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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1068853
異議申立番号 異議2001-71259  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-03-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-04-23 
確定日 2002-10-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3102209号「インクジェット記録用インク、インクジェット記録装置およびその方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3102209号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

特許第3102209号の請求項1〜4に係る発明の出願は、平成5年6月25日に特許出願され、平成12年8月25日にその特許権の設定登録がなされ、その後、コニカ株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、特許異議意見書が提出され、再度の取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成14年7月23日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断

(1)訂正の内容

特許権者が求めている訂正の内容は、以下の、訂正事項1〜19のとおりである。

訂正事項1
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1を削除して、以下項数を繰り上げ、「請求項2〜4」を「請求項1〜3」と訂正する。
訂正事項2
特許明細書の特許請求の範囲の請求項2(上記訂正事項1で請求項1となったもの)について、「水、水溶性有機溶媒および色材を含有するインク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3 以下の間にあるインクを通過させるインク流路が、2種以上の異なる材料により形成されていることを特徴とするインクジェット記録装置。」を「水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を含有するインク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3 以下の間にあるインクを通過させるインク流路が、2種以上の異なる材料により形成されていることを特徴とする熱インクジェット記録装置。」に訂正する。
訂正事項3
特許明細書の特許請求の範囲の請求項3(上記訂正事項1で請求項2となったもの)について、「インク流路が、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されている請求項2記載のインクジェット記録装置。」を「インク流路が、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されている請求項1記載の熱インクジェット記録装置。」に訂正する。
訂正事項4
特許明細書の特許請求の範囲の請求項4(上記訂正事項1で請求項3となったもの)について、「水、水溶性有機溶媒および色材を含有するインク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3 以下の間にあるインクを、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されているインク流路内に通過させることを特徴とするインクジェット記録方法。」を「水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を含有するインク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3 以下の間にあるインクを、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されているインク流路内に通過させることを特徴とする熱インクジェット記録方法。」に訂正する。
訂正事項5
特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0001】における「本発明は、インクジェット記録装置により、被記録材に記録を行うための記録液(以下、インクと称する)に関する。」を「本発明は、被記録材に記録を行うための記録液(以下、インクと称する)を使用した熱インクジェット記録装置及びその方法に関する。」に訂正する。
訂正事項6
同段落【0004】における「本発明は、上記の諸問題を解決することを目的としてなされたものであり、その目的は、インクジェット記録装置において、安定して高精細の画像が得られるインクを提供することにある。」を「本発明は、上記の諸問題を解決することを目的としてなされたものであり、その目的は、安定して高精細の画像が得られる熱インクジェット記録装置及びその方法を提供することにある。」に訂正する。
訂正事項7
同段落【0005】における「すなわち、本発明のインクジェット記録用インクは、水、水溶性有機溶媒および色材を必須成分として含有し、インク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3 以下の間にあることを特徴とする。本発明のインクは2種以上の異なる材料により形成されたインク流路を通過させる場合に特に顕著な効果を発揮し、本発明は、また、上記インクを通過させるインク流路が、2種以上の異なる材料、例えばプラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されているインクジェット記録装置、および該インク流路内に上記インクを通過させるインクジェット記録方法にある。」を「すなわち、本発明の熱インクジェット記録装置は、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を必須成分として含有するインク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3 以下の間にあるインクを通過させるインク流路が、2種以上の異なる材料により形成されていることを特徴とする。インク流路が、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されていることが望ましい。
熱インクジェット記録方法は、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を必須成分として含有するインク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3 以下の間にあるインクを、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されているインク流路内に通過させることを特徴とする。」に訂正する。
訂正事項8
同段落【0006】における「本発明のインクジェット記録用インクは、その基本成分自体公知であり、水、水溶性有機溶媒および色材を必須成分とする。」を「本発明の熱インクジェット記録装置及びその方法に使用されるインクは、その基本成分自体公知であり、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を必須成分とする。」に訂正する。
訂正事項9
同段落【0008】における「色材の溶解、分散状態を更に安定化させるため、界面活性剤、分散剤、包接化合物等を添加してもよい。」を「色材の溶解、分散状態を更に安定化させるため界面活性剤を添加し、必要に応じて、分散剤、包接化合物等を添加してもよい。」
に訂正する。
訂正事項10
同段落【0010】における「インクジェット記録用インクは、ノズル流路の目詰まり防止のため、一般に、不純物を除去した原料を使用し、更に汚染防止のため、インク製造時には開口径数μm以下、通常0.5μm以下のフィルターで濾過処理されている。」を「熱インクジェット記録用インクは、ノズル流路の目詰まり防止のため、一般に、不純物を除去した原料を使用し、更に汚染防止のため、インク製造時には開口径数μm以下、通常0.5μm以下のフィルターで濾過処理されている。」に訂正する。
訂正事項11
同段落【0011】における「ところが、水、水溶性有機溶媒および色材を必須成分として含有するインクジェット記録用インクにおいて、インク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積を3.5×10-6より大きく、1×10-2cm3 以下の間に調整することにより、画像欠陥を防止することができる。これは、インク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が増加すると良好な結果が得られることから、粒子状物がインクジェット記録装置内のインク流路中に気泡が発生することを抑制し、例え発泡したとしても瞬時に消滅してしまうことによるのではないかと考えられる。」を「ところが、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を必須成分として含有する熱インクジェット記録用インク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積を3.5×10-6より大きく、1×10-2cm3 以下の間に調整し、2種以上の異なる材料により構成されるインク流路を通過させることにより、画像欠陥を防止することができる。これは、インク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が増加すると良好な結果が得られることから、粒子状物が熱インクジェット記録装置内のインク流路中に気泡が発生することを抑制し、例え発泡したとしても瞬時に消滅してしまうことによるのではないかと考えられる。」に訂正する。
訂正事項12
同段落【0012】における「本発明のインクジェット記録用インクは、インク流路が2種以上の異なる材料により形成されたインクジェット記録装置において、特にその効果が顕著に発現する。」を「熱インクジェット記録用インク流路が2種以上の異なる材料により形成された本発明の熱インクジェット記録装置において、特に画像欠陥の防止効果が顕著に発現する。」に訂正する。
訂正事項13
同段落【0016】における「本発明のインクジェット記録用インクは、インク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が、3.5×10-6より大きく、1×10-2cm3以下の間に調整することにより、インク流路が2種以上の異なる材料により形成されたインクジェット記録装置に用いても、気泡によると思われる画像欠陥が発生しない。」を「本発明の熱インクジェット記録用インクは、インク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が、3.5×10-6より大きく、1×10-2cm3以下の間に調整することにより、インク流路が2種以上の異なる材料により形成された熱インクジェット記録装置に用いても、気泡によると思われる画像欠陥が発生しない。」に訂正する。
訂正事項14
同段落【0017】における「表1および2に示すインク構成材料を混合した後、60℃で3時間撹拌し、その後フィルター条件、インク脱気の有り無しを変えて、インクジェット記録用インクNo. 1〜13を調製した。インク組成、フィルター条件、インクの脱気(60℃、500mmHg、5時間)の有無、インク1cm3 中の粒径2μm以上の粒子状物の総体積を下記の表1および2に示す。なお、No.1、4、6、7、11および13を比較例として示す。」を「表1および2に示すインク構成材料を混合した後、60℃で3時間撹拌し、その後フィルター条件、インク脱気の有り無しを変えて、熱インクジェット記録用インクNo. 1〜11を調製した。インク組成、フィルター条件、インクの脱気(60℃、500mmHg、5時間)の有無、インク1cm3 中の粒径2μm以上の粒子状物の総体積を下記の表1および2に示す。なお、No.1、4、6、7、10および11を比較例として示す。」に訂正する。
訂正事項15
同段落【0019】における「表2」中、「No.9」の行と「No.12」の行を削除する。
訂正事項16
同段落【0021】における「以上のインクジェット記録用インクを熱インクジェットヘッド(ノズル内の流路形成材料は、シリコン、タンタル、ポリイミド等)を用い、次のようにして画質を評価した。」を「以上の熱インクジェット記録用インクを熱インクジェットヘッド(ノズル内の流路形成材料は、シリコン、タンタル、ポリイミド等)を用い、次のようにして画質を評価した。」に訂正する。
訂正事項17
同段落【0022】における「本発明のインクジェット記録用インクは、インク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積を3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の範囲に調整することにより、インク流路が2種以上の異なる材料により形成されるインクジェット記録装置に適用しても、白抜け、ドット径のばらつき、ドット形状の乱れ等の画像欠陥を防止できる。」を「本発明の熱インクジェット記録用インク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積を3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の範囲に調整し、インク流路が2種以上の異なる材料により形成される熱インクジェット記録装置を使用することにより、白抜け、ドット径のばらつき、ドット形状の乱れ等の画像欠陥を防止できる。」に訂正する。
訂正事項18
特許明細書の【図1】を、訂正明細書の【図1】に訂正する。
訂正事項19
特許明細書の発明の名称である「インクジェット記録用インク、インクジェット記録装置およびその方法」を「熱インクジェット記録装置およびその方法」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

