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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
管理番号 1065853
異議申立番号 異議1999-74222  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-02-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-11-17 
確定日 2002-07-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2892259号「セラミックハニカム触媒」の請求項1ないし13に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2892259号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許2892259号の請求項1〜13に係る発明は、平成5年7月29日に特許出願され、平成11年2月26日に特許の設定登録がなされたものである。
その後、特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年5月2日に訂正請求がなされ、再度訂正拒絶理由通知を兼ねた取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年3月13日に再度訂正請求がなされた(なお、先の訂正請求書は取下げられた)が、この訂正請求に不備な点が発見されたので、再度訂正拒絶理由通知を兼ねた取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年3月6日付けで再度訂正請求がなされたものである(先の訂正請求書は取下げられた)。
(1)訂正の内容
(1-1)特許請求の範囲の訂正について
(a)訂正事項a:請求項1〜4及び8〜13を削除する。
(b)訂正事項b:請求項5を、特許請求の範囲の減縮と、明りょうでない記載の釈明とを目的として、次のとおり訂正する。
(b-1)特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項5の冒頭に、「周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としてのセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具えるセラミックハニカム触媒であって、ハニカム構造体が次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.lmmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下であること」(特許公報第1欄第2〜15行参照)を加入し、(b-2)特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項5における上記(b-1)の加入事項中、「触媒担体としての」と「セラミックハニカム構造体」(特許公報第1欄第4行参照)との間に、「一体押出成形された」(特許公報第3欄第45〜46行参照)を加入し、
(b-3)明りようでない記載の釈明を目的として、請求項5における上記(b-1)の加入事項の直後に「、並びに、」を加入し、
(b-4)明りようでない記載の釈明を目的として、請求項5の末尾における「、請求項1又は3に記載の」(特許公報第3欄第17行参照)を削除し、
(b-5)明りょうでない記載の釈明を目的として、請求項5を新たな請求項1に改める。
(c)訂正事項c:請求項6を、特許請求の範囲の減縮と、明りょうでない記載の釈明とを目的として、次のとおり訂正する。
(c-1)特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項6の冒頭に、「周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としてのセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具えるセラミックハニカム触媒であって、ハニカム構造体が次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.1mmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下であること」(特許公報第1欄第2〜15行参照)を加入し、(c-2)特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項6における上記(c-1)の加入事項中、「触媒担体としての」と「セラミックハニカム構造体」(特許公報第1欄第4行参照)との間に、「一体押出成形された」(特許公報第3欄第45〜46行参照)を加入し、
(c-3)明りょうでない記載の釈明を目的として、請求項6における上記(c-1)の加入事項の直後に「、並びに、」を加入し、
(c-4)明りようでない記載の釈明を目的として、請求項6の末尾における「、請求項1又は3に記載の」(特許公報第3欄第24行参照)を削除し、
(c-5)明りようでない記載の釈明を目的として、請求項6を新たな請求項2に改める。
(d)訂正事項d:請求項7を、特許請求の範囲の減縮と、明りょうでない記載の釈明とを目的として、次のとおり訂正する。
(d-1)特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項7の冒頭に、「周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としてのセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具えるセラミックハニカム触媒であって、ハニカム構造体が次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.1mmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下であること」(特許公報第1欄第2〜15行参照)を加入し、
(d-2)特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項7における上記(d-1)の加入事項中、「触媒担体としての」と「セラミックハニカム構造体」(特許公報第1欄第4行参照)との間に、「一体押出成形された」(特許公報第3欄第45〜46行参照)を加入し、
(d-3)明りようでない記載の釈明を目的として、請求項7における上記(d-1)の加入事項の直後に「、並びに、」を加入し、
(d-4)明りようでない記載の釈明を目的として、請求項7の末尾における「、請求項1又は3に記載の」(特許公報第3欄第32〜33行参照)を削除し、
(d-5)明りようでない記載の釈明を目的として、請求項7を新たな請求項3に改める。
(1-2)発明の詳細な説明の訂正について
(e)訂正事項e:特許明細書の段落【0005】及び【0006】を、明りょうでない記載の釈明を目的として、以下のように訂正する。
「【0005】本発明によるセラミックハ二カム触媒は、周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としての一体押出成形されたセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具え、ハニカム構造体が、次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.1mmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下である。
【0006】本発明によるセラミックハニカム触媒は、さらに、次の条件(1)ないし(3)(訂正請求書では、丸数字で表現されているが、本決定では、便宜上括弧数字で表現する。)の少なくとも1条件を満足するものである。
(1)ハニカム構造体の横断面内で任意の単位隔壁の両面に内接する円の中心を連ねた線を当該隔壁の中心線とするとき、中心線上の任意の2点間の中心線長さと該2点間の直線距離との長さ比が1以上1.10以下であること。
(2)ハニカム構造体の横断面内で任意の単位隔壁の両面に内接する円の中心を連ねた線を当該隔壁の中心線とするとき、中心線上の任意の2点間の中心線長さと該2点間の直線距離との長さ比が1.10を超え、かつ、1.15以下である隔壁の総数が、全隔壁数の1%以下であること。
(3)ハニカム構造体の任意のセルにおいて、当該セルを構成する各単位隔壁の両側の交点内で少なくとも3コーナーに内接する最大内接円の中心を当該セルの格子点とするとき、相対する格子点を結ぶ各対角線において、最大長さと最小長さとの長さ比が、四角形セルの場合に1以上1.73以下、六角形セルの場合には1.15以上1.93以下であること。」
