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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A63B
審判 全部申し立て 特29条の2  A63B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A63B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A63B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A63B
管理番号 1067397
異議申立番号 異議2000-72739  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-07-14 
確定日 2002-09-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2999399号「ソリッドゴルフボール」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2999399号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第2999399号の請求項1及び2に係る発明は、平成7年9月14日に特許出願され、平成11年11月5日にその特許権の設定登録がされ、その後、荒井純子より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年1月29日に訂正請求(後日取下げ)がなされ、その後、再度取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成14年7月18日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
(1)訂正事項a
特許権設定登録時の明細書(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の、
「【請求項1】ソリッドコアと該コア上に形成されたカバーから成るソリッドゴルフボールにおいて、該ソリッドコアがシス-1,4-結合を少なくとも40%含むポリブタジエンゴムと、不飽和カルボン酸および/またはその金属塩とを含むゴム組成物から形成され、かつ該カバーが厚さ1〜4mm、ショアD硬度55〜64、直径2〜5mmのディンプル300〜450個を有し、該ディンプルが表面占有率70±8%および総容積260〜345mm3を有するソリッドゴルフボール。
【請求項2】該コアが初期荷重10〜最終荷重130kgの負荷下での圧縮変形量2.3〜3.5mmである請求項1記載のソリッドゴルフボール。
【請求項3】該コアがJIS-C型硬度50〜85であり、その硬度の分布幅が5以下である請求項1および2記載のソリッドゴルフボール。
【請求項4】該カバーが、ショアD硬度65〜68を有する樹脂15〜40重量%、ショアD硬度60〜64を有する樹脂20〜40重量%およびショアD硬度50〜59を有する樹脂30〜60重量%の混合物から成る請求項1〜3記載のソリッドゴルフボール。」を、
「【請求項1】ソリッドコアと該コア上に形成されたカバーから成るソリッドゴルフボールにおいて、該ソリッドコアがシス-1,4-結合を少なくとも40%含むポリブタジエンゴムと、不飽和カルボン酸および/またはその金属塩とを含むゴム組成物から形成され、初期荷重10〜最終荷重130kgの負荷下での圧縮変形量2.65〜2.85mmであり、その硬度がJIS-C型硬度50〜85であり、硬度の分布幅が5以下であり、かつ該カバーが厚さ1〜4mm、ショアD硬度55〜64、直径2〜5mmのディンプル300〜450個を有し、該ディンプルが表面占有率66〜72%および総容積280〜325mm3を有するソリッドゴルフボール。
【請求項2】該カバーが、ショアD硬度65〜68を有する樹脂15〜40重量%、ショアD硬度60〜64を有する樹脂20〜40重量%およびショアD硬度50〜59を有する樹脂30〜60重量%の混合物から成る請求項1記載のソリッドゴルフボール。」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0006】の、
「【課題を解決するための手段】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、ソリッドコアがシス-1,4-結合を少なくとも40%含むポリブタジエンゴムと、不飽和カルボン酸および/またはその金属塩とを含むゴム組成物から形成され、かつ該カバーが厚さ1〜4mm、ショアD硬度55〜64、直径2〜5mmのディンプル300〜450個を有し、該ディンプルが表面占有率70±8%および総容積260〜345mm3を有するソリッドゴルフボールにより、優れた飛行性能およびスピン性能が得られることを知見した。」を、
「【課題を解決するための手段】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、ソリッドコアと該コア上に形成されたカバーから成るソリッドゴルフボールにおいて、該ソリッドコアがシス-1,4-結合を少なくとも40%含むポリブタジエンゴムと、不飽和カルボン酸および/またはその金属塩とを含むゴム組成物から形成され、初期荷重10〜最終荷重130kgの負荷下での圧縮変形量2.65〜2.85mmであり、その硬度がJIS-C型硬度50〜85であり、硬度の分布幅が5以下であり、かつ該カバーが厚さ1〜4mm、ショアD硬度55〜64、直径2〜5mmのディンプル300〜450個を有し、該ディンプルが表面占有率66〜72%および総容積280〜325mm3を有するソリッドゴルフボールにより、優れた飛行性能およびスピン性能が得られることを知見した。」と訂正する。
(3)訂正事項c
特許明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0009】の、「(70±8%)」を、「(66〜72%)」と訂正する。
(4)訂正事項d
特許明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0009】の、「260〜345mm3、好ましくは」を、削除する。
(5)訂正事項e
特許明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0018】の、
「所望のフィーリングを得るために、10kg〜130kgの荷重を負荷したときの変形量は2.3〜3.5mmが好ましく、2.3mmより小さいと硬くなり過ぎ、3.5mmより大きいと軟らかくなり過ぎる。」を、
「所望のフィーリングを得るために、10kg〜130kgの荷重を負荷したときの変形量は2.65〜2.85mmが好ましく、2.65より小さいと硬くなり、2.85mmより大きいと軟らかくなる。」と訂正する。
(6)訂正事項f
特許明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0025】の、
「更に、本発明のソリッドゴルフボールのディンプル表面占有率は62〜78%が好ましく、62%より小さいとボールの伸びがなくなり飛距離が劣り、78%より大きいとボールは吹き上がるようになり飛距離が劣る。ディンプル総容積は280〜330mm3が好ましく、280mm3より小さいと、ボールが吹き上がり飛距離が劣り、330mm3より大きいと、ボールが上がりにくく飛距離が劣る。」を、
「更に、本発明のソリッドゴルフボールのディンプル表面占有率は66〜72%が好ましく、66%より小さいとボールの伸びがなくなり飛距離が劣り、72%より大きいとボールは吹き上がるようになり飛距離が劣る。ディンプル総容積は280〜325mm3が好ましく、280mm3より小さいと、ボールが吹き上がり飛距離が劣り、325mm3より大きいと、ボールが上がりにくく飛距離が劣る。」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aについては、
請求項1において、ソリッドコアの圧縮変形量、JIS-C型硬度及び硬度の分布幅を規定すると共に、ディンプルの表面占有率及び総容積の数値範囲をより限定し、
訂正前の請求項2及び3を削除し、
この請求項2及び3の削除に伴い、訂正前の「請求項4」の番号を繰り上げて「請求項2」とするものであるから、
特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
上記訂正事項b〜fについては、上記訂正事項aにより訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の整合を図るものであり、明りようでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
また、上記訂正事項a〜fは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立て
3-1.本件請求項1及び2に係る発明
上記「2.訂正の適否」で示したように上記訂正が認められるから、本件請求項1及び2に係る発明は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「2-1.訂正の内容」の「(1)訂正事項a」参照。)

