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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C21C
管理番号 1067595
異議申立番号 異議2001-72948  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-04-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-10-24 
確定日 2002-11-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第3160273号「鉄鋼生産の間のスラグキャリーオーバーを最小にするためのシステム及び方法」の請求項1ないし22に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3160273号の請求項1ないし22に係る特許を維持する。 
理由 1、手続の経緯および本件発明
本件特許第3160273号の請求項1〜22に係る発明は、平成12年1月14日(パリ条約による優先権主張 平成11年10月8日、米国)に出願され、平成13年2月16日にその特許の設定登録がされたものであり、その後、請求項1〜22に係る特許について特許異議の申立てがなされたので、当審より特許取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成14年8月14日に意見書が提出されたものである。
そして、本件特許の請求項1〜22に係る発明(以下、順に「本件発明1」〜「本件発明22」という。)は、明細書及び図面の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1〜22に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 鉄鋼製造においてBOF転換炉のタッピング中スラグを検出する方法であって、
BOF転換炉内にスラグを形成するため前記転換炉に酸素を導入しつつ溶融金属を収納するためのBOF転換炉を準備するステップと、
前記BOF転換炉から前記溶融金属が流れるレイドルを準備するステップと、
前記BOF転換炉をタッピングして前記溶融金属のタップストリームが対象(ROI#1)の第1の領域の少なくとも一部分を介して前記BOF転換炉から前記レイドルに流れ、前記タッピングが少なくとも前記転換炉を傾斜させることによって行われるステップと、前記タッピング中少なくとも前記ROI#1において前記タップストリームをIR撮影して少なくとも一つのイメージフレームを提供するステップと、
前記タップストリーム中の鉄鋼を示す予め定められた鉄鋼範囲内で前記イメージフレームの画素に対して前記鉄鋼の画素数と前記タップストリーム中のスラグを示す予め定められたスラグ範囲内で前記スラグの画素数を決定するステップと、
前記鉄鋼の画素数と前記スラグの画素数を用いて0から1.0までの範囲である率を決定するステップと、
前記転換炉の傾斜角θを決定するステップと、
前記率が前記タップストリーム中の少なくとも予め選択された量のスラグを示すかを決定するステップと、
前記傾斜角θが予め定められた値より大きいか又は予め定められた範囲内であるかを決定するステップと、
前記率が前記タップストリーム中における少なくとも前記予め選択された量のスラグを示すことが決定されかつ前記傾斜角θが予め定められた値より大きく又は予め定められた範囲内であることが決定されると前記タッピングを停止するステップとを有することを特徴とする方法。
【請求項2】請求項1の方法において、さらに、前記率が前記タップストリーム中における少なくとも前記予め選択された量のスラグを示すことが決定されかつ前記傾斜角θが予め定められた値より大きく又は予め定められた範囲内であることが決定されることに応答して、タッピングを停止すべきオペレータに警告するアラームを発生するステップを有することを特徴とする方法。
【請求項3】請求項1の方法において、さらに、前記率が前記タップストリーム中における少なくとも前記予め選択された量のスラグを示すことが決定されかつ前記傾斜角θが予め定められた値より大きく又は予め定められた範囲内であることが決定されることに応答して、自動的に前記転換炉を上側に傾斜してタッピングを停止するステップを有することを特徴とする方法。
【請求項4】請求項1の方法において、さらに、前記率が前記タップストリーム中における少なくとも前記予め定められた量のスラグを示すことが決定されかつ前記傾斜角θが予め定められた値より大きく又は予め定められた範囲内であることが決定されると自動的に前記転換炉を上側に傾斜して前記BOF転換炉のタッピングを停止するステップを有することを特徴とする方法。
【請求項5】請求項1の方法において、前記IR撮影ステップは、前記タップストリーム中に溶融スラグの存在を検出するため、約8μmより大きいか又は等しい長いIR波長を用いることを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】請求項1の方法において、前記IR撮影ステップの間、約0.7と0.9の間で前記溶融金属タップストリーム中の前記スラグの放射率値がイメージされ、約0.25より小さい前記溶融金属タップストリーム中の前記溶融鉄鋼の放射率値がイメージされてモニターに出力するようにしたことを特徴とする方法。
【請求項7】請求項6の方法において、前記IR撮影ステップの間、約0.20より小さい前記タップストリーム中の前記溶融鉄鋼の放射率値がイメージされてモニターに出力するようにしたことを特徴とする方法。
【請求項8】請求項1の方法において、前記IR撮影ステップの間、約8μmより大きいか又は等しい長いIR波長を単に用いることを特徴とする方法。
【請求項9】請求項1の方法において、上記のステップは記載の順で実行されることを特徴とする方法。
【請求項10】請求項1の方法において、さらに、前記転換炉の開口のより低い高さで少なくとも部分的に配置され対象(ROI#2)の第2の領域をIR撮影するステップと、
