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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
管理番号 1065866
異議申立番号 異議2001-71406  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-07-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-05-14 
確定日 2002-07-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3108863号「残存生コンクリートの処理方法および処理装置」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3108863号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.本件の手続の経緯
本件特許第3108863号は、平成8年12月24日に出願し、平成12年9月14日に設定登録されたものである。
これに対し、平成13年5月14日に株式会社エヌエムビーから特許異議の申立があり、その後、平成13年11月5日付で取消理由通知(平成13年11月16日発送)がなされ、その指定期間内である平成14年1月15日に特許異議意見書及び訂正請求書が提出されたものである。

2.訂正の適否
2-1.訂正事項
平成14年1月15日付訂正請求における訂正事項は次のとおりである。
(a)本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の「を備えたことを特徴とする」を、「を備えると共に、上記スラッジ水の濃度調整が、上記スラッジ水が濃厚な場合は上記スラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記第1工程を繰り返し実行することによってなされ、上記第1工程の実行中、上記原水槽内の水を常時一定速度で撹拌することを特徴とする」と訂正する。
(b)本件明細書の特許請求の範囲の請求項2の「上記第1工程の実行中、上記原水槽内の水を常時一定速度で攪拌することを特徴とする」を、「上記濃度調整後のスラッジ水を回収水槽へ一旦送った後、上記生コンクリート製造プラントへ送ることを特徴とする」と訂正する。
(c-1)本件明細書の特許請求の範囲の請求項5の「原水槽内の水を、洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し」を、「原水槽内の水を一定速度で攪拌しながら、その水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し」と訂正する。
(c-2)本件明細書の特許請求の範囲の請求項5の「該濃度検出手段の検出結果に基づき、上記スラッジ水の濃度を調整した後、そのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段と」を、「該濃度検出手段の検出結果に基づき、上記スラッジ水が濃厚な場合は上記スラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、上記スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段と」と訂正する。
(d)本件明細書の特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(e)本件明細書の【0005】段落中の「を備えたことを特徴とする」を、「を備えると共に、上記スラッジ水の濃度調整が、上記スラッジ水が濃厚な場合は上記スラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記第1工程を繰り返し実行することによってなされ、上記第1工程の実行中、上記原水槽内の水を常時一定速度で撹拌することを特徴とする」と訂正する。
(f)本件明細書の【0009】段落中の「請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成に加え、上記第1工程の実行中、上記原水槽内の水を常時一定速度で攪拌することを特徴としている。」を削除する。
(g)本件明細書の【0010】段落中の「このように、本発明では、第1工程の実行中、原水槽内の水を常時一定速度で攪拌するので、スラッジの堆積固着やアルカリ皮膜の付着を一層良好に防止することができる。なお、原水層内の水を低速で攪拌し、スラッジを沈降させることも提案されているが、本発明ではスラッジ水を沈降によらずに濃縮化しているので、攪拌速度を低速化する必要もない。従って、本発明では、請求項1記載の発明の効果に加えて、スラッジの堆積固着やアルカリ皮膜の付着を一層良好に防止して、前述の障害の発生を一層良好に防止すると共に、前述の作業を一層良好に軽減することができるといった効果が生じる。」を、「また、本発明では、第1工程の実行中、原水槽内の水を常時一定速度で撹拌するので、スラッジの堆積固着やアルカリ皮膜の付着を一層良好に防止することができる。なお、原水槽内の水を低速で撹拌し、スラッジを沈降させることも提案されているが、本発明ではスラッジ水を沈降によらずに濃縮化しているので、撹拌速度を低速化する必要もない。従って、本発明では、スラッジの堆積固着やアルカリ皮膜の付着を一層良好に防止して、前述の障害の発生を一層良好に防止すると共に、前述の作業を一層良好に軽減することができる。」と訂正する。
(h-1)本件明細書の【0015】段落中の「原水槽内の水を、洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し」を、「原水槽内の水を一定速度で攪拌しながら、その水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し」と訂正する。
(h-2)本件明細書の【0015】段落中の「該濃度検出手段の検出結果に基づき、上記スラッジ水の濃度を調整した後、そのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段と」を、「該濃度検出手段の検出結果に基づき、上記スラッジ水が濃厚な場合は上記スラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、上記スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段と」と訂正する。
(i-1)本件明細書の【0016】段落中の「原水槽内の水を、洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し」を、「原水槽内の水を一定速度で撹拌しながら、その水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し」と訂正する。
(i-2)本件明細書の【0016】段落中の「濃度検出手段は、濃縮化後のスラッジ水の濃度を検出し、濃度調整手段は、その検出結果に基づいてスラッジ水の濃度を調整した後、そのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る」を、「濃度検出手段は、濃縮化後のスラッジ水の濃度を検出し、濃度調整手段は、その検出結果に基づいてスラッジ水が濃厚な場合はそのスラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、上記スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る」と訂正する。
(j)本件明細書の【0020】段落を削除する。
(k)本件明細書の【0021】段落を削除する。
2-2.訂正の目的、新規事項の有無、拡張・変更
上記(a)の訂正は、スラッジ水の濃度調整が、スラッジ水が濃厚な場合はスラッジ水を希釈し、スラッジ水が希薄な場合は第1工程を繰り返し実行することによってなされること、および、第1工程の実行中、原水槽内の水を常時一定速度で撹拌することを規定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
上記(b)の訂正は、上記(a)の訂正により、旧請求項2の「上記第1工程の実行中、上記原水槽内の水を常時一定速度で撹拌する」という事項は引用している請求項1で既に規定したから、重複を避けるためその事項は請求項2から削除し、別途、濃度調整後のスラッジ水を回収水槽へ一旦送った後、生コンクリート製造プラントへ送ることを規定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
上記(c-1)の訂正は、原水槽内の水を一定速度で撹拌することを規定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