3-2.異議の申立ての理由の概要
(理由1)
異議申立人は、下記の証拠方法を提出し、特許明細書の請求項1ないし4に係る発明に対して、以下のように主張する。
請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また、甲第1、2号証又は甲第1〜5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、更に、甲第8号証の先願明細書に記載された発明と同一であり、
請求項2に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、更に、甲第8号証の先願明細書に記載された発明と同一であり、
請求項3、4に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1ないし4に係る発明は、特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項、更に同法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができないものであり、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開昭63-11179号公報
甲第2号証:特開平1-223979号公報
甲第3号証:特開平6-319830号公報
甲第4号証:特開平6-319831号公報
甲第5号証:特開平6-327794号公報
甲第6号証:特開平6-327792号公報
甲第7号証:特開平7-112036号公報
甲第8号証:特開平8-238337号公報(特願平7-72348号)
甲第9号証:特開平2-102681号公報
甲第10号証:特開平1-221182号公報
甲第11号証:本件特許権者が特願平3-287495号の審査段階で
提出した実験成績証明書の写し
(理由2)
異議申立人は、以下の理由により、本件特許明細書には記載に不備があり、本件特許発明は取り消されるべき旨主張する。
・理由2の(1)
「本件明細書の実施例には、必須構成要件の一つであるディンプル直径が開示も示唆もされていない。従って、本件明細書の実施例1〜3が本件請求項1のディンプル直径範囲を満たしているか否か不明であり、もし仮に満たしていなければ本件明細書には実施例が一つも存在しないことになり、発明未完成にも匹敵する重大な暇庇がある。また、ディンプル直径が示されていなければ必須構成要件の一つであるディンプル表面占有率を算出し、追試することが不可能であり、この点からも記載不備に該当する。
また、本件明細書にはディンプル直径、ディンプル総容積及びディンプル表面占有率以外のディンプル深さ、ディンプル形状、ディンプル配列などのディンプルに関する記載が一切なく、実施例においてはディンプル直径、ディンプル深さ、ディンプル形状が示されていないので、必須構成要件の一つであるディンプル総容積を求めることができず、再現実験をすることができない。
それ故、本件明細書は、必須構成要件について当業者が容易に実施可能に記載されておらず、記載不備に該当する。」
・理由2の(2)
「本願明細書の比較例1,4は、下記表に示したように本件請求項1の要件を全て満たしており(ディンプル直径は不明)、実施例であると認められるが、本件明細書の【0036】には、「…(前略)…比較例1は、ディンプル占有率が低すぎて飛距離が劣る。…(中略)…比較例4は、ディンプル占有率が高くて、ボールが浮き上がって飛距離が出ない。」と記載され、これら比較例1,4は本件発明の効果を奏し得ないものであると明示されており、明細書の記載に矛盾が存在する。
従って、本件請求項1は、本件発明の効果を奏し得ない範囲までも含み、広汎かつ不明確であり、明細書の記載不備に該当する。
-表省略- 」
・理由2の(3)
「本件請求項3には、コアのJIS-C型硬度としか記載がなく、このコアのJIS-C型硬度がコアの表面硬度、中心硬度、又は中間硬度のいずれを規定しているのか不明確である。また「硬度の分布幅が5以下である」との記載もコアのどの部分とどの部分との硬度の分布幅が5以下であるのかが示されておらず、不明確である。」

3-3.取消理由の概要
平成13年1月29日になされた訂正請求により訂正された特許明細書の請求項1ないし4に係る発明に対して、当審で通知した取消理由の概要は、以下のものである。
請求項1に係る発明は、下記の刊行物1〜5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項2〜4に係る発明は、下記の刊行物1〜6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1ないし4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消すべきものである。

刊行物1:特開平6-319830号公報(甲第3号証)
刊行物2:特開昭63-11179号公報(甲第1号証)
刊行物3:特開平3-80876号公報
刊行物4:特開昭64-8982号公報
刊行物5:特開昭63-309282号公報
刊行物6:特開平7-112036号公報(甲第7号証)

3-4.各刊行物、甲各号証に記載された事項
刊行物1(甲第3号証)
「【請求項1】コア硬度をボール硬度で除した値が1.00〜1.20の範囲にあり、かつ、カバーの厚みを1.85〜2.35mmとしたことを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】カバーとしてショアーD硬度が60度以下のものを用いた請求項1記載のゴルフボール。」(特許請求の範囲)
「【0008】従って、アイアンでスピンのかかる構造を考えると、ボール硬度を硬くすることによりスピン量を増大させることはできる。しかし、その反面、ボール硬度を硬くするとフィーリングが硬くなり、打感は悪くなる。また、カバーを軟らかくしてもスピン量を増大させることはできるが、カバーを軟らかくすると、ボールとして反撥力を失い、初速が出ず、飛ばなくなってくる。
【0009】本発明者は、カバーに軟らかい材料、好適にはショアーD硬度で60度以下のものを用いることにより、スピン量を増大させ、スピン特性を改善しようとしたものであるが、硬度の軟らかいものを用いれば反撥性を悪くし、打撃時の飛距離は落ちてくる。ところが、コア硬度をボール硬度で除した値を1.00〜1.20の範囲にすると共に、カバーの厚みを1.85〜2.35mmとすることにより、カバーに軟らかい材料を用いながら、フィーリング、飛距離の低下が防止され、ドライバーでソリッドゴルフボール特有の弾道飛距離を損なうことなく、かつアイアンでのコントロール性(グリーン上での止まり)を有するように改良したゴルフボールが得られることを見い出し、本発明をなすに至ったものである。」(2欄8〜28行)
「【0011】ここで、コア硬度及びボール硬度は、それぞれコア又はボールに100kgの荷重を負荷した時の変形量(mm)であり、」(2欄33〜35行)
「【0012】なお、本発明において、コア硬度は、上述した変形量で2.3〜3.0mm、特に2.2〜2.6mmとすることが好ましく、3.0mmより大きいと反撥性を損ね、飛び性能が低下し、更にはフィーリングが軟らかすぎることになる場合が生じる。」(2欄43〜47行)
「【0014】また、カバー硬度は、ショアーD硬度として60度以下、特には55〜60度とすることが好ましく、60度より硬いとスピンの特性が得られず、グリーン上での止まりを損ねる傾向にある。なお、硬度が低過ぎると、反撥性を損ない、飛距離が低下する場合があるので、好ましくは55度以上とすることが推奨される。
【0015】更に、本発明においては、カバーの厚みを1.85〜2.35mm、好ましくは1.85〜2.10mmとするものである。1.85mmより薄いと耐トップ傷性が劣り、ひいては破壊に至ることがある。2.35mmより厚いと反撥性を損ない、飛距離が出ない傾向にあり、かつフィーリングも鈍くなり、いずれも本発明の目的を達成し得ない。」(3欄6〜18行)
「【0019】更に詳述すると、本発明のソリッドゴルフボールに用いられるコアは通常の方法により、加硫条件、配合比等を調節することにより得られる。通常、コアの配合には基材ゴム、架橋剤、共架橋剤、不活性充填剤等が含まれる。基材ゴムとしては従来からソリッドゴルフボールに用いられている適宜の天然ゴム及び/又は合成ゴムを使用することができるが、本発明においては、シス構造を少なくとも40%以上有する1,4-ポリブタジエンが特に好ましい。この場合、所望により該ポリブタジエンに天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム等を適宜配合してもよい。」(3欄43行〜4欄3行)
「【0021】 共架橋剤としては特に限定するものではないが、不飽和脂肪酸の金属塩、就中、炭素原子数3〜8の不飽和脂肪酸(例えばアクリル酸、メタクリル酸等)の亜鉛塩やマグネシウム塩が例示されるが、アクリル酸亜鉛が特に好適である。この共架橋剤の配合量は基材ゴム100重量部に対して24〜38重量部、好ましくは28〜34重量部である。」(4欄10〜16行)
「【0030】〔実施例1〜3、比較例1〜4〕シス-1,4-ポリブタジエンゴムとアクリル酸亜鉛、酸化亜鉛及びジクミルパーオキサイドからなるゴム組成物をその組成を変えてモールド内で加硫し、表1に示す硬度(100kg荷重下での変形量:mm)を有するコアを成形した。」(5欄10、11行 6欄1〜4行)
「【0032】この場合、コアの基本組成は、
シス-1,4-ポリブタジエンゴム(BR01)100 重量部
アクリル酸亜鉛 33.2 〃
酸化亜鉛 10 〃
硫酸バリウム 9.7 〃
老化防止剤 0.2 〃
ジクミルパーオキサイド 0.9 〃
とし、表2に示すようにアクリル酸亜鉛と硫酸バリウムの量を変えて種々の硬度と比重を有するコアを得た。」( 5欄12〜19行 6欄11〜17行)

