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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61M
管理番号 1067592
異議申立番号 異議2001-73249  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-01-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-03 
確定日 2002-10-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第3172190号「医薬エアロゾルを配給するための器具」の請求項1ないし16に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3172190号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 1. 手続の経緯
特許第3172190号の請求項1ないし16に係る発明についての出願は、平成6年6月17日(パリ条約による優先件主張1993年7月15日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成13年3月23日に、その発明について特許権の設定登録がなされた後、特許異議申立人三輪英樹より特許異議の申立てがなされたものである。

2. 本件発明
上記請求項1ないし16に係る発明(以下、「本件発明1ないし16」という。)は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載されたとおりの以下のものと認められる。
【本件発明1】
「弁棒(12)、ダイヤフラム開孔(17)を規定する壁を有する、エチレン-プロピレン-ジエンゴムを含むダイヤフラム(16)、及び、調合物部室(32)及びケーシング開孔(18)を規定する壁を有するケーシング部材(14)を含んで成る、計量投与量の医薬エアロゾルを配給するための器具(10)であって、弁棒(12)はダイヤフラム開孔(17)とケーシング開孔(18)とを貫通し且つダイヤフラム開孔(17)と摺動可能に封止係合しており、ダイヤフラム(16)はケーシング部材(14)と封止係合しており、前記器具(10)は調合物部室(32)の中に、薬剤及び1,1,1,2-テトラフルオロエタン又は1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンを含む医薬エアロゾルを含んでおり、前記ダイヤフラムは医薬エアロゾル調合物に露出されたときに寸法変化に対し安定していて、更に、漏洩率試験法による試験で500mg/年未満の漏洩率を発揮することを特徴とする、医薬エアロゾルを配給するための器具。」
【本件発明2】
「エチレン-プロピレン-ジエンゴムがダイヤフラムの唯一のポリマー成分である、請求項1に記載の器具。」
【本件発明3】
「エチレン-プロピレン-ジエンゴムが連続した熱可塑性母材に分散した粒子の形態で存在している、請求項1に記載の器具。」
【本件発明4】
「熱可塑性母材がポリプロピレン或いはポリエチレンである、請求項3に記載の器具。」
【本件発明5】
「ダイヤフラムが漏洩率試験法による試験で300mg/年未満の漏洩率を発揮する、請求項1に記載の器具。
【本件発明6】
「タンクシール開孔(35)を規定する壁を有するタンクシール(34)、及び、入口端(38)、入口開孔(40)及び出口端(42)を有する所定容積の計量タンク(36)をさらに含んで成り、出口端(42)がダイヤフラム(16)と封止係合しており、弁棒(12)が入口開孔(40)とタンクシール開孔(35)とを貫通し且つタンクシール開孔(35)と摺動可能に係合しており、タンクシール(34)が計量タンクの入口端(38)と封止係合しており、弁棒(12)は計量タンクの入口端(38)が開き且つ出口端(42)が閉じている突出閉位置と、計量タンクの入口端(38)が実質的にシールされ且つ出口端(42)が開いている圧縮開位置との間で移動可能である、請求項1に記載の器具。」
【本件発明7】
「調合物は、エアロゾル噴射剤として機能するために有効な量の1,1,1,2-テトラフルオロエタン又は1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン、及び、吸入のために所定数の治療に有効な投与量を提供するために十分な量の薬剤を含む医薬吸入調合物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の器具。」
【本件発明8】
「薬剤がアルブテロールサルフェイトである、請求項7に記載の器具。」
【本件発明9】
「薬剤がベクロメタゾンジプロピオネイトである、請求項7に記載の器具。」
【本件発明10】
「薬剤がピルブテロールアセテイトである、請求項7に記載の器具。」
【本件発明11】
「調合物が更に極性補助溶媒を含んで成る、請求項1または7に記載の器具。」
【本件発明12】
「極性補助溶媒がエタノールである、請求項11に記載の器具。」
【本件発明13】
「調合物が薬剤、噴射剤及びエタノールからなる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の器具。」
【本件発明14】
「ダイヤフラムの寸法が約3%以下でしか変化しないほどダイヤフラム材料が寸法変化に対して安定している、請求項1〜13のいずれか1項に記載の器具。」
【本件発明15】
「ダイヤフラムのショアA硬度が約70〜約85である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の器具。」
【本件発明16】
「ダイヤフラムの圧縮永久歪みが約20未満である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の器具。」

3. 申立ての理由の概要
特許異議申立人三輪英樹は、甲第1ないし第5号証および参考証1ないし7を提示し、本件発明1ないし16は、甲第1号証(国際公開第92/11190号パンフレット(特表平6-504307号公報(参考証1)参照))、甲第2号証(「THE AEROSOL HANDBOOK 2nd EDITION」WAYNE DORLAND COMPANY、1982年発行、第162頁、第321頁)、甲第3号証(特開平3-269081号公報)、甲第4号証(欧州特許出願公開第550031号明細書(1993)(特開平5-279249号公報(参考証2)参照))及び甲第5号証(特開平3-30942号公報)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1ないし16についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであり取り消されるべきであると主張している。

