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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  D01F
管理番号 1064443
異議申立番号 異議2001-70419  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-11-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-02-07 
確定日 2002-09-17 
分離された異議申立 有 
異議申立件数
事件の表示 特許第3073963号「チ-ズ状パッケ-ジ及びその製造方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3073963号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第3073963号は、平成10年4月23日に出願された特願平10-128118号の特許出願に係り、平成12年6月2日にその特許権の設定登録がなされたものであって、その請求項1〜3に係る発明(以下、請求項mに係る発明を「発明m」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 実質的にポリトリメチレンテレフタレートからなる、複屈折率0.025以上、伸度20〜150%のマルチフィラメントが巻き付けられ、バルジ率が10%未満であることを特徴とするチーズ状パッケージ。
【請求項2】 紡口より押出した溶融マルチフィラメントを、紡口直下に設けた30〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ2〜80cmの保温領域を通過させて急激な冷却を抑制した後、この溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変え、40〜70℃に加熱した第一ロールで300〜3000m/min巻き付け、次に巻き取ることなく120〜160℃に加熱した第二ロールに巻き付け、第一ロールと第一ロールより速度を速めた第二ロールの間で1.5〜3倍に延伸し、巻き取る前にマルチフィラメントを(ポリマーのガラス転移点+20)℃以下に急冷した後、第二ロールよりも低速で巻き取って得られることを特徴とする請求項第1項記載のチーズ状パッケージの製造方法。
【請求項3】 紡口より押出した溶融マルチフィラメントを、紡口直下に設けた30〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ2〜80cmの保温領域を通過させて急激な冷却を抑制した後、この溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変え、巻き取る前にマルチフィラメントを(ポリマーのガラス転移点+20)℃以下に急冷した後2800〜4000m/minで巻き取って得られることを特徴とする請求項第1項記載のチーズ状パッケージの製造方法。」

2.申立ての理由の概要
これに対し、特許異議申立人・東レ株式会社(以下、「申立人」という。)は、甲第1号証(“SYNTHESE UND TEXTILCHEMISCHE EIGENSCHAFTEN DES POLYTRIMETHYLENTEREPHTHALATS”(1994)、9〜117頁)、甲第2号証(東レ株式会社繊維研究所研究員 望月 克彦 作成に係る、平成13年2月1日付の甲第1号証の追試実験報告書)、甲第3号証(特開昭53-122818号公報)、甲第4号証(特開昭52-8123号公報)、甲第5号証(特開昭50-29812号公報)、甲第6号証(特公昭58-4091号公報)(以下、甲第n号証を「甲n」、該甲号証記載の発明を「甲n発明」という。)を提出し、
1)発明1は、甲1に記載された発明であるか、甲1〜3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は第29条2項の規定に違反してされたものであり、
2)発明2は、甲4と甲3及び甲5〜6の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、
3)発明3は、甲1と甲3及び甲5〜6の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、
と主張する。

3.申立人の主張の適否の判断
3の1.甲各号証の記載内容
a.甲1
ア.ポリトリメチレンテレフタレート(以下、「PTMT」と記すことがある。)を、紡糸速度を500m/分単位刻みで変え、2000〜5000m/分の範囲で紡糸したところ、伸度は55%(紡糸速度5000m/分)〜139%(同2000m/分)の範囲で変化したこと(99頁、「4.7 繊維特性」項中の表)、
イ.上記紡糸速度2000〜5000m/分の範囲における未延伸PTMTの複屈折率は、0.039〜0.062であること(68頁、「3.4.4 紡糸繊維の特性」項中の図28、PTMTのカーブ参照)、
ウ.64頁、「3.4.2 紡糸パラメータ及び密度の決定」項中の図25に示す紡糸装置を用いてPTMTを溶融紡糸する際、「一対のゴデットロールの速度は、巻取速度に対し常に101.4%とし、巻取までの繊維の張力を常に低く保持した」こと(97頁、「4.4 紡糸」項中の下から1〜2行。なお、上記「一対のゴデットロール」とは、上記図25中、「12、12」で示される「Galetten」相当物である。)、
エ.「紡糸試験に使用されるポリマーの最も重要な特性を下表に示す。溶融紡糸試験のために十分な量を得るために次のようにグルーピングして混合した。