ROI#2からのフレームにおいて画素の数があらかじめ定められた量のスラグを示すと決定された際アラーム発生するステップとを有することを特徴とする方法。
【請求項11】請求項10の方法において、ROI#2はROI#1と隣接していないことを特徴とする方法。
【請求項12】請求項1の方法において、さらに、前記IR撮影ステップの間、約8μmより小さい波長を実質的にカットして長いIR波長を前記タップストリーム中のスラグの存在を検出するために用いるようにしたことを特徴とする方法。
【請求項13】鉄鋼の製造において用いられる塩基性酸素溶鉱炉(BOF)システムであって、
溶融鉄鋼と溶融スラグとを保持するBOF転換炉を有し、該溶融スラグは前記溶融鉄鋼の上に浮かんでおり、前記BOF転換炉は前記溶融鉄鋼を流すためのタップホールを含んでおり、
前記BOF転換炉よりも低い高さにおいて位置づけられタップストリームにおいて前記タップホールを介して前記BOF転換炉から流れる溶融鉄鋼を受けるレイドルと、
前記タップストリーム中のスラグの存在を検出するため前記タップホールから前記レイドルに流れる溶融鉄鋼と溶融スラグの前記タップストリームを撮影するイメージデバイスと、
前記転換炉の傾き角を決定するためのセンサーと、
実質的な量のスラグが前記タップストリーム中で検出されさらに前記転換炉の傾斜角が予め定められた値より大きいか又は予め定められた範囲以内であると、タッピングを停止する手段とを有することを特徴とするシステム。
【請求項14】請求項13のシステムにおいて、前記手段はタッピングを停止すべきオペレータに示すためのアラームを発生する手段を有することを特徴とするシステム。
【請求項15】請求項13のシステムにおいて、前記手段は前記転換炉を自動的に上側に傾斜してタッピングを停止する手段を含むことを特徴とするシステム。
【請求項16】請求項13のシステムにおいて、前記手段は、(a)前記タップホールの穴にピストン又はとめ金を挿入してタッピングを停止する手段と、(b)オペレータのためのモニター上に前記タップストリーム中のスラグを示す色を表示する手段の一つを含むことを特徴とするシステム。
【請求項17】請求項13のシステムにおいて、さらに、約8μmより小さいIR波長の全てをカットして少なくとも約8μmのIR波長を前記タップストリーム中のスラグの検出のため用いるフィルターを含むことを特徴とするシステム。
【請求項18】請求項13のシステムにおいて、前記イメージデバイスはIRイメージデバイスであり、前記イメージデバイスは同時に対象の第1及び第2の非隣接の予め選択された領域を撮影して、前記タップホールからのタップストリームが対象の前記第1の領域を介して流れるが前記第2の領域を介して流れておらず、対象の前記第2の領域は前記転換炉の開口よりも低い高さに配置されていることを特徴とするシステム。
【請求項19】鉄鋼を製造中、鉄鋼製造容器から溶融金属を注ぐ方法であって、
溶融鉄鋼及び溶融スラグを含む前記溶融金属の容積を保持する鉄鋼製造容器を準備するステップと、
前記容器から流れる溶融金属のストリームをモニターするためのIRイメージカメラを準備するステップと、
前記容器を傾けて、これによって前記容器から前記溶融金属を前記ストリーム中に流すステップと、
少なくとも幾つかのIR波長を用いて前記IRイメージカメラで前記ストリームをモニターするステップと、
イメージフレームに対して前記ストリーム中の鉄鋼を示す画素の第1の数と前記ストリーム中のスラグを示す画素の第2の数を決定するステップと、
イメージフレームからスラグ画素を示す数を前記容器からすでに流れたスラグを示す前スラグ数を加算して前記第2の数とする測定ステップと、
画素の前記第1及び前記第2の数を用いて率を決定するステップと、
前記率が前記ストリーム中の少なくとも予め選択された量のスラグを示すかを決定するステップと、
前記率が前記ストリーム中の少なくとも予め選択された量のスラグを示すと決定されるとタッピングを停止するステップとを有することを特徴とする方法。
【請求項20】 請求項19の方法において、前記測定ステップでは、イメージフレームからスラグ画素を示す数を前記容器からすでに流れたスラグを示す前スラグ数を加算するスラグカウンターを利用することを含むことを特徴とする方法。
【請求項21】 請求項19の方法において、前記容器はBOF転換炉及び電気的鉄鋼製造溶鉱炉の一つであることを特徴とする方法。
【請求項22】 鉄鋼を製造中、鉄鋼製造容器から溶融金属を注ぐ方法であって、
溶融鉄鋼及び溶融スラグを含む前記溶融金属の容積を保持する鉄鋼製造容器を準備するステップと、
前記容器から流れる溶融金属のストリームをモニターするためのカメラを準備するステップと、
前記容器を傾けて、これによって前記容器から前記溶融金属を前記ストリーム中に流すステップと、
前記カメラで前記ストリームをモニターするステップと、
イメージフレーム中の複数の画素に対するグレースケール値を決定して前記イメージフレーム中の前記画素の各々にグレースケール値を割り当てるステップと、
予め選択されたスラググレースケール範囲内で前記イメージフレーム中の画素のどれがグレースケール値をもつかを決定し、予め選択された鉄鋼グレースケール範囲内で前記イメージフレーム中の画素のどれがグレースケール値をもつかを決定して、該結果を用いてそれぞれスラグを示す画素の第1の数及び鉄鋼を示す画素の第2の数を計算するステップと、
画素の前記第1及び前記第2の数を利用して0から1.0の範囲の率を決定するステップと、
前記率が前記タップストリーム中の少なくとも予め選択された量のスラグを示すかを決定するステップと、
前記率が前記タップストリーム中の少なくとも予め選択された量のスラグを示すと決定されると前記タッピングを停止するステップとを有することを特徴とする方法。」

2、特許異議申立の概要
特許異議申立人 吉田栄一は、証拠として
甲第1号証:特開平7-260696号公報
甲第2号証:特公昭60-143号公報
甲第3号証:特公昭59-26383号公報
甲第4号証:特公昭61-55569号公報
甲第5号証:特開平6-235017号公報
甲第6号証:特許第2802025号公報
甲第7号証:特許第2802026号公報