上記記載からみて、刊行物1(甲第3号証)には、
「ソリッドコアと該コア上に形成されたカバーから成るソリッドゴルフボールにおいて、該ソリッドコアがシス-1,4-結合を少なくとも40%含むポリブタジエンゴムと、不飽和カルボン酸および/またはその金属塩とを含むゴム組成物から形成され、荷重100kgの負荷下での圧縮変形量2.3〜3.0mmであり、かつ該カバーが厚さ1.85〜2.35mm、ショアD硬度55〜60を有するソリッドゴルフボール。」が記載されていると認められる。

刊行物2(甲第1号証)
「1.表面に多数のディンプルを有するゴルフボールにおいて、各ディンプルの縁部によって囲まれる平面下のディンプル空間体積を前記平面を底面としかつこの底面からの各ディンプルの最大深さを高さとする円柱体積で除した値V。が下記式(1)
0.35≦V。≦0.47 ……(1)
の範囲にあるディンプルを全ディンプル数の少なくとも90%有し、かつ下記式(2)

(但し、Vsは各ディンプルの縁部によって囲まれる平面下のディンプル空間体積の総和、Rはボールの半径を示す。)
で表わされるディンプル総体積比VRが
下記式(3)
VRL-N/1500≦VR≦VRU-N/1500……(3)
(但し、VRL=1.10,VRU=1.33であり、Nはディンプル総数を表わし、250≦N≦600の範囲の整数である。)
の範囲にあることを特徴とするゴルフボール。
-中略-
6.ショアD硬度60度以上のアイオノマー樹脂を主成分とするカバー層を有する特許請求の範囲第1項乃至第5項のいずれか1項に記載のゴルフボール。」(特許請求の範囲)
「ディンプルの最大直径や最大深さも限定されないが、最大直径は2〜4mm、最大深さは0.1〜0.4mmとすることが好ましい。更に、本発明ゴルフボールにおいて、ディンプル数は250〜600個、より好ましくは350〜600個とするものである」(4頁左上欄8〜13行)
「特にショアD硬度60度以上,より好ましくは65〜73度のアイオノマー樹脂を主成分とするカバーを有するゴルフボールに適用した場合、上述したディンプル構成による飛距離増大効果が有効に発揮される。」(4頁右上欄6〜11行)
「〔実施例、比較例〕
第1表に示す性状のディンプルを有するラージサイズのツーピースゴルフボール・・・をそれぞれ後述の如く製作し、・・・・・なお、ディンプルはボール表面にかたよりなく均等に配列した。
ツーピースボール
コア
組成:
シス-1,4-ポリブタジエンゴム 100重量部
ジメタクリル酸亜鉛 30 〃
充填剤 適量
過酸化物 適量
カバー
組成:
アイオノマ一樹脂
(サーリン1707(米国デュポン社商品名),
ショアD硬度68度) 100重量部
チタニウムジオキサイド 1 〃
厚さ:2.3mm
コア組成物を・・・ソリッドコアを得る。次いで、ソリッドコアにカバー組成物を被覆し、・・・直径42.7mm・・・硬度(PGA)100のラージサイズツーピースボール・・・を得た。」(4頁右上欄末行〜右下欄10行)
「No.8のラージサイズツーピースゴルフボールは、直径3.30mmのディンプル数120、直径3.35mmのディンプル数300、ディンプル総数420、VR(ディンプル総体積比)0.84である」点。(第1表 No.8)
「No.9のラージサイズツーピースゴルフボールは、直径3.30mmのディンプル数120、直径3.35mmのディンプル数300、ディンプル総数420、VR(ディンプル総体積比)0.79である」点。(第1表 No.9)

上記記載において、No.8及びNo.9のゴルフボールのディンプル総容積Vsは、下記式より求めると、それぞれのVR値(ディンプル総体積比)は0.84及び0.79であり、ボール直径は42.7mm(半径21.35mm)であるから、No.8は342mm3 、No.9は322mm3 である。

また、No.8及びNo.9のゴルフボールの表面占有率は、下記式から求めるといずれも64%である。


そうすると、上記記載からみて、刊行物2(甲第1号証)には、
「ソリッドコアと該コア上に形成されたカバーから成るソリッドゴルフボールにおいて、該ソリッドコアがシス-1,4-結合を含むポリブタジエンゴムと、不飽和カルボン酸および/またはその金属塩とを含むゴム組成物から形成され、かつ該カバーが厚さ2.3mm、ショアD硬度60度以上、直径2〜4mmのディンプル250〜600個を有し、該ディンプルが表面占有率64%を有し、ディンプルの総容積が342mm3又は322mm3であるソリッドゴルフボール。」が記載されていると認められる。

刊行物3
「通常、ゴルフボールの表面には300〜550個のディンプルが設けられている。ディンプルの主な役割は、ゴルフボールの飛行時において、ボールの空力特性を向上し、弾道を最適化し、かつ、飛距離を伸ばすことにある。ゴルフボールの弾道に影響を与えるディンプルの要素としては種々挙げられるが、中でも、ボールの弾道を大きく左右するものの1つにディンプル総面積のゴルフボール表面に対する割合(ディンプルの表面積占有率)がある。」(2頁左上欄15行〜右上欄4行)
「特開昭64-8982号公報では、・・・ディンプルの表面積占有率を65%以上としている。」(2頁右上欄18〜末行)
「ゴルフボールの空力特性は、ディンプルの表面占有率のみではなく、ディンプル総数にも大きな影響を受けることが知られており、ゴルフボールの空力特性を向上し、弾道の適性化、飛距離の増大を図るためには、本来は、ディンプルの表面積占有率とディンプル総数の両方を総合的に考慮する必要がある。」(2頁左下欄10〜16行)
「本発明は、・・・ゴルフボールの弾道、飛距離に大きな影響を与えるディンプルの要素であるディンプルの表面占有率とディンプル総数という2つの要素を好適に組合わせてゴルフボールの飛距離の増大を図るものである。」(3頁右上欄15〜末行)
「本発明に係わるゴルフボールでは、ディンプル総容積を290〜370mm3とすることが望ましい。即ち、290mm3未満の場合、ボールが吹き上がってしまい、又、370mm3を超えた場合、低く押さえられた弾道となり、いずれも、充分な飛距離が出ないからである。」(5頁右上欄11〜16行)

刊行物4
「1.球面上に複数個のディンプルを形成してなるゴルフボールにおいて、・・・各ディンプルの平面形状における面積の総和がこれらディンプルを形成したゴルフボールと同一直径の球の表面積に対して65%以上であることを特徴とする・・・ゴルフボール。」(特許請求の範囲)

刊行物5
「従来技術の特許において、・・・ゴルフボールは全表面の25%〜75%がディンプルで覆われていると開示されており、」(3頁左下欄10〜13行)

刊行物6(甲第7号証)
「【請求項1】基材ゴム、共架橋剤および有機過酸化物を含有するゴム組成物から形成されたコアと、カバーとからなるツーピースゴルフボールにおいて、該コアが・・・JIS-C型硬度計による表示において、中心から表面までの任意の部分の硬度が70〜80の範囲にあり、任意の部分の硬度差が5以下であり、かつ、初荷重10kgから、終荷重130kgをかけた時の圧縮変形量3.1〜3.8mmを有することを特徴とするツーピースゴルフボール。」(特許請求の範囲)
「「任意の部分の硬度差が5以下となる」とは、コアのいずれの部分の硬度を測定して、その最大値と最小値の差が5以内であることを意味する。」(3欄2〜4行)

