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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1064340
異議申立番号 異議2001-73516  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-01-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-26 
確定日 2002-07-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3182553号「食品の赤色着色方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3182553号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3182553号の発明についての出願は、平成6年7月14日に出願され、平成13年4月27日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、田嶋順治、大岩伸治、および村田 博よりそれぞれ特許異議の申立がなされ、平成14年2月28日付けで取消の理由の通知がなされ、その指定期間内である平成14年5月13日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
特許請求の範囲の請求項1の「紫さつまいもの改良品種「九州113号」からアントシアニン系色素を酸性条件下で、水または含水アルコールで抽出した赤色着色料で食品を赤色に着色することを特徴とする食品の赤色着色方法。」を、「紫さつまいもの改良品種「九州113号」からアントシアニン系色素を酸性条件下で、水または含水アルコールで抽出した赤色着色料で、果汁入り清涼飲料、果汁飲料または漬物類を耐熱・耐光性に優れた鮮明な赤色に着色することを特徴とする、上記食品の赤色着色方法。」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項に関連する記載として、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には、【0006】に「本発明において食品とは、冷菓類、菓子類、飲料類、デザート類、漬け物類、ドレッシング・ソース類、及び惣菜・加工食品等をいう。」と記載され、【0008】に「糖類、果汁、酸類等を主原料とし、これに安定剤、香料等を加え飲料を調整する。この飲料に本発明に係る赤色着色料製剤を添加混合した後、殺菌、冷却後容器に充填する。ここでいう飲料とは、例えば、乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、粉末飲料などである。」と記載され、【0012】に「野菜、食塩、糖類、グルタミン酸ナトリウムを主原料とし、これに調味料、香料等を加え漬物を調整する。この漬物に本発明に係る赤色着色料製剤を添加混合した後、容器に充填し、殺菌、冷却する。ここでいう漬物類とは、例えば、浅漬、塩漬け、糠漬け、梅漬けなどである。」と記載されており、また、【0014】に「本発明によれば、食品を耐熱・耐光性に優れた鮮明な赤色に着色することができる。」と記載されている。
そうすると、上記訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、訂正前の請求項1に係る発明を特定する事項である、赤色に着色される「食品」を「果汁入り清涼飲料、果汁飲料または漬物類」に限定し、「赤色」を「耐熱・耐光性に優れた鮮明な赤色」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであって、新規事項の追加に該当しない。
更に、上記訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する第126条第2、3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立についての判断
(1)申立の理由の概要
ア.異議申立人 田嶋順治は、甲第1〜3号証を提出し、訂正前の本件請求項1に係る発明は甲第1号証及び甲第2号証刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、また、甲第1号証及び甲第2号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるため、請求項1に係る発明の特許は取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証;日本食品工業学会誌 Vol.41 第287-293頁、1994年4月