甲第8号証:特開平9-182953号公報
を提出して、本件特許の請求項1〜22に係る発明は、甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものであると主張している。
(なお、当審の通知した特許の取消しの理由は、異議の申立ての理由と同趣旨のものであった。)

3、特許異議申立人の提出した甲各号証の記載について
3-1、甲第1号証
転炉からの出鋼時のスラグ流出検出方法に関し、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】転炉から取鍋へ流れ込む出鋼流の表面をテレビカメラ或いはCCDカメラ等で撮影し、画像を一定周期で画像処理解析装置に出力する過程と、画像処理解析装置において、画像内の設定した監視エリア内で入力画像があるごとにエリア内の各画素ごとに輝度に応じた濃淡レベルを求め、ついで監視エリア内の平均濃淡レベルを演算する過程と、平均濃淡レベルが求められる都度、前回までの移動平均値との比較演算を行い、その差が設定値を越えたとき“スラグ流出”を判定する過程とよりなるスラグの流出検出方法。
【請求項2】 監視エリアは画像内に複数カ所設けられる請求項1記載のスラグの流出検出方法。
【請求項3】 判定結果を転炉或いは取鍋の傾動を制御する傾動装置に出力する過程を有する請求項1記載のスラグの流出検出方法。
【請求項4】 テレビカメラ或いはCCDカメラは、転炉後部又は後方に配置される請求項1記載のスラグの流出検出方法。」
「【0007】【課題の解決手段及び作用】本発明の検出方法においては、転炉から取鍋へ流れ込む出鋼流の表面をテレビカメラやCCDカメラ等(以下単にカメラ等という)で撮影し、一定周期で画像処理解析装置に入力する。画像処理解析装置では、画像内の設定した監視エリア内において、入力画像の各画素ごとに輝度に応じた濃淡レベルを求め、監視エリア内の平均濃淡レベルを演算する。
【0008】
この演算は一定周期ごとに繰返し行われ、平均濃淡レベルが求められる都度、前回までの移動平均値との差が算出される。そしてこの差が設定値を越えたとき、スラグの流出と判定するのである。本発明によれば、出鋼流表面の監視エリア内の平均濃淡レベルが一定周期で監視され、出鋼末期に出鋼流が溶鋼よりスラグに変わる際、その輝度の違いにより平均濃淡レベルが変化する。この変化によりスラグの流出が検出される。
【0009】
監視エリアの設定は、複数カ所設けるのが望ましい。・・・監視エリアが複数設けられる場合、そのうちの1つでも“スラグ流出”と判定されると、転炉傾動装置に出力され、転炉が起こされる。これによりスラグの流出が停止される。
【0010】
スラグ流出と判定されると、ブザー若しくはランプで表示し、それに基づいて転炉或いは取鍋を復転させるようにしてもよい。
【0011】【実施例】 図1は、転炉1から取鍋2へ出鋼される出鋼流3の監視装置について示すもので、転炉後部に設置したCCDカメラ4で出鋼流を撮影し、撮影した画像を一定周期で画像処理解析装置5に入力する。図2は、CCDカメラ4で撮影した撮像画面を示すもので、画像処理解析装置5では、・・・各測定ライン上の各画素における輝度より濃淡レベルを求める。図3は、測定ラインAにおける濃淡レベルを示すもので、レベルがしきい値Hより大きい範囲を出鋼流の位置として認識する。次に・・・中心点の座標X1 、Y1 を求める。そして・・・座標X1 、Y1 を中心としてm・n画素を監視エリア6として設定する。
【0012】
次に監視エリア6内の平均濃淡レベルLを次式より演算する。・・・
以上のようにして画像処理解析装置5にて算出された各エリアの平均濃淡レベルが演算装置7に入力される。演算装置7では画像処理解析装置5より各エリアの平均濃淡レベルLが入力される都度、それまでのl回の移動平均値LM(n)を次式
【0013】
【数1】・・・・
【0014】で演算記憶すると共に、前回の移動平均値、LM(n-1)との比較演算を行い、その差が所定の値以上になると、“スラグ流出”と判定する。・・・各エリアのうち、1つでも“スラグ流出”と判定すると、転炉傾動制御装置8に出力され、転炉1を復転させる。」

3-2、甲第2号証
炉又は溶鋼容器の溶鋼流出自動制御装置における信号判別装置に関し、次の記載がある。
「1 炉又は溶鋼容器より流下する溶鋼流の発する赤外線を検出する赤外線カメラと、該赤外線力メラて溶鋼とスラグの発する赤外線を2種類に色別してモニター画像を現出するカラーモニターと、2種類の色画像を面積比率により判別信号化する信号判別装置と、前記判別信号により炉又は溶鋼容器の溶鋼流出用ノズルを閉塞するノズル閉塞装置よりなり、炉又は溶鋼容器のスラグの流出を検出して溶鋼流出用ノズルを自動閉塞することを特徴とする製鋼における炉又は溶鋼容器の溶鋼流出自動制御装置。
2 ・・・・・・・
モニター画像に写し出された溶鋼とスラグの2種類の画像(走査線)を面積として検出する装置と、この検出面積を対比して面積比率に換算する比較器と、この面積比率を設定比率と比較して面積比率の設定値に対する大小を判別する比率設定器及び設定値より大なるとき制御信号を発する発信器よりなる炉又は溶鋼容器の溶鋼流出自動制御装置における信号判別装置。」(第1頁特許請求の範囲)
「赤外線カメラAは、第1図に示すように、…とりべ2と夕ンディッシュ3の間の溶鋼流6を映し出させるようにする。」(第2頁左欄第5〜8行))
「すなわち、スラグの赤外線放射率は溶鋼に比べて高いため、スラグが混入すれば走査線8中に輝度の高いはん点が現れるのてある。
信号判別装置は前記カラーモニターBに映し出された溶鋼流の走査線面積とスラグの走査線面積の比を求め、この面積比率をあらかじめ決められた設定値と比較し、設定値より大なるとき制御信号を発するものであり、・・・」(第2頁左欄第25〜33行)

3-3、甲第3号証
溶融金属用容器への溶融金属注入時の滓の混入検出方法に関し、次の記載がある。
「溶融金属用容器への溶融金属注入時に、溶融金属注入流または前記容器内溶融金属面を光学系カメラによって撮像し、前記カメラの撮像信号における溶融金属と滓との輝度差に基づいて前記容器中溶融金属への滓の混入量を検出することを特徴とする滓の混入検出方法。」(第1頁左欄特許請求の範囲)