上記(c-2)の訂正は、スラッジ水の濃度を調整する濃度調整手段が、スラッジ水が濃厚な場合はスラッジ水を希釈し、スラッジ水が希薄な場合は濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段であることを規定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
上記(d)の訂正は、旧請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
上記(e)、(f)、(g)、(h-1)、(h-2)、(i-1)、(i-2)、(j)および(k)の訂正は、上記(a)、(b)、(c-1)、(c-2)および(d)の訂正に伴い、それに合わせて、本件明細書の発明の詳細な説明中の特許請求の範囲に対応する記載を、特許請求の範囲と整合するように訂正したものであるから、特許請求の範囲の減縮に伴って生じた明瞭でない記載の釈明に該当する。
そして、スラッジ水を濃縮化する処理の間、原水槽内の水を常時一定速度で撹拌することは、本件明細書の【0028】段落の末尾に、スラッジ水の濃度調整が、スラッジ水が濃厚な場合はスラッジ水を希釈し、スラッジ水が希薄な場合は第1工程を繰り返し実行することによってなされることは、【0030】段落に、濃度調整後のスラッジ水を回収水槽へ一旦送った後、生コンクリート製造プラントへ送ることは【0023】、【0031】、【0032】段落に、濃度検出手段の検出結果に基づき、スラッジ水が濃厚な場合はスラッジ水を希釈し、スラッジ水が希薄な場合は濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段は、【0015】、【0016】段落および【0030】〜【0032】段落に記載されているから、上記(a)、(b)、(c-1)、(c-2)、(e)、(g)、(h-1)、(h-2)、(i-1)および(i-2)の訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、上記(d)、(f)、(j)および(k)の訂正は、特許請求の範囲の旧請求項7を削除したり、発明の詳細な説明中の記載を削除するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、更に、それらの訂正は、その内容からして、実質上特許請求の範囲を拡張したり、変更したりするものでもない。
2-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4の第2項及び同条第3項で準用する同法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.訂正後の本件発明
訂正後の本件発明は、上記訂正請求書に添付した全文訂正明細書の特許請求の範囲に記載された次のものである。
「【請求項1】生コンクリートの水和を遅延する水和遅延剤の水溶液を原水槽に貯留した後、該原水槽内の水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し、その処理水から骨材回収後に得られたスラッジ水を上記原水槽に回収して再び洗浄水または希釈押水として利用することにより上記スラッジ水を濃縮化する第1工程と、
上記濃縮化後のスラッジ水の濃度を調整した後、そのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送り再利用する第2工程と、
を備えると共に、
上記スラッジ水の濃度調整が、上記スラッジ水が濃厚な場合は上記スラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記第1工程を繰り返し実行することによってなされ、
上記第1工程の実行中、上記原水槽内の水を常時一定速度で撹拌することを特徴とする残存生コンクリートの処理方法。
【請求項2】上記濃度調整後のスラッジ水を回収水槽へ一旦送った後、上記生コンクリート製造プラントへ送ることを特徴とする請求項1記載の残存生コンクリートの処理方法。
【請求項3】上記第2工程の実行に当たって、上記濃縮化後のスラッジ水から気泡を取り除き、続いてそのスラッジ水の濃度を測定してその濃度を調整することを特徴とする請求項1または2記載の残存生コンクリートの処理方法。
【請求項4】上記第2工程の実行に当たって、濃度センサを上記スラッジ水中に挿入することにより上記スラッジ水の濃度を測定してその濃度を調整し、濃度測定後、上記濃度センサを洗浄することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の残存生コンクリートの処理方法。
【請求項5】生コンクリートの水和を遅延する水和遅延剤の水溶液が予め貯留された原水槽内の水を一定速度で攪拌しながら、その水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し、その処理水から骨材回収後に得られたスラッジ水を上記原水槽に回収して再び洗浄水または希釈押水として利用することにより上記スラッジ水を濃縮化する濃縮化手段と、
上記濃縮化後のスラッジ水の濃度を検出する濃度検出手段と、
該濃度検出手段の検出結果に基づき、上記スラッジ水が濃厚な場合は上記スラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、上記スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段と、
を備えたことを特徴とする残存生コンクリートの処理装置。
【請求項6】上記濃度検出手段が、
上記スラッジ水中に挿入されたとき周囲の上記スラッジ水の濃度を測定する濃度センサと、
上記濃度の測定時には上記濃度センサを上記スラッジ水中に挿入し、上記濃度の測定終了後には上記濃度センサを上記スラッジ水から引き出すセンサ移動手段と、
該センサ移動手段が上記濃度センサを上記スラッジ水から引き出したとき、上記濃度センサを洗浄するセンサ洗浄手段と、
を備えたことを特徴とする請求項5記載の残存生コンクリート処理装置。」

4.特許異議申立の概要
特許異議申立人株式会社エヌエムビーは、甲第1〜6号証を提出して次のような主旨の主張をしている。
(1)本件請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるか、もしくは、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証、または、甲第1〜2号証および甲第4〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、もしくは、同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)本件請求項2〜7に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
5.証拠の記載
5-1.甲第1号証について
甲第1号証(「コンクリート工業新聞」、(株)セメントジャーナル社、1995年3月23日発行、第3面)には、「回収水改質剤を活用-スラッジ対策に大きい効果」という見出しが付された記事が掲載されており、以下の記載がある。
(イ-1)「手間をかけない 大間々デンカ生コンは昨年五月に、生コン回収水改質剤「リカバー」によるスラッジ処理方法を導入した。この方式は、まずタンクに清水とリカバーで0.15%のリカバー溶液を十m3作り、これで洗車、ミキサの洗浄のすべてを行い、そのスラッジを含んだ洗車排水をあとで練り混ぜ水の一部として使用するというもの。」(中央上から3段目)
(イ-2)「水和を一時停止 DAREXリカバー 「DAREXリカバー」はデンカグレース(株)(東京都港区赤坂4-12-6、電話03-3584-5271)の製品で、主成分はオキシカルボン酸類、米国WRグレースから技術導入した超遅延形混和剤。日本の品質規格ではJIS A 6204コンクリート用化学混和剤の減水剤・遅延形I種に適合する。」(中央4〜5段目)
(イ-3)「濃度計に付着しない 大間デンカ生コンは超音波濃度計でスラッジ濃度を計測し、プラント制御盤で自動演算を行う方式を採用している。通常のスラッジの濃度の計測では、濃度計のセンサー部分にセメント分が付着して、常にその付着を落としてやらないと計測精度が低下してしまう。その手間がなかなか大変で、そのため濃度計を設置したものの、使用しなくなるケースが多いが、リカバリー添加のスラッジ水の場合は、セメント粒子の水和が抑制されるので、濃度計のセンサー部分へのセメント粒子の付着がみられず、計測精度が安定している。」(中央7〜8段目)
(イ-4)「(1)(原文は丸つき数字、以下同じ)前日、Aタンクに、清水10m3とリカバー15kgによるリカバー溶液(リカバー0.15%溶液)を作っておく。(2)このリカバー溶液を使って洗車する。洗車ボタンを押すことによりポンプが起動し、リカバー溶液がアジテータトラックに供給される。一台につき約1m3のリカバー溶液を使用する。(3)洗車排水はスパイラルへ流入し、ここでスラッジ水と回収骨材に分離される。(4)スラッジ水は排水ピットに流入し、ポンプによりAタンクに戻される。(5)Aタンクのリカバー溶液は、繰り返し洗車に使用される。(6)リカバー溶液はバッチャプラントのミキサの洗浄にも使用される。その溶液中のスラッジの濃度は洗車が繰り返され、ミキサの洗浄が行われることによって高まる。(7)洗車、ミキサの洗浄が終わると、このAタンク中のリカバー添加スラッジを、ポンプでBタンクに移動させる。(8)これを練り混ぜ水の一部として、バッチャプラントに供給する。(9)バッチャプラントでは、自動濃度計によりスラッジ濃度を連続測定し、プラント制御盤で自動演算を行う。」(左上欄)
