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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A44B 審判 全部申し立て 2項進歩性 A44B |
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管理番号 | 1065881 |
異議申立番号 | 異議2001-70628 |
総通号数 | 35 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2001-04-17 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-02-28 |
確定日 | 2002-07-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3080621号「コイルフアスナー継手形成用スライダー」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3080621号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 同請求項3、4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯の概要 本件特許3080621号発明は、平成11年10月13日に特許出願され、平成12年6月23日に設定登録(平成12年8月28日特許公報発行)がなされ、その後、平成13年2月28日付けで敷島紡績株式会社より特許異議の申立がなされ、平成13年7月19日付けで取消理由の通知がなされ、その指定期間内である平成13年7月19日に意見書の提出とともに訂正請求がなされ、さらに平成13年12月12日付けで取消理由の通知がなされ、その指定期間内である平成14年2月18日に意見書が提出されたものである。 2.訂正の適否 (1)訂正の内容 A.訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1乃至4に係わる記載(分説して示す) 「請求項1 イ)基布両端部のそれぞれに接合されたコイル状フアスナーエレメント列同士を上下方向から噛み合わせて無端状基布を形成するためのコイルフアスナー継手形成用のスライダーであって、 ロ)スライダーの前端垂直面には、前記両端部のコイル状フアスナーエレメント列の一方のエレメント列が挿入される一方側開放挿入口Aと、他方のエレメント列が挿入される他方側開放挿入口Bが形成され、 ハ)該挿入口Aと該挿入口Bは、前記前端垂直面において上下方向では互いに位置をずらし左右方向では一部重なった領域であるエレメント列噛み合わせ領域Wを有しており、 二)該スライダーの後端垂直面には、上下方向、左右方向共に同一領域を有する両側開放共通出口Cが形成され、 ホ)該スライダーの左右両側端垂直面には、前記挿入口A、Bから挿入された各コイル状ファスナーエレメント列を前記共通出口Cに案内する連続した横長孔を有する案内導溝が形成されており、 へ)且つ前記コイル状エレメント列相互を上下方向から加圧錠止するための加圧錠止体を具備したこと ト)を特徴とするコイルファスナー継手形成用スライダー。 請求項2 チ)共通出口Cの高さ位置を挿入口Aと挿入口Bの高さ位置の中間位置とすることにより、 リ)スライダーの左右両側端垂直面に形成される一方の案内導溝に上方から下方へ傾斜するダウン傾斜部Dを形成し、他方の案内導溝に下方から上方へ傾斜するアップ傾斜部Uを形成したこと ヌ)を特徴とする請求項1記載のコイルファスナー継手形成用スライダー。 請求項3 ル)加圧錠止体を、少なくともコイル状ファスナーエレメント列に当接する球状体と該球状体を加圧する弾性体とから構成したこと ヲ)を特徴とする請求項1又は2記載のコイルファスナー継手形成用スライダー。 請求項4 ワ)球状体及び弾性体が、スライダー本体内部に設けられた縦穴溝内に配置され、 力)該縦穴溝上には該弾性体の変位量を調整する調整ねじ部が設けられていること ヨ)を特徴とする請求項3記載のコイルファスナー継手形成用スライダー。」 を、 「請求項1 イ)プラスティック織物本体の両端部のそれぞれに、相互錠止し合うべく予め成型された伸縮能を有する一本の合成樹脂線材から成るコイル状ファスナーエレメント列を、直接プラスティック織物本体を構成する経糸の折り返しループにからませて取り付け、該両端部のコイル状フアスナーエレメント列同士を上下方向から噛み合わせて無端状プラスティック織物を形成するためのコイルファスナー継手形成用スライダーであって、 ロ)スライダーの前端垂直面には、前記両端部のコイル状フアスナーエレメント列の一方のエレメント列が挿入される一方側開放挿入口Aと、他方のエレメント列が挿入される他方側開放挿入口Bが形成され、 ハ)該挿入口Aと該挿入口Bは、前記前端垂直面において上下方向では互いに位置をずらし左右方向では前記各エレメント列が該挿入口に挿入した段階で同一軸線上に位置した状態を呈することができる一部重なった領域であるエレメント列噛み合わせ領域Wを有しており、 二)該スライダーの後端垂直面には、上下方向、左右方向共に同一領域を有する両側開放共通出口Cが形成され、 ホ)該スライダーの左右両側端垂直面には、前記挿入口A、Bから挿入された各コイル状ファスナーエレメント列を前記共通出口Cに案内する連続した横長孔を有する案内導溝が形成されており、 へ)且つ前記コイル状エレメント列と当接する部分に該エレメント列相互を上下方向から加圧錠止するための加圧錠止体を具備したこと ト)を特徴とするコイルファスナー継手形成用スライダー。 請求項2 チ)共通出口Cの高さ位置を挿入口Aと挿入口Bの高さ位置の中間位置とすることにより、 リ)スライダーの左右両側端垂直面に形成される一方の案内導溝に上方から下方へ傾斜するダウン傾斜部Dを形成し、他方の案内導溝に下方から上方へ傾斜するアップ傾斜部Uを形成し、該各傾斜部から共通平面部に至った箇所にコイル状ファスナーエレメント列厚さに応じて加圧力を調整できる加圧錠止体を配設することにより、プラスティック織物平面を基準面として各エレメント列を互いに上下対称に屈曲させ、上下両方向からエレメント列の相互の噛合頭と噛合頭間とを噛合わせていること ヌ)を特徴とする請求項1記載のコイルファスナー継手形成用スライダー。 請求項3 ル)加圧錠止体を、少なくともコイル状フアスナーエレメント列に当接する上下方向の移動及び回転自在な球状体と該球状体を加圧する弾性体とから構成したこと ヲ)を特徴とする請求項1又は2記載のコイルフアスナー継手形成用スライダー。 請求項4 ワ)球状体及び弾性体が、スライダー本体内部に設けられた縦穴構内に配置されていることにより、該球状体が該縦穴構内にて上下方向に移動可能であり、 力)該縦穴溝上には該弾性体の変位量を調整することにより、コイル状ファスナーエレメント列厚さに応じて、該弾性体による加圧力を調整、維持可能とする調整ねじ部が設けられていること ヨ)を特徴とする請求項3記載のコイルファスナー継手形成用スライダー。」 と訂正する。 B.訂正事項b 本件特許明細書の第4頁第26行目〜第5頁第25行目(特許公報5欄14行〜6欄5行) 「本発明のコイルファスナー継手形成用スライダーは、…上記課題を解決するものである。」を、 「本発明のコイルファスナー継手形成用スライダーは、プラスティック織物本体の両端部のそれぞれに、相互錠止し合うべく予め成型された伸縮能を有する一本の合成樹脂線材から成るコイル状フアスナーエレメント列を、直接プラスティック織物本体を構成する経糸の折り返しループにからませて取り付け、両端部のコイル状ファスナーエレメント列同士を上下方向から噛み合わせ、無端状に接合するようにしたプラスティック織物の継手を、錠止及び分離するための継手形成用スライダーであって、スライダーの前端垂直面には、前記両端部のコイル状フアスナーエレメント列の一方のエレメント列が挿入される一方側開放挿入口Aと、他方のエレメント列が挿入される他方側開放挿入口Bが形成され、該挿入口Aと該挿入口Bは、前記前端垂直面において上下方向では互いに位置をずらし、左右方向では前記各エレメント列が該挿入口に挿入した段階で同一軸線上に位置した状態を呈することができる一部重なった領域であるエレメント列噛み合わせ領域Wを有しており、該スライダーの後端垂直面には、上下方向、左右方向共に同一領域を有する両側開放共通出口Cが形成され、該スライダーの左右両側端垂直面には、前記挿入口A、Bから挿入された各コイル状フアスナーエレメント列を前記共通出口Cに案内する連続した横長孔を有する案内導溝が形成されており、且つ前記コイル状エレメント列と当接する部分に該エレメント列同士を上下方向から加圧して噛み合わせるための加圧錠止体を具備するものであり、また、共通出口Cの高さ位置を挿入口Aと挿入口Bの高さ位置の中間位置とすることにより、スライダーの左右両側端垂直面に形成される一方の案内導溝に上方から下方へ傾斜するダウン傾斜部Dを形成させ、他方の案内導溝に下方から上方へ傾斜するアップ傾斜部Uを形成し、該各傾斜部から共通平面部に至った箇所にエレメント列の厚さに応じて加圧力を調整できる加圧錠止体を配設することにより、プラスティック織物平面を基準面として各エレメント列を互いに上下対称に屈曲させ、上下両方向からエレメント列の相互の噛合頭と噛合頭間とを噛合わせているものであり、また、加圧錠止体を、少なくともコイル状ファスナーエレメント列に当接する上下方向の移動及び回転自在な球状体と該球状体を加圧する弾性体とから構成したものであり、また、球状体及び弾性体が、スライダー本体内部に設けられた縦穴構内に配置され、該縦穴溝上には該弾性体の変位量を調整する調整ねじ部が設けられていることにより、前記球状体が前記縦穴溝内にて上下方向に移動可能であり、且つコイル状フアスナーエレメント列厚さに応じて前記弾性体による加圧力を調整、維持可能とした、コイルフアスナー継手形成用スライダーを以て上記課題を解決するものである。」