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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) H01L
管理番号 1064208
審判番号 審判1998-35031  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-01-20 
確定日 2000-12-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第2666228号発明「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2666228号発明の明細書の請求項第1項ないし第9項に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第2,666,228号(以下、「本件特許」という。)の手続き及び本件特許に対する無効審判事件の手続きの主な経緯は次のとおりである。
特許出願 平成3年10月30日
審査請求 平成8年5月20日
拒絶理由通知 平成9年2月3日
(発送日 平成9年2月18日)
手続補正書 平成9年4月4日
特許査定 平成9年5月26日
特許権設定登録 平成9年6月27日
無効審判請求 平成10年1月20日
答弁書・訂正請求書 平成10年5月25日
第1回口頭審理 平成10年9月11日
書面審理通知 平成10年9月14日
訂正拒絶理由通知 平成10年9月25日
(発送日 平成10年10月6日)
意見書・手続補正書 平成10年12月7日
2.訂正の適否
平成10年12月7日付け手続補正書で補正された訂正請求における訂正(以下、「本件訂正」という。)の適否について検討する。
2.1 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否について
2.1.1 訂正事項1について
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許登録時の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1における「サファイア基板と、この基板上に形成された、n型の窒化ガリウム系化合物半導体から成るn層と、p型不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体から成るp型不純物添加層」を「サファイア基板と、この基板上に形成された、n型の窒化ガリウム系化合物半導体(GaN)から成るn層と、p型不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体(GaN)から成るp型不純物添加層」とするものである。
本件特許明細書の段落番号【0021】には、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、GaNでn層を構成するとともに、GaNにp型不純物を添加してp型不純物添加層を構成することが記載されている。
したがって、当該訂正は、本件特許明細書における特許請求の範囲を減縮するものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
2.1.2 訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的として、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における「を有する発光素子において、」を、「を有し、発光する部分が前記p型不純物添加層上の電極の電極下領域に限定される発光素子において、」と訂正するものである。
この点に関し、被請求人は、本件特許出願の願書に最初に添付した明細書(以下、「本件当初明細書」という。)及び本件特許明細書の段落番号【0003】乃至【0005】の記載、並びに本件当初明細書の段落番号【0029】には「第1の電極7直下のi層にて発光を得ることができた。」との記載があり、本件特許明細書の段落番号【0029】にも同趣旨の記載があることを、当該訂正の根拠として挙げている。
しかしながら、本件特許明細書の段落番号【0029】においては、「第1の電極7の下方の層にて発光を得ることができた。」と記載されており、「第1の電極7」の下方に位置する層にて発光するということが述べられているにすぎず、発光する部分が、「第1の電極7」の下方に位置する層のうちの、「第1の電極7」の下に位置する領域に限定されるということは、本件特許明細書の段落番号【0029】の記載から直接的かつ一義的に導き出すことはできない。
また、本件特許明細書の段落番号【0003】乃至【0005】の記載は従来技術に関する記載であって、本件特許に係る発明に関する記載ではないので、当該訂正は、本件特許明細書の段落番号【0003】乃至【0005】の記載から直接的かつ一義的に導き出すことはできない。
したがって、当該訂正は、本件特許明細書の記載から直接的かつ一義的に導き出すことはできないものであり、新規事項の追加に該当する。
2.1.3 訂正事項3について
訂正事項3は、明りょうでない記載の釈明を目的として、本件特許明細書の段落番号【0008】における「したがって、両電極の面積は略同じ形状としなければならない。このため、電極パターンの自由度がなくなり、電気的な抵抗成分を減少させるための最適なパターンをとれなくなる。又、素子の電気的な直列抵抗成分が大きいということは素子の発光効率を低下させるためばかりではなく、素子の発熱を誘因し、素子の劣化や発光強度の低下を引き起こすことになり好ましくない。又、サファイア基板を用いた場合にはサファイアが絶縁性であるため、(中略)供給電流の平面状の拡散が十分でなく、発光が不均一で駆動電圧も高いという問題がある。」を「したがって、両電極の面積は略同じ形状としなければならない。このため、電極パターンの自由度がなくなり、電気的な抵抗成分を減少させるための最適なパターンをとれなくなる。又、素子の電気的な直列抵抗成分が大きいということは素子の発光効率を低下させるためばかりではなく、素子の発熱を誘因し、素子の劣化や発光強度の低下を引き起こすことになり好ましくない。」と訂正するものである。
