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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B09B
管理番号 1068857
異議申立番号 異議2001-70119  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-06-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-01-12 
確定日 2002-10-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3064272号「生ごみのエネルギー回収システム」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3064272号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3064272号は、平成10年12月7日に特許出願され、平成12年5月12日にその特許の設定登録がなされ、その後、伊藤辰彦から特許異議の申立てがあり、取消理由が通知されたところ、その指定期間内である平成13年7月16日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否について
(1)訂正の内容
本件訂正請求書における訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。すなわち、
訂正事項a:特許請求の範囲の請求項1に「該粉砕手段に連通する反応室」とあるのを「該粉砕手段に連通し且つ高温メタン生成菌を主体とする嫌気性微生物が付着した炭素繊維製担体を充填した反応室」と訂正する。
訂正事項b:明細書の段落【0015】に「粉砕手段1、2に連通する反応室」とあるのを「粉砕手段1、2に連通し且つ高温メタン生成菌を主体とする嫌気性微生物が付着した炭素繊維製担体21を充填した反応室」と訂正する。
訂正事項c:明細書の段落【0018】に「ガラス繊維又は炭素繊維の不織布」とあるのを「炭素繊維の不織布」と訂正する。
訂正事項d:明細書の段落【0039】に「高温メタン生成菌により生ごみを消化して」とあるのを「炭素繊維製担体に付着させた高温メタン生成菌により生ごみを消化して」と訂正する。
訂正事項e:明細書の【図面の簡単な説明】欄の図6の説明に「ガラス繊維製担体」とあるのを「ガラス繊維又は炭素繊維製担体」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(イ)訂正事項aは、明細書の段落【0004】の「メタン発酵菌を主体とした嫌気性微生物によりスラリー状の生ごみを発酵させ」及び段落【0018】の「図2に示す高温メタン発酵式バイオリアクター5には、図6に示すようなガラス繊維又は炭素繊維の不織布でできた内径50〜70mmの円筒状担体21を縦に規則的に充填している。担体21には高温メタン生成菌を付着させることにより」の記載に基いて、請求項1の反応室を「高温メタン生成菌を主体とする嫌気性微生物が付着した炭素繊維製担体を充填した」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
(ロ)訂正事項b〜eは、上記訂正事項aの訂正に伴うものであり、訂正された請求項1の記載と明細書の記載とを整合させるためにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
(ハ)また、上記訂正事項a〜eは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.訂正後の本件発明
