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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1067571
異議申立番号 異議2002-71148  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-04-22 
確定日 2002-10-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第3228945号「低誘電率ガラス繊維」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3228945号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.本件の経緯
本件特許第3228945号は、平成9年10月8日(優先権主張、平成8年10月16日、日本)の出願であって、平成13年9月7日(公報発行平成13年11月12日)に設定登録され、平成14年4月22日に日本電気硝子株式会社(以下「申立人A」という)、平成14年5月13日に旭シュエーベル株式会社(以下「申立人B」という)から、特許異議の申立を受けたものである。

2.特許異議申立人の主張の概要
2-1.申立人Aは、下記甲第1ないし5号証を提出し、本件請求項1ないし5に係る発明は、甲第1ないし4号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開昭62-226839号公報
甲第2号証:特開昭64-51345号公報
甲第3号証:特開平6-211543号公報
甲第4号証:特公平4-48739号公報
甲第5号証:実験報告書(日本電気硝子株式会社)

2-2.申立人Bは、下記甲第1ないし3号証、及び参考資料1を提出し、本件請求項1ないし5に係る発明は、甲第1ないし3号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開昭62-226839号公報
甲第2号証:特公昭57-28371号公報
甲第3号証:特開平6-219780号公報
参考資料1:特願平07-137688号の添付書類(「実験証明書(日東紡績株式会社)」)

3.特許異議申立人の主張についての検討
3-1.本件発明の認定
本件発明は、明細書の請求項1ないし5に記載された事項により特定された次のとおりのものである(以下「本件発明1」ないし「本件発明5」という)。
「【請求項1】重量%で、SiO2 45〜60%、Al2O3 8〜20%、B2O3 15〜30%、MgO 0〜5%、CaO 5%を越えて12%以下、Li2O+Na2O+K2O 0〜1.0%、TiO2 0.5〜5%、F2 0〜2%のガラス組成を有し、さらにZnO、SrO、Fe2O3、Cr2O3、As2O3、Sb2O3、P2O5、ZrO2、Cl2、SO3、MoO2を合計で0〜3%含有することを特徴とする低誘電率ガラス繊維。
【請求項2】重量%で、SiO2 50〜57%、Al2O3 10〜18%、B2O3 18〜25%、MgO 0〜5%、CaO 5%を越えて10%以下、Li2O 0〜0.3%、Na2O 0〜0.3%、K2O 0〜0.5%、TiO2 0.5〜5%、F2 0〜2%であって、MgO+CaO 5%を越えて12%以下、Li2O+Na2O+K2O 0〜0.6%のガラス組成を有する請求項1に記載の低誘電率ガラス繊維。
【請求項3】更にZnO、SrO、Fe2O3、Cr2O3、As2O3、Sb2O3、P2O5、ZrO2、Cl2、SO3、MoO2から選ばれる少なくとも1種をガラス特性を損なわない程度に含有する請求項1に記載の低誘電率ガラス繊維。
【請求項4】誘電率が5以下、誘電正接が10×10-4以下、紡糸温度が1350℃以下、アルカリ溶出量が0.1重量%未満である請求項1に記載の低誘電率ガラス繊維。
【請求項5】プリント配線基板用のガラス繊維として用いられる請求項1に記載の低誘電率ガラス繊維。」

