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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審判199223900 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) A61K
管理番号 1066973
審判番号 審判1997-21438  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-12-19 
確定日 2002-08-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第2088101号発明「亜硫酸イオンフリ―の二重包装型アミノ酸輸液製剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2088101号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.本件発明
本件特許第2088101号は、平成2年11月30日の出願に係り、平成7年2月22日に出願公告され、平成8年9月2日に設定登録されたものであって、その発明は、明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により構成される以下のとおりのものである。
「システイン、シスチンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種を含有した亜硫酸イオンフリーのアミノ酸輸液が硫化水素透過性容器に充填されており、かつ該輸液充填容器が脱酸素剤と共に気密性容器に封入されていることを特徴とする亜硫酸イオンフリーの二重包装型アミノ酸輸液製剤。」
2.当事者の主張
[請求人の主張]
本件無効審判請求人(以下、請求人という。)は、本件特許を無効にすべき理由の一として、本件特許発明は、甲第11号証に係る特開平2-200266号公報に記載された発明であるから、本件特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである旨主張しており、この主張に関し提示された証拠方法は以下のとおりである。
証拠方法
甲第1号証;特開平2-200266号公報
甲第5号証;「Modern Plastics (Permeability of Polymeric Films to Gases)」(July・1950)P.95〜102
甲第6号証;硫化水素透過性に関する株式会社サン分析センター大阪支店の分析結果報告書
甲第7号証;酸素透過性に関する株式会社サン分析センター大阪支店の分析結果報告書
甲第12号証;特開平7-67936号公報
甲第13号証;「岩波理化学辞典第5版」1998 岩波書店 第588〜589頁
甲第14号証;「第11改正日本薬局方解説書1986」廣川書店 B-397〜B413
甲第15号証;被請求人が、平成11年6月30日の口頭審理で提出した、「本件発明」と「甲第8号証の発明」との対比表
甲第16号証;「BUNSEKI KAGAKU」Vol.35 (1986) P.309〜311
甲第17号証;「JJPEN」Vol.11, No.4, (1989) P.396〜398
甲第18号証 ;「医薬品の開発」11巻、製剤の単位操作と機械、廣川書店、平成元年11月10日、第218〜219頁
甲第25号証;株式会社大塚製薬工場の作成に係る実験報告書
[被請求人の主張]
本件無効審判被請求人(以下、被請求人という。)は、上記請求人の主張に対して、概要以下の理由を挙げ、本件特許発明は甲第11号証に記載された発明ではない旨主張している。
(1)甲第11号証の技術は乙第10号証に記載されているとおり加圧煮沸滅菌に係るものであるのに対して、本件特許発明は硫化水素の悪臭を防止するものであるから、甲第11号証の技術と本件特許発明とは全く異質のものである。
(2)甲第11号証においては、輸液中に亜硫酸イオンが含まれていないとの記載はなく、技術常識からみれば甲第11号証の輸液は亜硫酸イオンを含むとするのが妥当である。
(3)甲第11号証の記載からでは、甲第11号証将の輸液がシステイン、シスチンを含有するものであるとはいえない。
この主張に関し提示された証拠方法は以下のとおりである。
証拠方法
乙第2号証;「医療ジャーナル」Vol.25, No.9,(1989)P.98〜 101
