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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1067431
異議申立番号 異議1999-71444  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-08-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-04-22 
確定日 2002-08-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2812562号「改良ショットクリート組成物」の請求項1ないし15に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2812562号の訂正後の請求項1〜10に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許2812562号の請求項1乃至15に係る発明についての出願は、平成3年1月25日(パリ条約による優先権主張1990年1月27日、ドイツ)に特許出願され、平成10年8月7日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人電気化学工業株式会社より特許異議の申立てがなされた。そして、当審において取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成12年4月19日に訂正請求(後日取下げ)がなされた後、訂正拒絶理由通知が2回なされ、2度目の訂正拒絶理由通知の指定期間内の平成14年3月22日に手続補正書が提出された。その後再度の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年6月12日に、上記訂正請求が取下げられると共に、新たに訂正請求がなされたものである。
II.訂正の適否
II-1.訂正の内容
訂正事項a:特許請求の範囲請求項1において、「前記安定剤が」と「カルシウムイオン」の間に「ヒドロキシおよびアミノから選ばれた少なくとも1個の基を有する有機ホスホン酸誘導体から選択された、」を挿入する。
訂正事項b:特許請求の範囲請求項2において、「混合物が」と「硬化促進剤」の間に「アルミン酸アルカリ、アルミン酸アルカリと炭酸カリウムとの混合物およびシリケートから選択された」を挿入する。
訂正事項c:特許請求の範囲請求項5を削除する。
訂正事項d:特許請求の範囲請求項6において、「請求項6」を「請求項5」に、「ホスホン酸誘導体」を「有機ホスホン酸誘導体」に、「請求項5」を「請求項1または請求項2」に訂正する。
訂正事項e:特許請求の範囲請求項7において、「請求項7」を「請求項6」に、「安定剤がヒドロキシカルボン酸およびそれらの塩類、ポリカルボン酸およびそれらの塩類、アスコルビン酸およびイソアスコルビン酸、アルドース、ケトース、」を「安定剤としてさらに」に、「無機および・・・選ばれる、」を「グルコン酸またはその塩もしくはクエン酸またはその塩が使用される、」に訂正する。
訂正事項f:特許請求の範囲請求項8及び9を削除する。
訂正事項g:特許請求の範囲請求項10を削除する。
訂正事項h:特許請求の範囲請求項11において、「請求項11」を「請求項7」に、「無機」を「鉱物性」に訂正する。
訂正事項i:特許請求の範囲請求項12を削除する。
訂正事項j:特許請求の範囲請求項13において、「請求項13」を「請求項8」に、「無機」を「鉱物性」に訂正し、「または請求項9」を削除する。
訂正事項k:特許請求の範囲請求項14において、「請求項14」を「請求項9」に訂正し、「あって、」と「カルシウム」の間に「ヒドロキシおよびアミノから選ばれた少なくとも1個の基を有する有機ホスホン酸誘導体から選択された、」を挿入する。
訂正事項l:特許請求の範囲請求項15 において、「請求項15」を「請求項10」に、「化学的化合物」を「化学物質」に訂正し、「80重量%、」と「カルシウム」の間に「ヒドロキシおよびアミノから選ばれた少なくとも1個の基を有する有機ホスホン酸誘導体から選択された、」を挿入する。
訂正事項m:明細書段落【0005】の「ホスホネート」(特許公報明細書3頁5欄39〜40行)を「ホスフェート」に訂正する。
訂正事項n:明細書段落【0005】の「水還元特性」(特許公報明細書3頁5欄末2行)を「減水性」に訂正する。
訂正事項o:明細書段落【0006】及び【0007】の「無機」(特許公報明細書3頁6欄35行及び47行)を「鉱物性」に訂正する。
訂正事項p:明細書段落【0006】及び【0009】の「カリ」(特許公報明細書3頁6欄28行及び4頁8欄1行)を「炭酸カリウム」に訂正する。
訂正事項q:明細書段落【0008】の「水還元性」(特許公報明細書4頁7欄14行及び17行)を「減水性」に訂正する。
訂正事項r:明細書段落【0008】の「鉱物性混和材料を」(特許公報明細書4頁7欄32行)を「鉱物性混和材料の」に訂正する。
II-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、請求項1の安定剤として使用すべき化学物質を、請求項5の記載の「ヒドロキシおよびアミノから選ばれた少なくとも1個の基を有する有機ホスホン酸誘導体」から選択されたものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、この訂正は、請求項5に記載されているのであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
上記訂正事項bは、請求項2の硬化促進剤を「アルミン酸アルカリとアルミン酸アルカリと炭酸カリウムとの混合物およびシリケートから選択された」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、この訂正は、明細書段落【0006】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
上記訂正事項cは、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
