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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B66F
審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  B66F
管理番号 1065995
異議申立番号 異議2001-71653  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-02-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-06-07 
確定日 2002-09-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第3117902号「高所作業車の作業範囲規制装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3117902号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許出願 平成 7年 7月28日
特許権設定登録(請求項の数1) 平成12年10月 6日
特許異議申立書(申立人寒川陽) 平成13年 6月 7日
取消理由通知書 平成13年11月13日
意見書・訂正請求書(後日取下げ) 平成14年 1月23日
取消理由通知書 平成14年 2月 7日
意見書・訂正請求書 平成14年 4月 4日
訂正拒絶理由通知書 平成14年 4月22日
手続補正書 平成14年 5月31日

2.訂正の適否
(1)訂正請求に対する補正の適否
特許権者が求めている補正の内、特許請求の範囲に係る〔補正事項〕は、以下のとおりである。
〔補正事項〕
訂正請求書に添付した訂正明細書の請求項1の記載「基準荷重を任意に可変設定可能な基準荷重設定器」を、「前記作業台に加えることができる最大許容荷重より小さな基準荷重を任意に可変設定可能な基準荷重設定器」と補正する。
しかし、上記〔補正事項〕は、訂正明細書の請求項1に係る発明を特定する事項である「基準荷重を任意に可変設定可能な基準荷重設定器」を、これに限定を付加した事項である「前記作業台に加えることができる最大許容荷重より小さな基準荷重を任意に可変設定可能な基準荷重設定器」に変更するものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものと認められる。
したがって、上記補正は、上記〔補正事項〕以外の補正事項について検討するまでもなく、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に違反するものであり、採用しない。

(2)訂正の内容
上記(1)で示したように上記補正は採用しないから、特許権者が求めている訂正の内、特許請求の範囲に係る〔訂正事項〕は、以下のとおりである。
〔訂正事項〕
特許請求の範囲の請求項1の記載
「車体上に起伏、伸縮作動等が自在に配設されたブームと、
このブーム先端に配設された作業者搭乗用の作業台と、
この作業台に加えられる実荷重を検出する荷重検出手段と、
前記ブームの作動量を検出して前記作業台の位置を検出する作業台位置検出手段と、
前記作業台に加わる荷重に応じて前記作業台の移動可能範囲を定めた複数の荷重対応作業範囲のデータ、および前記作業台に加えることができる最大許容荷重よりも小さな基準荷重に基づいて前記作業台の移動可能範囲を定めた基準作業範囲のデータが記憶された記憶手段と、
前記作業台位置検出手段により求められた実作業台位置が、前記基準作業範囲を超えるブームの作動、および前記複数の荷重対応作業範囲のうちの前記荷重検出手段により検出された実荷重に対応する荷重対応作業範囲を超えるブームの作動を規制する作動規制手段とを備えて構成され、
前記基準作業範囲は、前記最大許容荷重が加えられた状態で前記作業台を移動させるときに、車体に作用する転倒モーメントに対する安定度が1.0を越える範囲となるように設定されることを特徴とする高所作業車の作業範囲規制装置。」
を、
「車体上に起伏、伸縮作動等が自在に配設されたブームと、
このブーム先端に配設された作業者搭乗用の作業台と、
この作業台に加えられる実荷重を検出する荷重検出手段と、
前記ブームの作動量を検出して前記作業台の位置を検出する作業台位置検出手段と、
前記作業台に加わる荷重に応じて前記作業台の移動可能範囲を定めた複数の荷重対応作業範囲のデータが記憶された記憶手段と、
基準荷重を任意に可変設定可能な基準荷重設定器と、
前記記憶手段に記憶された前記複数の荷重対応作業範囲のデータから前記基準荷重設定器により設定された基準荷重に対応する荷重対応作業範囲を検索してこれを基準作業範囲として読み出し、前記作業台位置検出手段により求められた実作業台位置が前記読み出した基準作業範囲を越えるブームの作動を規制し、且つ、前記記憶手段に記憶された前記複数の荷重対応作業範囲のデータから前記荷重検出手段により検出された実荷重に対応する荷重対応作業範囲を読み出し、前記作業台位置検出手段により求められた実作業台位置が前記読み出した荷重対応作業範囲を越えるブームの作動も規制する作動規制手段とを備えて構成され、
前記基準作業範囲は、前記最大許容荷重が加えられた状態で前記作業台を移動させるときに、車体に作用する転倒モーメントに対する安定度が1.0を超える範囲となるように設定されることを特徴とする高所作業車の作業範囲規制装置。」
と訂正する。