乙第10号証;「日本薬局方に準拠した滅菌法および微生物滅滅法」財団法人日本規格協会、1998年2月10日、第115〜123頁
乙第11号証;特開昭57-206447号公報
乙第12号証;特開昭62-221352号公報
3.検討・判断
甲第11号証においては、「密封した耐熱性の合成樹脂のフィルム材からなる内袋内に収容された輸液に溶存酸素と反応し得る量以上の亜硫酸塩を溶解させた100℃〜121℃の加圧過熱状態の滅菌水中で滅菌処理を施して冷却した後、この内袋を脱酸素剤とともに酸素ガスバリヤの高い合成樹脂フィルム材からなる外袋内に密封するようにしたことを特徴とする輸液入り合成樹脂容器の製造方法」について記載され(特許請求の範囲の請求項1)、甲第11号証の発明について「本発明は酸素によって変質しやすい輸液を収容するのに好適な輸液入り合成樹脂容器の製造方法に関するものである」と記載され(産業上の利用分野の項)、従来技術に関し「従来、例えばアミノ酸輸液のような酸素によって変質しやすい輸液を収容するようにした合成樹脂容器の製造方法として・・・・滅菌する方法を採用した製造法も公知である(特開昭62-221352号公報)。」なる記載がある(従来技術の項)。さらに、甲第11号証の発明の課題については、「上記のように輸液を収容する容器では、容器の一部が容器内に溶出することがないものを選択しなければならず、一般にポリエチレン、ポリプロピレン等が最適なものとして現在多く使用されている。しかし、これらの材質は高温下で酸素ガスの透過性が高く、容器内の内容物がアミノ酸等の酸素で変質するようなものである場合、これを滅菌処理するために、上述のように、不活性ガスを滅菌機内に充満させた後に、蒸気を吹き込む方法が採用されているが、酸素を実質上無くするために、大量のガスが必要である。・・・・一方、滅菌に加圧過熱水を用いた場合にも、高温でも加圧下では多量の溶存酸素が存在するため、内容液の変質は防げなかった。また滅菌前に外袋に脱酸素剤とともに密封する方法は、その製造工程で、・・・・さらに、この外袋の材質は、滅菌中の熱でブロッキングを起こさないもの、高温、高湿度下でもガス透過度の低いものを選択しなければならず、その材質に制約があった。本発明は、上記従来の問題点を課題としてなされたものであって、製造工程の単純化を可能とした輸液入り合成樹脂容器の製造方法を提供しようとするものである。」と記載されている。
また、実施例においては、第1図を参照して「内袋3は耐熱性があり、高温下で酸素ガスの透過性がある材質のもの、例えばポリエチレンフィルム材からなり、外袋6は酸素ガスバリヤの高い材質のもの、例えば内層-ポリエチレン、中間-エバール(商品名、株式会社クラレ製)、外層-ナイロンを配した3層フィルム材からなっている」、及び「上記輸液1は、例えばトリプトファンを含む各種アミノ酸を12%の濃度で蒸留水に溶解したものである」と記載され、滅菌水中に添加する亜硫酸水素ナトリウムについて、「この亜硫酸水素ナトリウムは、食品添加物としても用いられている安全性の高い化合物である。
さらに、容器にポリエチレンを用いた場合には、測定の結果輸液の亜硫酸イオン、硫酸イオンの容器内部の透過は検出されなかった。」との記載がある。
また、表1には、亜硫酸水素ナトリウムを各濃度で滅菌水に含有せしめた場合の波長350nmでの輸液1についての吸光度を、滅菌前、滅菌後及び滅菌後1箇月経過時においてそれぞれ測定した試験結果が示され、発明の効果として「このため単純な製造工程で、滅菌時及び冷却時を含めて、長期にわたって酸素による分解の少ない輸液の供給が可能になるという効果を奏する。」と記載されている。
そこで、甲第11号証の発明と本件特許発明を対比するに、
甲第11号証において製造される輸液入り合成樹脂製容器は、内袋に輸液が充填され、該内袋は、脱酸素剤とともに酸素ガスバリアの合成樹脂フィルム材からなる外袋内に密封されているものである。そして、甲第11号証においても、内袋に収容される輸液としてアミノ酸輸液に属するものを使用しており、また、本件特許発明における気密性容器も酸素ガス透過度の低いものを選択しているから(特許公報第5欄20行24行)、両者は、輸液充填容器が脱酸素剤とともに気密性容器に封入されている二重包装型アミノ酸輸液製剤である点で一致するものである。しかし、本件特許発明は、アミノ酸輸液がシステイン、シスチン及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種を含有したものである点、アミノ酸輸液が亜硫酸イオンを含まないものである点、及び輸液充填容器が硫化水素透過性であるのに対して、甲第11号証においては、これらの点について記載がなく、以下これらの点について検討する。
