• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1065918
異議申立番号 異議2001-73247  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-01-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-04 
確定日 2002-08-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3172150号「GABA含有飲食品の製造法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3172150号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3172150号に係る発明についての出願は、平成11年4月22日(優先日 平成10年4月27日)に出願され、平成13年3月23日にその特許の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 田口サツキより請求項1ないし5の特許について特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年6月10日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1に記載の「乳類に、」を、「グルタミン酸を構成アミノ酸として含む蛋白質又はペプチドを含有する獣乳、大豆及びそれらの加工品から選ばれる乳類に、」と訂正する。
訂正事項b
特許明細書第2頁段落【0007】に記載の「乳類に、」を、「グルタミン酸を構成アミノ酸として含む蛋白質又はペプチドを含有する獣乳、大豆及びそれらの加工品から選ばれる乳類に、」と訂正する。
イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項aは、「乳類に、」を、「グルタミン酸を構成アミノ酸として含む蛋白質又はペプチドを含有する獣乳、大豆及びそれらの加工品から選ばれる乳類に、」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、上記訂正事項bは、特許請求の範囲の上記訂正事項aの訂正に伴い、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載に整合させるものであるから。明瞭でない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当するものである。
そして、上記訂正事項a及びbについては、願書に添付した明細書の段落【0008】に「本発明飲食品の素材は、グルタミン酸を構成アミノ酸として含む蛋白質又はペプチドを含有するものである。」こと、及び「食品素材は蛋白質を含むものであれば特に制限されない・・・獣乳、大豆又はそれらの加工品、例えば脱脂粉乳、豆乳等が好ましい。」ことが記載されているから、これらの訂正は、願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第2項および第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立ての理由及び取消理由の概要
特許異議申立人 田口サツキは、下記の甲第1号証〜甲第5号証を提出して、(1)訂正前の請求項1に係る特許発明は甲第1号証に記載された発明であるから、当該特許に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、(2)同請求項1に係る特許発明は、甲第1号証および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、(3)同請求項1に係る特許発明は、甲第2号証および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、(4)訂正前の請求項2及び3に係る各特許発明は、いずれも、甲第1号証〜甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、(5)同請求項4に係る特許発明は、甲第1号証〜甲第5号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、(6)訂正前の請求項5に係る特許発明は甲第1号証に記載された発明であるから、当該特許に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、(7)訂正前の請求項5に係る特許発明は、甲第1号証〜甲第5号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、さらに、(8)本件明細書の特許請求の範囲の記載に不備があり、訂正前の本件請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから取り消されるべきであると主張しており、また、特許異議の申立ての理由と同趣旨の取消理由通知がなされた。
4.本件発明