甲第2号証;FOODS & FOOD INGREDIENTS JOURNAL OF JAPAN 食品・食品添加物研究誌FFIジャーナル No.161 第36-44頁、1994年7月1日発行
甲第3号証;改訂新版・ソフトドリンクス 第83頁
イ.異議申立人 大岩伸治は、甲第1〜5号証を提出し、訂正前の本件請求項1に係る発明は甲第1号証及び甲第2号証刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、甲第1号証〜甲第5号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるため、請求項1に係る発明の特許は取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証;日本食品工業学会誌 Vol.41 第287-293頁、1994年4月(田嶋の引用する甲第1号証)
甲第2号証;FOODS & FOOD INGREDIENTS JOURNAL OF JAPAN 食品・食品添加物研究誌FFIジャーナル No.161 第36-44頁、1994年7月1日発行(田嶋の引用する甲第2号証)
甲第3号証;実験報告書
甲第4号証;特開平4-103669号公報
甲第5号証;特開昭62-297363号公報
ウ.異議申立人 村田 博は、甲第1〜4号証を提出し、訂正前の本件請求項1に係る発明は甲第1号証刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、甲第1号証〜甲第4号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるため、請求項1に係る発明の特許は取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証;日本食品工業学会誌 Vol.41 第287-293頁、1994年4月(田嶋、大岩の引用する甲第1号証)
甲第2号証;特開平4-103669号公報(大岩の引用する甲第4号証)
甲第3号証;特開昭62-297363号公報(大岩の引用する甲第5号証)
甲第4号証;特開昭62-297364号公報
(2)本件発明
訂正後の本件請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(3)甲各号証に記載された発明
異議申立人がそれぞれ提出した甲号証、及びその記載内容を整理すると、以下のとおりである。
刊行物1:日本食品工業学会誌 Vol.41 第287-293頁、1994年4月(田嶋、大岩、村田の甲第1号証)
食用色素原料、特にアントシアニン色素に関する文献であり、「1989年厚生省より「第一版化学的合成品以外の食品添加物リスト」が発刊された。このリスト中の着色料の部には87種の植物、動物及び鉱物色素原料が収載されているが、そのうちアントシアニン色素は32種と最も多いものである。これらのアントシアニン色素の原料植物は在来種あるいは食用として品種改良された植物であり、必ずしも食用色素原料として最適といえない場合がある。…紫甘藷の一種山川紫の色素はこの着色料の部に記載されている紫イモ色素にあたる。我々は、山川紫の塊根が多量のアントシアニンを含んでいること、他のアントシアニン系色素に比べて耐熱、耐光性ならびに色調的にも優れていることに着目した。」と記載され、「山川紫は他の紫系品種より遙かに多量のアントシアニン色素を含んでいる。しかしながら、色素原料としてみた場合、この山川紫にしても色素含有量は低く、収穫量も実用品種のコガネセンガンより遙かに低い。」こと、「知覧紫と山川紫の交配により山川紫と比較し色素含量で3倍、収量で1.5倍すなわち色素生産性で4.5倍の九州109号を得た。また、この九州109号とサツマヒカリの交配により色素含量で約4倍、反収で約2倍、すなわち生産性を約8倍に改良した九州113号を得た。」こと、「山川紫、九州109号、赤キャベツ、シソ、紫コーン、エルダーベリー」の「各色素原料を品種毎にランダムに選別、裁断し、その100gを0.5W/V%硫酸水500mlに一夜浸漬し」、抽出して、各色素を得たこと、当該色素について、「0.3W/V%クエン酸水溶液(pH2.4)にグラニュー糖を10.0W/V%溶解」したモデル飲料処方について、「恒温器で38℃及び50℃にて3,5及び7日間保存」する耐熱性試験、「蛍光灯下20000luxにて3,5及び7日間照射」する耐光性試験を行った結果、山川紫と九州109号が、両試験において、赤キャベツに匹敵し、他よりも優れた色素残存率を示したこと(図1及び図2)、また、「色素組成については各紫系品種間で色素組成に大きな差が認められた。」