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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 H01F 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01F 審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 H01F |
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管理番号 | 1064241 |
異議申立番号 | 異議2000-73483 |
総通号数 | 34 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-02-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-09-18 |
確定日 | 2002-06-10 |
分離された異議申立 | 有 |
異議申立件数 | 3 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3020843号「回路保護デバイスの製造方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3020843号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3020843号に係る発明についての出願は、昭和61年10月14日(パリ条約による優先権主張1986年10月14日、米国)出願の特願昭61-245157号の一部を分割した出願として特許出願され、平成12年3月15日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、ボーンズ、インコーポレイティド及び遠藤昭子より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年9月3日に訂正請求(後日取下げ)がなされた後、再度の取り消しの理由が通知され、その指定期間内である平成14年5月7日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 2-1.訂正の内容 特許請求の範囲の請求項1の記載中「凹凸」とあるのを、「瘤状の凹凸」と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無および拡張・変更の存否 上記訂正事項は、発明を特定する事項である「凹凸」を「瘤状の凹凸」と限定するものであり、しかも、「瘤状の凹凸」については、願書に添付された明細書の段落【0004】に記載されているから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、かつ、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 2-3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議申立てについての判断 3-1.申立ての理由の概要 申立人ボーンズ、インコーポレイティドは、甲第1ないし5号証を提出し、本件特許に係る発明は、甲第1、3及び5号証に記載さされた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。 申立人遠藤昭子は、甲第1ないし3号証を提出し、本件特許に係る発明は、甲第1ないし3号証に記載さされた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張し、また、本件特許明細書には記載の不備がある旨主張している。 3-2.本件発明 2.で示したように上記訂正が認められるから、本件特許に係る発明(以下、本件発明という)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。 「層状の回路保護デバイスを製造する方法であって、 (1)層状PTC導電性ポリマー要素を2つの金属箔電極の間に積層することにより、箔積層物を調製する工程であって、電極のそれぞれは、ミクロラフ表面を有し、この表面は、 (a)層状導電性ポリマー要素と直接物理的に接触し、また、 (b)(i)0.1〜100ミクロンの距離で表面から突出し、(ii)0.1〜100ミクロンの表面に平行な少なくとも1つの長さを有する瘤状の凹凸から本質的に成り、 (c)電着法により形成されている工程、ならびに (2)工程(1)において調製した積層物を複数の回路保護デバイスに分割する工程を含んで成る方法。」 