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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09D |
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管理番号 | 1065856 |
異議申立番号 | 異議2000-73860 |
総通号数 | 35 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1993-06-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-10-12 |
確定日 | 2002-07-22 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3035047号「水性塗料組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3035047号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
I 手続の経緯 特許第3035047号の請求項1に係る発明についての出願は、平成3年12月5日に特許出願され、平成12年2月18日に特許権の設定登録がされ、その後、伊藤廣美より特許異議の申立てがされ、取消理由の通知がされ、その指定期間内である平成13年3月12日に訂正請求がされたものである。 II 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 ア 訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の記載を、「未反応モノマー含有量が0.05%以下であって、最低造膜温度が10℃以上35℃未満であるアクリルエマルション樹脂単体及び/又は可塑剤を含むアクリルエマルション樹脂と、ジエチレングルコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルから選択された少なくとも一種以上の造膜助剤とが含有されてなり且つ前記造膜助剤の含有量がアクリルエマルション樹脂固型分に対し20%以下とされてなることを特徴とする水性ツヤ有り塗料組成物。」と訂正する。 イ 訂正事項b 明細書の発明の名称並びに発明の詳細な説明の段落【0001】、【0007】、【0008】、【0016】、【0017】及び【0018】の「水性塗料組成物」を、「水性ツヤ有り塗料組成物」と訂正する。 ウ 訂正事項c 明細書の段落【0014】、【0020】及び【0022】の「ベンジンアルコール」を、「ベンジルアルコール」と訂正する。 エ 訂正事項d 明細書の段落【0020】及び【0022】の「ジエチレンングリコールジブチルエーテル」を「ジエチレングリコールジブチルエーテル」と、「ジプロピレングリコールモノブロピルエーテル」を「ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル」と、それぞれ訂正する。 オ 訂正事項e 明細書の段落【0023】の「プライマルAC507」を「プライマルAC-507」と、「ボンコートEC846」を「ボンコートEC-846」と、「プライマルC72」を「プライマルC-72」と、「ポリゾールAP2681」を「ポリゾールAP-2681」と、それぞれ訂正する。 カ 訂正事項f 明細書の段落【0024】の「セロサイズQP4400」を「セロサイズQP-4400H」と訂正する。 キ 訂正事項g 明細書の段落【0026】の「JIS K5560 4,6」を「JIS K5560 4.6」と、「JIS K5560 4,7」を「JIS K5560 4.7」と、「JIS K5560 4,9」を「JIS K5560 4.9」と、「JIS K5560 4,10」を「JIS K5560 4.10」と、「JIS K5560 4,11」を「JIS K5560 4.11」と、それぞれ訂正する。 ク 訂正事項h 明細書の段落【0027】の「塗料の増膜温度℃」を「塗料の造膜温度℃」と訂正する。 ケ 訂正事項i 明細書の段落【0005】の「ツヤ無し塗料」を「ツヤ消し塗料」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正事項aは、訂正前の水性塗料組成物をその下位概念である水性ツヤ有り塗料組成物と訂正するものであり、この根拠は、本件明細書の「水性ツヤ有り塗料の場合では、ツヤ無し塗料に比べ顔料分が少なく、且つ塗膜表面が平滑であるため、・・・塗膜に粘着感が出てきて、塗膜としての機能が失われてしまい実用できる塗料が得られないという課題があった。」