(1)本件特許発明におけるアミノ酸輸液がシステイン、シスチン及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種を含有したものである点について、
甲第11号証においては、使用する輸液の例示として、具体的にはトリプトファンを含有する各種アミノ酸を12%の濃度で蒸留水に溶解したものが実施例において示されているにすぎないが、甲第11号証の(従来技術)、(発明が解決しようとする課題)の項及び(発明の効果)の記載からみると、甲第11号証の発明は、特に、輸液として酸素による変質しやすいアミノ酸輸液製剤を対象とし、このアミノ酸輸液製剤についての従来技術の問題点を解決しようとするものであり、甲第11号証の製造方法は、単純な方法で長期にわたり変質がない輸液が得られるという効果を有するものであることは明かである。
一方、甲第17号証においては、「アミパレン中のアミノ酸の中でL-システインとL-トリプトファンは容易に酸化され、経時的に含量が低下することが知られている。」なる記載があり、甲第18号証においては「輸液には主として18種類のアミノ酸が用いられるが、そのうち、トリプトファン、システイン、グルタミン酸、グルタミンなどの水溶液は安定性の点で問題となる。トリプトファンは微量の分解で着色を呈し、その度合いはアルカリ性の溶液ほど著しい。システインは酸化されやすく、特に鉄・銅などの微量元素の共存でその酸化が促進され、難溶性のシスチンとなる。なお、酸化を防止するためには亜硫酸塩の添加、密封容器での保存などの方策が採られている。」と記載され、さらに甲第13号証においては、システインについて「不安定な化合物で空気により酸化されてシスチンとなる。」と記載されており、これらの記載からみれば、システインは、トリプトファンとともに、酸素により変質されやすいアミノ酸の代表的なものといえ、また、アミノ酸輸液の配合成分としても極くありふれたものにすぎない。
そして、これら甲第17,18及び13号証の記載からいえば、システインを含有するアミノ酸輸液は、酸素による変質を防止することが望ましい輸液であることは技術常識といえるから、甲第11号証の手段がシステインを含有するアミノ酸輸液にも適用できることは当業者に自明であって、特にシステインについて言及がなくとも、酸素により変質しやすいアミノ酸輸液として、システインを含有するアミノ酸輸液を使用することは記載されているに等しいものである。したがって、当業者であれば、甲第11号証において使用する輸液として、システイン含有輸液をも包含するものと理解するのが普通であり、この点では実質的に区別できない。
被請求人は、乙第11号証及び乙第12号証を提示して、甲第11号証において従来技術として引用された刊行物においても、システイン含有のアミノ酸輸液は記載されおらず、またシステイン等は必須アミノ酸でもないから、甲第11号証においてはシステイン等を含有するアミノ酸輸液は全く認識されていなかった旨主張するが、このような事情は、甲第11号証の手段がシステインを含有するアミノ酸輸液に適用できることは、甲第17、18及び12号証に示される技術常識からみて当業者において自明であることを理由とする上記判断を左右するものではない。
(2)本件特許発明がアミノ酸輸液が亜硫酸イオンを含まないものである点について
甲第11号証においては、使用するアミノ酸輸液において、亜硫酸塩を配合することを示す記載はないが、被請求人は、乙第2号証を提示し、甲第11号証の出願当時、アミノ酸輸液に亜硫酸塩を配合することは技術常識であり、甲第11号証のアミノ酸輸液には亜硫酸塩が配合されているとする方が妥当である旨主張している。
しかし、甲第11号証においては、アミノ酸輸液の酸素による変質を防止するための方法として、輸液中に亜硫酸塩を配合する従来方法とは異なる、滅菌水中に亜硫酸塩を配合する方法を開示しているのであり、アミノ酸輸液に亜硫酸塩を配合する方法が技術常識であるからといって、これのみで、甲第11号証においても、輸液中に亜硫酸塩を配合しているとすることはできない。