「レンズ14および光ファイバー13によって、第6図に示した中間取鍋5の溶鋼2′上面の状況を画像イメーシのまま第3図に示すテレビカメラ18が撮像し、これを画像電気信号に変換しモニター19および画像処理装置20へ出力する。
画像処理装置20はマイクロコンピューターを用いて次のようなデータ処理を行なう。
(1)画像を縦、横512×512個に分割する。
(2)分割したそれぞれの画面を輝度により次の通りに分割しそれぞれの個数をカウントする。
分割区分 分割レベル
滓画面個数
←滓と溶鋼の境界輝度
溶鋼画面個数
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(3)溶鋼中の滓の面積比を次式で計算し、電気信号を出力する。
滓面積比=滓画面個数 / 滓画面個数+溶鋼画面個数
処理の説明図を第7図、第8図および第9図に示す。」(第2頁右欄第3行〜第24行)
また、第9図には滓面積比出力信号の一例が示されている。

3-4、甲第4号証
転炉炉傾動角度検出装置に関し、次の記載がある。
「転炉においては、その傾動角度が、サンプリングに適した範囲にあるか、監視すべき角度範囲にあるか、吹錬位置にあるか、出鋼に適した角度範囲にあるか等を知るため、転炉の傾動角度を検出し、予め設定されている複数のゾーン信号として出力するようにされた転炉炉傾動角度検出装置が用いられることがある。
この転炉炉傾斜角度検出装置は、例えば第1図に示す如く、転炉10の回転軸10aに、カップリング12を介して接続された、例えばセルシン発信器なる角度信号発信器14と、・・・」(第1頁左欄第18行〜右欄第1行)
「このような転炉炉傾動角度検出装置によれば、第3図に示すような、転炉の傾動状態に応じて出力されるゾーン信号Z1〜Z7を、シーケンスインターロック及び工程確認に利用することができる・・・」(第2頁左欄第35〜38行)

3-5、甲第5号証
取鍋内へのスラグ流出防止に関し、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】転炉で溶製した溶鋼を取鍋に出鋼する際、出鋼流中のスラグ流出量を電気信号により検知すること、予め設定したスラグ流出レベルを超えたスラグ量の流出を検知したときにスラグカットを実施すること、・・・」
「【0024】・・・取鍋出鋼時はスラグ検知を作動させておき、末期に至りスラグ検知設定レベル以上のスラグ流出を感知すると同時に図4のスラグストッパを作動させ取鍋内へのスラグ流出を防止した。・・・」
また、図4には外挿式スラグストッパーの概略図が示されている。

3-6、甲第6号証
転炉の出鋼口栓自動挿入装置に関して記載されている。

3-7、甲第7号証
転炉の出鋼口栓自動挿入装置に関して記載されている。

3-8、甲第8号証
スラグ検知方法に関し、次のような記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】溶融金属の排出流の輝度をCCDカメラで観測し、得られる輝度分布図を画像処理して溶融金属とスラグに分けるしきい値を算出し、設定したしきい値により2値化処理したのち、しきい値以上の輝度を有し、かつ特定の画素数以上の連結成分をラベリング処理して、算出されたスラグ部分の面積(画素数)の値が判定値以上となった時をスラグ流入開始時点と判定することを特徴とするスラグ検知方法。」
「【0011】【発明の実施の形態】以下、本発明のスラグ検知方法を溶融金属として溶鋼を例に詳しく説明する。先ず、溶鋼の排出流をCCDカメラで観測して、その輝度信号をヒストグラムカウンタを備えた演算装置に入力して、横軸に輝度、縦軸に度数をとって輝度レベル0〜255の輝度分布図を作成し、判別分析法により輝度レベル0〜250の範囲で溶鋼とスラグに分別するしきい値を設定する。・・・」
「【0016】本発明は、このようにして算出し、自動設定したしきい値βを用いて輝度分布図を溶鋼とスラグとに分けて2値化処理したのち、しきい値β以上の画像をスラグ部分としてラベリング処理することによりスラグ部分の面積(画素数)が算出される。そして、この面積(画素数)の変化を監視することにより、その値が予め設定した値より大きくなった時をスラグの流入が始まった時点と判定するものである。・・・」
「【0020】次に、本発明のスラグ検知方法を図1に示したフローチャートに基づいて説明する。先ず、溶鋼の排出流の輝度を観測するCCDカメラの測定領域を設定したのち、観測された輝度信号をCPUの画像処理ボードに入力して・・・輝度分布図が作成される。この輝度分布図を基に・・・溶鋼とスラグとに分けるしきい値βが算出、設定される。
【0021】設定したしきい値βにより溶鋼を黒、スラグを白として画像処理したのち2値化処理を行い、しきい値β以上の画面上白色として表示されている部分からスラグの面積を求める。・・・
【0022】このようにして算出したスラグ部分の面積を、予めスラグ検知を判定する基準として定めた判定値と対比して、判定値以上となった時をスラグ流入開始時点と判定する。・・・スラグ流入が検知されると警報装置に警報信号が出力されてスラグ混入の防止措置が施される。・・・」

4、当審の判断
4-1、本件発明1について
4-1-1、本件発明1と甲第1号証に記載のものとの対比
甲第1号証には、「転炉から取鍋へ流れ込む出鋼流の表面を・・・CCDカメラ・・・で撮影し、一定周期で画像処理解析装置に入力する。画像処理解析装置では、画像内の設定した監視エリア内において、入力画像の各画素ごとに輝度に応じた濃淡レベルを求め、監視エリア内の平均濃淡レベルを演算する。」こと、「この演算は一定周期ごとに繰返し行われ、平均濃淡レベルが求められる都度、前回までの移動平均値との差が算出される。そしてこの差が設定値を越えたとき、スラグの流出と判定するのである。」(段落【0008】)こと、「スラグ流出と判定されると、ブザー若しくはランプで表示し、それに基づいて転炉或いは取鍋を復転させるようにしてもよい。」(段落【0010】)」ことが記載されており、これらの記載より、甲第1号証には、転炉からの出鋼時のスラグ流出検出方法であって、転炉から取鍋へ流れ込む出鋼流の表面をCCDカメラで撮影し、一定周期で画像処理解析装置に入力し、画像内に設定した監視エリア内において入力画像の各画素ごとに輝度に応じた濃淡レベルを求め、エリア内の平均濃淡レベルを演算し、その都度、前回までの移動平均値との差を算出し、この差が設定値を越えたとき、スラグの流出と判定し、その結果転炉を復転させる方法が記載されているものである。