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項(1-1)は、本件発明に係る「セラミックハニカム構造体」を技術的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、また新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また、上記訂正事項(1-2)は、上記訂正事項(1-1)に伴って、発明の詳細な説明の記載を該訂正に整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であり、また新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(3)独立特許要件
(本件訂正発明)
訂正後の請求項1〜3に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としての一体押出成形されたセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具えるセラミックハニカム触媒であって、ハニカム構造体が次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.1mmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下であること、
並びに、前記ハニカム構造体の横断面内で任意の単位隔壁の両面に内接する円の中心を連ねた線を当該隔壁の中心線とするとき、中心線上の任意の2点間の中心線長さと該2点間の直線距離との長さ比が1以上1.10以下であることを特徴とするセラミックハニカム触媒。
【請求項2】周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としての一体押出成形されたセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具えるセラミックハニカム触媒であって、ハニカム構造体が次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.1mmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下であること、並びに、
前記ハニカム構造体の横断面内で任意の単位隔壁の両面に内接する円の中心を連ねた線を当該隔壁の中心線とするとき、中心線上の任意の2点間の中心線長さと該2点間の直線距離との長さ比が1.10を超え、かつ、1.15以下である隔壁の総数が、全隔壁数の1%以下であることを特徴とするセラミックハニカム触媒。
【請求項3】周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としての一体押出成形されたセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具えるセラミックハニカム触媒であって、ハニカム構造体が次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.1mmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下であること、並びに、
前記ハニカム構造体の任意のセルにおいて、当該セルを構成する各単位隔壁の両側の交点内で少なくとも3コーナーに内接する最大内接円の中心を当該セルの格子点とするとき、相対する格子点を結ぶ各対角線において、最大長さと最小長さとの長さ比が、四角形セルの場合に1以上1.73以下、六角形セルの場合には1.15以上1.93以下であることを特徴とするセラミックハニカム触媒。」
(引用刊行物の記載内容)
当審が取消理由で引用した刊行物1〜12には、それぞれ次の事項が記載されている。
(i)刊行物1:特開昭57ー13212号公報
第6頁表1には、「種々の正方形セル構造を有するセラミック基体の比較」が示され、その中にセル数「600/4」のセル基体(隔壁の壁厚が約0.102mmで、開口率が81%のセラミックハニカム構造体)が例示されている。
(ii)刊行物2:SAE Technical Paper Series 900614 Feb.26-Mar.2,1990(訳文、なお、訳文とは特許異議申立人株式会社デンソーの提示した訳文を指す。以下、同様。)
(a)「この研究では、・・・の素材強度は向上したが、担体全体のアイソスタテイック強度を高めることには失敗した。これは製品の周辺でセルが変形したためである。したがって400cpi2の担体の壁厚を現在の6milから薄化することはできなかった。400cpi2の担体の壁厚を薄化するには、セルの変形を防止し、密封性能を向上させるための研究が必要である。その後、厚さ4milおよび5milの触媒処理済みの試供体で、通気抵抗と暖気特性に関する研究が行われた。この結果、壁厚を要因とした有利な特性が明らかになり、さらに熱容量の低下も見られた。」(訳文第3頁)
(b)「担体の圧力損失と断面積
圧力損失試験装置
図2に圧力損失試験の装置を示している。ここでは試供体の両面に、内径67mmのアダプタを取り付けている。試供体の圧力損失は、全体の数値からアダプタ自体の損失値(16m/秒の流動率で14mmAq)を減算した結果だけを使って算出された。
試供体
表1は、試供体の6通りのセル構造における壁厚とセル間隔を示したものである。」(訳文第3頁)
(c)原文の第3頁表1には、壁厚が0.151mm(6/600)〜0.305mm(12/300)の範囲の11の数値例が示されている。
(d)「現在の密封技術では、10kg/cm2のアイソスタテイック強度が必要であるため、400cpi2の担体では、セル壁の厚さを現在の6milから薄化することはできない。担体全体のアイソスタテイック強度を向上させるには、横断面領域での周辺セルの変形を防ぎ、壁厚の薄い担体のために素材を強化する必要がある。素材は有孔率を低くすることで強化することができる。図10は、5mil/400cpi2の担体において、押出し過程で変形した周辺セルを示したものである。セルはそれほど変形していないが、セルが不規則であるため、特にセル壁が薄い担体で圧縮強度が低下している。壁厚の薄い担体に理想的なアイソスタティック強度を確認するために、肉眼で欠陥品が取り除かれた試供体で試験が実施された。図11から、壁厚が薄い(5mil)場合でも、アイソスタテイック強度がかなり高いことがわかる。ただし、4milの担体は・・・現在の10kg/cm2指定の担体よりも低い。4mil担体を改良するためには密封時の寸法の精密性とセル変形の防止を研究する必要がある。」(訳文第6頁最下行〜第7頁第13行)
(e)「壁厚の薄い触媒の暖気特性
壁厚の薄い担体を使用した触媒の暖気特性を調べるために、表2に示すように、壁厚が4mil、5mil、6mil、8milの400cpi2で試験が実施された。4milと5milの担体では、有孔率が24%と28%・・・が用いられた。ただし、これらの担体のかさ密度は壁厚が薄いために、現行の6mil担体よりも20%以上低かった。」(訳文第7頁)
(f)原文の第6頁表2には「セル構造体4mil/400cpi2は、壁厚が0.10mm、cellpitchが1.27mmである」ことが示されている。
(g)「5mil/400cpi2までの担体のアイソスタテイック衝突強度を高めるには、周辺セルの変形を防がなければならない。すなわち、製造技術の改善が要求される。」(訳文第10頁第4行及び第5行)
(iii)刊行物3:「セラミック工学ハンドブック」社団法人日本セラミックス協会編、2095頁ないし2097頁(1989年4月10日1版1刷)
(a)「ハニカムセラミックスは、一般に押出し成形される。」(第2096頁右欄19行〜20行)
(b)第2097頁表1.57「自動車排ガス用ハニカムセラミックスの性質」には、「圧縮破壊強さ(kg/cm2)a軸>85、b軸>11、c軸>1」であることが示されている。
(iv)刊行物4:特開昭54ー110189号公報
(a)「所望の機械的強度を満足させるためには、外周壁3の壁厚は1〜5mm程度にある必要があり、」(第2頁右上欄第1行〜第3行)
(b)「また、外周壁、隔壁ともに極薄(0.07mm)に形成したものは、単位体積当りの表面積や素材体積比を向上させることができたが、逆に外圧力による破壊荷重が極端に低くなり使用に耐えない。」(第3頁右下欄第8行〜第12行)
(v)刊行物5:特開昭63-256140号公報
(a)「このため本発明は、触媒ケース内に設けられる担体の表面に、触媒成分を含有するアルミナコート層が形成され、該アルミナコート層のアルミナ粒子の粒径が排気ガス流入側が小さく、排気ガス流出側が大きく設定されていることを特徴とするものである。」(第2頁左欄上段第5〜10行)
(b)「流出側ではアルミナの粒径が大きいので全体として熱容量を小さくできるために温度が高まりやすくなって、触媒全体としてのウォームアップ性能が向上するようになる。」(第2頁左欄上段最下行〜右欄上段第3行)
(vi)刊行物6:特開平3ー275309号公報
「セル厚が0.152mmより薄い薄型のセラミックハニカム成形体を作る場合、この押出成形時に、成形体の自重が大きすぎたり、成形体自身の強度が不充分であったりすることから、自重を支えきれず、成形体外周縁部のセルが潰れたり、くの字状に変形し、焼成後に所定の強度が得られないことがあった。」(第2頁左上欄13行〜19行)