が、「山川紫及び、その改良品種においてはピーク3,4,5,6,7,8が多い類似のパターンを示し紫味の強い赤色を呈していたが、新たな色素ピークの出現は認めなかった。九州109号はピーク4,6,7,8の組成比が増加したものの色調には大差なかった。また、色素安定性、色調については山川紫と同等であった。」ことが記載され、「山川紫の色素原料としての品種改良に際して予め出発品種の色素組成及び色素構造を検討し、色素組成変化及び色素含量を新たな評価選別基準として改良品種を選抜した。その結果比較的短時間で良好な色調及び色素安定性を有し色素含量、生産性の高い改良品種を得た。中でも九州113号は従来の山川紫を色素含量で約4倍、収量で約2倍上まわった。すなわち単位面積あたりの色素生産性が約8倍になり、色素原料としてコスト的に大きく改善できた。また、通常の保存、抽出方法においては色素組成変化が少なく、工業原料として使用可能であった。」と記載されている。
更に、九州109号に関し、0.5W/V%硫酸、0.1W/V%塩酸メタノール、1.0W/V%塩酸メタノール、3.0W/V%トリフルオロ酢酸、5.0W/V%酢酸を抽出溶媒として抽出を行ったこと(289頁右欄の「3.加工特性試験」の項目)、そして、その結果(292頁の表3参照)、工業的なアントシアニン抽出には、塩酸水以外のいずれの混合溶媒も使用可能であること(291頁の「3.加工特性」の項目)が記載されている。
刊行物2:FOODS & FOOD INGREDIENTS JOURNAL OF JAPAN 食品・食品添加物研究誌FFIジャーナル No.161 第36-44頁、1994年7月1日発行(田嶋、大岩の甲第2号証)
刊行物1と同様のことが記載されているとともに、「山川紫色素は従来のアントシアニン色素の中でも最も優れた赤キャベツ、シソ色素と同等の色調、安定性を有していた。」こと、「山川紫色素の構造決定や安定性の検討により食用色素原料としての品種改良に有効な化学的評価方法を考案した。」こと、「新たな評価基準を取り入れた品種改良を実施し、色素収量で4.5倍、8倍の改良品種の九州109号、九州113号を得た。」こと、及び、「改良品種から得た色素の色調・安定性は元の山川紫のそれと大差なかった。」ことが記載されている(44頁の5.おわりにの項)。
刊行物3:改訂新版・ソフトドリンクス(田嶋の甲第3号証)
一般に食品のpHは酸性側にあることが記載されている。
実験報告書:大岩の提出する甲第3号証
本件特許明細書実施例1の記載に従い、アヤムラサキ(九州113号)、種子島ゴールド及び頴娃紫から得た着色料製剤をそれぞれ添加したジュースを調製し、蛍光灯照射後の残存率を求めたところ、光照射3日後には97〜100%、光照射14日後には86〜90%の残存率を示したことが、記載されている。
刊行物4:特開平4-103669号公報(大岩の甲第4号証、村田の甲第2号証)
紫サツマイモ色素の製法に係るものであり、「10℃以下の温度で粉砕した紫サツマイモの粉砕物を酸性条件下に水及び/またはアルコールで抽出することを特徴とする紫サツマイモ色素の製法。」が記載され、「本発明で原料として用いる紫サツマイモの種類としては、例えば…、山川紫、種子島在来、頴娃紫、…などを例示することができる。また、上記の他に山川紫サツマイモを品種改良してアントシアニン色素含量を高めた新品種のサツマイモを原料とすることもできる。…得られる新品種のサツマイモはアントシアニン系色素含量が高く、原料として特に好ましい。」、「上述の粉砕物を酸性条件下に溶媒で抽出する。抽出で使用する溶媒としては、例えば水及びメチルアルコール、エチルアルコールなどの低級アルコール及びこれらの任意の混和物などを例示できる。…上述の粉砕物を酸性にするには、予め酸性溶媒を調製しておき、この中に粉砕物を投入、混合して行われる。酸性溶媒のpHは、例えば約2〜3のごとき範囲が好適である。」、「上述のようにして得られた本発明の紫サツマイモ色素は、天然の赤色乃至赤紫色色素として優れた色調、安定性を有し、そのままの形で、あるいは乳化、粉末化した形態で広い分野において利用可能である。例えば、飲食物・嗜好品類、餌飼料類、保健・医薬品類、香粧品類などの利用分野において有用である。例えば、ドロップ、キャンディー、チョコレート、アイスクリーム、シャーベット、ゼリー、乳飲料、餡、畜肉加工食品、焼き肉たれ、漬け物などのごとき飲食品・嗜好品類への天然着色料…などとして有用である。」と記載されている。