3-3.申立人が提出した甲各号証 申立人ボーンズ、インコーポレイティドが提出した甲第1号証は、特開昭60-196901号公報であり、以下の点が記載されている。 ・「重合体と該重合体に分散された導電性粉末とからなる正の抵抗温度特性を有する素子の表面に、該素子の表面と接する面を粗面化した金属板を接合し、これを電極としたことを特徴とする有機質正特性サーミスタ。」(特許請求の範囲) ・「この発明は有機質正特性サーミスタ、特に該有機質正特性サーミスタを構成している素子と電極となる金属板との接合強度を向上させたものに関する。有機質正特性サーミスタは、たとえばポリエチレン、ポリプロピレンなどの重合体にカーボンなどの導電性粉末を分散させたものであり、ある特定の温度に達すると抵抗が増大する正の抵抗温度特性を有するものとして知られている。」(第1頁左下欄第11〜18行) ・「結晶性ポリエチレン88部に、ケツチエンブラック(カーボンブラック)12部をよく混合し、120〜150℃で混練したのち、これを架橋するため100℃付近でオゾン(O3)を吹き込んだ。得られた架橋済の有機化合物を厚み1cmの板状に成型し、その素子の両面に、片面を電解質で粗面化したCu箔(35μ)を熱間プレスにより150℃、30分の条件で接合し、電極を形成した。その後1cm角の大きさに切断し、Cu箔の表面にCuからなるリード線を半田浸漬で接続した。」(第2頁左上欄第6〜15行) ・「第1表から明らかなように、この発明によるものは、金属板を粗面化していないCu箔を接合した比較試料にくらべて接合強度の大きなものが得られている。」(第2頁右上欄第4〜7行) ・「第2表から明らかなように、この発明のものは素子本体の比抵抗とほとんど同程度であり、良好なオーミック接触が得られていることを示している。」(第2頁左下欄第1〜4行) ・「なお、上述した実施例では電極としてCu箔を用いた例について説明したが、この他Ni箔についてはCu箔にくらべて大きな接着強度と良好な寿命特性を示すことが確認された。」(第2頁右下欄下から5〜2行) ・「この発明に係る有機質正特性サーミスタをヒータとして使用する場合、面状ヒータとして大きさに制限のないものが供給できる。また電流制限用として使用する場合、耐電圧が高くより低抵抗という特性を充分に活用できる。たとえばいままでセラミックの正特性サーミスタの特性では0.2Ωが限界であったのが、0.05Ωという低い抵抗値のものが得られ、電流制限用として多用途の活用ができる。」(第3頁左上欄第3〜12行) 申立人ボーンズ、インコーポレイティドが提出した甲第2号証は、米国特許第4426633号明細書であり、以下の点が記載されている。 ・(a)ポリマー成分及びポリマー成分中に分散された微粒子導電フィラーを含む導電ポリマーからなる素子、(b)金属箔である第1の電極及び(c)第2の電極を含む電気デバイスの製造方法であって、導電性ポリマー組成物を所定形状に成型し、成形された素子と金属箔を互いに直接又は間接に面接触させ、熱及び圧力を加え、成形された素子と金属箔を冷却することを含む製造方法を提供すること、さらに、その後、得られた積層体を所望の小片にカットして好ましい特性を有するデバイスを提供できること、(第2欄第61行〜第3欄第19行) ・デバイスは、23℃で1000Ωより低い抵抗、好ましくは100Ωより低い抵抗、さらに好ましくは1より低い抵抗を有してること、非常に低い抵抗のデバイスは、例えば、0.1Ωより低い、更に例えば、0.01Ωより低くされ、そして高い正常動作電流を有する回路の回路保護デバイスとして役立つこと、(第3欄第20〜53行) 申立人ボーンズ、インコーポレイティドが提出した甲第3号証は、Transactions of the INSTITUTE OF METAL FINISHINGINCORPORATING ELECTRODEPOSITOR’S TECHNICAL SOCIETY,Volume48,1970,P.88〜92であり、以下の点が記載されている。 ・プラスチックへの金属の接着性の改善は、メッキされたプラスチック及び印刷回路の小型化への新たな適用の市場の挑戦にかなうように求められていること、この研究の目的は、金属被覆薄層の接着性を向上させることにあること、(第88頁左欄第2〜13行) ・電気的に形成された銅箔は、単一の段階又は2段階で調製され、表1に図示するような表面形状が得られたこと、第1の段階のメッキは、高純度の硫酸銅酸溶液で激しく撹拌しながら行なわれたこと、析出した構造は断面が柱状で、35μm厚の箔の外表面は表面から3μm突出したピラミッドで構成されていること、第2の電気メッキの段階は、分離した3次元的な樹枝状の結晶を表面に析出させること、電気的に形成された銅箔は、第2段階の電気メッキ後直ちに空気中で短時間加熱することにより酸化されたこと、(第88頁右欄第7行〜第89頁左欄第21行) ・接着試験 電気的に形成された銅及びニッケル箔は、ガラスクロス強化エポキシ樹脂積層体に結合させたこと、予め含浸させたがラスクロスが銅箔の上に置かれ、電気的に形成された箔表面に溶融樹脂が流し込まれ次に重合させるように、高温で圧力をかけたこと、そうして、金属箔のエポキシ積層体に対する接着力が測定されたこと、(第89頁右欄第1〜9行) 申立人ボーンズ、インコーポレイティドが提出した甲第4号証は、米国特許第4315237号明細書であり、以下の点が記載されている。 ・本発明のデバイスの電極は、一般に、金属又は0.1Ω・cm以下の固有抵抗を有する他の材料より成り、電極はPTC素子と物理的に接合し得ること、(第4欄第31〜34行) ・電極は、好ましくは、ニッケル、錫、銀又は金、或いは銅又は別の金属上に被覆されたこれらの金属の1つよりなること、(第4欄第45〜48行) ・本発明のデバイスは回路制御装置を有すること、25℃におけるデバイスの抵抗は相対的に低く、例えば、500Ω以下であり、好ましくは10Ω以下であり、或いは1Ω又は0.5Ω以下のようにずっと小さいこと、(第4欄第59行〜第5欄第2行) 申立人ボーンズ、インコーポレイティドが提出した甲第5号証は、特開昭59-136484号公報であり、以下の点が記載されている。 ・「本発明は金属箔の表面に均一な粗面を形成する方法に関するもので、特に印刷配線用の金属箔に適用する好適な金属箔の粗面化処理方法に関するものである。」(第1頁左下欄第13〜16行) ・「また、圧延銅箔の場合には、エッチングにより粗面を形成してもよいが、より強い接着力を必要とする場合には、予め電解メッキにより2〜3μmのメッキ層を形成した後、1〜10μmの大きさの突起状析出物を均一に析出させる粗面化を施こすことが好ましい。」(第2頁左上欄第13〜18行) ・「通常の方法で得られた厚さ35μm、幅1mの電解銅箔を用い (A)前記電解銅箔の・・・厚さの均一性を求めた。次いで粗面側を接着剤によりフェノール基板に接着した後、その接着力を測定した。・・・ (E)前記(D)により得られた銅箔を次の条件で更に電気化学的な粗面化処理を行なった。・・・得られた銅箔を前記(A)と同じ方法で厚さの均一性と接着力を測定した。」(第2頁左下欄第19行〜第3頁左上欄第13行) 申立人遠藤昭子が提出した甲第1号証は、申立人ボーンズ、インコーポレイティドが提出した甲第1号証であり、前記した点が記載されている。 申立人遠藤昭子が提出した甲第2号証は、特開昭52-117980号公報であり、以下の点が記載されている。 ・「一般に、二種のものの界面における接着性ないしは接合性は、界面が粗面状である場合にすぐれている。従って二種の物を接合する場合には、何れか一方または両方の面を予め粗化し凹凸を形成しておく。この考え方は金属面を有する合成樹脂板の製造にも応用される。すなわち、たとえば銅箔を粗面化して接着力の向上を図っている。したがって粗面を有する銅箔等を如何にして、また最も都合のよい形状の粗面を如何にして、場合によってはできるだけ薄い粗面化銅箔を製造するかが、より具体化された課題であった。」(第2頁左上欄第11行〜同頁右上欄第1行) ・「先のプラスチックスシート1と金属層2の界面を粗面状にするためには、使用するプラスチックシート1の表面を粗面化して用いる。そしてこの粗面上に金属層を形成することにより、それらの界面の粗面状化を図り、そしてプラスチックスシート1の剥離後、金属粗面を剥き出しにする。」(第2頁右下欄第12〜17行) ・「プラスチックスシート1の面上に形成される粗面の形状については特に限定するものではない。・・・しかし形成されるべき粗面形状のうちで、最も好ましく、実現性が大きいのは、略錐体状又は円柱状の凹凸である。」(第3頁左上欄第11〜18行) ・「先づ前記凹凸形状についてのくぼみに対応する突起を有する原板が形成され、これがプラスチックスシートに転写される。