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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1068759
審判番号 不服2000-14640  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-03-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-09-14 
確定日 2002-12-05 
事件の表示 平成10年特許願第348463号「サマリウム-鉄-窒素系の磁性粒子を用いた押出し成形磁石体」拒絶査定に対する審判事件[平成12年 3月21日出願公開、特開2000- 82611]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1,手続きの経緯と発明の要旨
本願は平成10年12月8日(優先権主張、1998年6月15日及び1998年6月30日)の出願であって、その発明の要旨は、審判請求と同時に提出された平成12年9月14日付手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲請求項1〜4に記載されたとおりのものであり、その中で、請求項1に係る発明は次のとおりである。
「サマリウムと鉄と窒素とからなるサマリウム-鉄-窒素系の磁性粒子とフェライト粒子を合成ゴム又は熱可塑性合成樹脂に混入しこれを押出し成形した可撓性を有するものに対して着磁してなることを特徴とするサマリウム-鉄-窒素系の磁性粒子を用いた押出し成形磁石体(以下「本願発明」という。)。」

2,引用例
一方、原査定において引用した特開平9-223616号公報(以下「第1引用例」という。)には、以下のとおりの事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、希土類ボンド磁石に関するものである。」、
「【0005】
押出成形法は、加熱溶融された前記コンパウンドを押出成形機の金型から押し出すとともに冷却固化し、所望の長さに切断して、磁石とする方法である。この方法でも、前記射出成形法と同様に、成形時における溶融物の流動性を確保するために、結合樹脂の添加量を圧縮成形法のそれに比べて多くする必要があり、従って、得られた磁石中の樹脂量が多く、磁気特性は低下するが、その反面、磁石の形状に対する自由度は大きく、特に、薄肉で長尺・異形状の磁石を容易に製造できるという利点がある。」、
「【0016】(9) 前記希土類磁石粉末は、Smを主とする希土類元素と、Feを主とする遷移金属と、Nを主とする格子間元素とを基本成分とするものである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の希土類ボンド磁石。」、
「【0026】
Sm-Fe-N系合金の代表的なものとしては、Sm2 Fe17合金を窒化して作製したSm2 Fe17N3 が挙げられる。」、
「【0030】2.結合樹脂(バインダー)
結合樹脂(バインダー)としては、熱可塑性樹脂が用いられる。結合樹脂として従来より用いられている例えばエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂を用いた場合には、成形時における流動性が悪いので、成形性が劣り、磁石の空孔率が増大、機械的強度および耐食性が低いが、熱可塑性樹脂を用いた場合には、このような問題が解消される。また、熱可塑性樹脂は、その種類、共重合化等により、例えば成形性を重視したものや、耐熱性、機械的強度を重視したものというように、広範囲の選択が可能となる。
【0031】使用し得る熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6-2、ナイロン6-66)、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリアセタール等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。…」、
「【0033】 また、磁石粉末表面に対する濡れ性、流動性、成形性をより向上するために、用いられる熱可塑性樹脂の平均分子量(重合度)は、10000〜60000程度であるのが好ましく、12000〜30000程度であるのがより好ましい。 このような熱可塑性樹脂の含有量は、1〜5wt%程度であり、1〜4.3wt%程度であるのがより好ましく、1.1〜3.6wt%程度とするのがさらに好ましい。熱可塑性樹脂の含有量が少な過ぎると、製造時において磁石粉末との十分な混練が困難であり、成形性が低下し、また、隣接する磁石粉末同士の接触が生じ易くなり、低空孔率、高機械的強度の磁石が得られない。また、熱可塑性樹脂の含有量が多過ぎると、成形性は良好であるが、磁石の磁気特性が低下する。
【0034】図1は、本発明の希土類ボンド磁石の断面をモデル化して示す拡大断面図である。同図に示すように、本発明の希土類ボンド磁石1において、結合樹脂である熱可塑性樹脂3は、磁石粉末2の外面を覆い、隣接する磁石粉末2同士が接触するのを阻止するような状態(以下「樹脂被覆状態」という)で存在している。これにより、熱可塑性樹脂の含有量が前述したように比較的少ない量であっても、空孔率が低く、機械的強度が高く、耐食性に優れた磁石が得られる。
【0035】このような熱可塑性樹脂の状態は、希土類ボンド磁石の製造過程において、希土類ボンド磁石用組成物(磁石粉末および結合樹脂等の混合物)の混練条件、その混練物(コンパウンド)の成形条件等の設定により得ることができる。」、
「【0044】本発明の希土類ボンド磁石は、例えば次のようにして製造される。
【0045】前述した希土類磁石粉末と、熱可塑性樹脂と、好ましくは酸化防止剤とを含む希土類ボンド磁石用組成物(混合物)を混練機等を用いて十分に混練し、この混練物(コンパウンド)を押出成形機により、熱可塑性樹脂の溶融温度以上の温度(例えば、ポリアミド系の場合、120〜230℃の温度)に加熱しつつ押出成形し、冷却後、所望の長さに切断して希土類ボンド磁石とされる。」、
「【0048】
(実施例1〜13)
下記組成1,2,3,4,5,6(1〜6は丸付きの文字)の6種の希土類磁石粉末と、下記A、B、Cの3種の熱可塑性樹脂(結合樹脂)と、ヒドラジン系酸化防止剤とを用意し、これらを所定の組み合わせで混合した。この混合物を、下記表1、表2に示す条件で混練し、得られたコンパウンドにより同表に示す成形条件で成形して、本発明の希土類ボンド磁石を得た。得られた磁石の形状、寸法、組成、状態、特性を下記表3、表4に示す。」。
以上表1、4の記載を参酌して纏めると、第1引用例には、次のような発明が記載されている。
「サマリウムと鉄と窒素とからなるサマリウム-鉄-窒素系の磁性粉末を熱可塑性合成樹脂に混入しこれを押出し成形したサマリウム-鉄-窒素系の磁性粉末を用いた希土類ボンド磁石。」