に、訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 A.訂正事項aについて 上記訂正事項aは、特許明細書の特許請求の範囲に記載された、 「基布両端部のそれぞれに接合されたコイル状フアスナーエレメント列同士を上下方向から噛み合わせて無端状基布を形成するためのコイルフアスナー継手形成用のスライダー」を、 より下位概念のi「プラスティック織物本体の両端部のそれぞれに、相互錠止し合うべく予め成型された伸縮能を有する一本の合成樹脂線材から成るコイル状フアスナーエレメント列を、直接プラスティック織物本体を構成する経糸の折り返しループにからませて取り付け、該両端部のコイル状ファスナーエレメント列同士を上下方向から噛み合わせて無端状プラスティック織物を形成するためのコイルフアスナー継手形成用スライダー」に、 「左右方向では一部重なった領域」を、 より下位概念であるii「左右方向では前記各エレメント列が該挿入口に挿入した段階で同一軸線上に位置した状態を呈することができる一部重なった領域」に、 「コイル状エレメント列相互を上下方向から加圧錠止するための加圧錠止体」を、 より下位概念であるiii「コイル状エレメント列と当接する部分に該エレメント列相互を上下方向から加圧錠止するための加圧錠止体」に、 「スライダーの左右両側端垂直面に形成される一方の案内導満に上方から下方へ傾斜するダウン傾斜部Dを形成し、他方の案内導溝に下方から上方へ傾斜するアップ傾斜部Uを形成したことを特徴とする」を、 より下位概念であるiv「スライダーの左右両側端垂直面に形成される一方の案内導溝に上方から下方へ傾斜するダウン傾斜部Dを形成し、他方の案内導溝に下方から上方へ傾斜するアップ傾斜部Uを形成し、該各傾斜部から共通平面部に至った箇所にコイル状フアスナーエレメント列厚さに応じて加圧力を調整できる加圧錠止体を配設することにより、プラスティック織物平面を基準面として各エレメント列を互いに上下対称に屈曲させ、上下両方向からエレメント列の相互の噛合頭と噛合頭間とを噛合わせていることを特徴とする」に、 「少なくともコイル状ファスナーエレメント列に当接する球状体」を、 より下位概念であるv「少なくともコイル状ファスナーエレメント列に当接する上下方向の移動及び回転自在な球状体」に、 「球状体及び弾性体が、スライダー本体内部に設けられた縦穴構内に配置され、該縦穴溝上には該弾性体の変位量を調整する調整ねじ部が設けられている」を、 より下位概念であるvi「球状体及び弾性体が、スライダー本体内部に設けられた縦穴構内に配置されていることにより、該球状体が該縦穴構内にて上下方向に移動可能であり、該縦穴溝上には該弾性体の変位量を調整することにより、コイル状フアスナーエレメント列厚さに応じて、該弾性体による加圧力を調整、維持可能とする調整ねじ部が設けられている」に、 それぞれ限定しようとするものである。 そして、上記iは、明細書第4頁第29行目〜第5頁第5行目「例えば…であって、」に記載されていたものであり、同じく上記iiは、明細書第6頁第28行目〜第7頁第6行目「このエレメント…ものとなり」に記載されていたものであり、同じく上記iiiは、明細書第9頁第3〜4行目「上記加圧錠止体…当接する部分に」に記載されていたものであり、同じく上記ivは、明細書第7頁第27行目〜第8頁第3行目「この各傾斜部から…ことすることができる。」、同頁第10〜12行目「噛み合わせる際に…ことである。」、及び第9頁第16〜19行目「コイル状ファスナーエレメント列厚さに応じて…スライダーとなる」に記載されていたものであり、同じく上記vは、明細書第9頁第10〜12行目「また球状体・・移動可能」に記載されていたものであり、同じく上記viは、明細書第8頁第23〜25行目「前記球状体が…が好ましい。」、及び明細書第9頁第15〜19行目「調整ねじ部を有することにより、コイル状フアスナーエレメント列に応じて、…を形成可能なスライダーとなる」に記載されていたものである。 従って、この訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当するものであり、また、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 B.訂正事項bについて 上記訂正事項bは、訂正された特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明との整合を図るために、明細書の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。 また、この訂正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (3)むすび したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項の規定、及び第120条の4第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、該訂正を認める。 3.特許異議の申立の概要 (1)特許異議の申立の概要 甲第1号証:特開昭57一21594号 甲第2号証:米国特許第3613176号 甲第3号証:特公昭48-9509号 甲第4号証:米国特許第3955263号 甲第5号証:実開昭52-72605号 甲第6号証:特公昭56一43号 甲第7号証:特開昭54一76341号 甲第8号証:特開昭60一48702号 甲第9号証:実開平1一173274号 甲第10号証:株式会社イマオコーポレーションのカタログコピー 4.特許異議申立てについての判断 (1)本件特許発明1〜4 訂正明細書の請求項1〜4に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」〜「本件訂正発明4」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される下記のとおりのものである(分説して示す)。 「【請求項1】 イ)プラスティック織物本体の両端部のそれぞれに、相互錠止し合うべく予め成型された伸縮能を有する一本の合成樹脂線材から成るコイル状ファスナーエレメント列を、直接プラスティック織物本体を構成する経糸の折り返しループにからませて取り付け、該両端部のコイル状フアスナーエレメント列同士を上下方向から噛み合わせて無端状プラスティック織物を形成するためのコイルファスナー継手形成用スライダーであって、 ロ)スライダーの前端垂直面には、前記両端部のコイル状フアスナーエレメント列の一方のエレメント列が挿入される一方側開放挿入口Aと、他方のエレメント列が挿入される他方側開放挿入口Bが形成され、 ハ)該挿入口Aと該挿入口Bは、前記前端垂直面において上下方向では互いに位置をずらし左右方向では前記各エレメント列が該挿入口に挿入した段階で同一軸線上に位置した状態を呈することができる一部重なった領域であるエレメント列噛み合わせ領域Wを有しており、 二)該スライダーの後端垂直面には、上下方向、左右方向共に同一領域を有する両側開放共通出口Cが形成され、 ホ)該スライダーの左右両側端垂直面には、前記挿入口A、Bから挿入された各コイル状ファスナーエレメント列を前記共通出口Cに案内する連続した横長孔を有する案内導溝が形成されており、 へ)且つ前記コイル状エレメント列と当接する部分に該エレメント列相互を上下方向から加圧錠止するための加圧錠止体を具備したこと ト)を特徴とするコイルファスナー継手形成用スライダー。 