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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1066016
異議申立番号 異議2001-73266  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-04 
確定日 2002-09-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第3173426号「シリカ絶縁膜の製造方法及び半導体装置の製造方法」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3173426号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 (I)手続きの経緯
本件特許第3173426号の請求項1〜7に係る発明は、平成9年6月9日に特許出願され、平成13年3月30日に特許権の設定登録がなされ、その後、当該請求項1〜7に係る発明の特許について、村井 宏(以下、申立人という。)から、特許異議の申立がなされたものである。

(II)特許異議申立について
(II-1)本件発明
本件の請求項1〜7に係る発明(以下、本件発明1〜7という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された次の事項により特定されるものである。
【請求項1】シリコン及び酸素を主成分とし、かつ膜中に空孔を有するシリカ絶縁膜の製造方法であって、ベンゼン核を含有する有機物質を少なくとも一つ含む原料ガスを加熱した基板に供給してCVD法によりベンゼン核を含有するシリカ絶縁膜を成膜し、その後前記ベンゼン核を含有するシリカ絶縁膜を熱処理することにより前記ベンゼン核を脱離させて空孔となすことを特徴とするシリカ絶縁膜の製造方法。
【請求項2】前記熱処理を450℃以上の温度で行うことを特徴とする請求項1に記載のシリカ絶縁膜の製造方法。
【請求項3】前記熱処理を真空中または不活性ガス雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリカ絶縁膜の製造方法。
【請求項4】前記CVD法の原料として、シリコンの原料とベンゼン核を含有する有機物質との両者を原料として用いることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のシリカ絶縁膜の製造方法。
【請求項5】前記CVD法の原料として、ベンゼン核とシリコンの結合を持つ有機物質を原料として用いることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のシリカ絶縁膜の製造方法。
【請求項6】前記CVD法の原料として酸化ガスをさらに添加して用いることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のシリカ絶縁膜の製造方法。
【請求項7】シリコン及び酸素を主成分としかつ膜中に空孔を有するシリカ絶縁膜を層間絶縁膜として用いる半導体装置の製造方法であって、請求項1から請求項6のいずれかに記載の方法によるシリカ絶縁膜の製造工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。

(II-2)特許異議申立の理由
申立人は、証拠方法として、甲第1号証(特開平8-227888号公報)、甲第2号証(特開平1‐235254号公報)、甲第3号証(特願平8‐247556号の願書に最初に添付された明細書及び図面、特開平10-92804号公報参照)および甲第4号証(特願平8‐240374号の願書に最初に添付された明細書及び図面、特開平10-92808号公報参照)を提示し、
(A)本件発明1〜7は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、
(B)本件発明1〜7は、甲第3,4号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである、
との理由で、本件発明1〜7に係る特許は取り消されるべきである旨を主張する。

