元方向に繰り返し配置される。球体以外の部分は、第2の複素屈折率を有する第2の媒質によって満たされる。3次元フォトニックバンドの場合、3次元空間における周期性(対称性)に基づいた3次元バンドが得られる。
【0042】
図2(F)に示したバンド構造は、フォトニックバンドの各パラメータに応じて変化する。2次元ないし3次元周期構造の基本単位は、用いる入射光の波長に応じて選択することができる。たとえば、励起子吸収を用いる場合、バンド端よりわずかに長波長側の波長を有する光を入射光に選ぶのがよい。フォトニックバンドの周期構造は、この波長に合わせて選択する。励起子吸収を利用する場合、バルク状の半導体よりも、量子閉じ込め効果を利用した半導体構造においてその効果が顕著となる。」(5頁左欄段落【0041】〜【0042】)
3.本願発明と引用文献に記載の発明との対比・判断
引用文献1に記載の「光通信分野における分散補償器」及び「屈折率(または誘電率)の異なる材料を周期的に配列したフォトニック・バンド構造のフォトニック結晶」は、それぞれ本願発明の「波長分散補償器」及び「屈折率の異なる媒質を周期的に配列したフォトニック結晶」に相当する。
そして、引用文献1に記載の「フォトニック結晶」を使用した「光通信分野における分散補償器」は、本願発明と同様に、「光パルス伝送路における波長分散を低減させる」ように「フォトニック結晶の波長分散特性によって光パルス信号の波長分散補償を行う」ことは当業者に明らかである。
そこで、本願発明と引用文献1に記載の発明とを対比すると、両者は、「光パルス伝送路における波長分散を低減させる波長分散補償器において、前記波長分散補償器は、屈折率の異なる媒質を周期的に配列したフォトニック結晶を含み、前記フォトニック結晶の波長分散特性によって光パルス信号の波長分散補償を行う波長分散補償器」であるという点で一致し、次の点(以下、相違点という。)で相違している。
相違点:本願発明は、「屈折率の異なる媒質を2次元格子状または3次元格子状に周期的に配列したフォトニック結晶」を使用しているのに対して、引用文献1に記載の発明は、「2種の材料を面心立方構造または体心立方構造に配列したフォトニック・バンド構造」の「フォトニック結晶」を使用することを考えてはいるが、「可視光の波長程度の周期で三次元的な配列を実現することは困難である」から、「2種の材料を一次元的に配列することが現実的である」としている点。
そこで上記相違点について以下に検討する。
本願の出願前に公開された引用文献2の「図4」に図示された「3次元フォトニックバンドを実現する構成例」は、本願発明の「屈折率の異なる媒質を3次元格子状に周期的に配列したフォトニック結晶」と同様のものであることは当業者に明らかである。
してみると、引用文献1に記載の発明は「2種の材料を面心立方構造または体心立方構造に配列」した「可視光の波長程度の周期で三次元的な配列」の「フォトニック結晶」の使用の可能性を示唆しているのであるから、引用文献2に記載されて公知の「屈折率の異なる媒質を3次元格子状に周期的に配列したフォトニック結晶」を使用することは当業者であれば容易に想到し得ることである。
したがって、相違点は格別の相違ではない。
4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1及び2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-06-26 
結審通知日 2002-07-02 
審決日 2002-07-19 
出願番号 特願平10-298532
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植田 高盛田部 元史瀬川 勝久  
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 東森 秀朋
町田 光信
発明の名称 波長分散補償器  
代理人 河合 信明  
代理人 福田 修一  
代理人 京本 直樹  

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