(vii)刊行物7:特開昭57ー19039号公報
(a)「外周壁又は外周部の貫通孔を形成する隔壁に予め長手方向のスリットを設け、発生応力を緩和する工夫もなされているが、機械的強度が低下したりして、実使用上問題が多い。」(第2頁左上欄第18行〜右上欄第1行)
(b)「外周環状部分を剛性の高いセル構造で構成する本発明によって、耐熱衝撃性と機械的強度特性の両者がいかに改善されるかを示す好適な実験結果の一例を第8図に示す。」(第2頁右下欄第17行〜第20行)
(viii)刊行物8:「材料力学」-上巻ー、株式会社養賢堂発行、昭和57年9月20日、82頁ないし87頁、368頁
「上下面に生ずる最大応力σと、断面係数Z及び曲げモーメントMの関係式」(86頁)
「断面形状が長方形である場合の断面係数の式」(368頁)
(ix)刊行物9:Thermophysical Properties of Matter,vol.5,IFI/Plenum,New York,1970
「Mg2Al4Si5O18の比熱」(1503頁、1505頁)
(x)刊行物10:SAE Technical Paper Series 910375 Feb.25-Mar.1,1991
「セラミックハニカムについて、アイソスタティック強度はB軸圧縮強度より60〜70%高い。」(第6頁)
(xi)刊行物11:特開昭50-27805号公報
「一般に横圧縮強度は焼成セラミック物品の縦圧縮強度の約8〜14%である。」(第7頁左欄上段第14〜15行)
(xii)刊行物12:特公平2-12898号公報
「コージェライト真比重2.52」(第11頁)
(対比・判断)
(i)本件訂正発明1〜3について
本件訂正発明1〜3は、隔壁が薄いにも拘わらず十分なアイソスタティック破壊強度を有する「セラミックハニカム構造体」(特許公報段落【0004】参照)の提供に関するものであり、具体的には、本件訂正発明1〜3の特徴は、その隔壁の壁厚を「0.050≦t≦0.150」まで薄くした場合でも、その周壁の壁厚、開口率や隔壁の変形度合を規制すると共にこのような条件を満たすセラミックハニカム構造体を「一体押出成形」し、かつ、以下の(イ)〜(ハ)のいずれかを満足させることによって「50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度を有し、触媒容量1m3あたり450kJ/K以下の熱容量を有するセラミックハニカム構造体」を実現化した点にあると認められる。
(イ)ハニカム構造体の横断面内で任意の単位隔壁の両面に内接する円の中心を連ねた線を当該隔壁の中心線とするとき、該中心線上の任意の2点間の中心線長さと該2点間の直線距離との長さ比が1以上1.10以下であること。
(ロ)ハニカム構造体の横断面内で任意の単位隔壁の両面に内接する円の中心を連ねた線を当該隔壁の中心線とするとき,該中心線上の任意の2点間の中心線長さと該2点間の直線距離との長さ比が1.10を超え、かつ、1.15以下である隔壁の総数が、全隔壁数の1%以下であること。
(ハ)ハニカム構造体の任意のセルにおいて,当該セルを構成する各単位隔壁の両側の交点内で少なくとも3コーナーに内接する最大内接円の中心を当該セルの格子点とするとき、相対する格子点を結ぶ各対角線において、最大長さと最小長さとの長さ比が、四角形セルの場合に1以上1.73以下、六角形セルの場合には1.15以上1.93以下であること。
そこで、このような観点から、上記引用刊行物1〜12について検討すると、これら引用刊行物には、本件訂正発明1〜3の如き薄い隔壁でかつ十分なアイソスタティック破壊強度を満足する「セラミックハニカム構造体」については何ら記載されていない。
すなわち、引用刊行物1には、種々の正方形セル基体の中に隔壁約0.102mmの数値を示すだけの正方形セルが偶々一つ例示されているだけであり、その余の点については記載がない。
また、引用刊行物2には、「自動車触媒用セラミック基体の壁厚の薄壁化」と題して、「12mil/300cpi2」や「壁厚が4mil、5mil、6mil、8milの400cpi2」の試供体で「アイソスタティック強度」や「暖気特性と圧力損失」等の試験を行ったその結果について記載されているが、その記載によれば、「現在の密封技術では、10kg/cm2のアイソスタテイック強度が必要であるため、400cpi2の担体では、セル壁の厚さを現在の6milから薄化することはできない。担体全体のアイソスタテイック強度を向上させるには、横断面領域での周辺セルの変形を防ぎ、壁厚の薄い担体のために素材を強化する必要がある」(上記(c)参照)ということであるから、そこには、「壁厚6mil」(この壁厚は、引用刊行物2の表1では最も薄い場合で「0.152mm」、表2では「0.17mm」と表示)より薄い壁厚「0.050≦t≦0.150のセラミックハニカム構造体」の実用化について何ら記載されていないことは明らかである。
もっとも、引用刊行物2の表2には、壁厚0.150mmより薄い「4mil(0.10mm)と5mil(0.14mm)」のセル構造体の試供体が示されているが、これらは、「暖気特性」の試験に供されたものであり、「アイソスタティック強度」まで示唆するものではない。また、5mil/400cpi2のセル構造体については、上記(c)の「図10は、5mil/400cpi2の担体において、押出し過程で変形した周辺セルを示したものである。セルはそれほど変形していないが、セルが不規則であるため、特にセル壁が薄い担体で圧縮強度が低下している。壁厚の薄い担体に理想的なアイソスタティック強度を確認するために、肉眼で欠陥品が取り除かれた試供体で試験が実施された。」という記載から明らかな如く、押出成形によるセル変形を伴うものであるから、この試供体も、本件訂正発明の「隔壁の変形度合の規制」例えば本件訂正発明1の場合の「該中心線上の任意の2点間の中心線長さと該2点間の直線距離との長さ比が1以上1.10以下」という定量的な規制を何ら示唆するものではないと云える。
さらに、引用刊行物3〜12について検討すると、これら引用刊行物にも壁厚の数値等断片的な事項が記載されているだけであり、上記引用刊行物2に記載されている以上のものが記載されているとは云えない。
してみると、本件訂正発明1〜3は、上記引用刊行物1〜12に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると云うことはできない。
したがって、本件訂正発明1〜3は、いずれも特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(4)むすび
以上のとおり、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立てについて
(3-1)特許異議申立人株式会社デンソーに対して
(特許異議申立ての理由の概要)
特許異議申立人株式会社デンソーは、以下の甲第1号証〜甲第8号証を提出して、本件請求項1〜4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と同一であり、また本件請求項1〜13に係る発明は、甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定又は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである、
したがって本件請求項1〜13に係る発明の特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものであると主張している。
(証拠の記載内容)
甲第1号証:上記引用刊行物1と同じ
甲第2号証:上記引用刊行物2と同じ
甲第3号証:上記引用刊行物3と同じ
甲第4号証:上記引用刊行物4と同じ
甲第5号証:上記引用刊行物5と同じ
甲第6号証:上記引用刊行物6と同じ
甲第7号証:上記引用刊行物7と同じ
甲第8号証:上記引用刊行物8と同じ
(当審の判断)
甲第1〜8号証については、上記2.(3)独立特許要件の項で述べたとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
(3-2)特許異議申立人日立金属株式会社に対して
(特許異議申立ての理由の概要)
特許異議申立人日立金属株式会社は、以下の甲第1号証〜甲第6号証を提出して、本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、また本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定又は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本件請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものであると主張している。
(証拠の記載内容)
甲第1号証:上記引用刊行物2と同じ
甲第2号証:上記引用刊行物9と同じ
甲第3号証:上記引用刊行物10と同じ
甲第4号証:上記引用刊行物11と同じ
甲第5号証:上記刊行物4と同じ(上記刊行物4に対応する公告公報である特公昭62-18797号公報)