【請求項2】 チ)共通出口Cの高さ位置を挿入口Aと挿入口Bの高さ位置の中間位置とすることにより、 リ)スライダーの左右両側端垂直面に形成される一方の案内導溝に上方から下方へ傾斜するダウン傾斜部Dを形成し、他方の案内導溝に下方から上方へ傾斜するアップ傾斜部Uを形成し、該各傾斜部から共通平面部に至った箇所にコイル状ファスナーエレメント列厚さに応じて加圧力を調整できる加圧錠止体を配設することにより、プラスティック織物平面を基準面として各エレメント列を互いに上下対称に屈曲させ、上下両方向からエレメント列の相互の噛合頭と噛合頭間とを噛合わせていること ヌ)を特徴とする請求項1記載のコイルファスナー継手形成用スライダー。 【請求項3】 ル)加圧錠止体を、少なくともコイル状フアスナーエレメント列に当接する上下方向の移動及び回転自在な球状体と該球状体を加圧する弾性体とから構成したこと ヲ)を特徴とする請求項1又は2記載のコイルフアスナー継手形成用スライダー。 【請求項4】 ワ)球状体及び弾性体が、スライダー本体内部に設けられた縦穴構内に配置されていることにより、該球状体が該縦穴構内にて上下方向に移動可能であり、 力)該縦穴溝上には該弾性体の変位量を調整することにより、コイル状ファスナーエレメント列厚さに応じて、該弾性体による加圧力を調整、維持可能とする調整ねじ部が設けられていること ヨ)を特徴とする請求項3記載のコイルファスナー継手形成用スライダー。」 (2)取消理由通知及び引用刊行物 当審は、平成13年12月7日付けで、本件の請求項1〜4に係る特許発明は、本件特許出願前に頒布されたつぎの刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨の取消理由を通知した。 刊行物1:特開昭60-48702号公報(甲第8号証) 刊行物2:米国特許第3613176号明細書(甲第2号証) 刊行物3:米国特許第3955263号明細書(甲第4号証) 当審が通知した、取消理由に引用した刊行物1(特開昭60-48702号公報:特許異議申立人の提出した甲8第号証)には、図面とともに、以下のことが記載されている。 記載事項a.(3ページ左下欄5行〜3ページ右下欄15行) 「近年開発されたこれらのデバイスでは、個々の歯の代わりにテープの向かい合った縁に縫いつけられている連結した一連の連結されたループが用いられている。以下にコイルと呼ぶこれらの連続したループは、形成用布及び乾燥用布として一般的に用いられているもののように、布が極めて堅くまた比較的太めの丈夫なプラスチック糸で織られていても、連続布ベルトの縫い目に用いることも可能である。 上述の型の典型的な乾燥用布を第1図に示す。この布の2列の横糸10,20の間には縦糸30,40が通常の方法で織られている。最後の横糸列を通過した各縦糸はループ50を作るように折返され、手縫デバイスを用いて布の中に織込まれる。・・・糸は充分に丈夫なプラスチックのモノフィラメントとして布に必要な硬さを与えることが好ましい。 縦糸を上述のように布の中に織込む前に、ループ50によって形成されている布端70に、好ましくは連続コイル80を糸通しすることによって、連続したコイル80をコイル60を取付けておく。 ・・・ コイルはナイロン或はポリエステルのモノフィラメントであることが好ましい。」 記載事項b.(4ページ左下欄12行〜5ページ左下欄11行) 「第6図乃至第8図に示す工具190は、上及び下の圧力板200及び210を備え、これらの圧力板は2つのはさみ腕220及び230によって第6図に示すように対面するようになっている。板200は垂直のスタッド240によって腕220に結合され、また板210はねじ手段250によって腕230に回転可能なように結合されている。これらの腕はピボットねじ260によって回転可能なように結合されている。各腕には、この工具を丁度普通のはさみのように保持し、操作できるようにするためのハンドル孔270及び280が設けてある。ハンドルの端を離せば板も離れ、逆に端を近づければ板も近づくようになる。 上圧力板200の詳細を第8図に示す。上板200の底面は第1の平らな領域290,この第1の領域290と同一平面をなしている第2の平らな領域300、及び第3の平らな領域310からなっている。 この工具を用いて継目を閉じる場合、第1及び第3の領域が互いに隣接し合い、第2の領域が両領域の「下流」に位置するようにして矢印320の方向に工具を移動させる。第1及び第3の領域は垂直壁330によって結合されており、この壁は後述するようにコイルを結合する面をなしている。第8図に示すように、第3の領域310は第1の領域290及び第2の領域300から垂直方向にずらせてあり、これらの領域よりも上方に位置している。これらの領域間の垂直距離は約12.7mm(1/2インチ)である。傾斜領域340が第2の領域300と領域310とを結合している。各板には圧力ローラを保持するための孔350,360及び370が設けてある。これらのローラの機能に関して以下に説明する。 下圧力板210の上面は上圧力板200の底面と相補的になっていて、第6図に示すように2つの板はかみ合わせることができる。 上記の圧力ローラを第7図に示す。一方の圧力ローラ375は矢印400で示す工具移動方向に対して直角な回転軸を持つように孔370の中に取付けられている。 ・・・ 工具は以下のように操作する。2つの圧力板を互いに密着せしめて位置ぎめすると、それらの間に2つのチャンネルが形成される。下側チャンネルは本質的に水平で、第1の領域290及び第2の領域300と下板の対応領域とによって限定されるものである。上側チャンネルは下側チャンネルと平行に始まり、この部分は第3の領域310及び垂直壁330と下板の対応領域とによって限定されている。次で上側チャンエルは傾斜領域340を通して下側チャンネルに向かい、これと結合する。従って2つのチャンネルはY字状をなしている。 工具を使用するには、布端70及び100の角75及び105を工具190の板200と210との間に挿入し、ハンドルを握って布に圧力を加え、そして工具を第9図の矢印400方向へ移動させる。第6図に示すように、布端100は上側チャンネルを、また布端70は下側チャンネルを通過する。工具を通過する両布端は壁330によって限定される共通垂直面に向かって押付けられる。このように、工具は、コイル80及び110をかみ合わせる直前にそれらを垂直壁330と平行な垂直面に沿うようにならべてしまうのである。コイルの実際のかみ合わせは、上側の布端100が傾斜領域340に沿って走行する時にそのコイル110のループが下側布端70のコイル80のループの中へ押込まれることによって行なわれる。この作用はループを押しつけるローラ375によって援助される。両布端が第2の領域に到達するまでにコイルは結合されてしまい。両布端は同一平面となり、第4図及び第5図に示すように継ぎ合わされている。」 記載事項c.(5ページ右下欄15行〜6ページ左上欄11行) 「本工具の1つの主要な長所は、上述したように両布端を同一平面ではなくずらせて保ちながらそれらを重ね合わせることである。この特色は、布が硬い形成用布である場合に特に重要である。これらの布は通常は二次元的安定性を呈するものである。換言すれば、これらの布は布と同一平面をなす力に抵抗する。もし布端に布と同一平面をなす力を加えると、布はこの力に抵抗してその面に垂直な方向にゆがんでしまう。通常は、2枚の布の縁は2枚の布と同一の面内を縁を並べてジップする。従って縁を結合する際に継ぎ目と縁の残余部分とが布の面内でY字形をなしてしまう。しかし乾燥用布では前述した理由からこのようにしてジップする訳にはいかない。本工具は、継目と2つの縁部分とが布の面に垂直にY字形をなすように(第6図参照)2枚の布をジップすることによってこの問題を解消しているのである。」 また、当審が通知した、取消理由に引用した刊行物2(米国特許第3613176号:特許異議申立人の提出した甲第2号証)には、ファスナー用スライダーについて、図面とともに、以下のことが記載されている(翻訳は当審による)。 記載事項d.(第2欄63行〜第3欄19行) 「図、特に2,3,5図を参照すると、スライダー1は入口端20と出口端30及び上側溝2と下側溝3を有し、後者の溝は2図に示すように実質的に水平であり、これらの溝は垂直方向に離れており横方向に相互にオフセットしている。上側すなわち第1の溝2は、3図に示すように、入口端20からある長さだけ水平で、4の部分で下方に傾斜し、第2の溝3と合流し、のど部5を形成する。第2の、すなわち下側の溝3は、該入口端20から第1の溝との合流部分まで水平方向に延びる。のど部5も、水平方向に延び、ガイドステップ6を形成するため下がり、出口端30からガイドステップ6に向かって水平方向に延びるトング7につながる。スライダー1には把手3があり、横断方向にあいた上下の孔9,10があり、上の孔9には横断軸11が嵌合し、その両端に圧力ローラ12が取り付けられる。」 また、当審が通知した、取消理由に引用した刊行物3(米国特許第3955263号明細書:特許異議申立人の提出した甲第4号証)には、ファスナー用スライダーについて、図面とともに、以下のことが記載されている(翻訳は当審による)。 記載事項e.