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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない A47H
管理番号 1065403
審判番号 無効2001-35182  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-06-04 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-04-24 
確定日 2002-02-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第2588160号発明「カーテン吊り具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 〔1〕手続の経緯
本件特許第2588160号の請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1〜3」という。)について、平成6年11月16日に特許出願がなされ、平成8年12月5日に特許権の設定登録がなされ、平成13年4月24日に本件無効審判が請求され、平成13年8月9日に被請求人より答弁書が提出され、平成13年11月13日に特許庁審判廷において口頭審理が行われた。

〔2〕本件発明
本件発明1〜3は、明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載されたとおりの次のものと認める。
「【請求項1】カーテンに挿入して取付けるための縦方向に伸びる挿入杆と、この挿入杆に対して下部でほぼU字状に連続し、挿入杆の前方を挿入杆に沿って縦方向に伸び、前部にカーテンの吊り環に掛け止めるためのフックを有する主杆とを具備し、前記挿入杆をカーテンに挿入し、挿入杆と主杆との間でカーテンを挟んでカーテンに装着される弾性合成樹脂製のカーテン吊り具において、前記主杆の後部には、装着時にカーテンを貫通できるように前記挿入杆に向かって突出する貫通ピンを有し、前記挿入杆は、前記主杆を挿入杆に接近させたときに、前記貫通ピンの先端側を受け入れることができる凹所を有し、この凹所と前記貫通ピンには、貫通ピンが凹所へ進入するときに、相互に弾性的に撓んで係合する係合部が設けられ、前記貫通ピンと凹所との係合により、カーテンに対する揺動、離脱を阻止することを特徴とするカーテン吊り具。
【請求項2】前記フックが前記主杆と別体に構成され、かつ主杆に対して下方へラチェット式にスライド可能に係合していることを特徴とする請求項1に記載のカーテン吊り具。
【請求項3】前記フックが前記主杆と一体に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のカーテン吊り具。」

〔3〕当事者の主張
1.審判請求人の主張
審判請求人は、「特許第2588160号の請求項1〜3の各請求項に記載された特許発明についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、甲第1号証〜甲第5号証を提出して、概ね次のとおり主張する。
本件発明1〜3は、甲第1号証〜甲第5号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
即ち、甲第1号証又は甲第2号証記載の発明の「突き刺し杆」又は「突き刺し体」は、本件発明1の「貫通ピン」に相当し、甲第3号証〜甲第5号証には、挿入杆と主杆の連結思想が開示されており、かかる連結思想に基づき、甲第1号証又は甲第2号証記載の発明の「突き刺し杆」又は「突き刺し体」を挿入杆に設けた凹所に対してそれぞれ係合手段を設けて係合させて、挿入杆と主杆とを連結し、カーテンに対する揺動、離脱を阻止することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。また、本件発明2の、フックが主杆と別体に構成され、フックが主杆に対して下方へラチェット式にスライド可能に係合する構成は、甲第1号証〜甲第3号証に開示されており、本件発明3の、フックが主杆と一体に構成する点は、甲第4号証及び甲第5号証に記載されているから、本件発明1〜3は、甲第1号証〜甲第5号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1〜3についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、特許法123条1項2号の規定に該当する。