本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】生ごみを平均数100ミクロンの大きさにまで細かく粉砕して生ごみ単位重量当りのバイオガス発生量が多い高有機物濃度の生ごみスラリーとする粉砕手段、該粉砕手段に連通し且つ高温メタン生成菌を主体とする嫌気性微生物が付着した炭素繊維製担体を充填した反応室及び該反応室を高温メタン生成菌の活性温度に保つ保温手段を有し前記生ごみスラリーを高温メタン生成菌によりバイオガスと消化液とに消化するバイオリアクター、前記バイオリアクターからのバイオガスにより電力及び高温水を発生する燃料電池、並びに前記バイオリアクターからの消化液中の残留有機物を更に浄化し余剰汚泥をコンポスト材料として沈殿させる二次処理施設を備え、前記燃料電池からの高温水により前記保温手段を加熱すると共に前記燃料電池からの電力の一部分により前記粉砕手段とバイオリアクターと二次処理施設とを駆動し、電力とコンポスト材料とを出力する生ごみのエネルギー回収システム。
【請求項2】請求項1のシステムにおいて、前記燃料電池からの高温水の一部分により前記保温手段を加熱し、電力と高温水とコンポスト材料とを出力する生ごみのエネルギー回収システム。
【請求項3】請求項1又は2のシステムにおいて、前記バイオリアクターと燃料電池との間にメタン精製設備を設けてなる生ごみのエネルギー回収システム。
【請求項4】請求項3のシステムにおいて、前記メタン精製設備に湿式精製装置を含め、該湿式精製装置の排水を前記二次処理施設へ送り前記消化液と共に処理してなる生ごみのエネルギー回収システム。
【請求項5】請求項1から4の何れかのシステムにおいて、前記粉砕手段に、高圧印加により生ごみを液状の粉砕ペーストとする高圧処理機と一対の無気孔砥石の対抗面間で前記粉砕ペーストを擦り潰す微粉砕機とを設けてなる生ごみのエネルギー回収システム。」
4.申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として甲第1ないし9号証を提出し、本件請求項1ないし5に係る発明の特許は、下記(1)の理由により、取り消されるべきものである旨主張している。
(1)本件請求項1ないし5に係る発明は、甲第1ないし9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
5.甲第1ないし9号証の記載内容
本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平5-345200号公報)には以下の事項が記載されている。
(a)「有機性汚泥は先ず熱アルカリ処理槽2に投入され、…(中略)…可溶化される。熱アルカリ処理槽2にて処理された有機性汚泥は、…(中略)…返送汚泥と共に嫌気性消化槽4に送られる。…(中略)…嫌気性消化槽4では、pH7.3〜9.2のアルカリ性のpHで20〜60℃の消化温度で攪拌することにより嫌気性消化が行なわれ、メタンガスを含む消化ガスはガスホルダー6に貯留されるとともに、嫌気性消化槽4からの消化汚泥は沈殿槽5に送られる。…(中略)…さらに、ここで発生した消化ガスは、ボイラー又は燃料電池等のガス発電機7に供され、熱エネルギーや電気エネルギーへ変換される。」(第3頁右欄第19行〜第4頁右欄第10行)
(b)【図1】には本発明の一実施例を示すフローシートが記載され、ボイラー又は発電機7からの熱が熱アルカリ処理槽2及び嫌気性消化槽4に供給されることが図示されている。
同じく甲第2号証(特開平7-169495号公報)には以下の事項が記載されている。
(c)「廃棄物を加温して発酵ガスを発生させる廃棄物発酵ガス発生槽と、この廃棄物発酵ガス発生槽で発生した発酵ガスを一時貯留する発酵ガス貯留槽と、前記発酵ガスに含まれる硫化水素を除去する脱硫装置と、前記発酵ガスに含まれるメタンガスの純度を向上させるメタンガス濃縮装置と、このメタンガス濃縮装置で濃縮されたメタンガスを燃料として発電を行う化学発電装置とを備え、前記化学発電装置は、前記メタンガス濃縮装置で濃縮されたメタンガスを水素に改質する改質器と、空気を供給するブロワと、前記改質器からの水素と前記ブロワからの空気を燃料として発電する燃料電池本体とを具備することを特徴とする廃棄物発酵ガス利用化学発電システム。」(請求項1)