この場合に用いられる原板は金属製である。金属の種類については限定はしないが銅が製造がし易く好ましい。原板に対する該突起の形成法は、限定はしないが電解メッキ法が製造が容易である点で好ましい。製法につき例示的に説明するとメッキ浴中に、チタン性の鏡面を有するドラムを浸し、これを陰極としてかつドラムを徐々に回転させながら電気メッキを行ない、ドラム面に形成された電解金属箔を剥離して得る。かくすることにより略錐体状突起を有する原板が得られる。」(第3頁左下欄第8行〜同頁右下欄第1行) 申立人遠藤昭子が提出した甲第3号証は、特開昭52-19746号公報であり、以下の点が記載されている。 ・「熱可塑性結晶ポリマー及び該ポリマー中に分散された導電性カーボンブラックからなる組成物を成形すること、及び該成形された組成物を架橋させることからなり、かつ(a)式-CH2CF2-の繰り返し単位からなる熱可塑性結晶ポリマー、(b)導電性カーボンブラック、および(c)少なくとも1個のカーボンブラック多重結合を含むモノマーからなる組成物を成形および架橋させることを特徴とする、PTC挙動を示す物品の製造方法。」(特許請求の範囲第1項) 3-4.対比・判断 本件発明と、両申立人の提出した甲各号証に記載された事項とを対比すると、両申立人の提出した甲各号証には、いずれも、本件発明の構成要件である「層状PTC導電性ポリマー要素を2つの金属箔電極の間に積層することにより、箔積層物を調製する工程であって、電極のそれぞれは、ミクロラフ表面を有し、この表面は、 (a)層状導電性ポリマー要素と直接物理的に接触し、また、 (b)(i)0.1〜100ミクロンの距離で表面から突出し、(ii)0.1〜100ミクロンの表面に平行な少なくとも1つの長さを有する瘤状の凹凸から本質的に成り、 (c)電着法により形成されている工程」について記載がなく、また示唆もない。 申立人ボーンズ、インコーポレイティドが提出した甲第1号証(申立人遠藤昭子が提出した甲第1号証)には、正の抵抗温度特性を有する素子の表面に、該素子の表面と接する面を粗面化した金属板を接合することが記載されているが、当該粗面化については、電解質で粗面化したCu箔を用いることが記載されているだけで、電着法により粗面化することについての記載はない。 申立人ボーンズ、インコーポレイティドが提出した甲第3号証には、2段階の電気メッキにより、樹枝状結晶を表面に析出させた銅等の金属箔と、エポキシ樹脂積層体とを積層することが記載されているが、層状導電性ポリマー要素と接合させるものではなく、また、第2段階のメッキ直後に酸化させていることから、導電性ポリマーとその電極とを接合させることを念頭においたものではないと認められる。なお、同号証の表2(91頁)は、他の研究者のデータを比較のために引用したものであり、同号証において開示された事項と直接の関係は認められない。 同じく甲第5号証は、金属箔を粗面化したものを接着剤によりフェノール基板に接着させているもので、導電性ポリマーとその電極とを接合させることを念頭においたものではないと認められる。 申立人遠藤昭子が提出した甲第2号証は、プラスチックスシートに表面の凹凸形状を転写するために、金属原板に突起を形成するものであり、導電性ポリマーとその電極とを接合させることを念頭においたものではないと認められる。 申立人ボーンズ、インコーポレイティドが提出した甲第2、4号証及び申立人遠藤昭子が提出した甲第3号証には、本件発明の前記した構成要件について記載も示唆もないことは明らかである。 したがって、本件発明が申立人ボーンズ、インコーポレイティドが提出した甲第1〜5号証に記載された発明あるいは申立人遠藤昭子が提出した甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると認めことはできない。 なお、本件請求項2〜5は、請求項1に係る発明の実施態様項であり、請求項1の構成をすべて備えているから、請求項1に係る発明について検討したと同様の理由で、両申立人の提出した甲各号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると認めることはできない。 3-5.申立人遠藤昭子の主張する記載不備について 申立人遠藤昭子の主張する記載不備の具体的理由は、次のようなものである。 a:請求項1の「ミクロラフ表面」の「表面」は電極のどの部分を指しているのか不明りょうであり、また、「少なくとも1つの長さを有する凹凸」の「長さ」が何を意味するか不明であるから、「ミクロラフ表面」が何を指しているのか不明確である。 