4. 甲各号証記載の発明
(1)上記甲第1号証には以下に示す事項が記載されているものと認められる(なお、以下において、記載箇所は、甲第1号証の翻訳である参考証1のものを示す。)。
(イ)「バルブ軸と、ダイヤフラム開口を規定する壁を有するダイヤフラムと、ケーシング開口を規定する壁を有するケーシング部材を具えた、エーロゾルを供給するための装置であって、
前記バルブ軸が前記ダイヤフラム開口とケーシング開口を貫通し、且つ滑動可能にダイヤフラム開口にシール係合し、
前記ダイヤフラムが前記ケーシングにシール係合するように構成され、
前記ダイヤフラムの材料が、約80〜約95モル%のエチレンと、全体で約5〜約20モル%の、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンからなる群から選ばれた1つ又はそれ以上の共重合体用単量体との共重合体を含む熱可塑性エラストマーを含むエーロゾルを供給するための装置。」(請求の範囲請求項1)
(ロ)上記装置において、「更に、タンクシール開口を規定する壁を有するタンクシールと、入口端、入口開口及び出口端を有する所定容積の計量タンクとを具え、前記出口端がダイヤフラムとシール係合し、バルブ軸が入口開口とタンクシール開口とを貫通してタンクシール開口に滑動可能に係合し、該タンクシールが前記計量タンクの入口端にシール係合し、バルブ軸が延びた閉鎖位置と圧縮された開放位置との間で変位可能であり、前記閉鎖位置においては計量タンクの入口端が実質的にシールされ且つ出口端が周囲の大気に開放されている」こと(請求の範囲請求項18)
(ハ)上記装置において、「前記ケーシング部材が組成物チャンバを形成している」こと(請求の範囲請求項19)
(ニ)上記装置において、「前記組成物チャンバが、推進剤としての機能を果たすのに有効な量の1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン、又はそれらの混合物を含むエーロゾルを内蔵している」こと(請求の範囲請求項20)
(ホ)上記装置において、「前記組成物が、推進剤としての機能を果たすのに有効な量の1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン、又はそれらの混合物と、薬学的に有効な所定回数分の吸入用投与量の薬剤とを含む薬学的組成物である」こと(請求の範囲請求項21)
(2)上記甲第2号証には以下に示す事項が記載されているものと認められる。
(イ)「バルブガスケットには、ポリエチレン、エチレン-プロピレン-ブタジエンなどのエラストマーが使用される」こと(第162頁第5表)
(ロ)「エアロゾル噴射剤として、1,1,1,2-テトラフルオロエタン等が使用される」こと(第321頁第6表)
(3)上記甲第3号証には以下に示す事項が記載されているものと認められる。
(イ)「エアゾール製品缶」において、「噴射剤としてジメチルエーテルを含むエアゾール製品缶のパッキング及びシール材料として、クロロプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレンターポリマーゴム及びナイロンより選ばれる1種以上を用いる」こと(請求項1)
(ロ)「このエアゾール製品缶を45℃で3ケ月放置し、ガス漏洩の有無を観察した」ところ「ガス漏洩は無」であり、「漏洩試験後、エアゾール製品缶の内容物の噴射試験を行った所、ノズルより良好な噴霧が発生し、また、弁ステムの作動状況は良好であった」こと(第3頁左上欄第19行から右上欄第4行、及び、第1表)
(ハ)「エアゾール製品缶」は、「弁ステム6」及び「弁ステム部パッキング1」をそなえたものであること(第1図)(なお、この「弁ステム部パッキング1」は、「弁ステム6」の摺動を許容するものではなく、例えば、特開平4-128169号公報に記載されているように、弁ステムが押圧されると内方に折曲されるようにしたものと認められる。)
(4)上記甲第4号証には以下に示す事項が記載されているものと認められる(なお、記載箇所は、甲第4号証の翻訳である参考証2のものを示す。)。
(イ)「R227(1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン)のエラストマーに対する融和性がR134a(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)のそれに比較して大部分はよりすぐれている」こと(段落【0022】)
(ロ)この融和性を示す指標として「長さの変化」があり、DIN8944に従う冷間抽出によって検討した結果、R227(1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン)の場合、長さの変化は、「ブチルゴム、アクリロニトリル/ブタジエンゴム、クロロプレンゴム及び天然ゴムでは0%、フッ素化ゴムでは0.5%、ポリアミドでは0.16%」であったこと(段落【0021】例1及び表1)
(5)上記甲第5号証には以下に示す事項が記載されているものと認められる。
(イ)「HFC134a(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)を主成分とする冷媒の輸送用ホースであって、HFC134aの透過性が低く、実用的な耐水分透過性および耐熱性を有するHFC134a系冷媒低透過性ホースにおいて、内管、補強層および外管からなるホースの、少なくとも内管を、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体系ゴム組成物で構成する」こと

