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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C04B
管理番号 1065859
異議申立番号 異議2001-71044  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-06-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-04-03 
確定日 2002-07-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3095490号「セラミックス-金属接合体」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3095490号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3095490号は、特願平3-316998号として出願され、平成12年8月4日にその特許権の設定登録がなされたものである。
これに対し、平成13年4月2日に京セラ株式会社(以下、「申立人A」という)及び平成13年4月3日に電気化学工業株式会社(以下、「申立人B」という)から特許異議の申立てがなされ、平成13年10月4日(発送日:平成13年10月16日)に取消の理由が通知され、その指定期間内である平成13年12月17日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、即ち、下記の訂正事項a〜kに訂正しようとするものである。
(1)訂正事項a
請求項1の「ろう材層を介して、前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材」(本件特許公報第1欄第4〜6行)を「ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材」と訂正する。
(2)訂正事項b
請求項1の「セラミックスー金属接合体において、前記窒化物系セラミック部材側の接合界面」(本件特許公報第1欄第6〜8行)を「セラミックスー金属接合体において、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面」と訂正する。
(3)訂正事項c
請求項1の「前記活性金属が偏析した層」(本件特許公報第1欄第9行)を「前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層」と訂正する。
(4)訂正事項d
請求項2の「請求項1記載のセラミックスー金属接合体において」(本件特許公報第1欄第11〜12行)を「窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備するセラミックスー金属接合体において」と訂正する。
(5)訂正事項e
請求項2の「前記活性金属の偏析層の厚さは、4〜7μmの範囲である」(本件特許公報第1欄第13〜14行)を「前記窒化物系セラミック部材は窒化アルミニウム焼結体からなると共に、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さが4〜7μmの範囲の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在する」と訂正する。
(6)訂正事項f
請求項3の「請求項2記載のセラミックスー金属接合体において」(本件特許公報第1欄第15行〜第2欄第1行)を「窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備するセラミックスー金属接合体において」と訂正する。
(7)訂正事項g
請求項3の「前記活性金属の偏析層は、前記活性金属の窒化物から主として構成されている」(本件特許公報第2欄第2〜3行)を「前記窒化物系セラミック部材は窒化アルミニウム焼結体からなると共に、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さが4〜7μmの範囲の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在しており、前記活性金属の偏析層は前記活性金属とアルミニウムと窒素との化合物を構成要素として含む」と訂正する。
(8)訂正事項h
請求項4の「請求項1記載のセラミックスー金属接合体において」(本件特許公報第2欄第5〜6行)を「窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備し、半導体素子の搭載用基板として用いられるセラミックスー金属接合体において」と訂正する。
(9)訂正事項i
請求項4の「前記窒化物系セラミック部材は、窒化アルミニウム焼結体からなり、かつ前記活性金属の偏析層は、前記活性金属とアルミニウムと窒素との化合物を構成要素として含む」(本件特許公報第2欄第7〜10行)を「前記窒化物系セラミック部材は窒化アルミニウム焼結体からなると共に、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さ7μm以下の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在しており、前記活性金属の偏析層は前記活性金属とアルミニウムと窒素との化合物を構成要素として含む」と訂正する。
(10)訂正事項j
段落【0008】(訂正請求書の(3)訂正の趣旨、[2]訂正事項bの段落【0011】は【0008】の誤記)の「ろう材層を介して、前記窒化物系セラミック部材に接合された・・・特徴としている。」(本件特許公報第4欄第18〜22行)を「ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備するセラミックスー金属接合体において、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さ7μm以下の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在することを特徴としている。」と訂正する。
(11)訂正事項k
段落【0010】(訂正請求書の(3)訂正の趣旨、[2]訂正事項bの段落【0009】は【0010】の誤記)の「また、金属部材は、用途に応じて各種の金属材料から適宜選択すればよく、例えば構造材料としては、鋼材、耐熱合金、超硬合金等が例示され、また電子部品材料としては、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金、W、Mo等が例示される。」(本件特許公報第4欄第38〜42行)を「また、金属部材は、用途に応じて各種の金属材料から適宜選択されるものであるが、電子部品材料としてはCu、Cu合金が用いられる。」

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)上記訂正事項aは、セラミック部材と金属部材をろう材層を介して接合する手段を「活性金属法」に限定するものであるから、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。また、「活性金属法」は、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という)の段落【0004】に詳述されているところから、上記訂正事項aは、本件明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)上記訂正事項bは、セラミック部材と接合する金属部材を「CuまたはCu合金」に限定するものであるから、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。また、「CuまたはCu合金」は、本件明細書の段落【0010】に上記の「金属部材」として記載されているところから、上記訂正事項bは、本件明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)上記訂正事項cは、「活性金属が偏析した層」を「活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層」に訂正するものであり、偏析の態様を「窒化物から主として構成されている」と限定するものであるから、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。