(第5欄23〜37行) 「10図のスライド部材は、閉鎖工程中布ベルトの両端を平行に保ち続けることを可能とするものである。すなわち、このスライド部材は、1図に示すような、平面内では変形しずらく、平面と垂直な方向には変形可能な布ベルトに好ましく用いられる。10図で長手方向断面図を、11図で、10図のa,b線での断面図を、そして12図で上面図を示すこのスライド部材は、2つのパーツすなわちボルト35で一体に結合された上側板33と下側板34とを有する。2枚の板33,34は、スライド部材の先端部分で、ボルトがとおる中間シム36を介して横方向に分離している。」 記載事項f(第6欄35〜41行) 「13図に断面を示すスライド部材の変形例のように、各プレートに溝を設けることができる。すなわち、このスライド部材は10図に示すものと同じタイプだが、下側板34に溝38があるので、上側板と下側板とが同じ形状となり、一種類の板を作成すれば足りるようになっている。」 (3)対比・判断 【本件訂正発明1について】 刊行物1には、プラスチック糸で織られた布を構成する経糸の折り返しループ50によって形成されている布端70に、ナイロン或いはポリエステルモノフィラメントの連続コイル80を糸通しすることにより、コイル60を取り付けたものより成るジッパが記載されている(記載事項a及び第1図参照)。 刊行物1には、また、かかるジッパを噛み合わせて、無端状プラスチック織物(すなわち、プラスチック糸からなる織物)を形成するための、工具190が記載されている。 該工具190は、上下の圧力板200,210を有し、それらの間に形成される上下側2つのチャンネルに、それぞれの布端を、壁330によって限定される共通垂直面に向かって押し付けるように通し、コイル80及び110を、噛み合わせる直前に、垂直壁330と平行な垂直面に沿うように並べ、ローラ375の支援によって、ループを押し込んで、布端を噛み合わせるものである(記載事項b及び6〜8図参照)。 本件訂正発明1(以下「前者」という)を、刊行物1記載のもの(以下「後者」という)と比較する。 後者の工具は、プラスチック糸で織られた布の、経糸の折り返しループ50によって形成されている布端70に、ナイロン或いはポリエステルモノフィラメントの連続コイル80を糸通しすることにより、コイル60を取り付けたものより成るジッパを上下方向より噛み合わせて、連続布ベルトを形成するために用いられるものであるので、前者の「プラスティック織物本体の両端部のそれぞれに、相互錠止し合うべく予め成型された伸縮能を有する一本の合成樹脂線材から成るコイル状ファスナーエレメント列を、直接プラスティック織物本体を構成する経糸の折り返しループにからませて取り付け、該両端部のコイル状フアスナーエレメント列同士を上下方向から噛み合わせて無端状プラスティック織物を形成するためのコイルファスナー継手形成用スライダー」に相当する。 また、後者の上下のチャンネルの入口は、上下方向にずれて位置し、これに、前者のプラスティック織物にあたるプラスチック糸で織られた布のそれぞれの布端が通されるものであるので、前者の「解放側挿入口A,B」に対応する。 また、後者のチャンネルの出口は、両布端に共通の第2の領域につながっているから、前者の「上下方向、左右方向共に同一領域を有する両側開放共通出口C」に相当する。 そして、後者のチャンネルは、工具の左右両側端に連続した横長孔状に延びていて、布両端を案内するものであるので、前者の「前記挿入口A、Bから挿入された各コイル状ファスナーエレメント列を前記共通出口Cに案内する連続した横長孔を有する案内導溝」に相当する。 さらに、後者の圧力ローラ375は、ループを押しつけて、上側布端のコイルのループが下側布端のコイルのループの中へ押し込まれるのを援助するから(記載事項b)、前者の「エレメント列相互を上下方向から加圧錠止するための加圧錠止体」に相当する。 そこで、両者は、次の一致点で一致し、次の相違点1で相違する。 (一致点) 「イ)プラスティック織物本体の両端部のそれぞれに、相互錠止し合うべく予め成型された伸縮能を有する一本の合成樹脂線材から成るコイル状ファスナーエレメント列を、直接プラスティック織物本体を構成する経糸の折り返しループにからませて取り付け、該両端部のコイル状フアスナーエレメント列同士を上下方向から噛み合わせて無端状プラスティック織物を形成するためのコイルファスナー継手形成用スライダーであって、 ロ)スライダーの前端垂直面には、前記両端部のコイル状フアスナーエレメント列の一方のエレメント列が挿入される一方側開放挿入口Aと、他方のエレメント列が挿入される他方側開放挿入口Bが形成され、 ハ)’該挿入口Aと該挿入口Bは、前記前端垂直面において上下方向では互いに位置をずらしており、 二)該スライダーの後端垂直面には、上下方向、左右方向共に同一領域を有する両側開放共通出口Cが形成され、 ホ)該スライダーの左右両側端垂直面には、前記挿入口A、Bから挿入された各コイル状ファスナーエレメント列を前記共通出口Cに案内する連続した横長孔を有する案内導溝が形成されており、 へ)且つ前記コイル状エレメント列と当接する部分に該エレメント列相互を上下方向から加圧錠止するための加圧錠止体を具備したこと ト)を特徴とするコイルファスナー継手形成用スライダー。」 (相違点1) 本件訂正発明1は、「該挿入口Aと該挿入口Bは、前記前端垂直面において上下方向では互いに位置をずらし左右方向では前記各エレメント列が前記挿入口に挿入した段階で同一軸線上に位置した状態を呈することができる一部重なった領域であるエレメント列噛み合わせ領域Wを有して」いるのに対し、刊行物1記載のものは、各エレメント列に相当するコイル80及び110を、少なくとも噛み合わせる直前には、上下方向では互いに位置をずらし左右方向では同一軸線上に位置した状態に配置するものであるが、挿入口に挿入した段階で、領域Wを有しているかどうか、必ずしも明かではない点で相違している。 (相違点1についての判断) 刊行物1には、硬い形成用布は、布と同一平面をなす力に抵抗するので、両布端を同一平面ではなくずらせて保ちながらそれらを重ね合わせる必要がある旨指摘されており(記載事項c)、そのためには、スライダーに布端を導入する段階から重なる領域Wを持たせて、布端が布と同一平面内で移動する必要がないようにした方が良いことは、当業者が当然予測し得たことである。 一方、刊行物2には、製紙用布の布端を綴じるためのファスナー用スライダ1が記載されている。 そして、このスライダ1の、上側溝2と下側溝3とは、スライダ1の入り口端20において、上下方向にずれ、左右方向には一部重なるようになっている(第2欄63行〜第3欄19行、及び図面:特に5図参照)。 また、刊行物3には、製紙用布ベルト等の端部を綴じるためのファスナに関して、平面内では変形しにくいが、面に垂直方向へは変形可能な布ベルトに対して、綴じる動作中、布ベルト端を平行に保つことのできるものとして、10〜13図に示すスライド部材が記載されている(主に第5欄23〜37行、及び10〜13行参照)。 このものにおいても、中間スペース43と44とは、シム36の間隔だけ重なった状態で挿入口から平行に延びている。 そこで、刊行物2または3記載のものを、刊行物1記載のものに適用し、挿入口A,Bに、一部重なった領域であるエレメント列噛み合わせ領域Wを持たせるようにして、本件訂正発明1を構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。 なお、本件特許権者は、平成14年2月18日付け特許異議意見書において、概略、刊行物1記載の工具は、はさみ腕230と下圧力板210との連結部分が障害となって、各エレメント列を挿入口に挿入する段階で、同一軸線上に位置した状態にさせることが物理的に不可能であるから、いわゆる適用阻害要因が存在する旨主張している。 しかしながら、刊行物1記載の工具は、図6を参照すれば明らかなように、はさみ腕230と下圧力板210との連結部分に、上下の布端70と100の間で、布幅方向に水平に延びる水平案内390を有しているので、上下の布端70と100とが左右方向に一部重なり、各エレメント列が挿入口に挿入される段階で、同一軸線上に位置した状態になることを許容する構造となっているものである。 したがって、刊行物1記載のものに、刊行物2または3記載のものを適用することについて、いわゆる適用阻害要因は認められないので、本件特許権者の上記主張は採用できない。 