(3)訂正の目的の適否
上記〔訂正事項〕は、特許請求の範囲の減縮を目的としてなされたものであるが、訂正後の請求項1には、訂正前の請求項1に記載された「前記作業台に加えることができる最大許容荷重よりも小さな基準荷重に基づいて」について何等記載されていない。
したがって、上記〔訂正事項〕は、訂正前の請求項1に記載された「前記作業台に加えることができる最大許容荷重よりも小さな基準荷重に基づいて」を削除することに相当するものであって、訂正の結果、特許請求の範囲の拡張をもたらすものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。
なお、上記〔訂正事項〕が、誤記の訂正・明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的としていないことは、明白である。

(4)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、上記〔訂正事項〕以外の訂正事項について検討するまでもなく、特許法第120条の4第2項ただし書きの規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められないから、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「車体上に起伏、伸縮作動等が自在に配設されたブームと、
このブーム先端に配設された作業者搭乗用の作業台と、
この作業台に加えられる実荷重を検出する荷重検出手段と、
前記ブームの作動量を検出して前記作業台の位置を検出する作業台位置検出手段と、
前記作業台に加わる荷重に応じて前記作業台の移動可能範囲を定めた複数の荷重対応作業範囲のデータ、および前記作業台に加えることができる最大許容荷重よりも小さな基準荷重に基づいて前記作業台の移動可能範囲を定めた基準作業範囲のデータが記憶された記憶手段と、
前記作業台位置検出手段により求められた実作業台位置が、前記基準作業範囲を超えるブームの作動、および前記複数の荷重対応作業範囲のうちの前記荷重検出手段により検出された実荷重に対応する荷重対応作業範囲を超えるブームの作動を規制する作動規制手段とを備えて構成され、
前記基準作業範囲は、前記最大許容荷重が加えられた状態で前記作業台を移動させるときに、車体に作用する転倒モーメントに対する安定度が1.0を越える範囲となるように設定されることを特徴とする高所作業車の作業範囲規制装置。」