5. 対比・判断
(1)本件発明1と上記甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、
「弁棒、ダイヤフラム開孔を規定する壁を有するダイヤフラム、及び、調合物部室及びケーシング開孔を規定する壁を有するケーシング部材を含んで成る、計量投与量の医薬エアロゾルを配給するための器具であって、弁棒はダイヤフラム開孔とケーシング開孔とを貫通し且つダイヤフラム開孔と摺動可能に封止係合しており、ダイヤフラムはケーシング部材と封止係合しており、前記器具は調合物部室の中に、薬剤及び1,1,1,2-テトラフルオロエタン又は1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンを含む医薬エアロゾルを含んでいることを特徴とする、医薬エアロゾルを配給するための器具。」
である点で一致しているが、少なくとも、以下の点で相違している。
前者においては、ダイヤフラムの材料が「エチレン-プロピレン-ジエンゴムを含むものである」のに対し、後者においては、「約80〜約95モル%のエチレンと、全体で約5〜約20モル%の、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンからなる群から選ばれた1つ又はそれ以上の共重合体用単量体との共重合体を含む熱可塑性エラストマーを含むものである」点
(2)そこで、この相違点について検討する。
甲第1号証には次のように記載されている。
「エーロゾル組成物の容器は、通常、バルブの軸の往復運動は許容するが容器からの推進剤の漏洩を防ぐことを意図したゴム製のバルブシールを具えている。これらのゴム製のバルブシールは、通常、ブチルゴム、ブタジエン-アクリロニトリルゴム「Buna」、ネオプレン(ポリクロロイソプレン)等の熱硬化性ゴムから作られ、バルブシールの形に形成される前に加硫剤と混ぜ合わされる。」(第3頁左下欄第15から20行)
「ネオプレン(ポリクロロプレン)、ブチルゴム、ブタジエン・アクリロニトリル「ブナ」共重合体の熱硬化性ダイヤフラムを具えた従来型の装置は、時間の経過と共に組成物中からHFC-134a及びHFC-227の過剰な漏洩を許してしまう。」(第4頁左上欄第24から27行)
これらの記載は、バルブの軸の摺動は許容するが容器からの推進剤の漏洩を防ぐことを意図したゴム製のバルブシールにおいては、熱硬化性ゴムの使用が好ましくないことを示すものである。
(3)一方、エチレン-プロピレン-ジエンゴムが加硫によって硬化するものであることは、良く知られていることであり(小川雅弥外3名著「有機工業化学」第5版、(株)朝倉書店、1984年4月20日発行(第8刷)、第317頁(「b.エチレンプロピレンゴム」の項)、第307頁(「a.加硫剤」の項)参照)、このことからすると、エチレン-プロピレン-ジエンゴムは、熱可塑性エラストマーではなく、熱硬化性ゴムの範疇に入るものであると解される。
(4)そうであると、例え、甲第2号証により、エチレン-プロピレン-ブタジエンがバルブガスケットとして使用されること、甲第3号証により、エチレン・プロピレンターポリマーゴムがエアゾール製品缶のパッキング及びシール材料として使用されること、甲第4号証により、R227(1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン)のエラストマーに対する融和性がすぐれていること、甲第5号証により、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体系ゴム組成物がHFC134a(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)の透過性が低い材料であることが公知であるとしても、甲第1号証においては、熱硬化性ゴムの使用は好ましくないとされているのであるから、甲第1号証に記載された発明において、ダイヤフラムの材料を、特定組成の熱可塑性エラストマーである、「約80〜約95モル%のエチレンと、全体で約5〜約20モル%の、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンからなる群から選ばれた1つ又はそれ以上の共重合体用単量体との共重合体を含む熱可塑性エラストマーを含む」ものから、熱硬化性ゴムである、「エチレン-プロピレン-ジエンゴムを含む」ものに代えることを、当業者が容易に想到し得たということはできない。
(5)したがって、本件発明1は、甲第1ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
なお、参考証3ないし7の記載内容を参酌してもこの判断に変わりはない。
また、本件発明2ないし16は、本件発明1を引用するものであるから、上述したのと同じ理由により、甲第1ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。

6. むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし16に係る発明についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1ないし16に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-09-26 
出願番号 特願平7-504558
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 元人  
特許庁審判長 梅田 幸秀
特許庁審判官 門前 浩一
平上 悦司
登録日 2001-03-23 
登録番号 特許第3172190号(P3172190)
権利者 ミネソタ マイニング アンド マニュファクチャリング カンパニー
発明の名称 医薬エアロゾルを配給するための器具  
代理人 小林 純子  
代理人 山口 昭之  
代理人 片山 英二  

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