上記2.で示したように、上記訂正が認められるから、本件の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】グルタミン酸を構成アミノ酸として含む蛋白質又はぺプチドを含有する獣乳、大豆及びそれらの加工品から選ばれる乳類に、グルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌及びグルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する乳酸菌を接種して培養することを特徴とするγ-アミノ酪酸含有発酵乳飲食品の製造法。
【請求項2】グルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌が、20%脱脂粉乳を基質として25〜40℃で2日間培養したとき、グルタミン酸を資化する分を差し引いて、少なくともタンパク質に対して0.5重量%以上のグルタミン酸を遊離するものである請求項1記載の製造法。
【請求項3】グルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する乳酸菌が、グルタミン酸又はその塩を1000mg/100mL添加した培地において25〜40℃で培養したとき、γ-アミノ酪酸を600mg/100mL以上産生する能力を持つものである請求項1又は2記載の製造法。
【請求項4】グルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌が、L.カゼイ YIT 9029、L.クレモリス YIT 2007及びL.ラクチス YIT 2027から選ばれるものであり、グルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する乳酸菌が、L.ラクチス YIT 2027である請求項1〜3のいずれか1項記載の製造法。
【請求項5】請求項1〜4のいずれか1項記載の方法により得られるγ-アミノ酪酸含有発酵乳飲食品。」

5.引用刊行物記載の発明
当審で通知した取消理由通知で引用した刊行物1(特開平10-295394号公報、甲第1号証と同じ)には、
「【請求項1】γ-アミノ酪酸の生成方法であって、発酵乳製品中の乳酸菌の脱炭酸酵素作用によりγ-アミノ酪酸を生成することを特徴とするγ-アミノ酪酸の生成方法。【請求項2】請求項1記載のγ-アミノ酪酸の生成方法において、発酵乳製品としてヨーグルトを使用することを特徴とするγ-アミノ酪酸の生成方法。・・・【請求項4】請求項1〜3のいずれか1項に記載のγ-アミノ酪酸の生成方法において、発酵乳製品にグルタミン酸ナトリウムを添加してγ-アミノ酪酸を生成することを特徴とするγ-アミノ酪酸の生成方法。」(第2頁第1欄第2〜16行)との記載がある。
同刊行物2(特開平7-227245号公報、甲第2号証と同じ)には、「【請求項5】牛乳にグルタミン酸又はその塩類を添加し、その牛乳にγ-アミノ酪酸を生成する能力を持つ乳酸菌を接種し培養して、牛乳を乳酸発酵させて発酵食品を得ることを特徴とする発酵食品の製造方法。」(第2頁第1欄第29〜32行)との記載、
「請求項5に記載の発明は、原料となる牛乳に最初からグルタミン酸又はその塩類を添加しておき、その牛乳にγ-アミノ酪酸を生成する能力を持つ乳酸菌を接種し培養して牛乳を乳酸発酵させ、ヨーグルトやチーズなどの発酵食品を得ることを特徴とする。」(第3頁第3欄第23〜28行)との記載、
「請求項5に記載の製造方法によれば、牛乳に添加されたグルタミン酸又はその塩類から、牛乳を乳酸発酵させる過程で増殖した乳酸菌による発酵作用により、γ-アミノ酪酸が生産される。尚、グルタミン酸を添加しないヨーグルト、チーズ、牛乳等については、同様の方法ではγ-アミノ酪酸が微量しか生産されない。」(第3頁第4欄第17〜22行)との記載、
「ヨーグルト中には、本来γ-アミノ酪酸は微量(0.005%)しか含まれていないが、このヨーグルトにグルタミン酸ナトリウムを1%添加して30℃で培養した。その結果、図8に示すように、ヨーグルト中の乳酸菌の発酵作用により、添加されたグルタミン酸がγ-アミノ酪酸に変換し、発酵開始3日目で0.27%、13日目で0.41%のγ-アミノ酪酸を生産することができた。この場合、ヨーグルト中の乳酸菌はγ-アミノ酪酸を生成する能力を持つことが必要であることは勿論である。」(第5頁第7欄第8〜17行)との記載、及び
「牛乳にグルタミン酸を添加し、その牛乳に乳酸菌を接種して培養することにより、γ-アミノ酪酸を多量に含有したヨーグルトを製造するようにしてもよい。」(第5頁第7欄第35〜38行)との記載がある。
同刊行物3(乳酸菌研究集談会編「乳酸菌の科学と技術」、株式会社学会出版センター、1996年2月28日、第111頁、第191〜196頁、第313頁、甲第3号証に同じ)には、
「乳酸菌は多くのアミノ酸を生合成により得ることが出来ないため、窒素源としての蛋白質を効率的に利用するための蛋白質分解系を備えている。乳業用乳酸菌の場合、まず最初に菌体表層に存在する菌体外プロティナーゼがカゼインなどの乳蛋白質を分解しペプチドを遊離する。更に、菌体外に存在すると考えられる複数のペプチダーゼがより短いペプチドやアミノ酸に分解し、」(第111頁第14〜18行)との記載、及び
「乳酸菌は多くのアミノ酸の合成能を欠いており、生育のために各種アミノ酸を必要とする。牛乳中には乳酸菌の生育のためには十分な遊離アミノ酸は存在せず、自らのプロテアーゼにより乳蛋白を分解しその一部を利用する。また、残りは遊離アミノ酸やペプチドとして発酵乳中に残る。」(第313頁下から6〜3行)との記載があり、又、第191〜196頁には、ラクトコッカス・ラクチス、L.ラクチス サブスピーシーズ クレモリスがプロテイナーゼ及びペプチダーゼにより蛋白質を分解してアミノ酸を生成することが記載されている。
