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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1065691
審判番号 不服2000-15409  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-09-28 
確定日 2002-10-11 
事件の表示 平成11年特許願第230285号「アレイ導波路型波長合分配回路」拒絶査定に対する審判事件[平成12年 5月26日出願公開、特開2000-147283]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年8月17日(国内優先 平成10年9月3日)の出願であって、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明は、平成12年5月15日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1ないし7に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明は次のものである。
「スラブ導波路を両端に備えたアレイ導波路型波長合分波回路において、
アレイ導波路とスラブ導波路との接続部近傍の各隣接したアレイ導波路間に配置された埋設層を備え、
前記スラブ導波路とアレイ導波路は、コアとこのコア周囲のクラッドとから構成され、
前記埋設層は、前記アレイ導波路のコアが前記スラブ導波路から分岐する分岐点より前記アレイ導波路のコアの間に密接して配置され、かつ、前記分岐点より離れて前記隣接したアレイ導波路のコアの間隔が広くなるほど厚さが薄くなるように形成され、
前記埋設層の屈折率は前記クラッドの屈折率より高く、
前記コアの屈折率は前記埋設層の屈折率以上である
ことを特徴とするアレイ導波路型波長合分波回路。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶理由に引用された特開平4-240605号公報(以下、「引用例」という。)には、次の発明が記載されている。
(1)Y-連結光分岐導波路に関するもので、請求項1ないし4には次のように記載されている。
「【請求項1】第1の導波路;前記第1の導波路と交差し、光学的に結合し、先の切られたくさび形先端を有するY-連結を形成する第2の導波路であって前記Y-連結が前記第1及び第2の導波路間に配置された連結領域を有する第2の導波路;を含む光分岐導波路において、前記連結領域は前記先の切られたくさび形先端に入射する光放射の後方反射を減らすための手段を含むことを特徴とする光分岐導波路。
【請求項2】請求項1記載の光分岐導波路において、後方反射を減らすための前記手段は、前記先の切られたくさび形先端の光学的界面における実効的屈折率間の差を減らすように、前記第1の導波路の光伝搬の軸に沿って実効屈折率の勾配を、前記連結領域中に更に含む光分岐導波路。
【請求項3】請求項2記載の光分岐導波路において、前記実効屈折率の勾配は、コア屈折率から前記第1の導波路のクラッド屈折率まで変化する光分岐導波路。
【請求項4】請求項3記載の光分岐導波路において、実効屈折率の前記勾配は、徐々に減少する厚さを有する第1の半導体材料及び前記第1の半導体材料上に配置された第2の半導体材料を更に含み、前記第1の半導体材料は前記第2の半導体材料の屈折率より大きい光分岐導波路。」
(2)段落【0005】ないし【0007】には次のように記載されている。