b:ミクロラフ表面の表面から突出している距離及び凹凸が有する表面に平行な少なくとも1つの長さが実施例に開示されておらず、数値限定の根拠が見いだせない。 c:請求項2の「少なくとも1つの層を規定する長さ」がデバイスのどの部分を指すものか不明りょうであり、また当該長さの数値限定の根拠が見いだせない。 そこで、以下、これらの主張点につき検討する。 主張aについて 請求項1には、「ミクロラフ表面を有し、この表面は、 (a)層状導電性ポリマー要素と直接物理的に接触し」と記載があり、「ミクロラフ表面」の「表面」とは、層状導電性ポリマー要素と直接物理的に接触する表面であることは明らかである。また、段落【0004】に「「ミクロラフ(microrough)」なる語は、・・・特に少なくとも0.1ミクロンである表面に平行な少なくとも1つの長さまたは次元(dimension)を有する凹凸を有してなる表面を意味するものとして本明細書では使用している。」なる記載があり、「ミクロラフ表面」が何を指しているのか不明確であるとはいえない。 主張bについて 本件発明は、「ミクロラフ表面の表面から突出している距離及び凹凸が有する表面に平行な少なくとも1つの長さ」を限定した点にのみ特徴を有しているのではなく、当該長さについては好ましい範囲を限定的に記載したものであって、実施例に当該長さについて記載がないからといって、直ちに記載不備であるとはいえない。 主張cについて 「少なくとも1つの層を規定する長さ」については、段落【0007】に「0.2インチ以下、例えば0.15インチ以下であるような、また0.1インチ以下のような更に小さい少なくとも1つの層状寸法(または層を規定する長さ)を有する非常に小さい層状デバイスを、箔積層物の打ち抜きにより製造できる。」なる記載があり、デバイスのどの部分を指すものか不明りょうであるとはいえず、また、当該規定する長さについては、好ましい範囲を限定的に記載したものであって、実施例に当該長さについて記載がないからといって、直ちに記載不備であるとはいえない。 したがって、明細書に記載不備がある旨の申立人遠藤昭子の主張は、採用することができない。 3-6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 回路保護デバイスの製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 層状の回路保護デバイスを製造する方法であって、 (1)層状PTC導電性ポリマー要素を2つの金属箔電極の間に積層することにより、箔積層物を調製する工程であって、電極のそれぞれは、ミクロラフ表面を有し、この表面は、 (a)層状導電性ポリマー要素と直接物理的に接触し、また、 (b)(i)0.1〜100ミクロンの距離で表面から突出し、(ii)0.1〜100ミクロンの表面に平行な少なくとも1つの長さを有する瘤状の凹凸から本質的に成り、 (c)電着法により形成されている工程、ならびに (2)工程(1)において調製した積層物を複数の回路保護デバイスに分割する工程 を含んで成る方法。 【請求項2】 工程(2)は、積層物を打ち抜いて複数のデバイスを製造する工程を含んで成り、各デバイスは、(i)0.2インチ(5.1mm)以下である少なくとも1つの層を規定する長さを有し、また、(ii)1Ω以下の抵抗を有する特許請求の範囲第1項記載の方法。 【請求項3】 導電性ポリマーは、高密度ポリエチレンまたはポリビニリデンフルオリド系である特許請求の範囲第1項または第2項記載の方法。 【請求項4】 各電極が、電着ニッケル箔である特許請求の範囲第1〜3項のいずれかに記載の方法。 【請求項5】 各電極が、上に電着されたニッケルの被覆を有する銅箔である特許請求の範囲第1〜3項のいずれかに記載の方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、導電性ポリマー組成物を有して成る電気デバイスに関する。 【0002】 【従来の技術】 導電性ポリマーは、周知である。導電性ポリマーは、有機ポリマー中に分散させた、または有機ポリマーにより支持された粒状導電性充填剤を含んで成る。それらは、ヒーターおよび回路保護デバイスに使用でき、PTC(正温度係数)またはZTC(零温度係数)挙動として知られた挙動を示すことができる。 【0003】 導電性ポリマー組成物およびデバイスに関する文献には、例えば、以下のようなものが挙げられる。