また、「活性金属の偏析層」については、本件明細書の段落【0012】に「偏析層は基本的には活性金属の窒化物により主として構成されたものである」と記載され、また、段落【0026】に「このTiの偏析層は、TiNにより主に構成されていることをX線回折によって確認した。」と記載されているところから、上記訂正事項cは、本件明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)上記訂正事項dは、訂正前の請求項2において、請求項1を引用する形式で表記していたものを、上記訂正事項a〜cを含む訂正後の請求項1の内容を独立形式で表記したものであるから、上記訂正事項dは、上記訂正事項a〜cと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、かつ、本件明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)上記訂正事項eのうち、「窒化物系セラミック部材」から「窒化アルミニウム焼結体」への訂正は、窒化物を窒化アルミニウムに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、また、かかる訂正事項は、段落【0009】及び実施例1(段落【0026】)に記載されているところから、本件明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。また、「前記金属部材」から「CuまたはCu合金」への訂正は、上記訂正事項bと同様に、さらに、「前記活性金属の偏析層」から「前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層」への訂正は、上記訂正事項cと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、かつ、本件明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)上記訂正事項fは、訂正前の請求項3において、請求項2を引用する形式で表記していたものを、上記訂正事項a〜cを含む訂正後の請求項2の内容を独立形式で表記したものであるから、上記訂正事項fは、上記訂正事項a〜cと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、かつ、本件明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7)上記訂正事項gのうち、「窒化物系セラミック部材」から「窒化アルミニウム焼結体」への訂正は、上記訂正事項eと同様に、「金属部材」から「CuまたはCu合金」への訂正は、上記訂正事項bと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、かつ、本件明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、「前記活性金属の窒化物から主として構成されている」から「前記活性金属とアルミニウムと窒素との化合物を構成要素として含む」への訂正は、偏析層を主に構成する金属元素として前記活性金属にアルミニウムを加えて限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、かかる訂正は、本件明細書の段落【0020】及び実施例2(段落【0030】)に記載されているところから、本件明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(8)上記訂正事項hのうち、「セラミックスー金属接合体」の用途を「半導体素子の搭載用基板」に限定する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、かかる訂正は、本件明細書の段落【0006】〜【0007】に記載されているところから、本件明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。そして、上記の点を除いた訂正は、上記訂正事項dと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、かつ、本件明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(9)上記訂正事項iのうち、「前記金属部材」から「CuまたはCu合金」への訂正は、上記訂正事項bと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、また、今回の訂正で請求項4に追加された「前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さ7μm以下の前記活性金属の・・・偏析層が連続して存在しており」との訂正は、訂正前の請求項1を引用することにより実質的に包含されていたものであり、その中で、「前記活性金属の偏析した層」から「前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層」への訂正は、上記訂正事項cと同様に、特許請求の範囲を減縮するものであって、これらの訂正は、いずれも本件明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(10)上記訂正事項j及びkは、上記訂正事項a及びbと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立ての概要
申立人Aは、証拠方法として、甲第1号証(「ジャーナル・オブ・マテリアルズ・リサーチ」第5巻第7号、第1520〜1529頁(1990))、甲第2号証(「溶接学会全国大会講演概要」第42集(昭和63年3月18日発行)第124〜125頁)及び甲第3号証(特開平2-149478号公報)を提出して、(1)本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、(2)本件発明1は、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、(3)本件発明4は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、(4)本件発明4は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨主張している。
また、申立人Bは、証拠方法として、甲第1号証(特開平2-149478号公報)、甲第2号証(甲第1号証の実験証明書)、甲第3号証(特開昭64-65859号公報)、甲第4号証(甲第3号証の実験証明書)、甲第5号証(「セラミック・エンジニアリング・アンド・サイエンス・プロシーディングズ」10[11-12]、第1631〜1654頁(1989))、甲第6号証(「日本金属学会昭和59年度春期大会講演概要」第76頁(1984))及び甲第7号証(「日本金属学会誌」第53巻第11号、第1153〜1160頁(1989))を提出し、(1)本件発明1〜4は、甲第1号証、甲第3号証又は甲第5号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、(2)本件発明1〜4は、いずれも甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものでありから、上記各発明に係る特許は同法第113条第1項第2号により取り消されるべきものであり、(3)本件公報第4頁の表1に記載されるCuの組成は本件特許請求の範囲で数値限されている範囲に含まれず、前記した数値の臨界的意義が不明であるから、本件請求項1〜4に係る特許は、改正前の特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号により取り消されるべきものである旨主張している。

4.特許法第36条違反についての判断
申立人Bが指摘する本件公報第4頁表1に記載される成分比は、段落【0027】に示されるように「各セラミックス-金属接合体の接合界面において、Tiの偏析層を中心とした10μm×10μmの面積の成分比をEPMAにより分析した」ものであり、ろう材自体の組成比を示したものではないから、本件特許請求の範囲と矛盾しない。また、本件特許請求の範囲に記載される「Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層」については、本件明細書の段落【0016】に「ろう材の主体となるAg-Cu合金は、基本的には共晶組成を満足するものとするが、全ろう材成分中のCu量が15重量%〜35重量%程度であれば同様な効果を得ることができる。」(公報第3頁5欄50行〜6欄3行)と明確に説明されており、本件明細書に申立人Bが主張する記載不備は存在しない。