同刊行物4(種谷真一、木村利昭、相良康重著「食品・そのミクロの世界」、槙書店、1991年5月20日発行、第78-91頁、甲第4号証と同じ)には、2種の乳酸菌を組み合わせて培養すると、単一の菌のときより乳の凝固時間が短くなり、発酵が促進されること、即ち、乳酸菌の共生について記載されている。(第91頁)
同刊行物5(「生物工学会誌」、第75巻、第4号、第239-244頁、1997年4月発行、甲第5号証と同じ)の第243頁左欄第4〜11行、第243頁右欄第28〜29行及び第244頁左欄第10〜13行には、L.ラクチスがγ-アミノ酪酸を生成することが記載されている。

6.対比・判断
(1)特許法第29条について
ア、本件発明1について
a.刊行物1記載の発明との対比
本件特許出願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成11年4月22日(優先日:平成10年4月27日、優先権主張番号:特願平10-116711号)の出願であり、当該先の出願の出願当初の明細書には、「グルタミン酸を構成アミノ酸として含む蛋白質又はペプチドを含有する食品素材に、プロテアーゼ生産能を有する微生物及びグルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する微生物を接種して培養することを特徴とするγ-アミノ酪酸含有飲食品の製造法。」(特許請求の範囲)が記載され、実施例1及び2には、乳類にL.ラクチス YIT 2027とL.クレモリス YIT 2007を接種して培養した場合にγ-アミノ酪酸(以下、「GABA」という。)を含有する飲食品が製造できることが記載されている。
これに対し、刊行物1は平成10年11月10日に出願公開されたものであり、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に該当しないから、本件発明1について、刊行物1記載の発明に基づく特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項を適用することはできない。
なお、念のため、本件発明1(以下、「前者」という。)が、刊行物1に記載された発明(以下、「後者」という。)と同一であるか否かについて検討しておく。
両者を対比すると、いずれも乳酸菌の脱炭酸酵素(デカルボキシラーゼ)作用によりGABAを生成させる点で一致しており、
(i)前者はグルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌を用いるのに対し、後者では使用する菌がグルタミン酸遊離活性を有する菌であると記載されていない点(相違点1)、及び(ii)前者ではグルタミン酸又はその塩類を添加する必要がないのに対し、後者ではこれらを添加している点(相違点2)で相違する。
先ず、相違点1について検討する。
刊行物1の実験例2には「加糖ヨーグルトのみ、及び牛乳のみの試料では、γ-アミノ酪酸は極少量か若しくは検出されなかったが、グルタミン酸ナトリウムを加えた試料においてはγ-アミノ酪酸の生成量が増加した」(段落【0021】)と記載されており、グルタミン酸ナトリウムを添加しなければ、GABAは生成されないことは明らかである。また、上記記載において、極少量のGABAが検出された点、例えば、グルタミン酸ナトリウムを添加しない場合に、一晩放置後、GABAが2.54mg/100g生成していると記載されている点(表1、段落【0020】)については、牛乳には約3.2mg/100mLの遊離グルタミン酸が存在しているといわれており(特許権者提出の参考資料1:乳業技術講座編集委員会編、「乳業技術講座 第1巻 牛乳」、第57頁(表1.42)、昭和45年7月1日、朝倉書店)、これがグルタミン酸脱炭酸酵素の働きでGABAに変換されたとすると、生成するGABA量は約2.2mg/100mLと算出される(1モルのグルタミン酸(分子量147.1)から1モルのGABA(分子量:103.1)が生成する)ことから、上記極少量のGABAは、もともと牛乳中に存在するといわれている遊離グルタミン酸がGABAに変換されたものであると考えられ、上記記載のみからは乳酸菌のグルタミン酸遊離能によって乳中から遊離したグルタミン酸がGABAに変換されたものであるということはできない。
したがって、前者の「グルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌」が、後者に記載されているとはいえない。
さらに、相違点2については、前者において、「グルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌」を用いる目的は、外部からグルタミン酸又はその塩を添加することを必要とすることなく、乳類に含まれているグルタミン酸を遊離させて、これからGABAを生成することにある。
これに対して.後者においては、実施例1〜6の何れにおいてもグルタミン酸ナトリウムを添加しており、また、上記したとおり、刊行物1の段落【0021】には、加糖ヨーグルト又は牛乳のみの試料では、GABAは微少量検出されるか、又は検出されなかったと記載されていることから、グルタミン酸ナトリウムの添加なしにはGABAは生成されないことは明らかである。
したがって、前者が、グルタミン酸又はその塩を発酵乳製品に添加した後に、乳酸菌の脱炭酸酵素作用によりGABAを生成させるという後者と同一である、ということはできない。
b.刊行物2記載の発明との対比