また、乙第2号証は、「輸液中における残留亜硫酸塩の定量と考察」と題する論文であって、ここには、確かに市販された種々のアミノ酸輸液について残留亜硫酸塩の定量を行ったところ、全てのアミノ酸輸液で亜硫酸塩が検出され、その残留量は170.9〜746.3mg/Lであったことが示されている(図3)。しかし、そればかりではなく、亜硫酸塩の配合性と安全性において、亜硫酸塩は、トリプトファン等種々の薬品の安定性を低下させること、亜硫酸塩は食品にも頻繁に使われ、現在の使用量における発ガン性を含めた様々な面での安全性が確認されているが、最近では亜硫酸塩による過敏反応が報告され、欧米では、既に1μg/ml以下の微量亜硫酸塩による過敏反応が報告されていること、現在難治性の気管支喘息、じんま疹、アナフラキシーの原因として注目を集めていること、および我が国でも亜硫酸塩の経口接種による気管支喘息が報告されており、今後問題視されること等の記載があり、これら記載からみると、亜硫酸塩の安全性に対する危惧もあったことは否定できない。
ところで、甲第11号証には上記したように「容器にポリエチレンを用いた場合には、測定の結果輸液の亜硫酸イオン、硫酸イオンの容器内部の透過は検出されなかった。」との記載がある。この記載について請求人は輸液中に亜硫酸塩が配合されていることを示す旨主張するのに対し、被請求人は単に輸液容器外部から内部に亜硫酸イオンが透過しなかったことを示すのみである旨主張している。そして、甲第11号証の該記載を文字通り読めば、甲第11号証の記載は被請求人のいうとおり輸液容器外部から内部に亜硫酸イオンが透過しなかったことを示し、容器内部の輸液に亜硫酸塩が配合されていないことを直接示すものとはいえない。
しかし、上記乙第2号証の記載からみれば、亜硫酸塩は比較的安全なものではあるが、安全性に対する危惧も認識されていたものとするのが妥当であり、特に亜硫酸塩は極めて微量でも安全性において問題を生じる恐れがあることを示している。一方、甲第11号証においては、上記「容器にポリエチレンを用いた場合には、測定の結果輸液の亜硫酸イオン、硫酸イオンの容器内部の透過は検出されなかった。」との記載の前段には「この亜硫酸水素ナトリウムは、食品添加物としても用いられている安全性の高い化合物である。」と記載され、上記記載とは「さらに」で結ばれている。そして上記当業者の亜硫酸塩の安全性についての認識をふまえて、これら記載をみると、滅菌水に配合される亜硫酸塩は食品に使用される添加物でありその安全性は高いが、その上さらに、滅菌水中の亜硫酸イオン、硫酸イオンも容器内部に透過しなかった点でより安全であることを示すものと解することができ、このような亜硫酸イオン及び硫酸イオンの容器内部への透過を問題にする研究者が、輸液に亜硫酸塩を配合するということも考えにくい。しかも、ポリエチレンは、液体の水の透過自体がほとんどないから、滅菌水に含まれる亜硫酸イオン及び硫酸イオンの容器内部への透過があったとしても極めて微量であるはずであり、甲第11号証において、このような微量の亜硫酸イオン及び硫酸イオンの容器内への透過の問題について特に記載したということは、上記亜硫酸塩の安全性に対する危惧により容器内の輸液に亜硫酸塩を配合しなかったことに基づくものと解しても特段不合理ではない。さらに、仮に容器に収容した輸液中に亜硫酸塩が配合されていた場合、滅菌水から容器内部に亜硫酸イオン及び硫酸イオンが透過したとしても、これによる輸液中の亜硫酸イオンあるいは硫酸イオンの増大量は極めて僅かであり、亜硫酸塩を輸液に配合すること以上の新たな問題を生ずるものとはいえず、このような場合においては亜硫酸イオン及び硫酸イオンの容器内への透過の問題についてあえて記載する必要性も見いだせない。
次に、甲第25号証においては、グリシン及びトリプトファンを含有するpH6のアミノ酸輸液と同7のアミノ酸輸液について 、(1)亜硫酸水素ナトリウムが輸液及び滅菌水のいずれにも含まれない場合、(2)亜硫酸水素ナトリウムを滅菌水中のみに0.01%濃度で含有させた場合、(3)亜硫酸水素ナトリウムを輸液中のみに0.01%濃度で含有させた場合及び(4)亜硫酸水素ナトリウムを輸液と滅菌水の両方にそれぞれ0.01%濃度で含有させた場合における、滅菌前及び滅菌後の輸液に対し350nmの吸光度を測定した試験結果が記載され、甲第11号証の表1の実験結果と対比している。これによれば、(1)の場合、pH6の輸液の滅菌前、滅菌後の吸光度及びその差(吸光度上昇)は、それぞれ0.0049、0.0877及び0.0828であり、pH7の輸液においてはそれぞれ0.0056、0.1177及び0.1121である。(2)の場合は、pH6の輸液において、それぞれ0.0049、0.0219及び0.0170であり、pH7の輸液において、0.0056、0.0423及び0.0367である。(3)の場合は、pH6の輸液においてそれぞれ、0.0106、0.0391及び0.285であり、pH7の輸液において、それぞれ0.0075、0.0424及び0.0349である。(4)の場合は、pH6の輸液において、それぞれ0.0106、0.0260及び0.0154であり、pH7の輸液において、それぞれ0.0075、0.0284及び0.0209である。