甲第1号証(刊行物2)
上記「刊行物2(甲第1号証)」の記載参照。

甲第2号証
「本発明は、・・・飛距離がアップするゴルフボールを提供せんとするものである。」(2頁左上欄13〜18行)
「ディンプルの総数を、一般的に好ましいディンプル総数の範囲である240〜600個に設定することが出来る。」(3頁左上欄6〜9行)
「第1実施例においては、・・・具体的には、直径42.67mmのゴルフボールにおいて、」(3頁左下欄1〜4行)
「ディンプルDの直径は、2.0mm〜5.0mmの範囲とすることが好ましく、」(3頁左下欄12〜14行)
「ディンプル総数を掛けた総容積は250〜400mm3としている。」(4頁左上欄1、2行)
「上記第1実施例から第4実施例のゴルフボールは、下記の成分からなるコアーとカバーとを備えた2ピースラージサイズのゴルフボールである。
コアー
ポリブタジエン 重量比100
アクリル酸亜鉛 32
老防425 0.25
ジクミルパーオキサイド 1.2
亜鉛華 20
加硫145゜×25分+150゜×5分+165゜×10分
力バー
ハイミラン1605 重量比60
〃 1707 35
〃 1706 5
酸化チタン 2
硫酸バリウム 4
カバー厚みは2.2mm、塗装・・・厚みは30μとしている。」(4頁左下欄1〜18行)
「実施例3のゴルフボールは、直径4.0mm、3.6mm、3.4mm、2.2mmのディンプルが、それぞれ、96、144、48、144個であり、ディンプルの総容積が330mm3である」点(表1)。

上記記載において、実施例のカバーは、ハイミラン1605、1707、1706から形成され、それぞれの重量比は60、35、5であり、それぞれのショアD硬度は、本件明細書を参照すると、67、67、66であるから、実施例のカバーのショアD硬度は67である。
また、上記記載の実施例3について、ディンプルの表面占有率を求めると64%である。

そうすると、上記記載からみて、甲第2号証には、
「ソリッドコアと該コア上に形成されたカバーから成るソリッドゴルフボールにおいて、該ソリッドコアがポリブタジエンゴムと、不飽和カルボン酸および/またはその金属塩とを含むゴム組成物から形成され、かつ該カバーが厚さ2.2mm、ショアD硬度67、直径4.0mm、3.6mm、3.4mm、2.2mmのディンプルの総数432個を有し、該ディンプルが表面占有率64%および総容積330mm3を有するソリッドゴルフボール。」が記載されていると認められる。

甲第3号証(刊行物1)
上記「刊行物1(甲第3号証)」の記載参照。

甲第4号証
「種々のアイオノマー樹脂をブレンドしたカバー材を用い、カバーのショアD硬度が55、57、58又は60のツーピースゴルフボール。」が記載されていると認められる。

甲第5号証
「カバー硬度(ショアD)が56又は57のツーピースゴルフボール。」が記載されていると認められる。

甲第6号証
「【請求項1】コアと該コアを被覆するカバーからなる2層構造のゴルフボールにおいて、コアの圧縮歪が2.8mm〜3.8mmで、コアの硬度分布が、JIS-C形硬度計で、中心が65〜79、中心から表面に向かって5mm離れたところが70〜80、中心から表面に向かって10mm離れたところが73〜80、中心から表面に向かって15mm離れたところが75〜82、表面が70〜85で、かつ隣接する測定点間の硬度差が5以内であり、カバーがアイオノマー樹脂を主材とし、その曲げ剛性がT400kg/cm2〜3000kg/cm2であって、ボールコンプレッションが70〜100(PGA方式)であることを特徴とするゴルフボール。」(特許請求の範囲)
「【0037】圧縮歪:コアに10kgの初荷重をかけ、その初荷重時から130kgの終荷重をかけたときまでの変形量(mm)を測定する。この値が大きいほどコアは軟らかい。」

甲第7号証(刊行物6)
上記「刊行物6(甲第7号証)」の記載参照。

甲第8号証
「【請求項1】ソリッドコアにカバーを被覆してなり、かつ該カバー表面に多数のディンプルを形成したゴルフボールにおいて、比重が1.05±0.05で、カバーをアイオノマー樹脂を主材としてショア-D硬度60度以上に形成したことを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】カバーの厚さを1.4〜2.4mmに形成した請求項1記載のゴルフボール。
【請求項3】コアが100kg荷重負荷時のたわみ量2.4〜4.3mmである請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項4】ディンプルが、各ディンプルの縁部によって囲まれる平面下のディンプル空間体積を、前記平面を底面としかつこの底面からの各ディンプルの最大深さを高さとする円柱体積で除した値V0が0.470以上であり、かつ、下記式(1)で示されるディンプル総体積比VRが0.8%以上である請求項1,2又は3のいずれか1項に記載のゴルフボール。
【数1】

(但し、式中Vsは各ディンプルの縁部によって囲まれる平面下のディンプル空間体積の総和、Rはボールの半径を示す。)」(特許請求の範囲)
「【0017】次に、本発明のゴルフボールは、カバーをアイオノマー樹脂を主材とし、ショアーD硬度60度以上に形成する。カバー硬度はショアーD硬度60度以上であれば特に制限されるものではないが、好ましくはショアーD硬度62〜68度がよく、許容測定誤差として±3度を考慮することが推奨される。カバーのショアーD硬度が60度未満であると、ゴルフボールの打撃による反発性が劣化し、スピン量が増加する上、打出角度が高くなりすぎるため、ボールがふき上がって失速し、十分な飛距離が得られない。また、ショアーD硬度が大きすぎると、カバーが硬くなりすぎてゴルフボールの耐久性を劣化させる原因になることがある。」(4欄29〜41行)
「【0028】本発明のゴルフボールは、通常のゴルフボールと同様にディンプルを形成する。この場合、ディンプルの個数は300〜550個、特に360〜450個とすることが好ましい。ディンプルの配列態様は通常のゴルフボールと同様でよく、また、ディンプルは直径、深さ等が相違する2種又はそれ以上の多種類のものとすることができるが、通常直径は2〜4.5mm、・・・の範囲にあることが好ましい。」(6欄16〜23行)
「【0033】本発明のゴルフボールはゴルフ規則に基づいて形成することができ、直径42.67mm以上、好ましくは42.67〜42.75mmであり、」(8欄6〜8行)
「【0035】[実施例1〜6、比較例1〜6]
まず、コア材料として、下記成分を下記範囲の量で使用し、モールド中で155℃において約20分間加硫し、コア全体を十分に加硫することにより、表1に示すソリッドコアを形成した。
コア材
シス-1,4-ポリブタジエンゴム(BR01) 100重量部
アクリル酸亜鉛 18〜35 〃
酸化亜鉛 2〜25 〃
老化防止剤 0.2 〃
ジクミルパーオキサイド 0.9 〃」(7欄24〜29行 8欄19〜29行)
「【0037】次に、カバー材料として下記成分を下記範囲量で使用し、射出成形して上記ソリッドコアに被覆することにより、表1に示すカバーを有するツーピースソリッドゴルフボールを得た。
カバー材
-中略-
(2)ショア-D62度及び63度のもの
ハイミラン1605/ハイミラン1706/ハイミラン1557の50/25/25(重量比)のブレンド
(3)ショア-D58度のもの
ハイミラン1605/サーリン8120の50/50(重量比)のブレンド
なお、ツーピースゴルフボールのディンプルは下記に示される2種A,Bのディンプルを8面体配列し、ディンプル総体積比VRが0.86%になるように形成した。
ディンプル
A B
直径 3.75 3.50
深さ 0.200 0.200
V0 0.480 0.480
数 144 216 」
(7欄33〜末行 8欄30〜35行)
「ボール外径(mm)が、実施例1、5、6は42.70、実施例2、3は42.67、実施例4は42.71である」点。(【表1】)