上記訂正事項1のうち、「請求項1の削除」は、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当するものであり、「請求項2〜4」を「請求項1〜3」に繰り上げる訂正は、上記請求項1の削除にともない、記載の整合性を図るために明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当するものである。
上記訂正事項2は、インクの成分として界面活性剤を必須のものとし、インクジェット記録装置を熱インクジェット記録装置と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当するものである。
上記訂正事項3、4は、上記訂正事項2により減縮された請求項の記載と整合させるものであるから、上記訂正事項2と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正、もしくは明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当するものである。
上記訂正事項5〜19は、いずれも、特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載、図面、及び発明の名称との整合性を図るために、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当するものである。
そして、上記各訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについての判断

(1)申立ての理由の概要

特許異議申立人コニカ株式会社は、甲第1〜4号証を提出し、訂正前の本件請求項1、2に係る発明は甲第1、2号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができず、あるいはこれらから当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、また、訂正前の本件請求項3、4に係る発明は甲第1、2号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができず、あるいは甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、したがって、訂正前の本件請求項1〜4に係る発明についての特許は取り消されるべきである旨、主張している。

(2)本件の請求項1〜3に係る発明

上記2.(2)で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1〜3」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を含有するインク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3 以下の間にあるインクを通過させるインク流路が、2種以上の異なる材料により形成されていることを特徴とする熱インクジェット記録装置。
【請求項2】インク流路が、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されている請求項1記載の熱インクジェット記録装置。
【請求項3】水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を含有するインク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3 以下の間にあるインクを、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されているインク流路内に通過させることを特徴とする熱インクジェット記録方法。」

