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審決分類 |
審判 全部申し立て 発明同一 C08G |
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管理番号 | 1064354 |
異議申立番号 | 異議2001-73348 |
総通号数 | 34 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-08-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-12-17 |
確定日 | 2002-07-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3176380号「乾式トナー用ポリエステル樹脂」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3176380号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
【1】手続きの経緯 本件特許第3176380号発明は、平成3年1月11日に出願され、平成13年4月6日にその特許の設定登録がなされ、その後、大日本インキ化学工業株式会社より特許異議申立てがなされ、平成14年3月25日付けで取消理由通知がなされ、平成14年5月27日に特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。 【2】訂正の適否についての判断 〔1〕訂正事項 訂正事項1: 【特許請求の範囲】の【請求項1】の記載、 「a)全酸成分に対して1〜60モル%の脂環式ジオールから導かれる単位、 b)全酸成分に対して40〜100モル%の芳香族ジカルボン酸成分から導かれる単位、および c)全酸成分に対して40〜99モル%の脂環式ジオール以外のジオールから導かれる単位からなるポリエステルであって、ガラス転移温点が40〜70℃、軟化温度が70〜130℃であり、重量平均分子量Mwが3000〜20000であることを特徴とする乾式トナー用ポリエステル樹脂。」を、 「a)全酸成分に対して1〜48モル%の脂環式ジオールから導かれる単位、 b)全酸成分に対して40〜100モル%の芳香族ジカルボン酸成分から導かれる単位、および c)全酸成分に対して40〜99モル%の脂環式ジオール以外のジオールから導かれる単位からなるポリエステルであって、ガラス転移温点が40〜70℃、軟化温度が70〜130℃であり、重量平均分子量Mwが3000〜20000であることを特徴とする乾式トナー用ポリエステル樹脂。」と訂正する。 訂正事項2: 明細書第3頁段落番号【0007】の第2行(本件特許公報第2頁第3欄第42行)の「60モル%」を「48モル%」と訂正する。 訂正事項3: 明細書第3頁段落番号【0007】の第18行(本件特許公報第2頁第4欄第15行)の「60モル%」を「48モル%」と訂正する。 訂正事項4: 明細書第3頁段落番号【0007】の第18行(本件特許公報第2頁第4欄第15行)の「50モル%」を「48モル%」と訂正する。 訂正事項5: 明細書第3頁段落番号【0007】の第19行〜20行(本件特許公報第2頁第4欄第17行〜第18行)の「得られず、逆に60モル%を超えると反応の進行が遅くなる」を「得られない」と訂正する。 尚、訂正明細書において、発明の名称が特許公報に記載された名称と異なっているが、特許公報に記載された名称が誤っているものであるから、発明の名称を訂正するものではない。 〔2〕訂正の目的、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、 「a)全酸成分に対しての脂環式ジオールから導かれる単位の量」を「1〜60モル%」から「1〜48モル%」に減縮するものであり、しかも、「48モル%」という数字は本件願書に添付した明細書にも記載されている(実施例1の実験No.R5における水添ビスフェノールAの値及び実施例2の実験No.R10におけるシクロヘキサンジメタノールの値)ものであるから、該訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 訂正事項2〜5は、 いずれも、訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に伴って発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるための訂正であるから、いずれも、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 〔3〕むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。」)