5-2.甲第2号証について
甲第2号証(政村兼一郎外6名著、「生コンプラント-装置と保守」、(社団法人)日本コンクリート工学協会、昭和55年7月25日1版1刷1発行、p.144-168)には、以下の記載がある。
(ロ-1)「生コン工場の排水の種類は、コンクリート洗い排水(アジテータドラム洗浄排水、戻りコンクリート洗浄排水、プラントミキサホッパ洗浄排水)を主とし、骨材置場、ベルトコンベヤ洗浄、湿式集じん機、供試体養生水槽、コンプレッサ等からの排水、場内清掃による排水、雨水、生活排水、および雑用排水がある。これらの排水の処理は、大別すると無害化処理後廃棄する場合と、回収再利用する場合とに分けられるが、最近では、公害防止および資源の有効利用の目的で、生活排水および雑用排水を除いては、排水を回収再使用するケースが多くなって来ている。したがって以下では、主として回収水再利用設備について述べる。この回収水再利用の設備については、前掲の「生コン工場排水の再利用に関する管理基準」に、洗い排水およびその他の排水を回収し、再利用するための設備は、コンクリート材料として再使用するための十分な処理能力をもつものであることが規定されている。このような回収水再利用設備は多くのメーカにより種々のシステムが開発されているが、その基本的なフローシートを図-8.1に示す。」(第144頁下から7行〜第145頁8行)
(ロ-2)「フレッシュで、高濃度のスラッジ水は静止させると沈殿固化するので、24時間撹拌できる装置をもつ槽に貯留する。」(第156頁5〜6行)
(ロ-3)「スラッジ水濃度の自動測定方式については表-8.2に示す。これらは単に測定装置として用いられるよりも、自動調整装置の一部としての濃度検出部であったり、それ自体が濃度調整装置であったりする(写真-8.9、写真-8.10、写真-8.11参照)。しかし、これらの測定装置のうちには、測定の都度、その前後に十分掃除、点検、調整して使用すればかなり精度の高い値が得られるが、自動調整機構の検出部として連続してスラッジ水中に浸液されていたり、スラッジ水中にくり返し出し入れされていると、スラッジ水中のセメント成分によるスケーリング、スラッジの沈殿堆積等のため、測定誤差が経時的に大きくなる。このように濃度管理の良否が、検出部の掃除の頻度に左右されるようにな場合も少なくないので注意を要する。掃除の頻度は装置によっても異なるので、調整槽の濃度を精密法により確認を行い、掃除の間隔を決定すべきである。最近では濃度調整が終わるごとに上水により自動洗浄できるものも現れている。」(第156頁下から6行〜第159頁下から7行)
(ロ-4)第145頁、図-8.1には「排水再利用設備の基本的フローシート」が記載されている。
5-3.甲第3号証について
甲第3号証(「月刊生コンクリート」、第1巻第8号、(株)セメント新聞社、昭和57年8月1日発行、p.23-32)には、「回収水の再利用技術における濃度測定に関する研究報告の概要」と題した関口賢二外1名の研究報告が掲載されており、以下の記載がある。
(ハ-1)「当回収水委員会は「排水を有効適切に再利用するには」をメインテーマとして調査研究することを目的として発足し、多くの問題点の抽出と解決方法の開発に努め、そして全生連の発表している濃度範囲で回収水を再利用するために最も重要なことは、回収水の濃度を正確に把握することであり、ひいては濃度測定の精度を上げることであるとの結論に達した。そこで、生コン工場の回収水濃度測定の機械化・自動化等の現況について調査し、濃度測定機器の中で代表的なものを数種選び、実機実験によってデータをとり、それによって傘下各工場での濃度測定機器や自動化の指標を作成し、濃度測定機器の設置基準、管理基準や作業標準作成等の基本的な考え方の方向付けをするものである。」(第23頁左欄下から3行から右欄12行)
(ハ-2)「実験を実施するにあたって工業組合傘下156工場に対し、アンケート調査による回収水利用の実態調査を行い、その中の濃度測定器(以下濃度計と称す)の実績の多い、超音波式(パイプ型と浸漬型)と重量式(定容積型)の2種を選定し、併せて現在開発途中の高周波式(浸漬型)を入れ、3メーカ、4機種を同一パイプラインに設置し、同1条件の回収水の濃度を計測できるような実験装置を製作した。この実験装置を昭和56年8月から1工場1ヶ月間連続運転し、順次2工場、3工場と移設し昭和56年12月最終工場の実験を完了した。図-1.1に実験装置の概要図を示す。」(第23頁14〜25行)
(ハ-3)「a.A工場-撹拌槽(80m3)の回収水を試料とし試験した。撹拌槽の水位を午前は高く、午後は低く変動させその水位の差(気泡混入の影響)による濃度計の状況を調査した。」(第24頁右欄7〜11行)
(ハ-4)「気泡混入による影響で広範囲に真値と指示値を合致させることが難しく撹拌槽の水位低下の影響が大きい」(第26頁の表-2.2の「濃度計の調整及び状況」のA工場の超音波式パイプ型の状況の欄)
(ハ-5)「そこで図4に回収水に混入する気泡の影響で超音波式濃度計の指示値が変化する様子を示す。」(第29頁左欄下から2〜1行)
(ハ-6)第29頁、図-4には、「気泡混入による指示値の変化」のグラフが記載されている。
5-4.甲第4号証について
甲第4号証(特開平6-134748号公報)には、以下の記載がある。
(ニ-1)「残存生コンクリートを粗骨材、細骨材、スラッジ及び濾過水に分離回収する処理方法に於て、残存生コンクリートを洗車シュートへ排出し、同時にスラッジ水を洗車シュートへ送り、そのスラッジ水にて押し流しながら残存生コンクリートを希釈し骨材を洗浄し、そのシュートから粗骨材回収装置に送り残存生コンクリートから粗骨材と希釈残留生コンクリートとに分離する第一工程と、その分離された希釈残留生コンクリートを流量調整タンクへ送り、そこから流量を調整しながら砂分離機に送り、希釈残留生コンクリートから細骨材とスラッジ水とに分離する。その分離されたスラッジ水の一部を上記第一工程へ送る第二工程と、第二工程にて分離され第一工程に送られない残りのスラッジ水を脱水機にてスラッジと濾過水とに分離する第三工程と、によることを特徴とする残存生コンクリートの処理方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項2】)
(ニ-2)「また砂分離機においては供給される希釈残留生コンクリートを流量調整することにより流れが一定化し砂が微砂と共に砂分離機のケース内にて沈降分離され、純度の高い砂を得ることが出来る。一方ここで分離されるスラッジ水は微砂の混合しない状態状態で回収されたので、サイクロンセパレーターを必要としない。またこのスラッジ水は一部を洗車コンベヤに使用することが出来る。その残分は脱水機にてスラッジと濾過水とに分離される。この濾過水はスラッジの含量の少ない水であり、生コンクリートの練り込み用水として再使用することが出来る。」(第6欄44行〜第7欄4行)
5-5.甲第5号証について
甲第5号証(特開平7-195353号公報)には、以下の記載がある。
(ホ-1)「生コン廃水から骨材を分離回収した後のスラッジを収容する濃縮槽と、該濃縮槽の中の上澄水を汲み出す上澄水汲出ポンプと、該濃縮槽の底に堆積したスラッジを移送するスラッジ移送ポンプと、前記上澄水汲出ポンプにより汲み出された上澄水を収容する上澄水槽と、該上澄水槽の上澄水を移送する上澄水移送ポンプと、前記スラッジ移送ポンプの移送により供給されたスラッジを収容し該スラッジを上澄水移送ポンプにより供給された上澄水を注入して所定濃度に調整する濃度調整槽と、該濃度調整槽の中のスラッジをバッチャプラントに混練水として供給する調整水移送ポンプとを備えてなることを特徴とする生コン廃水の再利用システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項2】)
(ホ-2)「前記濃度調整槽の中のスラッジ濃度を検出する濃度センサが設けられ、該濃度センサにより検出された濃度が設定値を超えると判定すると前記スラッジ移送ポンプを停止させ且つ上澄水移送ポンプを作動させ、設定値未満であると判定すると前記上澄水移送ポンプを停止させ且つスラッジ移送ポンプを作動させる制御手段が設けられていることを特徴とする請求項2記載の生コン廃水の再利用システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項3】)
(ホ-3)「前記濃度調整槽の中のスラッジの濃度を検出する濃度センサが濃度調整槽の水面上に設けられ、該濃度センサに濃度調整槽の中のスラッジを供給する濃度検出用ポンプと、前記上澄水移送ポンプにより前記濃度検出センサに上澄水を導く上澄水管路とを備えてなることを特徴とする請求項2記載の生コン廃水の再利用システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項5】)