(d)「また燃料電池本体での発電の際に発生した熱を取り除くために、冷却水を循環させる熱交換器を設けることが好ましく、この熱交換器で燃料電池本体から取り出された熱は、前述の廃棄物発酵ガス発生槽を加温するための熱源として利用することができる。」(第3頁左欄第11〜15行)
(e)「図1に示す本発明の化学発電システムは、廃棄物を加温して発酵ガスを発生させるための発酵ガス発生槽1と、発生した発酵ガスを一時的に貯留するために必要に応じて設けられる発酵ガス貯留槽2と、発酵ガス中に含まれる硫化水素を除去する脱硫装置3と、この脱硫装置3を通過した発酵ガス中のメタンガスを濃縮するメタンガス濃縮装置4とを備え、メタンガス濃縮装置4を出たガスが、つぎの化学発電装置5に供給されるようになっている。」(第3頁左欄第18〜26行)
(f)「発酵ガス発生槽1には、家庭の生ゴミ、下水処理場の汚泥などの廃棄物が収容され…(中略)…この発電で得られる電流は直流であるので、インバータ装置5Dで交流に変換され、電力として外部に出力される。」(第3頁左欄第31〜右欄第6行)
(g)「この熱を発酵ガス発生槽1の最適温度である30〜40℃に加温するのに利用し」(第3頁右欄第30〜32行)
同じく甲第3号証(特開平10-5718号公報)には以下の事項が記載されている。
(h)「本発明は有機性廃棄物の処理方法及び装置に関し、とくに厨芥や生ごみ等を嫌気性微生物でメタン発酵処理する方法及び装置に関する。」(第2頁左欄第36〜38行)
(i)「ガラス繊維製担体1に酸発酵とメタン発酵とを行う高温菌群を付着させ、付着後のガラス繊維製担体1を発酵槽5内に規則的に縦向き並列に装填する。ディスポーザー8により有機性廃棄物Sをスラリー状に破砕してスラリー状廃棄物SLとし、そのスラリー状廃棄物SLを取入口から発酵槽5内に取り入れる。ディスポーザー8は台所や調理場からでる有機性廃棄物Sを破砕する機械であって、破砕後の粒度が比較的大きいものである。また発酵槽5は、その内側の温度を高温菌が活性を示す温度に維持する保温手段14を有する。本発明者は、発酵槽5内の温度を54〜56℃に保てば高温菌群の高い処理効率が得られることを実験的に見出した。」(第3頁左欄第38〜49行)
同じく甲第4号証(特開平10-137730号公報)には以下の事項が記載されている。
(j)「本発明の高圧粉砕式厨芥処理システムは、…(中略)…両ピストン44、45により厨芥1に高圧を印加して細胞性成分を粉砕ペーストとし且つ該粉砕ペーストを微小間隙46及び液出口47を介して処理槽4へ送出し、…(中略)…好ましくは、筒体41の液出口47と処理槽4との間に、相対移動する一対の無気孔砥石の対向面間で前記粉砕ペーストを擦り潰す石臼式粉砕機2を設ける。」(第3頁左欄第37行〜右欄第12行)
(k)「嫌気性処理槽4には、図6に示すような中空筒状のガラス繊維布製周壁37を合成樹脂製のらせん状枠体38で補強したガラス繊維製担体35の複数個を中空部が鉛直となる如く積み重ねて設け、高温菌をそれらのガラス繊維製担体35に担持させ、処理槽4を50〜60℃に維持した。」(第4頁左欄第16〜21行)
(l)「好ましくは、図1に示すように処理槽4内での分解処理時に生ずる可燃性ガスをガスホルダー6に蓄え、例えばそのガスを熱源とする発電手段(図示せず)を設け、高圧処理機40の加圧手段44a、45a、石臼式粉砕機2、各種ポンプ、及び処理槽4の加熱器5を電気ヒータとした場合の電力を供給することにより、自足的な厨芥処理システムとすることができる。」(第4頁左欄第42〜48行)
同じく甲第5号証(特開昭58-74192号公報)には以下の事項が記載されている。
(m)「第2消化槽3の上部より取出された離脱液は、活性汚泥曝気槽8へ送られ、前述の浮上フロスを浮上分離除去したあとの廃液と共に生物学的酸化処理される。この活性汚泥曝気槽8から取出された余剰汚泥は、沈降分離したのち脱水されて汚泥乾燥機9に送られ、前述のボイラー7から供給されるスチームの熱を利用して減圧下に乾燥固化され、乾燥菌体肥料10となる。」(第2頁左下欄第19行〜右下欄第6行)
同じく甲第6号証(特開平7-996号公報)には以下の事項が記載されている。