上記訂正事項dは、請求項については上記訂正事項cの請求項の削除に伴う訂正であり、ホスホン酸誘導体については有機物質に限定するものであるから、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、これらの訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
上記訂正事項eは、請求項については上記訂正事項cの請求項の削除に伴う訂正であり、安定剤については有機ホスホン酸誘導体と共に追加的に使用される安定剤を限定するものであるから、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、後者については明細書段落【0005】に記載されるのであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
上記訂正事項f及びgは、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
上記訂正事項hは、請求項については上記訂正事項c、f及びgの請求項の削除に伴う訂正であり、「鉱物性」については用語の統一を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。そして、これらの訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
上記訂正事項iは、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
上記訂正事項jは、請求項については上記訂正事項c、f、g及びiの請求項の削除に伴う訂正であり、「鉱物性」については用語の統一を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。そして、これらの訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
上記訂正事項k及びlは、請求項については上記訂正事項c、f、g及びiの請求項の削除に伴う訂正であり、「化学物質」については用語の統一を図るためのものであり、安定剤の限定については請求項1と同じ限定を付加するものであるから、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、これらの訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
上記訂正事項mは、特許請求の範囲及び明細書段落【0005】の「ポリホスフェート、ピロホスフェート」の記載からみて誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
上記訂正事項nは、「water-reducing」の訳語であり、これを「減水性」と訳すべきは自明であることから、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
上記訂正事項oは、字句の統一を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
上記訂正事項pは、「カリ」が「potash」の訳語であり、「炭酸カリウム」であることは自明であることから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
上記訂正事項qは、上記訂正事項nと同じく、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
上記訂正事項rは、特許請求の範囲の記載からみても、技術内容からみても、明白な誤記であることから、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
II-3.独立特許要件
(1)本件発明
平成14年6月12日付けで提出された訂正明細書の請求項1乃至10に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1乃至10に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】少なくとも1種の安定剤を含み、前記安定剤がヒドロキシおよびアミノから選ばれた少なくとも1個の基を有する有機ホスホン酸誘導体から選択された、カルシウムイオンとキレートを形成し得る化学物質であるコンクリート混合物を、基質に吹付けることによる適用方法。(以下、「本件第1発明」という。)
【請求項2】吹付け時のコンクリート混合物がアルミン酸アルカリ、アルミン酸アルカリと炭酸カリウムとの混合物およびシリケートから選択された硬化促進剤により活性化される、請求項1記載の方法。(以下、「本件第2発明」という。)
【請求項3】コンクリート混合物が既製の(ready-made)コンクリートであり、湿式吹付けされる、請求項1または請求項2記載の方法。(以下、「本件第3発明」という。)
【請求項4】安定剤が乾式吹付け方法で使用される乾燥コンクリート混合物の一部である、請求項1または請求項2記載の方法。(以下、「本件第4発明」という。)
【請求項5】有機ホスホン酸誘導体がアミノトリ(メチレンホスホン酸)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム塩、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸4ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)カルシウム/ナトリウム塩、ヘキサメチレン-ジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)カリウム塩、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)ナトリウム塩から成る群から選ばれる、請求項1または2記載の方法。(以下、「本件第5発明」という。)
【請求項6】安定剤としてさらにグルコン酸またはその塩もしくはクエン酸またはその塩が使用される、請求項1または請求項2記載の方法。(以下、「本件第6発明」という。)
【請求項7】安定剤がセメントおよび鉱物性混和材料の0.1〜5.0重量%の割合で使用される、請求項1または請求項2記載の方法。(以下、「本件第7発明」という。)