同じく引用した特開平8-31626号公報(以下「第2引用例」という。)には、以下のとおりの事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は磁気的相互作用を利用して磁気特性を高めた磁性粉末、永久磁石およびこれらの製造方法に関するものである。」、
「【0010】 従って、従来の永久磁石は以下のような問題点を有していた。
【0011】 (1)飽和磁化を増加させると保持力が低下してしまい、結局最大エネルギー積(BH)max が低下してしまう。
【0012】(2)保持力を増加させると飽和磁化が減少してしまう。
【0013】(3)2種類の特性を異にする粉末の混合では磁気特性の向上は両者の和の形でしか現れず、それ以上の特性は得られない
(4)2相からなる磁性粉末(スプリング磁石)では異方性を得ることが困難である。
【0014】
【発明の概要】本発明は上記の問題点を解決するため、磁性粉末A(残留磁束密度BrA 、保磁力HcA )および磁性粉末B(残留磁束密度BrB 、保磁力HcB )を含む2種類以上の混合粉末からなり、各残留磁束密度および保持力がBrA >BrB 、HcA <HcB の関係を有することを特徴とする磁性粉末を提供するものである。
【0015】また、本発明はこの磁性粉末からなる混合粉末の製造方法およびこの混合粉末から製造されるボンド磁石または燒結磁石の製造方法を提供するものである。
【0016】2種類の高Br低iHc磁性粉末と低Br高iHc磁性粉末とを混合することにより、該混合粉末には磁気的相互作用が働き、単に2種類の磁性粉末を足し合わせた磁気特性よりも高性能な磁気特性を持つ磁性粉末が得られる。…」、
「【0028】…
(実施例1)Sm=24.5、Fe=75.5重量%の組成になるように、高周波溶解炉を用いアルゴンガス雰囲気中で溶解・鋳造したインゴットを作製した。このインゴットに1100℃で24時間の均質化処理を施し、スタンプミルで平均粒径100μmまで粗粉砕した。この粉末を水素+アンモニア混合ガス中で450℃で1時間窒化処理を施した。得られた粉末をジェットミルで微粉砕し、平均粒径で2.0μmの微粉末を得た。この微粉末をA1とする。…」、
「【0080】…
(実施例27)α-Fe2 O3 及びSrCO3 粉末を配合比Fe2 O3 /SrOが5.9になるように秤量し、ボールミルで混合し、1250℃×4時間で仮焼結をし、再びボールミルで粉砕を行なった。この粉末をR1とする。…」、
「【0081】…
(実施例28)R1とA1を3:7に混合し、ジェットミルで微粉砕を行なった。得られた混合粉末を、エポキシ樹脂4重量%と混合・混練し、15kOe磁場中で成形した。その後150℃×1時間のキュア処理を施し、ボンド磁石化した。このときの磁気特性を以下に示す。
【0082】Br=11.6kG
iHc=5.3kOe
(BH)max=22.3MGOe…」。
段落0010〜0016の記載より、次のような技術常識が読み取れる。
(1)2種類の、材料を異にする粉末の混合により、異なる磁気特性のものが得られる、
(2)粉末の混合によっては、2種類の材料以上の磁気特性のものを得ることができる。
そして、段落0028、0080〜0082における記載より、実施例28に関し第2引用例には次のような技術事項が読み取れる。
「サマリウム-鉄-窒素系の磁性粉末とフェライト粉末を合成樹脂(熱硬化性樹脂)に混入し磁気特性の異なるボンド磁石を製造することが開示されている。」

