• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない B28B
管理番号 1065379
審判番号 訂正2002-39007  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-03-16 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-01-10 
確定日 2002-09-24 
事件の表示 特許第2930940号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年12月12日(優先権主張、平成5年12月15日及び平成5年12月29日、日本)に出願した特願平6-307822号の一部を平成10年7月17日に分割出願としたものであって、平成11年5月21日に設定登録(特許第2930940号)されたものである。

2.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第2930940号発明の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。
上記訂正明細書の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「【請求項1】 インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートを、方形または溝型の内面を成形する耐久性の内型枠の所定の位置に繰り返し設定する際に、前記インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートから前記耐久性の内型枠側に突き出た少なくとも1本の突起部を、裏面に鞘管が設けられた前記耐久性の内型枠の設定孔に表面から挿入して設定し、脱型する際にコンクリート製品と前記耐久性の内型枠の間に働く力によって前記突起部が分断されることを特徴とするコンクリート製品の製造方法。
【請求項2】 インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートを、方形または溝型の内面を成形する耐久性の内型枠の所定の位置に繰り返し設定する際に、前記インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートから前記耐久性の内型枠側に突き出た少なくとも1本の突起部を、裏面にナット部が設けられた前記耐久性の内型枠の設定孔に表面からねじ込み、脱型する際にコンクリート製品と前記耐久性の内型枠の間に働く力によって前記突起部が分断されることを特徴とするコンクリート製品の製造方法。
【請求項3】 インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートを所定の位置に繰り返し設定可能な、方形または溝型の内面を成形する耐久性の内型枠であって、滑らせるように脱型する部分を有し、その滑らせるように脱型する部分に、前記インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートから突き出た少なくとも1本の突起部を挿入可能な設定孔が形成されており、さらに、その設定孔の該耐久性の内型枠の裏面に前記突起部との付着力が得られる鞘管が設けられていることを特徴とする耐久性の内型枠。
【請求項4】 インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートを所定の位置に繰り返し設定可能な、方形または溝型の内面を成形する耐久性の内型枠であって、滑らせるように脱型する部分を有し、その滑らせるように脱型する部分に、前記インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートから突き出た少なくとも1本の突起部をねじ込み可能な設定孔が形成されており、さらに、その設定孔の該耐久性の内型枠の裏面に前記突起部がねじ込まれるナット部が設けられていることを特徴とする耐久性の内型枠。
【請求項5】 インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートから耐久性型枠に向かい、その耐久性型枠に設けられた設定孔に挿入可能な少なくとも1本の突起部が突き出た埋設物であって、前記突起部は、前記設定孔の前記耐久性型枠の裏面に設けられた鞘管と接触し付着力が得られる長さを備え、脱型するときに働く力によって少なくとも1部が破壊、分断または変形可能であり、前記突起部は、先端に向かって広がった部分を備えていることを特徴とする埋設物。