【請求項8】硬化促進剤がセメントおよび存在する鉱物性混和材料の1〜25重量%を構成する、請求項2記載の方法。(以下、「本件第8発明」という。)
【請求項9】基質上に吹付けされるコンクリートであって、ヒドロキシおよびアミノから選ばれた少なくとも1個の基を有する有機ホスホン酸誘導体から選択された、カルシウムイオンとキレートを形成し得る化学的物質である安定剤を含むコンクリート。(以下、「本件第9発明」という。)
【請求項10】セメントを組成物の12〜20重量%、鉱物性混和材料を組成物の0.4〜2.5重量%、骨材を組成物の68〜80重量%、ヒドロキシおよびアミノから選ばれた少なくとも1個の基を有する有機ホスホン酸誘導体から選択された、カルシウムとのキレートを形成し得る化学物質である少なくとも1種の安定剤をセメント+鉱物性混和材料の0.1〜5.0重量%、鉱物性混和材料以外の混和材料をセメントの2.5重量%以下の割合で含み、最大含水率が10重量%である乾燥混合物吹付けコンクリート組成物。(以下、「本件第10発明」という。)
(2)特許法第29条1項第3号及び同法第2項違反についての検討
(引用例の記載事項)
取消理由で引用した引用例1〜3には、それぞれ次の通りの事項が記載されている。
引用例1(特開平1ー257156号公報)
(a)「(1)セメントと水及び骨材を混練して吹付け工法用コンクリート混練物を調合し、該混練物にアルミン酸アルカリあるいはアルミン酸アルカリ及び炭酸アルカリの水溶液を添加して急結せしめるに当り、該混練物調合時に、予め 1)リン酸塩、あるいは 2)リン酸塩と有機カルボン酸、又はその塩 3)水酸化カルシウム 4)アルカリ金属炭酸塩及び、又は 5)アルカリ金属水酸化物 を添加することを特長とする吹付け工法用急結性セメント組成物。・・・・(3)該有機カルボン酸又はその塩が、クエン酸、酒石酸、グルコン酸及びこれらのナトリウム塩及びカリウム塩から選ばれた少なくとも1種であり、添加量がセメント量に対して0.01〜0.2重量%である「特許請求の範囲第(1)項又は第(2)項」に記載の吹付け工法用急結性セメント組成物。・・・」(特許請求の範囲)
(b)「添加物を2通りに分け、一方はリン酸塩あるいはリン酸塩と有機カルボン酸類を主体とした粉末添加物の形態であり、予めコンクリート混練時に加えておき、この練り上がったコンクリートに、もう一方の液体添加物であるアルミン酸アルカリあるいはアルミン酸アルカリ及び炭酸アルカリの水溶液を添加すると、従来の液体急結剤にはみられない急結性能が得られる」(第2頁左下欄3〜10行)
(c)「本発明に用いられるリン酸塩とは、オルトリン酸塩として、第一リン酸、第二リン酸、第三リン酸等であり、縮合リン酸塩として、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ペンタポリリン酸、ウルトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸等であり、これらのナトリウム塩及びカリウム塩から選ばれた少なくとも1種が、通常セメント量に対して0.05〜0.6重量%使用され、」(第2頁右下欄5〜12行)
(d)「本発明に用いられる水溶性アルミン酸アルカリ、炭酸アルカリは通常、一般に使用されているナトリウム、カリウム等のアルミン酸塩、炭酸塩であり、アルミン酸アルカリ単独で、あるいはアルミン酸アルカリと炭酸アルカリの組合せで使用され更に又液体添加物のかわりに、粉末品であるアルミン酸カルシウムを使用してもより効果を上げることが可能である。」(第3頁右上欄7〜14行)
引用例2(特開昭62-270414号公報)
(e)「1.水に基づく基剤、スラリーの重量に基づいて重量で少なくとも約50%のミクロシリカ、該ミクロシリカのための陰イオン分散剤、及び該ミクロシリカ中の多価陽イオン性不純物をキレートすることができるキレート剤から成り、約5.0〜8.5の範囲のpHを有することを特徴とする、ミクロシリカスラリー。・・・・7.該キレート剤はアミノカルボン酸、1,3ージケトン、ヒドロキシカルボン酸、ポリアミン、オキシム、ポリホスホン酸及びポリりん酸塩から成るグループから選択する、特許請求の範囲第1項記載のミクロシリカスラリー。・・・・17.水硬セメントと特許請求の範囲第1項記載のミクロシリカスラリーから成る水硬セメント組成物。・・・」(特許請求の範囲)
(f)「多価陽イオンに対するキレート剤は、いうまでもなく公知である。本発明において使用することができるキレート剤としては、たとえば、アミノカルボン酸、・・・ヒドロキシカルボン酸、たとえば、くえん酸、酒石酸・・・・ヘキシレンジアミン(メチレンホスホン酸)及びポリホスホネートがある。本発明においては2種以上のキレート剤の組合わせを使用することもできる。」(第4頁左上欄19行〜同頁右上欄14行)
引用例3(国際公開公報 WO89/06640)
(g)「安定化されたスラリーは、もし新しいコンクリートの含水量がスラリーに含まれる水の量に考慮されるならば、このコンクリートの性質を損うことなしに新しいコンクリートと混合することができる。好適な安定化剤はホスホン酸誘導体、更に好ましくはカルシウムキレート剤として作用しうるヒドロキシ及びアミノ基を含有するものである。・・・・他の適当な安定化剤は、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、フマル酸、イタコン酸、マロン酸及びグルコヘプタン酸を含むヒドロキシカルボン酸及びその塩・・・・更に好適な安定化剤は、少なくとも1つのホスホン酸型の遅延剤(retarder)と少なくとも1つの異なった種類の安定化剤との混合物である。・・・・特に好適な安定化剤はデクエスト・シリーズの生成物とクエン酸の混合物、特にデクエスト2000/クエン酸である。デクエスト対クエン酸の好適な比は1:1〜2:1である。(訳文)」(第2頁5行〜第3頁17行)
(h)「1.適当量の水を受容器に添加して、そこに含有されたコンクリート残留物とスラリーを形成させ、そしてこのスラリー水に安定化剤を添加し;或いは安定化剤の、必要量の水中の希釈溶液を受容器に添加して、そこに含有されたコンクリート残留物と安定化されたスラリーを形成させる、ことを含んでなるコンクリート残留物の安定化法。・・・・7.安定化剤が-ホスホン酸誘導体から選択される少なくとも1つの化合物及び -ヒドロキシカルボン酸、ポリカルボン酸及びその塩;アスコルビン酸及びイソアスコルビン酸;スルホン酸-アクリル酸共重合体;ポリヒドロキシシラン;ポリアクリルアミド;炭水化物;及びリグノスルホン酸塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物、を含んでなる請求の範囲1又は2の方法。・・・・10.請求の範囲1の方法で得られる安定化したスラリーに新しいコンクリートを添加することを含んでなるコンクリート混合物の製造方法。(訳文)」(第9頁〜第10頁 請求の範囲)
