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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B |
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管理番号 | 1067568 |
異議申立番号 | 異議2002-70282 |
総通号数 | 36 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1999-10-05 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-02-06 |
確定日 | 2002-11-05 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3195302号「炭素系被膜を有する基材の作製方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3195302号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3195302号の請求項1〜4に係る発明についての出願は、平成1年2月16日に特許出願した特願平1-36896号の一部を平成11年2月1日に新たな特許出願とし、平成13年6月1日にその特許権の設定登録がなされ、その後、平成14年2月6日に特許異議申立人西田穣(以下、「申立人」という)より特許異議の申立てがなされたものである。 2.本件発明 本件の請求項1〜4に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次の通りのものである。 「【請求項1】 不活性気体を用いて、下地基材の表面をクリーニングし、前記表面上に接して第一の被膜を形成し、前記第一の被膜の上に、プラズマCVD法により、反応温度150〜350℃で炭素又は炭素を主成分とする膜を形成することを有し、前記第一の被膜の内部応力は、前記炭素又は炭素を主成分とする膜の内部応力よりも小さいことを特徴とする炭素系被膜を有する基材の作製方法。 【請求項2】 請求項1において、前記下地基材に負のセルフバイアス電圧をかけて、前記炭素又は炭素を主成分とする被膜を形成することを特徴とする炭素系被膜を有する基材の作製方法。 【請求項3】 請求項1又は2において、前記第一の被膜は窒化珪素被膜であることを特徴とする炭素系被膜を有する基材の作製方法。 【請求項4】 請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の下地基材において、クリーニングする前は酸化物表面を有することを特徴とする炭素系被膜を有する基材の作製方法。」 3.特許異議申立ての理由の概要 申立人は、下記の甲第1〜3号証を提出して、本件発明1、2、4は甲第1、2号証に記載された発明に基づき容易に発明することができ、また本件発明3は甲第1〜3号証に記載された発明に基づき容易に発明することができたものであるから、本件発明1〜4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものであると主張している。 甲第1号証:特開昭62-157602号公報 甲第2号証:特開昭60-70178号公報 甲第3号証:特開昭56-41372号公報 4.甲各号証刊行物について 申立人が提示した甲各号証には、以下のような事項が記載されている。 (1)甲第1号証 (1-a)「1 プラズマまたはイオンを用いた製膜方法により金属基板上に堆積させたIVA族元素を0.01〜20atm%含む硬質カーボン膜。……… 8 硬質カーボン膜が10〜5000Åの厚さで、さらにその上にIVA族元素を実質的に含まないカーボン膜が形成される膜である特許請求の範囲第1項、第2項、第3項、第4項、第5項、第6項または第7項記載の硬質カーボン膜。 9 硬質カーボン膜がダイヤモンドまたはダイヤモンド状炭素からなる………硬質カーボン膜。」(特許請求の範囲第1〜9項)、 (1-b)「プラズマCVDなどの方法により、ダイヤモンド、ダイヤモンド状炭素、i-カーボンなどからなる高硬度のカーボン膜が合成され………ダイヤモンド状炭素とは、ダイヤモンドとアモルファスカーボン、ダイヤモンドとグラファイトあるいはダイヤモンドとグラファイトとアモルファスカーボンとが混合している膜のことである。」(第2頁左上欄第13行〜第2頁右上欄第2行) (1-c)「このようにして製造される高硬度のカーボン膜は、内部応力が大きく、基板に対する選択性がある」(第2頁右上欄第9〜11行)、 (1-d)「SUS、Al、Al合金……の基板に対しては内部応力が大きく、付着力が小さく、剥離が起こったりして寿命が短くなるなどの問題がある」(第2頁右上欄第14〜17行)、 (1-e)「本発明は、この剥離の問題を解決し、付着力を大きくし、内部応力を減少させること、さらに硬質カーボン膜の堆積速度を増加させることを目的としてなされたものである。」(第2頁左下欄第3〜6行)、 (1-f)「前記IVA族元素としては、シリコン………これらは膜中に2種以上含有されていてもよい。これらはいずれも膜の内部応力を緩和し、金属に対する付着性をよくするなどの働きをする。」