(3)甲号各証に記載された発明

特許異議申立人の提出した甲第1号証(特公昭61-29393号公報)には、インクジェット記録法に用いる記録媒体液が記載されており、その実施例1においては、イオン交換水、γ-ブチロラクトン、スミライト ブラック Gコンク(住友化学工業製染料)を含有する組成物を充分均一になるまで攪拌し、0.45μのフィルターで加圧濾過を行い、記録媒体液を得、次いで該媒体液をビーカーに移し、バキュームドライングオーブン中に収納し、排気して2時間脱ガス処理を行い、塩化ビニリデン製のカセット容器に収納して密封し、これを記録装置の貯蔵タンクとしてセットし、記録を行い、記録性、保存性或いは記録画像の品質を検討したところ、「周辺部が明瞭で均一なドット」が得られた旨、記載されている。また、実施例5には、イオン交換水、γ-ブチロラクトン、エマルゲン320P(花王アトラス製界面活性剤)、カヤク ダイレクト ディーブ ブラックXA(日本化薬製染料)を含有する記録媒体液が、実施例14(N-1)には、エチレングリコール、チオジエチレングリコール、ペンタクロロフェノールナトリウム、ベンジルスルファニル酸ナトリウム、エマルゲン901(花王アトラス製界面活性剤)、ソーラーファースト レッド 3G(住友化学工業製染料)、γ-ブチロラクトン、イオン交換水を含有する記録媒体液が、記載され、実施例1、5、14ともに、図2に示す円筒状ピエゾ振動子を設置した装置を用いて印字している。
同甲第2号証(特開昭61-113672号公報)には、、インクジェット記録方式に使用する、水溶性染料を含む液組成物であって、その中に含まれる疎液コロイドを一定量以下に調整した記録液が記載されており(特許請求の範囲参照)、その実施例1においては、染料、水、水溶性有機溶媒であるエチレングリコールとN-メチル-2-ピロリドンとを含有する水溶液を、平均孔径1ミクロンのテフロン・フィルターにて加圧濾過してインクとし、これに凝集剤を加え、攪拌、遠心分離を行い、再度平均孔径1ミクロンのテフロン・フィルターにて加圧濾過して、当該発明のインクとしていること、オンデマンドタイプの記録装置に、このインクを用いたところ、長期安定性、吐出安定性、吐出応答性、記録画像の品質、各種被記録材に対する定着性において良好な結果を得た旨、記載されている。
同甲第3号証(トリケップス出版部編「プリンタ品質評価技術」、第115〜121頁、株式会社トリケップス(平成3年4月11日、第2刷))には、「インク供給システムは、一般に金属、ガラス、セラミックス、プラスチック、ゴム等のパーツより構成されて」いる旨(第117頁下から5〜4行)、記載され、また、パーツの材質として、図23(第120頁)には金属・セラミック、樹脂、ゴムが挙げられている。
同甲第4号証は、平成13年3月26日付けで、コニカ株式会社、IJT事業推進センター、第1開発グループの佐藤直樹作成の「実験成績証明書」であり、特公昭61-29393号公報(上記甲第1号証)の実施例1のインクと、特開昭61-113672号公報(上記甲第2号証)の比較例のインクを追試作製し、コールターエレクトロニクス社製コールターカウンターTA-II型を用いてインク中の2μm以上の粒子総体積の測定を行ったものである。

(4)当審の判断

(a)特許法第29条第1項第3号について

本件発明1
甲第1号証に記載の実施例1の記録媒体溶液は、界面活性剤を含有しておらず、一方、同実施例5、14に記載された記録媒体液は、水、水溶性有機溶媒及び色材とともに界面活性剤も含有しているが、いずれにしても、これらの実施例及び甲第1号証全体を見ても、本件発明1の、熱インクジェット記録における画像欠陥を防止するために「インク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が一定範囲内にあるインクを通過させる」という技術的手段によって解決しようとする技術的思想について何ら開示されておらず、当然のことながら、本件発明1の構成要件である、「インク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が一定範囲内にあるインクを通過させる」点については、記載されていないのみならず、記載されているに等しい事項でもない。したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
甲第2号証に具体的に記載された記録液は、界面活性剤を含有しておらず、上記したことと同様に、「インク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が一定範囲内にあるインクを通過させる」という技術的思想は開示されておらず、この点は、甲第2号証に記載されていないのみならず、記載されているに等しい事項でもない。したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。
ところで、甲第4号証には、甲第1号証の実施例1のインクと、甲第2号証の比較例のインクについて、その粒子状物の総体積について追試されているが、甲第1号証の実施例1のインクも甲第2号証の比較例のインクも、本件発明1の構成要件である界面活性剤を含有していないのであるから、甲第4号証の実験成績証明書は、本件発明1の実施例を忠実に追試したものとはいえず、本件発明1が甲第1、2号証に記載されているとすることはできない。

本件発明2、3
本件発明2は熱インクジェット記録装置に関するものであり、本件発明3は熱インクジェット記録方法に関するものであるが、どちらの発明においても、「インク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が一定範囲内にあるインクを通過させる」点をその構成要件としており、上記したように甲第1,2号証には、この点について記載されておらず、記載されているに等しい事項でもないのであるから、本件発明2,3も本件発明1と同様に、甲第1、2号証に記載された発明ではない。