(ホ-4)「以上説明した本発明の生コン廃水の再利用システムは、生コン廃水から骨材を分離回収した後のスラッジを濃縮槽で沈殿濃縮した後、濃度調整槽にて所定濃度に調整し、その調整水を調整水移送ポンプによりバッチャプラントに混練水として供給するので、脱水ケーキの廃棄量を低減するか全く無くすことができ、環境汚染を低減するか全く無くし、また廃棄コストを低減するか全く無くすことができる。」(【0034】段落)
(ホ-5)「また、濃縮槽の中の上澄水が収容される上澄水槽が設けられ、濃縮槽の底に堆積したスラッジと上澄槽内の上澄水とを濃度調整槽に注入して所定濃度の調整水をつくるようにしたので、生コン廃水をできるだけ無駄なく再利用できる。」(【0035】段落)
(ホ-6)「また、濃度調整槽の中のスラッジの濃度を検出する濃度検出センサが設けられ、検出濃度が設定値を超えていると判定すると上澄水移送ポンプを作動させ、設定値未満であると判定するとスラッジ移送ポンプを作動させるようにした場合には、調整水の濃度を自動的に所定値に調整できる。」(【0036】段落)
(ホ-7)「また、上澄水槽の上澄水を上澄水管路により濃度センサに導くようにした場合には、濃度センサに付いたスラッジ固形分の洗浄を行うことにより、検出精度を良好に保つことができる。」(【0038】段落)
5-6.甲第6号証について
甲第6号証(金田一京助外3名編、「新選国語辞典」、(株)小学館、昭和62年1月20日第6版・ワイド版第1刷発行、p.733)には、以下の記載がある。
(ヘ)「ちょう-せい【調整】調子や過不足などをほどよく合わせること。」(第733頁上段)
6.当審の判断
上記(イ-4)の記載によれば、甲第1号証には、(a)Aタンクに、リカバー溶液を作っておき、そのリカバー溶液を使ってアジテータトラックを洗車したり、また、バッチャプラントのミキサを洗浄すること、(b)洗車排水をスパイラルへ流入させて、骨材をスラッジ水と分離し、骨材回収後のスラッジ水を排水ピットに流入させ、排水ピットのスラッジ水をAタンクに戻して、アジテータトラックの洗車に繰り返し使用して、リカバー溶液中のスラッジの濃度を高めること、(c)洗車、ミキサの洗浄が終わると、Aタンク中のリカバー添加スラッジを、Bタンクに移送し、これをバッチャプラントに供給して練り混ぜ水の一部とすること、(d)バッチャプラントで、自動濃度計によりスラッジ濃度を連続測定し、プラント制御盤で自動演算を行うことが記載されている。
そして、上記(イ-2)の記載によれば、甲第1号証でいう「リカバー」はDAREXリカバーという製品で、遅延形のコンクリート用化学混和剤であるから、「水和遅延剤」である。
そこで、訂正後の本件請求項1に係る発明と、甲第1号証に記載された発明を対比すると、後者でいうAタンクは前者でいう原水槽に当たるし、また、生コン配送後に生コン製造工場に戻ったアジテータトラックのミキサ内には、排出しきれなかった生コンクリートが少量残存していることは当然のことであり、更に、後者でいうバッチャプラントは前者でいう生コンクリート製造プラントのことであるから、両者は、「生コンクリートの水和を遅延する水和遅延剤の水溶液を原水槽に貯留した後、原水槽内の水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し、その処理水から骨材回収後に得られたスラッジ水を原水槽に回収して再び洗浄水または希釈押水として利用することによりスラッジ水を濃縮化する第1工程と、そのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送り再利用する第2工程とを備える残存生コンクリートの処理方法」である点で一致しており、次の点で相違している。
(I)前者は、スラッジ水が濃厚な場合はスラッジ水を希釈し、スラッジ水が希薄な場合は第1工程を繰り返し実行することによって、濃縮化後のスラッジ水の濃度を調整した後、そのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送り再利用するのに対し、後者は、濃縮化後のスラッジ水の濃度は特に調整されておらず、バッチャプラントで、自動濃度計によりスラッジ濃度を連続測定し、プラント制御盤で自動演算を行って混練水の一部として利用している点。
(II)前者は、第1工程の実行中、原水槽内の水を常時一定速度で撹拌しているのに対し、甲第1号証には、Aタンク中のリカバー添加スラッジを撹拌することについては特に言及していない点。
そこで、相違点(I)について検討すると、甲第2号証には、上記(ロ-1)の記載や図-8.1に示されているように、回収水(排水)再利用設備の基本的フローシートが記載されているものの、そのフローシートでは、「洗車装置」からの排水は、「骨材分離回収装置」を経て「スラッジ水濃縮槽装置」に送られ、そこで上澄水と濃縮スラッジ水とに分離され、上澄水は「上澄水貯水槽」に、濃縮スラッジ水は「濃縮スラッジ水槽」に貯えられて、濃度を測定しながら「濃度調整槽」で「上澄水貯水槽」からの上澄水および「濃縮スラッジ水槽」からの濃縮スラッジ水を混合してスラッジ水の濃度を調整し、濃度が調整されたスラッジ水は「貯留槽」から「ヘッドタンク」を経て上澄水や上水と共に水計量槽からミキサに送られ混練水として利用されており、甲第2号証に記載された回収水再利用設備の基本的フローシートでは、スラッジ水は濃縮装置で上澄水と濃縮スラッジ水に分離され、その濃縮スラッジ水と上澄水を混合して濃度を調整したスラッジ水を混練水の一部として利用しているのであるから、その技術は、本件明細書の【0002】段落の【従来の技術】の欄に記載された従来技術に当たるものである。
また、甲第5号証にも、上記(ホ-1)〜(ホ-2)および(ホ-4)〜(ホ-6)の記載から明らかなように、生コン廃水から骨材を分離回収した後のスラッジを収容する濃縮槽で上澄水とスラッジに分離し、分離したスラッジと上澄水とを濃度調整槽に注入して所定濃度に調整して、濃度調整した調整水をバッチャプラントに混練水として供給するという本件明細書の【0002】段落の【従来の技術】の欄に記載された従来技術に当たる技術が記載されているにすぎない。
さらに、甲第4号証には、上記(ニ-1)および(ニ-2)の記載から分かるように、スラッジ水を脱水機でスラッジと濾過水とに分離したスラッジ含量の少ない濾過水を生コンクリートの混練水として再利用することが記載されているすぎず、甲第3号証には、回収水の再利用技術における濃度測定に関する研究報告が記載されているに過ぎず、甲第6号証には、「調整」という用語の意味が記載されているに過ぎない。
このように、甲第2号証ないし甲第6号証には、「スラッジ水が濃厚な場合はスラッジ水を希釈し、スラッジ水が希薄な場合は第1工程を繰り返し実行することによって、濃縮化後のスラッジ水の濃度を調整した後、そのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送り再利用する」構成は記載がないばかりか、示唆もされていない。
してみると、訂正後の本件請求項1に係る発明は、相違点(II)について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明と同一ではないし、また、甲第1〜6号証の記載を総合したところで、訂正後の本件請求項1に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
訂正後の本件請求項2〜4に係る発明は、訂正後の本件請求項1を引用した発明であるから、訂正後の本件請求項1に係る発明について述べた理由と同様の理由により、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、訂正後の本件請求項5に係る発明と、甲第1号証に記載された発明を対比すると、両者は、「生コンクリートの水和を遅延する水和遅延剤の水溶液が予め貯留された原水槽内の水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し、その処理水から骨材回収後に得られたスラッジ水を原水槽に回収して再び洗浄水または希釈押水として利用することによりスラッジ水を濃縮化する濃縮化手段を備えた残存生コンクリートの処理装置」である点で一致し、両者は次の点で相違している。
(I’)前者は、その残存生コンクリートの処理装置自体が、「濃縮化後のスラッジ水の濃度を検出する濃度検出手段」を備えており、また、「濃度検出手段の検出結果に基づき、スラッジ水が濃厚な場合はスラッジ水を希釈し、スラッジ水が希薄な場合は濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段」を備えているのに対し、後者は、その残存生コンクリートの処理装置自体には、濃縮化後のスラッジ水の濃度を検出する濃度検出手段はなく、バッチャプラントで、自動濃度計によりスラッジ濃度を連続測定し、プラント制御盤で自動演算を行って混練水の一部として利用しているだけであるから、「濃度検出手段の検出結果に基づき、スラッジ水が濃厚な場合はスラッジ水を希釈し、スラッジ水が希薄な場合は濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段」も備えていない点。