(段落【0005】)、「業界では、無臭性であり、且つ塗膜に粘着感がなく鮮やかなツヤを発現できる水性ツヤ有り塗料の創出が望まれていた。」(段落【0006】)との記載に基づくものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、また、訂正事項bは、特許請求の範囲の訂正に伴い、明細書の発明の詳細な説明の記載を、上記訂正と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、さらに、訂正事項cないしhの訂正は、誤記の訂正を目的とする明細書の訂正に該当し、訂正事項iは、明細書中の技術用語を統一したもので明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当するものであり、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III 特許異議の申立てについての判断 1 本件発明 上記IIで示したように上記訂正が認められるから、本件請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】未反応モノマー含有量が0.05%以下であって、最低造膜温度が10℃以上35℃未満であるアクリルエマルション樹脂単体及び/又は可塑剤を含むアクリルエマルション樹脂と、ジエチレングルコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルから選択された少なくとも一種以上の造膜助剤とが含有されてなり且つ前記造膜助剤の含有量がアクリルエマルション樹脂固型分に対し20%以下とされてなることを特徴とする水性ツヤ有り塗料組成物。」 2 異議申立ての理由の概要 3 引用刊行物の記載 当審が通知した取消の理由に引用した刊行物1(甲第1号証)には「従来の水性塗料(エマルション塗料)に比べ、より一段と低臭化した無臭形エマルション塗料『クレナ』を開発した。」(84頁14、15行)、「エマルション塗料の臭気は、エマルション樹脂の特性の影響が最も大きい。エマルション樹脂の臭気は、モノマー組成、乳化剤、重合触媒、反応条件、後処理方法などによって変化する。・・・図2に、エマルション樹脂中に含まれるフリーモノマー量と臭気濃度の関係を示す。フリーモノマー量が多くなると、臭気濃度が大きくなる。即ち、臭いが強くなる。無臭形特殊アクリルエマルションは、高度な技術によりフリーモノマー量を少なくしている。塗料添加剤についても、性能と臭気を満足するよう厳選している。特に造膜助剤は塗料臭気に大きく影響する。」(85頁2〜13行)と記載されている。 同刊行物2(甲第2号証)には「不飽和エステルを原料としこれを乳化重合せしめて得られるエマルジョンに、次の一般式(式略)・・・で示される化合物又はその塩を添加すること、を特徴とする不飽和エステル原料を乳化重合せしめてなるエマルジョンの脱臭法。」(特許請求の範囲第1項)、「アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、その他不飽和エステルのモノマーは、一般的に、悪臭を有している。」(1頁右下欄7〜9行)と記載されている。 同刊行物3(甲第3号証)には「水分散型塗料に使用される造膜助剤・・・は、塗膜の最低造膜温度を低下させ、良好な連続塗膜を水分散型塗料から得るために必要とされています。」(3頁右欄2〜5行)、「低臭あるいは無臭化を目的とした造膜助剤の研究が行われています。」(3頁右欄14、15行)、「DOWANOL DPnB(注:ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル)は臭気が低く、TPnB(注:トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル)はほぼ無臭のグリコールエーテルです。」(4頁左欄3、4行)、「現在、水分散型塗料に使われているブチルカルビトールやテキサノールと比べて、DOWANOL DPnBは、3つの異なった樹脂系中すべて、より良好な造膜助剤性能を示しています。」(4頁左欄22〜26行)と記載され、図4、5及び6には異なる3つの樹脂の最低造膜温度曲線が図示されている。 同刊行物4(甲第4号証)には「プロピレングリコールエーテルは・・・樹脂、オイル、ワックス、脂肪、染料及びその他の有機化合物に対する匂いの少ない優れた溶剤です。」(1頁)と記載され、具体的にジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等が示されている。 