(b)特許法第29条第2項について

甲第1〜3号証には、本件発明1〜3の構成要件である、「特定の4成分を含有するインク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が一定範囲内にあるインクを通過させる」点については、記載も示唆もされていない。そして、本件発明1〜3は、この点により、特許明細書の段落【0022】等に記載されるように、インク流路が2種以上の異なる材料により形成される熱インクジェット記録装置を使用して、白抜け、ドット径のばらつき、ドット形状の乱れ等の画像欠陥を防止できる、という当業者に予測外の効果を奏するものと認められる。なお、甲第4号証の実験結果を考慮しても、この判断に変わりはない。
したがって、本件発明1〜3は、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(c)その他

なお、当審において、「インク1cm3 中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積」を何時の時点で測定しているのか、また、測定時点での値とインクの記録品質との相関関係はどのようなものであるのか、について、若干の疑問が生じたため、平成14年3月12日付けの取消理由通知書中で、この点についての特許権者の見解を促したところ、特許権者から、平成14年7月23日付け特許異議意見書中で、「該総体積は、その使用時に特定の範囲のものであれば本件の効果を奏するものである」旨の回答を得た。よって、上記の疑問は解消された。

(d)結論

本件発明1〜3についての特許は、特許法第29条第1項、あるいは、同法第29条第2項の規定に違反してされたものとすることはできない。

4.むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜3についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
熱インクジェット記録装置およびその方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を含有するインク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の間にあるインクを通過させるインク流路が、2種以上の異なる材料により形成されていることを特徴とする熱インクジェット記録装置。
【請求項2】 インク流路が、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されている請求項1記載の熱インクジェット記録装置。
【請求項3】 水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を含有するインク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の間にあるインクを、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されているインク流路内に通過させることを特徴とする熱インクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被記録材に記録を行うための記録液(以下、インクと称する)を使用した熱インクジェット記録装置及びその方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方式の記録装置の原理は、ノズル、スリットあるいは多孔質フィルム等から液体あるいは溶融固体インクを吐出し、紙、布、フィルム等に記録を行うものである。インクを吐出する方法としては、静電誘引力を利用してインクを吐出させる、いわゆる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用してインクを吐出させる、いわゆるドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、高熱により気泡を形成、成長させることにより生じる圧力を利用してインクを吐出させる、いわゆる熱インクジェット方式等、各種方式が提案されており、これらの方式により極めて高精細の画像を得ることができる。このようなインクジェット記録方式に使用するインクとしては、各種の水溶性の染料または顔料を水または水溶性有機溶媒からなる液媒体に溶解または分散させたものが知られ、かつ使用されている。
【0003】
上記のようなインクにおいては種々の性能が要求される。中でも高精細の画像を得るために、インクが安定に吐出することが重要である。特に、インクジェット記録装置内のインク流路において、インク中に発生した気泡の滞留は、インクの均一な流れを阻害し、画像上において白抜け、ドット径のばらつき、ドット形状の乱れ等の画像欠陥を生じさせるため、従来からインクの気泡発生抑制法が数多く提案されている。例えば、特開昭61-250077号公報では、界面活性剤を含有する記録液において、その界面活性剤の気泡性をロスマイルス法を用いて、0.1重量%水溶液の5分後の泡高さを150mm以下と限定している。特開昭63-139963号公報では、5分後の泡の安定度が0mmとなるよう調整することを提案している。さらに、特開平2-151674号公報では、インクの起泡力が10〜200mm、泡の安定性が10〜200mmであるインクを用いることを提案し、特開平4-239067号公報では、界面活性剤のHLB値を10〜20と規定し、泡による画像欠陥を防止することを提案している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の方法において気泡性を制御することは、装置内のインク流路中、ガラスおよびシリコン等の平滑面においてのみ有効であり、実際の装置内の流路は複雑な形状が施されており、また、2種以上の材料、例えばプラスチック、ゴム材等により構成されているため、充分満足できるものではない。すなわち、特開昭61-250077号公報、特開昭63-139963号公報および特開平2-151674号公報に示されるロスマイルス法は、平滑なガラス面に対する気泡の挙動を測定するものであるため、平滑なガラス面、ガラスと表面物性が類似のシリコン面等に対する気泡抑制については有効であるが、流路内が複雑な形状を施した面あるいはプラスチック、ゴム材等により構成される部分においては、満足できるものではない。また、特開平4-239067号公報により提案された方法においても充分満足できるものではない。本発明は、上記の諸問題を解決することを目的としてなされたものであり、その目的は、安定して高精細の画像が得られる熱インクジェット記録装置及びその方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、インクの諸物性について鋭意研究を重ねてきた結果、インクの単位体積当りに存在する粒子状物の総体積を特定の範囲に調整することにより、白抜け、ドット径のばらつき、ドット形状の乱れ等の画像欠陥を生じさせることなく、安定して高精細の画像が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の熱インクジェット記録装置は、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を必須成分として含有するインク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の間にあるインクを通過させるインク流路が、2種以上の異なる材料により形成されていることを特徴とする。インク流路が、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されていることが望ましい。