5.特許法第29条違反についての判断
5-1.本件の請求項1〜4に係る発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1〜4に係る発明(以下、「本件発明1〜4」という)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次に示すとおりのものである。
「【請求項1】窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備するセラミックス-金属接合体において、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さ7μm以下の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在することを特徴とするセラミックス-金属接合体。
【請求項2】窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備するセラミックス-金属接合体において、前記窒化物系セラミック部材は窒化アルミニウム焼結体からなると共に、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さが4〜7μmの範囲の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在することを特徴とするセラミックス-金属接合体。
【請求項3】窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備するセラミックス-金属接合体において、前記窒化物系セラミック部材は窒化アルミニウム焼結体からなると共に、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さが4〜7μmの範囲の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在しており、前記活性金属の偏析層は、前記活性金属とアルミニウムと窒素との化合物を構成要素として含むことを特徴とするセラミックス-金属接合体。
【請求項4】窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備し、半導体素子の搭載用基板として用いられるセラミックス-金属接合体において、前記窒化物系セラミック部材は窒化アルミニウム焼結体からなると共に、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さ7μm以下の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在しており、前記活性金属の偏析層は、前記活性金属とアルミニウムと窒素との化合物を構成要素として含むことを特徴とするセラミックス-金属接合体。」

5-2.刊行物記載の発明
(1)取消理由通知に引用した刊行物等の記載
当審が通知した取消しの理由に引用された刊行物1〜4及び参考資料1
には次の記載がある。
a.刊行物1(「セラミック・エンジニアリング・アンド・サイエンスプロシーディングズ」10[11-12]第1631〜1654頁(1989):申立人B提出の甲第5号証)には、次の記載がある。
a-1.「窒化物セラミックス(Si3N4、wt%Y2O3、Si2N2O、AlN)の活性金属ろう付けについて、純金属のCu、Sn、Al、Ag-Cu共晶合金、及び市販のCu-Ag-Ti系をベースとしたろう付け合金を用いて研究をした。静滴実験を、2.0・10-4Paの真空下,900〜1150℃で60分間行った。界面における反応生成物の順序は、SEM/EDS、電子顕微鏡、及びX線回折分析により決定した。Cu-Ag共晶[クシル(Cusil)]及びSnは、窒化物セラミックスのいずれとも反応しなかった。したがって、濡れ又は化学結合は生起しなかった。Tiを添加したシクルは、すべての窒化物セラミックスと化学反応して、濡れ又は化学結合を引き起こした。」(第1631頁の上段第1〜9行(要約)参照)
a-2.「・インクシル(Incusil)62.2wt%Ag,27wt%Cu,9.2wt%In,1.25wt%Ti
・クシルABA(Cusil ABA)65wt%Ag,33.5wt%Cu,1.5wt%Ti
・チクシル(Ticusil)68.8wt%Ag,26.7wt%Cu,4.5wt%Ti」(第1634頁表1参照)
a-3.図7(第1645頁)には、NC132Si3N4上のインクシルABAの横断面のEDS写真(900℃で60分間反応)が示され、連続したTi偏析層が観察される。
a-4.図8(第1646頁)には、NC132Si3N4上のチクシルの横断面のEDS写真(900℃で60分間反応)が示され、連続したTi偏析層が観察される。
a-5.図9(第1647頁)には、NC132Si3N4界面上のクシルABAの電子顕微鏡写真と元素組成分布グラフ(900℃で60分間反応)で示され、連続したTi偏析層が観察される。
a-6.図10(第1648頁)には、NC132Si3N4界面上のチクシルの電子顕微鏡写真と元素組成分布グラフ(900℃で60分間反応)が示され、約5μmの連続したTi偏析層が観察される。
a-7.図11(A)(第1649頁)には、AlN上のクシルABAの横断面のEDS写真(900℃で60分間反応)が示され、連続したTi偏析層が観察される。
a-8.図12(A)(第1651頁)には、AlN上のインクシルのEDS写真(900℃で60分間反応)が示され、連続したTi偏析層が観察される。
b.刊行物2(「ジャーナル・オブ・マテリアルズ・リサーチ」第5巻第7号、1990年7月第1520〜1529頁:申立人A提出の甲第1号証)には次の記載がある。
b-1.「Ag-Cu-Ti箔を用いた活性金属ろう付け法による窒化アルミニウムの接合を透過電子顕微鏡による断面で調べた。AlNとろう材合金との反応により、界面に連続したTiN(窒化チタン)と(Ti,Cu,Al)6N(η相)の層が生成する。」(第1520頁の上段の第1〜4行(要約)参照)
b-2.「[II実験の手順]AlN(Keramont社製:25mm×25mm×1mm厚)の正方形片が、名目組成が63.06重量%のAgと35.26重量%のCuと1.68重量%のTiからなる市販のろう材合金(GTE Products社, Wesgo部供給のCusil ABA)を用いて、積層体に接合された。結合は、不活性アルゴン雰囲気中、1.38MPa(200psi)の圧力下、900 ℃で行われた。積層体は900℃で5、10および30分保持された。」(第1520頁下段右欄第16行〜第1521頁左欄第2行参照)
b-3.「[B.層の発達と形態]熱処理の間に、前述したようにTiは速やかにセラミックス-金属界面に偏析し、反応して中間生成物層を形成した。反応帯におけるこの独特の層の広がりは、試料が900℃で保持された時間の長さに依存していた。5分間熱処理されたAlN-Cusil ABA試料において界面に沿ったほとんどの場所では、TiN反応層の厚みは約0.5μmであった[図1(a)参照]。熱処理時間を10分に延ばすと、後述したように界面はかなり不規則になるが、TiNは平均厚みが約1μmにまで成長した(図4)。900℃で30分保持した試料では、調査した範囲にわたって1から3μmの範囲の厚みを持つ、TiN相の継続的な成長を示した。全ての場合において、TiN層は連続しているようにみえた。」(第1524頁第1〜17行参照)
b-4.「[図6]AlNとろう材合金の反応界面の相及び形態についての模式図。・・・TiN相とそれに隣接する(Ti,Cu,Al)6Nは共に連続しており、TiNは結晶界面でAlN基板中に侵入していることが分かる。」(第1525頁左欄図6の欄外説明参照)
c.刊行物3(特開平2-149478号公報:申立人A提出の甲第3号証、申立人B提出の甲第1号証)は、「銅を接合した窒化アルミニウム基板の製法」について記載したものであり、実施例1〜4には次の記載がある。
c-1.「本発明は、銅を接合した窒化アルミニウム基板の製法、とくにパワー半導体モジュール基板等に適した熱放散性のよい基板の製法に関する。」(第1頁右欄6〜8行)