当該訂正は、本件特許明細書の記載の一部を削除することにより従来技術に関する説明を明りょうにしたもので、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
2.1.4 訂正事項4について
訂正事項4は、前記訂正事項1及び2の訂正とに対応したもので、明りょうでない記載の釈明を目的として、本件特許明細書の段落番号【0010】の「上記課題を解決するための請求項1の発明は、サファイア基板と、この基板上に形成された、n型の窒化ガリウム系化合物半導体から成るn層と、p型不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体からなるp型不純物添加層を有する発光素子において、(中略)n層は、p型不純物添加層全体に均一に電流が流れるようにSiがドープされた低抵抗率のGaNとしたことを特徴とする。」を「上記課題を解決するための請求項1の発明は、サファイア基板と、この基板上に形成された、n型の窒化ガリウム系化合物半導体(GaN)から成るn層と、p型不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体(GaN)からなるp型不純物添加層を有し、発光する部分が前記p型不純物添加層上の電極の電極下領域に限定される発光素子において、(中略)n層は、p型不純物添加層全体に均一に電流が流れるようにSiがドープされた低抵抗率のGaNとしたことを特徴とする。」と訂正するものである。
前記訂正のうち、「を有する発光素子において、」を、「を有し、発光する部分が前記p型不純物添加層上の電極の電極下領域に限定される発光素子において、」とする訂正は、前記2.1.2で述べたとおり、本件特許明細書の記載から直接的かつ一義的に導き出すことはできないものであり、新規事項の追加に該当する。
2.1.5 訂正事項5について
訂正事項5は、明りょうでない記載の釈明及び誤記の訂正を目的として、本件特許明細書の段落番号【0036】の「(前略)上記の構造の発光ダイオード10b、10cにおいては、高キャリア濃度n+層3に対する第2の電極8は、p型不純物添加層5に対する第1の電極7との位置関係の対象性から、電極間を流れる電流を発光領域の部位に拘わらずほぼ同じとすることができる。(後略)」を「(前略)上記の構造の発光ダイオード10b、10cにおいては、高キャリア濃度n+層3とp型不純物添加層5に対する第1の電極7との位置関係から、電極間を流れる電流を発光領域の部位に拘わらずほぼ同じとすることができる。(後略)」と訂正するものである。
この点に関し、被請求人は、本件特許明細書の段落番号【0031】以降の実施例では、「高キャリア濃度n+層3」が低抵抗であることを前提としているから、本件特許明細書の記載は「上記の構造の発光ダイオード10b、10cにおいては、高キャリア濃度n+層3とp型不純物添加層5に対する第1の電極7との位置関係から、電極間を流れる電流を発光領域の部位に拘わらずほぼ同じとすることができる。」を意味することは明確であると主張している。
しかしながら、本件特許明細書の段落番号【0031】以降に実施例として記載された発光ダイオード10b及び10cは、「高キャリア濃度n+層3」を設けた点ではなく、「第1の電極7」と「第2の電極8」の一方の電極を発光ダイオードの中央部に形成し、他方の電極を前記一方の電極を取り囲むように発光ダイオードの周辺部に形成した点で、本件特許明細書の段落番号【0017】乃至【0030】に実施例として記載された発光ダイオード10aと構成が異なっている。
そして、本件特許明細書の段落番号【0036】に記載の「電極間を流れる電流を発光領域の部位に拘わらずほぼ同じとすることができる。」という効果は、「第1の電極7」と「第2の電極8」との位置関係の水平方向における対象性(対称性)によって得られることが記載されているだけで、前記効果が「高キャリア濃度n+層3」と「第1の電極7」との位置関係によって得られることは、本件特許明細書の段落番号【0036】の記載から直接的かつ一義的に導き出すことはできない。
したがって、当該訂正は、本件特許明細書の記載から直接的かつ一義的に導き出すことはできないものであり、新規事項の追加に該当する。
2.1.6 「2.1 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否について」のむすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、本件特許明細書に新規事項を追加するものである。
2.2 独立特許要件について
2.2.1 本件発明の要旨
本件訂正により訂正された明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)の請求項1乃至9に係る発明の要旨は、その特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】サファイア基板と、この基板上に形成された、n型の窒化ガリウム系化合物半導体(GaN)から成るn層と、p型不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体(GaN)から成るp型不純物添加層を有し、発光する部分が前記p型不純物添加層上の電極の電極下領域に限定される発光素子において、前記p型不純物添加層の一部を除去して露出された前記n層上に形成された第2の電極と、前記第2の電極と同一面側に設けられ、前記p型不純物添加層のほぼ全面に設けられた透明の第1の電極と、前記第1の電極の一部に設けられたワイヤボンディングのための取出電極とを有し、前記n層は、前記p型不純物添加層全体に均一に電流が流れるようにSiがドープされた低抵抗率のGaNとしたことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項2】前記取出電極と前記第2の電極は、形状が異なることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】前記p型不純物添加層の一部は、ドライエッチングにより除去されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項4】前記取出電極は、前記第1の電極の周辺部の一部に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項5】前記取出電極は、前記第1の電極と前記第2の電極の対向する反対側の周辺部の一部に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項6】前記n層は、前記サファイア基板の側からSiがドープされたGaNから成る層と、ドナー不純物が無添加のGaNから成る層との2層構造としたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項7】前記取出電極は、NiとAuの2層を有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項8】前記p型不純物添加層は、p型不純物が添加されたGaNであることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項9】前記第1の電極に接合した前記取出電極に導線により接続される第1のリードピンと、前記第2の電極に導線により接続される第2のリ-ドピンとを更に有することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」
2.2.2 要旨変更について
はじめに、被請求人が平成9年4月4日付けで行った手続補正(以下、「手続補正」という。)は、本件明細書の要旨を変更するものであるか否かについて検討する。
2.2.2.1 手続補正における主な補正内容
手続補正の主な内容は、下記(1)及び(2)のとおりである。
(1)本件当初明細書の請求項1における「p型不純物を添加した半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;0≦X<1)から成るi層」を「p型不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体から成るp型不純物添加層」とし、本件当初明細書の発明の詳細な説明の欄に記載の「i層」を「p型不純物添加層」とした補正(以下、「補正事項1」という。)。
(2)本件当初明細書の特許請求の範囲の請求項1に、「前記n層は、前記p型不純物添加層全体に均一に電流が流れるようにSiがドープされた低抵抗率のGaNとした」なる記載を追加した補正(以下、「補正事項2」という。)。
2.2.2.2 補正事項1について
(1)本件出願当時における技術常識及び技術的背景について
▲1▼MIS型発光素子とpn接合型発光素子について
本件出願当時、MIS(Metal-Insulator-Semiconductor)型発光素子とpn接合型発光素子それぞれの動作原理及び特性について、以下の事項が技術常識とされていた。
MIS型発光素子の動作原理として次の説が知られている。MIS型発光素子の正電極と負電極とに電圧を印加することにより、絶縁層に電界を発生させるとともに、電界が作用した状態で絶縁層に電子を供給し、絶縁層中で加速された電子が絶縁層中の電子と衝突して価電子帯にある電子を伝導帯に励起させ、励起された電子が価電子帯又は不純物準位に戻る際に再結合して発光するというものである。
これに対し、pn接合型発光素子は、pn接合に順方向電圧を印加し、pn接合部のポテンシャル障壁を低くして、p層の多数キャリア(正孔)がn層側へ、n層の多数キャリア(電子)がp層側へ移動し再結合することにより発光するものである。
かかる動作原理の相違により、pn接合型発光素子は、キャリアがほとんど存在しない絶縁層を用いるMIS型発光素子よりもキャリアが再結合する確率が高いため、MIS型発光素子よりも高い輝度が得られ、また、pn接合型発光素子は、著しく高抵抗の絶縁層を用いたMIS型発光素子よりも低い電圧で動作させることができる。
▲2▼窒化ガリウム系化合物半導体発光素子について
本件出願当時における、窒化ガリウム系化合物半導体(以下、「GaN系半導体」という。)を用いた発光素子(以下、「GaN系発光素子」という。)に関する技術常識及び技術的背景について以下に述べる。
窒化ガリウムは、青色発光素子の半導体材料として注目されていた化合物半導体材料である。
しかしながら、窒化ガリウムはイオン結合性の強い結晶で、窒素の空孔などの結晶欠陥が多く含まれていることが、発光素子の半導体材料として用いる際の問題点とされていた。
すなわち、窒化ガリウム結晶では、窒素の空孔がn型の半導体を作る不純物として振る舞うので、窒化ガリウムは、不純物を添加しなくてもn型の半導体となる特性を有しており、窒化ガリウム結晶にp型を作る不純物を添加しても、そのほとんどが電荷補償で費やされ、導電型の測定が困難な108Ω・cm以上の高抵抗率を有する結晶しか得ることができないという問題点があった。
前記問題点により、GaN系発光素子においてpn接合型構造を採用することができず、発光素子としての特性で劣るMIS型構造を採用せざるを得ない状況にあった。
(2)補正事項1の技術的意味について
p型GaN系半導体から成るp層もp型不純物が添加されているので、「p型不純物添加層」に該当し、前記「p型不純物添加層」には、本件出願当時に周知であった、108Ω・cm以上の高抵抗率を有し、pn接合型発光素子を実現することができないGaN系半導体だけではなく、pn接合型発光素子の実現が可能なp型GaN系半導体も含まれることになる。
したがって、補正事項1により、本件出願に係る発明には、本件当初明細書記載のMIS型GaN系発光素子及び該MIS型GaN系発光素子とは動作原理が相違し、すぐれた特性を有する、p型GaN系半導体から成るp層とn型GaN系半導体から成るn層とを接合したpn接合型GaN系発光素子の両者が含まれることになる。
(3)要旨変更の有無について