上記記載において、ボール直径42.67mm以上(半径R21.335mm以上)、ディンプル総体積比VR0.8%以上であるから、ディンプル総容積Vsは、325mm3以上である。

また、上記記載の実施例において、直径3.75mmのディンプル144個、直径3.50mmのディンプル216個、ディンプル総数360個、ボール直径42.70mm(実施例1、5、6)、42.67mm(実施例2、3)、42.71mm(実施例4)であるから、ディンプル表面占有率は、64%である。

そうすると、上記記載からみて、甲第8号証には、
「ソリッドコアと該コア上に形成されたカバーから成るソリッドゴルフボールにおいて、該ソリッドコアがシス-1,4-結合を含むポリブタジエンゴムと、不飽和カルボン酸および/またはその金属塩とを含むゴム組成物から形成され、荷重100kgの負荷下での圧縮変形量2.4〜4.3mmであり、かつ該カバーが厚さ1.4〜2.4mm、ショアD硬度60度以上、直径2〜4.5mmのディンプル300〜550個を有し、該ディンプルが表面占有率64%および総容積325mm3以上を有するソリッドゴルフボール。」が記載されていると認められる。

甲第9号証
「ディンプル総容積Vが250mm3<V<400mm3である2ピースゴルフボール。」が記載されていると認められる。

甲第10号証
「ディンプル総容積が250〜400mm3の2ピースゴルフボール。」が記載されていると認められる。

甲第11号証
「3.試験結果
得られた結果を以下の表I〜Vに示す。これらのデータから、初荷重10kgかけた時から終荷重130kgかけた時の圧縮変形量(D130)と100kg定荷重における圧縮変形量(D100)との関係を表す式:
D100=0.9477D130+5.7803×10-2 を決定した。」
(1頁)

3-5.対比・判断
3-5-1.当審で通知した取消理由について
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)と上記刊行物1(甲第3号証)に記載された発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)を対比する。
刊行物1記載の発明において、ソリッドコアの荷重100kgの負荷下での圧縮変形量2.3〜3.0mmは、初期荷重10〜最終荷重130kgの負荷下では、2.37〜3.10mmとなる(甲第11号証に記載の「初荷重10kgかけた時から終荷重130kgかけた時の圧縮変形量(D130)と100kg定荷重における圧縮変形量(D100)との関係を表す式:D100=0.9477D130+5.7803×10-2」を参照。)から、
両者は、以下の点で相違する。
(相違点)
(1)本件発明1では、ソリッドコアが「硬度がJIS-C型硬度50〜85であり、硬度の分布幅が5以下であ」るのに対して、刊行物1記載の発明では、ソリッドコアのJIS-C型硬度及び硬度の分布幅は不明である点。
(2)本件発明1では、「直径2〜5mmのディンプル300〜450個を有し、該ディンプルが表面占有率66〜72%および総容積280〜325mm3を有する」のに対して、刊行物1記載の発明では、ディンプルの直径、数、表面占有率、総容積は不明である点。
そこで、上記相違点について検討する。
相違点(1)については、上記刊行物6(甲第7号証)に、ソリッドコアがJIS-C型硬度70〜80であり、硬度の分布幅が5以下である点が記載され、
相違点(2)については、直径2〜5mmのディンプルは周知(例えば、上記刊行物2(甲第1号証)及び甲第2号証参照。)であり、上記刊行物2(甲第1号証)及び3に、ディンプル数250〜600個を有する点及び300〜550個を有する点がそれぞれ記載され、上記刊行物4及び5に、ディンプルが表面占有率65%以上を有する点及び25〜75%を有する点がそれぞれ記載され、上記刊行物2(甲第1号証)及び3に、ディンプルの総容積が322mm3を有する点及び290〜370mm3を有する点がそれぞれ記載されている。
しかしながら、本件発明1は、ソリッドコアの圧縮変形量、硬度及び硬度の分布幅、カバーの厚さ及び硬度、ディンプルの直径、個数、表面占有率及び総容積が限定されており、このように、限定された、ソリッドコアの圧縮変形量及び硬度、カバーの厚さ及び硬度、ディンプルの直径、個数、表面占有率及び総容積を組み合わせることは、当業者にとって容易であるとはいえない。
そして、本件発明1は、全体として、本件訂正明細書に記載の「本発明のゴルフボールは、ソリッドゴルフボール本来の飛距離を維持し、かつスピン性能を向上させたものである。また、本発明のゴルフボールはディンプルを特定することにより、スピン性能の向上による問題点、即ち最高点付近での揚力が高く、ボールが浮き上がり、飛距離が低下することを解決し、伸びのある球すじが得られ、飛行性能も優れる。」という効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、上記刊行物1〜6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

また、本件請求項2に係る発明(以下、「本件発明2」という。)は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同じ理由により、上記刊行物1〜6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

3-5-2.異議申立人が主張する理由1について
i.特許法第29条第1項第3号又は同法29条第2項について
本件発明1と上記甲第1号証に記載された発明(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)を対比すると、
両者は、以下の点で相違すると認められる。
(相違点)
(1)本件発明1では、「ソリッドコアが、初期荷重10〜最終荷重130kgの負荷下での圧縮変形量2.65〜2.85mmであり、その硬度がJIS-C型硬度50〜85であり、硬度の分布幅が5以下であ」るのに対して、甲第1号証記載の発明では、 ソリッドコアの圧縮変形量、JIS-C型硬度及び硬度の分布幅が不明である点。
(2)本件発明1では、「ディンプルが表面占有率66〜72%を有する」のに対して、甲第1号証記載の発明では、ディンプルが表面占有率64%を有する点。
そこで、上記相違点について検討する。
相違点(1)については、上記甲第3号証(刊行物1)及び甲第6号証に、ソリッドコアが初期荷重10〜最終荷重130kgの負荷下での圧縮変形量2.37〜3.10mmである点(上記「3-5-1.」を参照。)、及び、2.8〜3.8mmである点が、それぞれ記載され、上記甲第7号証(刊行物6)に、ソリッドコアがJIS-C型硬度70〜80であり、硬度の分布幅が5以下である点が記載され、
相違点(2)については、ディンプルが表面占有率66〜72%を有する点は、上記甲第2〜7号証のいずれにも記載されていない。
本件発明1は、上記「3-5-1.」で述べたように、ソリッドコアの圧縮変形量、硬度及び硬度の分布幅、カバーの厚さ及び硬度、ディンプルの直径、個数、表面占有率及び総容積が限定されており、このように、限定された、ソリッドコアの圧縮変形量及び硬度、カバーの厚さ及び硬度、ディンプルの直径、個数、表面占有率及び総容積を組み合わせることは、当業者にとって容易であるとはいえない。
そして、本件発明1は、全体として、本件訂正明細書に記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、上記甲第1号証に記載された発明であるとも、上記甲第1〜7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。

また、本件発明2は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同じ理由により、上記甲第1号証に記載された発明であるとも、上記甲第1〜7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。

ii.特許法第29条の2について
本件発明1と先願明細書(特願平7-72348号の願書に最初に添付した明細書又は図面(甲第8号証参照。))に記載された発明(以下、「先願発明」という。)を対比する。
先願発明において、ソリッドコアの荷重100kgの負荷下での圧縮変形量2.4〜4.3mmは、初期荷重10〜最終荷重130kgの負荷下では、2.47〜4.47mmとなる(甲第11号証に記載の式を参照。)から、
両者は、以下の点で相違する。
(相違点)
(1)本件発明1では、ソリッドコアの「硬度がJIS-C型硬度50〜85であり、硬度の分布幅が5以下であ」るのに対して、先願発明では、ソリッドコアの硬度及び硬度の分布幅が不明である点。
(2)本件発明1では、「ディンプルが表面占有率66〜72%を有する」のに対して、先願発明では、ディンプルが表面占有率64%を有する点。
そして、上記相違点(1)、(2)に係る本件発明1を特定する事項は、周知・慣用であるとはいえず、本件発明1は、全体として、本件訂正明細書に記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、先願発明と同一であるということはできない。