熱インクジェット記録方法は、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を必須成分として含有するインク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の間にあるインクを、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されているインク流路内に通過させることを特徴とする。
なお、本明細書において「インク流路」とは、インク貯留部からインクが吐出するまでの経路をいい、ノズル部分も含む。
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の熱インクジェット記録装置及びその方法に使用されるインクは、その基本成分自体公知であり、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を必須成分とする。好ましい水溶性有機溶媒は、例えば、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、1,5-ペンタンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、チオジエタノール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類の他、ピロリドン、Nーメチルー2ーピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、トリエタノールアミン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどを用いることができる。
【0007】
水および水溶性有機溶媒と共に本発明のインクを構成する色材は、各種水溶性染料、顔料、着色ポリマー/ワックスを含む分散染料、油溶性染料等を用いることが可能である。中でも、水溶性染料が最も吐出安定性が良好で適している。水溶性染料は、酸性染料、直接染料、塩基性染料、分散染料等のいずれでもよいが、酸性染料、直接染料がより好ましい。具体的には、C.I.ダイレクトブラック-4,-9,-11,-17,-19,-22,-32,-80,-151,-154,-168,-171,-194、C.I.ダイレクトブルー-1,-2,-6,-8,-22,-34,-70,-71,-76,-78,-86,-142,-199,-200,-201,-202,-203,-207,-218,-236,-287、C.I.ダイレクトレッド-1,-2,-4,-8,-9,-11,-13,-15,-20,-28,-31,-33,-37,-39,-51,-59,-62,-63,-73,-75,-80,-81,-83,-87,-90,-94,-95,-99,-101,-110,-189、C.I.ダイレクトイエロー-1,-2,-4,-8,-11,-12,-26,-27,-28,-33,-34,-41,-44,-48,-86,-87,-88,-135,-142,-144、C.I.フードブラック-1,-2、C.I.アシッドブラック-1,-2,-7,-16,-24,-26,-28,-31,-48,-52,-63,-107,-112,-118,-119,-121,-172,-194,-208、C.I.アシッドブルー-1,-7,-9,-15,-22,-23,-27,-29,-40,-43,-55,-59,-62,-78,-80,-81,-90,-102,-104,-111,-185,-254、C.I.アシッドレッド-1,-4,-8,-13,-14,-15,-18,-21,-26,-35,-37,-249,-257、C.I.アシッドイエロー-1,-3,-4,-7,-11,-12,-13,-14,-19,-23,-25,-34,-38,-41,-42,-44,-53,-55,-61,-71,-76,-79等が挙げられる。これらの色材は、単独でもあるいは2種以上混合して用いてもよく、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4原色の他、赤、青、緑等のカスタムカラーに調色してもよい。また、色材の含有量は、全インク量に対して0.3〜10重量%の範囲、より好ましくは1〜8重量%である。
【0008】
色材の溶解、分散状態を更に安定化させるため界面活性剤を添加し、必要に応じて、分散剤、包接化合物等を添加してもよい。界面活性剤としては、ノニオン、アニオン、カチオンまたは両性界面活性剤のいずれでもよい。例えば、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド等である。アニオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸塩、高級アルキルスルホンアミドのアルキルカルボン酸塩、スルホコハク酸エステル塩等である。カチオン界面活性剤としては、第1級ないし第3級のアミン塩、第4級アンモニウム塩等である。また、両性界面活性剤としては、ベタイン、スルホベタイン、サルフェートベタイン等である。中でも、アニオン界面活性剤が良好に用いることができる。
【0009】
その他、アクリル酸/メタクリル酸/マレイン酸系水溶性ポリマーまたは同塩系水溶性ポリマー、ポリエチレンイミン等のポリアミン類、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体、シクロデキストリン、大環状アミン類、クラウンエーテル類、尿素、アセトアミド等を用いることができる。さらに、必要に応じて防カビ剤、粘度調整剤、導電剤等を含有させることも可能である。
【0010】
熱インクジェット記録用インクは、ノズル流路の目詰まり防止のため、一般に、不純物を除去した原料を使用し、更に汚染防止のため、インク製造時には開口径数μm以下、通常0.5μm以下のフィルターで濾過処理されている。したがって、フィルター径より大きな粒子は存在し得ないはずであるが、現実には口径1μmのフィルターを通過した後でも、直径1μm以上の粒子が存在している。粒子状物の正体は、主にインク中の染料または顔料等の成分がフィルター通過後、再凝集したものと考えられる。すなわち、固い粒子というよりもソフトでフレキシブルに形状が変化する凝集状物である。実際、フィルターを通過させたインクについて再度同じフィルターを通過させてみると、フィルター上に粒子状物がしばしば観察される。特に、色材に水溶性染料を用いた場合、この粒子状物に水またはインクのベヒクル成分を滴下すると再溶解することから、この場合は、水溶性染料がインク中で何らかの作用により再凝集したものと考えられる。この粒子状物形成の原因、メカニズムは不明であるが、染料の基本構造、染料中の無機および有機不純物濃度、染料とベヒクル成分、pH調整剤等の電解質添加剤、界面活性剤等との相互作用、顔料と分散剤等との相互作用が複雑に絡み合った複合効果によるものと考えられる。また、インク構成材料のみでなく、インク調製法、条件の影響も確認されている。
【0011】