【本件訂正発明2について】 本件訂正発明2は、本件訂正発明1の技術事項を引用するとともに、 「チ)共通出口Cの高さ位置を挿入口Aと挿入口Bの高さ位置の中間位置とすることにより、 リ)スライダーの左右両側端垂直面に形成される一方の案内導溝に上方から下方へ傾斜するダウン傾斜部Dを形成し、他方の案内導溝に下方から上方へ傾斜するアップ傾斜部Uを形成し、該各傾斜部から共通平面部に至った箇所にコイル状ファスナーエレメント列厚さに応じて加圧力を調整できる加圧錠止体を配設することにより、プラスティック織物平面を基準面として各エレメント列を互いに上下対称に屈曲させ、上下両方向からエレメント列の相互の噛合頭と噛合頭間とを噛合わせていること」 と構成を限定したものであるが、共通出口Cの高さ位置を挿入口Aと挿入口Bの高さ位置の中間位置ととする点については、上記刊行物3に記載(記載事項e、10図参照)されており、特に、ダウン傾斜部Dとアップ傾斜部Uとにより、「プラスティック織物平面を基準面として各エレメント列を互いに上下対称に屈曲させ」る点についても、刊行物3の記載事項fには、同じ形状の上側板と下側板とを向かい合わせてスライド部材を構成することができる旨記載されていることから、このものにあっては、ダウン傾斜部とアップ傾斜部とは上下対照に形成されているものと認められ、当然各エレメント列を互いに上下対称に屈曲させることができるものと認められるので、この点は、刊行物3に記載されたものに倣って当業者が容易に想到し得たことである。 また、加圧錠止体の加圧力について検討すると、刊行物1記載の工具は、はさみのようにハンドルを操作して、上下の圧力板200,210を離接させるものであって、ハンドルを握る力を調節することにより、ファスナーエレメント列の厚さに応じ圧力ローラへの加圧力を調整できるものであることは明かであるので、この点に両者の相違はない。 また、本件訂正発明2による効果も、刊行物1及び3に記載された発明から、当業者が容易に予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。 したがって、本件訂正発明2は、刊行物1及び3に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。 【本件訂正発明3について】 本件訂正発明3は、本件訂正発明1または2の技術事項を引用するとともに、 「ル)加圧錠止体を、少なくともコイル状フアスナーエレメント列に当接する上下方向の移動及び回転自在な球状体と該球状体を加圧する弾性体とから構成したこと」 と構成を限定したものである。 上記構成ル)について検討すると、特許異議申立人の提出した甲第1号証〜甲第8号証のいずれにも、加圧錠止体を、弾性体により加圧される球状体で構成することについての記載や示唆を見いだすことができない。 そして、甲第9号証には、クリックバネ21により加圧されるクリックボール20を有するスライドファスナーのスライド錠が記載されているが、このクリックボールは、スライド本体を施錠、解錠するためのダイヤル部材の位置決めのために設けられているものであって、ファスナーエレメントの加圧とは無関係のものである。 また、このもののファスナーエレメントは、布平面方向に加圧されて錠止されるものであり、本件発明が前提とする、上下方向に加圧されて錠止されるファスナーエレメントとタイプが異なるものであるので、甲第9号証には、クリックボールを、ファスナーエレメントの上下方向の加圧のために用いることの、契機となる記載を見いだすことはできない。 また、甲第10号証には、コイルバネにより加圧されるボールを有する、ロングロックボールプランジャーが記載されているが、単なる部品としてのプランジャーが開示されているのみで、このものをコイルファスナー継手形成用スライダーの加圧錠止体に適用することの契機となる記載は見出せない。 また、一般に、ローラと球状体とが周知の同等な加圧手段であって、常に置換可能なものであると言うことはできないので、上記構成ル)が、甲第2号証(刊行物2)や甲第8号証(刊行物1)等に記載された圧力ローラを、甲第9号証や甲第10号証球に記載されたクリックボールやボールのような球状体に置換するだけの、単なる設計的事項に係るものであると言うこともできない。 そして、訂正発明3は、加圧錠止体を弾性体により加圧される球状体で構成することにより、加圧錠止体の軸受けの問題を解決し、エレメント列の噛み合わせをよりスムーズにするという明細書記載の格別な作用効果を有するものである。 したがって、本件訂正発明3は、甲第1号証〜甲第10号証刊行物に記載された発明と同一であるとも、また、これらから、当業者が容易に発明をすることができたものであるとも言えない。 【本件訂正発明4について】 本件訂正発明4は、本件訂正発明3の技術事項を引用するとともに、 「ワ)球状体及び弾性体が、スライダー本体内部に設けられた縦穴構内に配置されていることにより、該球状体が該縦穴構内にて上下方向に移動可能であり、 力)該縦穴溝上には該弾性体の変位量を調整することにより、コイル状ファスナーエレメント列厚さに応じて、該弾性体による加圧力を調整、維持可能とする調整ねじ部が設けられていること」 と構成を限定したものであるが、引用した技術事項である上記ル)について新規性、進歩性が認められるので、本件訂正発明4も、甲第1号証〜甲第10号証刊行物に記載された発明と同一であるとも、また、これらから、当業者が容易に発明をすることができたものであるとも言えない。 (4)むすび 以上のとおりであるので、本件訂正発明1は、刊行物1〜3に記載されたものに基づいて、また、本件訂正発明2は、刊行物1及び3に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1、2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、本件訂正発明1、2についての特許は、特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。 一方、本件訂正発明3、4についての特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことができない。 また、他に本件訂正発明3、4についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論の通り決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 コイルフアスナー継手形成用スライダー (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 プラスティック織物本体の両端部のそれぞれに、相互錠止し合うべく予め成型された伸縮能を有する一本の合成樹脂線材から成るコイル状フアスナーエレメント列を、直接プラスティック織物本体を構成する経糸の折り返しループにからませて取り付け、該両端部のコイル状フアスナーエレメント列同士を上下方向から噛み合わせて無端状プラスティック織物を形成するためのコイルフアスナー継手形成用スライダーであって、スライダーの前端垂直面には、前記両端部のコイル状フアスナーエレメント列の一方のエレメント列が挿入される一方側開放挿入口Aと、他方のエレメント列が挿入される他方側開放挿入口Bが形成され、該挿入口Aと該挿入口Bは、前記前端垂直面において上下方向では互いに位置をずらし左右方向では前記各エレメント列が該挿入口に挿入した段階で同一軸線上に位置した状態を呈することができる一部重なった領域であるエレメント列噛み合わせ領域Wを有しており、該スライダーの後端垂直面には、上下方向、左右方向共に同一領域を有する両側開放共通出口Cが形成され、該スライダーの左右両側端垂直面には、前記挿入口A、Bから挿入された各コイル状フアスナーエレメント列を前記共通出口Cに案内する連続した横長孔を有する案内導溝が形成されており、且つ前記コイル状エレメント列と当節する部分に該エレメント列相互を上下方向から加圧錠止するための加圧錠止体を具備したことを特徴とするコイルフアスナー継手形成用スライダー。 【請求項2】 共通出口Cの高さ位置を挿入口Aと挿入口Bの高さ位置の中間位置とすることにより、スライダーの左右両側端垂直面に形成される一方の案内導溝に上方から下方へ傾斜するダウン傾斜部Dを形成し、他方の案内導溝に下方から上方へ傾斜するアップ傾斜部Uを形成し、該各傾斜部から共通平面部に至った箇所にコイル状フアスナーエレメント列厚さに応じて加圧力を調整できる加圧錠止体を配設することにより、プラスティック織物平面を基準面として各エレメント列を互いに上下対称に屈曲させ、上下両方向からエレメント列の相互の噛合頭と噛合頭間とを噛合わせていることを特徴とする請求項1記載のコイルフアスナー継手形成用スライダー。 【請求項3】 加圧錠止体を、少なくともコイル状フアスナーエレメント列に当接する上下方向の移動及び回転自在な球状体と該球状体を加圧する弾性体とから構成したことを特徴とする請求項1又は2記載のコイルフアスナー継手形成用スライダー。 【請求項4】 球状体及び弾性体が、スライダー本体内部に設けられた縦穴溝内に配置されていることにより、該球状体が該縦穴構内にて上下方向に移動可能であり、該縦穴溝上には該弾性体の変位量を調整することにより、コイル状フアスナーエレメント列厚さに応じて、該弾性体による加圧力を調整、維持可能とする調整ねじ部が設けられていることを特徴とする請求項3記載のコイルフアスナー継手形成用スライダー。