甲第1号証:実願昭63-99864号(実開平2-22179号)のマ イクロフィルム
甲第2号証:実願昭63-102188号(実開平2-23876号)の マイクロフィルム
甲第3号証:実願昭59-115304号(実開昭61-29689号) のマイクロフィルム
甲第4号証:実願平3-8555号(実開平6-19665号)のCD-ROM
甲第5号証:実願平3-8556号(実開平6-19666号)のCD-ROM

2.審判被請求人の主張
審判被請求人は、概ね次のように反論する。
甲第1号証及び甲第2号証には、本件発明1における挿入杆と主杆とを連結するための具体的構成(貫通ピンと凹所)について記載がないばかりか、挿入杆と主杆とを連結して両者の開きを阻止する技術思想を示唆する記載もない。
また、甲第3号証〜甲第5号証には、カーテンの存在する位置でカーテンを通して連結することによって挿入杆と主杆が一体となって揺動を阻止するという技術思想を示唆する記載もなく、それを実現するための具体的構成についての記載もない。
即ち、甲第1号証又は甲第2号証記載の発明と、甲第3号証〜甲第5号証記載の発明とを結びつける動機付けを与える記載がいずれの甲号証にも存在しないから、本件発明1〜3は、甲第1号証〜甲第5号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

〔4〕当審の判断
1.各甲号証の記載事項
審判請求人が提出した各甲号証には、以下の記載が認められる。
(1)甲第1号証
a「本考案は、カーテンをランナの吊り環へ吊り止めるためのカーテン吊り具の改良に関するものである。」(2頁12〜14行)
b「本考案の一実施例を第1図乃至第7図に示す。第1図乃至第7図において、カーテン吊り具1は、カーテン20に取付けられる弾性合成樹脂製の本体2と、この本体2に対してラチェット式に下方へ移動自在に係合する弾性合成樹脂製のフック体3とから成る。本体2は、略並行して縦方向に伸びる主杆4と挿入杆5とから成り、両者は下端部において連続している。……また、主杆4は、挿入杆5の方向へ略水平に突出した突き刺し杆7を上部後方に備えている。突き刺し杆7は、装着時にカーテン20へ突き刺して上部を固定するためのものである。挿入杆5は、突き刺し杆7を受け入れるための凹所8を上部に備えている。」(5頁第9行〜6頁4行)
c「挿入杆5を挿入したら、突き刺し杆7をカーテン20に突き刺して上部を固定する。こうすれば、カーテン吊り具1の上部が左右に揺動したりカーテン20から抜け出たりすることがない。」(7頁20行〜8頁4行)
以上の記載並びに第1図、第6図及び第7図によれば、甲第1号証には、
「カーテンに挿入して取付けるための縦方向に伸びる挿入杆と、この挿入杆に対して下部でほぼU字状に連続し、挿入杆の前方を挿入杆に沿って縦方向に伸び、前部にカーテンの吊り環に掛け止めるためのフック体を有する主杆とを具備し、前記挿入杆をカーテンに挿入し、挿入杆と主杆との間でカーテンを挟んでカーテンに装着される弾性合成樹脂製のカーテン吊り具において、前記主杆の後部には、装着時にカーテンを貫通できるように前記挿入杆に向かって突出する突き刺し杆を有し、前記挿入杆は、前記主杆を挿入杆に接近させたときに、前記突き刺し杆の先端側を受け入れることができる凹所を有するカーテン吊り具」
の発明が記載されているものと認められる。
(2)甲第2号証
a「本考案は、……上部がカーテンに係止され、揺動することのない合成樹脂製のカーテン吊り具を提供することを課題としている。」(2頁18行〜3頁1行)
b「カーテン20に取付けるための縦方向の挿入杆3と、下部において挿入杆3に連続し、挿入杆3と並行して縦方向に伸び、かつランナの吊り環に掛け止めるためのフック体4,14を備えた主杆2とを具備した弾性合成樹脂製のカーテン吊り具において、主杆2には、挿入杆3側に向かって突出した、カーテン20へ突き刺すための突き刺し体5を設け、この突き刺し体5の先端近くの上部には、抜け止め突起5aを形成し、挿入杆3には、突き刺し体5を受け入れるための凹所9と、この凹所9の上下両側においてカーテン20に当接して、凹所9へのカーテン20の陥没を抑制するための規制部7,8とを設けた。」(3頁4行〜16行)
c「本考案のカーテン吊り具は、カーテン20への装着時に、挿入杆3と主杆2との間を弾性的に拡開しつつ、挿入杆3をカーテン20のひだ部21に挿入する。挿入杆3を所定位置まで差し込んだところで、突き刺し体5をカーテン20に突き刺す。突き刺し体5は、カーテン20を隔てて対向部に位置する挿入杆3の凹所9内に進入する」(4頁3〜9行)