ところが、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を必須成分として含有する熱インクジェット記録用インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積を3.5×10-6より大きく、1×10-2cm3以下の間に調整し、2種以上の異なる材料により構成されるインク流路を通過させることにより、画像欠陥を防止することができる。これは、インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が増加すると良好な結果が得られることから、粒子状物が熱インクジェット記録装置内のインク流路中に気泡が発生することを抑制し、例え発泡したとしても瞬時に消滅してしまうことによるのではないかと考えられる。しかし、粒子が多すぎるとノズル先端での目詰まりが発生する。この他に、高熱により気泡を形成、成長させることにより生じる圧力を利用してインクを吐出させるいわゆる熱インクジェット方式では、粒子が多すぎると、固形分がヒーター上へ焦げつくいわゆるコゲーションを発生しやすくなる。そのため、本発明では、インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積の上限値を1×10-2cm3に限定したものである。また、粒子状物の粒径は、目詰まりが発生しないよう20μm以下とすることが好ましい。さらに、上記総体積が上記の範囲では、空打ちによって画像欠陥を防止することが可能である。
【0012】
熱インクジェット記録用インク流路が2種以上の異なる材料により形成された本発明の熱インクジェット記録装置において、特に画像欠陥の防止効果が顕著に発現する。インク流路が表面エネルギーの大きく異なる材料を組合せて形成されている場合、例えば、金属、ガラスまたはセラミックス類とプラスチックまたはゴム類、非極性ポリマー類と極性ポリマー類等の組合せである場合、特に気泡によると思われる画像欠陥が発生しやすい。さらに、インクを吐出させるノズル部分が2種以上の材料により形成されていると、特に気泡によると思われる画像欠陥が発生しやすい。インクの流路構造に関しては、インク流路内に凹凸がある場合が特に問題である。
【0013】
インク中に存在する1μm以上の粒子状物の体積を測定する方法としては、光散乱法、光透過法、遠心沈降法、コールターカウンター法、フィルター法等がある。しかし、光学的方法は、インクの色によっては適用しにくく、また測定時に希釈する必要があるためインクの真の状態を捉えにくい。フィルター法は、多量のサンプルを必要とし、時間がかかり、精度が悪い。一方、コールターカウンター法は、サブミクロン以下の領域の粒子を精度よく測定することができないが、希釈が不要で、インクの色に左右されない等の利点がある。以上の点を勘案して、本発明における粒子状物の総体積は、コールターカウンター法(コールターエレクトロニクス社のコールターモデルTA-1983年製)により、インク中に存在する2μm以上の粒子状物の体積を測定した。測定に際しては、通常コールターカウンターは、サンプル液を希釈しかつアイソトン等を加えるが、希釈操作や電解質添加はインク中の粒子状物状態に影響を与えるので、インクを直接測定することが必要である。
【0014】
インク中の粒子状物の粒径はサブミクロンから数十μmのオーダーで分布しており、インク組成物1cm3中に存在する粒子の総体積をアパチャーの目詰まりがなく精度よく測定するためには、アパチャー径を粒子サイズに合わせて選択する必要がある。例えば、100μm径のアパチャーを用いると、原理上2μm以上のものしか測定できないが、粒子の詰まりをじることなく測定することが可能である。一方、アパチャー径を小さくすると、サブミクロンの粒子についても測定可能であり、例えば、30μm径のアパチャーを用いると、0.6μm以上の粒子についても測定可能である。しかし、2μm未満の粒子は、それ以上の粒子と比較して体積が小さく、かつその挙動は2μm以上の粒子と対応することから、100μm径のアパチャーを用いて測定を行うのが適当である。そこで、本発明では、100μm径のアパチャーを用い、室温で3分間アパチャーよりインクを吸引させて、インク1cm3中に存在する粒子の総体積を求めた。この方法によれば、測定の結果、粒径2.00〜50.8μm範囲で各レンジに14分割された粒子の個数が表示される。粒子を球と仮定し、各レンジの中心値を平均径として粒子1個当りの体積を求め、そのレンジにカウントされた粒子の個数を掛け、各レンジ内の体積の総和を求め、それらを合計して粒子状物の総体積を求める。同時に、測定に用いたインク量を計量しておき、その量で割ることにより、インク1cm3中に存在する粒子状物の総体積を求めることができる。
【0015】
インク中の粒子状物の総体積の調整には、色材種の選択、色材濃度の調節、ベヒクルの組合せ、組成比の調節の他、キレート化剤、包接化合物、界面活性剤、ハイドロトロピー促進剤等の可溶化剤の添加や、インクの濾過条件、遠心分離、脱気、混合、溶解温度、時間等、インクの調製条件の最適化などが挙げられるが、特に限定されるものではない。本発明においては、インク中の粒子状物を所定量に調整する必要はあるが、その総体積が前記の範囲にあるならば、どのような方法でも効果は充分に発現する。
【0016】
【作用】
本発明の熱インクジェット記録用インクは、インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が、3.5×10-6より大きく、1×10-2cm3以下の間に調整することにより、インク流路が2種以上の異なる材料により形成された熱インクジェット記録装置に用いても、気泡によると思われる画像欠陥が発生しない。これは、インク中に粒子状物を上記の範囲内である一定量含有させてインク中に極く局部的に不均一な状態を生じさせることにより、気泡発生の低減化およびインク流路内に滞留する気泡の破壊、除去を行うことができ、気泡によると思われる画像欠陥およびインク流路の詰まりによる画像欠陥を防止することが可能である。
【0017】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。表1および2に示すインク構成材料を混合した後、60℃で3時間撹拌し、その後フィルター条件、インク脱気の有り無しを変えて、熱インクジェット記録用インクNo.1〜11を調製した。インク組成、フィルター条件、インクの脱気(60℃、500mmHg、5時間)の有無、インク1cm3中の粒径2μm以上の粒子状物の総体積を下記の表1および2に示す。なお、No.1、4、6、7、10および11を比較例として示す。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
【0021】
以上の熱インクジェット記録用インクを熱インクジェットヘッド(ノズル内の流路形成材料は、シリコン、タンタル、ポリイミド等)を用い、次のようにして画質を評価した。熱インクジェットプリンタ(温度22℃、駆動周波数4.5kHz)で連続的な吐出テストを行った。1枚毎に10分間の静止時間を設け、シリカコート紙上に100枚連続ソリッド像を印字させ、白抜けの発生、ドット径のばらつきおよびドット形状の乱れの発生回数をインク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積に対しプロットした。発生のなかったもののみ許容範囲とした。そのグラフ図を図1に示す。
【0022】
【発明の効果】
本発明の熱インクジェット記録用インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積を3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の範囲に調整し、インク流路が2種以上の異なる材料により形成される熱インクジェット記録装置を使用することにより、白抜け、ドット径のばらつき、ドット形状の乱れ等の画像欠陥を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積と画質欠陥の発生回数との関係を表わすグラフ図である。
【図面】