(2)引用刊行物に記載された発明
当審が平成14年2月7日付けで通知した取消しの理由で引用した刊行物1(特開平7-144896号公報;申立人寒川陽の提示した甲第1号証。)には、以下のような事項が記載されている。
ア.「従って、本願発明のブーム式作業車の安全装置によると、モーメント検出器が出力低下方向に異常信号を出すようになったような場合や一時的に検出モーメント値を小さくするような横荷重(風荷重)が作用したような場合にも転倒の恐れなく安全に作業を行うことができるようになる。」(段落【0011】参照。)
イ.「先ず、図1には同安全装置を備えた高所作業車が示されている。この高所作業車は、クローラ型の車両22の上部に旋回可能に搭載された旋回台23に対して伸縮式のブーム24を起伏可能に取付け、該ブーム24を当該ブーム24と上記旋回台23との間に配置した起伏シリンダ25により起伏駆動するようにしている。さらに、上記ブーム24のトップブーム部26の先端部には、バケット連結部材27が設けられ、該バケット連結部材27を介してバケット28が取り付けられている。」(段落【0015】参照。)
ウ.「該安全装置は、上記ブーム3に加わる実際のモーメントを歪み電圧出力の形で検出する歪みゲージよりなるモーメント検出器41と、上記ブーム3(旋回台2)の旋回角を検出するブーム旋回角検出器20と、上記ブーム3の起伏角を検出するブーム起伏角検出器32と、上記ブーム3の長さを検出するブーム長さ検出器33と、上記ブーム旋回角検出器20、上記ブーム起伏角検出器32、ブーム長さ検出器33の3組の検出器からの各検出データに基づいて、それら3種のブーム状態パラメータによって特定される所定のブーム稼動姿勢ごとの安全限界モーメント(ブーム作業を安全に行ない得る限界モーメント)を予じめマップ設定されている安全限界モーメント記憶手段21よりルックアップ(演算)して出力する安全限界モーメント演算手段7と、上記モーメント検出器41の歪み電圧出力を基にして上記ブーム3に作用する実モーメントを演算して出力する実モーメント演算手段8と、ブーム関連作業状態において、上記実モーメント演算手段8により演算出力された上記実モーメントと上記安全限界モーメント演算手段7から出力された安全限界モーメントとを入力比較して、上記実モーメントが上記安全限界モーメントに達すると、ブーム操作制御手段10に対して危険側へのブーム作業を制限するべく第1のブーム作業姿勢規制信号を出力してクレーン駆動装置の各種制御バルブの作動を制限する第1のブーム作業姿勢規制手段9と、例えば無負荷時の荷重性能に基いて上記ブーム旋回角、ブーム起伏角、ブーム長さをパラメータとして特定される作業姿勢の安全限界データを記憶した所定負荷安全限界データ記憶手段11と、ブーム関連作業状態において上記ブーム旋回角検出器20、ブーム起伏角検出器32、ブーム長さ検出器33の各検出データに基いて当該ブーム3の実際の作業姿勢データを演算して出力する作業姿勢データ演算手段12と、該作業姿勢データ演算手段12の演算データ出力と上記所定負荷安全限界データ記憶手段11の記憶データ出力とを入力して比較し、実際の作業姿勢データが記憶データに等しくなった時は上記ブーム操作制御手段10に対して危険側へのブーム操作を規制する第2の作業姿勢規制信号を出力してクレーン駆動装置の各種制御バルブの作動を制限する第2のブーム作業姿勢規性手段13とを備えて構成されている。」(段落【0017】参照。)
エ.「そして、上記所定負荷安全限界データ記憶手段11に記憶させている安全限界データは、例えば図2に示す上記高所作業車の作業性能特性を例にとって説明すると、通常定格荷重200kgでのチッピングラインに対して無負荷時の荷重係数や風荷重を考慮した安全限界性能がライン2.2のようになっており、無負荷時の安全限界性能は定格荷重でのチッピングラインを越えることがない。従って、同無負荷性能でブームを作動させるようにすることにより転倒の恐れを生じさせないように意図されている。」(段落【0018】参照。)
オ.「従って、上記歪みゲージよりなるモーメント検出器41が正常に作動している限り、上記第1のブーム作業姿勢規制手段9が適切に機能して十分な広い作業姿勢での安全なクレーン作業を行なうことができる。」(段落【0020】参照。)
カ.「一方、本実施例では、これに加えて図2に示す例えば無負荷時の荷重性能に基いて上記ブーム旋回角、ブーム起伏角、ブーム長さをパラメータとする作業姿勢の安全限界データを予じめ記憶した所定負荷安全限界データ記憶手段11と、ブーム関連作業時において上記ブーム旋回角検出器20、ブーム起伏角検出器32、ブーム長さ検出器33の各検出データに基いて当該ブーム3の実際の作業姿勢データを演算して出力する作業姿勢データ演算手段12と、該作業姿勢データ演算手段12の演算データ出力と上記所定負荷安全限界データ記憶手段11の記憶データ出力とを各々入力して比較し、上記実際の作業姿勢データが上記記憶データに等しくなった時は上記ブーム操作制御手段10に対して危険側へのブーム操作を規制する第2のブーム作業姿勢規制信号を出力してクレーン駆動装置の各種制御バルブの作動を制限する第2のブーム作業姿勢規制手段13とが設けられており、もしも上記モーメント検出器41が故障してブーム3に作用している実際のモーメント値よりも小さい誤った歪み電圧を出力するようになったような場合には、該モーメント検出器41の誤った歪み電圧出力を使用しない当該第2のブーム作業姿勢規制手段13がバックアップ作動してブーム3の危険側への作動を禁止し、安全なクレーン作業を保障するようになる(フエイルセーフ)。」(段落【0021】参照。)
キ.「このため、例えば高所作業状態において、上記モーメント検出器41が故障し、同モーメント検出器41がブーム3に作用している実際のモーメント値よりも小さい誤った歪み電圧値を出力するようになった場合にも、転倒の危険なく安全にブーム作動を可能としてバケット28上の作業者を降下させることができるようになるし、又何らかのトラブル発生時に止むを得ず点検作動させるような時にも安全な作動が可能になる。」(段落【0023】参照。)
ク.「なお、上記高所作業車は通常バケット28上に作業車が搭乗して作動させるものであるから、上記の安全限界データは無負荷+100kg(1名)における安全限界データでもよいし、定格荷重の200kgにおける安全限界データであってもよい。」(段落【0023】参照。)