3,対比
第1引用例の「磁性粉末」及び「サマリウム-鉄-窒素系の磁性粉末を用いた希土類ボンド磁石」は、本願発明の「磁性粒子」及び「サマリウム-鉄-窒素系の磁性粒子を用いた押出し成形磁石体」に相当するから、両者は、「サマリウムと鉄と窒素とからなるサマリウム-鉄-窒素系の磁性粒子を熱可塑性合成樹脂に混入しこれを押出し成形したことを特徴とするサマリウム-鉄-窒素系の磁性粒子を用いた押出し成形磁石体。」の点で一致し、次の点で相違している。
相違点1
本願発明では、押出し成形したものが「可撓性を有し」、かつ「これに対して着磁してなる」のに対し第1引用例のものは押出し成形したものが「可撓性を有し」ているかどうか、かつ「これに対して着磁してなる」かどうか明記されていない点。
相違点2
本願発明では、サマリウム-鉄-窒素系の磁性粒子を用いた押出し成形磁石体について、サマリウムと鉄と窒素とからなるサマリウム-鉄-窒素系の磁性粒子とフェライト粒子を熱可塑性合成樹脂に混入している」のに対し、第1引用例のものはサマリウムと鉄と窒素とからなるサマリウム-鉄-窒素系の磁性粒子を熱可塑性合成樹脂に混入しているのみで、フェライト粒子を混入していない点。

4,判断
相違点1について
本願の段落0012〜0013における
「【0012】
この磁気異方性粒子を混入する合成ゴム又は熱可塑性合成樹脂のうち、まず合成ゴムとしては、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(ニトリルゴム)、ブタジエンゴム、シリコンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどがあり、また熱可塑性合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブデン、塩素化ポリエチレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル、ポリ酢酸ビニルなどのビニル樹脂、スチレン系樹脂、その他にポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA),EVA-塩化ビニルグラフト共重合体などがある。この中でも特に、磁性粉等の無機質を含有し易い熱可塑性樹脂としては、塩素化ポリエチレン、EVA、NBR、ポリオレフィン系樹脂、合成ゴムなどがあり、これらを適宜に混ぜて使用することも可能である。本実施例にあっては一例としてポリオレフィン系樹脂を用いる。このポリオレフィン系樹脂に前記磁気異方性粒子を混入・混練し、加熱溶融させて混練した材料を押出し成形機に投入する。
【0013】
そして、この混練した材料を押出し成形機の先端に配設した金型内蔵の磁界装置を通して押し出すことにより、粒子の配列が一定方向に揃った可撓性を有する成形磁石が形成される。そして、この成形磁石に対して、粒子の配列に合わせて着磁装置により適宜に着磁を行い、磁石として完成する。前記金型形状を各種に設定することにより、さまざまな形状の成形磁石が連続的に形成されるものであり、特に長尺な形態とするには好適な成形方法である。」旨の記載、
及び第1引用例の段落0030〜0031における
「【0030】2.結合樹脂(バインダー)
結合樹脂(バインダー)としては、熱可塑性樹脂が用いられる。結合樹脂として従来より用いられている例えばエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂を用いた場合には、成形時における流動性が悪いので、成形性が劣り、磁石の空孔率が増大し、機械的強度および耐食性が低いが、熱可塑性樹脂を用いた場合には、このような問題が解消される。また、熱可塑性樹脂は、その種類、共重合化等により、例えば成形性を重視したものや、耐熱性、機械的強度を重視したものというように、広範囲の選択が可能となる。
【0031】使用し得る熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6-12、ナイロン6-66)、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリアセタール等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。…」旨の記載を参酌すれば、両者は使用する熱可塑性樹脂材料の点で共通することから、このような熱可塑性樹脂に混入し押出成形したものを可撓性とするかどうかは、磁石体としての磁気特性との兼ね合いで、所望とする成形性の程度に応じて、当業者が適宜なし得た処にすぎない。
次に永久磁石材料を合成樹脂に混入しこれを押出し成形して永久磁石を製造する当たって、押出し成形したものに対して着磁することは、例えば特開平4-322413号公報にも記載されているように従来より周知の技術である。
よって、明記はないが第1引用例のものにおいてもボンド磁石が得られているのであるから、当然に着磁がなされているか、或いは第1引用例のものにおいて押出し成形したものに対して着磁することは、当業者にとって慣用手段にすぎないものである。

相違点2について
第2引用例には、サマリウム-鉄-窒素系の磁性粉末(粒子)とフェライト粉末(粒子)を合成樹脂に混入し磁気特性の異なるボンド磁石を製造することが開示されていること、
及び、同引用例にも示唆されているように、
(1)2種類の、材料を異にする粉末の混合により、異なる磁気特性のものが得られる、
(2)粉末の混合によっては、2種類の材料以上の磁気特性のものを得ることができる、
という技術常識に照らせば、異なる磁気特性のものを得るために、サマリウム-鉄-窒素系の磁性粒子に加えて「フェライト粒子」を混入する程度のことは当業者であれば容易に想到実施し得たものと認められる。

5,むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は第1引用例〜第2引用例に記載された発明、及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうである以上、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-09-17 
結審通知日 2002-09-24 
審決日 2002-10-11 
出願番号 特願平10-348463
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平塚 義三  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 左村 義弘
小田 裕
発明の名称 サマリウム-鉄-窒素系の磁性粒子を用いた押出し成形磁石体  
代理人 田辺 敏郎  
代理人 田辺 敏郎  

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