次に、本件発明と刊行物2記載の発明を対比すると、両発明は、乳類にGABAを生成し得る乳酸菌を接種して乳類を乳酸発酵させて発酵食品を得る点で一致しており、
(i)前者はグルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌を用いるものであるのに対して、後者においては、段落【0015】に「請求項5に記載の製造方法によれば、牛乳に添加されたグルタミン酸又はその塩類から、・・・γ-アミノ酪酸が生産される。」と記載されているとおり、そこで使用されている「γ-アミノ酪酸を生成する能力を持つ乳酸菌」とは、添加されたグルタミン酸をGABAへ変換する能力を有する乳酸菌であって、「グルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌」でない点(相違点1)、及び
(ii)前者ではグルタミン酸又はその塩類を添加する必要がないのに対し、後者ではそれらを添加する必要がある点(相違点2)で相違する。
そこで、上記相違点1について検討すると、刊行物2には、グルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能に加えグルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌を使用すること、又はグルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する乳酸菌とグルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌を組み合わせて用いることについては何ら記載されておらず、また示唆もない。そして、刊行物4に2種の乳酸菌を組み合わせて培養すると、単一の菌のときよりも発酵が促進される(乳酸菌の共生)ことが記載されているとしても、このことから、上記「乳酸菌のグルタミン酸遊離活性」と「乳酸菌の脱炭酸酵素作用」を組み合わせることが周知の事項であったということもできない。
また、上記相違点2については、上記したとおり、刊行物2の段落【0015】には、「添加されたグルタミン酸又はその塩類から、・・・γ-アミノ酪酸が生産される」と記載されており、後者は、グルタミン酸又はその塩類を添加しなければGABAを含有する発酵食品を得ることができないという認識の下になされたものであるから、後者からはグルタミン酸又はその塩類を添加しないでGABAを生成させることは、当業者が容易に想到し得ることではない。
一方、本件発明1は、「グルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌」を使用することにより、食品が持つ味及び色調を損なうことなく、GABAを豊富に含有した飲食品を得るという顕著な効果を奏し得たものである。(特許明細書段落【0006】及び参考資料2:「平成13年5月30日付け実験成績証明書」)
以上のことから、本件発明1は、刊行物2記載の発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
イ、本件発明2及び3について
刊行物3には、乳酸菌は多くのアミノ酸を生合成により得ることが出来ないため、窒素源としての蛋白質を効率的に利用するための蛋白質分解系を備えており、まず、菌体表層に存在するプロテイナーゼがペプチドを遊離し、さらに菌体外に存在すると考えられる複数のペプチダーゼが短いペプチドやアミノ酸に分解することが記載されているが(第111頁第14〜18行)、右記載のみからでは、GABAを生成するために十分な量のグルタミン酸が遊離されるのか否か明らかでない。
又、刊行物4には、2種の乳酸菌を組み合わせたときの共生現象及びバリン、ヒスチジン、グリシンの遊離については記載されているものの(第91頁)、GABAを生成するために十分な量のグルタミン酸が遊離されるのか否か明らかでない。
そして、本件発明2及び3は本件発明1を引用する発明であるから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ、本件発明4について
刊行物5には、グルタミン酸モノナトリウム塩(MSG)が添加された条件下において、L.ラクチス等の乳酸菌がGABA生成能力を発揮することが記載されているが(第243頁右欄第28〜29行)、グルタミン酸又はその塩類を添加しない条件下で、乳類にグルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌及びグルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する乳酸菌を接種し、GABAを生成させることについては、何の記載もなく又示唆もない。さらに、同刊行物には、ヨーグルト中にGABA生産菌が存在していても、原料乳中に遊離のグルタミン酸がほとんどない場合にはGABAの生成がなく、MSGを添加して培養するとGABAを顕著に増加させるGABA生産菌が現れたことが記載されていることから(第241頁左欄下から第3行〜同右欄第2行)、刊行物5に記載のGABA生産法では、グルタミン酸又はその塩を添加する必要があることが明らかである。
このため、刊行物5記載の発明から、グルタミン酸塩を添加することなく、グルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌を用いて培地中にGABAを生成させることは、当業者であっても容易に想到し得るということはできない。