刊行物5:特開昭62-297363号公報(大岩の引用する甲第5号証、村田の引用する甲第3号証)
「赤紫色色素」に関するものであり、「山川産紫イモの塊根から、その含有する色素を抽出してなることを特徴とする赤紫色食品用、医薬用色素」が記載され、「この発明の目的赤紫色色素は、その起源を、紫サツマイモの1品種であると見られる山川産紫イモとするものである。」、「抽出液は、水または及びアルコールを使用する。そのpHを約5以下の酸性とし、これに前記チップ全量が浸漬できる量を用意する。」、「収得した赤紫色色素は、炭酸飲料や果汁飲料に着色した際、室温1ヶ月の保存においてもその色相、明度、彩度に殆ど影響を認めなかった。」と記載されている。
刊行物6:特開昭62-297364号公報(村田の甲第4号証)
「耐光・耐熱性赤紫色色素」に関するものであり、「紫サツマイモの塊根の含有する赤紫色色素を抽出してなることを特徴とする、耐光・耐熱性赤紫色色素」が記載され、「この発明は、紫サツマイモの塊根を起源とする。」、「この塊根の含有する赤紫色色素を抽出液を用いて抽出する。抽出液は、酸性水あるいは、酸性アルコール水溶液を用いればよい。例えば、クエン酸2W%水溶液あるいは、クエン酸2W%、アルコール30V%水溶液程度のものでよい。このようなものは、そのpHは約5以下のものとするのが便利である。」、「取得した色素は、澄明な赤紫色を呈し、ビタミンC0.05%入り飲料に着色したとき、室温に1ヶ月保存後においても何らの色調変化及び不溶物を生じなかった。」と記載されている。
(4)甲号証との対比・判断
本件発明は、紫さつまいもの改良品種「九州113号」からアントシアニン系色素を酸性条件下で、水または含水アルコールで抽出した赤色着色料で、果汁入り清涼飲料、果汁飲料または漬物類を耐熱・耐光性に優れた鮮明な赤色に着色することを特徴とする、上記食品の赤色着色方法に係るものである。
これに対して、異議申立人が引用する刊行物1、2には、紫さつまいもの一品種である山川紫から得られるアントシアニン系色素が他の植物に由来するものに比べて耐熱、耐光性ならびに色調的に優れており、赤色着色料として使用されることが記載され、具体的に山川紫とその改良品種である九州109号から抽出したアントシアニン系色素について、グラニュー糖を溶解したクエン酸水溶液(pH2.4)を用いた試験の結果、他の植物由来の色素に比べて耐熱性、耐光性に優れることが示され、また、九州113号が山川紫の改良品種である九州109号から品種改良して得られた紫サツマイモの一品種であり、山川紫および九州109号と比べてアントシアニン系色素の収量が高く、色素原料として利用可能であることが記載されているが、当該刊行物には、これらに由来するアントシアニン系色素を着色料として用いる対象となる食品について、具体的な食品は何も記載されておらず、当該色素を、果汁入り清涼飲料、果汁飲料及び漬け物の着色料として用いることは記載されていない。
また、異議申立人の引用する刊行物4〜6には、紫サツマイモから抽出した赤紫色色素を食品の着色料として用いることが記載され、食品の一例として、漬け物や果汁飲料が挙げられ、紫サツマイモとして山川紫およびその改良品種が挙げられているが、九州113号については記載されていない。
そして、刊行物2には、九州109号、九州113号などの山川紫の改良品種由来のアントシアニン系色素について、得られる色素の色調・安定性はもとの山川紫と大差ないと記載されているところ、特許権者が平成14年5月13日に提出した意見書に添付した実験報告書(参考資料2)によれば、pH3.2のアセロラ果汁入り飲料においては、九州113号から得られる色素は、山川紫、九州109号及び在来品種頴娃紫のいずれと比べても、耐光性、耐熱性により優れた鮮明な赤色の着色を示し、また、食塩の存在下でもこれらと比べて黄変が少なく、明度の低下も少なく、大根のさくら漬けにおいてより鮮明な赤色の着色を示しており、九州113号から得られる色素は、果汁を含む飲料及び漬け物の着色料として用いた場合、山川紫や九州109号に比べて顕著に優れた効果を奏するといえるから、たとえ刊行物4〜6により、紫サツマイモ由来のアントシアニン色素により果汁を含む飲料や漬け物を着色することが知られていても、九州113号から得られる色素をこれらの食品の着色料として適用することは、刊行物1、2に実質的に記載されているとはいえず、また、九州113号から得られる色素をこれらの食品の着色料として適用することにより上記顕著に優れた効果を有する赤色着色方法が得られることは、刊行物1〜6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるとも認められない。
