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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B41M
審判 全部申し立て 発明同一  B41M
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B41M
管理番号 1066067
異議申立番号 異議2002-71692  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-10-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-07-15 
確定日 2002-10-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第3245624号「熱転写記録媒体」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3245624号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1 本件発明
本件特許第3245624号の請求項1、2に係る発明[平成4年4月10日出願(優先日 平成4年1月14日)、平成13年11月2日設定登録]は、特許明細書の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】支持体上に、着色剤及び樹脂結着剤を主成分とするインク層を設けてなる熱転写記録媒体において、(A)前記着色剤が、
(a)銅フタロシアニン系およびハロゲン化銅フタロシアニン系の顔料
(b)下記の一般式[1]で表わされるアゾ系顔料
【化1】




[式中、R1、R2およびR3はそれぞれ同一または異なっていてもよく、HまたはCnH2n+1(但しn=1〜3)であり、X1、X2、X3およびX4はそれぞれ同一または異なっていてもよく、HかClかBrである]

(c)下記の一般式[2]で表わされるアゾ系顔料
【化2】
(化学式およびその定義は省略)

(d)下記の一般式[3]で表わされるアゾ系顔料
【化3】
(化学式およびその定義は省略)

(e)下記の一般式[4]で表わされるアゾ系顔料
【化4】
(化学式およびその定義は省略)

の中から選ばれる少なくとも1種の顔料であると共に、
(B)インク層中の着色剤と樹脂結着剤との量の比率が、DIN53194法による着色剤の粉末嵩密度から算出した嵩(密度の逆数)をA(cm2/g)、樹脂結着剤のの嵩(密度の逆数)をB(cm2/g)、インク層中の着色剤および樹脂結着剤の重量分率をそれぞれxおよびyとした際に、下記式
(A×x)/(B×y)=3〜10
を満足させる値であることを特徴とする熱転写記録媒体。
【請求項2】樹脂結着剤が、融点(DSC法)80〜150℃のポリアミドである請求項1記載の熱転写記録媒体。」

2 特許異議申立ての理由の概要
異議申立人・藤田肇は、甲第1号証(特開平4-80088号公報参照)を提出し、本件請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に係る、本件出願の優先日前の出願である特願平2-193078号の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であるので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができず、又本件明細書の記載が不備であるから特許法第36条第4項及び第5項(異議申立書では単に「第36条」と記載しているが、主張の内容からみて第4、5項に関する主張と認める。)に規定する要件を満たしていないものであり、本件特許は取り消されるべきである旨主張している。

3 「先願明細書」の記載事項
「先願明細書」(甲第1号証参照)には、「(1)基材フィルムの一方の面に熱溶融性インキ層を形成してなる熱転写シートにおいて、該インキ層中の顔料が銅フタロシアニングリーンであることを特徴とする熱転写シート。」(特許請求の範囲、請求項1)が記載され、「本発明で使用する銅フタロシアニングリーンは、ワックスに対する微分解性、熱安定性、耐候性等に優れたものであり、・・・。ビヒクルとしては、ワックスを主成分とし、・・・が用いられる。」(2頁左下欄5〜16行)、「(実施例)・・・尚、文中、部又は%とあるのは特に断りのない限り重量基準である。」(3頁左下欄9〜12行)、「実施例1 厚さ6.0μmのポリエチレンテレフタレートのフィルムを基材フィルムとし、その一方の面に、下記記成分からなる熱溶融性インキを120℃で6時間混練したものを、・・・塗布して本発明の熱転写シートを得た。
熱溶融性インキ
塩素数16個の銅フタロシアニングリーン 15部
エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA フレックス310、三井ポリケミカル製) 8部
パラフィンワックス(パラフィン150F・・・) 50部
カルナバワックス 25部 」
(3頁左下欄13行〜右下欄8行)と記載されている。