3-2.刊行物及び書証の記載事項
ア.刊行物1:「特開昭62-226839号公報」(申立人A、申立人Bが提出した甲第1号証)
ア-1.「(1)重量%で表示して SiO2 45〜65 Al2O3 9〜20 B2O3 13〜30 CaO+MgO+ZnO 4〜10 Li2O+Na2O+K2O 0〜5 の組成と5以下の誘電率を有するガラス組成からなる低誘電率ガラス繊維。」(特許請求の範囲)
ア-2.「本発明は、誘電率の低いガラス繊維に関し、特にプリント配線板補強用ガラス繊維のための低誘電率ガラス繊維に関する。」(第1頁左欄15〜17行)
ア-3.「本発明は、溶融温度及び紡糸温度が比較的低く、したがって生産性の優れた低誘電率ガラスを提供することを目的とする。」(第2頁左上欄9〜11行)
ア-4.第3頁「表1」には、Eガラス、Dガラス、実施例-1〜実施例-11の各ガラスの「成分組成」、「誘電率」及び「粘度logη=3ポアズにおける温度」が表示されている。
イ.刊行物2:「特開昭64-51345号公報」(申立人Aが提出した甲第2号証)
イ-1.「(1)モル%で表示して SiO2 50〜70 B2O3 20〜40 Al2O3 3〜10 CaO 0.5〜8 MgO 0〜10 SrO 0〜6 ZnO 0〜10 の組成からなり、誘電率が多くとも4.5の値を有する低誘電率ガラス繊維組成物。」(特許請求の範囲)
イ-2.「本発明は、誘電率の非常に低いガラス繊維用ガラス組成物、特にプリント配線板の補強用に適した低誘電率ガラス繊維組成物に関する。」(第1頁左欄17〜19行)
イ-3.「本発明は、溶融温度及び紡糸温度が比較的低くしたがって生産性に優れており、また、耐水性も良好でありガラス繊維として充分に使用に耐えうる低誘電率ガラスを提供することを目的とする。」(第2頁左上欄16〜19行)
イ-4.「以上の他にフラックス成分としてアルカリ金属酸化物(Li2O,Na2O,K2O)を計1%まで添加することができる。その他にガラス原料、耐火物レンガなどから混入する不純物としてTiO2 ,
Fe2O3,ZrO2,MoO3などが微量含まれることがある。これらフラックス成分および不純物は合計で多くとも2%含まれていても差し支えない。」(第2頁右下欄1〜7行)
ウ.刊行物3:「特開平6-211543号公報」(申立人Aが提出した甲第3号証)
ウ-1.「【請求項1】重量百分率で、SiO2 47〜63%、Al2O3 5〜15%、B2O3 3〜16%、BaO 10〜26%、CaO 0〜15%、MgO 0〜5%、SrO 0〜10%、ZnO 0〜10%からなり、本質的にアルカリ金属酸化物を含有しないことを特徴とするガラス繊維。」(特許請求の範囲)
ウ-2.「【産業上の利用分野】本発明は、高周波利用の衛星通信や移動体通信等の機器に使用されるプリント配線板の強化材として用いられるガラス繊維に関するものである。」(第2頁1欄16〜18行)
ウ-3.「本発明は、誘電率がEガラスのそれより低く、また誘電正接がDガラスのそれと同等、あるいはそれ以下であり、しかもEガラスと同等の耐水性と耐熱性を有し、高周波用途のプリント配線板の強化材として有用なガラス繊維を提供することを目的とするものである。」(第2頁2欄30〜35行)
ウ-4.「尚、本発明においては、上記成分以外にも、ガラス特性を損なわない限り、ZrO2、TiO2 、As2O3、Sb2O3、F2、Cl2、SO3等を添加することが可能である。」(第3頁4欄10〜13行)
エ.刊行物4:「特公平4-48739号公報」(申立人Aが提出した甲第4号証)
エ-1.「1 必須成分としてSiO2、Al2O3、MgO、B2O3、TiO2 を含み、且つこれら成分の割合が、SiO250〜60wt%、Al2O325〜35wt%、MgO8〜15wt%、B2O32〜6.5wt%、TiO2 <1wt%であり、且つR2O≦1wt%、Fe2O3≦1wt%、CaO≦2wt%であることを特徴とする繊維用硝子組成物。」(特許請求の範囲)
エ-2.「本発明は繊維用硝子組成物並にFRP用硝子繊維に関するものである。」(第1頁1欄16〜17行)