c-2.「銀粉末72重量%、銅粉末28重量%からなる混合粉末100重量部に対し、水素化チタン粉末を各々5、10,15および20重量部添加後、これらを十分混合し、テレピネオールとPMMAを加えてペーストを調整した。このペーストを50mm×50mm×0.635mmtの窒化アルミニウム焼結体の両面にスクリーン印刷した後乾燥した。その際、片面はほぼ全面に、もう一方の面は半導体素子搭載のため島状に印刷した。このペースト塗布位置に、同形状の銅板を接触配置後、真空中850℃で2hr熱処理後冷却速度を5℃/分として冷却し窒化アルミニウム焼結体と銅板の接合体を製造した。得られた接合体の銅板をはがし、剥離した状態を観察することにより接合性を調べた。その結果を表1に示す。」(第3頁右下欄第9行〜第4頁左上欄第4行参照)
c-3.「表1には、水素化チタンを10重量部添加した実施例2の接合体の剥離状態の観察結果として、「若干焼結体の深いところで剥離した」と記載されている。」(第4頁右上欄参照)
d.刊行物4(特開昭64-65859号公報:申立人B提出の甲第3号証)は、「回路基板の製造方法」について記載したものであり、特許請求の範囲には次の記載がある。
d-1.「重量%で(以下、同じ)、Cu及びNiのうちの少なくとも1種を10〜60%、Ti,Zr及びNbのうちの少なくとも1種を0.5〜10%含み、残部が実質的にAgからなる組成を有し・・・有機溶媒中に分散させてなる接着用ペーストをセラミック基板又は金属板の表面に印刷塗布した後・・・非酸化性雰囲気中又は真空中で820〜920℃に加熱焼成することを特徴とする回路基板の製造方法。」
e.参考資料1は、申立人Bが甲第2号証として提出した実験成績書であり、甲第1号証(刊行物3)の実施例2の追試結果を示したと称するものであり、次の記載がある。
e-1.「(2)実験の詳細・・・窒化アルミニウム焼結体・・・銅板・・・ろう材ペースト・・・銀粉末72重量%、銅粉末28重量%からなる混合粉末100重量部に対し、水素化チタン粉末10重量部添加して十分に混合して・・・調整されたろう材ペーストを用いた。・・・窒化アルミニウム焼結体の両面に9mg/cm2(乾燥後)となる量をスクリーン印刷により塗布し、105℃で30分間乾燥した。・・・ろう材ペーストの塗布両面に銅板を接触配置し、真空中(1×10-3Pa)、850℃で2時間(昇温パターンは図1のとおり)熱処理した後、冷却速度5℃/分で冷却し、窒化アルミニウム焼結体と銅板の接合体を製造した。・・・得られた接合体を切断し、その断面を研磨後、日本電子社製SEM/EDS・・にて観察した。III.実験結果 接合状態はいずれも良好であった。別紙写真に示され、また特開平2-149478号公報第2頁左下欄第2〜4行に記載されているとおり、窒化アルミニウム焼結体側から窒化チタン層(Tiを含む層)、銅と銀の混合物層、銅板の順となつていた。Tiを含む層は連続しており、その厚みは2〜3μm程度であり、7μmの厚みを有する部分は見あたらなかった。」(第1頁下から6行〜第3頁第2行)
(2)申立人Aの提出にかかる、上記以外の証拠の記載
f.甲第2号証(「溶接学会全国大会講演概要、第42集」(昭和63年3月18日発行)第124〜125頁)
f-1.「I 緒言・・・本発表では、72wt%Ag-28wt%Cuの合金粉末中にTi粉末を1〜20wt%添加した活性金属ろう(以下、Ti-Ag-Cuろうと記す)とAlNセラミックスとの接合現象について2〜3の検討結果を報告する。」(第124頁第5〜13行)
f-2.「2 実験方法・・・AlNセラミックス表面にTi添加量の異なるペースト状のTi-Cu-Agろうを厚さ100μmに印刷後3×10-5Torrの真空中で780〜1000℃、10sec〜30min間加熱してメタライズ層を形成した。メタライズ後、XMA(X線マイクロアナライザー)、TEM(透過型電子顕微鏡)、X線回折法によりAlNセラミックスとTi-Ag-Cuろうとの接合界面近傍の特にTiの濃度、反応生成物等について調査した。」(第124頁第14〜24行)
f-3.「3 実験結果と考察・・・X線回折及び電子線回折の結果、接合界面近傍のTi凝集層はTiN、Cu2Ti等の化合物からなっていること、また、TEMによる観察の結果、TiNはAlNの界面に生成し、その幅は約0.1μmであることがわかった。」(第124頁第25〜37行)
(3)申立人Bの提出にかかる、上記以外の証拠の記載
g.甲第4号証(甲第3号証の実施例11の追試結果として提出した実験成績書)
g-1.「(2)実験の詳細・・・窒化アルミニウム焼結体・・・銅板・・・ペースト・・・銀粉末72重量%、銅粉末20重量%、チタン粉末8重量%から・・・調製されたペーストを用いた。・・・窒化アルミニウム焼結体の両面にペーストを30μm厚みにスクリーン印刷し・・・窒素雰囲気中、ピーク温度600℃×8分間で・・・脱脂した。・・・ペーストの塗布両面に銅板を接触配置し、真空中(1×10-4Pa)、850℃で15分間(昇温パターンは図1のとおり)熱処理し・・・窒化アルミニウム焼結体と銅板の接合体を製造した。・・・得られた接合体を切断し、その断面を研磨後、日本電子社製SEM/EDS・・にて観察した。III.実験結果 接合状態はいずれも良好であった。別紙写真に示されるとおり、窒化アルミニウム焼結体側からTiを含む層、銅と銀の混合物層、銅板の順になつていた。Tiを含む層は連続しており、その厚みは1μm程度であり、7μmの厚みを有する部分は見あたらなかった。」(第1頁下から4行〜第3頁末行)
h.甲第6号証(「日本金属学会昭和59年度春期大会講演概要」第76頁(1984.4))は、「銅と窒化アルミニウムの接合」について記載したものであり、Ag-Cu-Tiの箔、蒸着膜等のロー材を用いて、窒化アルミニウムと銅を接合する活性金属法が記載されているが、具体的な実験結果として提示された写真は、Ti-Cuロー材を用いた場合に限られている。
i.甲第7号証(「日本金属学会誌」第53巻第11号第1153〜1160頁(1989))
は、「活性金属法による窒化物セラミックスと金属の接合機構」について記載したものであり、具体的には次の記載がある。
i-1.「Fig.5に、接合の良好なTi-Cu,Ti-Ag-Cu系ろう材を用いて表面にTiNを形成したAlN・・・表面のSEM像を示す。いずれもセラミックスと100μmのCuの中間に・・・3μmのTiおよび10μmのAg箔を挿入して1153k、360s加熱したのち金属部分を濃硝酸にて除去したものである。」(第1156頁左欄第3〜9行)
i-2.「V.総括・・・(1)良好な接合性を示した、Cu,Ag-Cu系活性金属ろう材接合材では、セラミックス表面にTiNが生成した。・・・(6)活性金属法による、窒化物セラミックスの接合機構として、セラミックス表面でのTiNの生成およびTiNのアンカー効果による機械的結合の寄与が推察される」(第1160頁左欄第1行〜末行)

5-3.当審の判断
(1)本件発明1について
上記刊行物3の記載c-2(特に、実施例2)には、「銀粉末72重量%、銅粉末28重量%からなる混合粉末100重量部に対し、水素化チタン粉末を10重量部添加して調製したペーストを、窒化アルミニウム焼結体の表面に厚さ0.635mmスクリーン印刷し乾燥した後、そのペストの塗布位置に、同形状の銅板を接触配置した後、真空中850℃で2時間熱処理して接合体を製造する方法」(以下、「刊行物3の方法」という)が記載されている。
上記刊行物3に記載される方法は、水素化チタンという活性金属を用いる金属とセラミック材料の接合法であり、本件特許明細書(段落【0004】)でいう「活性金属法」に該当する。
そして、該方法で製造された接合体において、「窒化アルミニウム」、「ペースト」、「銅板」が、本件発明1における「窒化物系セラミック」、「ろう材」、「金属部材」に相当するから、刊行物3に記載される接合体を本件発明1に則して表現すると、刊行物3には、「窒化物系セラミック部材と、Tiからなる活性金属を含み、Cuを28wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された、Cuからなる金属部材とを具備するセラミックス-金属接合体」が記載されているといえる。
本件発明1と刊行物3記載の発明とを対比すると、上記の構成で一致し、本件発明1では、「金属部材と窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さ7μm以下の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在すること」を構成要件としているのに対し、刊行物3には、そのような構成について記載されていない点で相違する。
ところで、本件発明1における「窒化物系セラミック部材側の接合界面」とは、本件明細書段落【0017】の「ろう材ペーストを金属部材側に塗布したのでは、塗布したペースト層の表面に、接合工程までの間に微量な酸素が付着し、この酸素が活性金属が窒化物系セラミックス部材側に移行するのを妨げる。」との記載からみて、少なくとも窒化物系セラミック部材の接合界面内側を含むものと解される。