(3)対比・判断
<本件第1発明について>
本件第1発明と引用例1〜3に記載された発明とを対比する。
本件第1発明では「安定剤」が「ヒドロキシおよびアミノから選ばれた少なくとも1個の基を有する有機ホスホン酸誘導体から選択された」ものであるのに対し、引用例1に記載された発明では急結剤として「アルミン酸アルカリあるいはアルミン酸アルカリ及び炭酸アルカリの水溶液とリン酸塩、あるいは、リン酸塩と有機カルボン酸、又はその塩、水酸化カルシウム、アルカリ金属炭酸塩及び、又はアルカリ金属水酸化物を添加」するのみであるから、吹付け工法に適用されるコンクリート混合物に特定の安定剤を配合した点については両者は明確に相違する。また、引用例2には、コンクリートスラリーに混合されるミクロンシリカスラリーにおける陰イオン分散剤や多価陽イオン不純物をキレート剤によりキレートすることが記載されるが、吹付け工法に適用されるコンクリート混合物に特定の安定剤を配合した点について記載も示唆もないから、引用例2に記載された発明においても上記した点で本件第1発明と相違する。また、引用例3には、安定化剤としてヒドロキシ及びアミノ基を含有するホスホン酸誘導体を使用することは記載されているが、引用例3に記載された発明は、コンクリート残留物とスラリーを形成させてミキサー・トラックのドラムの中でコンクリートが硬化するのを防止して回収しようとするものであるから、そこに吹付け工法に適用されるコンクリート混合物に対して作業性を高めるために安定剤を使用しても、吹付け工法の適用に必要な急結性が確保できるようにした本件第1発明の技術思想を見い出すことはできない。また、引用例3に「回収したスラリーを新しいコンクリートに添加する」(前記記載事項(g))とあるが、「コンクリートの性質を損うことなしに新しいコンクリートと混合できる」(前記記載事項(g))と記載されるのみで、新しいコンクリートでの安定剤としての機能が果たせるものか明白であるとは云えず、また、新しいコンクリートを吹付け用のものと限定して、上記した技術思想までもあるとすることもできない。してみると、引用例3に記載された発明においても特定の安定剤を迅速な硬化が望まれる吹付け工法に適用されるコンクリート混合物に配合させる点で本件第1発明と相違していると云わざるを得ない。
そして、本件第1発明は、安定剤により長い作業時間が許容されるとともに、硬化促進剤の混入でいつでも活性化され得、吹付けコンクリートに用いられるという効果を奏するものと認められる。
したがって、引用例1〜3には、本件第1発明における構成の一部が記載されているにすぎず、また、本件第1発明の奏する効果は、引用例1〜3に記載されたものから予測し得ないものであるから、本件第1発明と引用例1〜3に記載された発明と同一であるとも、引用例1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとも認めることができない。
<本件第2〜8発明について>
本件第2〜8発明は、本件第1発明を更に限定したものであるから、前記本件第1発明について示した理由により、本件第2〜8発明と引用例1〜3に記載された発明と同一であるとも、引用例1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとも認めることができない。
<本件第9発明について>
本件第9発明は、本件第1発明の構成を主要部として含むものであるから、前記本件第1発明について示した理由により、本件第2〜8発明と引用例1〜3に記載された発明と同一であるとも、引用例1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとも認めることができない。
<本件第10発明について>
本件第10発明は、本件第1発明に更に限定を付したものであるから、前記本件第1発明について示した理由により、本件第2〜8発明と引用例1〜3に記載された発明と同一であるとも、引用例1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとも認めることができない
(4)特許法第36条第4項又は第5項及び第6項違反についての検討
本件特許明細書の記載不備については、本件訂正明細書の記載により明瞭なものとなり、該訂正明細書の記載により上記記載の不備は全て解消している。なお、鉱物性混和材料については、混和材料が一般に「セメント、水、骨材以外の材料で、練り混ぜの際に必要に応じてモルタルまたはコンクリートにその成分として加える材料」であって、その使用目的は「コンクリートの性質を改善したり、単位セメント量を減少させたり」するものであることは周知(「セメント・コンクリート用混和材料」技術書院、昭和61年発行参照)であり、鉱物性についても実施例に岩石塵が例示され、通常の意味において明らかであることから、鉱物性混和材料の意味するところが不明であるとまで云えない。

(5)まとめ
そして、他に本件第1〜10発明について、独立して特許を受けることができないとする理由は発見しない。
よって、本件第1〜10発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明であるとすることはできない。
II-4.結論
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.特許異議の申立てについて
III-1.本件発明
本件発明は、訂正明細書の請求項1〜10に記載されたとおりのものである。(前記II-3.(1)参照)
III-2.申立ての理由の概要
特許異議申立人は、訂正前の本件特許請求の範囲の下記の請求項に係る発明について、証拠として甲第1号証(特開平1ー257156号公報)、甲第2号証(特開昭62-270414号公報)、甲第3号証(国際公開公報 WO89/06640)、甲第4号証(特表平2-501824号公報)、甲第5号証(「セメントの実際知識」東洋経済新報社、昭和53年4月20日発行、114頁)を提出し(甲第1〜3号証は、それぞれ順に取消理由で引用された引用例1〜3に相当する。)、以下の理由により取り消されるべきものである旨主張している。なお、甲第4号証は、甲第3号証の国内公表公報であり、その訳文として提示されたものである。