そして、甲第1号証に記載のものにおいて、「転炉」、「取鍋」、「出鋼」、「出鋼流」、「入力画像」は、本件発明1でいうところの「BOF転換炉」、「レードル」、「タッピング」、「タップストリーム」、「イメージフレーム」にそれぞれ相当し、また、甲第1号証に記載のものが、転炉内にスラグを形成するために酸素を導入しつつ溶融金属を収納するための転炉を準備するステップ、及び出鋼が転炉を傾斜させることによって行われるステップをともに有することは明らかであり、さらに、溶融金属の出鋼流が撮影対象の領域の少なくとも一部分を介して前記BOF転換炉から前記レイドルに流れることも明白なことであり、その際、対象をROI#1と、また、領域を第1の領域とそれぞれ表記することは、単に表現上のことであって技術的意味は何らないものである。
そうすると、甲第1号証には、請求項1の記載に則して記載すると、
鉄鋼製造においてBOF転換炉のタッピング中スラグを検出する方法であって、
BOF転換炉内にスラグを形成するため前記転換炉に酸素を導入しつつ溶融金属を収納するためのBOF転換炉を準備するステップと、
前記BOF転換炉から前記溶融金属が流れるレイドルを準備するステップと、
前記BOF転換炉をタッピングして前記溶融金属のタップストリームが対象(ROI#1)の第1の領域を介して前記BOF転換炉から前記レイドルに流れ、前記タッピングが少なくとも前記転換炉を傾斜させることによって行われるステップと、
前記タッピング中少なくとも前記ROI#1において前記タップストリームを撮影して少なくとも一つのイメージフレームを提供するステップと、
監視エリア内においてイメージフレームの各画素ごとに輝度に応じた濃淡レベルを求め、エリア内の平均濃淡レベルを演算し、平均濃淡レベルが求められる都度、前回までの移動平均値との差を算出するステップと、
前記差が前記タップストリーム中の少なくとも予め選択された量のスラグを示すかを決定するステップと、
前記率が前記タップストリーム中における少なくとも前記予め選択された量のスラグを示すことが決定されると前記タッピングを停止するステップとを有することを特徴とする方法。
が記載されているものといえる。
そこで、本件発明1と甲第1号証に記載のものを対比すると、両者は次の点で相違し、その余の点では一致する。
(1)相違点1
タップストリームを撮影して少なくとも一つのイメージフレームを提供するにあたり、本件発明1がIR撮影するのに対し、甲第1号証に記載のものではIR撮影するかどうか不明である点。
(2)相違点2
タップストリーム中における少なくとも予め選択された量のスラグを示すことを決定するにあたり、本件発明1が、前記タップストリーム中の鉄鋼を示す予め定められた鉄鋼範囲内で前記イメージフレームの画素に対して前記鉄鋼の画素数と前記タップストリーム中のスラグを示す予め定められたスラグ範囲内で前記スラグの画素数を決定するステップと、前記鉄鋼の画素数と前記スラグの画素数を用いて0から1.0までの範囲である率を決定するステップ」によって行うのに対し、甲第1号証に記載のものが、監視エリア内においてイメージフレームの各画素ごとに輝度に応じた濃淡レベルを求め、エリア内の平均濃淡レベルを演算し、平均濃淡レベルが求められる都度、前回までの移動平均値との差を算出するステップによって行う点。
(3)相違点3
タッピングを停止するにあたり、本件発明1が、転換炉の傾斜角θを決定するステップと、前記タップストリーム中における少なくとも前記予め選択された量のスラグを示すことが決定されかつ前記傾斜角θが予め定められた値より大きく又は予め定められた範囲内であることが決定されると前記タッピングを停止するステップとを有するものであるのに対し、甲第1号証に記載のものが、転換炉の傾斜角θを決定するステップを有しておらず、タップストリーム中における少なくとも予め選択された量のスラグを示すことが決定されるとタッピングを停止するステップとを有するものである点

4-1-2、相違点の判断
そこで、相違点3について検討する。
本件発明1が相違点3に記載の事項を有するのは、本件特許の明細書に、「図9に示すように、SSR値がこのしきい値を越えなければ、タッピング処理は継続し、ステップ108が繰り返された際、次のイメージフレームが解析される。しかしながら、ステップ129において、一旦SSR値がこのアラームしきい値(例えば、0.40)を越え、・・・さらに、転換炉3が、ステップ133において、最終傾斜角θの予め定められた範囲(例えば、約90から105度)内で傾けるべきであるとセンサーによって決定されると、ステップ135において、アラームが発生する。」(段落【0054】)、及び「もしも、ステップ133において、転換炉タップ角が予め定められた最終タップ角範囲内でないと決定されると、早いスラグアラームが、スラグがタッピングの早い段階中で転換炉から不注意的に注がれたことを示すステップ139において発生する。」(段落【0055】参照)と記載されているように、スラグアラームが、転換炉傾斜角が最終タップ角範囲内より前のタッピングの早い段階中において、発生したか否かを決定するためである。
これに対し、甲第4号証には、前記摘記した記載にあるように、転炉において、その傾動角度が、サンプリングに適した範囲にあるか、監視すべき角度範囲にあるか、吹錬位置にあるか、出鋼に適した角度範囲にあるか等を知るため、転炉の傾動角度を検出し、予め設定されている複数のゾーン信号として出力するとともに、ゾーン信号を、シーケンスインターロック及び工程確認に利用することができるようにした転炉炉傾動角度検出装置が記載されているが、本件発明1のように、タップストリーム中にスラグが検出され、スラグアラームが発生してタッピングを停止する際に、転炉の傾動角度を検出して、スラグアラームが、傾斜角が最終タップ角範囲内より前のタッピングの早い段階中において、発生したか否かを決定することに関しては何ら記載されておらず、かつそれを示唆するような記載もない。