▲1▼pn接合型GaN系発光素子における技術課題と解決手段に関する、本件当初明細書における記載について
本件当初明細書には、MIS型GaN系発光素子において、電流が素子内を横方向に拡散せず、発光が電極直下でみられることに起因して、発光素子の実装にフリップチップ方式を採用する際に技術課題が存在すること及びその解決手段が記載されている。
しかしながら、pn接合型GaN系発光素子においても、前記の技術課題が存在すること及びその解決手段についての説明は、本件当初明細書には記載されていない。
▲2▼被請求人が提出した乙第1号証記載の発光素子について
ア.被請求人の主張の概要
被請求人は、乙第1号証(「応用物理」第60巻 第2号、社団法人 応用物理学会(1991年2月10日発行)第163乃至166頁)を提出し、乙第1号証に記載されているとおり、本件出願当時にpn接合型GaN系発光素子は公知であり、当該pn接合型GaN系発光素子においては、GaAs系発光素子のような低抵抗のp層は得られず、また、p層の厚さが非常に薄いため、pn接合構造であっても電流が素子内を横方向に拡散せず、電流の横方向への拡散を利用した電極構造を採用できないということは、乙第1号証に記載の公知技術より、本件出願当時に当業者が認識し得たことであると主張している。
イ.乙第1号証に記載された事項
乙第1号証には、p型GaN系半導体及びpn接合型GaN系発光素子について、
「3.2 p型GaNの実現と低抵抗化およびその発光特性
電気的には、成長したままの状態ではGaN:Mgは実験した範囲内ですべて108Ω・cm以上の高抵抗率を有し、伝導型の測定も困難であった。これらのGaN:Mgに電子線照射を行うと、低抵抗化しp型伝導性を示すようになった。(中略)エミッション電流を増加させると自由正孔濃度は増加し、室温での自由正孔濃度最大〜1017cm-3、抵抗率については最小12Ω・cmのp型GaNを実現できた。」(第164頁左欄第23乃至第41行)、及び
「4.pn接合型GaN-LEDの特性
LEDの作製方法について示す。(中略)次に、ウエハーを成長炉に戻し、GaN:Mgを約0.5μm育成したのち、表面から電子線照射処理する。(中略)n層の電極は、Al、p層の電極は金(Au)によりオーム性接触を形成する。作製したLEDの立ち上がり電圧はだいたい3Vから3.5Vの間にあり、pn接合界面での拡散電位を考慮すれば、妥当な値である。pn接合構造ではn層およびp層の抵抗率を制御することにより、mis構造と比較して、低電圧動作するLEDを容易に作製できる。」(第165頁左欄第23行乃至右欄第15行)
と記載されているとおり、GaNをn層として、電子線照射を施したGaN:Mgをp層として用い、前記n層上及び前記p層上にそれぞれ金属電極を設けることによりpn接合型GaN系発光素子を作製したこと、並びに前記p層の抵抗率及び厚さについて記載されている。
ウ.当該主張に対する判断
乙第1号証には、前記p層の抵抗率及び厚さが記載されているにすぎず、乙第1号証に記載のpn接合型GaN系発光素子において、前記p層の抵抗率または厚さに起因して、電流が素子内を横方向に拡散せず、電流の横方向への拡散を利用した電極構造を採用できないという技術課題が存在するということは記載も示唆もされていない。
また、乙第1号証には、前記金属電極の前記p層に対する大きさも形成位置も記載されておらず、乙第1号証記載のpn接合型GaN系発光素子の発光部分が、pn接合面全体であるのか、前記p層上の電極の電極下領域に限定されるのかということも記載も示唆もされていない。
したがって、乙第1号証の記載を根拠として、抵抗率が10Ω・cm程度のp型GaN系半導体を用いたpn接合型GaN系発光素子において、電流が素子内を横方向に拡散せず、電流の横方向への拡散を利用した電極構造を採用できないという技術課題が存在することが、本件出願当時に公知または周知であったということはできない。
よって、前記アに記載した被請求人の主張を採用することはできない。
▲3▼本件出願当初の明細書における「半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体」なる記載及び段落番号【0003】及び【0004】の記載について
ア.被請求人の主張の概要
被請求人は、本件当初明細書には、「半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体」と記載されているとおり、「i型(絶縁性)」のものに限らず、絶縁性のものよりも低い抵抗値のGaN系半導体が前提となることが記載されているから、本件当初明細書における前記記載には「p型GaN系半導体」が含まれることは明らかであると主張している。
また、被請求人は、本件当初明細書の段落番号【0003】及び【0004】の記載で、低抵抗のp型結晶が得られないpn接合型構造を本件発明の対象としていることを示唆していると主張している。
イ.当該主張に対する判断
本件当初明細書には、「半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体」がどの程度の抵抗率を有する半導体を対象とするかについて記載されておらず、本件当初明細書には、「半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体」を、MIS型構造をとるGaN系発光素子の「i層」として用いることが記載されているのみである。
すなわち、本件当初明細書に記載の「半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体」とは、MIS型発光素子の絶縁体層として作用する程度に高抵抗の窒化ガリウム系化合物半導体を意味しており、本件当初明細書には、前記高抵抗のGaN系半導体から成る層と、n型GaN系半導体から成るn層とを接合して成るGaN系発光素子が記載されている。
そして、前記(1)▲2▼で述べたとおり、108Ω・cm以上の高抵抗率を有し、pn接合型発光素子を実現することができないGaN系半導体が本件出願当時に周知であったことを考慮すれば、本件当初明細書における「半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体」なる記載は、108Ω・cm以上の高抵抗率を有するGaN系半導体を意味し、本件当初明細書には、108Ω・cm以上の高抵抗率を有するGaN系半導体から成る層と、n型GaN系半導体から成るn層とを接合して成るGaN系発光素子が記載されていたものと認められる。