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 【3】特許異議申立てについての判断 〔1〕本件発明 訂正後の本件請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】a)全酸成分に対して1〜48モル%の脂環式ジオールから導かれる単位、 b)全酸成分に対して40〜100モル%の芳香族ジカルボン酸成分から導かれる単位、および c)全酸成分に対して40〜99モル%の脂環式ジオール以外のジオールから導かれる単位からなるポリエステルであって、ガラス転移温点が40〜70℃、軟化温度が70〜130℃であり、重量平均分子量Mwが3000〜20000であることを特徴とする乾式トナー用ポリエステル樹脂。」 〔2〕特許異議申立理由の概要 特許異議申立人大日本インキ化学工業株式会社は、甲第1号証〔特開平4-12367号公報〕及び甲第2号証(大日本インキ化学工業株式会社関東ポリマ関連技術研究所主席研究員真造謹爾が平成13年11月30日付けで作成した実験報告書〕を提出して、訂正前の本件請求項1に係る発明は甲第2号証に記載の実験結果を参酌すると甲第1号証に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、この出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもない。それ故、訂正前の本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから取り消されるべきものであると主張している。 〔3〕甲各号証の記載事項 (1)甲第1号証(特開平4-12367号公報)について 該刊行物には静電荷像現像用トナーに関して次の事項が記載されている。 「1.多価アルコール成分としてシクロヘキサンジメタノールを必須成分とするポリエステル樹脂を結着樹脂として用いてなる静電荷像現像用トナー。」(請求項1)、 「4.多塩基酸成分としてテレフタル酸を必須成分とし、多価アルコール成分としてシクロヘキサンジメタノールとビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を必須成分としてなるポリエステル樹脂を結着樹脂として用いてなる静電荷像現像用トナー。」(請求項4)、 「本発明におけるポリエステル樹脂を構成する多塩基酸成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデセニルコハク酸、n-ドデシルコハク酸、マロン酸、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の二塩基酸類、トリメリット酸、トリメチン酸、ピロメリット酸等の三塩基以上の酸類及びこれらの無水物、低級アルキルエステル類が単独で又は混合して使用されるが耐熱凝集性の点より芳香族系多塩基酸類が好ましく、特にテレフタル酸が好ましい。」(第2頁右上欄第13行〜同頁左下欄第5行)、 「本発明を構成する多価アルコール成分としてはシクロヘキサンジメタノールを必須成分とし、その他の多価アルコールとしてエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール,1,4-ブテンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物等の2価アルコール類、グルセリン、トリメチロ-ルエタン、トリメチロールプロパン、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、ペンタエリスリトール等の3価以上のアルコール類が単独で又は混合して使用されるが、耐熱凝集性の点でビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物が好ましく、特にビスフェノールAエチレンオキサイド付加物が好ましい。」(第2頁左下欄第6行〜同頁右下欄第3行)、 「前述の如く、耐熱凝集性の点より多価アルコール成分としてはシクロヘキサンジメタノールとビスフェノールAエチレンオキサイド付加物の併用が好ましいが、その併用比率は全多価アルコール成分中シクロヘキサンジメタノールが好ましくは5〜80モル%、より好ましくは10〜70モル%の範囲である。シクロヘキサンジメタノールの量がこの範囲であると、特に良好な画質が得られ、又耐熱凝集性の改良効果が大きい。」(第2頁右下欄第4行〜第12行)、 「本発明におけるポリエステル樹脂の物性値としては特に制限されるものではないが、トナーとしての適性上環球法軟化点が80〜160℃、溶融粘度が100℃で5×104ポイズ以上、120℃で1×107ポイズ以下、Tgは50〜80℃の範囲のものが好ましく、これらの物性値がこの範囲であれば、特に耐オフセット性、定着性に優れる。