同刊行物5(甲第5号証)には「これらの合成樹脂エマルションペイントはフラットタイプ(つや消し形)が主であった。最近の動向として、有機溶剤による公害、労働安全衛生の面から、水系の有光沢塗料が要求され、有光沢合成樹脂エマルションペイントとして開発され実用化されている。」(57頁左欄4〜9行)、「一般の合成樹脂エマルションペイントと有光沢合成樹脂エマルションペイントの差は、組成において大きな違いがあり、それは表3-34にみられるように、合成樹脂エマルションの粒子径、顔料の量、種類にあるが、最も大きな差としては使用している合成樹脂エマルションの量があげられる。」(57頁右欄下から3行〜58頁左欄4行)と記載され、その表3-34には合成樹脂エマルションペイントの組成差例が示されている。 同刊行物6(甲第6号証)には、グロスペイント用のエマルション樹脂の最低造膜温度(MFT)は17〜40℃の範囲にあることが示されている(1.塗料・建築用の表参照)。 IV 対比・判断 先ず、本件発明の水性ツヤ有り塗料組成物の技術的意義について、平成13年3月12日付け訂正明細書によると、本件明細書には「水性ツヤ有り塗料の場合では、ツヤ消し塗料に比べ顔料分が少なく、且つ塗膜表面が平滑であるため、上記したジブチルフタレートや2-エチルヘキシルフタレートなどの造膜助剤を使用すると、塗料の無臭化は実現できるものの、塗膜に粘着感が出てきて、塗膜としての機能が失われてしまい実用できる塗料が得られない」(2頁下から6〜2行)と記載され、また、刊行物5には「これらの合成樹脂エマルションペイントはフラットタイプ(つや消し形)が主であった。最近の動向として、有機溶剤による公害、労働安全衛生の面から、水系の有光沢塗料が要求され、有光沢合成樹脂エマルションペイントとして開発され実用化されている。」(57頁左欄4〜9行)、「一般の合成樹脂エマルションペイントと有光沢合成樹脂エマルションペイントの差は、組成において大きな違いがあり、それは表3-34にみられるように、合成樹脂エマルションの粒子径、顔料の量、種類にあるが、最も大きな差としては使用している合成樹脂エマルションの量があげられる。」(57頁右欄下から3行〜58頁左欄4行)と記載されている。 これらの記載によれば、水性ツヤ有り塗料と水性ツヤ消し塗料とは、組成において大きな違いがあり、両者はそれぞれ特有の技術的課題を有するものであると認められる。 そこで、本件発明と各刊行物に記載された発明とを対比する。 刊行物1には無臭形エマルション塗料「クレナ」が記載され、該「クレナ」の基体樹脂はアクリルエマルションであること、及びこれに造膜助剤を添加することが記載されているが、乙第1号証(塗料の研究、No.120、Sept.1991、p.39-47)によれば、該「クレナ」は水性ツヤ消し塗料であるから、刊行物1には、アクリルエマルション樹脂に、ジエチレングルコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルから選ばれる一種以上の造膜助剤(以下「特定造膜助剤」という。)を添加した水性ツヤ有り塗料組成物について記載されていない。 刊行物2には、アクリルエマルション中の残留モノマー量を少なくすることにより脱臭すること、これを塗料に使用することが記載されているが、該アクリルエマルション塗料が水性ツヤ有り塗料であるか否かについて特に記載されていない。 刊行物3には、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテルが、臭気が低く、しかもアルキッド樹脂、アクリル樹脂及びスチレン-アクリル樹脂の水分散型塗料において良好な造膜助剤性能を有することが記載され、また、刊行物4には、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル及びジプロピレングリコールモノプロピルエーテルが匂いが少ない溶剤であることが記載されているが、いずれにも、該造膜助剤を添加して水性ツヤ有り塗料とすることについて記載されていない。 刊行物5には、水性ツヤ有り塗料と水性ツヤ消し塗料とは、組成において大きな違いがあること、及びツヤ有り合成樹脂エマルションペイントの樹脂最低造膜温度が記載され、また、刊行物6にはツヤ有りペイントの樹脂最低造膜温度が記載されているが、いずれも造膜助剤について開示するところがない。 そして、本件発明は、アクリルエマルション樹脂に特定造膜助剤を添加して水性ツヤ有り塗料組成物とすることにより、本件明細書の実施例、比較例及び平成13年10月2日付け実験成績証明書(乙第3号証)からみて、顕著な効果を奏するものと認められる。 