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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L |
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管理番号 | 1067591 |
異議申立番号 | 異議2001-71559 |
総通号数 | 36 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-05-07 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-05-28 |
確定日 | 2002-10-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3112627号「導電性シリコーンゴム組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3112627号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
[1]手続の経緯 本件特許第3112627号は、平成6年10月18日に特許出願され、平成12年9月22日にその特許の設定登録がなされ、その後、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、特許異議意見書が提出されたものである。 [2]特許異議申立てに対する判断 1.特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立人東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社は甲第1号証(特開平4-159341号公報)、甲第2号証(特開昭59-129259号公報)、甲第3号証(特開昭56-120761号公報)及び甲第4号証(特開昭59-108061号公報)を提出し、本件発明は、その出願前に日本国内において頒布された甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて、或いは、甲第1、2及び4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであると主張している。 2.本件発明 本件請求項1に係る発明は、特許明細書の記載からみて、その請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 『(A)平均組成式RaSiO(4-a)/2で表されるオルガノシロキサン(式中、Rは同一又は異なっていても良い非置換若しくは置換の一価の炭化水素基、aは1.90〜2.05の正数である。):100重量部、(B)炭素系導電性付与剤:5〜150重量部、(C)炭素原子数が10以上の脂肪酸金属塩のオルガノポリシロキサンペースト:脂肪酸金属塩が0.01〜5重量部となる量、及び(D)硬化剤を混練配合してなることを特徴とする導電性シリコーンゴム組成物。』 3.甲第1〜4号証の記載事項 甲第1号証には、以下の事実が記載されている。 (a)「ゴム100重量部に、導電性カーボンブラック20〜100重量部と薄片化黒鉛30〜150重量部と脂肪酸金属塩及び/又は脂肪酸エステル1〜20重量部とを添加したことを特徴とする導電性組成物。」(特許請求の範囲1) (b)「本発明の目的は、上述した従来技術の問題点を解消し、混練、押出、あるいはシートへの加工が容易であり、しかも極めて高い導電性を保有している新規な導電性組成物を提供しようとするものである。」(第2頁右上欄第1〜5行) (c)「ゴムとしては天然ゴム・・・・・シリコーンゴム・・・・・が挙げられる。」(第2頁右上欄第12行〜同頁左下欄第4行) (d)「金属石鹸は、通常M(OOCR)nで示される種々の金属高級脂肪酸塩で、・・・・・ステアリン酸カルシウム・・・・・ステアリン酸亜鉛・・・・・ステアリン酸マグネシウム・・・・・などが挙げられる。」(第2頁右下欄第4行〜第3頁左上欄第3行) (e)「これら金属石鹸、脂肪酸エステルは各々単独のもの、他の配合剤と複合されたもの、あるいは両者の混合品、さらには両者の混合プラス他の配合剤と複合されたもの等々種々のタイプのものが挙げられる。」(第3頁右上欄第13〜17行) (f)「本発明の組成物を架橋する方法としては、イオウ系加硫剤による方法が一般的であるが、用途によっては有機過酸化物による架橋、電子線照射による架橋およびシラングラフト水架橋等による方法も選ぶことができる。有機過酸化物による架橋に用いる架橋剤としては、ジクミルパーオキサイド、3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等が好適である。」