(II’)前者は、原水槽内の水を常時一定速度で撹拌しているのに対し、甲第1号証には、Aタンク中のリカバー添加スラッジを撹拌することについては特に言及していない点。
そこで、相違点(I’)について検討すると、甲第2号証ないし甲第6号証には、「濃度検出手段の検出結果に基づき、スラッジ水が濃厚な場合はスラッジ水を希釈し、スラッジ水が希薄な場合は濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段」は記載がないばかりか、示唆もされていない。
してみると、訂正後の本件請求項5に係る発明は、相違点(II’)について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明と同一ではないし、また、甲第1〜6号証の記載を総合したところで、訂正後の本件請求項5に係る発明は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
訂正後の本件請求項6に係る発明は、訂正後の本件請求項5を引用した発明であるから、訂正後の本件請求項5に係る発明について述べた理由と同様の理由により、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記(1)および(2)の主張は、理由がない。
7.結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由および証拠によっては、訂正後の本件請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
残存生コンクリートの処理方法および処理装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 生コンクリートの水和を遅延する水和遅延剤の水溶液を原水槽に貯留した後、該原水槽内の水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し、その処理水から骨材回収後に得られたスラッジ水を上記原水槽に回収して再び洗浄水または希釈押水として利用することにより上記スラッジ水を濃縮化する第1工程と、
上記濃縮化後のスラッジ水の濃度を調整した後、そのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送り再利用する第2工程と、
を備えると共に、
上記スラッジ水の濃度調整が、上記スラッジ水が濃厚な場合は上記スラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記第1工程を繰り返し実行することによってなされ、
上記第1工程の実行中、上記原水槽内の水を常時一定速度で撹拌することを特徴とする残存生コンクリートの処理方法。
【請求項2】 上記濃度調整後のスラッジ水を回収水槽へ一旦送った後、上記生コンクリート製造プラントへ送ることを特徴とする請求項1記載の残存生コンクリートの処理方法。
【請求項3】 上記第2工程の実行に当たって、上記濃縮化後のスラッジ水から気泡を取り除き、続いてそのスラッジ水の濃度を測定してその濃度を調整することを特徴とする請求項1または2記載の残存生コンクリートの処理方法。
【請求項4】 上記第2工程の実行に当たって、濃度センサを上記スラッジ水中に挿入することにより上記スラッジ水の濃度を測定してその濃度を調整し、濃度測定後、上記濃度センサを洗浄することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の残存生コンクリートの処理方法。
【請求項5】 生コンクリートの水和を遅延する水和遅延剤の水溶液が予め貯留された原水槽内の水を一定速度で撹拌しながら、その水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し、その処理水から骨材回収後に得られたスラッジ水を上記原水槽に回収して再び洗浄水または希釈押水として利用することにより上記スラッジ水を濃縮化する濃縮化手段と、
上記濃縮化後のスラッジ水の濃度を検出する濃度検出手段と、
該濃度検出手段の検出結果に基づき、上記スラッジ水が濃厚な場合は上記スラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、上記スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段と、
を備えたことを特徴とする残存生コンクリートの処理装置。
【請求項6】 上記濃度検出手段が、
上記スラッジ水中に挿入されたとき周囲の上記スラッジ水の濃度を測定する濃度センサと、
上記濃度の測定時には上記濃度センサを上記スラッジ水中に挿入し、上記濃度の測定終了後には上記濃度センサを上記スラッジ水から引き出すセンサ移動手段と、
該センサ移動手段が上記濃度センサを上記スラッジ水から引き出したとき、上記濃度センサを洗浄するセンサ洗浄手段と、
を備えたことを特徴とする請求項5記載の残存生コンクリート処理装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、残存生コンクリートを洗浄水または希釈押水を用いて処理し、その処理水から骨材回収後に得られたスラッジ水を回収再使用する残存生コンクリートの処理方法および処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、残存生コンクリートから骨材回収後に得られたスラッジ水は、次のように処理されている。すなわち、スラッジ水を攪拌機により攪拌し、スラッジの沈降を防止しながら貯槽に貯留し、所定任意に攪拌機を停止して一定時間保ち、自然沈降にて沈降したスラッジと上澄水とに分離する。続いて、貯槽の所定水位までの上澄水をポンプにて上澄水槽へ送水した後、攪拌機を運転して残留水と沈降したスラッジとを攪拌し、濃縮化されたスラッジ水となして調製槽へ送る。そして、更に、上澄水を添加して、スラッジ濃度計により3%濃度のスラッジ水に希釈して生コンクリート製造プラントのヘッドタンクへ送水している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記の方法では上記貯槽の攪拌機を停止し、スラッジを自然沈降させることによって濃縮化している。このため、貯槽の底部に沈降したスラッジが推積固着し、攪拌機の運転を再開してもスラッジの沈積によりトルクオーバー、攪拌機の破損、モータの焼損、羽根の攪拌エリア外へのスラッジの沈降推積による貯槽の実容積の減少、等の障害を招く。従って、固着したスラッジの除去作業が必要になる。また、上記スラッジ濃度計のセンサ部にアルカリ皮膜が付着し、暫時増加して濃度計が使用不能となるので常時センサ部の管理が必要になる。更に、貯槽に推積したスラッジにより濃度調製が困難になる。等の課題があった。
【0004】
そこで、本発明は、スラッジの沈降によらずにスラッジ水を濃縮化して、スラッジの堆積固着やアルカリ皮膜の付着を良好に抑制することのできる残存生コンクリートの処理方法および処理装置を提供することを目的としてなされた。
【0005】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
上記目的を達するためになされた請求項1記載の発明は、
生コンクリートの水和を遅延する水和遅延剤の水溶液を原水槽に貯留した後、該原水槽内の水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し、その処理水から骨材回収後に得られたスラッジ水を上記原水槽に回収して再び洗浄水または希釈押水として利用することにより上記スラッジ水を濃縮化する第1工程と、
上記濃縮化後のスラッジ水の濃度を調整した後、そのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送り再利用する第2工程と、
を備えると共に、
上記スラッジ水の濃度調整が、上記スラッジ水が濃厚な場合は上記スラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記第1工程を繰り返し実行することによってなされ、
上記第1工程の実行中、上記原水槽内の水を常時一定速度で撹拌することを特徴とする残存生コンクリートの処理方法を要旨としている。
【0006】
このように構成された本発明では、第1工程において、水和遅延剤の水溶液を原水槽に貯留した後、その原水槽内の水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し、その処理水から骨材回収後に得られたスラッジ水を上記原水槽に回収して再び洗浄水または希釈押水として利用する。このため、この第1工程を繰り返すことによりスラッジ水が次第に濃縮化される。また、本発明では、水和遅延剤の水溶液を用いているので、上記スラッジ水を洗浄水または希釈押水として再利用しても、各部へのスラッジの堆積固着を良好に抑制することができる。すなわち、水和遅延剤により、残存生コンクリートの水和反応停止、水和物の生成防止、水酸化物による配管内の閉塞と各種機器の目詰まりの防止、等の効果が生じるのである。従って、第1工程の繰り返しにより、スラッジ水を充分な濃度まで濃縮化することができる。