そうすると、刊行物1ないし6にはアクリルエマルション樹脂に特定造膜助剤を添加した水性ツヤ有り塗料組成物が具体的に開示されていないこと、本件発明は各刊行物記載の発明と比較して顕著な効果を奏するものであることに照らせば、本件発明は、刊行物1ないし6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 V むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 水性ツヤ有り塗料組成物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 未反応モノマー含有量が0.05%以下であって、最低造膜温度が10℃以上35℃未満であるアクリルエマルション樹脂単体及び/又は可塑剤を含むアクリルエマルション樹脂と、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルから選択された少なくとも一種以上の造膜助剤とが含有されてなり且つ前記造膜助剤の含有量がアクリルエマルション樹脂固型分に対し20%以下とされてなることを特徴とする水性ツヤ有り塗料組成物。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 この発明は水性ツヤ有り塗料組成物に係り、その目的は塗装時あるいは塗膜乾燥時に塗料臭を発散させることなく、無臭でその作業が行えるとともに仕上がり後の塗膜に粘着感がなく且つ鮮やかな光沢と優れた耐水性を与えることのできる水性ツヤ有り塗料組成物の提供にある。 【0002】 【発明の背景】 溶剤型塗料から水性塗料へと消費塗料タイプが移行され、塗装、乾燥時の不快な塗料臭気の発生も、水性塗料への移行に伴い非常に少なくなってきた。 しかしながら、水性塗料であっても、確かに溶剤型塗料に比べると塗料臭気の発生は抑制されているが、その塗装時や塗膜乾燥時には、不快な塗料臭気が発生するのが現状であった。 一方、地球環境問題が世界的に注目されるようになってきており、商品開発にあたっては、これまでの機能最優先の考え方から「地球環境保護」、「健康で快適な生活空間の確保」という考え方へと移行されている。 塗料業界においても、快適な環境作りへの要求が高まってきており、”人と地球にやさしい塗料”として、また、室内での塗装に好適に使用できる「無臭化塗料」の開発が行われている。 【0003】 【従来の技術】 水性塗料、すなわちアクリル系エマルション樹脂塗料の臭気原因は、樹脂中の残存未反応成分及び塗料中に含有される造膜助剤、防腐剤などの助剤であることが知られている。 そこで、近年では、これら塗料臭の原因である残存未反応成分や助剤についての研究が進められるようになり、塗装作業時に塗料臭の発散がない「無臭化塗料」が開発されてきている。 この「無臭化塗料」は、臭気原因の一つである残存未反応成分を通常のアクリル樹脂エマルションの1/10以下にし、且つ低臭レベルの助剤を選択して使用されてなる「無臭のツヤ消し塗料」であった。 【0004】 この「無臭ツヤ消し塗料」において使用されている低臭レベルの助剤としてはジブチルフタレートや2-エチルヘキシルフタレートなど公知の造膜助剤が選択して使用されている。 一般に、これらの造膜助剤は、樹脂の可塑剤として使用されるもので添加により塗膜に粘着感が発現され、水性のツヤ消し塗料の場合は、配合される顔料分が水性ツヤ有り塗料に比べ多いこと及び塗膜表面が比較的粗面のため見掛け上粘着の影響を受けないので水性ツヤ消し塗料には好適に使用され、この水性ツヤ消し塗料の無臭化には最適の造膜助剤であった。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、水性ツヤ有り塗料の場合では、ツヤ消し塗料に比べ顔料分が少なく、且つ塗膜表面が平滑であるため、上記したジブチルフタレートや2-エチルヘキシルフタレートなどの造膜助剤を使用すると、塗料の無臭化は実現できるものの、塗膜に粘着感が出てきて、塗膜としての機能が失われてしまい実用できる塗料が得られないという課題があった。 【0006】 業界では、無臭性であり、且つ塗膜に粘着感がなく鮮やかなツヤを発現できる水性ツヤ有り塗料の創出が望まれていた。 【0007】 【課題を解決するための手段】 この発明では未反応モノマー含有量が0.05%以下であって、最低造膜温度が10℃以上35℃未満であるアクリルエマルション樹脂単体及び/又は可塑剤を含むアクリルエマルション樹脂と、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルから選択された少なくとも一種以上の造膜助剤とが含有されてなり且つ前記造膜助剤の含有量がアクリルエマルション樹脂固型分に対し20%以下とされてなることを特徴とする水性ツヤ有り塗料組成物を提供することにより上記従来の課題を悉く解消する。 