又、本発明におけるポリエステル樹脂の酸価は30mg・KOH/g以下、水酸基価は60mg・KOH/g以下が好ましく、この範囲であれば特に帯電性の環境依存性が良好である。」(第2頁右下欄第13行〜第3頁左上欄第3行)、 「(合成例-1) 攪拌機、温度計、N2ガス導入管、充填塔付き還流管を有するフラスコにシクロヘキサンジメタノール1544部(10.7モル相当)、イソフタル酸1660部(10モル相当)、ファスキャット4100(大日本インキ化学工業(株)製モノブチルスズオキサイド)3.2部を仕込み、N2ガス気流下攪拌加熱昇温240℃にて脱水縮合反応を行い酸価3mg・KOH/g迄反応後取り出し固形のポリエステル樹脂を得た。 (合成例2〜8、比較合成例1〜3) 合成例-1と同様にしてポリエステル樹脂を合成した。合成例2〜8、比較合成例1〜3で使用した原料組成を表-1に又、得られた各ポリエステル樹脂の物性値を表-2に示す。」(第3頁左下欄第1行〜末行)、 「多価アルコールとしてシクロヘキサンジメタノール(CHDM)及びその他のジオールを使用し、多塩基酸としてテレフタル酸(TPA)、イソフタル酸(IPA)及びその他のカルボン酸を使用してポリエステル樹脂を合成したこと」(第3頁に記載の合成例及び第4頁に記載の表-1)、 「得られたポリエステル樹脂の環球法軟化点とガラス転移温度Tgを含む諸物性値」(第5頁に記載の表-2)、 「(実施例1〜8、比較例1〜3) 合成例1〜8及び比較例合成例1〜3で得られたポリエステル樹脂を用い、下記の方法でトナーを作成した。結着樹脂100部、カーボンブラック5部、ビスコール550-P(三洋化成製低分子量ポリプロピレンワックス)4部、ボントロンS-34(オリエント化学製クロム錯塩系帯電制御剤)2部を混合し加圧ニーダーで溶融混練後、ジェットミルで粉砕、粒子径5〜15μmを分級採取し、平均粒径12μmのトナーを得た。得られたトナー7部、鉄粉キャリア93部を混合、現像剤を調整、市販電子写真複写機にて画像出しを行い280mm/secのスピードのヒートローラー定着装置にて定着テストを行なった。その結果を表-3に示す。」(第6頁左上欄第1行〜末行)、 「上記の例の樹脂を使用して調製したトナ-について耐熱凝集性、定着下限温度、オフセット発生温度、連続1万枚コピー時画質の評価結果」(第7頁に記載の表-3)。 (2)甲第2号証〔(大日本インキ化学工業株式会社関東ポリマ関連技術研究所主席研究員真造謹爾が平成13年11月30日付けで作成した実験報告書〕について 甲第2号証には、甲第1号証の実施例に記載された合成例2〜4及び6のポリエステル樹脂の合成の追試を行って、得られた各ポリエステル樹脂の重量平均分子量を測定した結果が記載されている。 試料 重量平均分子量Mw 合成例2 13100 合成例3 11500 合成例4 10800 合成例6 13700 〔4〕対比・判断 本件発明は、「a)全酸成分に対して1〜48モル%の脂環式ジオールから導かれる単位、 b)全酸成分に対して40〜100モル%の芳香族ジカルボン酸成分から導かれる単位、および c)全酸成分に対して40〜99モル%の脂環式ジオール以外のジオールから導かれる単位からなるポリエステルであって、ガラス転移温点が40〜70℃、軟化温度が70〜130℃であり、重量平均分子量Mwが3000〜20000であることを特徴とする乾式トナー用ポリエステル樹脂。」をその構成とするものである。 また、甲第1号証の実施例に記載された合成例2〜4及び6のポリエステル樹脂における、各成分の比率、全酸成分に対する脂環式ジオール、芳香族ジカルボン酸及び脂環式以外のジオールの割合(モル%に換算した値)、DSC測定接線法で測定したガラス転移温度及び環球法軟化点は以下のとおりである。 合成例No. 2 3 4 6 CHDM(モル) 5.5 5.5 5.5 6 BPAEO(2.2) 5.5 5.5 5 (モル) NPG(モル) 5.5 TPA(モル) 5 10 5 5 IPA(モル) 5 5 MAn(モル) 5 脂環式ジオール 55 55 55 60 (モル%) 芳香族ジカルボ 100 100 100 50 ン酸(モル%) 脂環式以外のジ 55 55 55 50 オール(モル%) ガラス転移温度 63 65 63 59 (℃) 環球法軟化点 114 120 108 115 (℃) CHDM:シクロヘキサンジメタノール BPAEO(2.2):ビスフェノールAエチレンオキサイド2.2モル付加物 NPG:ネオペンチルグライコール TPA:テレフタル酸 IPA:イソフタル酸 MAn:無水フタル酸 そして、本件発明と甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項を対比すると、本件発明の構成要素のうちの「a)全酸成分に対して1〜48モル%の脂環式ジオールから導かれる単位」が、甲第1号証にも、甲第2号証にも記載されていない。 