甲第6号証:上記刊行物12と同じ
(当審の判断)
特許異議申立人は、訂正前の本件請求項1〜13に係る発明の特許のうち、請求項1〜4に係る発明の特許に対して特許異議申立てを行っているところ、請求項1〜4は訂正により削除されており、そして本件訂正発明1〜3は、上記2.(1)訂正事項(1-1)に示すとおり、異議申立ての対象でない訂正前の請求項5以降の内容に減縮されたものである。
したがって、本件訂正発明1〜3は、特許異議申立人の異議申立ての対象外であることが明らかであるから、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
4.むすび
以上のとおり、特許異議申立の理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明の特許を取り消すべき理由および証拠を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
セラミックハニカム触媒
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としての一体押出成形されたセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具えるセラミックハニカム触媒であって、ハニカム構造体が次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.1mmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下であること、並びに、
前記ハニカム構造体の横断面内で任意の単位隔壁の両面に内接する円の中心を連ねた線を当該隔壁の中心線とするとき、中心線上の任意の2点間の中心線長さと該2点間の直線距離との長さ比が1以上1.10以下であることを特徴とするセラミックハニカム触媒。
【請求項2】周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としての一体押出成形されたセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具えるセラミックハニカム触媒であって、ハニカム構造体が次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.1mmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下であること、並びに、
前記ハニカム構造体の横断面内で任意の単位隔壁の両面に内接する円の中心を連ねた線を当該隔壁の中心線とするとき、中心線上の任意の2点間の中心線長さと該2点間の直線距離との長さ比が1.10を超え、かつ、1.15以下である隔壁の総数が、全隔壁数の1%以下であることを特徴とするセラミックハニカム触媒。
【請求項3】周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としての一体押出成形されたセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具えるセラミックハニカム触媒であって、ハニカム構造体が次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.1mmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下であること、並びに、
前記ハニカム構造体の任意のセルにおいて、当該セルを構成する各単位隔壁の両側の交点内で少なくとも3コーナーに内接する最大内接円の中心を当該セルの格子点とするとき、相対する格子点を結ぶ各対角線において、最大長さと最小長さとの長さ比が、四角形セルの場合に1以上1.73以下、六角形セルの場合には1.15以上1.93以下であることを特徴とするセラミックハニカム触媒。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】本発明は、外壁とも称される周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、隔壁を隔てて流路方向に多数の多角形断面を有するセル状の貫通孔を隣接させてなる触媒担体としてのセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具えるセラミックハニカム触媒に関するものである。
【0002】
【背景技術】上述した構成を有するセラミックハニカム触媒は、例えば、自動車用排ガス浄化システムにおける触媒として広く使用されている。触媒担体としてのセラミックハニカム構造体は、高い開口率に由来して排ガスを通過させる場合の圧力損失が低く、優れた排ガス浄化性能を発現するものとして広範に普及するに至っている。なお、従来より実用に供されているセラミックハニカム構造体は、隔壁の壁厚が0.170mm、セル密度が1cm2あたり60個とされている。
【0003】最近における環境問題がらみの排ガス規制強化、例えば、米国における排ガス評価試験モードの一つであるLA-4モードにおけるハイドロカーボン(HCとも言う)排出総量低減の要請に伴い、セラミックハニカム構造体には従来以上に卓越した排ガス浄化性能の実現が期待されている。特に、エンジンをスタートしたばかりの状態、いわゆるコールドスタート時では触媒があまり暖まっていないために十分に活性化しておらず、浄化効率の低下が著しい。このため、コールドスタート時における触媒の早期活性化が排ガス規制をクリアーするための最重要課題とされている。このような観点から、一般論として、セラミックハニカム構造体における隔壁をより薄く形成し、開口率を一層高めて圧力損失を低下させると共に構造体重量を軽減し、触媒の熱容量を低下させて触媒の昇温速度を高めることが提案されている。この場合には、大きな幾何学的表面積が得られることから、ハニカム構造体の小型化も期待することができる。その反面、隔壁が薄いセラミックハニカム構造体は、構造体としての強度の一指標であるアイソスタティック破壊強度についての所定の最低保証値の達成が困難となるために慎重な取り扱いを必要とし、また、触媒コンバータケーシング内に保持し、実使用下において振動等によりハニカム構造体が動くことのないようにする装着作業、いわゆる「キャニング」に際して触媒担体の損傷を生じかねない。キャニングは、ハニカム構造体の外周面で保持するのが主流であるが、流路方向での保持または外周面と流路方向での組合わせ保持方式が採用される場合もある。なお、上述した最低保証値は、一般にアイソスタティック破壊強度で5kgf/cm2以上、好適には10kgf/cm2以上必要と言われている。そして、従来、セラミックハニカム構造体における隔壁の薄壁化と、十分なアイソスタティック破壊強度の実現とは、互いに二律背反的な問題点として一般に認識されていたのであり、従来、隔壁厚さ0.170mm未満のセラミックハニカム構造体において実用に供することができるものは得られていなかったのである。
【0004】
【発明の開示】したがって、本発明の課題は、上述した問題点を一挙に解消し得る新規な着想に立脚し、十分なアイソスタティック破壊強度を有するにも拘わらず隔壁が薄いセラミックハニカム構造体を触媒担体として具える、熱容量の小さいセラミックハニカム触媒を提案することである。
【0005】
本発明によるセラミックハニカム触媒は、周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としての一体押出成形されたセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具え、ハニカム構造体が次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.1mmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下である。
【0006】
本発明によるセラミックハニカム触媒は、さらに、次の条件▲1▼ないし▲3▼の少なくとも一条件を満足するものである。
▲1▼ ハニカム構造体の横断面内で任意の単位隔壁の両面に内接する円の中心を連ねた線を当該隔壁の中心線とするとき、中心線上の任意の2点間の中心線長さと該2点間の直線距離との長さ比が1以上1.10以下であること。
▲2▼ ハニカム構造体の横断面内で任意の単位隔壁の両面に内接する円の中心を連ねた線を当該隔壁の中心線とするとき、中心線上の任意の2点間の中心線長さと該2点間の直線距離との長さ比が1.10を超え、かつ、1.15以下である隔壁の総数が、全隔壁数の1%以下であること。
▲3▼ ハニカム構造体の任意のセルにおいて、当該セルを構成する各単位隔壁の両側の交点内で少なくとも3コーナーに内接する最大内接円の中心を当該セルの格子点とするとき、相対する格子点を結ぶ各対角線において、最大長さと最小長さとの長さ比が、四角形セルの場合に1以上1.73以下、六角形セルの場合には1.15以上1.93以下であること。