【請求項6】インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートから耐久性型枠に向かい、その耐久性型枠に設けられた設定孔に挿入可能な少なくとも1本の突起部が突き出た埋設物であって、前記突起部は、前記設定孔の前記耐久性型枠の裏面に設けられた鞘管と接触し付着力が得られる長さを備え、脱型するときに働く力によって少なくとも1部が破壊、分断または変形可能であり、前記突起部は、半径方向に延びた複数のリブを備えていることを特徴とする埋設物。
【請求項7】インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートから耐久性型枠に向かい、その耐久性型枠に設けられた設定孔にねじ込み可能な少なくとも1本の突起部が突き出た埋設物であって、前記突起部は、前記設定孔の前記耐久性型枠の裏面に設けられたナット部にねじ止め可能な長さを備えており、脱型するときに働く力によって少なくとも1部が破壊、分断または変形可能であり、前記突起部は、半径方向に延びた複数のリブを備えていることを特徴とする埋設物。
【請求項8】 インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートから耐久性型枠に向かい、その耐久性型枠に設けられた設定孔に挿入可能な少なくとも1本の突起部が突き出た埋設物であって、前記突起部は、前記設定孔の前記耐久性型枠の裏面に設けられた鞘管と接触し付着力が得られる長さを備え、脱型するときに働く力によって少なくとも1部が破壊、分断または変形可能であり、前記突起部は前記耐久性型枠を貫通した後に広がる貫通部分を備えていることを特徴とする埋設物。
【請求項9】インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートから耐久性型枠に向かい、その耐久性型枠に設けられた設定孔に挿入可能な少なくとも1本の突起部が突き出た埋設物であって、前記突起部は、前記設定孔の前記耐久性型枠の裏面に設けられた鞘管と接触し付着力が得られる長さを備え、脱型するときに働く力によって少なくとも1部が破壊、分断または変形可能であり、前記突起部は前記耐久性型枠を貫通し前記耐久性型枠の裏面に引っ掛かることを特徴とする埋設物。
【請求項10】 インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートから耐久性型枠に向かい、その耐久性型枠に設けられた設定孔に挿入可能な少なくとも2本の突起部が突き出た埋設物であって、前記突起部は、前記設定孔の前記耐久性型枠の裏面に設けられた鞘管と接触し付着力が得られる長さを備え、脱型するときに働く力によって少なくとも1部が破壊、分断または変形可能であり、これらの突起部は、前記設定孔を貫通し、前記耐久性型枠の裏面に沿って外側に延びる部分を備えていることを特徴とする埋設物。
【請求項11】 インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサートから耐久性型枠に向かい、その耐久性型枠に設けられた設定孔にねじ込み可能な少なくとも1本の突起部が突き出た埋設物であって、前記突起部は、前記設定孔の前記耐久性型枠の裏面に設けられたナット部にねじ止め可能な長さを備えており、脱型するときに働く力によって少なくとも1部が破壊、分断または変形可能であり、前記突起部をねじ込む際に雄ねじが切られることを特徴とする埋設物。」

3.訂正拒絶理由
一方、平成14年3月26日(発送日平成14年3月29日)付けで通知した訂正の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
本件の訂正後の請求項1に記載された発明(以下「本件発明1」という)は、刊行物1,2,5,6に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正後の請求項2に係る発明(以下「本件発明2」という)は、刊行物1,2,7〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正後の請求項3,4に係る発明(以下「本件発明3,4」という)は、刊行物1〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
また、訂正後の請求項1〜11に係る発明は、発明の構成に欠くことのできない事項が明確でなく、発明の詳細な説明の記載に基づいて当業者が容易に実施をすることができないものであるから、特許法第36条第4項及び第5項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件審判の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しない。

4.引用刊行物記載の発明
ア.刊行物1:実願昭56-29400号(実開昭57-142080号)のマイクロフィルムには、以下の記載がある。