また、本件発明2は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同じ理由により、先願発明と同一であるということはできない。

3-5-3.異議申立人が主張する理由2について
i.理由2の(1)について
本件訂正明細書に記載の実施例2を例にとると、
ディンプル数360個、ディンプル表面占有率72%、コア直径39.1mm、カバー厚さ1.9mm、ボール直径42.9mm(半径21.45mm)であるから、
ボール表面積は、
5781.818mm2(4×π×21.452)となり、
ディンプル面積は、
4162.909mm2(5781.818mm2×0.72)となり、
ディンプル1個の平均面積は、
11.5636mm2(4162.909mm2÷360個)となり、
ディンプル平均直径は、
3.84mm((11.5636÷π)1/2×2)となる。
同様に、実施例1及び3について、ディンプル平均直径を算出すると、それぞれ、3.83mm 及び3.70mm となる。
また、ディンプル深さ、ディンプル形状、ディンプル配列は、本件発明1及び2を特定する事項ではないから、本件訂正明細書にそれらに関する記載がないからといって、記載が不備であるということはできない。
さらに、実施例1〜3の各ディンプル表面占有率、及び、各ディンプル総容積が、それぞれ、70、72、66%、及び、305、300、295mm3 であることは、本件訂正明細書の【表4】に記載されている。
したがって、理由2の(1)について、本件訂正明細書の記載不備はない。
ii.理由2の(2)について
上記訂正請求により、本件発明1のディンプル表面占有率は66〜72%に訂正されたため、比較例1及び2のディンプル表面占有率は上記66〜72%の数値範囲を外れ、理由2の(2)について、本件訂正明細書の記載不備はない。
iii.理由2の(3)について
コアの硬度については、どの部分の硬度か記載していない以上、コアの全ての部分でJIS-C型硬度50〜85であり、硬度の分布幅については、コアのどの部分で測定しても硬度の分布幅が5以下であることは、明らかである。
したがって、理由2の(3)について、本件訂正明細書の記載不備はない。