これらの記載事項によれば、刊行物1には、
「車両22上に起伏、伸縮作動等が自在に配設されたブーム24と、
このブーム24先端に配設された作業者搭乗用のバケット28と、
このブーブ24に加えられる実モーメントを検出するモーメント検出器41,実モーメント演算手段8と、
前記ブーム24の作動量を検出して前記バケット28の位置を検出するブーム起伏角検出器32,ブーム長さ検出器33,作業姿勢データ演算手段12と、
前記バケット28に加わる荷重に応じて前記バケット28の移動可能範囲を定めた複数の荷重対応作業範囲のデータ(【図2】参照。)、および前記バケット28に加えることができる定格荷重よりも小さな基準荷重に基づいて前記バケット28の移動可能範囲を定めた基準作業範囲(【図2】の「ライン2.2」参照。)のデータが記憶された所定負荷安全限界データ記憶手段11と、
前記ブーム起伏角検出器32,ブーム長さ検出器33,作業姿勢データ演算手段12により求められた実バケット28位置が、前記基準作業範囲を超えるブーム24の作動を規制する第2のブーム作業姿勢規制手段13と、
前記モーメント検出器41,実モーメント演算手段8により求められた実モーメントが、安全限界モーメント記憶手段21に記憶された所定のブーム稼動姿勢ごとの安全限界モーメントのデータのうちのブーム起伏角検出器32,ブーム長さ検出器33,安全限界モーメント演算手段7により検出されたブーム稼動姿勢に対応する安全限界モーメントを超えるブーム24の作動を規制する第1のブーム作業姿勢規制手段9とを備えて構成され、
前記基準作業範囲は、前記定格荷重が加えられた状態で前記バケット28を移動させるときに、車両22に作用する転倒モーメントに対する安定度が1.0を超える範囲となるように設定される高所作業車の作業範囲規制装置。」
の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

同じく引用した刊行物2(特開平3-238300号公報)には、以下のような事項が記載されている。
サ.「作業台に作用する各荷重とブーム装置の各起伏角度毎にブーム長さの限界値を記憶した限界値テーブルと、作業台荷重検出手段にて検出された荷重と角度検出手段にて検出された角度とに対応したブーム長さの限界値を前記テーブルから抽出する限界値出力手段と、判別規制手段とからなる特許請求の範囲第1項記載の高所作業車の作業範囲規制装置。」(特許請求の範囲の請求項2)
シ.「次に規制手段である制御装置を第6図にて説明すると、(32)は作業台荷重(作業台に荷物を載せることにより発生する荷重)を導くための演算手段である演算処理部で、該処理部(32)は長さセンサ(15)からのブーム長さRと、傾斜センサ(14)からのブーム装置起伏角θと、起伏シリンダ(7)のロードセル(8)からの負荷F1と、下水平レベルシリンダ(10)の圧力センサ(13)からの負荷F2と、作業台旋回角検出センサ(28)からの旋回角αとから、下記の式にて作業台荷重W3を演算処理するようになっている。」(第3頁右上欄第3〜13行)
ス.「(33)はブーム長さの限界値テーブル(34)から限界値を抽出する限界値出力手段である限界値出力部で、該出力部(33)は前記処理部(32)にて導かれた作業台荷重W3と起伏角θと旋回角検出センサ(29)による旋回角βとにてブーム長さの限界値R0を抽出するようになっている。前記限界値テーブル(34)は作業台荷重0kg,100kg,150kg,200kgと起伏角1度毎に0度から75度と旋回角10度毎に0度から360度とを相互に組合わせて、それぞれに対応したブーム長さの限界値を設定してある。」(第3頁左下欄第7〜17行)
セ.「(35)は判別規制手段である判別規制部で、前記抽出された限界値R0と長さセンサ(15)によるブーム長さRとを比較判別して、ブーム長さRが限界値R0を越えた場合にはブーム装置(4)の危険側の作業、すなわちブーム装置(4)の伏倒、伸長側方への旋回作業を停止させるようにしたものである。」(第3頁右下欄第1〜6行)
ソ.「その際、第7図の如くブーム装置(4)を伏倒させて安全範囲(実線内)を越えると前記ブーム長さRが限界値R0より大きくなるため判別規制部(35)にてブーム装置(4)の危険側の作動、すなわち伏倒及び伸長が規制される。作業台荷重W3が増加すると安全範囲が第7図一点鎖線、二点鎖線のように狭くなり、それに会ったブーム長さの限界値が設定される。」(第4頁左上欄第4〜11行)