【0007】
続く第2工程では、上記濃縮化後のスラッジ水の濃度を調整した後、そのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送り再利用する。このため、スラッジ状の残存生コンクリートがきわめて有効に利用され、資源回収再利用、省エネルギー、省力化、公害防止などの多大な効果がもたらされる。
【0008】
このように、本発明では、スラッジ水を、スラッジの自然沈降によらず、洗浄水または希釈押水として利用することにより、その濃縮化を計っている。このため、各部へのスラッジの堆積固着やセンサ部等へのアルカリ皮膜の付着を良好に抑制することができる。従って、撹拌機のトルクオーバー、撹拌機の破損、モータの焼損、原水槽の実容積の減少、等の障害が発生するのを良好に防止すると共に、スラッジの除去作業やセンサ部の管理作業を軽減することができる。
【0009】
なお、上記水和遅延剤の水溶液は、洗浄水または希釈押水として利用するのに最低限必要な、所定濃度,所定量の水溶液とすることが望ましい。こうすることによって、上記スラッジ水を一層良好に濃縮することができる。
【0010】
また、本発明では、第1工程の実行中、原水槽内の水を常時一定速度で撹拌するので、スラッジの堆積固着やアルカリ皮膜の付着を一層良好に防止することができる。なお、原水槽内の水を低速で撹拌し、スラッジを沈降させることも提案されているが、本発明ではスラッジ水を沈降によらずに濃縮化しているので、撹拌速度を低速化する必要もない。従って、本発明では、スラッジの堆積固着やアルカリ皮膜の付着を一層良好に防止して、前述の障害の発生を一層良好に防止すると共に、前述の作業を一層良好に軽減することができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の構成に加え、
上記第2工程の実行に当たって、上記濃縮化後のスラッジ水から気泡を取り除き、続いてそのスラッジ水の濃度を測定してその濃度を調整することを特徴としている。
【0012】
このように、本発明では、気泡を取り除いてからスラッジ水の濃度を測定しているので、その濃度をきわめて正確に測定することができる。このため、第2工程において、スラッジ水の濃度をきわめて正確に調整して生コンクリート製造プラントへ送ることができる。従って、本発明では、請求項1または2記載の発明の効果に加えて、生コンクリート製造プラントへより適切な濃度のスラッジ水を送ることができるといった効果が生じる。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の構成に加え、上記第2工程の実行に当たって、濃度センサを上記スラッジ水中に挿入することにより上記スラッジ水の濃度を測定してその濃度を調整し、濃度測定後、上記濃度センサを洗浄することを特徴としている。
【0014】
濃度センサをスラッジ水中に挿入することによりそのスラッジ水の濃度を測定してその濃度を調整することは、比較的一般に行われている。ところが、濃度センサを使用する場合、前述のようにスラッジやアルカリ皮膜の付着による測定精度の低下が課題となる。これに対して、本発明では、濃度測定後に濃度センサを洗浄しているので、周囲に付着したスラッジやアルカリ皮膜を確実に除去することができる。従って、請求項1〜3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、スラッジ水の濃度を一層正確に測定して、生コンクリート製造プラントへより適切な濃度のスラッジ水を送ることができるといった効果が生じる。
【0015】
請求項5記載の発明は、
生コンクリートの水和を遅延する水和遅延剤の水溶液が予め貯留された原水槽内の水を一定速度で攪拌しながら、その水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し、その処理水から骨材回収後に得られたスラッジ水を上記原水槽に回収して再び洗浄水または希釈押水として利用することにより上記スラッジ水を濃縮化する濃縮化手段と、
上記濃縮化後のスラッジ水の濃度を検出する濃度検出手段と、
該濃度検出手段の検出結果に基づき、上記スラッジ水が濃厚な場合は上記スラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、上記スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段と、
を備えたことを特徴とする残存生コンクリートの処理装置を要旨としている。
【0016】
このように構成された本発明では、濃縮化手段は、水和遅延剤の水溶液が予め貯留された原水槽内の水を一定速度で攪拌しながら、その水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し、その処理水から骨材回収後に得られたスラッジ水を上記原水槽に回収して再び洗浄水または希釈押水として利用する。このため、濃縮化手段が処理を繰り返すことによりスラッジ水が次第に濃縮化される。濃度検出手段は、濃縮化後のスラッジ水の濃度を検出し、濃度調整手段は、その検出結果に基づいてスラッジ水が濃厚な場合はそのスラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、上記スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る。
【0017】
このように、本発明では、請求項1記載の残存生コンクリートの処理方法を自動的に実施することができる。このため、請求項1記載の発明と同様、各部へのスラッジの堆積固着やセンサ部等へのアルカリ皮膜の付着を良好に抑制することができる。従って、撹拌機のトルクオーバー、撹拌機の破損、モータの焼損、原水槽の実容積の減少、等の障害が発生するのを防止すると共に、スラッジの除去作業やセンサ部の管理作業を軽減することができる。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の構成に加え、
上記濃度検出手段が、
上記スラッジ水中に挿入されたとき周囲の上記スラッジ水の濃度を測定する濃度センサと、
上記濃度の測定時には上記濃度センサを上記スラッジ水中に挿入し、上記濃度の測定終了後には上記濃度センサを上記スラッジ水から引き出すセンサ移動手段と、
該センサ移動手段が上記濃度センサを上記スラッジ水から引き出したとき、上記濃度センサを洗浄するセンサ洗浄手段と、
を備えたことを特徴としている。
【0019】
このように構成された本発明では、濃度の測定時にはセンサ移動手段が濃度センサをスラッジ水中に挿入し、濃度センサは周囲のスラッジ水の濃度を測定する。測定終了後には、センサ移動手段が濃度センサをスラッジ水から引き出し、センサ洗浄手段は、その濃度センサを洗浄する。すなわち、本発明では、請求項4記載の残存生コンクリートの処理方法を自動的に実施することができる。このため、濃度測定の度に濃度センサを洗浄し、周囲に付着したスラッジやアルカリ皮膜を確実に除去することができる。従って、請求項5記載の発明の効果に加えて、スラッジ水の濃度を一層正確に測定して、生コンクリート製造プラントへより適切な濃度のスラッジ水を送ることができるといった効果が生じる。
【0020】
【0021】
【0022】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を図面と共に説明する。図1は、本発明を適用した残存生コンクリートの処理装置1の構成を表す断面図である。図1に示すように、処理装置1は、コンクリートによって区画された三つの貯槽(配列順に貯水槽3,回収水槽5,原水槽7)を有している。各貯槽3〜7は、下半分が地下に形成され、原水槽7に隣接する地表面に設けられた土台9a上には、水和遅延剤を貯蔵するREタンク9が設けられている。
【0023】
貯水槽3の槽底部には、配管11を介して原水槽7へ送水を行う補給水ポンプ13が設けられている。回収水槽5の槽底部にはピット5aが形成され、そのピット5aには、図示しない生コンクリート製造プラントのBP(バッチャープラント)タンクヘ配管15を介して送水を行うBP送水ポンプ17が設けられている。また、回収水槽5内には、槽内の水(後述のようにスラッジ水)を撹拌する撹拌機19が設けられている。
【0024】
原水槽7の槽底部にはピット7aが形成され、そのピット7aには配管21を介して送水を行う洗車移送ポンプ23が設けられている。なお、配管21は原水槽7を出た後、回収水槽5に向かう配管21aと、図示しないミキサ車(いわゆるアジ車)やドラムの洗車場に向かう配管21bとに分岐している。そして、各配管21a,21bには、それぞれを個々に開閉するバルブ21c,21dが設けられている。また、原水槽7には、この他、槽底部に配置され図示しない残コン処理場(残存生コンクリート処理場)へ配管25を介して送水を行う押水ポンプ27、槽内の水を撹拌する撹拌機29、および、ガイド31に沿って上下動する濃度センサとしてのスラッジ濃度計33が設けられている。