4 異議申立ての理由についての判断
(1)特許法第29条の2違反について
(a)請求項1に係る発明について
「先願明細書」には、上記のとおり熱転写シートに関する発明が記載されているが、「実施例1」に記載のものが、本件の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)の「熱転写シート」に対応する。
そこで、本件発明1(但し、着色剤が「銅フタロシアニン系の顔料」である場合)と「先願明細書」の「実施例1」に記載の発明を対比すると、両者は、支持体上に、着色剤及び樹脂結着剤を含有するインク層を設けてなる熱転写記録媒体である点で共通するが、前者では、インク層中の”着色剤と樹脂結着剤との量の比率が、DIN53194法による着色剤の粉末嵩密度から算出した嵩(密度の逆数)をA(cm2/g)、樹脂結着剤のの嵩(密度の逆数)をB(cm2/g)、インク層中の着色剤および樹脂結着剤の重量分率をそれぞれxおよびyとした際に、下記式
(A×x)/(B×y)=3〜10
を満足させる値”(以下、「着色剤と樹脂結着剤の特定比率」という。)であるのに対し、後者ではそのことが記載されていない点で相違が認められる。
「先願明細書」に記載の「実施例1」では、「熱溶融性インキ」の処方が記載され、着色剤は「塩素数16個の銅フタロシアニングリーン」であり、樹脂結着剤は「エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA フレックス310、三井ポリケミカル製)」であるが、「塩素数16個の銅フタロシアニングリーン」の「DIN53194法による着色剤の粉末嵩密度から算出した嵩(密度の逆数)」である「A(cm2/g)」と、樹脂結着剤の「嵩(密度の逆数)」である「B(cm2/g)」の値が記載されていない。
甲第1号証記載の「実施例1」において、着色剤の「A(cm2/g)」と樹脂結着剤の「B(cm2/g)」が、「実施例1」記載の着色剤と樹脂結着剤の各重量から求められるx/yを用いて(A×x)/(B×y)を計算したときに3〜10になるような値であるということは自明ではなく、又そのような値になると判断し得る根拠もない。
(なお、異議申立人は、(A×x)/(B×y)が「3.5〜7.0」であると主張するが、製品が何であるのか、数値がどのような根拠に基づくのか等が明らかにされていないので、該主張は採用できない。)
更に、本件発明1と「先願明細書」の「実施例1」に記載の発明とは、上記相違点に加え、前者ではインク層の主成分が着色剤と樹脂結着剤であるのに対し、後者ではこれらとワックスが主要な成分である点においても相違する。
そうである以上、「先願明細書」には、着色剤及び樹脂結着剤を主成分とするインク層を設けてなる熱転写記録媒体において、インク層中の着色剤と樹脂結着剤との量比が上記の「着色剤と樹脂結着剤の特定比率」であるものが開示されているとすることはできない。
したがって、本件発明1は、「先願明細書」に記載の発明と同一であるとは認められない。

(b)請求項2に係る発明について
本件の請求項2に係る発明は、本件発明1を技術的に限定したものであるから、上記(1)、(a)に記載したのと同様な理由により「先願明細書」に記載された発明と同一であるとは認められない。

(2)特許法第36条違反について
異議申立人は次の点で本件明細書の記載が不備であるので特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない旨主張している。
(i)本件請求項1での「インク層中の着色剤と樹脂結着剤との量の比率」なる記載における「量」が「重量」であるのか「容量」であるのか記載されていないので、請求項1の発明の技術的範囲が把握できない。
(ii)本件明細書の「表3」には、「比較例1」として「実施例2〜7」に比し同等若しくはより優れたものが示されているので、請求項1に記載の「(A×x)/(B×y)=3〜10」は、臨界的意義が認められない。よって請求項1、2の発明の記載は不明瞭である。
(i)について、
本件明細書の 請求項1には「量の比率」について、「インク層中の着色剤および樹脂結着剤の重量分率をそれぞれxおよびyとした際に、下記式
(A×x)/(B×y)=3〜10 を満足させる値である」という記載があり、その中でx、yは「重量分率」であると記載されているので、「量の比率」の意味は明確である。請求項1の発明の技術的範囲が分からないとは言えない。
(ii)について、
本件明細書に記載の「実施例2〜7」と「比較例1」を対比すると、熱感度が前者では18〜19であるのに対し後者では22である。そして、本件明細書、段落【0037】には「前記式の値が3より小さいか又は10より大きい場合(比較例1,2)では、ソーピング耐性が劣化するか又は「ともおち現象」を伴うため満足な結果が得られない。」(本件特許公報19欄5〜8行)とあるので、「比較例1」(インク液8を使用。該インク液の(A×x)/(B×y)は2.8。)の方が優れているということにはならない。又、本件明細書における「この比率が10よりも大きくなると・・・・一方、この比率が3よりも小さくなると・・・熱感度が低下する。この結果、いわゆる「ともおち現象」・・・が起こるようになる。」(本件特許公報8欄40〜47行)の記載から、(A×x)/(B×y)の下限を3、上限を10としたことの技術的意義は明確である。したがって、請求項1、2の発明の記載が不明瞭であるとすることはできない。

5 むすび
以上のとおりであるので、異議申立の理由及び証拠によっては、本件の請求項1、2に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件の請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-10-01 
出願番号 特願平4-118074
審決分類 P 1 651・ 161- Y (B41M)
P 1 651・ 531- Y (B41M)
P 1 651・ 534- Y (B41M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 嶋矢 督
特許庁審判官 植野 浩志
阿久津 弘
登録日 2001-11-02 
登録番号 特許第3245624号(P3245624)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 熱転写記録媒体  
代理人 池浦 敏明  

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