よって、本件発明は刊行物1、2に記載された発明とは認められず、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められないから、本件発明は特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、あるいは、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとの異議申立人の主張は採用できない。
(5)むすび
以上のとおりであるから、本件発明の特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
食品の赤色着色方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 紫さつまいもの改良品種「九州113号」からアントシアニン系色素を酸性条件下で、水または含水アルコールで抽出した赤色着色料で、果汁入り清涼飲料、果汁飲料または漬物類を耐熱・耐光性に優れた鮮明な赤色に着色することを特徴とする、上記食品の赤色着色方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、食品に関するものである。食品を工業的有利に鮮明な赤色に着色することを目的とする。
【0002】
【従来の技術】
近年、食品の色素として天然色素の需要が高まっている。従来、食品を赤色に着色するための色素としては、コチニール色素、ラック色素などのキノン系色素、赤キャベツ色素、ベリー色素等のアントシアニン系色素、クチナシ赤色素、紅麹色素、ビートレッド等が知られている。しかし、これらの色素類は食品の着色に用いた場合に大きな欠点があった。即ち、コチニール色素等のキノン系色素はpHが5以下の場合黄色から橙色となり、赤キャベツ色素、ベリー色素等のアントシアニン系色素はpHが中性の場合紫色になり、紅麹色素は耐光性が、ビートレッドは耐熱性が劣り色素の退色が著しく、クチナシ赤色素は紫がかった暗い色相であり鮮明な赤色に着色する事は困難であるなどである。
【0003】
また、近年天然色素の中で耐熱・耐光性がタール系着色料に匹敵するコチニール色素に代表される動物性のキノン系色素は消費者より敬遠される傾向にある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ここにおいて、pH5以下の食品を耐熱・耐光性に優れた鮮明な赤色に着色する方法の創出が当業者の解決すべき課題となる。この発明は、この課題に対する一つの回答である。以下に、この発明を詳しく説明する。本発明は、食品を赤色に着色する際に、紫さつまいも改良品種「九州113号」から抽出した赤色着色料製剤を使用するものであり、この点に、この発明の特色がある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る赤色着色料製剤の製造方法は、色素原料である紫さつまいもの品種として、農林水産省九州農業試験場畑地利用甘藷育種研究室との交流共同研究で開発に成功した改良品種「九州113号」(品種登録)を使用し、紫さつまいも中に存在するポリフェノールオキシダーゼ等の酸化酵素の影響を受けない条件下で抽出した色素を濃縮しpH調整剤及び水性原料により調整する。または、その色素を粉末化して調整したものを使用する。ここで使用するpH調整剤としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の食品添加物で認められているものであれば良い。また、水性原料とは、水または、糖類、エタノール、多価アルコールなどの水と均一に混合可能な溶剤をいう。
【0006】
本発明に係る赤色着色料製剤の代表的な調製方法はこの発明の特許出願人がすでに特許出願した特平5-301060、特平6-18727の方法に拠るのが有利である。本発明において食品とは、冷菓類、菓子類、飲料類、デザート類、漬物類、ドレッシング・ソース類、及び惣菜・加工食品等をいう。
【0007】
次に、代表的なこれら食品類の着色工程について説明する。
1.冷菓類の着色工程牛乳、クリーム、練乳、粉乳、糖類、果実、餡等を主原料とし、これに酸類、乳化剤、安定剤、香料等を加え冷菓ミックス液で調整する。このミックス液に本発明に係る赤色着色料製剤を添加混合した後、殺菌、冷却後フリージングし容器に充填する。このものを0℃以下で冷却し凍結して仕上がりとする。ここでいう冷菓とは、例えばアイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、氷菓などである。
【0008】