ポリマーバッチ M*W(*:上に「-」付きのM。以下、同様)
[g/Mol]
PTMT20/14 49700
PTMT20/11 50400
PTMT20/13 51000
PTMT20/12 53100
PTMT20/18 55200
PTMT20/19 55900
PTMT20/15 57300
PTMT20/16 59400
PTMT20/17 60100」
(96頁、「4.3 ポリマー特性」項中の表、抜粋)。
b.甲3
オ.「ポリエステル繊維を直接紡糸延伸して摩擦駆動式ワインダーにより巻取るに当り、
a)巻取直前の最終ローラを非加熱ローラとなし、
b)下記(1)式で定義されるオーバーフィード率O.F(%)が下記(2)式を満足する範囲となし、

O.F(%)=〔(最終ローラの周速度/ワインダーのフリクションローラの周速度)-1〕×100 ・・・(1)」

1.4・〔η〕F-0.66≦O.F(%)≦2.8・〔η〕F-1.02
・・・(2)
但し〔η〕F:延伸前の未延伸糸の固有粘度
c)巻取中の最小接圧を4〜8Kgとなし、
d)巻取糸条の綾角を4.5〜9度となし、
e)綾振り支点とワインダーの綾振り位置間の距離を少なくとも綾振り巾の3.0倍にすること
を特徴とするポリエステル繊維の巻取方法。」(特許請求の範囲第1項。なお、上記( )内の数字は丸囲い数字。)、
カ.「本発明の目的はポリエステル繊維の直接紡糸延伸法において、・・・糸質斑のない、巻姿の良好な製品が得られる巻取方法を提供することにある。」(1頁右下欄11〜15行)、
キ.「本発明でいうポリエステル繊維とは、ポリエチレンテレフタレート又は全構成単位の少くとも80%がポリエチレンテレフタレートからなる実質的に線状のポリエステルより構成される繊維を対象とする。」(2頁左下欄下から5〜1行)、
ク.「上式の下限未満のオーバーフィードで巻取ると・・・チーズ巻端部が耳高となり、巻端面に第2図で示すようなバルヂが発生する。」(3頁左上欄2〜6行)、
ケ.「前述した巻取条件、即ち巻取時のオーバーフィード、巻取接圧及び巻の綾角についての説明は、延伸の最終ローラとワインダーの綾振り位置間の距離が、綾振り巾の3.0倍以上・・・の場合についてのみ成立し、3.0倍未満になると、巻取条件を本発明で特定する範囲に設定しても、・・・巻取ったチーズ巻製品の巻姿が不良となり本発明の目的を達成し得ない。」(3頁左上欄18行〜同右上欄7行)、
コ.「バルジは第2図に示す如く、チーズ巻の両端のバルジ量(B1+B2)で評価した。」(4頁左下欄8〜9行)、
サ.上記オ記載のa〜eの条件を満たすようにして、O.F(%)0.6〜1.1で巻取ったポリエチレンテレフタレートチーズ巻製品のバルジは、5〜6(m/m)であったこと(4頁上欄、第1表、実施例1〜5)、
シ.チーズ巻のバルジを説明するための断面図に相当する第2図(5頁右上欄)。
c.甲4
ス.「トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰返し単位とするポリエステルから繊維を製造するにあたり、該ポリエステルを溶融紡糸し・・・複屈折率が0.0025以上となるよう引取り得られた糸条を・・・一旦巻き取ることなく延伸し、しかる後140〜180℃の加熱固体に接触させ・・・ることによって熱処理することを特徴とするポリエステル繊維の製造法。」(特許請求の範囲)、
セ.「本発明・・・目的とするところは、寸法安定性がよく、弾性回復のすぐれたポリトリメチレンテレフタレート繊維を提供するにある。」(1頁左下欄下から4行〜同右下欄1行)、
