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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B22D
管理番号 1068736
審判番号 不服2001-6643  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-08-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-04-26 
確定日 2002-12-18 
事件の表示 平成7年特許願第22392号「鋼の連続鋳造用パウダー」拒絶査定に対する審判事件〔平成8年8月6日出願公開、特開平8-197214、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年1月18日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成13年5月25日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「炭素含有量が0.08〜0.18wt%の中炭素鋼を連続鋳造で鋳造するに際して、CaOおよびSiO2 をCaO/SiO2 =1.0〜1.5(wt%比)の範囲で含有し、Al2 O3 ;2〜9wt%、Na2 O;7〜14wt%、Li2 O;0.5〜3wt%でかつ(Na2 O+2×Li2 O)が8〜15wt%、F;4〜12wt%、溶融速度調整剤としての炭素粉を0.5〜7wt%を含有し、MgOおよびZrO2 は不純物から不可避的に入るもの以外には含有せず、1300℃における粘度が0.6〜2.5poiseであり、溶融温度T1 と凝固温度T2 が、1250℃≧T2 ≧1150℃、かつ75℃≧T2-T1≧40℃の関係式を満足することを特徴とする連続鋳造用パウダー。」

2.原査定の概要
原査定の拒絶理由は、本願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物である特開平5-277680号公報(以下、「引用例1」という。)ないし特公昭63-53902号公報(以下、「引用例2」という。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前である平成5年10月26日に頒布された引用例1には次の事項が記載されている。
(1-a)「【請求項1】CaO及びSiO2をCaO/SiO2(重量%比);1.2乃至1.4の比で含有し、1乃至3重量%のAl2O3、5乃至9重量%のF、1乃至4重量%のZrO2、1乃至7重量%のCを含有し、更に、3乃至5重量%のMgO及び2重量%以下のMnOの1種又は2種を含有し、8重量%以下のNa2O、1.5重量%以下のK2O及び1.5重量%以下のLi2Oからなる群から選択された少なくとも1種の成分を総量で9重量%以下含有し、ZrO2/(Na2O+Li2O+K2O)(重量%比)を0.2乃至0.5に設定したことを特徴とする連続鋳造用フラックス。
【請求項2】凝固温度が1100乃至1250℃であることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用フラックス。
【請求項3】粘度が0.3乃至2.0Poiseであることを特徴とする請求項1又は2に記載の連続鋳造用フラックス。」(特許請求の範囲)
(1-b)「【産業上の利用分野】本発明は、鋼の連続鋳造において、鋳型内の溶鋼上に散布され溶鋼表面を被覆して溶鋼の酸化を防止すると共に、溶融して鋳型と鋳片との間に流れ込み、潤滑作用を発揮する連続鋳造用フラックスに関し、特に炭素含有量が0.08乃至0.16重量%である亜包晶凝固領域にある鋼の連続鋳造において、鋳片表面に生じる割れを防止するために適用される連続鋳造用フラックスに関する。」(【0001】)
(1-c)【表2】には、連続鋳造用フラックスの組成として、実施例No.12ではNa2Oの含有量が7.5重量%でLi2Oの含有量が1重量%のもの、実施例No.13ではNa2Oの含有量が6重量%でLi2Oの含有量が1重量%のもの、実施例No.15ではNa2Oの含有量が6重量%でLi2Oの含有量が1.5重量%のもの、実施例No.17ではNa2Oの含有量が8重量%でLi2Oの含有量が0.5重量%のもの、実施例No.18ではNa2Oの含有量が8重量%でLi2Oの含有量が0重量%のものが記載されている。

また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前である昭和63年10月26日に頒布された引用例2には次の事項が記載されている。
(2-a)「重量で39〜46%のCaO、40〜56%のSiO2および2〜15%のAl2O3を主成分として含み、Na2O、K2O、Li2O等のアルカリ金属の酸化物、CaF2、BaF2、NaF、LiF等のアルカリ土類金属ないしアルカリ金属の弗化物、およびNa2CO3、K2CO3、Li2CO3、CaCO3、BaCO3等のアルカリ金属ないしアルカリ土類金属の炭酸塩のうちから選んだ少なくとも一種を副成分として含有する連続鋳造用パウダーであって、・・・軟化溶融温度と凝固温度との差が120度以内で・・・とする連続鋳造用パウダー。」(特許請求の範囲)
(2-b)「軟化温度と凝固温度の差は、鋳型内メニスカス部のスラグリムの生成状況に決定的な影響をもたらす。この温度差が120度を超えるとスラグリムが極度に発達し、その結果、メニスカスからの溶融スラグの流入が不均一となり、縦割れを増加させるに到る。すなわち、この温度差を小さくすることが望ましく、縦割れを少なくするには、120度以内とすることが必要であり、スラグリムの発達を軽度のものとすることが出来る。また、より望ましくは、80度以内とすることであり、こうすることによりスラグリムを極めて軽度なものとし、その結果、スラグのメニスカスからの流入を均一にし、スラグストリークの生成を防止できるので上記成分範囲の縦割れを有利に防止できる。」(第8欄第7〜20行)