ア-1.「底部と左右の側壁部とを、コンクリートにより一体に形成してなるU字溝において、前記左右両側壁部内面の対向する位置に、底部を有する穴を一対以上設けたことを特徴とするU字溝。」(実用新案登録請求の範囲)
ア-2.「このような型枠15によってU字溝を製造するには、次のようにする。まず、型枠15内にコンクリートを打設し、充分な固化を待ってのち、U字溝を上方に脱型する。この脱型の際、スペーサ21は、その溝部22の部分が内枠17により切断される。次いで、脱型されたU字溝の穴に残ったスペーサの一部を取除く。」(第5頁14〜末行)
イ.刊行物2:実公昭59-3863号公報(本件特許に係る異議の決定(以下、「決定」という)における刊行物1)には、以下の記載がある。
イ-1.「第3図において5はプラスチック等により形成した筒体で、螺筒等のインサート金物3を嵌合支持される孔6と型枠1に当るフランジ7とを有し、且、筒体5の下部には型枠1に設けた螺孔8に螺合するねじ9を連設し、この取付ねじ9と前記筒体5との堺部に脱型時に取付ねじ9がちぎれる様に切込み10を入れてある。」(第1頁2欄31行〜第2頁3欄1行)
イ-2.「型枠1に設けた螺孔8へ筒体5の下部に連設した取付ねじ9をフランジ7が型枠1の内面へ当たる迄ねじ込めば筒体5は上方から型枠1へ確実に固定されるから、この状態において、筒体5の孔6へ図面第3図に鎖線で示す様にインサート金物3を嵌合支持させれば、このインサート金物3は型枠1へ取付ねじ9止めされた筒体5により型枠1内の定位置に正確に保持されている。従って、この状態において型枠1内へコンクリートを打込めば、コンクリートは型枠1内に充満して金物3をインサートする」(第2頁3欄7〜17行)
イ-3.「打込んだコンクリートが固って製品が完成したとき、型ばらしを行えば、製品にインサートされた筒体5と、型枠1にねじ込まれた取付ねじ9とが反対方向へ引張られるため、保持具は切込み10の位置から切れ、筒体5は金物3と共に製品にインサートされ、取付ねじ9は型枠1に残る」(第2頁3欄20〜25行)
イ-4.第3図には、型枠1に設けた螺孔8へ筒体5の下部に連設した取付ねじ9をフランジ7が型枠1の内面へ当たる迄ねじ込んだ状態が示され、第4図には、製品にインサートされた筒体5と、型枠1にねじ込まれた取付ねじ9とが反対方向へ引張られるため、保持具は切込み10の位置から切れた状態が示されている。
ウ.刊行物3:実公昭50-43161号公報(決定における刊行物2)には、以下の記載がある。
ウ-1.「型枠に穿設した貫通孔にインサート金具支承片を嵌挿保持させる場合に、貫通孔5に嵌挿する支承片7とインサート金具1の先端部に嵌着される防錆用被覆枠8とを合成樹脂にて一体成型し、かつ支承片7と被覆枠8との境界線上に沿って切欠部9を形成してなるコンクリート型枠におけるインサート金具支承具。」(実用新案登録請求の範囲)
ウ-2.「支承片7を型枠4の貫通孔5に嵌挿させてインサート金具1を型枠4に直立保持させ、しかる後生ンクリートを打設し、凝固するのをまつて型枠4からコンクリート板を強制的に脱離させ」(第1頁2欄32〜35行)
エ.刊行物4:実願昭56-23675号(実開昭57-136712号)のマイクロフィルム(決定における刊行物3)には、以下の記載がある。
エ-1.「合成樹脂ネジ(3)に穴(4)を明けた合成樹脂中空ネジ(1)にナット(7)を取付ける横面インサート固定具」(実用新案登録請求の範囲第1項)
エ-2.「第2図のように取り付け位置の型枠(8)に穴(9)を明けインサート(6)をネジ(1)とナット(7)により仮止めする。コンクリート打込み、養生後PC板を、型枠から脱着する時、ボルトにはせん断が加わり切れて分断され第3図の様になります。」(第2頁6〜11行)
エ-3.第2図及び第3図には、ボルトにせん断が加わり切れて分断されることが示されている。
オ.刊行物5:実公昭50-38183号公報(決定における刊行物4)には、以下の記載がある。
オ-1.「ボルト螺合用雌ねじ6を有する埋込金具1の先端部に、合成樹脂製環状キャップ3が圧入嵌合され、かつその環状キャップ3の先端外縁部に連設された筒状保持片4は、先端側外周にテーパ部分8を有すると共に基端側に位置決め用フランジ9を有し、その保持片4は、型枠10に固定された支承ブロック11の段付き穴12に嵌合固定されている。」(第1頁1欄37行〜2欄6行)
カ.刊行物6:実願昭49-130181号(実開昭51-55868号)のマイクロフィルム(決定における刊行物5)には、以下の記載がある。
カ-1.「1は型枠(例えばレール座面用型枠)で、該型枠1の所定位置(埋込栓取付位置)には透孔1a下方にその上部を溶接によって固定した中空円筒状のカラーで、該カラー2の中空部分は下方に向かって狭まるテーパー部2a及びリング落し込み段部2bから順次構成されている。」(第3頁5〜11行)