(II-3)甲各号証の記載
甲第1号証:
「化学的気相成長法によって、有機成分を含む酸化ケイ素膜を成膜する誘電体膜の形成方法において、化学的気相成長に用いる原料気体は、少なくとも、モノシランまたはポリシランのシラン系気体と、CnH2n+2〔nは正の整数を表す〕で表される炭化水素と、酸素原子を含む気体からなる酸化剤とで構成されることを特徴とする誘電体膜の形成方法。」(特許請求の範囲)、
「本発明は、半導体装置に用いられる誘電率が低い誘電体膜、特には0.25μm以下の設計ルールの半導体装置の層間絶縁膜等に用いられる誘電体膜の形成方法に関するものである。」(段落番号【0001】参照)、
「そこで本発明は、埋め込み能力が高く、誘電率が低い誘電体膜の形成方法を提供することを目的とする。」(段落番号【0007】参照)、
「上記誘電体膜の形成方法では、少なくとも、シラン系気体と、CnH2n+2〔nは正の整数を表す〕で表される炭化水素と、酸素原子を含む気体からなる酸化剤とで構成される原料気体を用いる化学的気相成長によって、誘電体膜を形成することから、シラン系気体と酸化剤とが縮合して、シラノールが生成され、このシラノールと炭化水素とが反応して有機成分(例えばアルキル基)とSiとの結合を有する前駆体が生成される。そしてこの前駆体とシラノールとが反応して、有機成分(例えばアルキル基)とSiとの結合を有する酸化ケイ素からなる誘電体膜が形成される。このように、シリコン原子にアルキル基が付くことによって、そこで結合のネットワークが断ち切られ、分子間の電子の行き来がなくなる。すなわち、電子分極率が小さくなることにより、誘電率が低くなる。また、化学的な結合が切れるために、膜の密度が小さくなる。すなわち、単位体積当たりの分極する分子の数が少なくなることにより、誘電率が低くなる。」(段落番号【0009】、【0010】参照)、
「第1実施例を説明する。図1の(1)に示すように、基体としての半導体基板11上には絶縁膜12を介して配線13が形成され、この配線13の表面には保護膜14が形成されている。」(段落番号【0015】参照)、
「図1の(2)に示すように、上記保護膜14上に誘電率2.5〜3.5の低誘電体膜15を成膜する。この低誘電体膜15は、図3に示したような低圧CVD装置201で成膜される。上記LPCVD装置201の反応室211内に、気体導入部212,213、拡散部216を介して、原料気体を導入した。この原料気体は、シラン系気体(モノシランまたはポリシラン)として例えばモノシラン〔SiH4〕と、CnH2n+2〔式中、nは正の整数を表す〕で表せる炭化水素として例えばエタン〔C2H6〕と、酸素原子を含む気体からなる酸化剤として例えば過酸化水素〔H2O2〕とで構成されている。このときの気体流量は、SiH4が50sccm、C2H6が25sccm、H2O2が200sccmとした。そして、排気部214からの排気量を調整して反応室211内の圧力を100Paに保った。また基板載置部215に載置した半導体基板11の温度を0℃に保ち、さらに半導体基板11の上方に設けられている拡散部216の温度を100℃に保った。上記数値条件は一例であって、ここで示した数値に限定されることはない。上記条件の下で、上記半導体基板11上に厚さ800nmの有機成分(エチル基)を含むSiO2からなる低誘電体膜15を形成した。」(段落番号【0017】参照)、
「上記第1〜第3実施例におけるシラン系気体は、上記モノシラン〔SiH4〕、ジシラン〔Si2H6〕等の他、トリシラン〔Si3H8〕、ポリシラン〔SiH6〕等を用いることが可能である。また酸化剤は、酸素〔O2〕、オゾン〔O3〕、水〔H2O〕、過酸化水素〔H2O2〕および酸化二窒素〔N2O〕のうちの少なくとも1種から選択される。さらに炭化水素は、上記メタン〔CH4〕,エタン〔C2H6〕等のCnH2n+2〔式中、nは正の整数を表す〕で表せるものであればよい。」(段落番号【0036】参照)、
「少なくとも.シラン系気体と、CnH2n+2で表せる炭化水素と、酸素原子を含む気体からなる酸化剤とで構成される原料気体を用いる化学的気相成長によって誘電体膜を形成するので、この誘電体膜は有機成分のアルキル基とSiとの結合を有する酸化ケイ素になる。このため、電子分極率が小さくなるので、誘電率を低くすることが可能になる。また、誘電体膜の密度が小さくなるので、単位体積当たりの分極する分子の数が少なくなることにより、誘電率を低くできる。また、本発明の化学的気相成長法では、重合反応が比較的遅く進むので、形成される膜は成膜表面で液体のように振る舞うことができる。そのため、高アスペクト比の段差を埋め込むことが可能になり、グローバル平坦化が可能になる。」(段落番号【0038】参照)。

甲第2号証:
「(1)半導体素子を形成した半導体基板上に多孔質絶縁膜を介して多層に金属配線を形成したことを特徴とする半導体装置 (2)塩基性酸化物と酸性酸化物の混合した絶縁膜を第1の層の金属配線を有する半導体基板上に堆積する工程と、該混合した絶縁膜を熱処理する工程と、引き続いて前記塩基性酸化物あるいは前記酸性酸化物のみを選択的に溶解する薬品液に侵潰して多孔質絶縁膜を形成する工程と、その後多孔質絶縁膜上に第2の層の金属配線を形成する工程とを含むことを特徴とする半導体装置の製造方法」(特許請求の範囲)、
「混合した絶縁膜が酸化ナトリウムあるいは酸化カルシウムと二酸化珪素あるいは二酸化珪素/酸化ホウ素の混合物で構成されていることが好ましく、混合した絶縁膜中に含まれる酸化ナトリウムあるいは酸化カルシウムの濃度が15から25モル%であることが好ましく、その後酸化ナトリウムあるいは酸化カルシウムのみを溶解する。混合した絶縁膜を熱処理する工程において、処理温度が350℃〜500℃であることが好ましい。本発明は配線間の層間絶縁膜として絶縁膜中に微細な多数の孔を有する多孔質絶縁物を用いているから層間絶縁膜の比誘電率εを低減(2以下)にすると共に、信頼性の高い金属配線技術を提供できる。」(2頁右上欄15行〜同頁左下欄8行)、
「本発明は多層配線の層間絶縁膜を多孔質絶縁膜で構成することにより、金属配線間の寄生容量を大幅に(1/2以下)に低減でき、半導デバイスの高密度化を容易にする効果がある。」(4頁右上欄13〜18行参照)。