(取消理由1)本件特許請求の範囲の請求項1〜3、11〜14に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する。
(取消理由2)本件特許請求の範囲の請求項3〜10、及び12に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当する。
(取消理由3)本件特許請求の範囲の請求項11〜13、及び15に係る発明は、特許法第36条第4項及び第5項の規定に該当する。
なお、平成14年6月12日付けで提出された訂正明細書により、請求項5、請求項8、請求項9、請求項10及び請求項12は削除された。
III-2.当審の判断
(1)取消理由1、2について
本件第1〜10発明と甲第1〜3号証とを対比すると、前記II-3.(3)の本件第1〜10発明について示した理由により、甲第1〜3号証に記載された発明であるとも、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。なお、特許異議申立人が提示した甲第5号証には、「遅延剤には、リグニンスルフォン酸塩系またはオキシカルボン酸塩系の減水剤で促進剤を含まないものが主として使用されている。遅延作用をもつものとしては、このほかにアルコール類、糖類、水溶性けいふっ化物を主体とするもの、などがある」(114頁12〜16行)との記載はあるが、そこに前記II-3.(3)の理由の「吹付け工法に適用されるコンクリート混合物に特定の安定剤を配合した点」について、何ら記載はされておらず、甲第5号証をもってしても上記した判断を覆すことはできない。
よって、本件第1〜10発明の特許は、特許法第29条第1項第3号もしくは同法第2項の規定に違反するものではない。
(2)取消理由3について
本件訂正明細書の記載については、前記II-3.(4)の項において述べたとおりであるから、特許異議申立人が指摘する不備について理由あるものとすることはできない。
なお、特許異議申立人は、鉱物性混和材料以外の混和材料や鉱物性混和材料の配合使用量について明細書に何ら記載されておらず、記載不備であると主張しているが、混和材料は前記II-3.(4)で記載したように周知のものであると共に、他の混和材料として減水性混和薬剤が例示されていることからみて、また、使用量についても好適な範囲とした旨の記載があることからみて、この主張を認めることができない。
よって、本件第1〜10発明の特許は、特許法第36条第4項又は第5項及び第6項の規定に違反するものでない。
IV.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜10に係る発明についての特許は、特許異議申立人の主張した理由及び証拠によって取り消すことはできない。
また、他に本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜10に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり 決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
改良ショットクリート組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも1種の安定剤を含み、前記安定剤がヒドロキシおよびアミノから選ばれた少なくとも1個の基を有する有機ホスホン酸誘導体から選択された、カルシウムイオンとキレートを形成し得る化学物質であるコンクリート混合物を、基質に吹付けることによる適用方法。
【請求項2】 吹付け時のコンクリート混合物がアルミン酸アルカリ、アルミン酸アルカリと炭酸カリウムとの混合物およびシリケートから選択された硬化促進剤により活性化される、請求項1記載の方法。
【請求項3】 コンクリート混合物が既製の(ready-made)コンクリートであり、湿式吹付けされる、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】 安定剤が乾式吹付け方法で使用される乾燥コンクリート混合物の一部である、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項5】 有機ホスホン酸誘導体がアミノトリ(メチレンホスホン酸)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム塩、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸4ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)カルシウム/ナトリウム塩、ヘキサメチレン-ジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)カリウム塩、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)ナトリウム塩から成る群から選ばれる、請求項1または2記載の方法。
【請求項6】 安定剤としてさらにグルコン酸またはその塩もしくはクエン酸またはその塩が使用される、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項7】 安定剤がセメントおよび鉱物性混和材料の0.1〜5.0重量%の割合で使用される、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項8】 硬化促進剤がセメントおよび存在する鉱物性混和材料の1〜25重量%を構成する、請求項2記載の方法。
【請求項9】 基質上に吹付けされるコンクリートであって、ヒドロキシおよびアミノから選ばれた少なくとも1個の基を有する有機ホスホン酸誘導体から選択された、カルシウムイオンとキレートを形成し得る化学的物質である安定剤を含むコンクリート。