 
訂正の要旨 訂正の要旨
訂正事項1
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1を削除して、以下項数を繰り上げ、「請求項2〜4」を「請求項1〜3」と訂正する。
訂正事項2
特許明細書の特許請求の範囲の請求項2(上記訂正事項1で請求項1となったもの)について、「水、水溶性有機溶媒および色材を含有するインク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の間にあるインクを通過させるインク流路が、2種以上の異なる材料により形成されていることを特徴とするインクジェット記録装置。」を「水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を含有するインク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の間にあるインクを通過させるインク流路が、2種以上の異なる材料により形成されていることを特徴とする熱インクジェット記録装置。」に訂正する。
訂正事項3
特許明細書の特許請求の範囲の請求項3(上記訂正事項1で請求項2となったもの)について、「インク流路が、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されている請求項2記載のインクジェット記録装置。」を「インク流路が、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されている請求項1記載の熱インクジェット記録装置。」に訂正する。
訂正事項4
特許明細書の特許請求の範囲の請求項4(上記訂正事項1で請求項3となったもの)について、「水、水溶性有機溶媒および色材を含有するインク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の間にあるインクを、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されているインク流路内に通過させることを特徴とするインクジェット記録方法。」を「水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を含有するインク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の間にあるインクを、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されているインク流路内に通過させることを特徴とする熱インクジェット記録方法。」に訂正する。
訂正事項5
特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0001】における「本発明は、インクジェット記録装置により、被記録材に記録を行うための記録液(以下、インクと称する)に関する。」を「本発明は、被記録材に記録を行うための記録液(以下、インクと称する)を使用した熱インクジェット記録装置及びその方法に関する。」に訂正する。
訂正事項6
同段落【0004】における「本発明は、上記の諸問題を解決することを目的としてなされたものであり、その目的は、インクジェット記録装置において、安定して高精細の画像が得られるインクを提供することにある。」を「本発明は、上記の諸問題を解決することを目的としてなされたものであり、その目的は、安定して高精細の画像が得られる熱インクジェット記録装置及びその方法を提供することにある。」に訂正する。
訂正事項7
同段落【0005】における「すなわち、本発明のインクジェット記録用インクは、水、水溶性有機溶媒および色材を必須成分として含有し、インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の間にあることを特徴とする。本発明のインクは2種以上の異なる材料により形成されたインク流路を通過させる場合に特に顕著な効果を発揮し、本発明は、また、上記インクを通過させるインク流路が、2種以上の異なる材料、例えばプラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されているインクジェット記録装置、および該インク流路内に上記インクを通過させるインクジェット記録方法にある。」を「すなわち、本発明の熱インクジェット記録装置は、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を必須成分として含有するインク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の間にあるインクを通過させるインク流路が、2種以上の異なる材料により形成されていることを特徴とする。インク流路が、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されていることが望ましい。
熱インクジェット記録方法は、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を必須成分として含有するインク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の間にあるインクを、プラスチックと金属の少なくとも2種の材料により形成されているインク流路内に通過させることを特徴とする。」に訂正する。
訂正事項8
同段落【0006】における「本発明のインクジェット記録用インクは、その基本成分自体公知であり、水、水溶性有機溶媒および色材を必須成分とする。」を「本発明の熱インクジェット記録装置及びその方法に使用されるインクは、その基本成分自体公知であり、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を必須成分とする。」に訂正する。
訂正事項9
同段落【0008】における「色材の溶解、分散状態を更に安定化させるため、界面活性剤、分散剤、包接化合物等を添加してもよい。」を「色材の溶解、分散状態を更に安定化させるため界面活性剤を添加し、必要に応じて、分散剤、包接化合物等を添加してもよい。」
に訂正する。
訂正事項10
同段落【0010】における「インクジェット記録用インクは、ノズル流路の目詰まり防止のため、一般に、不純物を除去した原料を使用し、更に汚染防止のため、インク製造時には開口径数μm以下、通常0.5μm以下のフィルターで濾過処理されている。」を「熱インクジェット記録用インクは、ノズル流路の目詰まり防止のため、一般に、不純物を除去した原料を使用し、更に汚染防止のため、インク製造時には開口径数μm以下、通常0.5μm以下のフィルターで濾過処理されている。」に訂正する。
訂正事項11