しかしながら、前記(3)▲1▼で述べたとおり、本件当初明細書には、pn接合型GaN系発光素子については記載も示唆もされておらず、また、前記(3)▲2▼ウで述べたとおり、本件出願当時、抵抗率が10Ω・cm程度のp型GaN系半導体を用いたpn接合型GaN系発光素子は公知であっても、前記pn接合型GaN系発光素子において、電流が素子内を横方向に拡散せず、電流の横方向への拡散を利用した電極構造を採用できないという技術課題が存在することが、本件出願当時に公知または周知ではなかったのだから、本件当初明細書における「半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体」なる記載には、pn接合型発光素子の実現が可能なp型GaN系半導体は含まれない。
さらに、本件当初明細書の段落番号【0003】には、従来技術に関する説明として、窒化ガリウム系化合物半導体では低抵抗のp型結晶が得られないため、「金属電極(Metal)-半絶縁性のGaNから成るi層(Insulator)-n型GaNから成るn層(Semiconductor)」のいわゆるMIS型構造をとり、発光はi層への電極の直下で見られることが、同じく段落番号【0004】には、従来技術に関する説明として、他の3-5族化合物半導体を用いたpn接合型構造の発光素子においては、素子内での接合面に平行な横方向への電流の拡散があり、接合面全体が発光することがそれぞれ記載されているが、前記段落番号【0003】の記載は、GaN系半導体にp型不純物を添加しても108Ω・cm以上の高抵抗率を有し、pn接合型発光素子を実現することができないという本件出願当時に周知の技術的事項に基づく説明であり、また、前記段落番号【0004】の記載は、10-2Ω・cm程度の抵抗率のp型結晶を得ることができるGaAsのような、他の3-5族化合物半導体を用いたpn接合型発光素子についての説明であるので、抵抗率が10Ω・cm程度のp型GaN系半導体を用いたpn接合型GaN系発光素子を本件発明の対象とすることは、本件当初明細書の段落番号【0003】及び【0004】には記載も示唆もされていない。
したがって、本件当初明細書の「半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体」なる記載、並びに本件当初明細書の段落番号【0003】及び【0004】の記載からは、p型GaN系半導体及びこれを用いたpn接合型GaN系発光素子が、本件当初明細書に記載されているに等しい事項であるということはできない。
よって、前記アに記載した被請求人の主張を採用することはできない。
▲4▼「(3)要旨変更の有無について」のむすび
前記▲1▼乃至▲3▼で述べたとおり、pn接合型GaN系発光素子において、電流が素子内を横方向に拡散せず、発光が電極直下でみられることに起因して、発光素子の実装にフリップチップ方式を採用する際に技術課題が存在すること及びその解決手段は、本件当初明細書又は図面には記載されておらず、また、同明細書又は図面の記載からみて自明のことでもない。
(4)「2.2.2.2 補正事項1について」のむすび
前記(2)で述べたとおり、補正事項1は、本件当初明細書記載のMIS型GaN系発光素子とは動作原理が相違し、すぐれた特性を有する、pn接合型GaN系発光素子を、本件出願に係る発明に含めるものであるが、前記(3)で述べたとおり、pn接合型GaN系発光素子は、本件当初明細書又は図面には記載されておらず、また、同明細書又は図面の記載からみて自明のことでもない。
したがって、補正事項1は、本件当初明細書の要旨を変更するものである。
2.2.2.3 補正事項2について
(1)補正事項2の技術的な意味について
前記2.2.2.2(2)で述べたとおり、「p型不純物添加層」にはp型GaN系半導体からなるp層も含まれるので、補正事項2により、「p型不純物添加層全体に均一に電流が流れるようにSiがドープされた低抵抗率のGaN」から成るn層と、p型GaN系半導体ガリウム系化合物半導体から成るp層とを接合したpn接合型GaN系発光素子も、本件出願に係る発明に含まれることになる。
(2)要旨変更の有無について
本件当初明細書には、MIS型GaN系発光素子において、n層をi層に接合する低キャリア濃度のn層と高キャリア濃度のn+層との2層とすること、前記n+層はSiがドープされたGaNからなること、及び前記n+層を電流が水平方向に流れることにより、電極間の抵抗をより減少させることができることが記載されているのみであり、「p型不純物添加層全体に均一に電流が流れるようにSiがドープされた低抵抗率のGaN」からなるn層とp型GaN系半導体からなるp層とを接合してpn接合型GaN系発光素子を構成すること、及び当該構成により電流を水平方向に流し、電極間の抵抗をより減少させることは、本件当初明細書又は図面には記載されておらず、また、同明細書又は図面の記載からみて自明のことでもない。
(3)「2.2.2.3 補正事項2について」のむすび
前記(1)で述べたとおり、補正事項2は、本件当初明細書記載のMIS型GaN系発光素子とは動作原理が相違し、すぐれた特性を有する、「p型不純物添加層全体に均一に電流が流れるようにSiがドープされた低抵抗率のGaN」から成るn層と、p型GaN系半導体から成るp層とを接合したpn接合型GaN系発光素子を、本件出願に係る発明に含めるものであるが、前記(2)で述べたとおり、前記pn接合型GaN系発光素子本件当初明細書又は図面には記載されておらず、また、同明細書又は図面の記載からみて自明のことでもない。
したがって、補正事項2は、本件当初明細書の要旨を変更するものである。
2.2.2.4 「2.2.2 要旨変更について」のむすび