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、コイルフアスナー継手形成用スライダーに関する。 【0002】 【従来の技術】 有端状の基布を無端状とする継手構造として、例えば抄紙機のドライヤーパートに使用される抄紙用ドライヤーカンバスの場合は、プラスティック製モノフィラメントからなる経糸と緯糸にてカンバスを織成し、有端状のドライヤーカンバス本体の両端に継ぎ手部を設け、その両端部を継ぎ手にて連結し無端状として使用されている。この継ぎ手の構造としては、有端状のカンバス本体の両端部から緯糸を除去して、緯糸を除去することにより露出した簾状の経糸を折り返し、適宜その一部をループ形状とし、経糸の折り返し先端部をカンバス本体に織り込み、カンバス本体の両端部に形成された経糸ループ同士を噛み合わせ、噛み合わせて形成される経糸ループ共通孔に接続用芯線を挿通し連結するワープループシーム構造や、前記経糸ループに合成樹脂モノフィラメントからなるスパイラル線条を噛み合わせ、噛み合わせて形成される共通孔にスパイラル線条固定用芯線を挿通し、カンバス本体の両端部に形成されたスパイラル線条同士を噛み合わせ、噛み合わせて形成されたスパイラル線条共通孔に接続用芯線を挿通し連結するスパイラルシーム構造が一般的に採用されている。 【0003】 上記した一般的な継手に対して、継手部の接合及び分離の容易性を考慮したものとして、相互錠止し合うべく予め成型された一本の合成樹脂線材から成るコイル状フアスナーエレメント列を用い、スライダーにより継手を形成する、いわゆるコイルフアスナーを抄紙用ドライヤカンバスの継手に利用したものが従来より知られている。例えば、実開昭50-76101号公報には、スパイラル状エレメント列(コイル状フアスナーエレメント列)を一端に縫着したテープをカンバス両端部にそれぞれ縫着し、相互に噛み合わせて、共通間隙に芯線を挿入した製紙用ドライヤーカンバスの接合部が開示されている。また、特開昭60-48702号公報には、製紙に用いられる織布の両端に相互に締まりばめが得られるように予め成形されたジッパコイル(コイル状ファスナーエレメント列)を結合し、ジッパコイル同士を噛み合わせ、噛み合わせて形成される円筒形の管内にピンを挿入した継目(コイルフアスナー継手)、及び継目形成用工具(スライダー)が開示されている。 【0004】 従来よりコイルフアスナーは、例えば図7に示すように、剛性の低い布状テープ(4)端にコイル状フアスナーエレメント列(3)が接合され使用するものであるから、コイル状フアスナーエレメント列同士を継手形成用スライダーにより相互に錠止する際には、同一平面上にて左右両方向からY字状に相互のコイル状フアスナーエレメント列の噛合頭部(3h)がまるで平歯車の歯相互が噛み合うが如く噛み合わす、一般的に汎用されている横方向噛み合わせタイプの継手形成用スライダー(5)が用いられている。 【0005】 しかしながら、上記特開昭60-48702号公報に記載の継目のように、ジッパコイル(コイル状フアスナーエレメント列)を布状テープを用いることなく、直接、剛性の高い織布、例えば抄紙用ドライヤーカンバスのようなプラスティック織物に取り付けた場合においては、同一平面上にて左右両方向からY字状にジッパコイル相互の噛合頭部がまるで平歯車相互が噛み合うが如く噛み合わせることは、前記織布の剛性が高い程困難である。よって上記のような横方向噛み合わせタイプの継手形成用スライダーを用いることができないため、同公報にその継目形成用工具として、上側圧力板と下側圧力板を備え、上側チャンネルと下側チャンネルを織布に対して垂直な面に沿って変位させ、該チャンネルにジッパコイルを通過させ、上側から下側へジッパコイルの一方の務歯(エレメント)を他方の務歯(エレメント)間に挿入させる継目形成用スライダーが開示されている。また該継目形成用スライダーには、第1、第2、及び第3の圧カローラが備わっており、ジッパコイル同士を加圧して噛み合わせる手段、及び上記圧力板に力が加えられるようなハンドルを備えた継目形成用スライダーが開示されている。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、上記継目形成用スライダーにおいては、上側圧力板から形成される上側チャンネルに傾斜領域を有し、該傾斜領域を通して下側圧力板が形成する水平な下側チャンネルへジッパコイルの一方を向かいせしめ、水平に位置した他方のジッパコイル噛合頭間に上側ジッパコイル噛合頭を挿入していく継目形成手段をとっており、すなわち、この継目手段においては、単に相互のジッパコイルの噛合頭部同士が平歯車の歯の如く噛み合うのではなく、実際には下側に位置する他方のジッパコイルが形成する務歯間の隙間に、上方に位置する一方のジッパコイルの噛合頭を下側ジッパコイルの弾力に打ち勝って強制的に挿入させ、相互ジッパコイルを噛み合わせるものであった。よって、ジッパコイルの弾力に打ち勝ってジッパコイル同士を結合させるための加圧力が必要であり、そのために第1から第3の圧力ローラを備え、上下圧力板に力を加えられる丁度普通のはさみのようなハンドルを具備することが必要であった。 【0007】 このような構造を有するが故に、様々な不都合がある。例えば、継目形成用スライダーとして、非常に複雑な構造で部品点数も多く、その製造加エコストが高くなる点、圧力ローラーの軸受け部の保守が必要な点、ハンドルによる力の入れ具合によって継目形成の出来不出来が左右され、継目形成に熟練が要する点等である。 【0008】 本発明者らは、上記した問題点に鑑み、これらの問題点を解決すべく、簡単な構造で、保守手間の必要のない、また誰でも簡単に一様に継目が形成可能なプラスティック織物等の剛性の高い基布用途に適合したコイルフアスナー継手形成用スライダーを提供しようとするものである。 【0009】 【課題を解決するための手段】 本発明のコイルフアスナー継手形成用スライダーは、プラスティック織物本体の両端部のそれぞれに、相互錠止し合うべく予め成型された伸縮能を有する一本の合成樹脂線材から成るコイル状フアスナーエレメント列を、直接プラスティック織物本体を構成する経糸の折り返しループにからませて取り付け、両端部のコイル状フアスナーエレメント列同士を上下方向から噛み合わせ、無端状に接合するようにしたプラスティック織物の継手を、錠止及び分離するための継手形成用スライダーであって、スライダーの前端垂直面には、前記両端部のコイル状フアスナーエレメント列の一方のエレメント列が挿入される一方側開放挿入口Aと、他方のエレメント列が挿入される他方側開放挿入口Bが形成され、該挿入口Aと該挿入口Bは、前記前端垂直面において上下方向では互いに位置をずらし、左右方向では前記各エレメント列が該挿入口に挿入した段階で同一軸線上に位置した状態を呈することができる一部重なった領域であるエレメント列噛み合わせ領域Wを有しており、該スライダーの後端垂直面には、上下方向、左右方向共に同一領域を有する両側開放共通出口Cが形成され、該スライダーの左右両側端垂直面には、前記挿入口A、Bから挿入された各コイル状フアスナーエレメント列を前記共通出口Cに案内する連続した横長孔を有する案内導溝が形成されており、且つ前記コイル状エレメント列と当接する部分に該エレメント列同士を上下方向から加圧して噛み合わせるための加圧錠止体を具備するものであり、また、共通出口Cの高さ位置を挿入口Aと挿入口Bの高さ位置の中間位置とすることにより、スライダーの左右両側端垂直面に形成される一方の案内導溝に上方から下方へ傾斜するダウン傾斜部Dを形成させ、他方の案内導溝に下方から上方へ傾斜するアップ傾斜部Uを形成し、該各傾斜部から共通平面部に至った箇所にエレメント列の厚さに応じて加圧力を調整できる加圧錠止体を配設することにより、プラスティック織物平面を基準面として各エレメント列を互いに上下対称に屈曲させ、上下両方向からエレメント列の相互の噛合頭と噛合頭間とを噛合わせているものであり、また、加圧錠止体を、少なくともコイル状フアスナーエレメント列に当接する上下方向の移動及び回転自在な球状体と該球状体を加圧する弾性体とから構成したものであり、また、球状体及び弾性体が、スライダー本体内部に設けられた縦穴溝内に配置され、該縦穴溝上には該弾性体の変位量を調整する調整ねじ部が設けられていることにより、前記球状体が前記縦穴溝内にて上下方向に移動可能であり、且つコイル状フアスナーエレメント列厚さに応じて前記弾性体による加圧力を調整、維持可能とした、コイルフアスナー継手形成用スライダーを以て上記課題を解決するものである。 【0010】 【発明の実施の形態】 本発明のコイルフアスナー継手形成用スライダーについて図示の実施の形態を基に以下に詳細に説明する。 【0011】 図1は、本発明の継手形成用スライダー(1)(以下、本スライダーという)の斜視図であり、矢印方向Pが、本スライダーの継手形成時の進行方向を示す。図2のハッチング部に図1のf矢視の本スライダーの前端垂直面(1f)を示す。