また、甲第11号証の表1の実験結果によれば、滅菌水中の亜硫酸水素ナトリウム濃度が0の場合、それぞれ0.051、0.148及び0.097であり、滅菌水中の亜硫酸水素ナトリウム濃度が0.01%の場合、それぞれ0.051、0.069及び0.0180である。
そして、甲第25号証の上記実験における(1)の場合と(2)の場合における結果を比較すると、輸液中に亜硫酸水素ナトリウムを配合しない場合においては、輸液中にも亜硫酸水素ナトリウムを配合しない場合の吸光度上昇(0.0828、0.1121)と、滅菌水中に亜硫酸水素ナトリウムを配合した場合の吸光度上昇(0.0170、0.0367)差は極めて大きいのに対して、(3)の場合と(4)の場合と比較すると、輸液中に亜硫酸水素ナトリウム塩を配合した場合においては、滅菌水中に亜硫酸水素ナトリウムを配合する場合の吸光度上昇(0.0154、0.0209)と滅菌水中に亜硫酸ナトリウムを配合しない場合(0.0285、0.0349)との差は小さいことがわかる。 一方、甲第11号証の表1の実験結果によれば、滅菌水中の亜硫酸水素ナトリウム濃度が0の場合の吸光度上昇は0.0970であるのに対して、滅菌水中の亜硫酸水素ナトリウム濃度が0.01%の場合は0.0180であり、その差は極めて大きいから、甲第11号証の表1の結果は、甲第25証の実験結果中、輸液に亜硫酸水素ナトリウムを配合する場合よりも、輸液中に亜硫酸水素ナトリウムを配合しない場合の結果に近いものということができる。
また、被請求人は、輸液に亜硫酸塩が配合されていれば、滅菌水側から入ってくる酸素の影響は受けないはずであるから、甲第11号証の表1の結果は輸液に亜硫酸塩が配合されていないことを示す旨の請求人の主張に対して、上記甲第25号証の実験結果のうち上記(2)及び(4)の結果を示し、輸液に亜硫酸水素ナトリウムを含有する場合でも、滅菌水に亜硫酸水素ナトリウムが入っている場合と入っていない場合とでは吸光度上昇は異なるから、請求人の主張はその前提を欠く旨主張している。
しかし、上記(2)及び(4)の実験において、輸液中に配合する亜硫酸水素ナトリウムの濃度は0.01%である。一方、乙第2号証によれば、アミノ酸輸液の亜硫酸ナトリウムの残留量は、170.9〜746.3mg/L(0.1709〜0.7463%)であり、これは残留量であるから、配合時のアミノ酸輸液の亜硫酸ナトリウム濃度はこれよりさらに高いものといえる。また、甲第17号証においては、アミノ酸輸液である「アミパレン」における亜硫酸水素ナトリウムの添加量について、必要最小限度の0.02w/v%とした旨記載されている。これらの記載からみると、アミノ酸輸液に対する亜硫酸塩の通常の濃度は、甲第25号証にの実験において使用された輸液中に配合する亜硫酸水素ナトリウムの濃度に比べ、かなり高いものといえる。してみると、甲第25号証の被請求人が指摘する上記実験結果は、滅菌水側から入ってくる酸素の量に対して、輸液中の亜硫酸水素ナトリウム濃度が低すぎたのが一因とも考えられ、アミノ酸輸液中の亜硫酸水素ナトリウム濃度を通常のものにすれば、輸液に亜硫酸水素ナトリウムを含有する場合において、滅菌水に亜硫酸水素ナトリウムが入っている場合と入っていない場合とにおける吸光度上昇はさらに接近し、請求人の主張するように滅菌水側から入ってくる酸素の影響は受けづらくなると解される。したがって、甲第11号証の表1の実験において、通常の輸液に対する亜硫酸塩添加手段が適用されているとすれば、この表1の結果とはさらに離反する結果となるとするのが妥当であり、請求人の上記主張は使用は、通常の輸液における亜硫酸塩の使用濃度においては少なくとも誤りであるとはいえない。
ただ、甲第11号証の表1の実験において、輸液中に亜硫酸塩を配合し、その濃度を通常の下限値を超える甲第25号証の0.01%よりもさらに低いものにした場合においても、この表1の結果に近づくとはいえるが、滅菌水に亜硫酸塩を配合する手段に加えて、このような特殊な濃度で亜硫酸溶液を用いた場合において、表1の実験結果が得られたのであれば、甲第11号証の明細書において、実験手法としてその旨明らかにするのが普通である。しかも、そもそも甲第11号証においては亜硫酸水素ナトリウムを輸液に配合する旨記載は全くないのであって、このような場合においては、上記特殊な濃度で配合する場合を想定するよりも、輸液に亜硫酸水素ナトリウムは配合されていないと解するのが妥当である。