一方、刊行物3の実施例2の追試結果を示したと称する参考資料1の写真をみると、上記参考資料1の「III.実験結果」に記載のように、窒化アルミニウム側から、窒化チタン層(窒素の層とチタンの層の形状がほぼ一致するところから、この層は主に窒化チタンで構成されていると云える)、銅と銀の混合層、銅板の順になっており、前記窒化チタン層は厚さ2〜3μm程度の連続層を形成し、厚さが7μmを超える部分はないものといえるが、該窒化チタン層の下面、特に右側の凹部の形状と窒化アルミニウム層の凹部の形状が一致していることから、該窒化チタン層は、窒化アルミニウム層と別層で存在しているものと解され、窒化アルミニウム、即ち窒化物系セラミック部材の接合界面内側を含むように存在しているものと解することはできない。
したがって、参考資料1の追試結果を採用しても、上記刊行物3に記載される接合体が、金属部材と窒化物系セラミック部材側の接合界面に、本件発明1で規定される「偏析層」を有すると認定することはできない。
さらに、刊行物1及び刊行物2には、「連続した窒化チタン偏析層」(記載a-3〜記載a-7、及び記載b-1、記載b-3〜記載b-4)が記載されるものの、活性金属法により窒化物セラミック部材にCuまたはCu合金からなる金属部材を接合した接合材は記載されておらず、刊行物4には、活性金属法により窒化物セラミック部材にCuまたはCu合金からなる金属部材を接合した接合材が記載され、ろう材としてCuを10〜60%のものを使用すること(記載d-1)も記載されているが、本件発明1で規定するCu含有量が15〜35%のものを使用した実施例は記載されておらず、活性金属の偏析層についても記載がない。
その他、申立人Aが提出した甲第2号証には、「連続した窒化チタン偏析層」(記載f-3)が記載されるものの、活性金属法により窒化物セラミック部材にCuまたはCu合金からなる金属部材を接合した接合材は記載されておらず、申立人Bが提出した甲第4号証には、刊行物4の追試実験の結果が開示されているが、添付の写真からでは、チタンの偏析層が連続しているか否か不明であり、甲第6号証及び甲第7号証には、活性金属法により窒化物セラミック部材にCuまたはCu合金からなる金属部材を接合した接合材、及び該接合材にチタンの偏析層が存在することが記載されているが、偏析層の厚み、ろう材中のCu含有量について不明(甲第6号証の写真1ではTiN層が約7μmとなっているが、ろう材としてTi-Cuが用いられている)である。
以上検討したように、本件発明1の構成は、上記の取消理由通知に引用した各刊行物及び申立人A及びBが提出したその他の甲各号証に断片的に記載されているにとどまり、該各刊行物及び甲各号証のいずれにも、セラミックス-金属接合体において、前記偏析層が窒化物セラミック部材側の接合界面に存在し、その厚さを「7μm以下」で形成したものは記載されていない。
したがって、本件発明1は、これら刊行物1〜4及び甲各号証に記載された発明とすることはできないばかりか、これら各刊行物及び甲各号証の記載に基づいて当業者が容易に想到することができたものでもない。
そして、本件発明1は上記の構成を採用することにより、ろう材層自体の構成により、接合強度だけでなく耐冷熱サイクル特性を向上させることができる(本件明細書段落【0009】参照)という、上記各刊行物及び甲各号証には記載のない作用効果を奏するものである。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に係るセラミックス-金属接合体において、窒化セラミック部材を窒化アルミニウム焼結体からなるものと規定すると共に、「前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層」の厚さの下限値を「4μm」と規定したものである。
そして、刊行物1〜4及びその他の各甲号証には、窒化セラミック部材として窒化アルミニウムが例示されているものの、セラミックス-金属接合体において、前記偏析層が窒化物セラミック部材側の接合界面に存在し、その厚さを「7μm以下」、特に「4〜7μm」で形成したものは記載されていないことは上述したとおりである。
したがって、本件発明2は、上記刊行物1〜4及びその他の各甲号証に記載された発明とすることができないばかりか、これら各刊行物及び甲各号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明2に係るセラミックス-金属接合体において、「前記活性金属の偏析層は前記活性金属とアルミニウムと窒素との化合物を構成要素として含む」ことを限定したものである。
したがって、本件発明2で検討したのと同様な理由で、本件発明3は上記刊行物1〜4及び各甲号証に記載された発明とすることができないばかりか、これら各刊行物及び甲各号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
因みに、刊行物3の実施例2の追試結果を示した参考資料1の添付写真をみると、チタンと窒素の存在領域は重なるものの、アルミニウムの存在領域は重ならないので、この追試結果では活性金属であるチタンとアルミニウムと窒素よりなる化合物が偏析しているとは云えないことは上述したとおりである。
(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1に、「半導体素子の搭載用基板として用いられる」セラミックス-金属接合体であること、窒化セラミック部材が窒化アルミニウム焼結体からなるものであること、及び前記活性金属の偏析層は前記活性金属とアルミニウムと窒素との化合物を構成要素として含むことを限定した発明である。
したがって、本件発明1で検討したのと同様な理由で、本件発明4は上記刊行物1〜4及びその他の各甲号証に記された発明とすることができないばかりか、これら各刊行物及び甲各号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

6.むすび
以上のとおり、本件発明1ないし4についての特許は、特許異議申立の理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
そして、他に、本件発明1ないし4について特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
セラミックス-金属接合体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備するセラミックス-金属接合体において、
前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さ7μm以下の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在することを特徴とするセラミックス-金属接合体。
【請求項2】 窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備するセラミックス-金属接合体において、
前記窒化物系セラミック部材は窒化アルミニウム焼結体からなると共に、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さが4〜7μmの範囲の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在することを特徴とするセラミックス-金属接合体。
【請求項3】 窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備するセラミックス-金属接合体において、
前記窒化物系セラミック部材は窒化アルミニウム焼結体からなると共に、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さが4〜7μmの範囲の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在しており、前記活性金属の偏析層は前記活性金属とアルミニウムと窒素との化合物を構成要素として含むことを特徴とするセラミックス-金属接合体。
【請求項4】 窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備し、半導体素子の搭載用基板として用いられるセラミックス-金属接合体において、