エ-3.「TiO2 は溶融硝子の粘性を低下させ、失透、紡糸温度を低下させ且つ耐水性を向上させる効果を有するが、TiO2 の量が1%を超えると硝子が着色する。」(第2頁3欄42行〜4欄1行)
オ.書証1:「実験報告書」(申立人Aが提出した甲第5号証)
オ-1.「1.実験の目的 特開昭62-226839号公報の第1表の実施例-1、2及び6のガラス試料を作製し、それらの誘電正接を測定する。」(第1枚目6〜8行)
オ-2.「本実験の結果から、特開昭62-226839号公報の実施例-1、2、6のガラスの誘電正接は、2〜6×10-4であることが分かった。」(第2枚目9〜10行)
カ.刊行物5:「特公昭57-28371号公報」(申立人Bが提出した甲第2号証)
カ-1.「1 MgO 7〜27.5モル% CaO 4.5〜32.5モル% ZnO 3〜15モル% Al2O3 5〜13.5モル% SiO2 36〜56モル% TiO2 0〜9モル% ただし、MgOおよびCaOの含量の合計は30乃至40モル%であり、ZnOおよびTiO2 の含量の合計は15モル%よりも少ない、なる本質的組成を有するMgO -CaO -ZnO -Al2O3 -SiO2-TiO2 系のガラス繊維。」(特許請求の範囲)
カ-2.「本発明は、たとえばガラス繊維強化有機および無機複合材料において使用するために必要とする高弾性率を有する強化用繊維の、比較的低い繊維引伸ばし温度における製造に対して適している、MgO -CaO -ZnO -Al2O3 -SiO2-TiO2 系から成りアルカリ、ホウ素及びフッ素を含有しないガラスに関する。」(第1頁1欄末行〜2欄6行)
カ-3.「本発明によるガラス組成物の有利な加工性は、約9モル%まで、好ましくは2乃至6モル%のTiO2 の添加によって、さらに改良することができる。TiO2 は融剤として働き且つ紡糸温度をさらに低下させる故に有利である。しかしながら、この技術分野の現状では、セラミックガラスのための核生成剤としてしばしば正確に加えるTiO2 が失透現象に対するガラスの安定性を助けるということは予想外のことであった。TiO2 は、弾性率に対して有利な影響をも及ぼす。」(第3頁6欄8〜17行)
キ.刊行物6:「特開平6-219780号公報」(申立人Bが提出した甲第3号証)
キ-1.「【請求項1】重量百分率で、SiO2 50.0〜65.0%、Al2O3 10.0〜18.0%、B2O3 11.0〜25.0%、MgO 6.0〜14.0%、CaO 1.0〜10.0%、ZnO 0〜10.0%、MgO+CaO+ZnO 10.5〜15.0%の組成を有することを特徴とする低誘電率ガラス繊維。」(特許請求の範囲)
キ-2.「【産業上の利用分野】本発明は、低誘電率ガラス繊維に関し、特にプリント配線板の強化材として用いられる低誘電率ガラス繊維に関するものである。」(第2頁1欄17〜19行)」
キ-3.「尚、本発明においては、上記成分以外にも、ガラスの特性を損なわない程度に、Li2O、Na2O及びK2Oといったアルカリ金属酸化物(R2O)を3.0%まで、またR2O以外にも、ZrO2、TiO2 、As2O3、Sb2O3、F2、Cl2、SO3等の成分を5.0%まで含有させることが可能である。」(第3頁4欄13〜19行)」
ク.書証2:特願平07-137688号の添付書類である「実験証明書(日東紡績株式会社)」(申立人Bが提出した参考資料1)
ク-1.「IV.実験の目的 本実験の目的は、本願発明のガラス繊維において、SiO2 とともに0.5〜5%のTiO2 を含有させたことによる技術的効果、すなわち本願発明においてTiO2 含有量を0.5〜5%に限定したことによる技術的意義を明らかにすることにある。」(第1頁12〜16行)
ク-2.「本願発明はTiO2 含有量を0.5〜5%に数値限定することにより、(イ)溶融時のスカム・泡の発生がない、(ロ)紡糸温度が低く、紡糸性に優れている、(ハ)誘電正接が低く、誘電損失が少ない、(ニ)耐水性に優れている、という利点を有するガラス繊維を得たものである。」(第5頁26〜29行)