甲第3号証:
「多孔質誘電体膜を形成する方法であって、基板上に、溶媒に溶かしたフルオロカーボン系樹脂を塗布して有機膜を形成した後、前記有機膜を前記フルオロカーボン系樹脂のガラス転移温度よりも高く該フルオロカーボン系樹脂の熱分解温度よりも低い温度雰囲気で、かつ該温度雰囲気における前記溶媒の飽和蒸気圧よりも低い圧力雰囲気で熱処理を行うことを特徴とする多孔質誘電体膜の製造法。」(特許請求の範囲)、
「本発明は、多孔質誘電体膜の製造方法に関する。詳しくは、0.25μmルール以下の半導体装置の層間絶縁膜に用いられる多孔質誘電体膜の製造方法に関するものである。」(段落番号【0001】参照)、
「図1の(1)に示すように、基板(例えばシリコン基板)11上に酸化シリコン膜12を例えば500nmの厚さに形成する。・・・次いで上記酸化シリコン膜12上に金属配線13を形成する。・・・次に、・・・上記酸化シリコン膜12上に上記金属配線13を覆う酸化シリコン膜14を、例えば100nmの厚さに形成する。・・・上記酸化シリコン膜14は、・・・必ずしも必要ではない。次に、・・・上記酸化シリコン膜14上にフルオロカーボン系溶媒に溶かしたフルオロカーボン系樹脂を基板11上に塗布し、例えば500nmの厚さの有機膜15を形成した。」(段落番号【0014】〜【0017】参照)、
「次に第4実施形態を説明する。この第4実施形態は、・・・前記第1実施形態または・・・において多孔質誘電体膜の形成方法のみが異なる。したがって、ここでは、多孔性誘電体膜の形成方法のみを説明する。フルオロカーボン系樹脂には化学式〔3〕に示す構造を有するようなフッ化ポリアリルエーテル系樹脂〔・・・〕を用い、溶媒にはフルオロカーボン系溶媒〔・・・〕を用いる。」(段落番号【0037】、【0038】参照)、
「以上、説明したように本発明によれば、溶媒に溶かしたフルオロカーボン系樹脂を基板上に塗布して形成した有機膜を、フルオロカーボン系樹脂のガラス転移温度よりも高く熱分解温度よりも低い温度雰囲気で熱処理を行うので、有機膜中にミクロな空隙が形成され、・・・溶媒は気化され、有機膜中に小さな気泡(空洞)を生じさせることができる。よって、有機膜中にミクロな気泡(空洞)を有する構造を安定的に形成することができ、かつ従来のいわゆる低誘電率膜よりも比誘電率が低い多孔質誘電体膜(比誘電率1.2〜1.8程度)を形成することが可能になる。」(段落番号【0044】参照)、