【0025】
更に、原水槽7の上部には、前述の洗車場や残コン処理場から排出された処理水に、周知の骨材回収装置による骨材回収を施した後のスラッジ水を供給する配管35と、REタンク9からRE送液ポンプ37を介して送られた水和遅延剤を所定量ずつ計量して原水槽7へ投入するRE計量タンク39と、チェーン41を介してスラッジ濃度計33を上下動させる電動モートルブロック43と、スラッジ濃度計33の上死点近傍に設けられた図2に詳記する洗浄装置51とが設けられている。
【0026】
図2に示すように、洗浄装置51は、スラッジ濃度計33が上死点近傍(すなわち、ガイド31の上端近傍)まで上昇したときに、チェーン41に設けられた鍔部41aを検出して電動モートルブロック43を停止させるリミットスイッチ53と、スラッジ濃度計33の上昇中に開放されるバルブ55と、バルブ55の開放時に、チェーン41、鍔部41a、スラッジ濃度計33、およびスラッジ濃度計33の図示しないコードに清水57を噴射して洗浄する配管59とから構成されている。
【0027】
次に、このように構成された処理装置1の動作を、図3〜図6を用いて説明する。なお、以下の動作は、自動制御装置により予め設定されたプログラムによって実行されても、手動切換による操作によって実行されてもよい。
先ず、図3に示すように、原水槽7に所定濃度,所定量の水和遅延剤水溶液71を調合しておく、また、貯水槽3には、清水73を貯えておく。ここで、所定濃度,所定量とは、前述のミキサ車等の洗浄や、残コン処理に洗浄水または希釈押水として利用するのに最低限必要な濃度および量である。
【0028】
続いて、バルブ21cを閉じると共にバルブ21dを開き、洗車移送ポンプ23を駆動して、配管21bを介して洗車場に水和遅延剤水溶液71を供給する。洗車場では、洗車によって多量の残存生コンクリートを含む処理水が排出されるが、その処理水は骨材を回収された後、スラッジ水75として配管35を介して原水槽7へ送られる。なお、水和遅延剤水溶液71は、押水ポンプ27を駆動し、配管25を介して残コン処理場へ送ってもよい。この場合、その水和遅延剤水溶液71が押水として残コンを押し流し、骨材回収後にスラッジ水75として、配管35より原水槽7へ送られる。また、この処理の間、撹拌機29は一定速度で回転し続ける。
【0029】
上記処理を繰り返すと、原水槽7内にスラッジ水75が蓄積され、更に上記処理を繰り返すとそのスラッジ水75が洗浄水・押水として使用され、次第に濃縮化される。そこで、予め設定された時間だけ上記処理を行うと、全てのポンプ13〜27を停止し、原水槽7内の気泡を充分に取り除く。
【0030】
続いて、図4に示すように、電動モートルブロック43を駆動してスラッジ濃度計33をスラッジ水75に挿入し、スラッジ水75の濃度を測定する。所望の濃度(例えば9%)と比較して、スラッジ水75が希薄な場合は、図3に示した上記処理を繰り返すことにより濃度を上昇させる。また、スラッジ水75が濃厚な場合は、補給水ポンプ13を駆動して原水槽7に清水73を送ると共に、RE送液ポンプ37およびRE計量タンク39を介して所定量の水和遅延剤79(原液:図6参照)を送ることにより、スラッジ水75を希釈する。なお、この希釈は、清水73または水和遅延剤79のみで行ってもよいが、清水73および水和遅延剤79を、前述の水和遅延剤水溶液71と同じ濃度となるように供給することが望ましい。
【0031】
スラッジ水75を所望の濃度に調整した後は、電動モートルブロック43を駆動してスラッジ濃度計33を上死点まで上昇させる。すると、スラッジ濃度計33はスラッジ水75から引き出され、スラッジ濃度計33の上昇中、スラッジ濃度計33が前述のように自動的に洗浄される。なお、この洗浄用の清水57は、少量のためスラッジ水75の濃度に影響しない。
【0032】
続いて、図5に示すように、バルブ21dを閉じると共にバルブ21cを開き、洗車移送ポンプ23を駆動して調整後のスラッジ水77を回収水槽5へ送る。スラッジ水77を全て回収水槽5へ送った後は、図6に示すように、RE送液ポンプ37およびRE計量タンク39を介して水和遅延剤79を原水槽7に所定量送ると共に、補給水ポンプ13を介して原水槽7に清水73を送る。そして、この処理によって、原水槽7内に上記所定濃度,所定量の水和遅延剤水溶液71を貯える。
【0033】
このように、処理装置1では、スラッジ水75を、スラッジの自然沈降によらず、洗浄水または希釈押水として利用することにより、その濃縮化を計っている。しかも、その濃縮化を行う間、撹拌機29を一定速度で回転させている。このため、各部へのスラッジの堆積固着やスラッジ濃度計33等へのアルカリ皮膜の付着をきわめて良好に抑制することができる。また、前述のように水和遅延剤水溶液71を用いているので、スラッジ水75を洗浄水または希釈押水として再利用しても、各部へのスラッジの堆積固着を良好に抑制することができる。すなわち、水和遅延剤79により、残存生コンクリートの水和反応停止、水和物の生成防止、水酸化物による配管(21等)内の閉塞と各種機器の目詰まりの防止、等の効果が生じるのである。更に、原水槽7内にスラッジが付着し難いので、スラッジ水75の濃度調整も容易となる。
【0034】
従って、処理装置1では、撹拌機29のトルクオーバー、撹拌機29の破損、撹拌機19,29のモータの焼損、原水槽7の実容積の減少、等の障害が発生するのを良好に防止すると共に、スラッジの除去作業やスラッジ濃度計33の管理作業を軽減することができる。更に、処理装置1では、水和遅延剤水溶液71を、洗浄水または希釈押水として利用するのに最低限必要な所定濃度,所定量としているので、スラッジ水75を一層良好に濃縮化することができる。
【0035】
また、処理装置1では、気泡を充分に取り除いてからスラッジ濃度計33を挿入してスラッジ水75の濃度を測定しているので、その濃度をきわめて正確に測定することができる。更に、濃度測定後にはスラッジ濃度計33を洗浄装置51で洗浄しているので、スラッジ濃度計33の周囲に付着したスラッジやアルカリ皮膜を確実に除去することができる。このため、スラッジ水75の濃度を一層正確に測定することができる。従って、処理装置1では、きわめて適切な濃度のスラッジ水77を生コンクリート製造プラントへ送ることができる。
【0036】
【実施例】
ここで、スラッジ水75の消費量の算出について一実施例により説明する。なお、本実施例では、RE剤(水和遅延剤)としてリカバー(商品名:デンカグレース株式会社製)を使用した。
【0037】
1、スラッジ収支
車両台数・・・15台 洗車回数・・・2回/日
残水処理・・・1回/日
残存生コンクリート処理量・・・1m3/日
BPミキサ洗浄・・・1回/日
生コンクリート出荷量・・・200m3/日
生コンクリート練り水実計量・・・100kg/日
2、発生スラッジ量
ドラム洗車 S1=30kg×15×2=900kg
残水処理 S2=20kg×15×1=300kg
残コン処理(残存生コンクリート処理) S3=300kg×1=300kg
BPミキサ洗浄(生コンプラント洗浄水) S4=50kg×1= 50kg
S=S1+S2+S3+S4=1,550kg
3、生コンクリート練り水使用量
200×100=20,000kg
JIS規定の配合セメント計量値3%以内から、9%スラッジ水におけるスラッジ使用量は
0.09×20,000=1,800kg/日
従ってS=1,550kgの上記発生スラッジ量よりの収支は
1,550-1,800=250kg 不足量
4、発生排水量
水和遅延剤調合量(濃度0.15%) W1=10m3
但し、10m3/1.5l配合:比重1.1
PBミキサ洗浄水量 W2=4m3
RE剤調合量(14×103×0.0015=21l) W3=23.1kg
W=W1+W2+W3+S=15,573.1kg
5、REスラッジ濃度(調整前のスラッジ水75の濃度)
V=1,550÷15,573.1×100=9.95%
以上の条件においては、スラッジ水75の濃度測定後、濃度9%まで希釈して調整された全てのスラッジ水77を使用の上、更に、清水を不足分として生コンクリートの練り水として使用する。この結果、スラッジ状の残存生コンクリートがきわめて有効に利用され、資源回収再利用、省エネルギー、省力化、公害防止などの多大な効果がもたらされる。
【0038】
なお、上記実施の形態において、図3で説明したスラッジ水75の濃縮化工程が第1工程に、図4,図5で説明したスラッジ水75の濃度調整工程および回収水槽5への送液工程が第2工程に、それぞれ相当する。また、洗車移送ポンプ23、洗車場、残コン処理場、および配管21b,35が濃縮化手段に、電動モートルブロック43がセンサ移動手段に、洗浄装置51がセンサ洗浄手段に、RE送液ポンプ37、補給水ポンプ13、洗車移送ポンプ23、および配管11,21aが濃度調整手段に、それぞれ相当する。
【0039】