同段落【0011】における「ところが、水、水溶性有機溶媒および色材を必須成分として含有するインクジェット記録用インクにおいて、インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積を3.5×10-6より大きく、1×10-2cm3以下の間に調整することにより、画像欠陥を防止することができる。これは、インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が増加すると良好な結果が得られることから、粒子状物がインクジェット記録装置内のインク流路中に気泡が発生することを抑制し、例え発泡したとしても瞬時に消滅してしまうことによるのではないかと考えられる。」を「ところが、水、水溶性有機溶媒、界面活性剤および色材を必須成分として含有する熱インクジェット記録用インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積を3.5×10-6より大きく、1×10-2cm3以下の間に調整し、2種以上の異なる材料により構成されるインク流路を通過させることにより、画像欠陥を防止することができる。これは、インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が増加すると良好な結果が得られることから、粒子状物が熱インクジェット記録装置内のインク流路中に気泡が発生することを抑制し、例え発泡したとしても瞬時に消滅してしまうことによるのではないかと考えられる。」に訂正する。
訂正事項12
同段落【0012】における「本発明のインクジェット記録用インクは、インク流路が2種以上の異なる材料により形成されたインクジェット記録装置において、特にその効果が顕著に発現する。」を「熱インクジェット記録用インク流路が2種以上の異なる材料により形成された本発明の熱インクジェット記録装置において、特に画像欠陥の防止効果が顕著に発現する。」に訂正する。
訂正事項13
同段落【0016】における「本発明のインクジェット記録用インクは、インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が、3.5×10-6より大きく、1×10-2cm3以下の間に調整することにより、インク流路が2種以上の異なる材料により形成されたインクジェット記録装置に用いても、気泡によると思われる画像欠陥が発生しない。」を「本発明の熱インクジェット記録用インクは、インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積が、3.5×10-6より大きく、1×10-2cm3以下の間に調整することにより、インク流路が2種以上の異なる材料により形成された熱インクジェット記録装置に用いても、気泡によると思われる画像欠陥が発生しない。」に訂正する。
訂正事項14
同段落【0017】における「表1および2に示すインク構成材料を混合した後、60℃で3時間撹拌し、その後フィルター条件、インク脱気の有り無しを変えて、インクジェット記録用インクNo.1〜13を調製した。インク組成、フィルター条件、インクの脱気(60℃、500mmHg、5時間)の有無、インク1cm3中の粒径2μm以上の粒子状物の総体積を下記の表1および2に示す。なお、No.1、4、6、7、11および13を比較例として示す。」を「表1および2に示すインク構成材料を混合した後、60℃で3時間撹拌し、その後フィルター条件、インク脱気の有り無しを変えて、熱インクジェット記録用インクNo.1〜11を調製した。インク組成、フィルター条件、インクの脱気(60℃、500mmHg、5時間)の有無、インク1cm3中の粒径2μm以上の粒子状物の総体積を下記の表1および2に示す。なお、No.1、4、6、7、10および11を比較例として示す。」に訂正する。
訂正事項15
同段落【0019】における「表2」中、「No.9」の行と「No.12」の行を削除する。
訂正事項16
同段落【0021】における「以上のインクジェット記録用インクを熱インクジェットヘッド(ノズル内の流路形成材料は、シリコン、タンタル、ポリイミド等)を用い、次のようにして画質を評価した。」を「以上の熱インクジェット記録用インクを熱インクジェットヘッド(ノズル内の流路形成材料は、シリコン、タンタル、ポリイミド等)を用い、次のようにして画質を評価した。」に訂正する。
訂正事項17
同段落【0022】における「本発明のインクジェット記録用インクは、インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積を3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の範囲に調整することにより、インク流路が2種以上の異なる材料により形成されるインクジェット記録装置に適用しても、白抜け、ドット径のばらつき、ドット形状の乱れ等の画像欠陥を防止できる。」を「本発明の熱インクジェット記録用インク1cm3中に存在する粒径2μm以上の粒子状物の総体積を3.5×10-6よりも大きく、1×10-2cm3以下の範囲に調整し、インク流路が2種以上の異なる材料により形成される熱インクジェット記録装置を使用することにより、白抜け、ドット径のばらつき、ドット形状の乱れ等の画像欠陥を防止できる。」に訂正する。
訂正事項18
特許明細書の【図1】を、訂正明細書の【図1】に訂正する。
訂正事項19
特許明細書の発明の名称である「インクジェット記録用インク、インクジェット記録装置およびその方法」を「熱インクジェット記録装置およびその方法」に訂正する。
異議決定日 2002-09-13 
出願番号 特願平5-177629
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C09D)
P 1 651・ 113- YA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 直子  
特許庁審判長 花田 吉秋
特許庁審判官 鈴木 紀子
西川 和子
登録日 2000-08-25 
登録番号 特許第3102209号(P3102209)
権利者 富士ゼロックス株式会社
発明の名称 熱インクジェット記録装置およびその方法  
代理人 西元 勝一  
代理人 加藤 和詳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  
代理人 西元 勝一  
代理人 中島 淳  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  

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