してみると、本件発明は、甲第2号証に記載の実験結果を参酌しても甲第1号証に記載された発明と同一のものであるということができないものである。 したがって、本件発明は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえない。 〔5〕むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立大日本インキ化学工業株式会社が提出した特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認められない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 乾式トナー用ポリエステル樹脂 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 a)全酸成分に対して1〜48モル%の脂環式ジオールから導かれる単位、 b)全酸成分に対して40〜100モル%の芳香族ジカルボン酸成分から導かれる単位、および c)全酸成分に対して40〜99モル%の脂環式ジオール以外のジオールから導かれる単位 からなるポリエステルであって、ガラス転移温点が40〜70℃、軟化温度が70〜130℃であり、重量平均分子量Mwが3000〜20000であることを特徴とする乾式トナー用ポリエステル樹脂。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法などにおいて静電荷像または磁気潜像の現像に用いる乾式トナーとして有用なポリエステル樹脂に関する。さらに詳しくは、耐ブロッキング性、溶融流動性および定着性に優れていて、特に高い溶融流動性が要求されるフルカラー用、低温定着性が要求される高速複写機および高速プリンター用として有用なポリエステル樹脂に関する。 【0002】 【従来の技術】 静電荷像より恒久的な顕像を得る方法においては、光導電性感光体または静電記録体上に形成された静電荷像をあらかじめ摩擦により帯電させたトナーによって現像したのち定着する。磁気潜像の場合は磁気ドラム上の潜像を磁性体を含むトナーによって現像した後定着する。定着は、現像によって得られたトナー像を直接融着させるか、または紙やフィルム上にトナー像を転写した後これを転写シート上に融着させることによって行われる。トナー像の融着は溶剤蒸気との接触、加圧および加熱によって行われる。加熱方式には、電気オーブンまたはフラッシュ方式による無接触加熱方式と加熱ローラーによる圧着加熱方式があるが、定着工程の高速化が要請されている最近では主として後者が用いられている。 【0003】 さらに、カラー画像を得るためには、上述の現像工程において、3〜4色のトナーを転写紙に付着させ、次いで定着工程において、各種トナーを溶融混合しながら発色し定着させなければならない。フルカラートナー用バインダーには上述のごとく定着工程での混合性の良い樹脂、換言すれば、溶融流動性の良い樹脂が強く望まれている。一方では、溶融流動性の良好なバインダーを用いた場合、定着工程でのオフセット現像が生じる問題がある。しかしながら、オフセット現像を防止するため、バインダーを架橋化させたり高分子化させると、溶融流動性が低下し、フルカラーコピーには適さない。したがって、複写機の定着ローラー表面にシリコーンを塗布し、オフセットを防止する手法が用いられている。 【0004】 定着部における高速化および省エネルギー化が強く要請されている最近、フルカラー複写機以外の複写機およびプリンターにおいても、オフセット防止対策として、定着ローラーにシリコーンを塗布する手法が採られる例も少なくない。 【0005】 粘度が低い領域では分子量とガラス転移点が密接に関係している。すなわち、ガラス転移点は分子量と正の相関を有するため、溶融流動性能を上げるべく分子量を下げるとガラス転移点の低下をもたらし、耐ブロッキング性の悪化につながる。このようにガラス転移点と耐ブロッキング性とは相容れない特性であって、両特性を満足することは、トナー樹脂を設計するにあたって遭遇する困難な問題である。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 以上のような状況から、フルカラーおよび定着性本位の低分子量トナー用バインダー樹脂としては、溶融流動性が良好で、ガラス転移点が高く、かつ耐ブロッキング性が良好な樹脂が強く望まれている。 本発明の目的は、このような要望に応える乾式トナー用バインダー樹脂を提供するにある。 