カ-2.「次いで該カラー2内に第1図の如くボルト3の頭部3cを挿入する。該ボルト3の凹部3dにはリング4が保持されている。頭部3cはカラー2のテーパー部2aを通つてリング4を縮小して段部2bの位置で凹部3d内のリング4は拡大して段部2b壁に密着し、ここでボルト3の押し下げを止めればボルト3はこの位置で安定してカラー2に保持停止する。」(第5頁1〜8行)
キ.刊行物7:実願昭58-144769号(実開昭60-51014号)のマイクロフィルム(決定における刊行物6)には、以下の記載がある。
キ-1.「型枠1の外周の前記貫通孔の開口部に内周面に雌ねじ部を形成した管状の雌ねじ金具2を溶接により固定し、該雌ねじ金具2に螺合するねじ部3と、該ねじ部3の先端に雌ねじキャップ4に螺合する小径のねじ部5を有する雄ねじ金具6を用意して、この雄ねじ部5に雌ねじキャップ4を螺着し、この雌ねじキャップ4を前記雌ねじ金具2から型枠1内に挿入するようにして雄ねじ部3を雌ねじ金具2に螺着するようにして固定している。」(第3頁3〜12行)
ク.刊行物8:特開昭61-169543号公報(決定における刊行物7)には、以下の記載がある。
ク-1.「外周に弾性体を固定した小径部を有する金具取付ボルトの該小径部を該弾性体の弾性変形を利用してインサート金具のねじ部に圧入したのち、この金具取付ボルトの大径部を型枠の開口部に設けたナット部品にねじ込んで、該インサート金具を型枠内に突出させた状態で固定することを特徴とするコンクリート製品におけるインサート金具の取付方法。」(特許請求の範囲第1項)
ク-2.「製品2の硬化後は、金具取付ボルト6をインサート金具1およびナット部品5から外し、型枠3から製品2を外すと、インサート金具1は製品2に埋込まれ、かつ該金具1の外端は製品2の表面fと同一面となる。」(第2頁左上欄10〜14行)
ケ.刊行物9:特開昭61-177208号公報(決定における刊行物8)には、以下の記載がある。
ケ-1.「外周に小径弾性体を固定した小径部と、同じく外周に大径弾性体を固定した大径部からなるねじ部のない金具取付ボルトの該小径部を、該小径弾性体の弾性変形を利用してインサート金具のねじ部に圧入したのち、この金具取付ボルトの大径部を、該大径弾性体の弾性変形を利用して型枠の開口部に設けた環状部品に圧入して、該インサート金具を型枠内に突出させた状態で固定することを特徴とするコンクリート製品におけるインサート金具の取付方法。」(特許請求の範囲第1項)

5.対比
5-1.本件発明1について
本件発明1と上記刊行物1に記載されている発明とを対比すると、本件発明1の「インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサート」も、刊行物1における「スペーサ」も、いずれも「コンクリート製品に穴を形成する部材」であるといえるから、両者は、
「コンクリート製品に穴を形成する部材を、溝型の内面を成形する耐久性の内型枠の所定の位置に繰り返し設定する際に、前記コンクリート製品に穴を形成する部材から前記耐久性の内型枠側に突き出た突起部を、前記耐久性の内型枠の設定孔に表面から挿入して設定し、脱型する際にコンクリート製品と前記耐久性の内型枠の間に働く力によって前記突起部が分断されることを特徴とするコンクリート製品の製造方法。」である点で一致し、以下のA、Bの点で相違している。
A.本件発明1では、コンクリート製品に穴を形成する部材が「インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサート」であるのに対して、刊行物1発明では、「スペーサ」である点。
B.本件発明1では、「裏面に鞘管が設けられた耐久性の内型枠」が使用されているのに対し、刊行物1発明では、この様な限定がなされていない点。
そこで、上記相違点A,Bについて検討する。
相違点A:コンクリート製品に穴を形成する部材として「インサート保持具が装着されたインサート」を使用することは、刊行物2に記載されており、刊行物1に記載される「スペーサ」に代えて「インサート保持具が装着されたインサート」を使用することは、当業者がコンクリート製品に形成する穴の使用目的に応じ、適宜実施し得るものである。
相違点B:記載オ-1及び記載カ-2の記載からみて、刊行物5及び6に記載される鞘管に相当する部材が、コンクリート製品に穴を形成する部材としての「インサート保持具」の突起部をより強固に保持する機能を果たしていることは明らかである。
一方、刊行物1記載の発明においても、コンクリート製品に穴を形成する部材としての「スペーサ」は内枠17に穿設された孔20に嵌入されることにより所定の位置決めが行われることからみて、内枠17には、その孔20に挿入されるスペーサの突起部を強固に保持することが要求されることは、当業者にとって明らかである。
したがって、刊行物1記載の内枠17に穿設された孔20の裏面に、スペーサの突起部を強固に保持するための鞘管を設けることは、上記刊行物5及び6の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