前記2.2.2.2 及び前記2.2.2.3で述べた理由により、平成9年4月4日付け手続補正書による補正は、本件当初明細書の要旨を変更するものであるので、本件特許出願は、特許法第40条の規定により、前記手続補正書が提出された平成9年4月4日にしたものとみなす。
2.2.3 同一性について
2.2.3.1 請求項1に係る発明について
(1)刊行物記載の発明
当審が訂正拒絶理由通知書で引用した特開平5-129658号公報(請求人が提出した甲第1号証。以下、「刊行物」という。)には、その特許請求の範囲の請求項1に「n型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;0≦X<1)から成るn層と、前記n層に接合するp型不純物を添加した半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;0≦X<1)から成るi層とを有するGaN系発光素子において、前記i層の表面に形成された透明導電膜から成る第1の電極と、前記i層の側から前記n層に接続するように形成された第2の電極とから成り前記i層の側から外部に発光させることを特徴とする半導体発光素子。」と記載されている。
また、その発明の詳細な説明の欄に「【実施例】以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。図1は、本発明のGaN系発光素子を適用した発光ダイオードの構成を示す断面図である。発光ダイオード10はサファイア基板1を有しており、そのサファイア基板1上には500ÅのAlNのバッファ層2が形成されている。そのバッファ層2の上には、膜厚約2.5μmのn型GaNから成るn層4が形成されている。さらに、n層4の上に膜厚約0.2μmの半絶縁性GaNから成るi層5が形成されている。そしてi層5の表面からi層5を貫通しn層4に達する凹部21が形成されている。この凹部21を覆うようにn層4に接続する金属製のn層4のための第2の電極8が形成されている。この第2の電極8と離間してi層5上に錫添加酸化インジウム(以下ITOと略す)から成る透明導電膜のi層5のための第1の電極7が形成されている。第1の電極7の隅の一部分には取出電極9が形成されている。その取出電極9はNi層9bとAu層9cとの2層で構成されている。(中略)次に、この構造の発光ダイオード10は基板40に接合されており、基板40に立設されたリードピン41、42と電気的に接続されている。即ち、第1の電極7に接合した取出電極9のAu 層9cとリードピン41とがAu線43により接続されており、第2の電極8のAu層8cとリードピン42とがAu線44により接続されている。」(段落番号【0017】乃至【0018】)、「このようにして、図2に示す構造のMIS(Metal-Insulator-Semiconductor)構造の発光ダイオードを製造することができた。第2の電極8に対して透明導電膜の第1の電極7を正電位となるように電圧を印加することにより、第1の電極7直下のi層5にて発光を得ることができた。そして、この発光は透明の第1の電極7を介して直接取り出すことができ、(中略)この発光ダイオードは、第1の電極7に透明導電膜を用いたので、第1の電極7の面積を大きくすることができた。(以下略)」(段落番号【0029】乃至【0030】)及び「次に、他の実施例について説明する。上記実施例における発光ダイオード10では、n層4を1層としているが、発光ダイオード10aを、図10に示すように、i層5に接合する厚さ1.5μmの低キャリア濃度n層4aと厚さ2.2μmの高キャリア濃度n+層3との2層とすることもできる。この発光ダイオード10aでは高キャリア濃度n+層3を電流が水平方向に流れるので、電極間の抵抗をより減少させることができる。高キャリア濃度n+層3は、サファイヤ基板1の温度を1150℃に保持し、H2を20l/分、NH3を10l/分、TMGを1.7×10-4モル/分、H2で0.86ppmまで希釈したシラン(SiH4)を200ml/分の割合で30分間供給することで、膜厚2.2μm、キャリヤ濃度1.5×1018/cm3に製膜できる。」(段落番号【0031】)と記載され、【図10】及び【図11】には「第1の電極7」が「i層5」のほぼ全面に設けられていることが示されている。
したがって、刊行物には、サファイア基板と、この基板上に形成された、n型の窒化ガリウム系化合物半導体(GaN)から成る層と電流が水平方向に流れる、Siがドープされた低抵抗率のGaNから成る層とで構成されるn層と、p型不純物を添加した半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体(GaN)から成るi層を有し、発光する部分が前記i層上の電極の電極下領域に限定される発光素子であって、前記i層の一部を除去して露出された前記n層上に形成された第2の電極と、前記第2の電極と同一面側に設けられ、前記i層のほぼ全面に設けられた透明の第1の電極と、前記第1の電極の一部に設けられたワイヤボンディングのための取出電極とを有するGaN系発光素子が記載されている。
(2)対比・判断
本件訂正明細書の請求項1に係る発明と刊行物記載の発明とを比較すると、刊行物記載の発明における「i層」は本件第1発明における「p型不純物添加層」に相当する。
また、刊行物記載の発明は、「n層」の「Siがドープされた低抵抗率のGaNから成る層」に水平方向に電流が流れ、その結果、刊行物記載の発明は、電極間の抵抗をより減少させるという作用効果を奏するものである。
してみれば、刊行物記載の発明における「n層」は、Siがドープされた低抵抗率のGaNで構成することにより、「p型不純物添加層」全体に均一に電流が流れるようにした層であることは明らかである。
したがって、本件訂正明細書の請求項1に係る発明と刊行物記載の発明との間に相違はなく、本件訂正明細書の請求項1に係る発明と刊行物記載の発明とは同一である。
2.2.3.2 請求項2に係る発明について
前記2.2.3.1 で述べたとおり、本件訂正明細書の請求項1に係る発明は、刊行物に記載されている。
そして、刊行物の【図1】【図2】及び【図14】には、「取出電極9」と「第2の電極8」の断面形状が異なっていることが示されている。