【0007】ここに、A軸圧縮強度とは、社団法人自動車技術会発行の自動車規格であるJASO規格M505-87に規定されている圧縮強度を指し、ハニカム構造体の流路方向、すなわち横断面に対して垂直方向に圧縮荷重を負荷したときの破壊強度である。また、B軸圧縮強度とは、ハニカム構造体の横断面に平行で隔壁に対して垂直をなす方向に圧縮荷重を負荷したときの破壊強度であって、同じく前記JASO規格に規定されているものである。さらに、アイソスタティック強度とは、ハニカム構造体にアイソスタティック、すなわち等方的な静水圧荷重を負荷したときの圧縮破壊強度であって、破壊が発生したときの圧力値で示され、これも前記JASO規格に規定されている。A軸圧縮強度は流路方向に圧縮荷重を負荷するので、隔壁の変形程度等のハニカム構造の不具合の影響はあまり受けず、材料強度と強い相関を持つものである。これとは対照的に、B軸圧縮強度は材料強度にも依存するが、隔壁の変形程度等のハニカム構造の不具合の影響を強く受ける。この点においてはアイソスタティック強度も同様であり、したがってアイソスタティック強度およびB軸圧縮強度はいずれも構造体の強度特性の指標となるが、B軸圧縮強度は周壁のない状態で測定されるので周壁構造の影響が除外される。言うまでもなく、周壁は内部のハニカム構造を外圧から保護する外殻としての機能を発揮するものであり、その外周面でキャニング時の荷重を受け持っている。周壁が破壊すると、その内側の周囲の隔壁も異常な荷重を受けて連鎖的な破壊を始めるため、周壁は重要な役割を担うものである。アイソスタティック強度およびB軸圧縮強度の両者間には、荷重負荷状態が異なり発生する応力分布も異なることもあり、明確な相関は認められないが、B軸圧縮強度が高いほどアイソスタティック強度も高くなる傾向にある。前述したとおり、A軸圧縮強度およびB軸圧縮強度は、ハニカム構造の強度特性の基本的な指標であり、A軸圧縮強度は主に材料強度面の影響度合を示し、B軸圧縮強度はハニカム構造面の影響度合を示すものである。そして、構造体としての実用的な強度特性を示すアイソスタティック強度は、材料およびハニカム構造、さらには周壁厚さに代表される周壁構造の影響が互いにからみ合った結果として現れるものである。なお、周壁厚さは、成形性の面からも0.15mm以上とするのが好適である。
【0008】本発明は、セラミックハニカム触媒における触媒担体としてのセラミックハニカム構造体の隔壁を、従来既知のものと対比して薄壁として構成することにより、開口率を高めて圧力損失を低減させると共に、触媒担体としてのハニカム構造体の熱容量、ひいては触媒の熱容量を低下させるものである。触媒の熱容量が小さいほどコールドスタート時における触媒温度上昇が速くなり、触媒がより早期に活性化し始めるので、排ガス浄化性能が向上することは、言うまでもない。さらに、本発明は、隔壁の壁厚とハニカム構造体の開口率および/または嵩密度との間に前述した一定の条件を満足させることにより、隔壁が薄壁であるにも拘わらず、実用上満足すべき圧縮強度特性を実現するものである。
【0009】前述した基本的特徴を有する本発明のセラミックハニカム触媒において、触媒担体としてのハニカム構造体における隔壁の壁厚tの上限値を0.150mm、好適には0.124mmとし、開口率OFAの下限値を0.65、好適には0.70とし又は嵩密度Gの上限値をk×0.35、好適にはk×0.30とした構成は、次の理由により、実用的見地から有利である。すなわち、壁厚tを0.124mm以下とする場合には、ハニカム構造体を触媒担体として使用する場合に、実用上満足すべき圧縮強度特性を実現しつつ、特に優れた排ガス浄化性能が実現される。これに加えて、ハニカム構造体の開口率を下限側において0.70以上とし又はハニカム構造体の嵩密度Gを上限側においてk×0.30以下とする場合には、優れた圧力損失特性および排ガス浄化性能を実現しつつ、満足すべき圧縮強度特性を実現することが可能となる。さらに付随的な効果として、ハニカム構造体の重量が軽減されるので、例えばセラミックハニカム触媒を自動車用排ガス浄化システムにおける触媒として使用する場合には自動車の車体重量軽減にも寄与し、ひいては燃費の向上効果を期待できる点が挙げられる。
【0010】
【実施例】以下、本発明を図面について一層詳細に説明する。
【0011】図1は、本発明の一実施例によるセラミックハニカム構造体10を示すものである。ハニカム構造体10は、周壁11と、その内側に配置された隔壁12とを具え、これら隔壁12の相互間に多角形断面、例えば三角形、四角形又は六角形断面のセル13を流路として有するものである。ハニカム構造体10の外形形状は、図1に示す流路方向に垂直な断面における断面形状が円形(ラウンド形)のものの外、長円形若しくは楕円形をしたオーバル形のもの又はその他の異形断面形のものも実用に供されている。また、ハニカム構造体10の外形形状は、流路方向軸線が真直のものに止まらず、流路方向軸線が曲がったものも既知である。ハニカム構造体10は、例えば自動車用排ガス浄化システムにおける触媒担体用であり、コージェライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素又はジルコニアよりなる一体押出成形品であり、実質上は、主に耐スポーリング特性面から低熱膨張、低ヤング率材料であるコージェライトの一体押出成形品であって四角形断面の貫通孔を有するものが主流である。本発明によるハニカム構造体10を触媒担体用として使用する場合には、例えば、隔壁12の表面にγ-アルミナ等の基材を少なくとも触媒容量に対して100g/l以上コーティングした後、Pt,Rh,Pdのうち少なくとも1種の貴金属よりなる触媒活性成分を少なくとも触媒容量に対して2g/l以上担持させる。この場合、ハニカム構造体10に上記のごとき基材および触媒活性成分をコーティングしてなるセラミックハニカム触媒の熱容量を、触媒容量1m3あたり450kJ/K以下、好適には410kJ/K以下とする。
【0012】本発明においては、セラミックハニカム構造体10のA軸圧縮強度を50kgf/cm2以上、B軸圧縮強度を5kgf/cm2以上、好適には10kgf/cm2以上とする。そして、ハニカム構造体10の周壁11の壁厚を少なくとも0.1mm、隔壁12の壁厚t(図2参照)を0.050mm以上0.150mm以下とする。この場合において、ハニカム構造体10の開口率OFAおよび嵩密度Gは、それぞれ次式:
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
k×{1-(-0.58×t+0.98)}≦G≦k×0.35
を満足する構成とする。ここに、kは材料真比重×(1-材料気孔率)である。言うまでもなく、ハニカム構造体10における開口率OFAおよびは嵩密度Gは、材料の真比重および気孔率を既知としたときに、いずれか一方が規定されれば他方が自づから規定される相補的な関係を有するものである。本発明による壁厚tと開口率OFAおよび嵩密度Gとの関係はそれぞれ図3および図4に示すとおりであり、上記の条件を満足する領域は図3および図4における斜線領域である。なお、上式における開口率OFAの上限値(-0.58×t+0.98)は、図5に示すように、ハニカム構造体における壁厚tを変えて開口率と周壁の局部的な変形との関係を調査してその変形程度により合否を判定した結果に基づく近似式である。すなわち、ハニカム構造体は、図6Aに示すように押出成形直後に一旦周壁外周面を受台にあてて保持しつつ次工程に搬送されるが、この搬送に際して図6Bに模式的に示すように周壁の局部的な変形を生じることがある。このように周壁が局部的に変形すると、キャニング時にハニカム構造体の片当たりを生じたり、変形を生じた周壁近傍の隔壁が追従して変形したりするため、アイソスタティック強度の低下を招き、ハニカム構造体が破損する危険が高まる。それゆえに、ハニカム構造体における開口率との関連における周壁の変形程度に着目して合否を判定したものである。開口率OFAの値が増加するほどセル密度が低下し、ハニカムを構成する隔壁の数が減少して周壁を支持している隔壁の間隔(セルピッチ)が拡がる。ハニカム構造体における開口率と隔壁間隔との関係は、図7に示すとおりである。図7からは、どの隔壁厚さの場合でも、隔壁間隔がある開口率において急激に大きくなることが明らかである。この開口率と隔壁厚さとの関係について更に検討を重ねたところ、開口率OFAが-0.58×t+0.98を超えるようになると隔壁間で支えられている周壁がたわみ易くなり、その結果として周壁の局部的な変形が生じ易くなり、ひいては周壁を支えていた隔壁も周壁に追従して変形するためにアイソスタティック強度の低下を招く場合もあることを確認した。もし、隔壁や周壁が変形を生じておらず、理想的に正確な形状を有していれば、アイソスタティック荷重の負荷によりハニカム構造体には圧縮応力場が支配的に作用するが、変形が生じているとその箇所に引張応力が発生することがあり得るので、この場合にはアイソスタティック強度が引張応力に支配されることになり、したがって急激な強度低下を招くことになる。
【0013】上述した条件を満足するセラミックハニカム構造体10を触媒担体として有する本発明によるセラミックハニカム触媒の優れた機能的特性につき、実験結果に基づいて説明すれば、下記のとおりである。