さらに、甲第2号証には、製鋼における炉又は溶鋼容器の溶鋼流出自動制御装置に関し記載され、甲第3号証には、溶融金属用容器への溶融金属注入時における滓の混入検出方法について記載され、甲第8号証にも溶融金属の排出流スラグの検出について記載されているが、いずれも固定した炉や溶鋼容器を用いる連続鋳造に関して記載されているのみで、傾斜させてタッピングを行うような転換炉に関しては記載されていない。また、甲第5号証には、転炉で溶製した溶鋼を取鍋に出鋼する際、取鍋出鋼時はスラグ検知を作動させておき、末期に至り設定レベル以上のスラグ流出を感知すると同時にスラグストッパを作動させ取鍋内へのスラグ流出を防止することが記載され、甲第6、7号証には、転炉(転換炉)における出鋼口(タップホール)を閉塞する手段について記載されているが、スラグ流出と転炉の傾斜角度との関連については記載されていない。
そうすると、甲第2〜8号証には、相違点3における本件発明1のように、転換炉の傾斜角θとタッピングの停止を関連づけることは何ら記載されておらず、また、そのようにすることを示唆するような記載もないから、甲第1号証に記載の方法に甲第2〜8号証に記載のものを組み合わせたとしても、本件発明1を当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、本件発明1は、相違点3に記載された事項によって特定されることにより、
「幾らかのスラグが大部分の溶融鉄鋼の前にタップホールから初期的に注がれるかもしれない初期タッピング段階の間、タッピングが停止される機会を減らすことになる。」(段落【0014】参照)という明細書に記載された格別の作用効果を奏するものである。
そうすると、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-2、本件発明2〜12について
本件発明2〜6、本件発明8〜10及び本件発明12は請求項1を引用して記載された発明であり、本件発明7、11は、請求項1を引用する他の請求項を引用して記載された発明であって、いずれの発明も本件発明1において、発明を特定する事項をさらに追加した発明であるから、本件発明2〜12についても本件発明1と同様に甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-3、本件発明13について
本件発明13は、「前記転換炉の傾き角を決定するためのセンサーと、実質的な量のスラグが前記タップストリーム中で検出されさらに前記転換炉の傾斜角が予め定められた値より大きいか又は予め定められた範囲以内であると、タッピングを停止する手段とを有する」ことを発明を特定する事項とするものであり、この事項は、前記相違点3における本件発明1が有する事項と同様のものであるから、本件発明13は、前記相違点3について記載した理由により甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-4、本件発明14〜18について
本件発明14〜18は請求項13を引用して記載された発明であって、本件発明13において、発明を特定する事項をさらに追加した発明であるから、本件発明14〜18についても本件発明13と同様に甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-5、本件発明19について
4-5-1、本件発明19と甲第1号証に記載のものとの対比
甲第1号証において、「転炉」、「CCDカメラ」は、本件発明19でいうところの「鉄鋼製造容器」、「イメージカメラ」に相当するものであるから、前記摘記した記載及び前記「4-1-1、本件発明1と甲第1号証に記載のものとの対比」の項での甲第1号証に関する記載を参照すると、甲第1号証には、請求項19の記載に則して記載すると、
鉄鋼を製造中、鉄鋼製造容器から溶融金属を注ぐ方法であって、
溶融鉄鋼及び溶融スラグを含む前記溶融金属の容積を保持する鉄鋼製造容器を準備するステップと、
前記容器から流れる溶融金属のストリームをモニターするためのイメージカメラを準備するステップと、
前記容器を傾けて、これによって前記容器から前記溶融金属を前記ストリーム中に流すステップと、
前記イメージカメラで前記ストリームをモニターするステップと、
監視エリア内においてイメージフレームの各画素ごとに輝度に応じた濃淡レベルを求め、エリア内の平均濃淡レベルを演算し、平均濃淡レベルが求められる都度、前回までの移動平均値との差を算出するステップと、
前記差が前記ストリーム中の少なくとも予め選択された量のスラグを示すかを決定するステップと、
前記差が前記ストリーム中の少なくとも予め選択された量のスラグを示すと決定されるとタッピングを停止するステップとを有することを特徴とする方法。
そこで、本件発明19と甲第1号証に記載のものを対比すると、両者は次の点で相違し、その余の点では一致する。
(1)相違点4
容器から流れる溶融金属のストリームをモニターするにあたり、本件発明19がIRイメージカメラを準備するのに対し、甲第1号証に記載のものではIRイメージカメラを準備するかどうか不明である点。
(2)相違点5
溶融金属のストリーム中における少なくとも前記予め選択された量のスラグを示すことを決定するにあたり、本件発明19が、「イメージフレームに対して前記ストリーム中の鉄鋼を示す画素の第1の数と前記ストリーム中のスラグを示す画素の第2の数を決定するステップと、イメージフレームからスラグ画素を示す数を前記容器からすでに流れたスラグを示す前スラグ数を加算して前記第2の数とする測定ステップと、画素の前記第1及び前記第2の数を用いて率を決定するステップと」によって行うのに対し、甲第1号証に記載のものが、監視エリア内においてイメージフレームの各画素ごとに輝度に応じた濃淡レベルを求め、エリア内の平均濃淡レベルを演算し、平均濃淡レベルが求められる都度、前回までの移動平均値との差を算出するステップによって行う点。

4-5-2、相違点の判断