「【0005】従来技術のY-連結導波路の特性は許容されるものであるが、製作技術の限界により、実際のY-連結又は分岐導波路は、それらの理想的なものからはずれ、そのためそれに接続された光デバイスに対し、有害な影響をもつ。たとえば、Y-連結導波路のくさび形の先端は、典型的な場合先が切られ、アンダーカットのため、湿式化学エッチング技術により処理された時、頭が切られる。Y-連結においてくさび形の先端がこのように切りとられることにより、放射損失とともに、光の後方反射の量が本質的になることは重要なことである。・・・
【0006】本発明の要旨
低放射損及び低後方反射を示す分岐連結導波路が、導波路の分岐間に、光の伝搬方向に沿って実効屈折率が徐々に減少する連結領域を用いることにより、実現される。具体的には、先の切られたくさび形先端の光学的界面における実効的な屈折率差を減らすことにより、この方式では入射放射に対してみられるくさび形先端が切りとられることの効果は最小になる。すなわち、導波路領域(コア)及び分岐間のとり囲んだ領域の間の光領域における屈折率差である。
【0007】一実施例において、InGaAsP直線分岐導波路及び角θで交差するInGaAsP側部分岐導波路から成るY-連結導波路が、InP基板上に作製される。分岐間の連結領域において実効的な屈折率が徐々に減少する構造は、くさび形先端の先が切られる影響を減らすため、分岐間に配置されたInGaAsP領域の厚さを減少させることにより実現されることは重要である。」
(3)「詳細な記述」の項中、段落【0016】及び【0017】には「更に、閉じ込められた光放射は次に、図4の断面図に示されているように、光増幅器の能動部分からY-連結導波路300の受動部分に延びる隣接したInGaAsP受動直線分岐導波路340(1.3μmの禁制帯波長)に結合される。埋込み導波路の位置、すなわち直線分岐導波路340及び側部分岐導波路360は、点線により、最上部表面上に投影されているように示されていることに注意する必要がある。この構造の例において、Y-連結導波路300は直線分岐導波路340から3.5°の角度で斜めになった側部分岐導波路360を含む。加えて、側部分岐導波路360及び直線分岐導波路340の両方は、半絶縁性InP320により埋込まれた受動InGaAsP導波路である。
【0017】・・・重要なことは、中を伝搬する光モードがみるくさび形先端の先が切られた影響を減らすため、上で述べたように、Y-連結の分岐間のY-連結領域380はZ軸に沿って実効屈折率が徐々に変化していることである。これは本件の場合のように、Y-連結領域380中のInGaAsP領域の厚さを徐々に減少させることにより、実現してもよい。」と記載されており、また段落【0020】には、「図6ないし図10に示されるように、Y-連結領域380の場合、Y-連結導波路の各種平面に沿って実効屈折率分布を得るため、プロセス工程は通常のフォトリソグラフィ工程とは異なる。側部分岐導波路360と直線分岐導波路340間の受動InGaAaPは、上で述べたように、導波路メサ340及び360を規定する時、浅いエッチングにより部分的にのみ除去される。二酸化シリコンマスクとフォトレジストにより被覆された浅いエッチされたY-連結領域により規定された側部及び直線分岐領域を用いて、第2の深いエッチングにより、受動InGaAsP導波路メサを生成させる。2つの分岐間に残った浅くエッチされたInGaAsP層の厚さは、0.2μmでY-連結先端410から100μmの長さにわたってゼロまで勾配をもつ。InGaAsP層上の半絶縁性InP領域320の再成長が受動導波路を埋め、図6ないし図10に示された実効屈折率を与える。能動領域は上で述べたように、p-InPの第3のMOCVD成長及びp-InGaAs電極層により被覆される。受動導波路及びY-連結領域中のこれらの層は、化学エッチングにより、順次除去される。」と記載されている。