【0014】先ず、本発明によるセラミックハニカム触媒におけるセラミックハニカム構造体10の圧力損失特性と開口率との関係について説明する。図8は、ハニカム構造体における圧力損失特性の測定装置20を示す。測定装置20は送風機21、整流部22および測定部23を具え、測定部23内に測定対象としてのハニカム構造体24を接続し、送風機21により整流部22を介して空気を圧送してハニカム構造体24に通すと共にハニカム構造体24の前後の圧力差、すなわち圧力損失をマノメータ25により測定するものである。この測定装置20を使用し、サイズ(断面積、容量)が一定で開口率のみが相違する一群のセラミックハニカム構造体につき、空気流量を変化させて圧力損失特性を測定した。その測定結果は、図9に示すとおりである。図9からも、開口率が小さくなるにつれて圧力損失の高まることが明らかである。また、図10は上述したものと同一の測定対象群につき、空気流量を一定(5m3/min)としたときの開口率変化に伴う圧力損失の変化を示すものである。図10からは、圧力損失の上昇傾向が開口率70%以下、特に65%以下において顕著となることが認められる。この結果から、開口率の下限値は65%(=0.65)、好適には70%(=0.70)であることが必要である。
【0015】次に、本発明によるセラミックハニカム触媒におけるセラミックハニカム構造体10がエンジン出力特性に及ぼす影響を、開口率との関連において説明する。図11は、エンジン実機によるハニカム構造体の試験装置30を示すものである。この試験装置30は、6気筒3000ccのガソリンエンジン31に長さ50cmの排気マニフォールド32を接続し、排気マニフォールド32の直下に測定対象としてのハニカム構造体を含むコンバータ33を配置し、その下流側に容量1700ccの床下コンバータ34およびマフラー35を接続すると共にエンジン31の出力軸に動力計36を結合したものである。試験装置30を使用して、マニフォールド直下のコンバータ33として、サイズが一定(容量1700cc)で開口率のみが相違するセラミックハニカム構造体よりなる触媒担体を装備した一群のコンバータにつき、エンジン31の最大出力時におけるエンジン出力を動力計36により測定した。その測定結果は、図12に示すとおりである。図12からは、エンジン出力の低下傾向が開口率70%以下、特に65%以下において顕著となることが認められる。
【0016】次に、自動車用排ガス浄化システムに本発明によるセラミックハニカム触媒を装備したときの排ガス浄化性能について説明する。一般に実車の排ガス測定は、所定の走行試験モードに規定する車速パターンでの運転状態で行うものである。図13Aは車両走行試験モードの代表例としてのLA-4モードに基づく車速パターンを示す線図であり、図13BはLA-4モードにおける初期505秒間での車速パターンを示す詳細図である。6気筒2500ccのガソリンエンジンを搭載した供試車両における排気マニフォールド直下のコンバータとして、サイズ(容量1200cc)およびセル密度(60個/cm2)が一定で隔壁の壁厚のみが相違するセラミック触媒担体を装備した一群のコンバータにつき、LA-4モードにおける初期505秒間でのハイドロカーボン(HC)累積排出量を測定した。その測定結果は、図14に示すとおりである。図14からは、隔壁が薄いほどハイドロカーボン排出量が減少することが認められる。また、図15は、上述した測定対象コンバータ群につき、LA-4モードにおける初期505秒間でのハイドロカーボン排出量を示すものである。図15からは、隔壁が薄いほどハイドロカーボン排出量が減少し、その減少傾向は壁厚0.124mm以下において顕著となることも認められる。さらに、ハイドロカーボン排出量と触媒熱容量との関係について調査したところ、図16に示すように、熱容量が小さいほどハイドロカーボン排出量が減少し、その減少傾向は熱容量が450kJ/m3K以下、好適には410kJ/m3K以下において顕著となることが判明した。また、触媒熱容量と、Bag A2山目までにおける各エミッション成分(NOx,CO,HC)についての浄化効率との関係を調査したところ、図17に示すように、いずれのエミッション成分についても熱容量が小さいほど浄化効率が向上し、その向上傾向は熱容量が450kJ/m3K以下、好適には410kJ/m3K以下において顕著となることが判明した。
【0017】自動車用排ガス浄化システムのコールドスタート時における浄化性能は、触媒担体自体の昇温特性の優劣によって左右され、触媒担体の嵩密度、したがって触媒の熱容量が小さいほど優れた浄化性能が得られる。そこで、6気筒2500ccのガソリンエンジンを搭載した供試車両における排気マニフォールド直下のコンバータとして、サイズ(容量1200cc)およびセル密度(60個/cm2)が一定で隔壁の壁厚が相違するセラミック触媒担体を装備した複数のコンバータにつき、LA-4モードにおける初期505秒間での触媒担体の温度変化を、担体中央部の排ガス入口側から15mmの位置で測定した。その測定結果は、図18に示すとおりである。図18からは隔壁が薄いほど、したがって嵩密度が小さいほど担体の昇温特性の向上することが認められる。また、図18からはメタルハニカム触媒はセラミックハニカム触媒よりも昇温速度の低いことも認められる。これは、メタルはセラミックよりも熱伝導率が高く、その結果としてセラミックよりも昇温過程における放熱量が多いことに由来するものと考えられる。
【0018】さらに、6気筒2500ccのガソリンエンジンを搭載した供試車両における排気マニフォールド直下のコンバータとして、セラミックハニカム触媒担体を装備したコンバータと、メタルハニカム触媒担体を装備したコンバータとにつき、LA-4モードにおける初期505秒間でのエミッション(NOx,CO,HC)の排出量を測定した。その測定結果は、図19の棒グラフに示すとおりである。この測定結果からも、メタルハニカム触媒担体に対するセラミックハニカム触媒担体の排ガス浄化性能における優位性は明らかである。
【0019】前述したとおり、本発明によるセラミックハニカム触媒における触媒担体としてのセラミックハニカム構造体は、A軸圧縮強度が50kgf/cm2以上、B軸圧縮強度が5kgf/cm2以上のものである。セラミックハニカム構造体における圧縮強度特性の向上を目指して発明者らが鋭意検討および実験を重ねたところ、ハニカム構造体の製造段階で隔壁に変形・欠損が生じると圧縮強度の低下につながり、優れた圧縮強度特性を実現するには隔壁の変形度合および欠損度合をそれぞれ定量的に所定の範囲内に維持することが特に重要であることを知見した。
【0020】先ず、隔壁の変形の一態様としての曲がり変形について説明する。かかる曲がり変形は、例えばセラミックハニカム構造体の内部に発生することもあるが、周壁との接合部近傍における隔壁に生じ易く、ハニカム構造体を流路方向から観察したときに隔壁の湾曲として認識し得るものである。この場合、図20に示すように、ハニカム構造体における任意の貫通孔を形成する隔壁(「単位隔壁」と言う。)であって、例えば弧状に曲がり変形を生じた隔壁の両面に内接する円の中心を連ねた線を当該隔壁の中心線と定義し、中心線上の任意の2点間の直線距離LAと当該2点間の中心線長さLBとの長さ比、すなわち例えば図21Aに例示される長さ比LB/LAに着目して曲がり変形の程度を定量化する。長さ比LB/LAを算出する中心線上の2点は、長さ比LB/LAが最大となるように選ぶ。隔壁の曲がり変形の形態は、全長にわたって湾曲した弧状の外、図21Bおよび図21Cに示すように折線状又は部分的に湾曲しているものもある。本発明においては、長さ比LB/LAをハニカム構造体におけるほぼ全数の隔壁について1以上1.10以下とし、また、長さ比LB/LAが1.10を超え、かつ、1.15以下である隔壁の総数を、全隔壁数の1%以下とするものである。図22は、一担体中における隔壁の変形量、すなわち長さ比LB/LAの最大値とアイソスタティック強度との関係を示すグラフである。アイソスタティック破壊試験を行うに先立ち、予め、破壊点になると予測される変形の大きな隔壁について長さ比LB/LAを測定した。その後、アイソスタティック破壊試験を行い、破壊点における隔壁の長さ比LB/LAとアイソスタティック強度との関係を隔壁の壁厚を変えて調査した。ここに、アイソスタティック破壊試験に供したハニカム構造体は、いずれも外径約100mmのラウンド形状を有する標準サイズのものである。図22における上側の曲線は壁厚の厚い隔壁についてのデータを、また、下側の曲線は壁厚の薄い隔壁についてのデータをそれぞれ示す。この調査から、長さ比LB/LAが1.10以下になるとアイソスタティック強度が急激に増加する傾向にあることが判明した。図23は、一つのハニカムの任意の横断面内における曲がり変形を生じた隔壁の発生割合、すなわち幾つの長さ比LB/LAの隔壁が、いかなる頻度で存在するかを模式的に示すグラフである。長さ比LB/LAが1.10以下の隔壁しか存在しないハニカム構造体もあれば、長さ比LB/LAが1.10以上の隔壁を含むハニカム構造体もあることは、言うまでもない。さらに、図24は、長さ比LB/LAが1.10を超え、かつ、1.15以下の隔壁の総数が全隔壁数に占める数量割合(%)とアイソスタティック強度との関係を示すグラフである。図24における上側の曲線は壁厚の厚い隔壁についてのデータを、また、下側の曲線は壁厚の薄い隔壁についてのデータをそれぞれ示す。このグラフからは、当該数量割合が1.0%以下になるとアイソスタティック強度が急激に増加する傾向にあることが認められる。その理由は、次のとおりである。すなわち、曲がり変形を生じた隔壁の存在割合が増加すると、図25Aに示すように変形した隔壁同志が密集する場合、換言すれば変形隔壁が2個以上連続する場合が確率的に多くなり、大きく変形した隔壁同志が隣り合うことも起こり得る。このように変形した隔壁が密集する場合と、図25Bに示すように変形した隔壁がある距離をおいて散在している場合とでその部位の局部的な構造強度を比較すると、隔壁が密集しているほうがセルが押し潰され易く、構造強度が低下することは明らかである。そして、変形した隔壁が密集しているハニカム構造体についてアイソスタティック破壊試験を行うと、このような強度の低い箇所が破壊点となるので、アイソスタティック強度も低下する。前記数量割合が1.0%を超えると、確率的に曲がり変形を生じた隔壁の密集部が存在し易くなり、アイソスタティック強度が低下する。逆に、前記数量割合が1.0%以下である場合には、確率的に曲がり変形を生じた隔壁の密集部が存在しにくくなり、変形隔壁が散在し、局部的に見ても構造強度が向上するのでアイソスタティック強度が向上するものである。