そこで、相違点5について検討すると、甲第2、3、8号証には、前記摘記した記載にあるように、溶融金属のストリーム中における予め選択された量のスラグを示すことを決定することに関して記載されている。すなわち、
甲第2号証には、前記摘記した記載にあるように、溶鋼容器より流下する溶鋼流の発する赤外線を赤外線カメラで検出し、モニター画像に写し出された溶鋼とスラグの2種類の画像(走査線)を面積として検出し、この検出面積を対比して面積比率に換算して、この面積比率を設定比率と比較して面積比率の設定値に対する大小を判別し、設定値より大なるとき制御信号を発するようにすることが記載されている。
甲第3号証には、溶融金属用容器への溶融金属注入時に、溶融金属注入流または前記容器内溶融金属面を光学系カメラによって撮像し、撮像画像を縦、横512×512個に分割し、分割したそれぞれの画面を輝度により溶鋼画面と滓画面に分割し、それぞれの個数をカウントし、溶鋼中の滓の面積比を計算し、容器中溶融金属への滓の混入量を検出することが記載されている。
甲第8号証には、溶鋼の排出流をCCDカメラで観測して、その輝度信号をヒストグラムカウンタを備えた演算装置に入力して、横軸に輝度、縦軸に度数をとって輝度レベル0〜255の輝度分布図を作成し、判別分析法により輝度レベル0〜250の範囲で溶鋼とスラグに分別するしきい値を設定する。そして、設定したしきい値βを用いて輝度分布図を溶鋼とスラグとに分けて2値化処理したのち、しきい値β以上の画像をスラグ部分としてラベリング処理することによりスラグ部分の面積(画素数)を算出して、この面積(画素数)の変化を監視することにより、その値が予め設定した値より大きくなった時をスラグの流入が始まった時点と判定することが記載されている。
しかしながら、これら甲第2、3、8号証には、スラグの量を決定する際に、イメージフレームに対してストリーム中の鉄鋼を示す画素の第1の数と前記ストリーム中のスラグを示す画素の第2の数を決定するステップと、イメージフレームからスラグ画素を示す数を前記容器からすでに流れたスラグを示す前スラグ数を加算して前記第2の数とする測定ステップを有するようにすることは何ら記載されていない。
また、甲第4〜7号証には、「4-1-2、相違点の判断」の項で指摘した事項が記載されているだけである。
そうすると、甲第2〜8号証には、相違点5における本件発明19のようにスラグを示す画素の数を決定することは何ら記載されておらず、また、そのようにすることを示唆するような記載もないから、甲第1号証に記載の方法に甲第2〜8号証に記載のものを組み合わせたとしても、本件発明19を当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、本件発明19は、相違点5に記載された事項によって特定されることにより、本件特許の明細書に、「【0058】・・・スラグ画素の数とスラグキャリーオーバーの実際の量との相関を達成することができる。キャリーオーバーされたスラグの実際の量は、レイドル中の物理的スラグの深さを測定することによって・・・決定することができる。この相関(物理的に測定されたスラグとイメージシステムによって検出されたスラグとの間の)は、添付のイメージソフトウェアでレイドルへのスラグキャリーオーバーの量を予測することに用いられるかもしれない。」と記載されているように、イメージフレーム上のスラグ画素数と実際のスラグ流出量の間の関係を求めることができ、それによってスラグ流出量が予測できるという格別の効果を奏するものである。
したがって、相違点4について検討するまでもなく本件発明19は、甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-6、本件発明20〜21について
本件発明20〜21は請求項19を引用して記載された発明であって、本件発明19において、発明を特定する事項をさらに追加した発明であるから、本件発明20〜21についても本件発明19と同様に甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-7、本件発明22について
4-7-1、本件発明22と甲第1号証に記載のものとの対比
甲第1号証において、「転炉」、「CCDカメラ」は、本件発明22でいうところの「鉄鋼製造容器」、「イメージカメラ」に相当するものであるから、前記摘記した記載及び前記「4-1-1、本件発明1と甲第1号証に記載のものとの対比」の項での甲第1号証に関する記載を参照すると、甲第1号証には、請求項22の記載に則して記載すると、
鉄鋼を製造中、鉄鋼製造容器から溶融金属を注ぐ方法であって、
溶融鉄鋼及び溶融スラグを含む前記溶融金属の容積を保持する鉄鋼製造容器を準備するステップと、
前記容器から流れる溶融金属のストリームをモニターするためのカメラを準備するステップと、
前記容器を傾けて、これによって前記容器から前記溶融金属を前記ストリーム中に流すステップと、
前記カメラで前記ストリームをモニターするステップと、
監視エリア内においてイメージフレームの各画素ごとに輝度に応じた濃淡レベルを求め、エリア内の平均濃淡レベルを演算し、平均濃淡レベルが求められる都度、前回までの移動平均値との差を算出するステップと、
前記差が前記タップストリーム中の少なくとも予め選択された量のスラグを示すかを決定するステップと、
前記差が前記タップストリーム中の少なくとも予め選択された量のスラグを示すと決定されると前記タッピングを停止するステップとを有することを特徴とする方法。
そこで、本件発明22と甲第1号証に記載のものを対比すると、両者は次の点で相違し、その余の点では一致する。
(1)相違点6