甲第4号証:
「半導体基板に、所定の処理により気体を発生させる潜気絶縁膜を形成する工程と、前記気体を透過させない被覆膜によって前記潜気絶縁膜を覆う工程と、前記潜気絶縁膜に所定の処理を施すことで気体を発生させて、前記潜気絶縁膜内にマイクロボイドを形成する工程と、前記被覆膜を除去したうえで、前記潜気絶縁膜に再度所定の処理を施すことで、前記潜気絶縁膜中に残存している気体となる成分を気体にして除去する工程とを含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項5)、
「本発明は、半導体装置の製造工程および半導体装置に係り、詳しくは、半導体基板上に形成される絶縁膜の形成方法および絶縁膜の構造に関する」(段落番号【0001】参照)、
「潜気絶縁膜11としては、例えばSiHX(OH)1-X、SiH4+H2O2等の無機絶縁膜やSiO(C2H5)3等の有機を含んだ絶縁膜等が適当である。SiHX(OH)1-XやSiH4+H2O2からなる潜気絶縁膜11であれば、水蒸気(H2O)がガスとして発生する。SiO(C2H5)3からなる潜気絶縁膜11であれば、水蒸気(H2O)やエチルアルコールガス(C2H5)3がガスとして発生する。 また、潜気絶縁膜11は、加熱処理等の所定の処理を施すことで、ガスを発生させる膜であるならば無機、有機を問わず、どのような絶縁膜でもよい。しかしながら、有機を含む絶縁膜から潜気絶縁膜11を構成するのであれば、所定の処理でガスを発生させた後には、ほとんど有機物質が残存しない物質が適当である。これは、有機物質が残存していると、耐熱性が悪化するうえに、潜気絶縁膜11のべークを完全に行わないと、その後の工程における熱処理で未反応の有機物質からガスが発生して半導体装置を汚染させるうえ、酸素アッシングの工程を施すと、潜気絶縁膜11は損傷を受けてしまうことになるためである。」(段落番号【0043】、【0044】参照)、
「以上説明したように、本発明によれば、・良好な耐熱性、・有害ガスの無発生、・酸素アッシングの工程に対する良好な耐久性、といった無機物からなる絶縁膜が有する有効性を享受したうえで、有機を含んだ絶縁膜と同等の値まで比誘電率を低下させることが可能となり、これにより、超微細化や高集積化に適応した半導体装置の製造が可能となった。以下、それぞれの請求項の効果を詳細に説明する。」(段落番号【0054】参照)、
「請求項5の効果 潜気液絶縁膜中に、マイクロボイドを形成する分、その比誘電率を低下させることができるうえ、潜気絶縁膜中に残存する気体となる成分を発散させるので、潜気絶縁膜の電気的性質や機械的性質を安定させることができた。このように、本発明によれば、比誘電率等の電気的性質や強度等の機械的性質に優れた半導体装置を製造することができた。」(段落番号【0059】参照)。

(II-4)判断
申立理由(A)について:
本件発明1〜7は、「シリコン及び酸素を主成分とし、かつ膜中に空孔を有するシリカ絶縁膜の製造方法」において、「ベンゼン核を含有する有機物質を少なくとも一つ含む原料ガスを加熱した基板に供給してベンゼン核を含有するシリカ絶縁膜を成膜」する工程を、発明を特定するのに必要な事項とするものであり、当該事項の採用により、十分な低誘電率と耐熱性を備えた絶縁膜を製造できるという、特許明細書に記載されたとおりの効果を奏するものである。
これに対して、甲第1、2号証には、前記したとおりの記載はあるものの、シリカ絶縁膜の製造において、原料ガスとしてベンゼン核を含有する有機物質を用いベンゼン核を含有するシリカ絶縁膜を成膜することを示唆する記載はない。
すなわち、甲第1号証には、原料ガスとして炭化水素を用いることが記載されているものの、当該炭化水素については、「シラノールと炭化水素とが反応して有機成分(例えばアルキル基)とSiとの結合を有する前駆体が生成される。そしてこの前駆体とシラノールとが反応して、有機成分(例えばアルキル基)とSiとの結合を有する酸化ケイ素からなる誘電体膜が形成される。このように、シリコン原子にアルキル基が付くことによって、・・・誘電率が低くなる。」(段落番号【0009】、【0010】参照)と記載され、「誘電体膜は有機成分のアルキル基とSiとの結合を有する酸化ケイ素になる。このため、電子分極率が小さくなるので、誘電率を低くすることが可能になる。」(段落番号【0038】参照)と記載され、アルキル基を誘電体膜に導入する物質として記載されているのであるから、甲第1号証における炭化水素の記載が、原料ガスとしてベンゼン核を含有する有機物質を用いること、さらには、ベンゼン核を含有するシリカ絶縁膜を成膜することを示唆しているとすることはできない。
また、甲第2号証には、「塩基性酸化物と酸性酸化物の混合した絶縁膜を・・・半導体基板上に堆積する工程と、該混合した絶縁膜を熱処理する工程と、引き続いて前記塩基性酸化物あるいは前記酸性酸化物のみを選択的に溶解する薬品液に侵潰して多孔質絶縁膜を形成する工程と、・・・を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法」(特許請求の範囲)と記載され、空孔を形成する前の絶縁膜については、「塩基性酸化物と酸性酸化物の混合した絶縁膜」とされ、有機物質を含有するとの記載はなく、当該絶縁膜の形成に、原料ガスとして炭化水素を用いるとの記載もないから、甲第2号証に、原料ガスとしてベンゼン核を含有する有機物質を用いベンゼン核を含有するシリカ絶縁膜を形成することが示唆されているとすることはできない。
さらにまた、甲第1、2号証には、本件発明1〜7における前記した効果を示唆するところもない。
したがって、本件発明1〜7が、甲第1,2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
なお、申立人は、『甲第1号証の刊行物には、「有機成分(例えばアルキル基)とSiとの結合を有する酸化ケイ素からなる誘電体膜が形成される。」実施例が記載されており、更に、有機成分に関して、「さらに炭化水素は、上記メタン〔CH4〕,エタン〔C2H6〕等のCnH2n+2〔式中、nは正の整数を表す〕で表せるものであればよい。」と記載されており、nが「6」の場合のベンゼン核を含むものである。』(特許異議申立書14頁5〜10行)と主張するが、前記一般式においてnを「6」としてもベンゼン核を含むものにはならないから、当該主張は採用できない。
よって、申立理由(A)は、採用しない。