【0007】 【課題を解決するための手段および作用】 本発明は、a)全酸成分に対して1〜48モル%の脂環式ジオールから導かれる単位、b)全酸成分に対して40〜100モル%の芳香族ジカルボン酸成分から導かれる単位、およびc)全酸成分に対して40〜99モル%の脂環式ジオール以外のジオールから導かれる単位からなるポリエステルであって、ガラス転移温点が40〜70℃、軟化温度が70〜130℃であり、重量平均分子量Mwが3000〜20000であることを特徴とする乾式トナー用ポリエステル樹脂を提供する。本発明で使用する脂環式ジオールは少なくとも1つの水酸基が2級炭素に結合したアルコールであり、その具体例としては、1,4-シクロヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、ポリオキシプロピレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、ポリオキシエチレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、水添ビスフェノールS、水添ビスフェノールF、1,4-ビス(1-ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、ポリオキシエチレン-1,4-シクロヘキサンジオール、ポリオキシプロピレン-1,4-シクロヘキサンジオール、4,4′-ビスシクロヘキシルジオールが挙げられる。これらの脂環式ジオールは、ガラス転移点の向上および軟化温度の低下に有効であるのみならず、樹脂の耐摩耗性の向上に寄与する。このような脂環式ジオールから導かれる単位の量は、全酸成分に対して1〜48モル%、好ましくは5〜48モル%である。脂環式ジオールが1モル%未満であれば本発明で期待される効果が得られない。 【0008】 本発明で使用する芳香族ジカルボン酸成分とは、芳香族ジカルボン酸ならびにその低級アルキルエステルおよび酸無水物を指し、それらの具体例としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、3,5-トルエンジカルボン酸、2,4-トルエンジカルボン酸、2,5-トルエンジカルボン酸、ならびにそれらの酸無水物およびモノメチル、モノエチル、ジメチルおよびジエチルエステルなどが挙げられる。その中でも、テレフタル酸成分はTgを向上させる効果があり、イソフタル酸は溶融粘度をコントロールする効果がある。芳香族ジカルボン酸の使用量は全酸成分に対して40〜100モル%である。芳香族ジカルボン酸の量が40モル%未満であると、目的とする高いガラス転移点が得られない。 【0009】 本発明で使用する、脂環式ジオール以外のジオールの具体例としては、エチレングリコール、ポリオキシエチレン-(n)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(2.1≦n≦2.5)、ポリオキシプロピレン-(n)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(2.1≦n≦2.5)、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,2,3-トリメチル-1,3-プロパンジオール、2,3-ジメチル-1,4-ブタンジオール、3,3-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、平均分子量450未満のポリエチレングリコール、ジトリメチレンエーテルグリコール、トリトリメチレンエーテルグリコール、エチレンプロピレンエーテルグリコール、ジテトラメチレンエーテルグリコール、エチレンテトラメチレンエーテルグリコール、トリメチレンテトラメチレンエーテルグリコール、分子量350以下のポリオキシテトラメチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも、定着性の点からエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオールが好ましい。これらのジオールの量は全酸成分に対して40〜99モル%である。 【0010】 ポリエステルの特性を損わない限り、全酸成分に対して60モル%以下の範囲で芳香族ジカルボン酸成分以外のジカルボン酸成分、例えば、セバシン酸、イソデシル琥珀酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸などのジカルボン酸及びこれらのモノメチル、モノエチル、ジメチル、ジエチルエステルなどを共縮合することができる。また、全酸成分に対して10モル%以下の範囲で上記以外のジオールを共縮合することができる。 【0011】 本発明のトナー用ポリエステル樹脂はガラス転移点が40〜70℃であり、軟化温度が85〜125℃であり、重量平均分子量Mwが3000〜20000であることが重要である。 