【請求項10】 セメントを組成物の12〜20重量%、鉱物性混和材料を組成物の0.4〜2.5重量%、骨材を組成物の68〜80重量%、ヒドロキシおよびアミノから選ばれた少なくとも1個の基を有する有機ホスホン酸誘導体から選択された、カルシウムとのキレートを形成し得る化学物質である少なくとも1種の安定剤をセメント+鉱物性混和材料の0.1〜5.0重量%、鉱物性混和材料以外の混和材料をセメントの2.5重量%以下の割合で含み、最大含水率が10重量%である乾燥混合物吹付けコンクリート組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、コンクリート・ミックスの吹付け(スプレー)および吹付けに適用されるコンクリート・ミックスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
湿式吹付け方法によるコンクリートのスプレー・プロセスでは、ポンピング可能なコンシステンシーの既製のコンクリート・ミックスは、ポンピングまたは気送的運搬により管またはホース線を通ってノズルへ運ばれる。ノズルにおいて、圧搾空気が導入された結果、固められたコンクリート・ストランドが粉砕されてノズルから押し出され、基質上へスプレーされ得る。このスプレーされたコンクリートの迅速な凝固または硬化は、硬化活性剤をコンクリートへ導入することにより達成され得る。前記硬化活性剤は、特別な投入装置を使用するか、またはそれを圧搾空気に含ませることにより加えられ得る。
部分的または完全硬化コンクリートでラインが詰まるのを回避するためには、作業の中断毎にそれらを空にし、掃除しなければならない。このため、特にコンクリートの湿式吹付けの場合、用途はごく僅かに限られてしまう。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
乾式吹付け方法では、セメント、骨材並びに所望による混和材料およびブレンド剤から成る乾燥ミックスをスプレーし、それをノズルにおいて水で湿らせる。骨材はそれ自体の湿り気(約2〜6%)を有するため、水は乾燥ミックスに混入され、セメントを予め水和する。従って、スプレーされたコンクリートを満足すべき形で適用するためには、通常、加工処理時間は約1.5時間を越えるべきではない。しかしながら、特に復旧作業中、斜面の保護時または大量のスプレー作業中には、事実上、不測の作業中断が生じ得る。この結果、作業時間は数時間にもなり得るため、質が著しく低下し、乾燥ミックスが全く使用され得なくなる。
従って、湿式吹付けコンクリートおよび乾式吹付けコンクリートの両方について、他のコンクリート・ミックスで使用される慣用的遅延剤では、凝固に対するそれらの影響が多大過ぎるという恐れがあることから、未だ解決されていない問題が存在する。
【0004】
【課題を解決するための手段】
この発明により、ある種の安定剤を吹付けコンクリートへ混入することにより、これまでより長い作業時間が達成され得るため、作業に対する数時間に及ぶ中断でも許容され得ることが見出された。それにもかかわらず、安定化されたコンクリート・ミックスは、常用硬化促進剤の混入によっていつの時点でも活性化され得、吹付けコンクリートを損ない得る圧縮強度を伴わずに通例の方法でスプレーされ得る。いかなる中断の間でも、何らかの清掃または注意は全く必要とされない。さらに、乾式吹付け方法の場合、反発弾性およびダスト形成の結果として、およびそれらが改良(低減化)された場合でも損傷作用は存在せず、供給管が閉塞する危険の増大は回避される。
【0005】
【発明の構成】
従って、この発明は、カルシウムとのキレートを形成し得る少なくとも1種の化学的化合物を含むコンクリートの吹付け方法を提供する。前記化学的化合物は、コンクリート混合物を安定化させ、かつその凝固時間を遅らせ、コンクリートの湿式および乾式スプレーの両方で使用され得る。以後、これらの化学的化合物を「安定剤」と記載する。コンクリート混合物は、吹付け段階で添加され得る慣用的硬化促進剤により活性化され得る。
遅延剤としても作用する安定剤は全て、カルシウムとのキレート形成能力を有し、この必要条件に応じる化合物は全て、この発明の目的に適う安定剤である。好ましい安定剤が属する若干のタイプが存在する。これらのタイプの一つは、ヒドロキシまたはアミノ基を有するホスホン酸誘導体の種類である。前記物質の好ましい一群は、モンサント・カンパニーにより「デクェスト」という商標名で市販されている一連の化合物である。代表的「デクェスト」化合物のリストをそれらの化学名と共に下記に示す。
-「デクェスト」2000:アミノトリ(メチレンホスホン酸)、
-「デクェスト」2006:アミノトリ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム塩、
-「デクェスト」2010:1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、
-「デクェスト」2016:1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸4ナトリウム塩、
-「デクェスト」2041:エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、
-「デクェスト」2047:エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)カルシウム/ナトリウム塩、
-「デクェスト」2051:ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、
-「デクェスト」2054:ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)カリウム塩、
-「デクェスト」2060:ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)
-「デクェスト」2066:ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)ナトリウム塩。
これらのホスホン酸基剤の安定剤の2種またはそれ以上の混合物の使用も許容され得る。
このキレート形成機能を遂行し、この発明の作業において有用な安定剤の他の種類には、次のものが含まれる。
-ヒドロキシカルボン酸およびそれらの塩類、例えばサリチル酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸、酒石酸、ムコン酸およびグルコヘプタン酸、