2.飲料類の着色工程糖類、果汁、酸類等を主原料とし、これに安定剤、香料等を加え飲料を調整する。この飲料に本発明に係る赤色着色料製剤を添加混合した後、殺菌、冷却後容器に充填する。ここでいう飲料とは、例えば、乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、粉末飲料などである。
【0009】
3.チューインガム類の着色工程加熱し柔らかくしたガムベースに砂糖、ブドウ糖、香料、クエン酸等を加え、更に、本発明に係る赤色着色料製剤を加え練合する。次に圧延ローラーを通して適当な厚さにし、室温まで冷却、切断してチューインガムを作る。ここでいうチューインガム類とは、板ガム、風船ガム、糖衣ガムなどで、例えば、梅ガム、ブルーベリーガム、アセロラガムなどがあげられる。
【0010】
4.ゼリー類の着色工程主原料の砂糖、水飴、香料、クエン酸等に凝固剤としてペクチン、寒天、ゼラチン、カラギナンなどを適当な割合で混合し、次に、本発明に係る赤色着色料製剤を加え、加熱溶解した後、容器に充填し、冷却してゼリーを作る。ここでいうゼリー類とは例えば、ゼラチンゼリー、寒天ゼリー、ペクチンゼリーその他があげられる。
【0011】
5.キャンディー類の着色工程砂糖、水飴等の主原料に水を加え約150℃まで加熱し溶解する。これを130℃まで放冷した後、副材料の香料などと、本発明に係る赤色着色料製剤を加え、成型し、室温まで冷却してキャンディーを調製する。ここでいうキャンディー類にはハードキャンディー、ソフトキャンディー、ドロップ、タフィなどがあり、例えば、キャラメル、グミキャンディー、ヌガー、ボンボン、バターボール、マーブル、マシュマロなどがあげられる。
【0012】
6.漬物類の着色工程野菜、食塩、糖類、グルタミン酸ナトリウムを主原料とし、これに調味料、香料等を加え漬物を調整する。この漬物に本発明に係る赤色着色料製剤を添加混合した後、容器に充填し、殺菌、冷却する。ここでいう漬物類とは、例えば、浅漬、塩漬け、糠漬け、梅漬けなどである。
【0013】
7.ドレッシング類の着色工程植物油、醤油、果汁、糖類、果汁、醸造酢、食塩等を主原料とし、これに安定剤、乳化剤、香料等を加えドレッシングを調整する。このドレッシングに本発明に係る赤色着色料製剤を添加混合した後、殺菌、冷却後容器に充填する。ここでいうドレッシングとは、例えば、セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシングなどである。
【0014】
本発明によれば、食品を耐熱・耐光性に優れた鮮明な赤色に着色することができる。以下の実施例でこの点をより詳しく説明する。
【0015】
【実施例】
実施例1
紫さつまいも改良品種「九州113号」1kgを、90%以上窒素置換された切断機で1〜5mm程度に細かく砕き、直ちに0.5重量%硫酸水溶液3lの抽出液に投入し、紫さつまいも色素を得た。抽出後濾過して不溶性固形物を除き抽出液3.5kgを得た。この液、ダイヤイオンHP-20(三菱化成工業株式会社製吸着樹脂)100mlに吸着させてから、水洗したのち58%容量%エタノール150mlを用いてその吸着している色素を溶出した。得られた色素液を真空濃縮機にて50gまで濃縮し、95容量%エタノール15g、クエン酸1g、水34gを添加して、紫さつまいも着色料製剤100gを得た。次に、このようにして得られた紫さつまいも着色料製剤を下記の処方のかき氷シロップ液に添加混合した後、凍結し、かき氷を作った。
【0016】
(かき氷シロップ液の処方)
液糖 65 g
砂糖 3 g
クエン酸 0.25g
カラギーナン 0.3 g
食塩 0.15g
紫さつまいも着色料製剤 0.2 g
水 31.1 g
【0017】
比較例1
実施例1と同様にして、紫さつまいも着色料製剤の代わりにブドウ果汁着色料製剤および、紫コーン着色料製剤を、各々個々に、ほぼ同一の濃度感に合わせてかき氷を調整し、これらのかき氷及び、実施例1のかき氷を-5℃、3000luxの蛍光灯下で、3日間照射して耐光性を肉眼比較し、その結果を表1に示した。
【0018】
【表1】

【0019】
表1から明らかなように、紫さつまいも着色料製剤を使用して調製したかき氷は、ブドウ果汁着色料製剤、紫コーン着色料製剤に比べて、鮮明な赤色を呈し、耐光性、耐熱性においても色相変化も少なく非常に優れていた。
【0020】
実施例2
実施例1で得られた色素にデキストリンを添加しスプレードライヤーで噴霧乾燥し、紫さつまいも色素粉末品を得た。この赤色着色料製剤を下記処方のように添加しストロベリーシャーベットを作った。
【0021】
(ストロベリーシャーベットの処方)
砂糖 15.0g
粉末水飴 7.5g
硬化ヤシ油 1.0g