(第3頁右上欄第9〜16行) (g)「本発明で用いられた金属石鹸及び脂肪酸エステルはコンパウンドの粘度を下げると共にカレンダロール加工時に導電性材料の層間滑り性を高めロールへの負荷を軽減し、さらにロール粘着性を抑制するなどの効果を併せ有するために総合的に加工性を向上させるものである。」(第4頁左下欄第1〜6行) 甲第2号証には、以下の事実が記載されている。 (a)「(1)(A)平均重合度3,000〜12,000のポリジオルガノシロキサン100重量部、 (B)補強性充填用シリカ10〜100重量部、 (C)炭素数10〜18の脂肪酸の金属塩0.1〜2重量部、 (D)酸化マグネシウム0.1〜1.0重量部、 (E)有機過酸化物0.1〜5重量部とから成ることを特徴とする電線被覆用シリコーンゴム組成物。 ・・・・・ (8)(A)平均重合度3,000〜12,000のポリジオルガノシロキサン100重量部、 (B)補強性充填用シリカ10〜100重量部、 (C)炭素数10〜18の脂肪酸の金属塩0.1〜2重量部、 (D)酸化マグネシウム0.1〜1.0重量部、 (E)有機過酸化物0.1〜5重量部 を混練りするにあたり、 (C)の脂肪酸の金属塩を(A)のポリジオルガノシロキサンの一部と共に前記脂肪酸の金属塩の融点以上の温度で加熱処理して両者が均一に混合されたペースト状態で他の成分と混合することを特徴とする電線被覆用シリコーンゴム組成物の製造方法。」(特許請求の範囲1及び8) (b)「(C)成分の脂肪酸の金属塩は、ポリジオルガノシロキサンと補強用充填用シリカの混合物に均一に分散されてはじめて芯線剥離性が改良され、かつ所定の物性が得られるので、脂肪酸の金属塩は組成物中に均一に分散させる必要がある。このためには、脂肪酸の金属塩とポリジオルガノシロキサンの一部とを脂肪酸の金属塩の融点以上の温度で加熱処理し脂肪酸の金属塩が高濃度でポリオルガノシロキサン中に分散されたペースト状態として他の成分と混合することが好ましい。この加熱処理により上記金属塩の分散性は著しく向上し、硬化後の各種特性が向上する。」(第4頁左上欄第6〜17行) 甲第3号証には、以下の事実が記載されている。 (a)「(イ)平均重合度が1000以上であるジオルガノポリシロキサン 100重量部、 (ロ)比表面積が80m2/g以上のカーボンブラック 5〜150重量部、 (ハ)式 ![]() (式中、Rは置換または非置換の一価炭化水素基、Xは水酸基または加水分解可能な基を表わす。aは0≦a≦3、bは0<b<3、cは0≦c≦3、ただしa+b+cは0<a+b+c≦4である)で示される水素原子含有有機けい素化合物 1〜20重量部 および (ニ)有機過酸化物 0.1〜10重量部 からなる導電性シリコーンゴム組成物。」(特許請求の範囲1) 甲第4号証には、以下の事実が記載されている。 (a)「1.次の成分を含有し、架橋により2Ω-cm以下の電気抵抗の導電性エラストマーとなり得る組成物; (1)シリコンに結合した脂肪族不飽和基を有するオルガノポリシロキサン (2)シリコンに結合した水素原子を有するオルガノシリコン化合物 (3)オルガノポリシロキサン(1)の重量の40〜65重量%のカーボンブラックで、これは次のものを含む (a)全カーボンブラックの20〜50重量%のファーネスブラック (b)全カーボンブラックの80〜50重量%のアセチレンブラック (4)シリコンに結合した水素のシリコンに結合した脂肪族不飽和基への付加を促進する触媒。 ・・・・・ 5.オルガノポリシロキサン(1)が次式 R3SiO(SiR2O)nSiR3 ここに;Rは炭素数18までの1価の炭化水素および置換1価炭化水素基からなる群より選ばれ、1分子当り平均して少なくとも2個のRは脂肪族不飽和基を含み、nは少くとも10である。 である特許請求の範囲第1項の組成物。」(特許請求の範囲1及び5) 4.対比・判断 本件請求項1に係る発明(以後、「本件発明」という。)と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、オルガノポリシロキサン、炭素系導電性付与剤、脂肪酸金属塩及び硬化剤を配合混合してなる導電性シリコーンゴム組成物である点及びそれらの混合量比において重複一致する点で、同一であると認められる。(なお、甲第1号証には、「シリコーンゴム」と記載されているだけで、「オルガノポリシロキサン」とは記載されていないが、電導性を付与するためのシリコーンゴムは、甲第3号証或いは甲第4号証に記載されたとおり、本件発明で規定された構造式を有するオルガノポリシロキサンと硬化剤とを用いることは、本件出願時の一般的な技術的知見であるものと認められる。) しかしながら、本件発明は、脂肪酸金属塩をオルガノポリシロキサンに配合してペーストの状態で用いることが必須の構成要件であるのに対し、甲第1号証には、このペーストの状態で用いることが明示されていない点で相違する。