これらの記載事項によれば、刊行物2には、
「車体上に起伏、伸縮作動等が自在に配設されたブーム装置(4)と、
このブーム装置(4)先端に配設された作業者搭乗用の作業台(6)と、
この作業台(6)に加えられる作業台荷重W3を検出する演算処理部(32)と、
前記ブーム装置(4)の作動量を検出して前記作業台(6)の位置を検出する長さセンサ(15),傾斜センサ(14)と、
前記作業台(6)に加わる荷重W3に応じて前記作業台(6)の移動可能範囲を定めた複数の荷重対応作業範囲のデータ(第7図参照。)が記憶された限界値テーブル(34)と、
前記長さセンサ(15),傾斜センサ(14)により求められた実作業台(6)位置が、前記複数の荷重対応作業範囲のうちの前記演算処理部(32)により検出された作業台荷重W3に対応する荷重対応作業範囲を超えるブーム装置(4)の作動を規制する判別規制手段(35)と、
を備えて構成される高所作業車の作業範囲規制装置。」
の発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比・判断
本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「車両22」は、本件発明の「車体」に相当する。以下同様に、「ブーム24」は「ブーム」に、「バケット28」は「作業台」に、「ブーム起伏角検出器32,ブーム長さ検出器33,作業姿勢データ演算手段12」は「作業台位置検出手段」に、「定格荷重」は「最大許容荷重」に、「所定負荷安全限界データ記憶手段11」は「記憶手段」に、「第2のブーム作業姿勢規制手段13」は「作動規制手段」に、それぞれ相当する。
してみると、両者は、
「車体上に起伏、伸縮作動等が自在に配設されたブームと、
このブーム先端に配設された作業者搭乗用の作業台と、
前記ブームの作動量を検出して前記作業台の位置を検出する作業台位置検出手段と、
前記作業台に加わる荷重に応じて前記作業台の移動可能範囲を定めた複数の荷重対応作業範囲のデータ、および前記作業台に加えることができる最大許容荷重よりも小さな基準荷重に基づいて前記作業台の移動可能範囲を定めた基準作業範囲のデータが記憶された記憶手段と、
前記作業台位置検出手段により求められた実作業台位置が、前記基準作業範囲を超えるブームの作動を規制する作動規制手段とを備えて構成され、
前記基準作業範囲は、前記最大許容荷重が加えられた状態で前記作業台を移動させるときに、車体に作用する転倒モーメントに対する安定度が1.0を越える範囲となるように設定される高所作業車の作業範囲規制装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する
〔相違点〕
本件発明は、この作業台に加えられる実荷重を検出する荷重検出手段と、前記作業台位置検出手段により求められた実作業台位置が、前記複数の荷重対応作業範囲のうちの前記荷重検出手段により検出された実荷重に対応する荷重対応作業範囲を超えるブームの作動を規制する作動規制手段とを備えて構成されるのに対して、
刊行物1に記載された発明は、このブーブ24に加えられる実モーメントを検出するモーメント検出器41,実モーメント演算手段8と、前記モーメント検出器41,実モーメント演算手段8により求められた実モーメントが、安全限界モーメント記憶手段21に記憶された所定のブーム稼動姿勢ごとの安全限界モーメントのデータのうちのブーム起伏角検出器32,ブーム長さ検出器33,安全限界モーメント演算手段7により検出されたブーム稼動姿勢に対応する安全限界モーメントを超えるブーム24の作動を規制する第1のブーム作業姿勢規制手段9とを備えて構成される点。