図3のハッチング部に図1のb矢視の本スライダーの後端垂直面(1b)を示す。図4のハッチング部に図1のr矢視の本スライダーの側端垂直面(1r)を示す。図5のハッチング部に図1のl矢視の本スライダーの側端垂直面(1l)を示す。 【0012】 本スライダー本体は、図4及び図5に示すように、下面に傾斜領域部を有するトップスライダー部(1t)と、上面に傾斜領域部を有するボットムスライダー部(1d)と、該トップスライダー部と該ボットムスライダー部との間に位置し、図6に示すような、一対の鋭角端を有する両傾斜領域部(1a)を備えたミドルスライダー部(1m)とから構成されている。それぞれが図2から図5に示すように、互いに接合される(例えばねじ等にて)ことにより、後述する一方側開放挿入口A(11)、他方側開放挿入口B(12)、両側開放共通出口C(13)、案内導溝(14)、ダウン傾斜部D(14d)、アップ傾斜部U(14u)、共通平面部(14w)を形成している。尚、本スライダー素材は、通常のスライダーに使用される素材であればよく、アルミ材、真鍮材等が用いられる。 【0013】 本スライダー(1)の前端垂直面(1f)には、基布例えばプラスティック織物基布(2)の両端に直接取り付けられたコイル状フアスナーエレメント列(3)の一方のエレメント列(3a)が挿入される一方側が開放状態である一方側開放挿入口A(11)と、他方のエレメント列(3b)が挿入される他方側が開放状態である他方側開放挿入口B(12)が形成され、該挿入口A(11)と該挿入口B(12)は、図2に示すように前記前端垂直面(1f)において、上下方向では互いに位置をずらし、左右方向では一部重なった領域であるエレメント列噛み合わせ領域W(1w)を有している。このエレメント列噛み合わせ領域W(1w)を有するように挿入口A及びBが形成されているため、各挿入口に沿って、プラスティック織物の両端部に取り付けられたコイル状フアスナーエレメント列を軽くスライダー内壁面に押し当てることにより、コイル状フアスナーエレメント列(3a)と(3b)は挿入口に挿入した段階で、それぞれ上下関係に位置しながらも平面的には丁度相互のエレメント列部分が重なった状態、すなわち相互に噛み合わされた状態(各コイル状フアスナーエレメント列が同一軸線(3c)上に位置した状態)と同様の位置関係を呈することができるものとなり、剛性の高い基布であっても上下方向から噛み合わせし易いものとなる。また、本スライダーの後端垂直面(1b)には、図3に示すように、上下方向、左右方向共に同一領域を有する両側が開放状態である両側開放共通出口C(13)が形成され、本スライダーの両サイドの側端垂直面(1r)(1l)には、前記挿入口A(11)、挿入口B(12)から挿入されたコイル状フアスナーエレメント列(3)を前記共通出口C(13)に案内する連続した横長孔を有する案内導溝(14)が形成されている。案内導溝(14)は図4及び図5に示すようにそれぞれの面において一方側開放挿入口A(11)、他方側開放挿入口B(12)、及び両側開放共通出口C(13)を形成している。案内導溝(14)の内部には、コイル状フアスナーエレメント列同士を上下方向から噛み合わせるための加圧錠止体(20)が配設され、これにより左右の案内導溝により導かれたコイル状フアスナーエレメント列同士が噛み合わされる。尚、上記、前端、後端とは、本スライダーの継手形成進行方向Pを基準とするものであり、傾斜面についても同様である。垂直面とは、基布面を基準に垂直の面をいう。必ずしも本スライダーの形態そのものを示すものではない。 【0014】 前記共通出口C(13)の高さ位置は、前記挿入口A(11)と挿入口B(12)の高さ位置の中間位置とすることが好ましい。中間位置とすることにより、スライダーの左右両サイドの側端垂直面に形成される一方の案内導溝に、上方から下方へ傾斜するダウン傾斜部D(14d)を形成し、他方の案内導溝に、下方から上方へ傾斜するアップ傾斜部U(14u)を形成する。この各傾斜部から共通平面部(14w)に至った箇所に前記加圧錠止体が配設されている。こうした構造とすることにより、コイル状フアスナーエレメント列(3a)と(3b)は、無端状プラスティック織物平面を基準面として上下対称の位置関係となり、上下両方向から相互のエレメント列噛合頭部をより噛み合わせしやすいものとすることができる。元々、コイル状フアスナーエレメント列は、図7に示すように、横方向噛み合わせタイプの継手形成用スライダー(5)に対応すべく成型されており、そのため当然のことながら相互錠止し合うには、同一平面上にて互いに左右対称に屈曲させ、エレメント列同士を噛み合わせる必要がある。それに対し、前述の如く本発明のように剛性の高いプラスティック織物にコイル状フアスナーエレメント列を直接接合した場合は、同一平面上で互いに左右対称に屈曲させることは困難であるため、上下方向からエレメント列同士を噛み合わせるものであるが、噛み合わせる際に重要なことは、コイル状フアスナーエレメント列を同一軸線上(3c)にて、無端状プラスティック織物平面を基準面として互いに上下対称に屈曲させ、エレメント列同士を噛み合わせることである。この方法が、最も無理のない、エレメント列の相互の噛合頭と噛合頭間とがさほどの力を必要とせずに噛み合わされる方法であり、本発明はこの条件を備えたものである。 【0015】 加圧錠止体(20)は、コイル状フアスナーエレメント列相互を上下方向から加圧できるものであればよいが、少なくともコイル状フアスナーエレメント列(3)に当接する球状体(21)と該球状体を加圧する弾性体(22)とから構成することが好ましい。球状体としては、例えばボールベアリングの硬球等が使用可能であり、特に限定されるものではない。また、弾性体としては、例えばコイル状鋼線ばね等が使用可能である。また、球状体及び弾性体が、スライダー本体内部に設けられた縦穴溝(23)に配置され、該縦穴溝上には該弾性体の変位量を調整する調整ねじ部(24)が設けられていることにより、前記球状体が前記縦穴溝内にて上下方向に移動可能であり、且つ前記弾性体による加圧力を調整可能とすることが好ましい。例えば、弾性体にコイル状鋼線ばねを使用した場合においては、ばねの変位量を調整するためのばね長さ調整ねじ部(24)と、球状体が上下方向に移動可能な縦穴溝(23)を設け、ねじを締める程度によりばねの変位量(長さ寸法)を調整し、ばねが球状体を加圧する加圧力を調整可能となる。球状体及びばねは上記縦穴溝内に位置するため、球状体は該縦穴溝内にて上下方向に移動可能となっている。 【0016】 上記加圧錠止体(20)は、コイル状フアスナーエレメント列(3)と当接する部分に球状体(21)を配置し、該球状体を加圧する弾性体(22)、これらが配置される縦穴溝(23)、及び調整ねじ部(24)とから構成されることにより、前述の加圧ローラーに比し、いくつかの利点がある。例えば、加圧ローラーのような軸受けを必要としないために保守手間が必要でない点(例えば、軸が不要のため加圧による軸の破損等の恐れがない等)、また加工手間を必要としない点(例えば、ベアリングの硬球等が利用可能で、前述のようにスライダー本体のトップスライダー部に縦穴溝、及びねじ部を設ければよい)、また球状体であるが故に、前後左右いかなる方向にも回転自在であり、また球状体が上下方向にも移動可能であるため極めて自由度が高い加圧錠止体となり、コイル状フアスナーエレメント列の軸線上におけるスライダーの進退に伴うエレメント列相互の錠止、分離が容易なものとなる。さらに、エレメント列同士の押さえつけが球面に沿って行われ、よりスムーズな噛み合わせが可能となる。また調整ねじ部(24)を有することにより、コイル状フアスナーエレメント列厚さに応じて、また最も噛み合わせがしやすい加圧力を維持できるため、エレメント列同士の噛み合わせのための熟練を必要とせず、本スライダーをただ単にスライドさせるだけで誰もが一様に容易に継手を形成可能なスライダーとなる。 【0017】 以上、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明したが、本発明はかかる実施の形態に限定されず、本発明の範囲内でその具体的構造に種々の変更を加えてもよいことはいうまでもない。 【0018】 【発明の効果】 以上詳述したように、本発明により、エレメント列噛み合わせ領域Wを形成するように挿入口A及びBが設けられているため、挿入口に挿入した段階で各コイル状フアスナーエレメント列が同一軸線上に位置した状態を呈することができ、上下方向から噛み合わせし易い継手形成用スライダーを得ることが出来たものである。また共通出口Cの高さ位置を挿入口AとBの中間位置とすることにより、各コイル状フアスナーエレメント列を基布平面を基準面として互いに上下対称に屈曲でき、さほどの力を必要とせずに加圧錠止体により上下両方向から噛み合わせし易い継手形成用スライダーを得ることが出来たものである。