そして、本件発明4は本件発明1ないし3を引用する発明であるから、本件発明4が刊行物1ないし5記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たということはできない。
エ、本件発明5について
本件発明5は、請求項1ないし4を引用する発明であるから、本件発明1ないし4と同様の理由により、刊行物1に記載の発明であるということはできないし、また、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(2)特許法第36条について
特許異議申立人は、特許法第36条第6項第2号違反として、乳類の蛋白質にグルタミン酸が殆ど含まれていないか少量しか含まれていなければ、その乳類にグルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌を摂取して培養しても、GABA含有食品を効率よく得るという効果は得られないと主張している。
しかしながら、上記点については、上記訂正請求により、本件発明1において、「乳類」は「グルタミン酸を構成アミノ酸として含む蛋白質又はペプチドを含有する獣乳、大豆及びそれらの加工品から選ばれる乳類」に限定された。
したがって、本件発明1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願にされたものであるとすることはできない。
よって、異議申立人の主張は採用することができない。

7.むすび
以上のとおりであるから、異議申立人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1ないし5の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし5の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
GABA含有飲食品の製造法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 グルタミン酸を構成アミノ酸として含む蛋白質又はペプチドを含有する獣乳、大豆及びそれらの加工品から選ばれる乳類に、グルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌及びグルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する乳酸菌を接種して培養することを特徴とするγ-アミノ酪酸含有発酵乳飲食品の製造法。
【請求項2】 グルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌が、20%脱脂粉乳を基質として25〜40℃で2日間培養したとき、グルタミン酸を資化する分を差し引いて、少なくともタンパク質に対して0.5重量%以上のグルタミン酸を遊離するものである請求項1記載の製造法。
【請求項3】 グルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する乳酸菌が、グルタミン酸又はその塩を1000mg/100mL添加した培地において25〜40℃で培養したとき、γ-アミノ酪酸を600mg/100mL以上産生する能力を持つものである請求項1又は2記載の製造法。
【請求項4】 グルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌が、L.カゼイYIT9029、L.クレモリスYIT2007及びL.ラクチスYIT2027から選ばれるものであり、グルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する乳酸菌が、L.ラクチスYIT2027である請求項1〜3のいずれか1項記載の製造法。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれか1項記載の方法により得られるγ-アミノ酪酸含有発酵乳飲食品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、γ-アミノ酪酸(GABA)を含有する飲食品の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
哺乳類においては、GABAは、脳や脊髄に存在する抑制性の神経伝達物質であり、その生理効果については、脳の血流を活発にさせ、酸素供給量を増大させて脳の代謝機能を亢進する、脊髄の血管運動中枢に作用して血圧を降下させる、抗利尿ホルモンであるバソプレッシンの分泌を抑制して、血管を拡張して血圧を下げる、TCAサイクルの導入部に必要なヘキソキナーゼ活性を高め、糖代謝を促進させることに関与することなど(新編脳代謝賦活剤、大友英一編、医薬ジャーナル社(1987))が報告され、脳代謝賦活を目的に医薬品としても利用されている。
【0003】
したがって、GABAを食品として摂取することにより高血圧症の改善が期待できることから、適当な処理を食品に施すことにより、GABA含有量を増強させた食品もいくつか提唱されている。例えば、GABA富化コメ胚芽(オリザ油化(株))(コメ胚芽を嫌気処理してGABA含量を0.3%に高めた食品);ギャバロン茶(多社)(茶葉を嫌気処理してGABA含量を処理前の数十倍の220mg%に高めた茶)等が知られている。
【0004】