(第3頁左上欄第2〜6行)、 (1-g)「本発明の硬質カーボン膜の前記IVA族元素以外の成分としては、従来の高硬度のカーボン膜を形成する成分である炭素、水素、膜表面にある酸素などがあげられ………程度である。」(第3頁右上欄第14〜20行)、 (1-h)「また本発明の硬質カーボン膜をSUSのごとき金属基板状に……厚さで形成し、そらにその上にIVA族元素を実質的に含まないカーボン膜を形成して中間層として用いてもよい。このばあいには付着力の大きい中間層の働きで、金属基板および実質的にIVA族元素を含まないカーボン膜を付着性よく形成できるという効果がえられる。」(第3頁右下欄第9〜16行)、 (1-i)「製膜を通常のプラズマCVD法で行なってもよいが、基板をカソードに設置し、基板にさらに-300V〜-1KVの電圧を印加した………硬度も電気抵抗率も大きくなり好ましい。」(第4頁右上欄第18行〜同頁左下欄第3行) (1-j)「本発明の硬質カーボン膜の製膜条件としては、たとえばCH4 1〜50SCCM、SiH4 0.01〜1SCCM、……基板温度 室温〜400℃、印加電圧-200V〜-1KV、……DCプラズマCVDのごとき条件や、CH4 1〜50SCCM、GeH4 0.01〜1SCCM、……基板温度 室温〜500℃、印加電圧-300V〜-2KV、電流 0.14〜6mA/cm2のDCプラズマCVD法のごとき条件が例示されうる。」(第4頁左下欄第15行〜同頁右下欄第4行) (1-k)「作製した膜中のシリコン含量は第1表のとおりであった。えられた膜について膜中のシリコン含量とビッカース硬度、付着力、内部応力のそれぞれとの関係を測定した結果をそれぞれ第4図〜第6図に示す。」(第6頁第右下欄最終行〜第7頁左上欄第5行、第4図〜第6図) (2)甲第2号証 (2-a)「第1図に上記硬質カーボン膜を形成する方法の一例としてプラズマCVD法による場合の装置例の概略を示す。図において、……… 次に、基板3に高圧電源4により負の高電圧(-1〜-3kV)を印加してAr+イオンによるスパッタクリーニングを10〜30分間行ない、基盤クリーニングを終了する。」(第2頁左上欄第3行〜同頁右上欄第3行) (3)甲第3号証 (3-a)「周期律表の4a、5a、および6a族の金属、Si、およびAlの炭化物、窒化物、酸化物、および硼化物、並びにこれら2種以上の固溶体からなる群のうちの1種の単層または2種以上の多重層からなる被覆層を有する表面被覆超硬質合金部材の表面に、耐摩耗性にすぐれた透明ないし半透明の蒸着炭素からなる層厚0.1〜5μmの被覆層を形成したことを特徴とする切削工具用表面被覆超硬質合金部材。」(特許請求の範囲) (3-b)「従来、例えばWC基超硬合金部材、TiC基焼結合金部材、およびTiN基焼結合金部材など(以下これらを総称して超硬質合金部材という)の表面に、通常の化学蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、プラズマ化学蒸着法などにより、周期律表の4a、5a、および6a族の金属、Si、およびAlの炭化物、窒化物、酸化物、および硼化物、並びにこれら2種以上の固溶体からなる群のうちの1種の単層または2種以上の多重層からなる層厚0.5〜20μmの被覆層を形成した表面被覆超硬質合金部材が鋼材、および鋳鉄などの重切削に切削工具として使用されていることはよく知られているところである。」(第1頁右下欄第3〜15行) 5.当審の判断 (1)本件発明1について 甲第1号証の「金属基板」(摘示記載(1-a))、「IVA族元素を0.01〜20atm%含む硬質カーボン膜」(摘示記載(1-a))、および「IVA族元素を実質的に含まない硬質カーボン膜(摘示記載(1-a)、(1-h))」は、それぞれ本件発明1の「下地基材」、「第一の被膜」、「炭素又は炭素を主成分とする膜」に相当するものと認められる。 したがって、本件発明1と甲第1号証の発明は、下地基材表面上に接して第一の被膜を形成し、前記第一の被膜上にプラズマCVD法により炭素又は炭素を主成分とする膜を形成してなる炭素系被膜を有する基材の作製方法である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点a.本件発明1は、下地基材の表面を不活性気体を用いてクリーニングしているが、甲第1号証には該クリーニングを行うことについては記載されていない点。 相違点b.本件発明1は、プラズマCVD法による反応温度を150〜350℃と特定しているが、甲第1号証の発明ではそのような特定をしていない点。 相違点c.本件発明1では、第一の被膜の内部応力は、炭素又は炭素を主成分とする膜の内部応力よりも小さいと特定しているが、甲第1号証の発明ではそのような特定をしていない点。 上記相違点について検討する。 (相違点aについて) 甲第2号証には、硬質カーボン膜を下地基材上に蒸着させるプラズマCVD法の前処理として、不活性ガスを用いて下地基材の表面クリーニングを行うことが記載(摘示記載(2-a))されており、このようなことは、本件特許明細書に記載されているように「下地基材によっては、プラズマクリーニングが必要である」(段落【0010】)程度のものであり、当業者であれば必要に応じて適宜なしうる設計的事項と認められる。 したがって、相違点a.は当業者が容易になしうるものと認める。 (相違点bについて) 甲第1号証には、基板温度として「室温〜400℃」あるいは「室温〜500℃」という広範囲の温度が記載(摘示記載(1-j))されているのみであり、反応温度を150〜350℃と特定することについては記載も示唆もない。 これに対して、本件特許明細書の記載、「本実施例において、製膜条件は、窒化珪素被膜では、反応温度150℃〜350℃、反応圧力0.01〜0.5torr、高周波電力密度0.1〜0.3w/cm2セルフバイアス電圧-150〜-250Vであり、原料気体であるSiH4、N2はSiH4/N2比を0.05〜0.5の範囲で可変し、化学量論的組成比を制御し膜中水素含有量も同様に膜応力との兼ね合いにおいてコントロールすることができた。」(段落【0013】)から明らかなように、製膜条件には、反応温度以外に多くの因子が関与するものであり、他の因子との関係で反応温度が設定されることからすると、温度範囲が重複するからといって、直ちに150〜350℃と導き出せるものではない。 また、甲第2号証は、摘示記載(2-a)によれば、相違点b.について記載も示唆もしていない。 したがって、相違点bは、当業者が容易に想到しうるものということはできない。 (相違点cについて) 甲第1号証における第一の被膜は、IVA族元素を含ませることで、付着力を大きくし、内部応力を減少させている旨の記載(摘示記載(1-c)〜(1-f))があるが、これは、下地基材上に接する膜同士の内部応力を比較した結果(摘示記載(1-k))に基づくものであって、本件発明1のように下地基材上に接する第一の被膜の内部応力と、この第一の被膜上に密着した被膜の内部応力とを比較しての記載ではない。 また、摘示記載(1-h)から、中間層(=第一の被膜)の奏する効果は、付着力が大きいことに起因する旨記載されているが、第一の被膜とこの被膜上に密着した炭素または炭素を主成分とする被膜との内部応力の関係については記載されていない。 さらに、摘示記載(1-k)、特に第5、6図の記載から明らかなように、第一の被膜はIVA族元素の含量の増大に伴って特定の含量までは内部応力の減少と付着力の増大は同時に進行するが、特定の含量を境にして内部応力が増大しているにも拘わらず付着力が増大する範囲が存在し、付着力増大と内部応力の減少が常に同時に達成されないことから、甲第1号証の発明においては、第一の被膜の内部応力が炭素または炭素を主成分とする被膜よりも小さくなるとも言えない。 したがって、甲第1号証には、第一の被膜の内部応力を第一の被膜に密着した炭素または炭素を主成分とする被膜の内部応力よりも小さくするという技術思想は記載されていないと認められる。 また、甲第2号証は、摘示記載(2-a)によれば、相違点c.について記載も示唆もしていない。 よって、相違点cは、当業者が容易に想到し得るものということはできない。 そして、本件発明1は、上記相違点b.、c.により、炭素系被膜を主成分とする被膜を非形成面上に密着性よく設けるという顕著な効果を奏する(段落【0005】〜【0007】)ものである。 これらのことより、本件発明1は、甲第1、2号証に記載のものから当業者が容易に発明できたとはいえない。 (2)本件発明2、4について 本件発明2、4は、本件発明1にさらに発明を特定する事項を付加したものであって、上述5.(1)で示したように、本件発明1は甲第1、2号証に記載のものから当業者が容易に発明できたものではないから、本件発明2、4は甲第1、2号証に記載のものから当業者が容易に発明できたとはいえない。 (3)本件発明3について 本件発明3は、本件発明1または2にさらに発明を特定する事項として、第一の被膜として窒化珪素被膜を採用することを付加したものである。 この点に関し、申立人は、甲第3号証を提示し、「プラズマCVD法によりSi窒化物上に炭素系被膜を形成することは、甲第3号証に記載されている」、本件発明3は甲第1〜3号証に記載の発明を組み合わせることによって容易に想到することができる旨主張している。 しかしながら、甲第3号証は、単に窒化珪素被膜上に炭素または炭素を主成分とする被膜を密着させるという被膜種類の組み合わせを記載(摘示記載(3-a)、(3-b))しているに過ぎず、甲第1〜3号証に記載の発明を組み合わせても上述5.(1)で示した相違点b.、c.は当業者が容易に想到しうるものとは認められない。 したがって、本件発明3は上記甲第1〜3号証に記載のものから当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜4に係る特許を取り消すことができない。 また、他に本件特許1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-10-15 |
出願番号 | 特願平11-24163 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B32B)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中田 とし子、石井 淑久、中島 庸子 |
特許庁審判長 |
石井 淑久 |
特許庁審判官 |
田口 昌浩 須藤 康洋 |
登録日 | 2001-06-01 |
登録番号 | 特許第3195302号(P3195302) |
権利者 | 株式会社半導体エネルギー研究所 |
発明の名称 | 炭素系被膜を有する基材の作製方法 |
代理人 | 鳥居 和久 |
代理人 | 東尾 正博 |
代理人 | 鎌田 文二 |