また、加圧錠止体は球状体、弾性体、縦穴溝、及び調整ねじ部から構成される単純な構造であり、保守手間がかからず、さらには熟練を必要とせず、本スライダーをスライドさせるだけで、誰もが一様にエレメント列相互の錠止、分離が容易な継手形成用スライダーを得ることが出来たものである。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の継手形成用スライダーの斜視図である。 【図2】 図1のf矢視の本スライダーの前端垂直面(1f)を示す図である。 【図3】 図1のb矢視の本スライダーの後端垂直面(1b)を示す図である。 【図4】 図1のr矢視の本スライダーの側端垂直面(1r)を示す図である。 【図5】 図1のl矢視の本スライダーの側端垂直面(1l)を示す図である。 【図6】 ミドルスライダー部の斜視図である。 【図7】 一般的なコイルフアスナーの平面図である。 【符号の説明】 1 継手形成用スライダー 1f スライダーの前端垂直面 1b スライダーの後端垂直面 1r スライダーの右側端垂直面 1l スライダーの左側端垂直面 1w エレメント列噛み合わせ領域W 1t トップスライダー部 1d ボットムスライダー部 1m ミドルスライダー部 1a 両傾斜領域部 2 プラスティック織物基布 3 コイル状フアスナーエレメント列 3a 挿入口Aに挿入されたコイル状フアスナーエレメント列 3b 挿入口Bに挿入されたコイル状フアスナーエレメント列 3c コイル状フアスナーエレメント列の軸線 3h コイル状フアスナーエレメント列の噛合頭部 4 布状テープ 5 横方向噛み合わせタイプの継手形成用スライダー 11 一方側開放挿入口A 12 他方側開放挿入口B 13 両側開放共通出口C 14 案内導溝 14d ダウン傾斜部D 14u アップ傾斜部U 14w 共通平面部 20 加圧錠止体 21 加圧錠止体の球状体部 22 加圧錠止体の弾性体部 23 縦穴溝 24 弾性体の加圧力を調整する調整ねじ部 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 訂正事項a 特許第3080621号発明の明細書中、特許請求の範囲の請求項1乃至4に係わる記載を、特許請求の範囲の減縮を目的として、 「請求項1. プラスティック織物本体の両端部のそれぞれに、相互錠止し合うべく予め成型された伸縮能を有する一本の合成樹脂線材から成るコイル状ファスナーエレメント列を、直接プラスティック織物本体を構成する経糸の折り返しループにからませて取り付け、該両端部のコイル状ファスナーエレメント列同士を上下方向から噛み合わせて無端状プラスティック織物を形成するためのコイルファスナー継手形成用スライダーであって、 スライダーの前端垂直面には、前記両端部のコイル状フアスナーエレメント列の一方のエレメント列が挿入される一方側開放挿入口Aと、他方のエレメント列が挿入される他方側開放挿入口Bが形成され、 該挿入口Aと該挿入口Bは、前記前端垂直面において上下方向では互いに位置をずらし左右方向では前記各エレメント列が該挿入口に挿入した段階で同一軸線上に位置した状態を呈することができる一部重なった領域であるエレメント列噛み合わせ領域Wを有しており、 該スライダーの後端垂直面には、上下方向、左右方向共に同一領域を有する両側開放共通出口Cが形成され、 該スライダーの左右両側端垂直面には、前記挿入口A、Bから挿入された各コイル状ファスナーエレメント列を前記共通出口Cに案内する連続した横長孔を有する案内導溝が形成されており、 且つ前記コイル状エレメント列と当接する部分に該エレメント列相互を上下方向から加圧錠止するための加圧錠止体を具備したこと を特徴とするコイルファスナー継手形成用スライダー。 請求項2. 共通出口Cの高さ位置を挿入口Aと挿入口Bの高さ位置の中間位置とすることにより、 スライダーの左右両側端垂直面に形成される一方の案内導満に上方から下方へ傾斜するダウン傾斜部Dを形成し、他方の案内導溝に下方から上方へ傾斜するアップ傾斜部Uを形成し、該各傾斜部から共通平面部に至った箇所にコイル状ファスナーエレメント列厚さに応じて加圧力を調整できる加圧錠止体を配設することにより、プラスティック織物平面を基準面として各エレメント列を互いに上下対称に屈曲させ、上下両方向からエレメント列の相互の噛合頭と噛合頭間とを噛合わせていること を特徴とする請求項1記載のコイルファスナー継手形成用スライダー。 請求項3. 加圧錠止体を、少なくともコイル状ファスナーエレメント列に当接する上下方向の移動及び回転自在な球状体と該球状体を加圧する弾性体とから構成したこと を特徴とする請求項1又は2記載のコイルフアスナー継手形成用スライダー。 請求項4. 球状体及び弾性体が、スライダー本体内部に設けられた縦穴構内に配置されていることにより、該球状体が該縦穴構内にて上下方向に移動可能であり、 該縦穴溝上には該弾性体の変位量を調整することにより、コイル状ファスナーエレメント列厚さに応じて、該弾性体による加圧力を調整、維持可能とする調整ねじ部が設けられていること を特徴とする請求項3記載のコイルファスナー継手形成用スライダー。」と訂正する。 訂正事項b 特許第3080621号発明の明細書中、第4頁第26行目〜第5頁第25行目(特許公報5欄14行〜6欄5行)「本発明のコイルファスナー継手形成用スライダーは、…上記課題を解決するものである。」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「本発明のコイルファスナー継手形成用スライダーは、プラスティック織物本体の両端部のそれぞれに、相互錠止し合うべく予め成型された伸縮能を有する一本の合成樹脂線材から成るコイル状フアスナーエレメント列を、直接プラスティック織物本体を構成する経糸の折り返しループにからませて取り付け、両端部のコイル状ファスナーエレメント列同士を上下方向から噛み合わせ、無端状に接合するようにしたプラスティック織物の継手を、錠止及び分離するための継手形成用スライダーであって、スライダーの前端垂直面には、前記両端部のコイル状フアスナーエレメント列の一方のエレメント列が挿入される一方側開放挿入口Aと、他方のエレメント列が挿入される他方側開放挿入口Bが形成され、該挿入口Aと該挿入口Bは、前記前端垂直面において上下方向では互いに位置をずらし、左右方向では前記各エレメント列が該挿入口に挿入した段階で同一軸線上に位置した状態を呈することができる一部重なった領域であるエレメント列噛み合わせ領域Wを有しており、該スライダーの後端垂直面には、上下方向、左右方向共に同一領域を有する両側開放共通出口Cが形成され、該スライダーの左右両側端垂直面には、前記挿入口A、Bから挿入された各コイル状フアスナーエレメント列を前記共通出口Cに案内する連続した横長孔を有する案内導溝が形成されており、且つ前記コイル状エレメント列と当綾する部分に該エレメント列同士を上下方向から加圧して噛み合わせるための加圧錠止体を具備するものであり、また、共通出口Cの高さ位置を挿入口Aと挿入口Bの高さ位置の中間位置とすることにより、スライダーの左右両側端垂直面に形成される一方の案内導満に上方から下方へ傾斜するダウン傾斜部Dを形成させ、他方の案内導溝に下方から上方へ傾斜するアップ傾斜部Uを形成し、該各側途キ部から共通平面部に至った箇所にエレメント列の厚さに応じて加圧力を調整できる加圧錠止体を配設することにより、プラスティック織物平面を基準面として各エレメント列を互いに上下対称に屈曲させ、上下両方向からエレメント列の相互の噛合頭と瞳合頭間とを噛合わせているものであり、また、加圧錠止体を、少なくともコイル状ファスナーエレメント列に当援する上下方向の移動及び回転自在な球状体と該球状体を加圧する弾性体とから構成したものであり、また、球状体及び弾性体が、スライダー本体内部に設けられた縦穴構内に配置され、該縦穴溝上には該弾性体の変位量を調整する調整ねじ部が設けられていることにより、前記球状体が前記縦穴溝内にて上下方向に移動可能であり、且つコイル状フアスナーエレメント列厚さに応じて前記弾性体による加圧力を調整、維持可能とした、コイルフアスナー継手形成用スライダーを以て上記課題を解決するものである。」に、訂正する。 |
異議決定日 | 2002-05-24 |
出願番号 | 特願平11-291557 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZD
(A44B)
P 1 651・ 113- ZD (A44B) |
最終処分 | 一部取消 |
前審関与審査官 | 大河原 裕 |
特許庁審判長 |
村本 佳史 |
特許庁審判官 |
市野 要助 山崎 豊 |
登録日 | 2000-06-23 |
登録番号 | 特許第3080621号(P3080621) |
権利者 | ワイケイケイ株式会社 大和紡績株式会社 |
発明の名称 | コイルフアスナー継手形成用スライダー |
代理人 | 城村 邦彦 |
代理人 | 江原 省吾 |
代理人 | 白石 吉之 |
代理人 | 田中 秀佳 |