一方、微生物を利用してGABAを富化した食品の製造方法として、牛乳にグルタミン酸(塩)を添加し、GABAを生成する能力を持つ乳酸菌を接種し培養してGABAを含有する発酵食品を得る方法(特開平7-227245号)、またグルタミン酸(ナトリウム)に酵母又はクロレラの細胞破砕液を作用させてGABAを富化した食品素材を製造する方法(特開平9-238850号)などがある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の微生物を利用したGABA含有飲食品の製造法においては、いずれもグルタミン酸又はその塩を添加しており、食品の味を変化させてしまう、殺菌時などに熱が加わるとグルタミン酸と還元糖(糖質)がアミノカルボニル反応を起こし変色してしまう、作業性が悪く製造コストも高くなってしまう等の問題があった。
従って、本発明の目的は味及び色調が良好なGABA含有飲食品の製造法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討した結果、食品素材としてグルタミン酸を構成アミノ酸として含む蛋白質又はペプチドを含有するものを用い、これにプロテアーゼ生産能を有する微生物とグルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する微生物とを接種して培養すれば、GABAを豊富に含有し、かつ味を損なわず、色調の良好な飲食品が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、グルタミン酸を構成アミノ酸として含む蛋白質又はペプチドを含有する獣乳、大豆及びそれらの加工品から選ばれる乳類に、グルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌及びグルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する乳酸菌を接種して培養することを特徴とするγ-アミノ酪酸含有発酵乳飲食品の製造法及びかくして得られる発酵乳飲食品を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明飲食品の素材は、グルタミン酸を構成アミノ酸として含む蛋白質又はペプチドを含有するものである。多くの食品素材中の蛋白質は、グルタミン酸を構成アミノ酸として含むので、食品素材は蛋白質を含むものであれば特に制限されない。例えば、肉類、魚介類、乳類が挙げられるが、カゼインタンパクには約20%ものグルタミン酸が含まれており、大豆タンパク質にも豊富にグルタミン酸が含まれているので、獣乳、大豆又はそれらの加工品、例えば脱脂粉乳、豆乳等が好ましい。
【0009】
プロテアーゼ生産能を有する微生物としては、食品に添加することができるプロテアーゼ生産菌であれば特に制限されないが、20%脱脂粉乳を基質として25〜40℃で2日間培養したとき、グルタミン酸を資化する分を差し引いて、少なくともタンパク質に対して0.5重量%以上、特に0.7重量%以上のグルタミン酸を遊離するものが好ましい。中でもグルタミン酸遊離活性が高いのみならず、グルタミン酸要求性、すなわち、遊離のグルタミン酸を資化しGABA産生以外に用いてしまう活性の低いものが好ましい。より具体的にはラクトバチルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属等の細菌が挙げられる。この中でラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei(以下L.カゼイ))、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis(以下L.ラクチス))、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.クレモリス(Lactococcus lactis ss.cremoris(以下L.クレモリス))が好ましく、具体的にはL.カゼイYIT9029(FERM BP-1366)、L.ラクチスYIT2027(FERM BP-6224)及びL.クレモリスYIT2007(ATCC19257)が挙げられる。
【0010】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する微生物としては、食品に添加することができるグルタミン酸デカルボキシラーゼ生産菌であれば特に制限されないが、グルタミン酸又はその塩を1000mg/100mL添加した培地において25〜40℃で培養したとき、GABAを600mg/100mL以上、特に800mg/100mL以上産生する能力を持つものが好ましい。この微生物も上記と同様にグルタミン酸要求性の低いものが特に好ましい。また、食品素材として乳類を用いる場合には、グルタミン酸デカルボキシラーゼ生産性の乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌が好ましい。より具体的にはラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ビフィドバクテリウム属等の細菌が挙げられる。この中でラクトコッカス ラクチスが好ましい。具体的にはYIT2027が挙げられる。
【0011】
前記食品素材に上記2種を接種して培養するには、接種した微生物に適した条件を選択すればよい。また、上記2種の微生物を同時に接種して培養してもよいが、まずプロテアーゼ生産菌を接種して培養し、次いでグルタミン酸デカルボキシラーゼ生産菌を接種して培養してもよい。また、プロテアーゼ及びグルタミン酸デカルボキシラーゼの両者を生産する微生物、例えばL.ラクチスYIT2027を用いれば、用いる微生物は1種でよいが、GABA生産能等から、2株以上を混合培養する方が好ましい。なお、両方の酵素を有する微生物の中には、遊離したグルタミン酸を、すぐにGABAへと変換するものもあるため、この場合プロテアーゼ活性は見かけ上低くなってしまうことに留意すべきである。
