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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 B01J |
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管理番号 | 1067551 |
異議申立番号 | 異議2002-71266 |
総通号数 | 36 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-05-06 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-05-13 |
確定日 | 2002-10-21 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3231228号「イオン交換樹脂塔の再生方法」の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3231228号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯・本件発明 本件特許第3231228号(平成7年10月24日出願、平成13年9月14日設定登録)の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】イオン交換樹脂塔入口に酸再生剤又はアルカリ再生剤を供給すると共にイオン交換樹脂塔出口から再生廃液を取り出すことによりイオン交換樹脂塔の再生を行なうイオン交換樹脂塔の再生方法において、再生剤をイオン交換樹脂塔入口に供給すると共にその出口から再生廃液を取り出しながら再生廃液のpHを測定し、再生剤のpHを基準としてその所定範囲に再生廃液のpHが到達したら再生剤の供給を停止することを特徴とするイオン交換樹脂塔の再生方法。 【請求項2】イオン交換樹脂塔入口に酸再生剤又はアルカリ再生剤を供給すると共にイオン交換樹脂塔出口から再生廃液を取り出すことによりイオン交換樹脂塔の再生をおこなうイオン交換樹脂塔の再生方法において、再生剤をイオン交換樹脂塔入口に供給すると共にその出口から再生廃液を取り出しながら再生廃液のpHを測定し、再生剤のpHを基準としてその所定範囲に再生廃液のpHが到達したら再生剤の供給を停止し、次いでイオン交換樹脂塔に押し出し水を供給することにより再生剤をイオン交換樹脂塔から回収することを特徴とするイオン交換樹脂塔の再生方法。 2.特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証及び甲第2号証及び参考資料1〜3を提出し、本件発明1及び2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明についての特許は、取り消されるべきものであると主張している。 3.証拠の記載内容 特許異議申立人が提出した甲第1号証及び甲第2号証及び参考資料1〜3には、それぞれ次の事項が記載されている。 甲第1号証(「イオン交換樹脂 =基本操作と応用=」有限会社廣川書店、昭和31年10月25日再版発行、第17〜29頁) (1-a)「3.カラム操作法(Column operation) イオン交換樹脂を物質の分離、・・・等の目的で使用する際、最も必要となってくる基本操作であって、・・・カラム ガラス管などの中に吸着媒をつめて作った円柱形の層をカラム(column)と呼ぶ。・・・ここでは、イオン交換樹脂をつめたカラムについて・・・説明する。」(第21頁17〜26行) (1-b)「再生、洗浄、Conditioning 厳密には、普通の陽(陰)イオン交換体の交換基についているイオンをH+(OH-)に戻すこと、すなわち、遊離の酸または塩基の形にすることが再生(regeneration)の本来の意味であるが、普通には実験をはじめる時必要な形に持ってくる操作を広く再生と呼んでいる。・・・種々の分析を行う際、再生したカラムは蒸留水等で十分洗浄して、液相に全くイオンを含まぬ状態にしておくのが普通である。」(第25頁16行〜22行) (1-c)「最後にカラムを再生する。すなわち、ネスラー試薬などで流出液中にNH4+が検出されなくなるまで、カラムに2〜4N塩酸を通して、H形にもどし、水洗して次の操作に移る。 樹脂の形を変える際、完全に変わったかどうかを知るのに、鋭敏な検出法を併用すれば便利なことが多い。参考までに数例をあげると次の通りである。」