前記窒化物系セラミック部材は窒化アルミニウム焼結体からなると共に、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さ7μm以下の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在しており、前記活性金属の偏析層は前記活性金属とアルミニウムと窒素との化合物を構成要素として含むことを特徴とするセラミックス-金属接合体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、セラミックス部材と金属部材との接合体に係り、特に耐冷熱サイクル特性に優れたセラミックス-金属接合体に関する。
【0002】
【従来の技術】
窒化物系セラミックス材料は、一般に、軽量でかつ高硬度を有する、電気絶縁性に優れる、耐熱性や耐食性に優れる等という特徴を有しており、これらの特徴を生かして構造用材料や電気部品用材料等として利用されている。ところで、例えば窒化物系セラミックス材料を構造材として使用する場合、セラミックス材料は本来脆性材料であるため、金属材料と接合して用いることが一般的である。一方、窒化物系セラミックス材料の高電気絶縁性という特性を利用して、電子部品の搭載基板等として使用する際にも、電気回路の形成等を目的として、金属と接合することが行われている。このように、窒化物系セラミックス材料の実用化を考えた場合、金属材料との接合が重要な技術となる。
【0003】
上述したような窒化物系セラミックス部材と金属部材との接合方法としては、従来から、MoやW等の高融点金属を用いる方法や、IVa族元素やVa族元素のような活性金属を用いる方法等が知られており、中でも、高強度、高封着性、高信頼性等が得られることから、活性金属法が多用されている。
【0004】
上記活性金属法は、Ti、Zr、Nb等の金属元素が窒化物系セラミックス材料に対して濡れやすく、反応しやすいことを利用した接合法であり、具体的には活性金属を添加したろう材を用いたろう付け法や、窒化物系セラミックス部材と金属部材との間に活性金属の箔や粉体を介在させ、加熱接合する方法(固相拡散接合)等として利用されている。また、被接合体となる金属部材として、活性金属を直接使用することも行われている。一般的に、取扱い性や処理のしやすさ等から、CuとAgとの共晶ろう材(Ag:72wt%)にTi等の活性金属を添加し、これをセラミックス部材と金属部材との間に介在させ、適当な温度で熱処理して接合する方法が多用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、窒化物系セラミックス部材と金属部材との接合部品には、高接合強度が求められる一方、セラミックス材料の熱膨張率は金属材料のそれに比べて小さいため、この熱膨張差に起因する欠点の発生を抑制することが強く求められている。すなわち、熱膨張率が大きく異なるセラミックス材料と金属材料とを接合すると、接合後の冷却過程で熱膨張差に起因する残留応力が生じ、外部応力との相乗によって接合強度が大幅に低下したり、また接合後の冷却過程や冷熱サイクルの付加によって応力の最大点からクラックが発生したり、さらにはセラミックス材料が破壊される等の問題を招いてしまう。
【0006】
このような点に対して、上述した従来の活性金属ろう材を用いた接合方法では、比較的接合強度が高い接合体は得られるものの、冷熱サイクル等の付加に対して十分な信頼性を有する接合体を再現性よく得るまでには至っていないのが現状である。例えば、窒化物系セラミックス部材上に銅板等を活性金属ろう材を用いて接合したものを、半導体素子等の搭載用基板として用いているが、近年の半導体素子の高集積化や大電力化によって、半導体素子からの放熱量は飛躍的に増大しており、搭載基板側への熱伝達量が増加していることから、冷熱サイクル等に対する信頼性の向上が強く望まれている。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、高接合強度を満足すると共に、冷熱サイクル等の付加に対して高い信頼性が得られるセラミックス-金属接合体を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明のセラミックス-金属接合体は、窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備するセラミックス-金属接合体において、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さ7μm以下の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在することを特徴としている。
【0009】
本発明に用いられる窒化物系セラミックス部材としては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、サイアロン等が例示される。また、窒化物系セラミックス部材自体の材料特性は、特に限定されるものではないが、特に破壊靭性値KICが4.5MPa・m1/2以上のものを用いることが好ましい。本発明のセラミックス-金属接合体は、ろう材層自体の構成によって、耐冷熱サイクル特性や接合強度の向上を図ったものであるが、さらに破壊靭性値KICが4.5MPa・m1/2以上の窒化物系セラミックス部材を用いることにより、より一層耐冷熱サイクル特性の向上を図ることができる。すなわち、窒化物系セラミックス部材の破壊靭性値KICが4.5MPa・m1/2以上であると、冷熱サイクル等が接合体に付加された際に、窒化物系セラミックス部材にクラックが生じることが抑制される。
【0010】
また、金属部材は、用途に応じて各種の金属材料から適宜選択されるものであるが、電子部品材料としてはCu、Cu合金が用いられる。
【0011】
本発明のセラミックス-金属接合体は、上述したような窒化物系セラミックス部材と金属部材とを、Ag-Cuの共晶組成(72wt%Ag-28wt%Cu)もしくはその近傍の組成を主とし、これにTi、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を適量配合したAg-Cu系ろう材により接合したものである。
【0012】
そして、本発明のセラミックス-金属接合体においては、上記ろう材中の活性金属を窒化物系セラミックス部材側の接合界面に偏析させており、この偏析層は基本的には活性金属の窒化物により主として構成されたものである。この活性金属の偏析層は、接合界面に連続して形成されていることが重要であり、これにより接合強度や耐冷熱サイクル特性の向上を図ることができる。
【0013】
上記活性金属の偏析層は、上述したようにろう材中の活性金属とセラミックス部材中の窒素との反応による窒化物により主に構成されたものである。このような反応層を窒化物系セラミックス部材側の接合界面に連続して形成することによって、安定して高接合強度が得られると共に、活性金属の偏析層が応力緩和層として機能するため、冷熱サイクル付加等によって窒化物系セラミックス部材にクラックが生じることを抑制することができる。このクラックの抑制は、前述したように、破壊靭性値KICが4.5MPa・m1/2以上の窒化物系セラミックス部材を用いることによって一層効果的となる。
【0014】
ただし、TiNのような活性金属の窒化物自体は脆性材料であり、あまり層厚が厚くなると逆にクラックの起点となる恐れがあるため、活性金属の偏析層の厚さは7μm以下とする。また、層厚があまり薄いと一様に形成することが困難となるため、4μm以上とすることが好ましい。よって、活性金属の偏析層の厚さは、4μm〜7μmの範囲とすることが好ましい。なお、偏析層は接合界面に一様に連続して形成されていればその機能を果たすため、均一であればその層厚は4μm未満でもよい。
【0015】
また、上述したように活性金属の窒化物は本来脆性材料であるため、上記偏析層を主に構成する化合物を、セラミックス部材の他方の構成材料をさらに含む複合化合物とすることによって、より一層耐冷熱サイクル特性を向上させることができる。例えば、セラミックス部材が窒化アルミニウム焼結体であるとすると、活性金属-アルミニウム-窒素の三元化合物とすることが好ましい。このように、例えばアルミニウムを含有させることによって化合物の延性が大きくり、偏析層がクラックの起点となることを防止することができる。
【0016】
本発明に用いられるAg-Cu系ろう材は、前述したように、Ag-Cuの共晶組成もしくはその近傍の組成を主とし、これにTi、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも2種の活性金属を適量配合したものである。上記活性金属は、熱処理温度(接合温度)で活性化し、窒化物系セラミックス部材と反応して例えば窒化物となり、接合強度や耐冷熱サイクル特性の向上に寄与するものである。ただし、あまり多量に添加すると、接合強度は増大するものの、冷熱サイクルが付加された際にクラックの発生原因となる恐れがあるため、10重量%未満とすることが好ましい。一方、活性金属の配合量があまり少ないと、十分な接合強度が得られないため、1重量%以上とすることが好ましい。また、ろう材の主体となるAg-Cu合金は、基本的には共晶組成を満足するものとするが、全ろう材成分中のCu量が15重量%〜35重量%程度であれば同様な効果を得ることができる。