アメリカ合衆国特許第2,952,761、2,978,665、3,243,753、3,351,882、3,571,777、3,757,086、3,793,716、3,823,217、3,858,144、3,861,029、3,950,604、4,017,715、4,072,848、4,085,286、4,117,312、4,177,376、4,177,446、4,188,276、4,237,441、4,242,573、4,246,468、4,250,400、4,252,692、4,255,698、4,271,350、4,272,471、4,304,987、4,309,596、4,309,597、4,314,230、4,314,231、4,315,237、4,317,027、4,318,881、4,327,351、4,330,704、4,334,351、4,352,083、4,361,799、4,388,607、4,398,084、4,413,301、4,425,397、4,426,339、4,426,633、4,427,877、4,435,639、4,429,216、4,442,139、4,459,473、4,481,498、4,476,450、4,502,929、4,514,620、4,517,449、4,534,889および4,560,498号;クラソンおよびクーバット(KlasonおよびKubat),ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマー・サイエンス(J.Applied Polymer Science)19,813-815(1975);ナルキス(Narkis)ら,ポリマー・エンジニアリング・アンド・サイエンス(Polymer Engineering and Science)18,649-653(1978);ヨーロッパ特許出願第38,713、38,714、38,718;74,281、92,406、119,807、133,748、134,145、144,187、157,640、158,410、175,550および176,284号。 【0004】 【発明の構成】 導電性ポリマーと共に使用されてきた電極には、単線および撚線、金属箔ならびにエキスパンデッドメタルシートおよび穿孔金属シートが包含される。発明者らは、導電性ポリマーと直接物理的に、かつ電気的に接触するミクロラフ(microrough)表面を有する電極を使用することにより、向上した物理的および電気的性質が得られることを見出だした。「ミクロラフ(microrough)」なる語は、(a)少なくとも0.03ミクロン、好ましくは少なくとも0.1ミクロン、特に0.1〜100ミクロンの距離だけ表面から突出し、(b)(i)500ミクロンを越えない、好ましくは100ミクロンを越えない、特に10ミクロンを越えない、また、(ii)好ましくは少なくとも0.03ミクロン、特に少なくとも0.1ミクロンである表面に平行な少なくとも1つの次元(dimension)を有する凹凸を有して成る表面を意味するものとして本明細書では使用している。凹凸は、電着により形成された形状、例えば、一般に表面から突出する球状の瘤であってよく、あるいは別の形状であってもよい。従って、1つの要旨において、本発明は、 (1)導電性ポリマーから成る要素、および (2)導電性ポリマー要素と直接物理的に接触するミクロラフ表面を有する少なくとも1つの金属電極 を有して成る電極デバイスを提供する。 【0005】 ミクロラフ表面を作り出す好ましい方法は電着による方法であり、電解液にさらされる表面がミクロラフ表面になる。例えば、電着箔および同一または異なる金属の層を電着により上に形成した箔(特に、電着銅ニッケル箔)は、積層電極が必要である場合、非常に有用である。同一または異なる金属の層を電着により上に形成した単線または撚線(特に、ニッケル被覆を電着により上に形成した銅線)は、円柱状電極が必要である場合、非常に有用である。また、他の方法、例えばエッチングもしくは例えば滑らかな表面との化学反応により滑らかな表面から物質を除去する方法、または例えば電気メッキもしくは平滑表面への同一または異なる物質の層の付着によりミクロラフ表面を形成することも可能である。要すれば、ミクロラフ表面は、化学的性質を変えるために処理することができる。例えば、電着金属箔は、適当な処理、例えば水安定性酸化物の被膜を与える処理、特に電着銅箔の亜鉛-ニッケルまたはニッケル処理により不動態化する(即ち、不活性にまたは化学的反応性がほとんどないように変える)ことができる。