【0012】 一般に、トナーにシリカ等の無機粉末を加えるとブロッキング性が改良され、特にバインダーのガラス転移点Tgが低い場合にはその効果は顕著である。ガラス転移点Tgが40〜70℃の範囲である本発明のポリエステル樹脂は、無機粉末を添加しなくても耐ブロッキング性は良好である。但し、Tgが40℃未満であると定着性は良好となるが、ブロッキング性が極めて悪くなり、無機粉末を加えてもブロッキング性は良好とはならない。Tgが70℃を超えると定着性が不良となる。従って、ガラス転移点Tgは40〜70℃、好ましくは50〜65℃である。 【0013】 軟化温度が70℃未満であると溶融流動性および定着性は良好となるが、ガラス転移点Tgの低下が顕著で、耐ブロッキング性能が低下する。一方、軟化温度が130℃を超えると溶融流動性および定着性が低下するため、フルカラートナーや高速機用トナーとして適当でない。 【0014】 重量平均分子量Mwが3000未満であると樹脂の溶融流動性および定着性の向上は認められるが、ガラス転移点Tgが著しく低下して耐ブロッキング性が不良となる。また、重量平均分子量Mwが20000を超えると樹脂の溶融流動性および定着性が低下し、フルカラートナー用、定着本位の高速複写機および高速プリンターには適さない。従って、重量平均分子量は3000〜20000でなければならず、特に3000〜15000が好ましい。 【0015】 本発明のポリエステル樹脂は、通常のポリエステル合成方法、すなわち、ジカルボン酸成分とジオール成分をエステル化反応またはエステル交換反応せしめた後、低沸分のジオール成分を系外へ留出せしめつつ重縮合する方法によって合成される。重縮合に際しては、公知の重合触媒、例えば、チタンテトラブトキサイド、ジブチルスズオキサイド、酢酸スズ、酢酸亜鉛、二硫化スズ、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウムなど用いることができる。 【0016】 本発明のポリエステル樹脂はそのまま、または他のトナー用樹脂とブレンドして、乾式トナーとして用いることができる。他のトナー用樹脂とブレンドした場合であっても耐ブロッキング性を損なうことなくトナーの定着性が向上する。 【0017】 【実施例】 以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。 実施例において、樹脂の軟化温度およびガラス転移点Tgは次のように測定した。軟化温度は、島津製作所(株)製フローテスターCFT-500を用いて1mmφ×10mmのノズル、荷重30kgf、昇温速度3℃/minの等速昇温下で測定したとき、サンプル1gの1/2が流出した温度として求めた。ガラス転移点Tgは示差走査熱量計を用いて昇温速度5℃/分で測定した時のチャートのベースラインとTg近傍の吸熱カーブの接線の交点の温度として求めた。 重量平均分子量Mwは東ソー社製GPCにより測定した。 【0018】 実施例1 テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ポリオキシプロピレン-(2,3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンおよび水添ビスフェノールAを第1-1表の組成に従って反応容器に投入し、さらに重合触媒である三酸化アンチモンをジカルボン酸成分に基づき400ppm投入した。次に、内温230℃にて撹拌回転数を200rpmに保ち、常圧下で5時間エステル化反応を行った。次に、内温を240℃に保ち真空度が1.0mmHgになるまで40分かけて徐々に減圧し、この減圧下にエチレングリコールを留出させた。重縮合の終点は溶融粘度を追跡し、所望の溶融粘度に到達した時とした。実験No.1〜5に相当する淡黄色の樹脂R1〜R5を得た。樹脂R1〜R5の組成および特性値を第1-2表に示す。 【0019】 【表1】 ![]() 【表2】 ![]() 【0020】 表1-2より、樹脂R1〜R5は溶融粘度が低く、ガラス転移点Tgが高いため、溶融流動性が良好で、耐ブロッキング性も極めて良好なことがわかる。 【0021】 実施例2 仕込組成を第2-1表に示すように変えた他は実施例1と同様の操作を行い、実験No.6〜10に相当する樹脂R6〜R10を得た。それらの組成および特性値を第2-2表に示す。 【0022】 【表3】 ![]() 【表4】 ![]() 【0023】 第2-2表より、樹脂R6〜R10は溶融粘度が低く、Tgが高いことから、樹脂R6〜R10を用いたトナー用樹脂はフルカラートナー用として溶融流動性が良好で、一般トナーにおいても定着性が良好であり、しかも、極めて耐ブロッキング性が良好なことがわかる。 【0024】 比較例1 仕込み組成を第3-1表に示すように変えた他は、実施例1と同様の操作を行い、実験No.11〜14に相当する樹脂R11〜R14を得た。