また、本発明は上記実施の形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、濃度調整後のスラッジ水77は、回収水槽5を介せずに直接生コンクリート製造プラントへ送ってもよく、洗浄装置51は特に設けなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明を適用した残存生コンクリートの処理装置の構成を表す断面図である。
【図2】 その処理装置の洗浄装置の構成を表す説明図である。
【図3】 その処理装置の動作を表す説明図である。
【図4】 その処理装置の動作を表す説明図である。
【図5】 その処理装置の動作を表す説明図である。
【図6】 その処理装置の動作を表す説明図である。
【符号の説明】
1…処理装置 3…貯水槽 5…回収水槽
7…原水槽 11,15,21,25,35…配管 13…補給水ポンプ
17…BP送水ポンプ 19,29…撹拌機 23…洗車移送ポンプ
27…押水ポンプ 33…スラッジ濃度計 37…RE送液ポンプ
39…RE計量タンク 43…電動モートルブロック 51…洗浄装置
71…水和遅延剤水溶液 79…水和遅延剤 57,73…清水
75,77…スラッジ水
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.特許第3108863号の明細書中特許請求の範囲の請求項1の「を備えたことを特徴とする」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「を備えると共に、上記スラッジ水の濃度調整が、上記スラッジ水が濃厚な場合は上記スラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記第1工程を繰り返し実行することによってなされ、上記第1工程の実行中、上記原水槽内の水を常時一定速度で撹拌することを特徴とする」と訂正する。
2.特許第3108863号の明細書中特許請求の範囲の請求項2の「上記第1工程の実行中、上記原水槽内の水を常時一定速度で撹拌することを特徴とする」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「上記濃度調整後のスラッジ水を回収水槽へ一旦送った後、上記生コンクリート製造プラントへ送ることを特徴とする」と訂正する。
3.特許第3108863号の明細書中特許請求の範囲の請求項5の「原水槽内の水を、洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「原水槽内の水を一定速度で撹拌しながら、その水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し」と訂正する。
4.特許第3108863号の明細書中特許請求の範囲の請求項5の「該濃度検出手段の検出結果に基づき、上記スラッジ水の濃度を調整した後、そのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段と」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「該濃度検出手段の検出結果に基づき、上記スラッジ水が濃厚な場合は上記スラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、上記スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段と」と訂正する。
5.特許第3108863号の明細書中特許請求の範囲の請求項7を、特許請求の範囲の減縮を目的として削除する。
6.特許第3108863号の明細書中【0005】段落の「を備えたことを特徴とする」を、明瞭でない記載の釈明を目的として「を備えると共に、上記スラッジ水の濃度調整が、上記スラッジ水が濃厚な場合は上記スラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記第1工程を繰り返し実行することによってなされ、上記第1工程の実行中、上記原水槽内の水を常時一定速度で撹拌することを特徴とする」と訂正する。
7.特許第3108863号の明細書中【0009】段落の「請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成に加え、上記第1工程の実行中、上記原水槽内の水を常時一定速度で撹拌することを特徴としている。」を、明瞭でない記載の釈明を目的として削除する。
8.特許第3108863号の明細書中【0010】段落の「このように、本発明では、第1工程の実行中、原水槽内の水を常時一定速度で撹拌するので、スラッジの堆積固着やアルカリ皮膜の付着を一層良好に防止することができる。なお、原水層内の水を低速で撹拌し、スラッジを沈降させることも提案されているが、本発明ではスラッジ水を沈降によらずに濃縮化しているので、撹拌速度を低速化する必要もない。従って、本発明では、請求項1記載の発明の効果に加えて、スラッジの堆積固着やアルカリ皮膜の付着を一層良好に防止して、前述の障害の発生を一層良好に防止すると共に、前述の作業を一層良好に軽減することができるといった効果が生じる。」を、明瞭でない記載の釈明を目的として「また、本発明では、第1工程の実行中、原水槽内の水を常時一定速度で撹拌するので、スラッジの堆積固着やアルカリ皮膜の付着を一層良好に防止することができる。なお、原水槽内の水を低速で撹拌し、スラッジを沈降させることも提案されているが、本発明ではスラッジ水を沈降によらずに濃縮化しているので、撹拌速度を低速化する必要もない。従って、本発明では、スラッジの堆積固着やアルカリ皮膜の付着を一層良好に防止して、前述の障害の発生を一層良好に防止すると共に、前述の作業を一層良好に軽減することができる。」と訂正する。
9.本件明細書の【0015】段落中の「原水槽内の水を、洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し」を、明瞭でない記載の釈明を目的として「原水槽内の水を一定速度で撹拌しながら、その水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し」と訂正する。
10.、特許第3108863号の明細書中【0015】段落の「該濃度検出手段の検出結果に基づき、上記スラッジ水の濃度を調整した後、そのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段と」を、明瞭でない記載の釈明を目的として「該濃度検出手段の検出結果に基づき、上記スラッジ水が濃厚な場合は上記スラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、上記スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る濃度調整手段と」と訂正する。
11.特許第3108863号の明細書中【0016】段落の「原水槽内の水を、洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し」を、明瞭でない記載の釈明を目的として「原水槽内の水を一定速度で撹拌しながら、その水を洗浄水または希釈押水として利用して残存生コンクリートを処理し」と訂正する。
12.、本件明細書の【0016】段落中の「濃度検出手段は、濃縮化後のスラッジ水の濃度を検出し、濃度調整手段は、その検出結果に基づいてスラッジ水の濃度を調整した後、そのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る」を、明瞭でない記載の釈明を目的として「濃度検出手段は、濃縮化後のスラッジ水の濃度を検出し、濃度調整手段は、その検出結果に基づいてそのスラッジ水が濃厚な場合はスラッジ水を希釈し、上記スラッジ水が希薄な場合は上記濃縮化手段の処理を繰り返し実行させ、上記スラッジ水が適切な濃度の場合はそのスラッジ水を生コンクリート製造プラントへ送る」と訂正する。
13.特許第3108863号の明細書中【0020】段落を、明瞭でない記載の釈明を目的として削除する。
14.特許第3108863号の明細書中【00201】段落を、明瞭でない記載の釈明を目的として削除する。
異議決定日 2002-06-25 
出願番号 特願平8-343854
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C02F)
P 1 651・ 113- YA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 紀子  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 西村 和美
唐戸 光雄
登録日 2000-09-14 
登録番号 特許第3108863号(P3108863)
権利者 グレースケミカルズ株式会社 株式会社コンテック
発明の名称 残存生コンクリートの処理方法および処理装置  
代理人 藤野 清規  
代理人 足立 勉  
代理人 葛和 清司  
代理人 足立 勉  
代理人 足立 勉  

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