このような処理は、例えば、金属が導電性ポリマーの分解の触媒となるような場合に望ましい。また、このような処理は、導電性ポリマーとの適当な酸-塩基相互作用を提供するために行うことができる。 【0006】 電極上のミクロラフ表面の使用により、使用できる導電性ポリマーの範囲が増加する。例えば、従来の金属箔を使用する場合、金属箔に向上した付着性を提供する極性ポリマーまたは他のポリマー成分を導電性ポリマーが含む必要がしばしばあったが、その存在により所定の電気的性質が低下していた。そのような成分は、ミクロラフ電極を使用する場合、必要ではない。従って、本発明は、特に、曲げ、膨張係数の違い、例えば軽油のような溶剤への露出、または熱的もしくは電気的衝撃の結果としての電極と導電性ポリマーの分離が問題であると考えられるような状況で、より広範囲の導電性ポリマーを使用することを可能にする。適当な導電性ポリマーは、参考文献に記載されているものである。好ましい導電性ポリマーには、ポリオレフィン系のもの、特に高密度ポリエチレン、およびフルオロポリマー系のもの、特にポリビニリデンフルオリドが包含される。向上した付着性の利点には、箔積層物から非常に小さい部分の打ち抜きができること、および高電圧下にさらされた場合にでも有する実質的に向上した電気的安定性が包含される。 【0007】 本発明は、上述の特許および特許出願に記載されているデバイスのいずれにでも使用でき、それには、特に、例えば100オーム以下、特に25オーム以下、より特に1オーム以下の抵抗を有する回路保護デバイスが包含される。0.2インチ以下、例えば0.15インチ以下であるような、また0.1インチ以下のような更に小さい少なくとも1つの層状寸法を有する非常に小さい層状デバイスを、箔積層物の打ち抜きにより製造できる。他の有用なデバイスには、自己制限ヒーター、特に全表面積が少なくとも1.0(インチ)2、例えば少なくとも5(インチ)2である可撓性シートヒーターが包含される。 【0008】 本発明は、PTC導電性ポリマーに埋設した円柱状電極、例えば、単線または撚線を有して成る回路保護デバイスに特に重要であることが見出だされた。そのような多くのデバイスにおいて、従来のワイヤーを使用する場合、十分に安定したデバイスを得るには、ワイヤーを溶融導電性ポリマーと接触させる前にグラファイト含有組成物でワイヤーを被覆することが望ましいことが見出だされた。ミクロラフ表面を有する電極を使用することにより、そのような被覆を使用しなくても同等またはより良い安定性を有するデバイスを作り出すことができる。 【0009】 また、本発明は、層状の回路保護デバイスを製造する方法であって、 (1)層状PTC導電性ポリマー要素を2つの金属箔電極の間に積層することにより、箔積層物を調製する工程であって、電極のそれぞれは、ミクロラフ表面を有し、この表面は、 (a)層状導電性ポリマー要素と直接物理的に接触し、また、 (b)(i)0.1〜100ミクロンの距離で表面から突出し、(ii)500ミクロンを越えない表面に平行な少なくとも1つの次元を有する凹凸から本質的に成る工程、ならびに (2)工程(1)において調製した積層物を複数の回路保護デバイスに分割する工程 を含んで成る方法を提供する。 本発明を次の実施例により説明する。 【0010】 【実施例】 実施例1 高密度ポリエチレン(マーレックス(Marlex)6003、フィリップス・ペトローリアム(Phillips Petroleum)製)6200g、カーボンブラック(スタテックス(Statex)G、コロンビアン・ケミカルズ(Columbian Chemicals)製)5310g、酸化チタン(ティピュア(TiPure)R101、デュポン(du Pont)製)7955gおよび酸化防止剤205gを混転し、バンバリー(Banbury)ミキサーで混合し、水浴中に溶融押出し、ペレットにした。乾燥後、ペレットを幅8.25インチ(21.0cm)、厚さ0.030インチ(0.076cm)のシートに押し出し、6インチ(15.3cm)平方のサンプルをシートから切り取った。 【0011】 260℃の加熱プレスを使用して、圧力4000ポンド2分間、次いで圧力7000ポンド3分間で2枚の金属箔(6×6×0.0014インチ)間に各サンプルを積層した。金属箔は、サンプルに隣接する表面をニッケルおよび亜鉛で不動態化した電着銅箔であった。この箔は、エイツ・インダストリーズ(Yates Industries)からテックス(TEX)-1という商品名で市販されている。 