ソ.「好ましい複屈折率は0.008以上である。」(3頁左下欄16〜17行)、
タ.「延伸条件は特に限定ないが、延伸温度は20〜80℃が好ましい。延伸倍率は・・・2.5〜6倍が好ましい。」(3頁右下欄16〜19行)、
チ.捲取速度860m/分で複屈折率を0.008の繊維を製造した実施例(4頁、第1表、実施例1〜2)
d.甲5
ツ.「……高重合度ポリエチレンテレフタレートを溶融紡糸するに際し、紡糸口金直下に加熱筒を取付けて該加熱筒内の糸条近傍雰囲気温度を該ポリエチレンテレフタレートの融点以上に保持し、加熱筒出口からその下方13cmの区間で糸条近傍雰囲気温度を150℃以上低下させることを特徴とする高重合度ポリエチレンテレフタレートの溶融紡糸法。」(特許請求の範囲)、
テ.「本発明方法に用いられる重合体は、高重合度のポリエチレンテレフタレート、即ちエチレンテレフタレート繰返し単位を少くとも95モル%・・・含有するポリエステルである。」(2頁左上欄5〜9行)、
ト.「本発明の溶融紡糸法によれば、従来法に比べて複屈折率が小さく且つデニール斑の小さいポリエチレンテレフタレート未延伸糸が得られる。」(3頁左上欄3〜6行)、
ナ.ポリエチレンテレフタレートの溶融紡糸における糸条近傍の雰囲気温度の変化を示すグラフ(横軸が「紡糸口金面からの距離(cm)」、縦軸が「糸条近傍雰囲気温度(℃)」に相当する第1図(3頁右下欄)。
e.甲6
ニ.「紡糸引取速度2000m/分以上の高速紡糸によりポリエステル繊維を製造するに際し、紡出糸条の近傍の雰囲気温度(T℃)を、紡糸口金直下から該雰囲気温度(T℃)がポリマーの2次転移温度(Tg℃)になるまでの全区間にわたり下記式を満足する範囲内に制御することを特徴とするポリエステル繊維の製造法。
(1)0<X≦X1の区間
2X-10≦T-Ts≦6X+10
(2)X1<X≦X2の区間
2X1-10≦T-Ts≦6X1+10
(3)X>X2の区間
2X1-6.4(X-X2)-10≦T-Ts≦6X1-3.8(X-X2)+10
〔但し、Tは紡出糸条近傍の雰囲気温度(℃)、Tsは紡糸温度(℃)、Xは紡糸口金面からの距離(cm)を示し、X1=7Q、X2=22Qである。なおQは紡糸口金一孔当りの吐出量(g/分)である。〕」(特許請求の範囲)、
ヌ.「本発明者らは、・・・紡糸口金から吐出された紡出糸条を特殊な温度勾配を有する加熱雰囲気中に導いて加熱―除冷することによって、生産性の向上が達成されることを見い出し、本発明に到達したものである。」(2欄10〜15行。なお、「除冷」という技術用語は一般には使われない事実、及び、後記ノ.中に「徐冷」と記載されているところからみて、上記下線付与部の「除冷」は「徐冷」の誤記と解される。)、
ネ.「ここで言う「ポリエステル重合体」とは、ポリエチレンテレフタレートを主たる対象とするが、・・・ポリエチレン2.6ナフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート等の他のポリエステルであってもよい。」(3欄2〜8行)、
ノ.「添付図面は、ポリエチレンテレフタレート(Tg=約70℃)を紡糸温度(Ts)290℃、紡糸口金1孔当りの吐出量(Q)を3.37g/分として溶融紡糸する場合について、前述の条件を満足する雰囲気温度範囲(斜線部分A)および従来の徐冷法・・・の雰囲気温度範囲(斜線部分B)を示すものである。」(3欄42行〜4欄4行)、
ハ.横軸を「紡糸口金からの距離X(cm)」、縦軸を「雰囲気温度T(℃)」とした、上記ノ.記載の添付図面(5頁)。