それらの組成および特性値を第3-2表に示す。 【0025】 【表5】 ![]() 【表6】 ![]() 【0026】 第3-2表より、樹脂R11は脂環式ジオールである水添ビスフェノールAを89モル%と多量に含むため反応性がとぼしく、分子量が上昇しないのでTgが低下し、耐ブロッキング性が不良である。樹脂R12は脂環式ジオール成分を含まないため、溶融流動性を高めるべく樹脂を低分子化するとTgが低下し、耐ブロッキング性の低下をもたらす。 【0027】 樹脂R13は軟化温度が188℃と高いため、フルカラートナー用としては溶融流動性が悪く、一般高速複写機トナー用においても定着性が低下する。 樹脂R14は重量平均分子量Mwが41000と高いため溶融粘度が高く、フルカラートナー用や定着性本位の高速複写機用の使用には、樹脂R13と同じ理由で適さない。 【0028】 【発明の効果】 本発明の乾式トナー用ポリエステル樹脂は溶融流動性が良好で、ガラス転移温度が高く、かつ、耐ブロッキング性が良好である。 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 特許第3176380号発明の明細書を本件訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりにすなわち、 (a)【特許請求の範囲】の【請求項1】の記載、 「a)全酸成分に対して1〜60モル%の脂環式ジオールから導かれる単位、 b)全酸成分に対して40〜100モル%の芳香族ジカルボン酸成分から導かれる単位、および c)全酸成分に対して40〜99モル%の脂環式ジオール以外のジオールから導かれる単位からなるポリエステルであって、ガラス転移温点が40〜70℃、軟化温度が70〜130℃であり、重量平均分子量Mwが3000〜20000であることを特徴とする乾式トナー用ポリエステル樹脂。」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、 「a)全酸成分に対して1〜48モル%の脂環式ジオールから導かれる単位、 b)全酸成分に対して40〜100モル%の芳香族ジカルボン酸成分から導かれる単位、および c)全酸成分に対して40〜99モル%の脂環式ジオール以外のジオールから導かれる単位からなるポリエステルであって、ガラス転移温点が40〜70℃、軟化温度が70〜130℃であり、重量平均分子量Mwが3000〜20000であることを特徴とする乾式トナー用ポリエステル樹脂。」と訂正する。 (b)明細書第3頁段落番号【0007】の第2行(本件特許公報第2頁第3欄第42行)の「60モル%」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「48モル%」と訂正する。 (c)明細書第3頁段落番号【0007】の第18行(本件特許公報第2頁第4欄第15行)の「60モル%」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「48モル%」と訂正する。 (d)明細書第3頁段落番号【0007】の第18行(本件特許公報第2頁第4欄第15行)の「50モル%」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「48モル%」と訂正する。 (e)明細書第3頁段落番号【0007】の第19行〜20行(本件特許公報第2頁第4欄第17行〜第18行)の「得られず、逆に60モル%を超えると反応の進行が遅くなる」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「得られない」と訂正する。 尚、訂正明細書において、発明の名称が特許公報に記載された名称と異なっているが、特許公報に記載された名称が誤っているものであるから、発明の名称を訂正するものではない。 |
異議決定日 | 2002-06-20 |
出願番号 | 特願平3-2116 |
審決分類 |
P
1
651・
161-
YA
(C08G)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 森川 聡 |
特許庁審判長 |
三浦 均 |
特許庁審判官 |
中島 次一 船岡 嘉彦 |
登録日 | 2001-04-06 |
登録番号 | 特許第3176380号(P3176380) |
権利者 | 三菱レイヨン株式会社 |
発明の名称 | 乾式トナー用ポリエステル樹脂 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 望月 孜郎 |
代理人 | 吉田 維夫 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 吉田 維夫 |
代理人 | 西山 雅也 |
代理人 | 西山 雅也 |