してみると、甲第第11号証の出願時点における当業者の認識、甲第11号証における「容器にポリエチレンを用いた場合には、測定の結果輸液の亜硫酸イオン、硫酸イオンの容器内部の透過は検出されなかった。」との記載及び甲第25証における実験報告書の実験結果等からみれば、甲第11号証の発明においてはアミノ酸輸液に亜硫酸塩は配合されていないものと解すべきである。
なお、被請求人は、甲第11号証においては、輸液のトリプトファン濃度、加圧滅菌の具体的操作、吸光度の測定条件等について記載されておらず、甲第25号証の実験は、請求人が勝手に実験条件を設定して行った旨及び甲第25号証の実験は、わざわざシステインを含まないアミノ酸輸液を用いて行われた旨主張しているが、そうであったとしても、甲第25号証の実験結果は、甲第11号証の輸液に亜硫酸塩が配合されていれば、滅菌水中の亜硫酸が配合されている場合と配合されていない場合とにおいて吸光度上昇の差は少なく、輸液中に亜硫酸塩が配合されていなければ、滅菌水中の亜硫酸が配合されている場合と配合されていない場合とにおいて吸光度上昇の差はかなり大きくなるということを示しており、この実験結果自体は誤りであるとして否定できない。被請求人の主張はこれを覆すに足るものではない。
(3)本件発明の輸液充填容器が硫化水素透過性であるの点について、
甲第11号証においては、使用する輸液充填容器の材質について、ポリエチレンを挙げており、ポリエチレンは、本件特許明細書においても輸液充填容器の材質として挙げられているものである。そして、甲第5号証の表VIIによれば、ポリテン(エチレンポリマー)は、酸素ガス透過性を有するが、硫化水素の透過性の方がさらに高いことが示されている。また、甲第6号証の実験報告書においては、ポリエチレン(UZ2010BM)の各厚さ(0.172mm、0.350mm、0.597mm)のフィルムの硫化水素透過性を試験しているが、その結果は、いずれも硫化水素透過性であることを示している。しかも、甲第7号証の酸素透過性試験においては、硫化水素透過性試験で使用したものよりさらに薄いポリエチレンフィルム(UZ2010BM、厚さ0.162mm)を使用した結果が示されているが、この両者を比較すれば、ポリエチレンフィルムの硫化水素透過性は、酸素透過性よりもさらに高いことが明らかである。してみれば、甲第11号証においては、輸液充填容器として使用されていたポリエチレン等の酸素透過性を問題にしているものの、このポリエチレンは硫化水素透過性でもあるから、甲第11号証と本件特許発明とにおける輸液充填容器は、同一のものである。
したがって、甲第11号証においては、本件特許発明の上記である(1)〜(3)の構成が記載されてはいないが、これら各構成は、甲第11号証に記載されているに等しいか、あるいは実質的に甲第11号証の発明において採用する構成と区別できないものである。また、被請求人が指摘する上記2.(1)における本件特許明発明における硫化水素臭の防止も構成に付随して得られるものであるから、甲第11号証の記載に基づき、甲第11号証の発明を普通に実施すれば、当然得られるものである。してみれば、これらの点からみて、本件特許発明は甲第11号証に記載された発明とせざるを得ない。
4.以上のとおりであるから、結局、本件特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、これを無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-10-03 
結審通知日 2000-10-20 
審決日 2000-12-14 
出願番号 特願平2-339215
審決分類 P 1 112・ 113- Z (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 星野 紹英  
特許庁審判長 吉村 康男
特許庁審判官 小島 隆
柿崎 良男
登録日 1996-09-02 
登録番号 特許第2088101号(P2088101)
発明の名称 亜硫酸イオンフリ―の二重包装型アミノ酸輸液製剤  
代理人 箕浦 繁夫  
代理人 内田 敏彦  
代理人 箕浦 繁夫  
代理人 齋藤 健治  
代理人 三枝 英二  
代理人 小原 健志  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 内田 敏彦  

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