(第27頁12〜16行) (1-d)第27頁下の表(以下、「表」という)には、試薬がNaOH、H2SO4のときの完全に変わった点の判定法として、それぞれフェノールフタレン、中和滴定の指示薬(酸性側で変色するもの)と記載される。 甲第2号証(「イオン交換樹脂」学術図書出版社、昭和27年8月30日第3版発行、第256〜259頁) (2-a)「最高能力とは、完全再生状態に於ける全イオン交換能力であり、」(第256頁12行) (2-b)「最高能力の測定 カチオン交換性合成樹脂(KH・I)1.338gを0.5N-NaOHに一昼夜浸漬し、蒸留水にて大体水洗し濾過円筒に充填する。之を更に蒸留水にて充分洗浄して、流出液中にアルカリを認めなくなるに至らしむ。之に0.4N-HClを通じ(流速=1.0cc/g/min)メスフラスコにて流出液100ccを正確に採取し(以後の流出液は原液と同濃度のHClを有す)、原液と流出液に就きHClとClの定量を行って次の結果を得た。原液 H+(meq/100.00cc) 41.06 Cl′(meq/100.00cc)41.1 流出液 H+(meq/100.00cc) 34.43 Cl′(meq/100.00cc)39.4」(第258頁9〜17行) 参考資料1(「高等学校 化学」新興出版社啓林館、昭和57年12月10日発行、第214〜223頁) (a)「酸塩基指示薬 BTB(ブロモチモールブルー)やフェノールフタレインのような色素は、溶液のpHによってそれらの分子構造が変わり、その色素の種類に特有なpHの変色域内では、色が徐々に変化する。したがって、適当な色素を利用すれば、溶液のpHを知ることができる。このように、溶液のpH変化によって呈色が異なる色素を、酸塩基指示薬という。酸・塩基の中和の際に用いるフェノールフタレインやメチルオレンジなどは、この例である。」(第222頁10〜17行) 参考資料2(「イオン交換樹脂 その技術と応用」オルガノ株式会社、昭和61年5月16日改訂版発行、第78〜81,86〜87頁) (a)「Aイオン、Bイオンの2種類のイオン価の等しいイオンの間で、式(1.45)に表されるようなイオン交換反応が行われるものとする。A+R-B→/←B+R-A・・・(1.45)(R-はイオン交換樹脂の母体を表わす)」(第79頁下1行〜第80頁3行) 参考資料3(「ダイヤイオン イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル〔I〕基礎編」三菱化成株式会社、平成4年6月1日発行、第34〜35行、第86〜87行) (a)「(2)再生(Regeneration)再生剤を樹脂塔上部から下部の方に流します(向流再生方式では下部から上部へ向けて再生剤を流すこともあります)。再生剤の量は樹脂の種類、処理目的、要求される水質等で異なり一定ではありません。再生液が樹脂層中を均一に分散して流れ、しかも樹脂との接触時間が長いことが理想的ですが、通液が途中で止まることは好ましくはありません。再生が終了したら通液を止め、次の押出し工程に移ります。 (3)押出し(Displacement of Regenerant)樹脂層中に残留した未反応の再生液を充分に利用するために再生に引続き再生と同じ要領で、樹脂塔上部から再生と同じ流速で水を流し残留再生液を押出します。」(第86頁17〜27行) 4.特許異議申立に対する当審の判断 (1)本件発明1について 上記(1-a)乃至(1-d)の記載及び表を参酌すると、甲第1号証の「イオン交換樹脂をつめたカラム」が(1-a)から分かるようにイオン交換樹脂をつめて作った円柱形の層の構造を有することから「イオン交換樹脂塔」といえ、上記(1-b)、(1-c)及び表の記載からすると、そこには、カラムの再生について、イオン交換樹脂塔を再生剤(HCl、NaOH等の酸やアルカリ)を通して再生すること、及びH形への再生はネスラー試薬(指示薬)で流出液のNH4+(交換基についているイオン)が検出されなくなるまで行われる」ことが記載されているものといえるので、甲第1号証には、「イオン交換樹脂塔に酸再生剤又はアルカリ再生剤を供給してイオン交換樹脂塔の再生を行う場合に、流出液中に交換基についているイオンが指示薬により検出されなくなるまで該再生剤を通して行うイオン交換樹脂塔の再生方法」の発明(以下、「甲第1発明」という。)が記載されていると云える。 そこで、本件発明と甲第1発明とを対比すると、甲第1発明の「流出液」は、本件発明1の「再生廃液」に相当するものであるから、両者は、 「イオン交換樹脂塔入口に酸再生剤又はアルカリ再生剤を供給すると共にイオン交換樹脂塔出口から再生廃液を取り出すことによりイオン交換樹脂塔の再生を行なうイオン交換樹脂塔の再生方法において、再生剤をイオン交換樹脂塔入口に供給すると共にその出口から再生廃液を取り出しながら再生を行」う点で一致するものの、次の点で相違していると云える。 