3-5-4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び取消の理由によっては本件請求項1ないし2に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし2に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1ないし2に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ソリッドゴルフボール
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ソリッドコアと該コア上に形成されたカバーから成るソリッドゴルフボールにおいて、該ソリッドコアがシス‐1,4‐結合を少なくとも40%含むポリブタジエンゴムと、不飽和カルボン酸および/またはその金属塩とを含むゴム組成物から形成され、初期荷重10〜最終荷重130kgの負荷下での圧縮変形量2.65〜2.85mmであり、その硬度がJIS‐C型硬度50〜85であり、硬度の分布幅が5以下であり、かつ該カバーが厚さ1〜4mm、ショアD硬度55〜64、直径2〜5mmのディンプル300〜450個を有し、該ディンプルが表面占有率66〜72%および総容積280〜325mm3を有するソリッドゴルフボール。
【請求項2】 該カバーが、ショアD硬度65〜68を有する樹脂15〜40重量%、ショアD硬度60〜64を有する樹脂20〜40重量%およびショアD硬度50〜59を有する樹脂30〜60重量%の混合物から成る請求項1記載のソリッドゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、飛行性能およびスピン性能に優れたソリッドゴルフボールに関する。
【0002】
【従来の技術】
先行技術においては、主として2種類のゴルフボールがある。一方は、中実のツーピースボール等のソリッドゴルフボールであり、一体成形されたゴム製部材から成るコアおよび該コア上に被覆したアイオノマー樹脂等の熱可塑性樹脂カバーから構成される。また、他方は糸巻きゴルフボールであり、中心の固体または液体の芯部を、ゴム糸の巻線で巻き付け、次いで1〜2mm厚のアイオノマー樹脂やバラタ等によるカバーで被覆したものである。ソリッドゴルフボールは、糸巻きゴルフボールに比べるとドライバー、アイアンとも、いわゆる棒球と呼ばれる弾道で飛距離が大きく、飛行性能に優れる。これは構造の特徴によるところが大きく、ソリッドゴルフボールはそのスピンがかかりにくい構造特性によって棒球の弾道特性が与えられ、このためランも多く、トータル飛距離も大きい。
【0003】
その反面、アイアンではスピンがかかりにくいためにグリーン上で止まりにくく、いわゆるフライヤーとなり易い。従って、特に上級者はこういったツーピースゴルフボール等のソリッドゴルフボールの特性にはなじみ難いところがある。
【0004】
従って、スピン特性が優れ、アイアンでピンをデッドに狙えるソリッドゴルフボールが望まれる。この場合、ソリッドゴルフボールの特徴である飛距離の大きいという点は維持される必要があり、また打撃時のフィーリングに優れていなければならないことは言うまでもない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そのため、本発明はツーピースゴルフボール等のソリッドゴルフボール特有の弾道飛距離を損なうことなく、フィーリング性に優れ、かつスピン特性が良好で、アイアンでのコントロール性(グリーン上での止まり)が改善されたソリッドゴルフボールを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、ソリッドコアがシス‐1,4‐結合を少なくとも40%含むポリブタジエンゴムと、不飽和カルボン酸および/またはその金属塩とを含むゴム組成物から形成され、初期荷重10〜最終荷重130kgの負荷下での圧縮変形量2.65〜2.85mmであり、その硬度がJIS‐C型硬度50〜85であり、硬度の分布幅が5以下であり、かつ該カバーが厚さ1〜4mm、ショアD硬度55〜64、直径2〜5mmのディンプル300〜450個を有し、該ディンプルが表面占有率66〜72%および総容積280〜325mm3を有するソリッドゴルフボールにより、優れた飛行性能およびスピン性能が得られることを知見した。
【0007】
即ち、ゴルフボールにおるスピンのメカニズムを考えると、同じ材料を用いて、硬度のみを変えた場合、クラブヘッドスピード、カバー材は同一であることから、ボールとクラブフェース間の摩擦係数は同じであるゆえに、摩擦力も同じであり、硬度差によってたわみ量だけが異なることから、重心位置とボール‐クラブの接点距離が異なる。この場合、接点距離は硬い方が大きく、軟らかい方が小さく、硬いボールの方がスピンがかかり易い。
【0008】
従って、アイアンでのスピンのかかる構造を考えると、ボール硬度を増大することによりスピン量を増大させることはできる。しかし、その反面、ボール硬度を増大するとフィーリングが硬くなり、打感は悪くなる。また、カバーを軟らかくすると、ボールとして反撥力を失い、初速が小さく飛距離が低下する。
【0009】
本発明では、従来の飛行性能に優れていると言われるツーピースゴルフボールに用いられるカバーより軟らかい、即ち、ショアD硬度55〜64、好ましくは61〜64の樹脂をカバーに用いることによりスピン性能を改善し、軟らかくなり過ぎてスピン量は多いが初速が小さくなり過ぎることを防止する。更に、従来よりスピン性能が向上したことにより打出角が小さくなるため、低く打ち出され、先へ行って伸びずに浮いてしまう現象が起こり、飛行性能が低下してしまう問題があった。この問題を解決すべく、直径2〜5mmのディンプルを300〜450個、好ましくは340〜390個をボール表面に配設し、しかも最高点付近で必要以上に浮き上がらないように、全ディンプルのボール表面占有率を従来より低く抑え(66〜72%)、ディンプル容積が280〜325mm3の時、伸びのある弾道が得られるようにした。
【0010】
また、本発明のソリッドゴルフボールには、一体化されたコアを有するツーピースゴルフボール、ゴムを主体として2層以上のコアを有するマルチピースゴルフボール、またはゴムを主体としてコア上に更に樹脂で成形したツーピースコアを用いて、更にその上に本発明のカバー樹脂を成形したマルチピースゴルフボールが含まれる。
【0011】
本発明のゴルフボールは、ツーピースゴルフボールに好適に用いられるほか、スリーピースゴルフボール等のマルチコアのゴルフボールに適用し得るが、コアまたはカバーの材質、製法等に限定されず、上述のゴルフボール特性を達成する限り、公知のいずれの材料によっても成形し得る。
【0012】
更に詳述すると、本発明のソリッドゴルフボールに用いられるコアは通常の方法により、加硫条件、配合比等を調節することにより得られる。通常、コアの配合には、基材ゴム、架橋剤、共架橋剤、不活性充填材等が含まれる。
【0013】
基材ゴムとしては、従来からソリッドゴルフボールに用いられている天然ゴムおよび/または合成ゴムが用いられ、特にシス構造を少なくとも40%以上有する1,4‐ポリブタジエンが好ましく、所望により該ポリブタジエンに天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン‐ブタジエンゴム、EPDM等を配合してもよい。
【0014】
架橋剤の例としては、有機過酸化物、例えばジクミルパーオキサイドまたはジ‐t-ブチルパーオキサイドが挙げられ、ジクミルパーオキサイドが好適である。配合量は、基材ゴム100重量部に対して、0.5〜3.0重量部、好ましくは0.8〜1,.5重量部である。
【0015】
共架橋剤には、従来のソリッドゴルフボールに用いられてきたものを使用し得る。不飽和脂肪酸の金属塩、特にアクリル酸またはメタクリル酸等のような炭素原子数3〜8の、一価または二価の金属塩が挙げられるが、反撥性の高いアクリル酸亜鉛が好適である。配合量は基材ゴム100重量部に対して、24〜38重量部、好ましくは28〜34重量部が好ましい。38重量部より多いと硬くなり過ぎ、フィーリングが悪くなり、24重量部より少ないと反撥が悪くなる。
【0016】
不活性充填材の例としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、シリカ、炭酸カルシウムおよび炭酸亜鉛等が挙げられるが、酸化亜鉛が一般的で、その配合量はコアおよびカバーの比重、ボールの重量規格等に左右され、特に限定されるものではないが、通常は基材ゴム100重量部に対して、10〜60重量部である。
【0017】
更に、そのコアの配合には、老化防止剤や、その他ソリッドゴルフボールのコアの製造に通常使用し得る成分を適宜配合してもよい。
【0018】
上記成分を配合して得られるコア用組成物を、通常ソリッドコアに用いられる方法、条件を用いて、加熱成形して得られたコアは通常、直径37〜40mmであることが望ましい。また、所望のフィーリングを得るために、10kg〜130kgの荷重を負荷したときの変形量は2.65〜2.85mmが好ましく、2.65mmより小さいと硬くなり、2.85mmより大きいと軟らかくなる。更に、コアのJIS‐C型硬度が50〜85であり、その硬度の分布幅が5以下であることが好ましい。測定方法はJIS K 6301に準じた。
【0019】
なお、2層コアの場合、内側コアは上記と同様の材料で成形でき、また外側コアもこれと同様のゴム材料またはアイオノマー樹脂等の樹脂材料により形成し得る。なお、内側コアの直径は27.0〜38.0mm、より好ましくは28.0〜36.0mmであり、外側コアの厚さは0.5〜6.5mm、より好ましくは1.5〜5.5mmであり、その合計直径を37〜40mmとすることが好ましい。
【0020】
次いで、上記コアにはカバーを被覆する。カバーの材料としては、アイオノマー、ポリエステル、ナイロン等を単独または2種以上混合して使用し得るが、フィーリングおよび飛行特性の点から、そのカバー硬度はショアDで55〜64、好ましくは61〜64であり、その厚さは1.0〜4.0mm、好ましくは1.3〜2.5mmであることが望ましい。
【0021】
また、本発明のカバー層には、例えば酸化チタン等の着色剤や、その他の添加剤、例えば紫外線吸収剤、光安定剤並びに蛍光材料または蛍光増白剤等を、ゴルフボールカバーによる所望の特性が損なわれない範囲で、含有していてもよい。
【0022】
更にまた、カバーをコアに被覆する方法は特に限定されるものではないが、通常は予め半球殻状に成形した2枚のカバーでコアを包み、加熱加圧成形するが、カバー用組成物を射出成形してコアを包みこんでもよい。その際に通常、ディンプルと呼ばれるくぼみを前述のように表面上に形成する。本発明のゴルフボールは美観を高め、商品価値を上げるために、通常ペイントで被覆され、市場に投入される。
【0023】
その際に、コア、カバーの材料および使用量を適宜選定し、また加硫条件等の製造条件を適宜選定することで、上述した特性値を有するゴルフボールを得ることができる。
【0024】
本明細書中において、「ディンプル表面占有率」とは図1のディンプル2のエッジ1で作る円の面積の総和の、ボールの直径から計算により求めたボール表面積に対する割合を表している。また、「ディンプル総容積」とは、ディンプル2のエッジ1と接する平面4とディンプル内部とで形成する部分(図1中の斜線部3)の容積をいう。
【0025】
更に、本発明のソリッドゴルフボールのディンプル表面占有率は66〜72%が好ましく、66%より小さいとボールの伸びがなくなり飛距離が劣り、72%より大きいとボールは吹き上がるようになり飛距離が劣る。ディンプル総容積は280〜325mm3が好ましく、280mm3より小さいと、ボールが吹き上がり飛距離が劣り、325mm3より大きいと、ボールが上がりにくく飛距離が劣る。
【0026】
なお、本発明のゴルフボールは、ゴルフ規則に沿った通常の大きさ、重量に形成される。
【0027】
【実施例】
本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
コアの作成
表1に示す配合を混練した後、加硫成形することにより、直径39.1mmの球状コアを得た。加硫条件は表1に示すように、2段階で行われ145℃×20分加硫した後、168℃で10分間更に加硫した。更に表1には、得られたコアの、中心および表面硬度、並びに130kg荷重時の変形量を示した。)
【表1】

【0029】
実施例1〜3、比較例1〜5
表2に示すカバー配合を上記コア上に射出成形することにより、カバー層を形成した。カバー層のショアD硬度を表2に示す。)
【表2】

【0030】
(注1)日本合成ゴム製ポリブタジエン
(注2)日本触媒製アクリル酸亜鉛
(注3)吉富製薬製ヨシノックス425
(注4)三井ポリケミカル社製アイオノマー樹脂
【0031】
使用したカバー配合と形成したカバーの厚さおよび硬度は表3に示す。カバー成形時にディンプルも同時に形成されるが、そのディンプル数、ディンプル占有率およびディンプル総容積の値を表4に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
得られたゴルフボールについて、ドライバーでのボール初速、飛距離、スピンおよび弾道高さ、サンドウェッジでのスピン、プレイヤーによる試打を行いアプローチのコントロール性の良さについて評価を行い、その結果を表4に示す。試験方法は以下の通り行った。比較例6は市販のバラタカバー糸巻きボール(住友ゴム工業(株)製ロイヤルマックスフライ(黒))である。
【0034】
(試験方法)
(a)飛距離およびスピン
上記のような配合のコア、カバーを用いて作製したゴルフボールを、ツルーテンパー社製スイングロボットにて、ドライバーショットはグレートビッグバーサ(Callaway社製ドライバー)を用いてヘッドスピード45m/秒にて実打し、アイアンショットではビッグバーサアイアンサンドウェッジ(Callaway製サンドウェッジ)を用いてヘッドスピード20m/秒にて実打した時のボール初速、飛距離、スピンおよび弾道高さ(打出角)を測定した。
(b)アプローチのコントロール性
プレイヤー10人によるサンドウェッジを用いて試打を行いアプローチ時の止り易さを、下記のとおり評価した。
◎…止まり易い
○…やや止まる
△…普通
×…止まらない
【0035】
(試験結果)
【表4】