そうであれば、刊行物1記載の発明において、「スペーサ」に代えて「インサート保持具が装着されたインサート」を適用すると共に、内型枠の裏面に鞘管を設け、上記一致点として挙げた「コンクリート製品の製造方法」を実施すれば、本件発明1の構成をすべて満たすことになるのであるから、本件発明1は、刊行物1記載の発明に刊行物2、刊行物5及び6記載の事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

請求人は、平成14年5月28日付意見書において、上記相違点に付き「本件発明1は、認定されているように、コンクリート製品の製造方法であり、方法のカテゴリの発明である。したがって、どのような工程が含まれているかが構成要件であるにも関わらず、何が使用されているかという物のカテゴリの発明として差違点を判断するのは間違っている」(第3頁6〜9行)と主張する。
しかしながら、上記一致点で示したように、本件発明1と刊行物1記載の発明とは「コンクリート製品の製造方法」という方法発明で対比しており、その結果、構成上の相違点をA,Bとして摘出したものである。そして、上記一致点として認定した「コンクリート製品の製造方法」において、上記相違点として認定した構成、即ち、「スペーサ」に代えて「インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサート」を適用(相違点A)し、内側枠として「裏面に鞘管が設けられた内型枠」を採用(相違点B)すれば、本件発明1の構成となるのであるから、上記相違点の認定に誤りがない。
さらに、請求人は意見書において、本来の相違点は、C.本件発明1では、裏面に鞘管が設けられた内型枠の設定孔にインサート保持具の突起部を挿入する工程を有するのに対し、刊行物1発明は、裏面に鞘管のない内型枠の設定孔にインサート保持具の突起部を挿入する工程を有する点、D.本件発明1では、脱型する際にコンクリート製品と、裏面に鞘管が設けられた内型枠の間に働く力によって突起部が分断される工程を有するのに対し、刊行物1発明では、脱型する際にコンクリート製品と、裏面になにもない内型枠の間に働く力によって突起部が分断される工程を有する点、となるべきであると主張する。
しかしながら、刊行物1記載の発明において、内型枠の設定孔の裏面に鞘管が設けられれば、内型枠の設定孔にインサート保持具の突起部を挿入することは、裏面に鞘管が設けられた内型枠の設定孔にインサート保持具の突起部を挿入することを意味し、内型枠の間に働く力によって突起部が分断されることは、裏面に鞘管が設けられた内型枠の間に働く力によって突起部が分断されることを意味することは自明であり、上記請求人が指摘する相違点C,Dは、内型枠の裏面の鞘管の有無による工程上の差異を表現したものにすぎず、相違点Bと実質的に同じである。
ここで、請求人は、相違点Cについては、刊行物1記載の「突起部を、内型枠の設定孔に表面から挿入して設定」する工程を、刊行物5及び6に記載された「突起部を、裏面に鞘管が設けられた内型枠の設定孔に表面から挿入して設定」する工程に置換することは、当業者であれば容易であると認めながら、相違点Dは、刊行物5及び6には記載も示唆もなく、その理由として刊行物5及び6には、「脱型する際にコンクリート製品と(裏面に鞘管が設けられた)内型枠の間に働く力によって突起部が分断」される工程の採用を妨げる、該工程と逆の方法が記載されている旨主張する。
かかる請求人の主張は、刊行物5及び6に共通して記載される具体的な突起部の分断手段を含む事項を刊行物1記載の発明に適用すること(相違点C)が容易であるとしても、その場合、突起部の分断手段は本件発明1とは異なり脱型後に分断するものであるから、「脱型する際にコンクリート製品と、裏面に鞘管が設けられた内型枠の間に働く力によって突起部が分断される工程」(相違点D)を採用することは容易とはいえないという趣旨と解される。
しかしながら、訂正拒絶理由通知書において、刊行物5及び6から引用している事項は、同通知書第5頁20〜22行に記載されるとおり「インサート保持具をより強固に保持する等の目的から、型枠に対して、コンクリート製品が形成されるのとは反対側の面(すなわち本件発明1でいう「裏面」)に、鞘管を設けること」であり、刊行物5及び6に記載される突起部の分断手段を含む事項まで引用しているのではないのであるから、上記請求人の主張はその前提で誤っており、採用できない。

5-2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、内型枠の裏面の設定孔に鞘管に代えてナット部を設けたものである。
したがって、本件発明2と刊行物1に記載されている発明とを対比すると、両者の一致点は、本件発明1と対比したものと同じであり、相違点は以下のとおりとなる。