相違点(イ):本件発明1は「再生廃液のpHを測定し、再生剤のpHを基準としてその所定範囲に再生廃液のpHが到達したら再生剤の供給を停止する」ものであるのに対し、甲第1発明は「流出液中に交換基についているイオンが指示薬により検出されなくなるまで該再生剤を通して行う」ものである点 次に、この相違点(イ)について他の証拠に基づいて検討する。 甲第2号証の上記(2-a)、(2-b)の記載からみて、甲第2号証には完全再生状態に於ける全イオン交換能力の測定に際し、飽和したカチオン交換性合成樹脂を0.4NーHClで再生処理して流出液を採取すること、以後の流出液と原液とは同濃度のHClを有することが記載されているといえる。しかしながら、甲第2号証のものは、再生剤の制御に関して何ら記載されておらず、「以後の流出液と原液とは同濃度のHClを有すること」も採取以後の流出液と原液の濃度の状況を言い表しているに過ぎないものであり、さらに、定量分析結果の原液と流出液のH+はそれぞれ41.06と34.43であることから必ずしもpHが同じともみることもできない。してみると、甲第2号証に上記相違点(イ)についての記載がなされているということはできない。 また、参考資料1については、酸塩基指示薬の一般的な開示であり、参考資料2についてもイオン交換樹脂の可逆イオン交換反応の記載があり、参考資料3についても再生後水により残留再生液を押出すことの記載があるものの、上記相違点(イ)については何ら記載されていない。 なお、特許異議申立人は、この相違点(イ)に関し、「このように再生剤のpHを基準としてその所定範囲に再生廃液のpHが到達するかどうか判定することは甲第1号証に記載される」旨主張(申立書第8頁10〜12行)している。しかしながら、甲第1発明は前記したとおり、再生してイオン交換体の交換基についているイオンを「ネスラー試薬」((c))や「フェノールフタレンや中和滴定の指示薬(酸性側で変色するもの)」(表)で検出しようとするものである、即ち「再生時に交換基についているイオンが遊離されて検出されなくなる」時点を判定基準としているのに対し、本件発明1では「再生廃液のpHを測定し、再生剤のpHを基準としてその所定範囲に再生廃液のpHが到達」することを判定するものであって、甲第1発明の判定基準が本件発明1の再生剤のpHを判定基準にするものと同じであるとすることはできないことから、この主張を採用することはできない。 そして、本件発明1は、イオン交換樹脂塔を再生するに当り、再生廃液のpHを測定し、再生剤のpHを基準としてその所定範囲に再生廃液のpHが到達したら再生剤の供給を停止することにより、残留交換容量の正確な予測が困難であるという問題を解決し、再生に用いられる再生剤量を削減できるという明細書記載の効果を奏するものであり、かかる効果についても甲第1、2号証には何も示唆されていない。 してみると、本件発明1の上記相違点は、甲1,2号証の記載からは到底想到することができないと云うべきである。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1を更に限定して、再生剤の供給を停止した後、イオン交換樹脂塔に押し出し水を供給することにより再生剤をイオン交換樹脂塔から回収するものであるので、更に限定した部分を判断するまでもなく、前記本件発明1で検討したと同じ理由により、本件発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1及び2の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1及び2の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-09-30 |
出願番号 | 特願平7-275304 |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(B01J)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 目代 博茂 |
特許庁審判長 |
大黒 浩之 |
特許庁審判官 |
岡田 和加子 唐戸 光雄 |
登録日 | 2001-09-14 |
登録番号 | 特許第3231228号(P3231228) |
権利者 | オルガノ株式会社 |
発明の名称 | イオン交換樹脂塔の再生方法 |
代理人 | 金田 暢之 |
代理人 | 伊藤 克博 |
代理人 | 石橋 政幸 |