(n)「そこでこの処理水を脱硫塔6へ送り、汚泥消化ガスと気液接触させる。これにより汚泥消化ガス中の硫化水素を0.01〜5ppm程度にまで減少させ、また炭酸ガスを除去して汚泥消化ガス中のメタンガス濃度を80%程度にまで高めることができる。このようにして浄化された汚泥消化ガスは燃料電池7へ供給され、発電が行われる。…(中略)…このとき燃料電池7からは70〜90℃程度の温水が発生するため、この熱を消化槽5の加温に利用することができる。」(第3頁左上欄第21行〜右上欄第7行)
同じく甲第7号証{PROCEEDINGS Volume I(平成6年8月19日国立国会図書館受付)第583、589〜590頁}には以下の事項が記載されている。
(o)「嫌気性消化のような生物学的プロセスは、粒子のサイズに影響され、細かければ細かいほど微生物が接触する面積が大きくなるため、反応速度が速くなる。多くの機械、例えば湿式破砕機、乾式破砕機、ハンマミルが粒径を小さくするため用いられる。…(中略)…彼らは、10.1〜5.1mm程度に破砕した場合のバイオガス発生量は、0.6mm程度に破砕した場合の量に比べて15-30%となっていることを報告している。」(第589頁第27行〜第590頁第2行訳文)
同じく甲第8号証{JOURNAL OF ENVIRONMENTAL SCIENCE AND HEALTH(平成5年12月7日国立国会図書館受付)第1629、1633〜1634、1637〜1639頁}には以下の事項が記載されている。
(p)「嫌気性消化およびバイオガス発生を促進するための食品加工廃棄物の物理化学的前処理」(第1629頁表題訳文)
(q)「図2は、破砕されたサトウキビバガスから生じるメタンガス発生量が、0.003-8mmまで粒径を小さくしていくことにより、増加することを示している。メタンガス発生量は、約0.5mm粒径のとき最大となる。バイオガスに対して粒径を小さくしていく効果は、次のようなことを示している、すなわちセルロース基質に機械的な力が加わり、これにより加水分解工程を強化する。」(第1638頁第23行〜第1639頁第3行訳文)
同じく甲第9号証{AGRICULTURAL WASTES(昭和59年7月28日国立国会図書館受付)第285、292〜293頁}には以下の事項が記載されている。
(r)「廃棄トマトの嫌気性消化に対する粒径の効果」(第285頁表題訳文)
(s)Fig2にはcorrected to 0℃ and 1 atmosphere pressure におけるMETHANE GAS PRODUCTIONとPARTICLE SIZEの関係が記載され、廃棄トマトの粒径を小さくすれば、それだけ嫌気性消化によるメタンガス量が増加することが図示されている。
6.当審の判断
(1)請求項1に係る発明について
甲第2号証には、上記摘示事項(c)より「廃棄物を加温して発酵ガスを発生させる廃棄物発酵ガス発生槽と、前記発酵ガスに含まれるメタンガスを燃料として発電する燃料電池本体とを具備する、廃棄物発酵ガス利用燃料電池本体発電システム」が記載され、さらに、廃棄物として生ゴミを用いること{上記摘示事項(f)}、燃料電池本体から取り出された熱で廃棄物発酵ガス発生槽をその最適温度である30〜40℃に加温すること{上記摘示事項(d)、(g)}、発電したものを電力として外部に出力すること{上記摘示事項(f)}が記載されているから、「生ゴミを、燃料電池本体から取り出された熱で最適温度である30〜40℃に加温して発酵ガスを発生させる生ゴミ発酵ガス発生槽と、前記発酵ガスに含まれるメタンガスを燃料として発電する燃料電池本体とを具備する、電力を出力する生ゴミ発酵ガス利用燃料電池本体発電システム」が記載されていると云える。