タップストリーム中における少なくとも前記予め選択された量のスラグを示すことを決定するにあたり、本件発明22が、「イメージフレーム中の複数の画素に対するグレースケール値を決定して前記イメージフレーム中の前記画素の各々にグレースケール値を割り当てるステップと、予め選択されたスラググレースケール範囲内で前記イメージフレーム中の画素のどれがグレースケール値をもつかを決定し、予め選択された鉄鋼グレースケール範囲内で前記イメージフレーム中の画素のどれがグレースケール値をもつかを決定して、該結果を用いてそれぞれスラグを示す画素の第1の数及び鉄鋼を示す画素の第2の数を計算するステップと、画素の前記第1及び前記第2の数を利用して0から1.0の範囲の率を決定するステップと」によって行う、すなわち、予めスラグと鉄鋼のそれぞれのグレースケール範囲を選択しておき、イメージフレーム中の個々の画素にグレースケール値を割り当て、個々の画素のうちのどれがスラグと鉄鋼のグレースケール範囲の値をもつか決定し、スラグと鉄鋼を示すそれぞれの画素の数を計算するものであるのに対し、甲第1号証に記載のものが、監視エリア内においてイメージフレームの各画素ごとに輝度に応じた濃淡レベルを求め、エリア内の平均濃淡レベルを演算し、平均濃淡レベルが求められる都度、前回までの移動平均値との差を算出するステップによって行う点。

4-7-2、相違点の判断
そこで、相違点6について検討すると、前記「4-5-2、相違点の判断」の項に記載したように、甲第2、3、8号証には溶融金属のストリーム中における予め選択された量のスラグを示すことを決定することに関して記載されている。
しかしながら、甲第2号証に記載のものは、スラグの赤外線放射率が溶鋼に比べて高いことを利用して、モニター画像に写し出された溶鋼とスラグの2種類の画像(走査線)を面積として検出するものであり、また、甲第3号証に記載のものは、撮像画像を縦、横512×512個に分割し、分割したそれぞれの画面を輝度により溶鋼画面と滓画面に分割し、それぞれの個数をカウントし、溶鋼中の滓の面積比を計算しするものであり、いずれのものも、画像(画面)を輝度により溶鋼とスラグ(滓)の画像(画面)に分割し、それぞれの面積を求めるものであって、本件発明22のように、検出されたグレースケール(輝度)から、スラグと鉄鋼のグレースケール範囲をそれぞれ選択しておき、それぞれの範囲に該当する画素の数を求めるものとは相違している。
甲第8号証には、CCDカメラからの輝度信号を演算して輝度レベル0〜255の輝度分布図を作成し、その分布図から判別分析法により溶鋼とスラグに分別するしきい値を設定する。そして、設定したしきい値βを用いて輝度分布図を溶鋼とスラグとに分けて2値化処理したのち、しきい値β以上の画像をスラグ部分としてラベリング処理することによりスラグ部分の画素数を算出することが記載されており、輝度(グレースケール)をスラグ範囲と鉄鋼範囲に分ける点、及びスラグ範囲にあるスラグ部分の画素数を算出する点では、本件発明22と一部一致するものが記載されている。
しかしながら、本件発明22は、本件明細書で、「【0048】・・・ある実施例において、8ビットイメージのために、画素のグレースケール値は、例えば、0から255まで変化できる。・・・」及び「【0049】ある実施例において、鉄鋼ビンは図6-8に示すように約レベル60から160までのグレースケールレベルを備える画素を表すかもしれない。そして、スラグビンは図6-8に示すように約レベル230から255までのグレースケールレベルを備える画素を表すかもしれない。ビン内にないグレースケール値を有する画素は鉄鋼又はスラグを示すようにクラス化されない。」と記載されているように、画素のグレースケール値のうち、スラグと鉄鋼のそれぞれのグレースケール範囲を予め割り当てておくものであって、しきい値で分割するものではない。これに対し、甲第8号証に記載のものはしきい値で分割するため、たとえば鉄鋼部分は鉄鋼のみのグレースケール範囲ばかりでなく背景などのグレースケール範囲を含んでいる。そうすると、甲第8号証に記載のものは、本件発明22のような、「予め選択されたスラググレースケール範囲内で前記イメージフレーム中の画素のどれがグレースケール値をもつかを決定し、予め選択された鉄鋼グレースケール範囲内で前記イメージフレーム中の画素のどれがグレースケール値をもつかを決定」するものとは相違している。
そうすると、甲第2〜8号証には、相違点6における本件発明22のように、スラグと鉄鋼を示すそれぞれの画素の数を計算することは何ら記載されておらず、また、そのようにすることを示唆するような記載もないから、甲第1号証に記載の方法に甲第2〜8号証に記載のものを組み合わせたとしても、本件発明22を当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、本件発明22は、相違点6に記載された事項によって特定されることにより、本件特許の明細書に、「【0015】・・・タップストリームにおいて、対象(ROI)の第1の領域を示すIRカメラ画素のデジタル解析を行うことであり、これによって、表示されたROIにおいて、鉄鋼画素の数及びスラグ画素の数を決定すること」ができて、スラグキャリーオーバーの量を正確に検出でき、その結果、「本発明によれば、鉄鋼を生産する際、スラグキャリーオーバーを最小にすることが可能となる。」(本件明細書段落【0066】【発明の効果】参照)という格別の効果を奏するものである。
したがって、本件発明22は、甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5、むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1ないし22に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-10-22 
出願番号 特願2000-6927(P2000-6927)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C21C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深坂 俊司  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 綿谷 晶廣
中村 朝幸
登録日 2001-02-16 
登録番号 特許第3160273号(P3160273)
権利者 ベスレヘム・スチール・コーポレイション
発明の名称 鉄鋼生産の間のスラグキャリーオーバーを最小にするためのシステム及び方法  
代理人 小島 高城郎  

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