【0021】次に、隔壁の変形の別の態様としての潰れ変形について説明する。この潰れ変形は、上述した隔壁の曲がり変形とは異なり、隣接する隔壁の交差角変化として生じる。すなわち、例えば四角形セルの場合に潰れ変形は、セル形状の菱形化として生じるものである。この場合、図26に示すように、ハニカム構造体における任意のセルについて、当該セルを構成する各単位隔壁の両側の交点内で少なくとも3コーナーに内接する最大内接円の中心を当該セルの格子点とするとき、相対する格子点を結ぶ各対角線において、最大長さLmaxと最小長さLminとの長さ比Lmax/Lminに着目して変形を定量化する。本発明においては、この長さ比を図27に示す四角形セルの場合には1以上1.73以下、図27Aおよび図27Bに示す六角形セルの場合には1.15以上1.93以下とする。図28および図29は、それぞれ、隔壁の壁厚を変えたときの四角形セルおよび六角形セルにおける対角線の長さ比Lmax/Lminとアイソスタティック強度との関係を示すグラフである。図28および図29における上側の曲線は壁厚の厚い隔壁についてのデータを、また、下側の曲線は壁厚の薄い隔壁についてのデータをそれぞれ示す。これらのグラフから、長さ比Lmax/Lminが四角形セルの場合に1.73以下、六角形セルの場合には1.93以下となるとアイソスタティック強度が急激に増加する傾向にあることが認められる。
【0022】また、隔壁の前述した曲がり変形および潰れ変形とは異なり、流路方向における隔壁の欠損により任意の横断面内で空隙を生じる場合にもハニカム構造体のアイソスタティック強度は低下する。図30Aおよび図30Bに欠損を流路方向に観察した形状を示す。隔壁の欠損は、格子点間の任意の位置で発生する場合もあれば格子点で発生する場合もあり、いずれの場合も欠損数は1と数える。本発明においては、流路方向における隔壁の欠損により任意の横断面内で空隙を生じた隔壁の総数を、好適にはハニカム構造体における全隔壁数の1.0%以下とする。また、最外周から内側に20セル入った全周領域内で流路方向における隔壁の欠損により任意の横断面内で空隙を生じた隔壁の総数を、好適にはハニカム構造体における全隔壁数の0.5%以下とする。図31および図32はそれぞれ、隔壁の壁厚を変えたときの欠損を生じた隔壁の総数とアイソスタティック強度との関係を示すグラフである。図31および図32における上側の曲線は壁厚の厚い隔壁についてのデータを、また、下側の曲線は壁厚の薄い隔壁についてのデータをそれぞれ示す。図31から、欠損を生じた隔壁総数がハニカム構造体における全隔壁数に対して占める割合が1.0%以下となると、アイソスタティック強度が急激に増加する傾向にあることが認められる。また、隔壁欠損の発生箇所との関係について検討すると、図32からは、最外周から内側に20セル入った全周領域内で流路方向における欠損を生じた隔壁の総数が、ハニカム構造体における全隔壁数に対して占める割合が0.5%以下となるとアイソスタティック強度が急激に増加する傾向にあることが認められる。
【0023】なお、前述したところにおいて図示したアイソスタティック強度のデータは全て四角形セル形状で外形がラウンド形状のハニカム構造体によるものであり、三角形および六角形セル形状のハニカム構造体についても同様の結果が得られ、外形がオーバル形状のハニカム構造体についても同様の結果が得られている。
【0024】
【発明の効果】以上詳述したところから明らかなとおり、本発明によれば、一方において、セラミックハニカム触媒における触媒担体としてのハニカム構造体における隔壁を、従来既知のものと対比して薄壁として構成することにより、開口率を高めて圧力損失を低減させると共に、ハニカム構造体を触媒担体として使用する場合に担体の熱容量を低下させるものであり、他方において隔壁の壁厚とハニカム構造体の開口率および/または嵩密度との間に前述した一定の条件を満足させ、特にハニカム構造体の製造段階で隔壁に生じ得る変形・欠損の度合をそれぞれ定量的に所定の範囲内に維持することにより、隔壁が薄いにも拘わらず、実用上満足すべき圧縮強度特性を実現することが可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例によるセラミックハニカム触媒の全体構成を示す斜視図である。
【図2】セラミックハニカム触媒の触媒担体における流路および隔壁を示す略図である。
【図3】本発明によるセラミックハニカム触媒の触媒担体における壁厚と開口率との関係を示すグラフである。
【図4】本発明によるセラミックハニカム触媒の触媒担体における壁厚と嵩密度との関係を示すグラフである。
【図5】開口率と周壁の変形程度との関係を示すグラフである。
【図6】Aは押出成形直後におけるセラミックハニカム構造体の搬送態様を示す説明図、Bは搬送途上における周壁の局部的な変形を示す説明図である。
【図7】セラミックハニカム構造体における開口率と隔壁間隔との関係を示すグラフである。
【図8】セラミックハニカム触媒の触媒担体における圧力損失特性の測定装置を示す線図である。
【図9】図8の測定装置を使用して測定した圧力損失特性を示すグラフである。
【図10】図8の測定装置を使用して測定した、空気流量を一定としたときの開口率変化に伴う圧力損失の変化を示すグラフである。
【図11】エンジン実機によるハニカム構造体の試験装置を示す線図である。
【図12】図11の測定装置を使用して測定したエンジン出力特性を示すグラフである。
【図13】Aは車両走行試験モードの代表例としてのLA-4モードに基づく車速パターンを示す線図、BはLA-4モードにおける初期505秒間での車速パターンを示す詳細図である。
【図14】LA-4モードにおける初期505秒間でのハイドロカーボン累積排出量を示すグラフである。
【図15】LA-4モードにおける初期505秒間でのハイドロカーボン排出量を示すグラフである。
【図16】ハイドロカーボン排出量と触媒熱容量との関係を示すグラフである。
【図17】各エミッション成分についての浄化効率と触媒熱容量との関係を示すグラフである。
【図18】LA-4モードにおける初期505秒間での触媒担体の温度変化を示すグラフである。
【図19】LA-4モードにおける初期505秒間でのエミッションの排出量を示すグラフである。
【図20】ハニカム構造体における隔壁の中心線の定義を示す略図である。
【図21】A,BおよびCは、ハニカム構造体における隔壁の曲がり変形の例と、その場合における変形量の説明図である。
【図22】隔壁の変形量(長さ比LB/LA)の最大値とアイソスタティック強度との関係を示すグラフである。
【図23】一つのハニカムの任意の横断面内における変形を生じた隔壁の発生割合を模式的に示すグラフである。
【図24】長さ比LB/LAが1.10を超え、かつ、1.15以下の隔壁の総数が全隔壁数に占める数量割合(%)とアイソスタティック強度との関係を示すグラフである。
【図25】AおよびBは曲がり変形を生じた隔壁の存在形態を示す説明図である。
【図26】四角形セルを有するハニカム構造体における隔壁の潰れ変形に伴う変形量の説明図である。
【図27】AおよびBは六角形セルを有するハニカム構造体における隔壁の潰れ変形前の状態および潰れ変形後の状態を示す説明図である。
【図28】隔壁の壁厚を変えたときの四角形セルにおける対角線の長さ比Lmax/Lminとアイソスタティック強度との関係を示すグラフである。
【図29】隔壁の壁厚を変えたときの六角形セルにおける対角線の長さ比Lmax/Lminとアイソスタティック強度との関係を示すグラフである。
【図30】四角形セルを有するハニカム構造体における隔壁の欠損状態を示す説明図である。
【図31】隔壁の壁厚を変えたときの欠損を生じた隔壁の総数とアイソスタティック強度との関係を示すグラフである。
【図32】隔壁の壁厚を変えたときの欠損を生じた隔壁の総数とアイソスタティック強度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10 セラミックハニカム構造体