【0012】
また、乳類を含有する食品素材に、プロテアーゼ生産能を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌とグルタミン酸デカルボキシラーゼ生産能を有する乳酸菌又はビフィドバクテリウム属細菌とを同時あるいは順次接種して培養する際にも、用いる菌の増殖や酵素生産等に好適な条件を設定すればよい。一般には、30〜37℃で、2日〜1週間程度培養すればよく、乳濃度としては、無脂乳固形分換算で8重量%以上、特に8〜30重量%程度が、GABA生産能、乳の溶解性等の作業性、コスト面等から好ましい。このようにして得られた食品はGABAを含有する発酵乳飲食品である。この発酵乳飲食品中にはカゼイン分解ペプチドが含まれており、GABAだけでなく当該カゼイン分解ペプチドも血圧効果作用を含めた種々の生理活性を有することが知られており、特に好ましい。
【0013】
本発明は食品素材に含まれる蛋白質又はペプチドからプロテアーゼ生産菌の作用によりグルタミン酸を遊離させ、遊離したグルタミン酸をグルタミン酸デカルボキシラーゼ生産菌の作用によりGABAに変換させるものである。このように2種の微生物を使用することにより、食品添加物であるグルタミン酸を添加する必要がないため、味、色調が変化せず、GABA含量が高い飲食品が安価に得られる。
【0014】
得られる飲食品としては発酵乳食品、発酵豆乳食品、漬物、納豆、酒類等が挙げられる。
【0015】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0016】
参考例1 プロテアーゼ生産能を有する微生物の選択
脱脂粉乳の約34%はタンパク質で、そのうちグルタミン酸が約20%と高い。従って、脱脂粉乳溶液の発酵過程でグルタミン酸を遊離させる活性の高い乳酸菌を選択する。
材料と方法
使用菌株
表1に示した菌株を30℃あるいは37℃で2回継代して用いた。
【0017】
培養条件:
20%脱脂粉乳溶液(121℃、15分滅菌)で、30℃あるいは37℃で3日間培養した。
測定方法:
アミノ酸自動分析装置(JCL-300日本電子(株))及びデータ処理装置(LC30-DK10日本電子(株))にてGABAとグルタミン酸の定量を行った。アミノ酸の分離には強酸性陽イオン交換樹脂(パックドカラムLCR-6:ポリスチレン樹脂にスルホン酸基を導入したもの)を用い、定量はニンヒドリン発色法を利用した。
20%脱脂粉乳溶液中には、約1000mg/100mL程度のグルタミン酸が含まれており、培養前には10mg/100mL程度が遊離している。このため、グルタミン酸遊離率は、以下の式で算出した。
【0018】
【数1】

【0019】
結果
グルタミン酸の遊離を表1にまた、その際のGABA濃度を表2に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
グルタミン酸遊離活性は、30℃で培養したL.カゼイYIT9029が最も高く、3日間培養で1.2重量%の遊離グルタミン酸が認められた。YIT9029はペプチド鎖のN-末端からアミノ酸を1残基ずつ遊離するアミノペプチダーゼ活性が高くグルタミン酸の要求量が小さいことが考えられた。L.クレモリスYIT2007(ATCC19257T)あるいはL.ヘルベティカスYIT0083(ATCC15009T)も、グルタミン酸遊離能が高かった。
一方、L.ラクチスYIT2027とStreptcuccus thermophilus(S.サーモフィルス)YIT2001の培養においてはグルタミン酸が認められないがこれは前者では遊離したグルタミン酸がGABAに変換されたためで、後者においては同化代謝されたものと考えられた。通常、1gのグルタミン酸からは約0.7gのGABAが生産されることから、YIT2027の実際のグルタミン酸遊離率は、培養2日目において約0.714%と考えられる。
以上の検討結果より、ミルクタンパク質よりグルタミン酸を遊離する株としてL.カゼイYIT9029及びL.クレモリスYIT2007及びL.ラクチスYIT2027が2日間培養したとき0.5重量%以上のグルタミン酸を遊離するので好ましいものといえる。
【0023】
参考例2
表3に示す菌株を1000mg/100mLのグルタミン酸ナトリウムを添加した20%脱脂粉乳溶液で30℃(YIT2027のみ)あるいは37℃(他の菌株全て)で3日間培養した。結果を表3に示す。グルタミン酸をGABAに変換する株として、L.ラクチスYIT2027が好ましいものといえる。
【0024】
【表3】

【0025】
実施例1
加熱殺菌した30%脱脂粉乳溶液に発酵乳由来のL.ラクチスYIT2027(FERM BP-6244)とチーズ由来のL.クレモリスYIT2007(ATCC 19257)を10対1の割合で接種し、30℃で3日間培養した。GABAは、発酵前においては確認されなかったが、発酵終了後には30mg/100mLに増加していた。
【0026】
実施例2
加熱殺菌した乳糖を添加した豆乳に発酵乳由来のL.ラクチスYIT2027とチーズ由来のL.クレモリスYIT2007を10対1の割合で接種し、30℃で3日間培養した。GABAは、発酵前においては確認されなかったが、発酵終了後には32mg/100mLに増加していた。