【0036】
従来型のゴルフボールである比較例3に比べて、実施例1,2および3はボール初速はやや遅いが、飛行性能はほぼ同等であり、スピン性能、特にアプローチでのコントロール性は優れている。比較例1は、ディンプル占有率が低すぎて飛距離が劣る。比較例2は、ディンプル数そのものが少なく、飛距離が伸びない。比較例4は、ディンプル占有率が高くて、ボールが浮き上がって飛距離が出ない。比較例5は、カバー層が厚く、カバー硬度が低いため、ボール初速が低く、飛距離が出ない。
【0037】
【発明の効果】
本発明のゴルフボールは、ソリッドゴルフボール本来の飛距離を維持し、かつスピン性能を向上させたものである。また、本発明のゴルフボールはディンプルを特定することにより、スピン性能の向上による問題点、即ち最高点付近での揚力が高く、ボールが浮き上がり、飛距離が低下することを解決し、伸びのある球すじが得られ、飛行性能も優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のゴルフボールのディンプルの概略断面図である。
【符号の説明】
1…ディンプルエッジ
2…ディンプル
3…ディンプル容積
4…ディンプルエッジと接する平面
 
訂正の要旨 (1)訂正事項a
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の、
「【請求項1】ソリッドコアと該コア上に形成されたカバーから成るソリッドゴルフボールにおいて、該ソリッドコアがシス-1,4-結合を少なくとも40%含むポリブタジエンゴムと、不飽和カルボン酸および/またはその金属塩とを含むゴム組成物から形成され、かつ該カバーが厚さ1〜4mm、ショアD硬度55〜64、直径2〜5mmのディンプル300〜450個を有し、該ディンプルが表面占有率70±8%および総容積260〜345mm3を有するソリッドゴルフボール。
【請求項2】該コアが初期荷重10〜最終荷重130kgの負荷下での圧縮変形量2.3〜3.5mmである請求項1記載のソリッドゴルフボール。
【請求項3】該コアがJIS-C型硬度50〜85であり、その硬度の分布幅が5以下である請求項1および2記載のソリッドゴルフボール。
【請求項4】該カバーが、ショアD硬度65〜68を有する樹脂15〜40重量%、ショアD硬度60〜64を有する樹脂20〜40重量%およびショアD硬度50〜59を有する樹脂30〜60重量%の混合物から成る請求項1〜3記載のソリッドゴルフボール。」を、
「【請求項1】ソリッドコアと該コア上に形成されたカバーから成るソリッドゴルフボールにおいて、該ソリッドコアがシス-1,4-結合を少なくとも40%含むポリブタジエンゴムと、不飽和カルボン酸および/またはその金属塩とを含むゴム組成物から形成され、初期荷重10〜最終荷重130kgの負荷下での圧縮変形量2.65〜2.85mmであり、その硬度がJIS-C型硬度50〜85であり、硬度の分布幅が5以下であり、かつ該カバーが厚さ1〜4mm、ショアD硬度55〜64、直径2〜5mmのディンプル300〜450個を有し、該ディンプルが表面占有率66〜72%および総容積280〜325mm3を有するソリッドゴルフボール。
【請求項2】該カバーが、ショアD硬度65〜68を有する樹脂15〜40重量%、ショアD硬度60〜64を有する樹脂20〜40重量%およびショアD硬度50〜59を有する樹脂30〜60重量%の混合物から成る請求項1記載のソリッドゴルフボール。」と訂正する。
(2)訂正事項b
明りようでない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明の欄の段落【0006】の、
「【課題を解決するための手段】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、ソリッドコアがシス-1,4-結合を少なくとも40%含むポリブタジエンゴムと、不飽和カルボン酸および/またはその金属塩とを含むゴム組成物から形成され、かつ該カバーが厚さ1〜4mm、ショアD硬度55〜64、直径2〜5mmのディンプル300〜450個を有し、該ディンプルが表面占有率70±8%および総容積260〜345mm3を有するソリッドゴルフボールにより、優れた飛行性能およびスピン性能が得られることを知見した。」を、
「【課題を解決するための手段】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、ソリッドコアと該コア上に形成されたカバーから成るソリッドゴルフボールにおいて、該ソリッドコアがシス-1,4-結合を少なくとも40%含むポリブタジエンゴムと、不飽和カルボン酸および/またはその金属塩とを含むゴム組成物から形成され、初期荷重10〜最終荷重130kgの負荷下での圧縮変形量2.65〜2.85mmであり、その硬度がJIS-C型硬度50〜85であり、硬度の分布幅が5以下であり、かつ該カバーが厚さ1〜4mm、ショアD硬度55〜64、直径2〜5mmのディンプル300〜450個を有し、該ディンプルが表面占有率66〜72%および総容積280〜325mm3を有するソリッドゴルフボールにより、優れた飛行性能およびスピン性能が得られることを知見した。」と訂正する。
(3)訂正事項c
明りようでない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明の欄の段落【0009】の、「(70±8%)」を、「(66〜72%)」と訂正する。
(4)訂正事項d
明りようでない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明の欄の段落【0009】の、「260〜345mm3、好ましくは」を、削除する。
(5)訂正事項e
明りようでない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明の欄の段落【0018】の、
「所望のフィーリングを得るために、10kg〜130kgの荷重を負荷したときの変形量は2.3〜3.5mmが好ましく、2.3mmより小さいと硬くなり過ぎ、3.5mmより大きいと軟らかくなり過ぎる。」を、
「所望のフィーリングを得るために、10kg〜130kgの荷重を負荷したときの変形量は2.65〜2.85mmが好ましく、2.65より小さいと硬くなり、2.85mmより大きいと軟らかくなる。」と訂正する。
(6)訂正事項f
明りようでない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明の欄の段落【0025】の、
「更に、本発明のソリッドゴルフボールのディンプル表面占有率は62〜78%が好ましく、62%より小さいとボールの伸びがなくなり飛距離が劣り、78%より大きいとボールは吹き上がるようになり飛距離が劣る。ディンプル総容積は280〜330mm3が好ましく、280mm3より小さいと、ボールが吹き上がり飛距離が劣り、330mm3より大きいと、ボールが上がりにくく飛距離が劣る。」を、
「更に、本発明のソリッドゴルフボールのディンプル表面占有率は66〜72%が好ましく、66%より小さいとボールの伸びがなくなり飛距離が劣り、72%より大きいとボールは吹き上がるようになり飛距離が劣る。ディンプル総容積は280〜325mm3が好ましく、280mm3より小さいと、ボールが吹き上がり飛距離が劣り、325mm3より大きいと、ボールが上がりにくく飛距離が劣る。」と訂正する。
異議決定日 2002-08-20 
出願番号 特願平7-236677
審決分類 P 1 651・ 536- YA (A63B)
P 1 651・ 537- YA (A63B)
P 1 651・ 121- YA (A63B)
P 1 651・ 16- YA (A63B)
P 1 651・ 113- YA (A63B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 神 悦彦  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 前田 建男
白樫 泰子
登録日 1999-11-05 
登録番号 特許第2999399号(P2999399)
権利者 住友ゴム工業株式会社
発明の名称 ソリッドゴルフボール  
代理人 青山 葆  
代理人 山本 宗雄  
代理人 山本 宗雄  
代理人 豊田 武久  
代理人 青山 葆  

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