3.対比・判断
本願発明と上記周知技術である特開平7-333447号公報(以下、これを「周知技術」という。)とを対比すると、両者は、「スラブ導波路を両端に備えたアレイ導波路型波長合分波回路において、前記スラブ導波路とアレイ導波路は、コアとこのコア周囲のクラッドとから構成され、前記分岐点より離れて前記隣接したアレイ導波路のコアの間隔が広くなるように形成されることを特徴とするアレイ導波路型波長合分波回路」で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本願発明のものは、「アレイ導波路とスラブ導波路との接続部近傍の各隣接したアレイ導波路間に配置された埋設層を備え」、「前記埋設層は、前記アレイ導波路のコアが前記スラブ導波路から分岐する分岐点より前記アレイ導波路のコアの間に密接して配置され」、かつ、分岐点より離れて前記隣接したアレイ導波路のコアの間隔が広くなる「ほど厚さが薄くなる」ものであり、また「前記埋設層の屈折率は前記クラッドの屈折率より高く、前記コアの屈折率は前記埋設層の屈折率以上である」のに対し、周知技術のものは、埋設層を有さず、したがって上記事項を有さない点。

上記相違点について検討する。
引用例の「第1及び第2の導波路間に配置された連結領域に含まれる、先の切られたくさび形先端に入射する光放射の後方反射を減らすための手段」は、本願発明の「埋設層」に相当し、両者はいずれも隣接した導波路間すなわちコア間に配置されるものである。
引用例の請求項4及び段落【0007】、【0017】、【0020】、図4の記載から、引用例の前記「先の切られたくさび形先端に入射する光放射の後方反射を減らすための手段(埋設層)」は、側部分岐導波路360と直線分岐導波路340との(先の切られたくさび形先端を有する)分岐点より離れるにしたがって、厚さが薄くなるように形成されている。
また、引用例の図7、図8の記載から、側部分岐導波路360及び直線分岐導波路340の各コアの実効屈折率は前記「先の切られたくさび形先端に入射する光放射の後方反射を減らすための手段(埋設層)」の実効屈折率以上であり、前記「先の切られたくさび形先端に入射する光放射の後方反射を減らすための手段(埋設層)」の実効屈折率は、該コア周囲のクラッドの実効屈折率より高くなっている。
したがって、上記相違点の構成は引用例にすべて記載されている。

両者の適用可能性について検討する。
引用例及び周知技術のものが、分岐導波路であることは明らかであるから、同一の技術分野に属するものであって、その点では本願発明も同様である。
そして、引用例に記載された発明は、「Y-連結導波路のくさび形の先端は、典型的な場合先が切られ、アンダーカットのため、湿式化学エッチング技術により処理された時、頭が切られる。Y-連結においてくさび形の先端がこのように切りとられることにより、放射損失とともに、光の後方反射の量が本質的になることは重要なことである。」(【0005】)という認識の基に、「低放射損及び低後方反射を示す分岐連結導波路が、導波路の分岐間に、光の伝搬方向に沿って実効屈折率が徐々に減少する連結領域を用いることにより、実現される。具体的には、先の切られたくさび形先端の光学的界面における実効的な屈折率差を減らすことにより、この方式では入射放射に対してみられるくさび形先端が切りとられることの効果は最小になる。すなわち、導波路領域(コア)及び分岐間のとり囲んだ領域の間の光領域における屈折率差である。」(【0006】)と記載されるものであるから、引用例の埋設層は、Y-連結導波路においてくさび形の先端がこのように切りとられることによる放射損失と光の後方反射を低減するために設けられている。
これに対して、本願発明は、本願明細書を参酌すれば、「従来では、アレイ導波路型波長合分波回路などの信号光が分岐される回路では、分岐しているコア間の隙間から信号光が散逸するため伝送損が生じてしまうという問題があった。」(【0006】)という認識の基に、「この発明によれば、埋設層を備えてコアを構成した結果、分岐点より分岐する2つのコア間の屈折率が(アレイ導波路のコアがスラブ導波路から分岐する)分岐点より徐々に減少するので、分岐点における光信号の散逸が抑制できるようになり、光の伝搬損失を低減できるという優れた効果が得られる。」(【0037】)としたものであるから、本願発明の埋設層は、分岐しているコア間の隙間から信号光が散逸するため伝送損が生じるのを低減するために設けられている。
すなわち、本願発明では、導波路コアからの信号光波面が分岐しているコア間の隙間のクラッドに衝突して信号光が散逸するのを低減するために埋設層を設けており、引用例では、主として、導波路コアからの信号光波面が先の切られたくさび形先端によって散逸するのを低減するために埋設層を設けていると説明していることから、両者は一見相違するように見えるが、引用例における埋設層(Y-連結領域380)が目的とするところは、「低放射損及び低後方反射」を達成することであって後方反射の低減のみを目的とするものではなく、本願発明のものは、そのうちの「低放射損」(「分岐しているコア間の隙間から信号光が散逸するため伝送損」)のみの効果に着目しているために相違するように見えるだけであって、信号光が分岐導波路(コア)になるべく多く伝達される点、すなわち「低放射損」を目的とする点において両者は同様である。また埋設層に関する構成も相違がない以上、その作用効果にも差異はないといわざるを得ない。
よって、引用例を周知技術に適用することについても困難性はない。

4.むすび
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-06-18 
結審通知日 2002-06-25 
審決日 2002-08-20 
出願番号 特願平11-230285
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡田 吉美  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 土屋 知久
稲積 義登
発明の名称 アレイ導波路型波長合分配回路  
代理人 澤井 敬史  

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