d「従って、突き刺し体5はスムーズにカーテン20に突き刺さる。この結果、吊り具は、その上部においてカーテン20に係止されることになり、従って、カーテン20を移動させるとき等に容易に揺動することがない。比較的柔軟なプラスチック素材を用いて吊り具を形成する場合には、挿入杆3が撓んで揺動しやすいが、本考案においては、上部の支持により確実に振れ止めされる。また、一旦突き刺し体5がカーテン20に突き刺さると、抜け止め突起5aがカーテン20あるいは縫い糸22に係合するから容易に抜け出ることがない。」(4頁12行〜5頁3行)
以上の記載及び第1図〜第4図によれば、甲第2号証には、
「カーテンに挿入して取付けるための縦方向に伸びる挿入杆と、この挿入杆に対して下部でほぼU字状に連続し、挿入杆の前方を挿入杆に沿って縦方向に伸び、前部にカーテンの吊り環に掛け止めるためのフック体を有する主杆とを具備し、前記挿入杆をカーテンに挿入し、挿入杆と主杆との間でカーテンを挟んでカーテンに装着される弾性合成樹脂製のカーテン吊り具において、前記主杆の後部には、装着時にカーテンを貫通できるように前記挿入杆に向かって突出する突き刺し体を有し、前記挿入杆は、前記主杆を挿入杆に接近させたときに、前記突き刺し体の先端側を受け入れることができる凹所を有するカーテン吊り具」
の発明が記載されているものと認められる。
(3)甲第3号証
a「下端部において互いに連接された二又杆の一方をカーテンへの止着部とし、カーテンランナーに係脱可能な係止曲杆を他方の杆体の上端部から連接するかあるいは他方の杆体に沿って摺動係止可能に組み合わせたカーテンフックにおいて、上記二又杆の上端部に、両者間を架橋状態で連結可能な架橋体とその係止部を各各設けたことを特徴とするカーテンフック」(実用新案登録請求の範囲)
b「(考案が解決しようとする問題点)……使用の際、止着部が変形するものが多く、カーテンの吊下状態が不安定となる……すなわち、前例でいえば、止着部9bにおいてカーテン本体の自重並びにその開閉時の力等にもとづいて大きな荷重を受けるため、荷重方向すなわち開方向に変形し易く、カーテンの吊状態が不安定化し、使用に際して好ましからざる支障を来す。」(2頁11行〜3頁2行)
c「この考案は、……二又杆の上端部に、両者間を架橋状態で連結可能な架橋体とその係止部を各各設けて、カーテン自重等の荷重をフック全体で受けることにより、二又杆の下端部の負担を軽減したものであり、かつまた強制的に止着部の拡開を阻止してその変形を防止したものである。」(3頁16行〜4頁4行)
d「架橋ヘッド6bには、止着部上端部に設けられた突状の係止部7に係合する係止孔8が穿設されている。従って可撓ネック6aにおいて折曲げることにより、架橋ヘッド6bを止着部3上端の突状の係止部7に係合させ、両者間を架橋状態で連結し得るようになっている。……また架橋体6もこの実施例に限定されるものではなく、例えば架橋ヘッド6aに係合突部を設け、他方に係止孔を設けても良く」(4頁19行〜6頁1行)
(4)甲第4号証
a「【請求項3】弾性合成樹脂で一体成型され、下端部において互いに連繋し、上下に伸びる並行2本の杆部と、夫々異なった高さ位置において前記杆部から側方へ延出したフックと、前記2本の杆部を上端部において結合、分離可能な係合部とを具備し、前記2本の杆部の上端部を分離した状態で、選択的に何れかの杆部をカーテンのひだ部へ下方から上方に向けて挿入した後、ひだ部の上部において前記係合部を結合してカーテンに取付けるようにしたことを特徴とするカーテン吊り具。
【請求項4】前記係合部は、前記フックの延出方向と直交する方向に圧入、離脱可能な突部と凹部とを具備していることを特徴とする請求項3に記載のカーテン吊り具。」(実用新案登録請求の範囲)
b「【考案が解決しようとする課題】上記従来のカーテン吊り具においては、全体が弾性合成樹脂から成るため、カーテンを引くときに荷重がかかると、2つの杆部21,22の連繋部25が変形して杆部21,22間が開き、カーテンから離脱しやすいという問題点がある。 従って、本考案は、下端部において互いに連繋した並行2本の杆部の上下異なる位置に、夫々フックを設けてなる弾性合成樹脂製のカーテン吊り具において、杆部間を開き止めしてカーテンからの離脱を防止することを課題としている。」(7頁17〜23行)
c「本考案のカーテン吊り具は、カーテンCの吊り位置を考慮して、何れのフック3,4,13,14をランナに吊るかを決定したら、その反対側の杆部1,2,11,12をフック3,4,13,14もろともカーテンCのひだ部へ挿入して取付ける。何れかの杆部1,2,11,12をカーテンCのひだ部C1へ挿入したら、ひだ部C1の下端又は上端から係合部6,7,16,17を突出させ、これを互いに係合させて、杆部1,2・11,12を結合する。こうすれば、カーテンCが強く引かれても、吊り具10,20が変形して杆部1,2・11,12間が開くことがなく、従って、吊り具10,20がカーテンCから離脱するおそれがない。」(8頁10〜18行)