(なお、甲第1号証には、金属石鹸(脂肪酸金属塩)は、他の配合剤と複合されたものを用いることが記載されているが、この配合剤がオルガノポリシロキサンであることは記載されていない(摘示事項e)。) 上記相違点について、特許異議申立人は、次のとおり主張している。 『シリコーンゴム組成物において、脂肪酸金属塩の分散性向上のため、炭素原子数が10以上の脂肪酸金属塩をオルガノポリシロキサンペーストの形で混練配合することは珍しいことではない。甲第2号証では、脂肪族金属塩をシリコーンゴム、すなわち、シリコーン生ゴムと混合してペースト状にして他成分と混合してシリコーンゴム組成物を製造しており、このオルガノポリシロキサンペーストを甲第1号証に記載された発明に適用することが当業者にとって容易にできることであり、その効果も予測できる程度のものである。』 これに対して、特許権者は、特許明細書に記載の実施例1〜7及び比較例1〜4の「硬さ」及び「引張りkgf/cm2」の測定値を新たに示し、及び、新たに追加した比較例6(ステアリン酸亜鉛粉末をメチルビニルシロキサンを用いてペースト化することなくそのまま使用した他は、実施例1と全く同様にした。)の「体積抵抗率」、「硬さ」及び「引張りkgf/cm2」の測定値を示した上で、次のとおり主張している。 『本件発明において、脂肪酸金属塩をオルガノポリシロキサンペーストの形で添加することにより、「硬さ」或いは「引張り強さ」という機械的強度が改善されたのである。一方、甲第2号証の記載を検討しても、機械的強度が改善されるという事実はない。したがって、この機械的強度の改善は、当業者が予測できない効果であるので、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて本件発明が容易にできたものというべきではない。』 当審は、両者の主張に対して次のとおり判断する。 甲第2号証に記載された発明は、電線被覆用シリコーンゴム組成物に係るものであって、その記載中には、電導性付与剤について何も記載されておらず、また、その用途からみて、その組成物は、電導性付与剤を有しないものであるとすることが相当である。 したがって、本件発明と甲第2号証に記載された発明とは、シリコーンゴム組成物という点で一致しているとはいえ、技術分野を異にする組成物である。 甲第2号証に記載された発明の目的は、芯線との適度の密着性と剥離性を有する電気的性質の改善されたシリコーンゴム組成物を得るものであって、脂肪酸金属塩をオルガノポリシロキサンペーストの形で添加することにより、「硬さ」或いは「引張り強さ」という機械的強度が改善されることについては、何も記載されていないことは、特許権者が主張しているとおりである。 したがって、甲第1号証に記載された発明において、甲第2号証に記載された発明の上記技術的事項を適用しても、本件発明の効果を予測することは、困難と言わざるを得ない。 甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明は、導電性シリコーンゴム組成物に係る発明であるが、本件発明の脂肪酸金属塩を用いることが記載されておらず、本件発明の(A)成分のオルガノポリシロキサン及び(D)成分の硬化剤を用いることが記載されているだけであるので、本件発明が、甲第1〜4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易にできたものとすることができない。 [3]むすび 以上のとおりであるから、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社の提出した理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことができない。 また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-10-10 |
出願番号 | 特願平6-278333 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08L)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 宮坂 初男、村上 騎見高 |
特許庁審判長 |
柿崎 良男 |
特許庁審判官 |
中島 次一 佐野 整博 |
登録日 | 2000-09-22 |
登録番号 | 特許第3112627号(P3112627) |
権利者 | 信越化学工業株式会社 |
発明の名称 | 導電性シリコーンゴム組成物 |
代理人 | 滝田 清暉 |
代理人 | 久保田 芳譽 |
代理人 | 下田 昭 |