【0017】
本発明のセラミックス-金属接合体は、例えば以下のようにして製造される。まず、窒化物系セラミックス部材と金属部材とを用意し、上述したような活性金属を含むAg-Cu系ろう材をペースト化したものを窒化物系セラミックス部材側に塗布する。ここで、本発明で規定するように、活性金属が偏析した層を窒化物系セラミックス部材側の接合界面に一様に形成するには、ろう材ペーストを窒化物系セラミックス部材側に塗布することが重要である。ろう材ペーストを金属部材側に塗布したのでは、塗布したペースト層の表面に、接合工程までの間に微量な酸素が付着し、この酸素が活性金属が窒化物系セラミックス部材側に移行することを妨げる。よって、活性金属が偏析した層を一様に形成することが困難となる。従来法ではろう材ペーストを金属部材側に塗布することが一般的であった。なお、上述したAg-Cu系ろう材の使用形態としては、Ag、Cuおよび活性金属を含むペーストとして使用することが好ましいが、必ずしも箔の積層体のような状態で使用することを除外するものではない。
【0018】
次に、ろう材ペーストを塗布した窒化物系セラミックス部材と金属部材とを積層し、真空中または窒素雰囲気のような不活性雰囲気にて、Ag-Cu共晶が形成される温度で熱処理し、この共晶液相および活性金属とセラミックス部材との反応等を利用して、窒化物系セラミックス部材と金属部材とを接合する。
【0019】
この際、一般的には接合温度は800℃〜900℃程度で、接合時間(加熱時間)は5分〜15分程度であるが、活性金属を窒化物系セラミックス部材に一様に偏析させるためには、830℃〜870℃程度で、5分〜10分程度とすることが好ましい。さらに、活性金属を偏析させる条件としては、真空度を10-4Torr以下に保持すること等が挙げられる。
【0020】
また、偏析層を構成する化合物を、例えば活性金属-アルミニウム-窒素等の複合化合物とするためには、高温でかつ比較的短時間で処理するか、あるいは中温度以上で長時間処理することが好ましい。これらのように、接合時の反応性を高めることによって、活性金属と窒素とが反応した後、それにアルミニウム等が固溶しやすくなり、複合化合物が形成されやすくなる。
【0021】
【実施例】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0022】
実施例1
まず、窒化物系セラミックス部材として厚さ0.8mmtの板状の窒化アルミニウム焼結体、および金属部材として厚さ0.3mmtの銅板(無酸素銅)を用意した。一方、重量比でAg:Cu:Ti=70.6:27.4:2.0のろう材を用意し、このろう材に樹脂バインダおよび分散媒を適量加え、十分に混合して接合用ペーストを作製した。
【0023】
次に、図1(a)に示すように、窒化アルミニウム焼結体1の一方の主面1aに、上記した接合用ペースト2をスクリーン印刷し、乾燥させた後、接合用ペースト2の塗布層上に銅板3を積層、配置した。この後、上記積層物に対して1×10-4Torr以下の真空中にて、850℃×10分(昇温速度:10℃/分、降温:炉冷)の温度プロファイルで熱処理を施し、図1(b)に示すように、窒化アルミニウム焼結体1と銅板3とをろう材層4を介して接合し、目的とするセラミックス-金属接合体5を得た。
【0024】
比較例1
上記実施例1において、接合用ペーストを銅板側に塗布する以外は、同一条件でセラミックス-金属接合体を作製した。
【0025】
比較例2
重量比でAg:Cu:Ti=27.4:70.6:2.0のろう材を用意し、実施例1と同様にして接合用ペーストを作製した。そして、この接合用ペーストを銅板側に塗布する以外は、実施例1と同一条件でセラミックス-金属接合体を作製した。
【0026】
上記実施例1および比較例1、2で作製した各セラミックス-金属接合体(窒化アルミニウム-銅)の界面分析をEPMAにより行った。図2に実施例1のEPMAによる分析結果を模式的に示す。また、図3に比較例2のEPMAによる分析結果を模式的に示す。図2から明らかなように、実施例1によるセラミックス-金属接合体では、窒化アルミニウム側の接合界面にTiが偏析した層が連続して形成されていることが分かる。このTiの偏析層の厚さは、約4.5μmであった。また、このTiの偏析層は、TiNにより主に構成されていることをX線回折によって確認した。一方、比較例2によるセラミックス-金属接合体では、図3に示すように、窒化アルミニウム側の接合界面にTiが偏析した層が形成されていたが、このTiの偏析層はとぎれている部分が存在し、またその厚さは約3μmであった。なお、比較例1によるセラミックス-金属接合体は、Tiの偏析層の厚さが約1.5μmとさらに薄く、形成状態も不連続であった。
【0027】
また、各セラミックス-金属接合体の接合界面において、Tiの偏析層を中心とした10μm×10μmの面積の成分比をEPMAにより分析したところ、表1に示すような結果が得られた。
【0028】
【表1】

表1に示す分析結果も、実施例1によるセラミックス-金属接合体では、窒化アルミニウム側界面にTiが偏析していることを裏付けている。
【0029】
次に、上記実施例1および比較例1、2で作製した各セラミックス-金属接合体の特性を以下のようにして評価した。まず、各セラミックス-金属接合体に対して冷熱サイクル試験(TCT)を施した。TCTは-40℃×30分+RT×10分+125℃×30分+RT×10分を1サイクルとした。TCT後の評価方法としては、銅板のピール強度の測定とクラック有無を確認することにより行った。TCTサイクル数とピール強度およびクラック発生との関係を図4に示す。図4から明らかなように、実施例1によるセラミックス-金属接合体は、初期の接合強度が極めて大きいと共に、冷熱サイクルが印加された状態においても強度低下が少なく、さらにTCTによるクラックも100サイクルまでは認められなかった。これに対して、比較例1および比較例2によるセラミックス-金属接合体は、それぞれ初期の接合強度が低く、かつクラックも50サイクル程度で発生しており、その後の強度低下も大きいものであった。
【0030】
実施例2
実施例1における接合温度条件を、850℃×10分から850℃×30分と変更する以外は、実施例1と同一条件でセラミックス-金属接合体を作製した。
【0031】
このセラミックス-金属接合体の界面分析をEPMAにより行ったところ、窒化アルミニウム側の接合界面にTiが偏析した層が連続的に形成されている(層厚は実施例1と同等)と共に、このTiの偏析層にAlが拡散しており、Ti-Al-N化合物が形成されていることを確認した。なお、実施例1によるセラミックス-金属接合体においても、Tiの偏析層にAlが拡散していることが確認されたが、量的には実施例2によるセラミックス-金属接合体の方が多かった。
【0032】
この実施例2によるセラミックス-金属接合体のTCTによるクラック発生の有無を確認したところ、300サイクルまでクラックの発生は認められず、さらに耐冷熱サイクル特性に優れることが判明した。なお、ピール強度の測定値は実施例1とほぼ同程度であった。
【0033】
実施例3〜5
破壊靭性値KICがそれぞれ4.7MPa・m1/2、4.1MPa・m1/2、4.0MPa・m1/2の3種類の窒化アルミニウム焼結体を用意し、これらを各々用いて実施例1と同一条件で、それぞれセラミックス-金属接合体(実施例3〜5)を作製した。
【0034】
これら3種類のセラミックス-金属接合体のピール強度を測定すると共に、それぞれ実施例1と同一条件のTCTを100サイクル施し、それぞれ窒化アルミニウム焼結体のファインクラックの有無を以下に示す方法によって確認した。まず、銅板およびろう材層をエッチング除去し、窒化アルミニウム焼結体表面のファインクラックの有無を、蛍光浸透探傷(PT)検査で判定することによって行った。
【0035】
その結果、ピール強度の初期の測定値はいずれのセラミックス-金属接合体も実施例1とほぼ同程度であったが、実施例3(AlN:KIC=4.7MPa・m1/2)のセラミックス-金属接合体ではTCT100サイクル後においてもクラックは認められなかったのに対し、他のセラミックス-金属接合体(実施例4、5)では微細なクラックが発生していた。