A.本件発明1では、コンクリート製品に穴を形成する部材が「インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサート」であるのに対して、刊行物1発明では、「スペーサ」である点。
B’.本件発明1では、「裏面にナット部が設けられた耐久性の内型枠」が使用されているのに対し、刊行物1発明では、この様な限定がなされていない点。
上記相違点A,B’について検討する。
相違点Aについては、本件発明1において検討したように刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が適宜なし得るものである。
相違点B’については、記載キ-1、記載ク-1及び記載ケ-1からみて、刊行物7〜9に記載されるナット部が、本件発明1における「鞘管」と同様、インサート保持具の突起部をより強固に保持する機能を果たしていることは明らかであるから、本件発明1で検討したのと同様な理由で、刊行物1記載の内枠17に穿設された孔20の裏面に、スペーサの突起部を強固に保持するためのナット部を設けることは、刊行物7〜9の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
したがって、刊行物1記載の発明において、「スペーサ」に代えて「インサート保持具が装着されたインサート」を適用すると共に、内型枠の裏面にナット部を設け、前記一致点として挙げた「コンクリート製品の製造方法」を実施すれば、本件発明2の構成をすべて満たすことになるのであるから、本件発明2は、刊行物1記載の発明に刊行物2、刊行物7〜9記載の事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

5-3.本件発明3,4について
本件発明3,4は、本件発明1,2に係るコンクリート製品の製造方法に使用する「耐久性内型枠」に関する構成をすべて含み、さらに耐久性の内型枠に「滑らせるように脱型する部分」を有することを限定した発明である。
しかしながら、記載ア-2からみて、刊行物1記載の内型枠も「滑らせるように脱型する部分」を有していることは明らかである。
したがって、本件発明3,4と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は「コンクリート製品に穴を形成する部材を、所定の位置に繰り返し設定可能な、溝型の内面を成形する耐久性の内型枠であって、滑らせるように脱型する部分を有し、その滑らせるように脱型する部分に、前記コンクリート製品に穴を形成する部材から突き出た少なくとも1本の突起部を挿入可能な設定孔が形成されていることを特徴とする耐久性の内型枠。」である点で一致し、以下の点で相違する。
A.本件発明3,4では、コンクリート製品に穴を形成する部材が「インサート保持具または該インサート保持具が装着されたインサート」であるのに対して、刊行物1発明では、「スペーサ」である点。
B.本件発明3では、「裏面に鞘管が設けられた耐久性の内型枠」が使用されているのに対し、刊行物1発明では、この様な限定がなされていない点。
B’.本件発明4では、「裏面にナット部が設けられた耐久性の内型枠」が使用されているのに対し、刊行物1発明では、この様な限定がなされていない点。
相違点A,B,B’は、本件発明1ないし2と刊行物1とを対比したときの相違点と同じであるから、本件発明1ないし2で検討したのと同じ理由で、本館発明3,4は、刊行物1,2,5〜9の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5-4.まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし4は、刊行物1,2,5〜9の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許出願の際に独立して特許を受けることができない発明である。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-07-29 
結審通知日 2002-08-01 
審決日 2002-08-13 
出願番号 特願平10-202561
審決分類 P 1 41・ 121- Z (B28B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近野 光知  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 沼沢 幸雄
野田 直人
唐戸 光雄
岡田 和加子
登録日 1999-05-21 
登録番号 特許第2930940号(P2930940)
発明の名称 コンクリート製品の製造方法、耐久性型枠および埋設物  
代理人 今井 彰  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