(5)甲第5号証
a「【請求項2】弾性合成樹脂で一体成型され、下端部において互いに連繋し、上下に伸びる並行2本の杆部と、夫々異なった高さ位置において前記杆部から側方へ延出したフックと、前記各杆部の上端部から相互対向方向へ延出した後下方へ屈曲した鉤部とを有し、前記2本の杆部の上端部を開放した状態で、選択的に何れかの杆部をカーテンのひだ部へ下方から上方に向けて挿入した後、ひだ部の上部において前記鉤部を重ねてひだ部の上縁に掛けるようにしたことを特徴とするカーテン吊り具。」(実用新案登録請求の範囲)
b「本考案のカーテン吊り具は、カーテンCの吊り位置を考慮して、何れのフック3,4,13,14をランナに吊るかを決定したら、その反対側の杆部1,2,11,12をフック3,4,13,14もろともカーテンCのひだ部へ挿入して取付ける。何れかの杆部1,2,11,12をカーテンCのひだ部C1へ挿入したら、ひだ部C1の下縁又は上縁へ鉤部6,7,16,17を掛け杆部1,2・11,12をカーテンCに結合する。こうすれば、カーテンCが強く引かれても、吊り具10,20が変形して杆部1,2・11,12間が開くことがなく、従って、吊り具10,20がカーテンCから離脱するおそれがない。」(段落【0004】)

2.対比・判断
(1)本件発明1について
(1-1)本件発明1と甲第2号証記載の発明とを対比すると、甲第2号証記載の発明の「突き刺し体」及び「フック体」は、それぞれ本件発明1の「貫通ピン」及び「フック」に相当するから、両者は、
「カーテンに挿入して取付けるための縦方向に伸びる挿入杆と、この挿入杆に対して下部でほぼU字状に連続し、挿入杆の前方を挿入杆に沿って縦方向に伸び、前部にカーテンの吊り環に掛け止めるためのフックを有する主杆とを具備し、前記挿入杆をカーテンに挿入し、挿入杆と主杆との間でカーテンを挟んでカーテンに装着される弾性合成樹脂製のカーテン吊り具において、前記主杆の後部には、装着時にカーテンを貫通できるように前記挿入杆に向かって突出する貫通ピンを有し、前記挿入杆は、前記主杆を挿入杆に接近させたときに、前記貫通ピンの先端側を受け入れることができる凹所を有するカーテン吊り具」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点
本件発明1では、凹所と前記貫通ピンには、貫通ピンが凹所へ進入するときに、相互に弾性的に撓んで係合する係合部が設けられ、前記貫通ピンと凹所との係合により、カーテンに対する揺動、離脱を阻止するのに対し、甲第2号証記載の発明では、凹所と前記貫通ピンには係合部が設けられていない。
(1-2)そこで上記相違点について検討する。
本件特許の明細書には、「【従来の技術】従来、合成樹脂製のカーテン吊り具として、例えば実開平2-23876号の公報に記載されたものが知られている。このカーテン吊り具は、カーテンに取付けるための縦方向の挿入杆と、下部において挿入杆にU字状に連続し、挿入杆と並行して縦方向に伸びる主杆とを具備し、主杆には、ランナの吊り環に掛け止めるためのフック体を備えると共に、カーテンに突き刺すために挿入杆側に向かって突出した突き刺し体を備え、また挿入杆には、突き刺し体を受け入れるための凹所を備えている弾性合成樹脂製のものである。そして、この構成により、カーテンへの装着時に、カーテンに突き刺し体を貫通させて、上部をカーテンに係止し、不用意に揺動することのない合成樹脂製のカーテン吊り具を提供しようとするものである。」(段落【0002】)、「【発明が解決しようとする課題】上記従来のカーテン吊り具においては、カーテンに対する揺動防止について改善が見られるものの、なおそれが左右に振れる強い外力を受けると、主杆と挿入杆とが左右にねじれ、突き刺し体がカーテンから抜けて、結局揺動してしまう問題点が残っている。従って、本発明は、上記従来のフックの問題点を解決し、上部がカーテンに確実に係止され、揺動することのない合成樹脂製のカーテン吊り具を提供することを課題としている。」(段落【0003】)との記載がある。これらの記載によれば、本件発明1が相違点における構成を採用したのは、甲第2号証記載の発明が有する問題点、即ち、突き刺し体はカーテンに貫通しているが、左右に振れる強い外力を受けると、主杆と挿入杆とが左右にねじれ、突き刺し体がカーテンから抜けて、結局揺動してしまうという問題点を解決するためであると認められる。