3の2.対比・判断
a.主張1)(=発明1の新規性及び進歩性)について
先ず、発明の新規性について、発明1(前者)と、甲1発明(後者)とを対比すると、後者では、図25(前記ウ.参照)に示す紡糸装置を用い、複屈折率0.039〜0.062(前記イ.参照)、伸度55〜139%(前記ア.参照。ただし、該伸度の測定方法については甲1自体中に記載がなく、甲1が外国人の著者により外国で刊行されたものである事実を勘案すると、それが前者で規定する「JIS-L-1013」に準じたものであると断ずる根拠はないから、該伸度値を直接、前者のそれと対比することはできない。)のポリトリメチレンテレフタレートのマルチフィラメントを高速紡糸巻取機(=該図25中の符号13相当物)で巻取っており、その結果得られる製品は、この種製品の通常の巻姿である「チーズ状パッケージ」となるものと解されるから、
両者は、
「実質的にポリトリメチレンテレフタレートからなる、複屈折率0.025以上のマルチフィラメントが巻き付けられたチーズ状パッケージ」
に係る点で一致するものの、
甲1には、前者における、
1)「マルチフィラメントの伸度が20〜150%」及び
2)「チーズ状パッケージのバルジ率が10%未満」
という点について、記載されていない。
申立人は、上記2)について甲3を引用し、従来、ポリエステル技術分野では巻取直前の最終ローラを非加熱とし、かつ、巻取りの時にはオーバーフィードの状態で巻取ることによって、繊維自体のひずみを取りチーズ巻製品のバルジ率を10%未満にコントロールすることは行われている(前記オ.中のa〜b、サ.参照)から、2)には何らの新規性進歩性もなく、そのことは、後者(=甲1発明)の実施例を追試した甲2の実験報告書によって証明されている、と主張する。
しかしながら、先ず甲3発明についてみても、それは、もっぱらポリエチレンテレフタレート繊維を対象とするものであり(前記キ.参照)、ポリエチレンテレフタレートについての知見が、そのままポリトリメチレンテレフタレートに適用されるとは認め難い。
そして、それ以上に、甲3発明は、前記オ.中のa、bに加え、c〜eの条件がすべて満たされた場合にのみ、巻姿の良好な(=バルジの小さな)製品を提供するという所期の効果を奏するものであり(前記カ.、ケ.参照)、逆に言えば、重合体原料とオーバーフィード率は実施例と同じであっても、その他の条件が規定範囲外の比較例の場合には、バルジが大きいか、巻崩れが発生する等の問題が発生している(甲3、4頁、第1表中の実施例1、4と比較例6〜10とを対比参照。なお、該表中の「バルジ」は、前記コ.、シ.記載のとおり、B1+B2の絶対量(m/m)で表されており、これを直接的に本件発明の「バルジ率」に換算することはできない。)。
要するに、単純に「オーバーフィード状態で巻き取れば、バルジ率10%未満は達成される」という関係があるわけではない。
そこで改めて後者(=甲1発明)をみると、そこにおける紡糸・巻取は、甲3の前記詳細な条件a〜eを到底兼備するものとはいえず、そうすると、上記要約したところより、後者における巻取が、巻取直前の最終ローラを非加熱とし、オーバーフィード状態で行われている(前記ウ.参照。ゴデットローラは、一般に非加熱である。)からといって、当然、後者の製品のバルジ率が10%未満であるということはできない。
次に、甲1発明の追試とされる甲2の実験報告書によれば、原材料としてMW約49800のポリトリメチレンテレフタレートを用い、乾燥、紡糸共、甲1発明の方法に準じ、紡糸速度3000m/分、紡糸番手16.1tex(甲1、99頁「4.6 繊維特性」表中の上から3段目)、及び紡糸速度3500m/分、紡糸番手16.1tex(同上から4段目)の2水準で未延伸糸の巻取を行い、得られた未延伸糸の伸度と複屈折率、並びにチーズ状パッケージのバルジ率を甲1記載の方法で測定した(以上、詳細については、1〜3頁、「3. 実験方法」項参照)ところ、前者(=発明1)と同一であった(同3頁「4. 結論」項参照)とされている。
しかしながら、上記のとおり、追試の原材料がMW約49800のポリトリメチレンテレフタレートである一方、甲1発明では(それと極めて近い)MW49700のものが挙げられているものの、それは単独ではなく、「溶融紡糸試験のために十分な量を得るために・・・グルーピングして混合」(前記エ.参照)して使用されており、結局、甲1発明にあっては、MW約49800のポリトリメチレンテレフタレートを単独使用するような例は存在しない。
そうすると、使用ポリマー原材料の点で明らかに甲1発明とは相違する甲2の「追試」は、甲1発明の忠実な追試とはいえないから、甲2記載の伸度やバルジ率の測定結果がそのとおりであるとしても、元来不適切な「追試」結果をもって、発明1の新規性を否定することはできない。
したがって、発明1は、甲1に記載された発明であるということはできない。
次に発明の進歩性について、甲1、甲3のいずれにも、発明1の前記特定の構成、及び、該構成の採用により、「巻き量が多くても巻き取り機から容易に取り出せ、バルジが小さく巻き姿が良好で解じょしやすい・・・ポリトリメチレンテレフタレートを巻き付けたチーズ状パッケージ」(段落【0005】)が提供できるという、本件特許明細書記載の顕著な効果について、記載も示唆もされていない。
したがって、発明1は、甲1、甲3の両発明に基づき当業者に想到容易であったということはできない。
なお、申立人は、発明1が甲1〜3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張しているが、前記のとおり、甲2は申立人による事後の実験報告書であって、特許法第29条第2項にいう「特許出願前に国内外で頒布された刊行物」ではない。