【0027】
比較例1
30%脱脂粉乳溶液に終濃度15g/Lとなるようグルタミン酸(Na)を添加し、これを100℃、30分加熱殺菌した後L.lactis YIT2027を接種し、30℃で3日間培養した。発酵終了後のGABA濃度は105mg/100mLであった。
【0028】
試験例1
実施例1及び比較例1で得られた発酵乳を用い、下記処方のサンプルを調製した。これらの風味・色調を専門パネラー5名で官能評価した。
【0029】
【表4】
(処方)
発酵乳 30(重量%)
30%ショ糖溶液 30
安定剤(ペクチン) 0.3
フレーバー 0.1
水 残量
【0030】
風味評価はアミノ酸臭やコゲ臭等も含めた指標として、+1:おいしい、0:普通、-1:まずいとし、色調は、+1:色調がよい、0:やや色調が悪いが気にならない、-1:色調が悪いとした。その結果、本発明の発酵乳飲料は、グルタミン酸を添加したサンプルよりも風味・色調ともに良好であった。比較例のサンプルはややグルタミン酸風味が感じられた。
【0031】
【表5】

【0032】
実施例3
実施例1と同一の培地に、グルタミン酸遊離活性の低いS.サーモフィルスYIT2001とグルタミン酸デカルボキシラーゼ活性の高いL.ラクチスYIT2027を1:1の割合で接種し、30℃で3日間培養した。GABAは、発酵前においては確認されなかったが、発酵終了後には4mg/100mLに増加していた。
【0033】
比較例2
実施例1と同一の培地に、グルタミン酸遊離活性の高いL.カゼイYIT2029とグルタミン酸デカルボキシラーゼ活性の低いラクトバチルスアシドフィルス(Lactobacillus asidophilus)YIT0168を1:1の割合で接種し、30℃で3日間培養した。GABAは、発酵前においては確認されなかったが、発酵終了後には0.5mg/100mLに増加していた。
【0034】
実施例4
ミルクタンパク質からグルタミン酸を遊離する活性の高いL.カゼイYIT9029とグルタミン酸からGABAに変換する活性の高いL.ラクチスYIT2027を単独及び混合培養した。加熱殺菌した30%脱脂粉乳溶液に両菌株を1:1の割合で接種し、30℃で3日間培養した。このときのGABA産生量の培養経時変化を図1に示す。
【0035】
3日間の培養においてL.ラクチスYIT2027は単独でもGABA産生濃度が15mg/100mLに達した。また、L.カゼイYIT9029と混合培養を行うことにより2倍以上の38mg/100mLまで増加し、混合培養の有用性が確認された。このときのグルタミン酸濃度は1mg/100mLであった。
【0036】
更に菌株の接種比率を指数的に変化させてGABAの産生を検討した。その結果、L.カゼイYIT9029とL.ラクチスYIT2027の比が1:1〜10:1でGABA濃度が高くなることがわかった(表6)。
【0037】
【表6】

30%脱脂粉乳で、30℃、3日間培養した。
【0038】
以上の検討結果から、L.カゼイYIT9029とL.ラクチスYIT2027を同時に1:1の比率で接種し、培養することがGABA含量を高める有効な方法であることが明らかとなった。
【0039】
参考例2
高血圧自然発症マウス(SHR)に発酵乳を投与したときの血圧変化
条件:14週令、オス、5匹/群、飼料に10%の本発明の凍結乾燥発酵乳(実施例4において、両菌株を1:1と接種し調整したもの)を混ぜて自由摂食させた。対照群、発酵乳群ともに飼料には食塩を1%添加した。結果を図2に示す。
今回調製したGABA含有発酵乳を投与することにより、血圧上昇を抑える傾向が認められた。投与21日目では、有意(p<0.05)に血圧上昇を抑えていることがわかる。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば味、色調が良好なGABA含有飲食品が効率よく得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
菌株1種と2種の場合のGABA濃度の経時変化を示す図である。
【図2】
高血圧自然発症マウスに本発明の発酵乳を投与したときの血圧変化を示す図である。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1に記載の「乳類に、」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、「グルタミン酸を構成アミノ酸として含む蛋白質又はペプチドを含有する獣乳、大豆及びそれらの加工品から選ばれる乳類に、」と訂正する。
訂正事項b
特許明細書第2頁段落【0007】に記載の「乳類に、」を、不明瞭な記載の釈明を目的として、「グルタミン酸を構成アミノ酸として含む蛋白質又はペプチドを含有する獣乳、大豆及びそれらの加工品から選ばれる乳類に、」と訂正する。
異議決定日 2002-07-18 
出願番号 特願平11-114831
審決分類 P 1 651・ 113- YA (A23L)
P 1 651・ 537- YA (A23L)
P 1 651・ 121- YA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 眞壽田 順啓
特許庁審判官 斎藤 真由美
近 東明
登録日 2001-03-23 
登録番号 特許第3172150号(P3172150)
権利者 株式会社ヤクルト本社
発明の名称 GABA含有飲食品の製造法  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