また、刊行物の【図11】記載の「発光ダイオード10b」においても、他の実施例と同様に「第1の電極7」上に矩形の取出電極が設けられることは明らかであり、【図11】記載の「発光ダイオード10b」には取出電極と「第2の電極8」の平面形状が異なっていることが示されている。
したがって、本件訂正明細書の請求項2に係る発明と刊行物記載の発明とは同一である。
2.2.3.3 請求項3に係る発明について
前記2.2.3.1 及び前記2.2.3.2 で述べたとおり、本件訂正明細書の請求項1及び2に係る発明は、いずれも刊行物に記載されている。
そして、刊行物には、「【0023】次に、図6に示すように、フォトレジスト12およびSiO2層11をマスクとして、真空度0.04Torr、高周波電力0.44W/cm2,CCl2F2ガスを10ml/分の割合で供給し、反応性イオンエッチングによりi層5を貫通しn層4に達する凹部21を形成した。また、エッチング後、続いてArでドランエッチングした。そして、フォトレジスト12およびSiO2層11をフッ酸で除去した。」(段落番号【0023】)と記載されている。
したがって、本件訂正明細書の請求項3に係る発明と刊行物記載の発明とは同一である。
2.2.3.4 請求項4に係る発明について
前記2.2.3.1 乃至前記2.2.3.3 で述べたとおり、本件訂正明細書の請求項1乃至3に係る発明は、いずれも刊行物に記載されている。
そして、前記2.2.3.1 (1)で述べたとおり、刊行物には、「第1の電極7」の隅の一部分に「取出電極9」が形成されていることが記載されている。
したがって、本件訂正明細書の請求項4に係る発明と刊行物記載の発明とは同一である。
2.2.3.5 請求項5に係る発明について
前記2.2.3.1 乃至前記2.2.3.4 で述べたとおり、本件訂正明細書の請求項1乃至4に係る発明は、いずれも刊行物に記載されている。
そして、刊行物の【図1】及び【図2】には、「取出電極9」が「第1の電極7」と「第2の電極8」の対向する反対側の周辺部の一部に設けられていることが示されている。
したがって、本件訂正明細書の請求項5に係る発明と刊行物記載の発明とは同一である。
2.2.3.6 請求項6に係る発明について
前記2.2.3.1 乃至前記2.2.3.5 で述べたとおり、本件訂正明細書の請求項1乃至5に係る発明は、いずれも刊行物に記載されている。
そして、前記2.2.3.1 (1)で述べたとおり、刊行物には、「n層4」を刊行物の【図10】に示すように、「低キャリア濃度n層4a」と「高キャリア濃度n+層3」との2層とすることが記載されている。
したがって、本件訂正明細書の請求項6に係る発明と刊行物記載の発明とは同一である。
2.2.3.7 請求項7に係る発明について
前記2.2.3.1 乃至前記2.2.3.6 で述べたとおり、本件訂正明細書の請求項1乃至6に係る発明は、いずれも刊行物に記載されている。
そして、前記2.2.3.1 (1)で述べたとおり、刊行物には、「取出電極9」が「Ni層9b」と「Au層9c」との2層で構成されることが記載されている。
したがって、本件訂正明細書の請求項7に係る発明と刊行物記載の発明とは同一である。
2.2.3.8 請求項8に係る発明について
前記2.2.3.1 乃至前記2.2.3.7 で述べたとおり、本件訂正明細書の請求項1乃至7に係る発明は、いずれも刊行物に記載されている。
そして、前記2.2.3.1 (1)で述べたとおり、刊行物には、「i層5」がp型不純物を添加した半絶縁性のi型のGaNから成ることが記載されている。
したがって、本件訂正明細書の請求項8に係る発明と刊行物記載の発明とは同一である。
2.2.3.9 請求項9に係る発明について
前記2.2.3.1 乃至前記2.2.3.8 で述べたとおり、本件訂正明細書の請求項1乃至8に係る発明は、いずれも刊行物に記載されている。
そして、前記2.2.3.1 (1)で述べたとおり、刊行物には、「第1の電極7」に接合した「取出電極9」と「リードピン41」とが接続され、「第2の電極8」と「リードピン42」とが接続されることが記載されている。
したがって、本件訂正明細書の請求項9に係る発明と刊行物記載の発明とは同一である。
2.2.4「2.2 独立特許要件について」のむすび
以上のとおりであるから、本件訂正明細書の請求項1乃至9に係る発明は、いずれも刊行物に記載されたものであり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
2.3 「2.訂正の適否」のむすび
前記2.1 で述べたとおり、本件訂正は、本件特許明細書に新規事項を追加するものであり、また、前記2.2 で述べたとおり、本件訂正明細書の請求項1乃至9に係る発明は、いずれも特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正は、平成6年法律第116号附則第6条により、なお従前の例とされる平成5年改正特許法第134条第第2項ただし書き及び同条第5項において準用する同法第126条第3項の規定に適合しない。
したがって、本件訂正の請求は認められない。
3.本件特許発明の特許性について
3.1 請求人の主張の概要
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至9に係る発明は、平成9年4月4日付けの手続補正書によって、出願当初の明細書の要旨を変更して登録されたものである。
したがって、特許法第40条の規定により、本件の特許出願の出願日は、手続補正書を提出した平成9年4月4日となり、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至9に係る発明は、甲第1号証として提出した特開平5-129658号公報に記載された発明と同一である。
3.2 請求人の主張に対する判断
3.2.1 本件発明の要旨
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至9に係る発明の要旨は、その特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載されたとおりのものである。