-ポリカルボン酸およびそれらの塩類(ポリマー酸を含む)、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、マロン酸およびフタル酸並びにポリアクリル酸、ポリメタクリル酸およびポリフマル酸、好ましくは低分子量の重合酸、
-酸化防止剤、例えばアスコルビン酸およびイソアスコルビン酸、
-ポリマー、例えばスルホン酸基およびポリヒドロキシシランを含むアクリル酸コポリマー、これらのポリマーは、好ましくは低分子量である、
-アルドースおよびケトース、例えば糖およびコーンシロップおよびリグノスルホン酸塩、例えばリグノスルホン酸カルシウム、
-無機錯化(コンプレキシング)剤、例えばホスフェートおよびボレート、
-有機錯化剤、例えばEDTAおよびNTA、並びに
-ゼオライト。
また、これらの安定剤の2種またはそれ以上の混合物の使用も許容され得る。このタイプの好ましい安定剤は、ヒドロキシカルボン酸、ポリホスフェート、ピロホスフェートおよびそれらの混合物である。
好ましい安定剤は、少なくとも1種のホスホン酸誘導体および少なくとも1種の他の安定剤を含む混合物である。またホスホン酸誘導体の群に属しない安定剤の多くは減水性を有するため、これらもまた、硬化コンクリートの圧縮強度を増加させる。代表的組み合わせは、ホスホン酸誘導体とグルコン酸またはその塩である。
特に好ましい安定剤は、先に列挙したホスホン酸誘導体の1つとクエン酸またはその塩、特にアミノトリ(メチレンホスホン酸)およびクエン酸またはその塩との混合物である。上述のホスホン酸誘導体対クエン酸の好ましい割合は、1:1〜2:1である。
【0006】
この発明で使用され得る硬化促進剤は、吹付けコンクリートで常用されている生成物である。すなわち、アルミン酸アルカリ塩およびそれらの炭酸カリウムとの混合物並びにシリケート、例えば珪酸ソーダは、別の活性剤を追加使用せずともセメントの水和を開始させ得、続いて吹付け(スプレード)コンクリートが迅速に硬化する。使用量は、いつもと同じく多くの周辺条件に左右され、セメント重量の1.0ないし25%、好ましくは3-10%の範囲で変化する。乾式吹付け方法の場合の量は、結合剤(セメントまたはセメント+鉱物性混和材料)の約6重量%であり、湿式吹付けの場合約8重量%である。
【0007】
コンクリート・ミックスの重量%として表した、この発明による方法で使用される安定剤および硬化促進剤の量は、熟練者がよく知っている様々な因子により異なる。これらは下記の因子を含む。
1)使用される安定剤および活性剤の処方。
2)所望の遅延持続時間(通常2-18時間(一夜)、72時間以下(週末)の場合も多い)。
3)セメントのタイプ。ASTMタイプI-Vが使用され得るが、タイプIおよびIIが好ましい。セメント含有率に加えて、鉱物性混和材料の含有率も考慮される。
4)コンクリート・ミックスを製造し、安定剤を加える間の時間。コンクリート・ミックスが新鮮なコンクリートの必要とされる特性をまだ有している場合、安定剤はコンクリート・ミックスの未使用部分に添加され得る。安定剤は、好ましくはミックス製造後最大1.5時間以内に加えられる。この時間間隔が長いと、多くの安定剤が要求される。
5)コンクリート・ミックスの温度。温度が高い場合、ミックスは急速に硬化するため、安定剤もさらに多く必要とされる。さらに急速に硬化するため、20℃より高温でコンクリート・ミックスの製造後1時間以内に安定剤を加えるべきである。
この発明で使用される安定剤は、一般的にセメントおよび鉱物性(無機)混和材料が存在すればその重量の0.1〜5.0%、好ましくは0.4〜2.0%の比率で使用される。
【0008】
また、他の混和材料もコンクリートに加えられ得る。前記混和材料の特に有用な種類は、減水性混和材料の種類である。ASTM C494において「タイプA混和材料」と命名されたものが好ましい。これらの減水性薬剤は、それ自体重要な遅延または促進特性をもたない。このような製品は、マスター・ビルダーズ・インコーポレイテッドから「ポッゾリス・ポリヒード(Pozzolith Polyheed)」という商標名およびMBTから「レオビルド(Rheobuild)」1000という商標名で販売されている。前記混和材料は、一般的にセメントおよび所望により加えられ得る鉱物性混和材料の2.5重量%以下の比率で使用される。
この発明によるコンクリート・スプレー方法は、慣用的装置および技術を用いて実施され得る。この発明の有用な特徴は、ノズルにおいて水を加えるだけでよい乾式スプレー用混合物を提供し得ることである。従って、この発明は、セメントを組成物の12〜20重量%、鉱物性混和材料を組成物の0.4〜2.5重量%、骨材を組成物の68〜80重量%、カルシウムとのキレートを形成し得る化学的化合物である少なくとも1種の安定剤をセメント+鉱物性混和材料の0.1〜5.0重量%、鉱物性混和材料以外の混和材料をセメントの2.5重量%以下の割合で含み、最大含水率が10重量%である乾燥混合物吹付けコンクリート組成物を提供する。
【0009】
【実施例】
以下、実施例によりこの発明をさらに詳しく説明する。パーセンテージは重量に基づくものであり、温度は摂氏である。
実施例1(湿式スプレード・コンクリート)
使用されたコンクリート吹付け機は、40mのホース線(直径5cm)を有する「グニ」48コンクリート・ポンプ(例、ターボゾール)である。吹付けコンクリートは、ポルトランドセメント、水、および粒サイズ0/4mm、ふるいラインBおよび高含有率の微粒子サイズを有する骨材から成るコンクリート・ミックスである。水/セメント割合は約0.56であり、スランプは約60cmである。安定剤は、12.8%アミノトリ(メチレンホスホン酸)および8%クエン酸を含む水溶液であり、硬化促進剤は、アルミン酸ナトリウムおよび炭酸カリウムを含む水溶液(MBTによる「バラ・ガナイト」F96)である。
ポンプおよびホース線におけるコンシステンシーについて調合済みのコンクリートを試験するため、下記組成:
ポルトランド・セメント375 450部
岩石塵 50部
砂0/1 680部
砂1/4 1000部
安定剤 9部
水 261部
から成るコンクリート・ミックスを、コンクリート・ミキサーで混合し、ポンプに充填し、円形作動でポンプを稼動させ、ポンプを長期間停止した後、再び開始し、コンクリート・コンシステンシー、ポンプ圧力およびコンクリート温度を測定する。