申立理由(B)について:
甲第3号証には、前記したとおりの記載があり、「基板上に、溶媒に溶かしたフルオロカーボン系樹脂を塗布して有機膜を形成した後、・・・熱処理を行うこと」により多孔質誘電体膜を製造することが記載されていると解されるものの、その特許請求の範囲の記載、および、具体的な実施形態に係る「基板(例えばシリコン基板)11上に酸化シリコン膜12を・・・形成する。・・・次いで上記酸化シリコン膜12上に金属配線13を形成する。・・・次に、・・・上記酸化シリコン膜12上に上記金属配線13を覆う酸化シリコン膜14を、・・・形成する。・・・上記酸化シリコン膜14上にフルオロカーボン系溶媒に溶かしたフルオロカーボン系樹脂を基板11上に塗布し、・・・有機膜15を形成した。」(段落番号【0014】〜【0017】参照)との記載からみて、前記多孔質誘電体膜は、フルオロカーボン系樹脂の有機膜からなるものと解され、甲第3号証に「シリコン及び酸素を主成分とし、かつ膜中に空孔を有するシリカ絶縁膜」に係る発明が記載されているとすることはできない。
また、甲第4号証には、前記したとおりの記載があり、「半導体基板に、・・・潜気絶縁膜を形成する工程と、・・・前記潜気絶縁膜内にマイクロボイドを形成する工程と、・・・前記潜気絶縁膜中に残存している気体となる成分を気体にして除去する工程とを含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。」が記載されていると解されるものの、前記潜気絶縁膜については、「例えばSiHX(OH)1-X、SiH4+H2O2等の無機絶縁膜やSiO(C2H5)3等の有機を含んだ絶縁膜等が適当である。」とされ、「加熱処理等の所定の処理を施すことで、ガスを発生させる膜であるならば無機、有機を問わず、どのような絶縁膜でもよい。」とされ、さらに、「しかしながら、有機を含む絶縁膜から潜気絶縁膜11を構成するのであれば、所定の処理でガスを発生させた後には、ほとんど有機物質が残存しない物質が適当である。これは、有機物質が残存していると、耐熱性が悪化するうえに、潜気絶縁膜11のべークを完全に行わないと、その後の工程における熱処理で未反応の有機物質からガスが発生して半導体装置を汚染させるうえ、酸素アッシングの工程を施すと、潜気絶縁膜11は損傷を受けてしまうことになるためである。」とされているのみであり、「ベンゼン核を含有するシリカ絶縁膜」を含むとの記載はない。
また、甲第4号証の前記「ガスを発生させうる膜であるならば、・・・どのような絶縁膜でもよい。」との記載からみて、甲第4号証に記載された発明はそこに例示された「SiO(C2H5)3を含んだ絶縁膜」と効果を均等にするものであると解されるところ、当該絶縁膜は本件発明1〜7の従来技術とされる有機成分としてアルキル基を有する絶縁膜に相当するものであり、本件の特許明細書の記載からみて、「ベンゼン核を含有するシリカ絶縁膜」とは効果を異にするものである。
したがって、甲第4号証に、「ベンゼン核を含有するシリカ絶縁膜」を用いる発明が記載されているとすることはできない。
してみると、「シリコン及び酸素を主成分とし、かつ膜中に空孔を有するシリカ絶縁膜」および「ベンゼン核を含有するシリカ絶縁膜」を発明を特定するのに必要な事項とする本件発明1〜7 が、甲第3、4号証に記載された発明と同一であるとすることはできない。
よって、申立理由(B)は、採用しない。

(II-5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては本件発明1〜7についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜7についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-09-03 
出願番号 特願平9-150762
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 161- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 池渕 立  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 雨宮 弘治
伊藤 明
登録日 2001-03-30 
登録番号 特許第3173426号(P3173426)
権利者 日本電気株式会社
発明の名称 シリカ絶縁膜の製造方法及び半導体装置の製造方法  

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