4.当審の対比・判断
本願発明と引用例1記載の発明とを対比する。
引用例1記載の発明は「連続鋳造用フラックス」に関する発明であるが、上記摘記事項(1-b)の【産業の利用分野】を参酌するに、当該「連続鋳造用フラックス」との用語は本願発明における「連続鋳造用パウダー」に他ならない。また、引用例1記載の発明における連続鋳造する鋼として、上記摘記事項(1-b)に「特に炭素含有量が0.08乃至0.16重量%である亜包晶凝固領域にある鋼の連続鋳造において」と記載されていることから、本願発明における「炭素含有量が0.08〜0.18wt%の中炭素鋼を連続鋳造で鋳造する」ことと同等である。してみれば、両者は、CaO/SiO2 の重量比、Al2 O3 、Na2 O、Li2 O、F及び炭素粉の含有量、1300℃における粘度並びに凝固温度の数値範囲で重複することで一致し、(1)MgOおよびZrO2の含有量について本願発明では「不純物から不可避的に入るもの以外には含有せず」であるのに対し、引用例1記載の発明におけるMgOは3〜5wt%、ZrO2 は1〜4wt%である点、(2)引用例1には(Na2 O+2×Li2 O)の関係式が記載されていない点、及び(3)引用例1には溶融温度T1 と凝固温度T2 が75℃≧T2-T1≧40℃の関係式を満足することが記載されていない点で相違する。

本願発明と引用例2記載の発明とを対比すると、本願発明では、連続鋳造用パウダーを構成する成分及びその含有量を具体的数値範囲で規定しているのに対し、引用例2では、連続鋳造用パウダーの組成について、「重量で39〜46%のCaO、40〜56%のSiO2および2〜15%のAl2O3を主成分として含み、Na2O、K2O、Li2O等のアルカリ金属の酸化物、CaF2、BaF2、NaF、LiF等のアルカリ土類金属ないしアルカリ金属の弗化物、およびNa2CO3、K2CO3、Li2CO3、CaCO3、BaCO3等のアルカリ金属ないしアルカリ土類金属の炭酸塩のうちから選んだ少なくとも一種を副成分として含有する」と規定するのみであり、具体的組成を示す実施例も記載されていない。

本願発明と引用例1記載の発明との上記相違点について検討する。
(1)本願明細書【0015】欄にはMgOの含有量について「一般に使用される連続鋳造用パウダー原料には、少量のMgOを含有するものがあり、3wt%以下であれば影響が少なく」と、【0016】欄にはZrO2の含有量について「3wt%以下の範囲であれば規定した凝固温度及び溶融温度特性が得られるのでこの範囲内では使用できる」と記載されていることから、本願特許請求の範囲における「MgOおよびZrO2 は不純物から不可避的に入るもの以外には含有せず」とは各々3wt%以下は添加されることである。してみれば、本願発明と引用例1記載の発明におけるMgOおよびZrO2 の含有量について、両者は重複していることになる。
(2)引用例1には(Na2 O+2×Li2 O)の関係式自体は記載されていないが、上記摘記事項(1-c)において実施例No.12、13、15、17及び18について(Na2 O+2×Li2 O)の値を計算するに、実施例No.12、13、15、17及び18のいずれにおいても本願発明の規定範囲である8〜15を満たしている。したがって、(Na2 O+2×Li2 O)の関係式自体が記載されていない点は形式的相違点に過ぎない。
(3)の相違点については、引用例1に溶融温度について記載されておらず、両者の比較はできなため、実質的な相違点である。

本願発明と引用例2記載の発明とは、上記のとおり引用例2では、連続鋳造用パウダーの組成について、「重量で39〜46%のCaO、40〜56%のSiO2および2〜15%のAl2O3を主成分として含み、Na2O、K2O、Li2O等のアルカリ金属の酸化物、CaF2、BaF2、NaF、LiF等のアルカリ土類金属ないしアルカリ金属の弗化物、およびNa2CO3、K2CO3、Li2CO3、CaCO3、BaCO3等のアルカリ金属ないしアルカリ土類金属の炭酸塩のうちから選んだ少なくとも一種を副成分として含有する」と規定するのみで、具体的組成を組成を示す実施例も記載されていないため、引用例2記載の連続鋳造用パウダーの組成は、本願発明の連続鋳造用パウダーの組成を何ら示唆するものではない。
引用例2の上記摘記事項(2-b)について判断するに、摘記事項(2-b)には「軟化温度」とあるが、これは摘記事項(2-a)に「軟化溶融温度」とあることからも、本願発明における「溶融温度」に他ならない。してみれば、摘記事項(2-b)には、縦割れを防止するには溶融温度と凝固温度との差を小さくすればよく、望ましくはその差を80度以内とすることが示されている。これは、80℃≧T2-T1という関係式で表現でき、本願発明の75℃≧T2-T1の部分の関係式においては同等とも言える。しかしながら、本願発明ではT2-T1≧40℃の関係式でも規定しており、本願明細書【0020】欄に「T2-T1<40℃では鋳片の割れは防止できてもブレークアウト(ブレークアウト検知も含む)を防止できない」と記載されており、【0026】欄の比較例において、T2-T1≧40℃を満たしていないM、N、O、P、R、S、U及びVについて、いずれもブレークアウトが防止できていない。してみれば、本願発明の目的、効果を達成するために、T2-T1≧40℃の関係式を満たすことの技術的意義は極めて高いものである。ところが、引用例2には、ブレークアウトを防止するためにT2-T1≧40℃とする必要があることが何ら示唆されていないため、75℃≧T2-T1≧40℃の関係式を導き出せない。

よって、引用例1及び2のいずれにも75℃≧T2-T1≧40℃の関係式は記載されておらず、かつ、引用例1及び2には当該関係式を示唆する記載はなく、引用例1及び2をいかに組み合わせても当該関係式を導き出せるものではない。また、75℃≧T2-T1≧40℃の関係式を満たすことによって、鋳片の表面割れが防止できるとともに、ブレークアウトをも防止できるという、引用例1及び2からは予期し得ない顕著な効果を奏するものである。

5.むすび
したがって、請求項1に係る発明は引用例1ないし引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではなく、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2002-11-26 
出願番号 特願平7-22392
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B22D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 池田 正人
三崎 仁
発明の名称 鋼の連続鋳造用パウダー  
代理人 萩原 康弘  
代理人 萩原 康弘  

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