上記〔相違点〕について検討する。
本件発明と刊行物2に記載された発明とを対比すると、刊行物2に記載された発明の「ブーム装置(4)」は、本件発明の「ブーム」に相当する。以下同様に、「作業台(6)」は「作業台」に、「作業台荷重W3」は「実荷重」に、「演算処理部(32)」は「荷重検出手段」に、「長さセンサ(15),傾斜センサ(14)」は「作業台位置検出手段」に、「限界値テーブル(34)」は「記憶手段」に、「判別規制手段(35)」は「作動規制手段」に、それぞれ相当する。
なお、刊行物2に記載された発明の「荷重検出手段」は、作業台荷重、すなわち実荷重を演算により検出するものであるが、「ロードセル」によって実荷重を検出するものも、従来周知である。(必要なら、実願平4-63088号(実開平6-18388号)のCD-ROM,実願平5-19815号(実開平6-73080号)のCD-ROM,実願平5-40751号(実開平7-4495号)のCD-ROM、参照。)
してみると、刊行物2に記載された発明は、「この作業台に加えられる実荷重を検出する荷重検出手段と、前記作業台に加わる荷重に応じて前記作業台の移動可能範囲を定めた複数の荷重対応作業範囲のデータが記憶された記憶手段と、前記作業台位置検出手段により求められた実作業台位置が、前記複数の荷重対応作業範囲のうちの前記荷重検出手段により検出された実荷重に対応する荷重対応作業範囲を超えるブームの作動を規制する作動規制手段とを備えて構成される」事項を具備している。
そして、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明とは、「車体上に起伏、伸縮作動等が自在に配設されたブームと、このブーム先端に配設された作業者搭乗用の作業台と、前記ブームの作動量を検出して前記作業台の位置を検出する作業台位置検出手段と、前記作業台に加わる荷重に応じて前記作業台の移動可能範囲を定めた複数の荷重対応作業範囲のデータが記憶された記憶手段とを備えた高所作業車の作業範囲規制装置」という共通の技術分野に属するものであるから、刊行物1に記載された発明において、刊行物2に記載された発明の上記事項を考慮して、「この作業台に加えられる実荷重を検出する荷重検出手段と、前記作業台位置検出手段により求められた実作業台位置が、前記複数の荷重対応作業範囲のうちの前記荷重検出手段により検出された実荷重に対応する荷重対応作業範囲を超えるブームの作動を規制する作動規制手段とを備えて構成される」ようにすることは、当業者が容易に想到し得るものと認められる。

(4)むすび
したがって、本件発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
したがって、本件発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

<備考>上記2.で示したように、平成14年5月31日付けの手続補正、及び平成14年4月4日付けの訂正請求は認容し得ないものであるが、仮に認容したとしても、当該請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(i)上記刊行物1には、刊行物1の上記記載事項ア.オ.カ.キ.によれば、「前記所定負荷安全限界データ記憶手段11に記憶された前記複数の荷重対応作業範囲のデータから前記基準荷重に対応する基準作業範囲を読み出し、前記ブーム起伏角検出器32,ブーム長さ検出器33,作業姿勢データ演算手段12により求められた実バケット28位置が前記読み出した基準作業範囲を超えるブーム24の作動を規制し、且つ、安全限界モーメント記憶手段21に記憶された所定のブーム稼動姿勢ごとの安全限界モーメントのデータからブーム起伏角検出器32,ブーム長さ検出器33,安全限界モーメント演算手段7により検出されたブーム稼動姿勢に対応する安全限界モーメントを読み出し、前記モーメント検出器41,実モーメント演算手段8により求められた実モーメントが前記読み出した安全限界モーメントを超えるブーム24の作動も規制する」点が示されているものと認められる。
(ii)上記刊行物1には、刊行物1の上記記載事項ウ.エ.カ.ク.によれば、「基準荷重」について、任意である旨の記載がある。(上記記載事項ウ.カ.については、「例えば無負荷時の荷重性能に基いて上記ブーム旋回角、ブーム起伏角、ブーム長さをパラメータとして特定される作業姿勢の安全限界データを記憶した所定負荷安全限界データ記憶手段11」なる記載,「図2に示す例えば無負荷時の荷重性能に基いて上記ブーム旋回角、ブーム起伏角、ブーム長さをパラメータとする作業姿勢の安全限界データを予じめ記憶した所定負荷安全限界データ記憶手段11」なる記載、参照。)
したがって、基準荷重を任意に可変設定可能な基準荷重設定器を、別途備えるようにすることは、当業者が格別困難なく想到し得るものと認められる。
 
異議決定日 2002-07-19 
出願番号 特願平7-193382
審決分類 P 1 651・ 832- ZB (B66F)
P 1 651・ 121- ZB (B66F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 氏原 康宏
亀井 孝志
登録日 2000-10-06 
登録番号 特許第3117902号(P3117902)
権利者 株式会社アイチコーポレーション
発明の名称 高所作業車の作業範囲規制装置  
代理人 大西 正悟  

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