脱脂粉乳 1.0g
1/5濃縮ストロベリー果汁 4.0g
ストロベリーフレーバー 0.1g
紫さつまいも着色料製剤 0.2g
水 86.2g
【0022】
比較例2
実施例2と同様にして、紫さつまいも着色料製剤の代わりに、赤キャベツ着色料製剤、ボイセンベリー着色料製剤およびビートレッド着色料製剤を、各々個別に、ほぼ同一の濃度感に合わせて調製したストロベリーシャーベットと実施例2のストロベリーシャーベットとを7日間日光照射して耐光性を比較した。
【0023】
結果は紫さつまいも着色料製剤を使用して調製したストロベリーシャーベットは、鮮明な赤色を呈し、赤キャベツ着色料製剤、ボイセンベリー着色料製剤およびビートレッド着色料製剤に比べて、蛍光灯による耐光性においても色相変化も少なく非常に優れていた。
【0024】
実施例3
実施例1の紫さつまいも着色料製剤を下記の処方に添加混合した後アセロラ飲料を作った。
【0025】
(アセロラ飲料の処方)
果糖ブドウ糖液糖 30.0g
砂糖 10.0g
クエン酸 0.4g
1/5アセロラ果汁 4.4g
アセロラフレーバー 0.2g
紫さつまいも着色料製剤 0.2g
水 54.8g
【0026】
比較例3
実施例3と同様にして、紫さつまいも着色料製剤の代わりにブドウ果汁着色料製剤および、紫コーン着色料製剤を、各々個々に、ほぼ同一の濃度感に合わせて飲料を調整し、これらのアセロラ飲料及び、実施例1のアセロラ飲料を3000luxの蛍光灯下で、3日間照射して耐光性を、また、35℃の恒温器で7日間保持し耐熱性を肉眼比較し、その結果を表2に示した。
【0027】
【表2】

【0028】
表2から明らかなように、紫さつまいも着色料製剤を使用して調製したアセロラ飲料は、ブドウ果汁着色料製剤、紫コーン着色料製剤に比べて、鮮明な赤色を呈し、耐光性、耐熱性においても色相変化も少なく非常に優れていた。
【0029】
実施例4
実施例1で得られた紫さつまいも着色料製剤を下記の処方に示した材料を加熱、混合したものに添加し、圧延ローラーで整形、切断してアセロラガムを作った。
【0030】
(アセロラガムの処方)
ガムベース 100 g
精製ブドウ糖 72 g
粉砂糖 100 g
クエン酸 0.5 g
アセロラフレーバー 0.15g
紫さつまいも着色料製剤 0.2 g
【0031】
比較例4
実施例4と同様にして、紫さつまいも着色料製剤の代わりにブドウ果汁着色料製剤および、エルダーベリー着色料製剤を、各々個々に、ほぼ同一の濃度感に合わせてアセロラガムを調整し、これらのアセロラガム及び、実施例4のアセロラガムを3000luxの蛍光灯下で、3日間照射して耐光性を、また、35℃の恒温器で7日間保持し耐熱性を肉眼比較し、その結果を表3に示した。
【0032】
【表3】

【0033】
表3から明らかなように、紫さつまいも着色料製剤を使用して調製したアセロラガムは、ブドウ果汁着色料製剤、エルダーベリー着色料製剤に比べて、鮮明な赤色を呈し、耐光性、耐熱性においても色相変化も少なく非常に優れていた。
【0034】
実施例5
実施例2で得られた紫さつまいも着色料製剤を下記の処方のように添加し、80℃10分間で加熱溶解後、カップに充填し、5℃、1時間冷却しフルーツゼリーを作った。
【0035】
(フルーツゼリー(ピーチゼリー)の処方)
果糖ブドウ糖液糖(75%) 20.0g
1/5濃縮ホワイトピーチ果汁 4.0g
カラギナン 1.0g
クエン酸 0.2g
ピーチエッセンス 0.1g
紫さつまいも着色料製剤 0.1g
水 69.7g
【0036】
比較例5
実施例5と同様にして、紫さつまいも着色料製剤の代わりにブドウ果汁着色料製剤および、クチナシ赤着色料製剤を、各々個々に、ほぼ同一の濃度感に合わせてフルーツゼリーを調整し、これらのフルーツゼリー及び、実施例1のフルーツゼリーを20000luxの蛍光灯下で、9時間照射して耐光性を、また、35℃の恒温器で7日間保持し耐熱性を肉眼比較し、その結果を表4に示した。
【0037】
【表4】

【0038】
表4から明らかなように、紫さつまいも着色料製剤を使用して調製したフルーツゼリーは、ブドウ果汁着色料製剤、クチナシ赤着色料製剤に比べて、鮮明な赤色を呈し、耐光性、耐熱性においても色相変化も少なく非常に優れていた。
【0039】
実施例6
水20g、砂糖60g、水飴40gの混合物を150℃まで加熱溶解し、煮詰めて100gにした後、120℃まで冷却し、実施例1で得られた紫さつまいも着色料製剤0.1g、クエン酸0.5g、アセロラフレーバー0.15gを添加し、成型後、室温まで冷却してハードキャンディーを作った。同様にして、エルダーベリー着色料製剤、紫コーン着色料製剤を、各々個別に、ほぼ同一の濃度感に合わせて調製したハードキャンディーとを3000luxの蛍光灯下、3日間、照射して耐光性を、また、35℃の恒温器で7日間保持し耐熱性を比較し、その結果を表5に示した。