11 周壁
12 隔壁
13 流路
 
訂正の要旨 訂正の要旨
本件訂正の要旨は、本件特許第2892259号発明の特許明細書を平成14年3月6日付け訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、次の訂正事項a乃至eのとおりに訂正するものである。
(1)特許請求の範囲の訂正について
訂正事項a:請求項1〜4及び8〜13を削除する。
訂正事項b:請求項5を、特許請求の範囲の減縮と、明りょうでない記載の釈明とを目的として、次のとおり訂正する。
(b-1)特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項5の冒頭に、「周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としてのセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具えるセラミックハニカム触媒であって、ハニカム構造体が次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.lmmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下であること」(特許公報第1欄第2〜15行参照)を加入し、(b-2)特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項5における上記(b-1)の加入事項中、「触媒担体としての」と「セラミックハニカム構造体」(特許公報第1欄第4行参照)との間に、「一体押出成形された」(特許公報第3欄第45〜46行参照)を加入し、
(b-3)明りようでない記載の釈明を目的として、請求項5における上記(b-1)の加入事項の直後に「、並びに、」を加入し、
(b-4)明りようでない記載の釈明を目的として、請求項5の末尾における「、請求項1又は3に記載の」(特許公報第3欄第17行参照)を削除し、
(b-5)明りょうでない記載の釈明を目的として、請求項5を新たな請求項1に改める。
訂正事項c:請求項6を、特許請求の範囲の減縮と、明りょうでない記載の釈明とを目的として、次のとおり訂正する。
(c-1)特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項6の冒頭に、周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としてのセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具えるセラミックハニカム触媒であって、ハニカム構造体が次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.1mmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下であること」(特許公報第1欄第2〜15行参照)を加入し、(c-2)特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項6における上記(c-1)の加入事項中、「触媒担体としての」と「セラミックハニカム構造体」(特許公報第1欄第4行参照)との間に、「一体押出成形された」(特許公報第3欄第45〜46行参照)を加入し、
(c-3)明りょうでない記載の釈明を目的として、請求項6における上記(c-1)の加入事項の直後に「、並びに、」を加入し、
(c-4)明りようでない記載の釈明を目的として、請求項6の末尾における「、請求項1又は3に記載の」(特許公報第3欄第24行参照)を削除し、
(c-5)明りようでない記載の釈明を目的として、請求項6を新たな請求項2に改める。
訂正事項d:請求項7を、特許請求の範囲の減縮と、明りょうでない記載の釈明とを目的として、次のとおり訂正する。
(d-1)特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項7の冒頭に、「周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としてのセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具えるセラミックハニカム触媒であって、ハニカム構造体が次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.1mmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下であること」(特許公報第1欄第2〜15行参照)を加入し、
(d-2)特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項7における上記(d-1)の加入事項中、「触媒担体としての」と「セラミックハニカム構造体」(特許公報第1欄第4行参照)との間に、「一体押出成形された」(特許公報第3欄第45〜46行参照)を加入し、
(d-3)明りようでない記載の釈明を目的として、請求項7における上記(d-1)の加入事項の直後に「、並びに、」を加入し、
(d-4)明りようでない記載の釈明を目的として、請求項7の末尾における「、請求項1又は3に記載の」(特許公報第3欄第32〜33行参照)を削除し、
(d-5)明りようでない記載の釈明を目的として、請求項7を新たな請求項3に改める。
(2)発明の詳細な説明の訂正について
訂正事項e:特許明細書の段落【0005】及び【0006】を、明りょうでない記載の釈明を目的として、以下のように訂正する。
「【0005】本発明によるセラミックハニカム触媒は、周壁およびその内側に配置された隔壁を含み、これら隔壁の相互間に多角形断面のセルを流路として有する触媒担体としての一体押出成形されたセラミックハニカム構造体と、該ハニカム構造体に担持された触媒成分とを具え、ハニカム構造体が、次式:
0.050≦t≦0.150
0.65≦OFA≦-0.58×t+0.98
但し、tは隔壁の壁厚〔mm〕
OFAはハニカム構造体の開口率
を満足し、周壁の壁厚が少なくとも0.1mmであり、50kgf/cm2以上のA軸圧縮強度と5kgf/cm2以上のB軸圧縮強度とを有し、前記触媒の熱容量が触媒容量1m3あたり450kJ/K以下である。
【0006】本発明によるセラミックハニカム触媒は、さらに、次の条件(1)ないし(3)(訂正請求書では、丸数字で表現されているが、本決定では、便宜上括弧数字で表現する。)の少なくとも一条件を満足するものである。
(1)ハニカム構造体の横断面内で任意の単位隔壁の両面に内接する円の中心を連ねた線を当該隔壁の中心線とするとき、中心線上の任意の2点間の中心線長さと該2点間の直線距離との長さ比が1以上1.10以下であること。
(2)ハニカム構造体の横断面内で任意の単位隔壁の両面に内接する円の中心を連ねた線を当該隔壁の中心線とするとき、中心線上の任意の2点間の中心線長さと該2点間の直線距離との長さ比が1.10を超え、かつ、1.15以下である隔壁の総数が、全隔壁数の1%以下であること。
(3)ハニカム構造体の任意のセルにおいて、当該セルを構成する各単位隔壁の両側の交点内で少なくとも3コーナーに内接する最大内接円の中心を当該セルの格子点とするとき、相対する格子点を結ぶ各対角線において、最大長さと最小長さとの長さ比が、四角形セルの場合に1以上1.73以下、六角形セルの場合には1.15以上1.93以下であること。」
異議決定日 2002-07-01 
出願番号 特願平5-188274
審決分類 P 1 651・ 113- YA (B01J)
P 1 651・ 121- YA (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野田 直人服部 智  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 山田 充
唐戸 光雄
登録日 1999-02-26 
登録番号 特許第2892259号(P2892259)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 セラミックハニカム触媒  
代理人 杉村 純子  
代理人 中谷 光夫  
代理人 杉村 興作  
代理人 梅本 政夫  
代理人 杉村 暁秀  
代理人 高見 和明  
代理人 杉村 純子  
代理人 青木 純雄  
代理人 冨田 典  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 中谷 光夫  
代理人 青木 純雄  
代理人 高見 和明  
代理人 徳永 博  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 杉村 暁秀  
代理人 徳永 博  
代理人 杉村 興作  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 梅本 政夫  
代理人 冨田 典  

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