3-3.対比・判断
(1) 本件発明1について
記載ア-2、記載ア-3によれば、刊行物1には、本件発明1と技術分野を一にする低誘電率ガラス繊維が記載され、記載ア-1によれば、そのガラス組成はTiO2 を除き、本件発明1の組成範囲とほぼ重複し、記載ア-4で言及した「表1」によれば、実施例1,実施例3,実施例6は、SiO2 48.9〜55.8%、Al2O3 14.0〜16.0%、B2O3 19.9〜29.9%、MgO 0%、CaO 7.0〜8.0%、Li2O+Na2O+K2O 0〜0.3%のガラス組成を有しており、TiO2 を除き、本件発明1の組成範囲、すなわち「重量%で、SiO2 45〜60%、Al2O3 8〜20%、B2O3 15〜30%、MgO 0〜5%、CaO 5%を越えて12%以下、Li2O+Na2O+K2O 0〜1.0%、F2 0〜2%のガラス組成を有し、さらにZnO、SrO、Fe2O3、Cr2O3、As2O3、Sb2O3、P2O5、ZrO2、Cl2、SO3、MoO2を合計で0〜3%含有すること」を充足している。
したがって、本件発明1と、刊行物1記載の実施例1,3,6のガラス繊維とを対比すると、両者は「重量%で、SiO2 48.9〜55.8%、Al2O3 14.0〜16.0%、B2O3 19.9〜29.9%、MgO 0%、CaO 7.0〜8.0%、Li2O+Na2O+K2O 0〜0.3%含有することを特徴とする低誘電率ガラス繊維」である点で一致し、本件発明1がTiO2 を0.5〜5重量%含有しているのに対し、刊行物1のガラス繊維はTiO2 を含有していない点で相違する。
以下、上記相違点につき検討する。
記載イ-2、イ-3、記載ウ-2、ウ-3、記載キ-2によれば、刊行物2,3,6には、本件発明1と技術分野を一にする低誘電率ガラス繊維が記載されており、記載イ-4、記載ウ-4、記載キ-3によれば、かかるガラス繊維にTiO2 を含有させ得ることが開示されているが、該TiO2 は、ガラス特性を損なわない限りにおいて含有させ得る不純物の1種として例示されているにとどまり、積極的にTiO2 を低誘電率ガラス繊維に含有させることを示唆するものではない。
したがって、刊行物1記載の発明に刊行物2,3,6記載の事項を組み合わせても、TiO2 が特定量含有されていることを特徴とする本件発明1を、当業者が容易に想到することができたとすることはできない。
記載エ-1、記載カ-1によれば、刊行物4,5にはTiO2 を含有させたガラス繊維が記載されているが、記載エ-2、記載カ-2によれば、刊行物4,5に記載されるガラス繊維は強化用である点で本件発明1のガラス繊維と軌を一にするが、誘電率についての記載はなく、基本的組成も、刊行物4にものはAl2O3 、B2O3 、MgO 、CaO が本件発明1の組成範囲外であり、刊行物5のものはB2O3 を含まず、MgO が本件発明1の組成範囲外であり、本件発明1のガラス繊維とは基本組成において異なるものである。
したがって、刊行物1記載の発明に、基本的組成が異なるガラス繊維の技術的事項である刊行物4,5記載の事項を適用すること自体に無理があり、刊行物1,4,5の記載事項に基づいて、当業者が、本件発明1を容易に想到することができたとすることはできない。
さらに、書証1には、刊行物1記載のガラス繊維についての追試実験により、その誘電正接の測定値が記載され、書証2には、本願の先願である特願平07-137688号に係るガラス繊維において、SiO2 とともに0.5〜5%のTiO2 を含有させたことによる技術的効果について記載されているだけで、刊行物1記載のガラス繊維に0.5〜5%のTiO2 を含有させることを示唆するものではない。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜6、及び書証1,2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2) 本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1を引用する発明であるから、本件発明1で検討したのと同じ理由で、刊行物1ないし6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
4.結び
以上のとおりであるから、本件発明1ないし5に係る特許は、特許異議申立の理由および証拠によっては取り消すことができない。
また、他に本件発明1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する
 
異議決定日 2002-10-04 
出願番号 特願平10-518176
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高崎▼ 久子  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 野田 直人
唐戸 光雄
登録日 2001-09-07 
登録番号 特許第3228945号(P3228945)
権利者 日東紡績株式会社 日東グラスファイバー工業株式会社
発明の名称 低誘電率ガラス繊維  
代理人 鳴井 義夫  
代理人 伊藤 穣  
代理人 清水 猛  
代理人 武井 英夫  

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