【0036】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のセラミックス-金属接合体によれば、窒化物系セラミックス部材側の接合界面に、反応層である活性金属の偏析層が適度な層厚で連続して形成されているため、安定して高接合強度が得られると共に、冷熱サイクルの付加等によって窒化物系セラミックス部材にクラックが生じることを抑制することができる。よって、高接合強度を有すると共に、冷熱サイクルに対して優れた信頼性を示すセラミックス-金属接合体を、再現性よく提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例におけるセラミックス-金属接合体の製造工程を示す図である。
【図2】 本発明の一実施例によるセラミックス-金属接合体の接合界面のEPMA分析結果を模式的に示す図である。
【図3】 本発明との比較として示したセラミックス-金属接合体の接合界面のEPMA分析結果を模式的に示す図である。
【図4】 本発明の一実施例によるセラミックス-金属接合体のTCTサイクル数とピール強度との関係を従来例と比較して示す図である。
【符号の説明】
1……窒化アルミニウム焼結体
2……接合用ペースト
3……銅板
4……ろう材層
5……セラミックス-金属接合体
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.特許第3095490号の明細書中特許請求の範囲請求項1の「ろう材層を介して、前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材」(本件特許公報第1欄第4〜6行)とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材」と訂正する。
2.特許第3095490号の明細書中特許請求の範囲請求項1の「セラミックスー金属接合体において、前記窒化物系セラミック部材側の接合界面」(本件特許公報第1欄第6〜8行)とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「セラミックスー金属接合体において、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面」と訂正する。
3.特許第3095490号の明細書中特許請求の範囲請求項1の「前記活性金属が偏析した層」(本件特許公報第1欄第9行)を「前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層」と訂正する。
4.特許第3095490号の明細書中特許請求の範囲請求項2の「請求項1記載のセラミックスー金属接合体において」(本件特許公報第1欄第11〜12行)とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備するセラミックスー金属接合体において」と訂正する。
5.特許第3095490号の明細書中特許請求の範囲請求項2の「前記活性金属の偏析層の厚さは、4〜7μmの範囲である」(本件特許公報第1欄第13〜14行)とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「前記窒化物系セラミック部材は窒化アルミニウム焼結体からなると共に、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さが4〜7μmの範囲の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在する」と訂正する。
6.特許第3095490号の明細書中特許請求の範囲請求項3の「請求項2記載のセラミックスー金属接合体において」(本件特許公報第1欄第15行〜第2欄第1行)とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備するセラミックスー金属接合体において」と訂正する。
7.特許第3095490号の明細書中特許請求の範囲請求項3の「前記活性金属の偏析層は、前記活性金属の窒化物から主として構成されている」(本件特許公報第2欄第2〜3行)とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「前記窒化物系セラミック部材は窒化アルミニウム焼結体からなると共に、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さが4〜7μmの範囲の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在しており、前記活性金属の偏析層は前記活性金属とアルミニウムと窒素との化合物を構成要素として含む」と訂正する。
8.特許第3095490号の明細書中特許請求の範囲請求項4の「請求項1記載のセラミックスー金属接合体において」(本件特許公報第2欄第5〜6行)とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を含み、Cuを15〜35wt%含むAg-Cu系ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備し、半導体素子の搭載用基板として用いられるセラミックスー金属接合体において」と訂正する。
9.特許第3095490号の明細書中特許請求の範囲請求項4の「前記窒化物系セラミック部材は、窒化アルミニウム焼結体からなり、かつ前記活性金属の偏析層は、前記活性金属とアルミニウムと窒素との化合物を構成要素として含む」(本件特許公報第2欄第7〜10行)とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「前記窒化物系セラミック部材は窒化アルミニウム焼結体からなると共に、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さ7μm以下の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在しており、前記活性金属の偏析層は前記活性金属とアルミニウムと窒素との化合物を構成要素として含む」と訂正する。
10.特許第3095490号の明細書中段落【0008】の「ろう材層を介して、前記窒化物系セラミック部材に接合された・・・特徴としている。」(本件特許公報第4欄第18〜22行)とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として「ろう材層を介して、活性金属法により前記窒化物系セラミック部材に接合された金属部材とを具備するセラミックスー金属接合体において、前記金属部材はCuまたはCu合金からなり、かつ前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、厚さ7μm以下の前記活性金属の窒化物から主として構成されている偏析層が連続して存在することを特徴としている。」と訂正する。
11.特許第3095490号の明細書中段落【0010】の「また、金属部材は、用途に応じて各種の金属材料から適宜選択すればよく、例えば構造材料としては、鋼材、耐熱合金、超硬合金等が例示され、また電子部品材料としては、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金、W、Mo等が例示される。」(本件特許公報第4欄第38〜42行)とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として「また、金属部材は、用途に応じて各種の金属材料から適宜選択されるものであるが、電子部品材料としてはCu、Cu合金が用いられる。」と訂正する。
異議決定日 2002-06-27 
出願番号 特願平3-316998
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C04B)
P 1 651・ 113- YA (C04B)
P 1 651・ 531- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近野 光知  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 西村 和美
唐戸 光雄
登録日 2000-08-04 
登録番号 特許第3095490号(P3095490)
権利者 株式会社東芝
発明の名称 セラミックス-金属接合体  
代理人 須山 佐一  
代理人 須山 佐一  
代理人 井上 昭  

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