【0008】 【発明の構成】 以下、この発明に係る水性ツヤ有り塗料組成物の構成について詳述する。 この発明においては、未反応モノマー含有量が0.05%以下で、最低造膜温度が10℃以上35℃未満であるアクリルエマルション樹脂単体及び/又は可塑剤を含むエマルション樹脂が必須成分として使用される。 【0009】 この発明において、未反応モノマー含有量を0.05%以下とする理由は、未反応モノマー含有量が0.05%を越えると、モノマー臭から発生される不快臭を抑えることができず、無臭化塗料として好ましくないからである。 【0010】 また、アクリルエマルション樹脂及び/又は可塑剤を含むアクリルエマルション樹脂の最低造膜温度を10℃以上35℃未満と限定した理由は、最低造膜温度が10℃未満であると塗膜に粘着感が出てきて塗料として好ましくなく、一方、35℃以上になると塗膜がもろくなりすぎて何れの場合も好ましくないからである。 【0011】 アクリルエマルション樹脂単体としては、アクリル系共重合エマルション樹脂またはスチレン/アクリル系共重合エマルション樹脂などが好適に例示でき、その未反応モノマー含有量が0.05%以下で且つ最低造膜温度が10℃以上35℃未満の範囲内のものであれば、特に限定はされず、いずれのものも好適に使用できる。 【0012】 また、この発明においては、最低造膜温度が35℃以上のアクリルエマルション樹脂であっても可塑剤の添加により35℃未満とされたアクリルエマルション樹脂も好適に使用できる。 可塑剤としては、ジブチルフタレート、2-エチルヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレートなどが、アクリルエマルション樹脂の最低造膜温度を不快臭無しで35℃未満に下げることができるため好適に使用でき、これら可塑剤を添加して最低造膜温度を10℃以上35℃未満の範囲内としたアクリルエマルション樹脂も好適に使用できる。 【0013】 造膜助剤としては、特定の造膜助剤、すなわちジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルのうち少なくとも一種以上が選択して使用される。 これら造膜助剤は従来造膜助剤としては全く使用されていなかったが、不快臭を発散せず、円滑に造膜できるとともに、塗膜乾燥後に粘着感が発現されない無臭化塗料の造膜助剤として使用できることが見い出され、その結果無臭化塗料を創出したこの発明者らの鋭意研究による実験的知得に基づき初めて使用されるものである。 【0014】 すなわち、従来の水性ツヤ有り塗料において一般に使用されていたエチレングリコールモノブチルエーテル、ベンジルアルコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(テキサノールと以下略:商品名)、トルエン、キシレンなどの造膜助剤では、造膜するまで添加しても粘着感は出ないが、少量使用するだけで不快臭がきつくなり、無臭化塗料としては使用できず、造膜助剤として、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルのうち少なくとも一種以上を選択して使用することによって、無臭性で且つ塗膜に粘着感がなく鮮やかなツヤを発現できる水性ツヤ有り塗料とされるのである。 【0015】 このような造膜助剤の配合は、アクリルエマルション樹脂固型分に対し20%以下とされる。 この理由は、造膜助剤の配合が20%を超えると臭気が強くなり、無臭化塗料として好ましくないからである。 【0016】 以上のような必須成分を含むこの発明に係る無臭性水性ツヤ有り塗料組成物においては、上記した以外に顔料、分散剤、消泡剤、増粘剤、防腐剤、凍結防止剤など任意の添加剤も好適に使用できる。 【0017】 【発明の効果】 以上詳述した如く、この発明は未反応モノマー含有量が0.05%以下であって、最低造膜温度が10℃以上35℃未満であるアクリルエマルション樹脂単体及び/又は可塑剤を含むアクリルエマルション樹脂と、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルから選択された少なくとも一種以上の造膜助剤とが含有されてなり且つ前記造膜助剤の含有量がアクリルエマルション樹脂固型分に対し20%以下とされてなることを特徴とする水性ツヤ有り塗料組成物であるから、塗装作業時の不快感を解消し、病院やホテルなどの室内を塗装する際に病人、客を不快にさせることなく、且つ乾燥時即その場を使用できるとともに、仕上がり後の塗膜に粘着感がなく且つ鮮やかな光沢と優れた耐水性を与えることのできる優れた水性ツヤ有り塗料組成物となる効果を奏する。 