【0040】
【表5】

【0041】
結果は紫さつまいも着色料製剤を使用して調製したハードキャンディーは、鮮明な赤色を呈し、エルダーベリー着色料製剤、紫コーン着色料製剤に比べて、蛍光灯による耐光性、また、耐熱性においても色相変化も少なく非常に優れていた。
【0042】
実施例7
実施例2で得られた紫さつまいも着色料製剤を下記の処方に添加混合した後鰹風味の梅を作った。
【0043】
(鰹風味の梅の処方)
梅酢 42.0g
砂糖 4.0g
果糖ブドウ糖液糖 20.0g
クエン酸 1.0g
グルタミン酸ナトリウム 0.5g
カツオエキス 1.0g
紫さつまいも着色料製剤 0.2g
水 31.3g
梅 50.0g
【0044】
比較例7
実施例7と同様にして、紫さつまいも着色料製剤の代わりにシソ着色料製剤および、赤キャベツ着色料製剤を、各々個々に、ほぼ同一の濃度感に合わせて鰹風味の梅を調整し、これらの鰹風味の梅及び、実施例7の鰹風味の梅を3000luxの蛍光灯下で、3日間照射して耐光性を、また、35℃の恒温器で7日間保持し耐熱性を肉眼比較し、その結果を表6に示した。
【0045】
【表6】

【0046】
表6から明らかなように、紫さつまいも着色料製剤を使用して調製した鰹風味の梅は、シソ着色料製剤、赤キャベツ着色料製剤に比べて、鮮明な赤色を呈し、耐光性、耐熱性においても色相変化も少なく非常に優れていた。
【0047】
実施例8
実施例1で得られた紫さつまいも着色料製剤を下記の処方に添加混合した後梅ドレッシングを作った。
【0048】
(梅ドレッシングの処方)
醸造酢 5.0 g
砂糖 3.0 g
食塩 2.6 g
醤油 5.0 g
リンゴ酢 5.0 g
レモン果汁 3.0 g
グルタミン酸ナトリウム 0.5 g
コンブエキス 1.0 g
カツオエキス 1.0 g
梅肉 3.0 g
シソオイル 0.05g
リンゴ酸 0.4 g
紫さつまいも着色料製剤 0.2 g
水 30.25g
コーンサラダ油 40.0 g
【0049】
比較例8
実施例8と同様にして、紫さつまいも着色料製剤の代わりにブドウ果汁着色料製剤および、紫コーン着色料製剤を、各々個々に、ほぼ同一の濃度感に合わせてドレッシング類を調整し、これらのドレッシング類及び、実施例8のドレッシング類を3000luxの蛍光灯下で、3日間照射して耐光性を、また、35℃の恒温器で7日間保持し耐熱性を肉眼比較し、その結果を表7に示した。
【0050】
【表7】

【0051】
表7から明らかなように、紫さつまいも着色料製剤を使用して調製したドレッシング類は、ブドウ果汁着色料製剤、紫コーン着色料製剤に比べて、鮮明な赤色を呈し、耐光性、耐熱性においても色相変化も少なく非常に優れていた。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.特許請求の範囲の請求項1を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「紫さつまいもの改良品種「九州113号」からアントシアニン系色素を酸性条件下で、水または含水アルコールで抽出した赤色着色料で、果汁入り清涼飲料、果汁飲料または漬物類を耐熱・耐光性に優れた鮮明な赤色に着色することを特徴とする、上記食品の赤色着色方法。」と訂正する。
異議決定日 2002-06-14 
出願番号 特願平6-161731
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A23L)
P 1 651・ 113- YA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 近 東明
斎藤 真由美
登録日 2001-04-27 
登録番号 特許第3182553号(P3182553)
権利者 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
発明の名称 食品の赤色着色方法  
代理人 小原 健志  
代理人 小原 健志  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 中野 睦子  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 三枝 英二  
代理人 三枝 英二  
代理人 中野 睦子  

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