そして、本件発明1は相違点における構成を採用したことにより、「挿入杆3と主杆2とが、貫通ピン5を介して結合され、相互のねじれが阻止されると共に、吊り具1は、その上部においてカーテン21に確実に係止されることになる。従って、カーテン21を移動させるとき等に容易に揺動することがない。比較的柔軟なプラスチック素材を用いて吊り具を形成する場合には、挿入杆3が撓んで揺動しやすいが、本発明においては、上部の支持により確実に振れ止めされる。」(段落【0005】)、「貫通ピン5と凹所6との係合により、カーテン21に対する揺動、離脱を確実に阻止することができる」(段落【0016】)との作用、効果を奏するものと認められる。
甲第1号証には、前示のように甲第2号証記載の発明と同様の、カーテン吊り具の発明が記載されており、その「突き刺し杆」は、本件発明1の「貫通ピン」に相当するから、結局、甲第1号証記載の発明も、本件請求項1に係る発明とは、甲第2号証記載の発明と同様に上記相違点で相違するものである。
甲第3号証には、下端部において互いに連接された二又杆の一方をカーテンへの止着部(本件発明1の「挿入杆」に相当する。)とし、他方の杆体(同「主杆」相当する。)にカーテンランナーに係脱可能な係止曲杆(同「フック」に相当する。)を有するカーテンフック(同「カーテン吊り具」に相当する。)において、二又杆の上端部に、両者間を架橋状態で連結可能な架橋体とその係止部を各々設け、カーテン自重等の荷重をフック全体で受けることにより、二又杆の下端部の負担を軽減し、かつ強制的に止着部の拡開を阻止してその変形を防止することが記載されている。ただし、架橋体とその係止部が、相互に弾性的に撓んで係合するのかについては記載がなく、不明である。
また、甲第4号証には、弾性合成樹脂で一体成型され、下端部において互いに連繋し上下に伸びる並行する2本の杆部と、該杆部から側方へ延出したフックと、該2本の杆部を上端部において、圧入、離脱可能な突部と凹部とを有する係合部(本件発明1の「相互に弾性的に撓んで係合する係合部」に相当する。)とを具備し、選択的に何れかの杆部(同「挿入杆」に相当する。)をカーテンのひだ部へ挿入した後、ひだ部の上部において係合部を結合してカーテンに取付けるようにしたカーテン吊り具の発明が記載され、係合部を互いに係合させて、2本の杆部を結合することにより、カーテンが強く引かれても、変形して杆部間が開くことがなく、カーテン吊り具がカーテンから離脱するおそれがないことが記載されている。
さらに、甲第5号証には、弾性合成樹脂で一体成型され、下端部において互いに連繋し、上下に伸びる並行する2本の杆部と、杆部から側方へ延出したフックと、各杆部の上端部から相互対向方向へ延出した後下方へ屈曲した鉤部(同「係合部」に相当する。)とを有し、選択的に何れかの杆部(同「挿入杆」に相当する。)をカーテンのひだ部へ挿入した後、ひだ部の上部において鉤部を重ねてひだ部の上縁に掛けるようにし、カーテンが強く引かれても、変形して杆部間が開くことがなく、カーテンから離脱するおそれがないるカーテン吊り具、が記載されている。ただし、鉤部が相互に弾性的に撓んで係合するのかについては記載がなく、不明である。
以上のように、甲第3号証〜甲第5号証には、カーテンのひだ部へ挿入する挿入杆と、カーテンの吊り環に掛け止めるためのフックを有する主杆とを具備し、挿入杆と主杆との間でカーテンを挟んでカーテンに装着される合成樹脂製のカーテン吊り具において、挿入杆と主杆とに相互に係合する係合部を設け、甲第4号証ではさらに、相互に弾性的に撓んで係合する係合部を設け、挿入杆と主杆との係合により、変形して挿入杆と主杆との間が開くのを防止し、カーテンから離脱するのを防止することが記載されているが、いずれも、係合部は挿入杆と主杆の上端部に設けられており、挿入杆をひだ部へ挿入してひだ部の上端からこれらの係合部を突出させ、互いに係合させるものであり、本件発明1のように、凹所と貫通ピンとに、貫通ピンが凹所へ進入するときに相互に弾性的に撓んで係合する係合部が設けられ、貫通ピンと凹所との係合によりカーテンに対する揺動、離脱を阻止する、というものではない。したがって、甲第3号証〜甲第5号証記載の、上記「挿入杆と主杆とに相互に係合する係合部を設け」、さらに、甲第4号証記載のように「相互に弾性的に撓んで係合する係合部を設け」、「挿入杆と主杆との係合により、変形して挿入杆と主杆との間が開くのを防止し、カーテンから離脱するのを防止する」との技術思想を甲第2号証記載の発明に適用したとしても、上記相違点における本件発明1の構成には至らない。