【0018】 【試験例】 以下、この発明に係る水性ツヤ有り塗料組成物の効果を試験例により一層明確にする。 【0019】 【実施例】 (実施例1〜10及び比較例1〜11) 実施例1〜10の水性塗料組成物を表1の処方に従って調製した。 【0020】 【表1】 ![]() 【0021】 比較例1〜11の水性塗料組成物を表2の処方に従って調整した。 【0022】 【表2】 ![]() 【0023】 尚、樹脂I〜VIは以下の製造方法によって得た。 (樹脂I) 最低造膜温度14℃のアクリル系共重合エマルション樹脂「プライマルAC-507」(商品名;ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製)を水蒸気蒸留装置にて水蒸気を吹き込みながら、減圧して未反応モノマー含有量を0.05%以下としたもの。固型分46.5%。 (樹脂II) 最低造膜温度28℃のスチレン/アクリル系共重合エマルション樹脂「ボンコートEC-846」(商品名;大日本インキ化学工業(株)製)を前記樹脂Iと同様の方法で未反応モノマー含有量を0.05%以下としたもの。固型分50.0%。 (樹脂III) 最低造膜温度39℃のアクリル系重合エマルション樹脂「プライマルC-72」(商品名;ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製)を水蒸気蒸留装置にて水蒸気を吹き込みながら、減圧して未反応モノマー含有量を0.05%以下とした後、可塑剤(ジブチルフタレート)を2%添加し、最低造膜温度を29℃に調製したもの。固型分47.0%。 (樹脂IV) 最低造膜温度40℃のスチレン/アクリル系重合エマルション「ポリゾールAP-2681」(商品名;昭和高分子(株)製)を前記樹脂IIIと同様の方法で未反応モノマー含有量を0.05%以下とした後、可塑剤(ジブチルフタレート)を2%添加し、最低造膜温度を30℃に調製したもの。固型分52.0%。 (樹脂V) 最低造膜温度14℃のアクリル系共重合エマルション樹脂「プライマルAC-507」(商品名;ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製)。未反応モノマー含有量1.0%。固型分46.5%。 (樹脂VI) 最低造膜温度40℃のスチレン/アクリル系共重合エマルション樹脂「ポリゾールAP-2681」(商品名;昭和高分子(株)製)。未反応モノマー含有量1.0%。固型分52.0%。 【0024】 また、分散剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤としては以下のものを使用した。 A分散剤:ポリカルボン酸ナトリウム塩 商品名)オロタン731SD(ローム・アンド・ハース(株)製) B増粘剤:ヒドロキシエチルセルロース系増粘剤 商品名)セロサイズQP-4400H(ユニオンカーバイド(株)製) C消泡剤:鉱物油とノニオン界面活性剤の配合物 商品名)SNデフォーマー370(サンノプコ(株)製) D防腐剤:1,2-ベンゾイソチアゾロン 商品名)ベストサイドFX(大日本インキ化学工業(株)製) 【0025】 (試験例) 前記実施例1〜10、比較例1〜11で得た水性塗料組成物について、それぞれ以下に示す▲1▼〜▲8▼の各項目について試験した。 この結果を表3及び表4に示す。 【0026】 ▲1▼臭気(ニオイセンサー値) 新コスモス電気(株)ニオイセンサーXP-329にて測定して行なった。 100mlマヨネーズビンに実施例1〜10、比較例1〜11の塗料各50mlを入れ、液面より10mmの部分にて測定(20℃)した。 ニオイセンサー値 0〜500 :○ わずかに樹脂臭と溶剤臭を感じるが不快ではない 500<〜1000:× 不快臭を感じる 1000< :×× 不快臭を強く感じる (参考:水のニオイセンサー値は0) ▲2▼塗料の造膜温度℃ 熱勾配試験機((株)安田精機製作所製)にて測定した。 ▲3▼乾燥時間 JIS K 5660 4.6に従って行い、半硬化乾燥(20℃)にて測定した。 ▲4▼塗膜の外観 JIS K 5660 4.7に従って行い、塗膜の外観が正常であるものは○、穴、たるみ、つやむら、色むらのいずれかがあるものは×とした。 ▲5▼60度鏡面光沢度 JIS K 5660 4.9に従って行なった。 ▲6▼耐水性 JIS K 5660 4.10に従って行い、塗膜に異常がないものは○、しわ、ふくれ、われ、はがれのいずれかがあるときは×とした。 ▲7▼耐アルカリ性 JIS K 5660 4.11に従って行い、塗膜に異常がないものは○、しわ、ふくれ、われ、はがれ、穴、軟化、溶出があるときは×とした。 ▲8▼不粘着性 ガラス板にすきま0.1mmのB型フィルムアプリケーターで、実施例及び比較例の塗料を塗布し、室温で7日間乾燥後、ガーゼ5枚を重ね、ガーゼの中央に500gのおもりを置き24時間放置した後ガーゼを塗面から引き離し、塗面とガーゼとの粘着の程度と塗面についた布目の跡とを調べた。粘着も、布目の跡もないものは○、いずれかがあるものは×とした。 【0027】 【表3】 ![]() 【表4】 ![]() 【0028】 前記試験例の結果から明らかな如く、樹脂中の未反応モノマー含有量が0.05%を越えるもの(比較例1〜3、8〜11)については、不快臭が強く感じられ、また、樹脂中の未反応モノマー含有量を0.05%以下としても、造膜助剤にエチレングリコールモノブチルエーテルやベンジルアルコール、テキサノールを使用した場合(比較例4〜6)には不快臭が感じられるということが判る。 また、樹脂中の未反応モノマー含有量を0.05%以下とし、造膜助剤に従来の「水性ツヤ消し塗料」において使用されていたジブチルフタレートを使用する(比較例7)と、不快臭は感じられなくなるが、耐水性や耐アルカリ性、不粘着性が極めて悪くなるということが判る。 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 1 訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の記載を、「未反応モノマー含有量が0.05%以下であって、最低造膜温度が10℃以上35℃未満であるアクリルエマルジョン樹脂単体及び/又は可塑剤を含むアクリルエマルジョン樹脂と、ジエチレングルコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルから選択された少なくとも一種以上の造膜助剤とが含有されてなり且つ前記造膜助剤の含有量がアクリルエマルジョン樹脂固型分に対し20%以下とされてなることを特徴とする水性ツヤ有り塗料組成物」と訂正する。 2 訂正事項b 明細書の発明の名称並びに発明の詳細な説明の段落【0001】、【0007】、【0008】、【0016】、【0017】及び【0018】の「水性塗料組成物」を、「水性ツヤ有り塗料組成物」と訂正する。 3 訂正事項c 明細書の段落【0014】、【0020】及び【0022】の「ベンジンアルコール」を、「ベンジルアルコール」と訂正する。 4 訂正事項d 明細書の段落【0020】及び【0022】の「ジエチレンングリコールジブチルエーテル」を「ジエチレングリコールジブチルエーテル」と、「ジプロピレングリコールモノブロピルエーテル」を「ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル」と、それぞれ訂正する。 5 訂正事項e 明細書の段落【0023】の「プライマルAC507」を「プライマルAC-507」と、「ボンコートEC846」を「ボンコートEC-846」と、「プライマルC72」を「プライマルC-72」と、「ポリゾールAP2681」を「ポリゾールAP-2681」と、それぞれ訂正する。 6 訂正事項f 明細書の段落【0024】の「セロサイズQP4400」を「セロサイズQP-4400H」と訂正する。 7 訂正事項g 明細書の段落【0026】の「JIS K5560 4,6」を「JIS K5560 4.6」と、「JIS K5560 4,7」を「JIS K5560 4.7」と、「JIS K5560 4,9」を「JIS K5560 4.9」と、「JIS K5560 4,10」を「JIS K5560 4.10」と、「JIS K5560 4,11」を「JIS K5560 4.11」と、それぞれ訂正する。 8 訂正事項h 明細書の段落【0027】の「塗料の増膜温度℃」を「塗料の造膜温度℃」と訂正する。 9 訂正事項i 明細書の段落【0005】の「ツヤ無し塗料」を「ツヤ消し塗料」と訂正する。 |
異議決定日 | 2002-07-01 |
出願番号 | 特願平3-349134 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(C09D)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 近藤 政克 |
特許庁審判長 |
花田 吉秋 |
特許庁審判官 |
鈴木 紀子 井上 彌一 |
登録日 | 2000-02-18 |
登録番号 | 特許第3035047号(P3035047) |
権利者 | 株式会社アサヒペン |
発明の名称 | 水性ツヤ有り塗料組成物 |
代理人 | 清原 義博 |