「【請求項1】サファイア基板と、この基板上に形成された、n型の窒化ガリウム系化合物半導体から成るn層と、p型不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体から成るp型不純物添加層を有する発光素子において、前記p型不純物添加層の一部を除去して露出された前記n層上に形成された第2の電極と、前記第2の電極と同一面側に設けられ、前記p型不純物添加層のほぼ全面に設けられた透明の第1の電極と、前記第1の電極の一部に設けられたワイヤボンディングのための取出電極とを有し、前記n層は、前記p型不純物添加層全体に均一に電流が流れるようにSiがドープされた低抵抗率のGaNとしたことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項2】前記取出電極と前記第2の電極は、形状が異なることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】前記p型不純物添加層の一部は、ドライエッチングにより除去されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項4】前記取出電極は、前記第1の電極の周辺部の一部に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項5】前記取出電極は、前記第1の電極と前記第2の電極の対向する反対側の周辺部の一部に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項6】前記n層は、前記サファイア基板の側からSiがドープされたGaNから成る層と、ドナー不純物が無添加のGaNから成る層との2層構造としたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項7】前記取出電極は、NiとAuの2層を有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項8】前記p型不純物添加層は、p型不純物が添加されたGaNであることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【請求項9】前記第1の電極に接合した前記取出電極に導線により接続される第1のリードピンと、前記第2の電極に導線により接続される第2のリ-ドピンとを更に有することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」
3.2.2 要旨変更について
前記2.2.2 で述べたとおり、平成9年4月4日付け手続補正書による補正は、本件明細書の要旨を変更するものであるから、本件特許出願は、特許法第40条の規定により、前記手続補正書が提出された平成9年4月4日にしたものとみなす。
3.2.3 同一性について
3.2.3.1 請求項1に係る発明について
(1)甲第1号証記載の発明
請求人が提出した甲第1号証の特許請求の範囲の請求項1、発明の詳細な説明の欄及び図面には、前記2.2.3.1 (1)で指摘したとおりの事項が記載されている。
したがって、甲第1号証には、サファイア基板と、この基板上に形成された、n型の窒化ガリウム系化合物半導体から成る層と電流が水平方向に流れる、Siがドープされた低抵抗率のGaNから成る層とで構成されるn層と、p型不純物を添加した半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体から成るi層を有し、発光する部分が前記i層上の電極の電極下領域に限定される発光素子であって、前記i層の一部を除去して露出された前記n層上に形成された第2の電極と、前記第2の電極と同一面側に設けられ、前記i層のほぼ全面に設けられた透明の第1の電極と、前記第1の電極の一部に設けられたワイヤボンディングのための取出電極とを有するGaN系発光素子が記載されている。
(2)対比・判断
本件特許の請求項1に係る発明と甲第1号証記載の発明とを比較すると、前記2.2.3.1 (2)で述べた理由により、両者の間に相違はない。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明と刊行物記載の発明とは同一である。
3.2.3.2 請求項2に乃至9に係る発明について
前記2.2.3.2 乃至2.2.3.9 で述べた理由により、本件特許の請求項2乃至9に係る発明と甲第1号証記載の発明とは同一である。
3.2.4「3.2 同一性について」のむすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1乃至9に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載されたものである。
3.3 「本件特許発明の特許性について」のむすび
前記3.2 で述べた理由により、本件特許の請求項1乃至9に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
4.むすび
したがって、本件の請求項1乃至9に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当するので、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-02-23 
結審通知日 1999-03-05 
審決日 1999-03-17 
出願番号 特願平3-313977
審決分類 P 1 112・ 113- ZB (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小橋 立昌  
特許庁審判長 小林 邦雄
特許庁審判官 河口 雅英
橋本 武
登録日 1997-06-27 
登録番号 特許第2666228号(P2666228)
発明の名称 窒化ガリウム系化合物半導体発光素子  
代理人 石井 久夫  
代理人 樋口 武尚  
代理人 豊栖 康弘  

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