(1-3)審判請求人は、審判請求書及び口頭審理において、甲第1号証記載のもの及び甲第2号証記載のものには、カーテン吊り具の上部が左右に揺動したり抜け出たりすることを防ぐ課題があり、また、甲第3号証〜甲第5号証にも、同じく揺動防止、開閉防止の課題があり、甲第3号証〜甲第5号証に記載されている、挿入杆と主杆が一体となってカーテン吊り具の揺動を阻止する係合固定の考え方を、甲第1号証又は甲第2号証に記載されている突き刺し固定で用いられる突き刺し杆に応用することは、当業者であれば容易に考えつくことである、と主張している。
甲第2号証記載のカーテン吊り具の発明は、貫通ピン(突き刺し体)をカーテンに突き刺して上部を固定することにより、カーテン吊り具の上部が左右に揺動したりカーテンから抜け出たりするのを防止するものであり、凹所は、上下に薄板部が存在し左右が開放され、突き刺された貫通ピン(突き刺し体)を受け入れる空間を形成しているにすぎず、貫通ピン(突き刺し体)と挿入杆は相互に拘束し合う状態になっていないと解される。また、貫通ピン(突き刺し体)先端の抜け止め突起5aは、貫通ピン(突き刺し体)がカーテンに突き刺さったときに、カーテンあるいは縫い糸に係合するものであって、凹所に係合するものではない。そして、甲第3号証〜甲第5号証記載のカーテン吊り具の発明は、上記のように、係合部が挿入杆と主杆の上端部に設けられており、挿入杆をひだ部へ挿入してひだ部の上端からこれらの係合部を突出させ、互いに係合させ挿入杆と主杆との係合により、変形して挿入杆と主杆との間が開くのを防止し、カーテンから離脱するのを防止するものであって、係合部が凹所と貫通ピンとに設けられたものではないから、甲第2号証記載の発明が、上部が左右に揺動したり抜け出たりすることを防ぐ課題を有するとの認識のもとに、甲第3号証〜甲第5号証記載の発明に接した当業者が、甲第3号証〜甲第5号証記載の、挿入杆と主杆との係合により、変形して挿入杆と主杆との間が開くのを防止するとの技術思想を、甲第1号証記載の発明に適用し、挿入杆と主杆の上端部に係合部を設けることは容易になし得るとしても、甲第2号証記載のカーテン吊り具の発明において、凹所は、上記のように上下に薄板部が存在し左右が開放され、突き刺された貫通ピンを受け入れる空間を形成しているにすぎず、貫通ピンと挿入杆は相互に拘束し合う状態になっていないことからして、挿入杆の凹部と貫通ピンに係合部を設けることは、その契機となるものを見いだすことができず、容易になし得ることとはいえない。
(1-4)したがって、本件発明1は、甲第1号証〜甲第5号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件発明2及び3について
本件発明2は、本件発明1において、「前記フックが前記主杆と別体に構成され、かつ主杆に対して下方へラチェット式にスライド可能に係合している」との構成を付加したものであり、本件発明3は、本件発明1において、「前記フックが前記主杆と一体に構成されている」との構成を付加したものであるところ、本件発明1が、上記「1.本件発明1について」で述べたように、甲第1号証〜甲第5号証記載の発明に基いていて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない以上、本件発明2及び3も、甲第1号証〜甲第5号証記載の発明に基いていて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

〔5〕むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1〜3についての特許を無効とすることはできない。
審判費用は、特許法169条2項の規定により準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-12-06 
結審通知日 2001-12-11 
審決日 2001-12-27 
出願番号 特願平6-306943
審決分類 P 1 112・ 121- Y (A47H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 忠夫  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 鈴木 公子
鈴木 憲子
登録日 1996-12-05 
登録番号 特許第2588160号(P2588160)
発明の名称 カーテン吊り具  
代理人 大塚 忠  
代理人 宮崎 伊章  

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