【0012】 直径が0.125インチ(0.318cm)のディスク形状デバイスをこの積層物から打ち抜いた。24AWGのニッケルメッキ鋼リード線を各デバイスの各金属箔に取り付けた。次いで、エポキシ樹脂によりデバイスを封入し、110℃3時間で硬化させた。 【0013】 実施例2 実施例1に使用した手順により、マーレックス6003(8092g)、スタテックスG(8071g)および酸化防止剤276gをペレットにし、次いで、このペレットからディスク形状デバイスを製造した。 【0014】 実施例3 ポリビニリデンフルオリド(KF1000、クレハ(Kureha)製)15701g、カーボンブラック(バルカン(Vulcan)XC-72、カボット(Cabot)製)3915g、炭酸カルシウム(オムヤ(Omya)BSH、オムヤ社製)618gおよびトリアリルイソシアヌレート199gを混合し、水浴中に溶融押出し、ペレットにした。 【0015】 ペレットを押出成形して、幅11インチ(27.9cm)、厚さ0.020インチ(0.051cm)のシートにし、1.5MeV電子ビームを使用して20Mラドの線量で放射線照射した。6インチ(15.3cm)平方のサンプルをシートから切り取った。200℃で圧力1500ポンド4分間、圧力20000ポンド2分間、次いで、冷却して水冷プレスで圧力20000ポンドで、2枚のポリマーシートのサンプルを2枚の(1オンスの)電着銅箔(6×6インチ)(インターナショナル・ホイルズ(International Foils)製)間に積層した。得られたシートは、厚さ0.035インチ(0.089cm)であった。平らな0.005インチ(0.013cm)銅リード線をスラブから切り取ったサンプル(1インチ(2.54cm)×2インチ(5.08cm))にハンダ付けした。次いで、ヒーターをエポキシ樹脂に封入した。 【0016】 実施例4 高密度ポリエチレン(マーレックス6003)7945g、カーボンブラック(スタテックスG)7200gおよび酸化防止剤263gを混合し、水浴中に溶融押出し、ペレットにした。乾燥後、ペレット12185gをアルミナ三水和物(ハイドラル(Hydral)705、アルコア(Alcoa)製)4726gと混合し、水浴中に溶融押出し、ペレットにした。乾燥後、ニッケルを公称300〜500マイクロインチ(0.762〜1.27mm)の厚さで電気メッキした2本の22AWG予熱単銅線の回りにクロスヘッドダイによりペレットを溶融押出成形した。得られたストリップ(約0.58×0.25cm)を1MeV電子ビームを使用して75Mラドの線量で放射線照射した。放射線照射したストリップを約1cmの長さに切断し、これを用いて導電性ポリマー要素の長さが約0.76cmであり、電極がPTCポリマー要素の片端から約0.25cm延びた回路保護デバイスを製造した。 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 ・特許第3020843号の明細書中特許請求の範囲の請求項1の記載中「凹凸」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、「瘤状の凹凸」と訂正する。 |
異議決定日 | 2002-05-21 |
出願番号 | 特願平7-230004 |
審決分類 |
P
1
651・
532-
YA
(H01F)
P 1 651・ 121- YA (H01F) P 1 651・ 531- YA (H01F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 平塚 義三、佐藤 伸夫、朽名 一夫 |
特許庁審判長 |
下野 和行 |
特許庁審判官 |
片岡 栄一 治田 義孝 |
登録日 | 2000-01-14 |
登録番号 | 特許第3020843号(P3020843) |
権利者 | レイケム・コーポレイション |
発明の名称 | 回路保護デバイスの製造方法 |
代理人 | 青山 葆 |
代理人 | 青山 葆 |
代理人 | 鮫島 睦 |
代理人 | 柴田 康夫 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 西山 雅也 |
代理人 | 柴田 康夫 |
代理人 | 樋口 外治 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 鮫島 睦 |
代理人 | 永坂 友康 |