試験の開始時から最後まで(5時間後)、ポンプ圧は同じ10バールのままである。ポンプでのコンクリートの温度は4時間にわたって一定で12°であり、日の当たる位置にあるホースでの温度は16°に上昇する。コンシステンシー(フローテーブルで測定)は62cmから最初の1時間で1cm下って61cmになり、さらに1.5時間後56cmまで垂下するが、これはポンプ圧には影響を全く与えない。コンクリート・ミックスに新鮮なコンクリートを補充することにより、コンシステンシーは再び62cmに増加し、さらに2.5時間以内に58cmに下がる。
硬化促進剤(セメント重量に対し8%)を加えて類似組成の工業的混合コンクリートをスプレーする場合、安定剤がセメント重量の2%という比較的高い用量で使用されるにも拘わらず、この混合物は安定剤を使用しないコンクリートと同様の強度を有することが確立された。すなわち、数時間以内におけるこのシステムの反応性(reactability)は、古くなるほど反応性が衰える従来の吹付けコンクリートとは対照的に、コンクリートが製造されてからの時間の長さとは無関係である。
【0010】
実施例2(乾式スプレー方法)
400部のポルトランド・セメント375および1850部の骨材(粒サイズ0/8、ふるいラインB、湿度5%)から乾燥ミックスを製造し、混合容器中で混合している間、実施例1と同様の安定剤をセメント塊の1.3%(すなわち5.2部)の量で加える。混合を5分間続行し、2つのミックスを比較する。6%「バラ・ガナイト」LL硬化促進剤(アルミン酸塩を基剤とする市販の粉末タイプのガナイト)を用い、一方は製造16時間後にスプレーし、他方は製造の1時間後にスプレーする。強度は、吹付けコンクリートの実践における普通の値に対応する。短期間および長期間貯蔵されたミックス間での差異は、全く確立され得ない。16.5時間の加工処理時間における7日および28日後の圧縮強度は、1時間貯蔵した場合よりも高かった。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
本件訂正の要旨は、本件特許第2812562号発明の明細書を平成14年6月12日付け訂正請求書に添付された全文訂正明細書のとおり、すなわち、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的として、次の訂正事項a乃至rのとおり訂正するものである。
訂正事項a:特許請求の範囲請求項1において、「前記安定剤が」と「カルシウムイオン」の間に「ヒドロキシおよびアミノから選ばれた少なくとも1個の基を有する有機ホスホン酸誘導体から選択された、」を挿入する。
訂正事項b:特許請求の範囲請求項2において、「混合物が」と「硬化促進剤」の間に「アルミン酸アルカリとアルミン酸アルカリと炭酸カリウムとの混合物およびシリケートから選択された」を挿入する。
訂正事項c:特許請求の範囲請求項5を削除する。
訂正事項d:特許請求の範囲請求項6において、「請求項6」を「請求項5」に、「ホスホン酸誘導体」を「有機ホスホン酸誘導体」に、「請求項5」を「請求項1または請求項2」に訂正する。
訂正事項e:特許請求の範囲請求項7において、「請求項7」を「請求項6」に、「安定剤が」を「安定剤としてさらに」に、「無機および・・・選ばれる」を「グルコン酸またはその塩もしくはクエン酸またはその塩が使用される、」に訂正する。
訂正事項f:特許請求の範囲請求項8及び9を削除する。
訂正事項g:特許請求の範囲請求項10を削除する。
訂正事項h:特許請求の範囲請求項11において、「請求項11」を「請求項7」に、「無機」を「鉱物性」に訂正する。
訂正事項i:特許請求の範囲請求項12を削除する。
訂正事項j:特許請求の範囲請求項13において、「請求項13」を「請求項8」に、「無機」を「鉱物性」に訂正し、「または請求項9」を削除する。
訂正事項k:特許請求の範囲請求項14において、「請求項14」を「請求項9」に、「化学的物質」を「化学物質」に訂正し、「あって、」と「カルシウム」の間に「ヒドロキシおよびアミノから選ばれた少なくとも1個の基を有する有機ホスホン酸誘導体から選択された、」を挿入する。
訂正事項l:特許請求の範囲請求項15において、「請求項15」を「請求項10」に、「化学的化合物」を「化学物質」に訂正し、「80重量%、」と「カルシウム」の間に「ヒドロキシおよびアミノから選ばれた少なくとも1個の基を有する有機ホスホン酸誘導体から選択された、」を挿入する。
訂正事項m:明細書段落【0005】の「ホスホネート」(特許公報明細書3頁5欄39〜40行)を「ホスフェート」に訂正する。
訂正事項n:明細書段落【0005】の「水還元特性」(特許公報明細書3頁5欄末2行)を「減水性」に訂正する。
訂正事項o:明細書段落【0006】及び【0007】の「無機」(特許公報明細書3頁6欄35行及び47行)を「鉱物性」に訂正する。
訂正事項p:明細書段落【0006】及び【0009】の「カリ」(特許公報明細書3頁6欄28行及び4頁8欄1行)を「炭酸カリウム」に訂正する。
訂正事項q:明細書段落【0008】の「水還元特性」(特許公報明細書4頁7欄14行及び17行)を「減水性」に訂正する。
訂正事項r:明細書段落【0008】の「鉱物性混和材料を」(特許公報明細書4頁7欄32行)を「鉱物性混和材料の」に訂正する。
異議決定日 2002-07-31 
出願番号 特願平3-25430
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C04B)
P 1 651・ 532- YA (C04B)
P 1 651・ 113- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 徳永 英男  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 西村 和美
唐戸 光雄
登録日 1998-08-07 
登録番号 特許第2812562号(P2812562)
権利者 エムビーティ・ホールディング・アクチエンゲゼルシャフト
発明の名称 改良ショットクリート組成物  
代理人 青山 葆  
代理人 田村 恭生  
代理人 鈴木 定子  
代理人 田村 恭生  
代理人 青山 葆  

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