b.主張2)(=発明2の進歩性)について
発明2(前者)と甲4発明(後者)とを対比すると、前記ス.〜チ.からみて、
両者は、
「紡口より押出した溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変え、40〜70℃に加熱した第一ロールで860〜3000m/min巻き付け、次に巻き取ることなく140〜160℃に加熱した第2ロールに巻き付け、第一ロールと第二ロールの間で2.5〜3倍に延伸に延伸し、巻き取って得られる実質的にポリトリメチレンテレフタレートからなるマルチフィラメントが巻き付けられたチーズ状パッケージの製造方法」
に係る点で一致するものの、
甲4には、前者における、
1)「紡口直下に設けた30〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ2〜80cmの保温領域を通過させて急激な冷却を抑制」する点、
2)「巻き取る前にマルチフィラメントを(ポリマーのガラス転移点+20)℃以下に急冷した後、第二ロールよりも低速で巻き取って得られる」点、及び、
3)「請求項1記載の(=実質的にポリトリメチレンテレフタレートからなる、複屈折率0.025以上、伸度20〜150%のマルチフィラメントが巻き付けられ、バルジ率が10%未満である)チーズ状パッケージの製造方法」である点
について記載されていない。
ここで、申立人は、上記1)について甲5〜6発明を、2)について甲3発明を、それぞれ引用する。
しかしながら、先ず、甲5〜6発明は、いずれも直接ポリトリメチレンテレフタレート繊維に係るものではない(前記テ.、ネ.参照)から、その内容をそのままポリトリメチレンテレフタレートの溶融紡糸に適用することはできない。
それと同様、甲3発明も直接ポリトリメチレンテレフタレート繊維に係るものではない(前記キ.参照)上、上記3)で摘記のとおり、発明2の製造方法は「請求項1記載のチーズ状パッケージ」を得るためのものであるところ、3の2のaで既述のとおり、甲3発明は、バルジ率が10%未満である該「請求項1記載のチーズ状パッケージ」自体について記載も示唆もするものではない。
そうすると、甲4、甲3及び甲5〜6の各発明をどのように組み合わせたとしても、上記1)〜3)の点を導き出すことはできない。
一方、発明2は、これらの採用により、本件特許明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、発明2は、甲4、甲3及び甲5〜6発明に基づき当業者に想到容易であったということはできない。
c.主張3)(=発明3の進歩性)について
発明3(前者)と甲1発明(後者)とを対比すると、前記ア.〜エ.からみて、
両者は、
「紡口より押出した溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変え、巻き取る前にマルチフィラメントを(ポリマーのガラス転移点+20)℃以下に急冷した後、2500〜4000m/minで巻き取って得られるチーズ状パッケージの製造方法」
に係る点で一致するものの、
甲1には、前者における、
1)「紡口直下に設けた30〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ2〜80cmの保温領域を通過させて急激な冷却を抑制」する点、
及び、
2)「請求項1記載のチーズ状パッケージの製造方法」である点
について記載されていない。
発明2についてと同様、申立人は、上記1)について甲5〜6発明を引用するが、該引用が妥当でないことは、発明2についての判断で述べたとおりである。
そして、同じく発明2についてと同様、発明3も「請求項1記載のチーズ状パッケージの製造方法」に係るところ、甲1、甲3、甲5〜6のいずれにも、該「請求項1記載のチーズ状パッケージ」自体について教示するところは存在しない。
そうすると、甲1、甲3及び甲5〜6の各発明をどのように組み合わせたとしても、上記1)〜2)の点を導き出すことはできない。
一方、発明3は、これらの採用により、本件特許明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる。
してみれば、発明3は、甲1、甲3及び甲5〜6発明に基づき当業者に想到容易であったということはできない。

4.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-08-26 
出願番号 特願平10-128118
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D01F)
P 1 651・ 113- Y (D01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 須藤 康洋
鴨野 研一
登録日 2000-06-02 
登録番号 特許第3073963号(P3073963)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 チ-ズ状パッケ-ジ及びその製造方法  
代理人 武井 英夫  
代理人 伊藤 穣  
代理人 小川 信一  
代理人 清水 猛  
代理人 野口 賢照  
代理人 鳴井 義夫  
代理人 斎下 和彦  

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