そこで、本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「訂正1発明」という)と甲第2号証に記載された発明(以下「甲2発明」という)とを対比すると、甲2発明の「発酵ガス」は本件訂正1発明の「バイオガス」に、同じく「燃料電池本体」は「燃料電池」、「発酵ガス発生槽」は「バイオリアクター」、「生ゴミ発酵ガス利用燃料電池本体発電システム」は「生ごみのエネルギー回収システム」に、それぞれ相当し、さらに、甲2発明は、生ゴミを発酵させてメタンガス等を発生させているからメタン生成菌を用いた消化であること、発酵ガス発生槽の最適温度とはガス発生に最適な発酵温度、即ちメタン生成菌の活性温度であること、燃料電池本体の熱は冷却水と熱交換され、その熱媒体を循環して発酵ガス発生槽を加温するものであるから、加温時の熱媒体は温水になっていることは、それぞれ明らかであるから、両者は「生ごみを、メタン生成菌の活性温度に保つ温度調節手段を有しメタン生成菌によりバイオガスと消化液とに消化するバイオリアクター、前記バイオリアクターからのバイオガスにより電力及び温水を発生する燃料電池、前記燃料電池からの温水により前記温度調節手段を加熱する、電力を出力する生ごみのエネルギー回収システム」である点で一致し、以下の点で相違している。
(イ)生ごみ消化の前処理として、本件訂正1発明は生ごみを平均数100ミクロンの大きさにまで細かく粉砕して生ごみ単位重量当りのバイオガス発生量が多い高有機物濃度の生ごみスラリーとする粉砕手段を備えているのに対し、甲2発明は粉砕手段を備えていない点。
(ロ)消化に用いる微生物が、本件訂正1発明は高温メタン生成菌を主体とする嫌気性微生物であるのに対し、甲2発明はメタン生成菌である点。
(ハ)バイオリアクターが、本件訂正1発明は微生物が付着した炭素繊維製担体を充填した反応室を有しているのに対し、甲第2号証では発酵ガス発生槽1につき具体的に説明されず、したがって、そこでは、微生物が付着した炭素繊維製担体を充填した反応室を用いることが示されない点。
(ニ)温度調節手段が、本件訂正1発明は反応室を高温メタン生成菌の活性温度に保つ保温手段であるのに対し、甲2発明は発酵ガス発生槽の最適温度である30〜40℃に加温する手段である点。
(ホ)バイオリアクターからの消化液の後処理として、本件訂正1発明は消化液中の残留有機物を更に浄化し余剰汚泥をコンポスト材料として沈殿させる二次処理施設を備え、コンポスト材料も出力するのに対し、甲2発明はそのような施設を備えず、コンポスト材料は出力しない点。
(ヘ)燃料電池で発生し保温手段を加熱する温水が、本件訂正1発明は高温水であるのに対し、甲第2号証には高温水とは記載されていない点。
(ト)本件訂正1発明は燃料電池からの電力の一部分により粉砕手段とバイオリアクターと二次処理施設とを駆動するのに対し、甲第2号証には電力として外部に出力されるとのみ記載され、特定装置を駆動することは例示されていない点。
まず、相違点(ハ)について検討する。
甲第1号証には、上記摘示事項(a)〜(b)より、有機性汚泥を嫌気性消化して発生した消化ガスを燃料電池に供して電気エネルギーに変換すると共に発電機からの熱を嫌気性消化槽に供給することが、
甲第3号証には、上記摘示事項(h)〜(i)より、保温手段を有し、高温菌群を付着させたガラス繊維性担体を装填した発酵槽で、スラリー状に破砕した生ごみを嫌気性微生物でメタン発酵処理することが、
甲第4号証には、上記摘示事項(j)〜(l)より、厨芥に高圧を印加したのち無気孔砥石の対向面間で擦り潰したものを、ガラス繊維性担体に高温菌を担持させた処理槽で分解処理すると共に処理槽で生じる可燃性ガスを熱源として発電することが、
甲第5号証には、上記摘示事項(m)より、消化槽より取出された離脱液を活性汚泥曝気槽で生物学的酸化処理し、この活性汚泥曝気槽から取出された余剰汚泥を沈降分離したのち乾燥して菌体肥料にすることが、
甲第6号証には、上記摘示事項(n)より、汚泥消化ガスを脱硫塔で硫化水素及び炭酸ガスを除去してメタンガス濃度を高めて燃料電池に供給して発電し、このとき燃料電池から発生する温水を消化槽の加温に利用することが、
甲第7号証には、上記摘示事項(o)より、嫌気性消化のような生物学的プロセスは、粒子のサイズに影響され、細かければ細かいほど反応速度が速くなることが、
甲第8号証には、上記摘示事項(p)〜(q)より、破砕されたサトウキビバガスの嫌気性消化から生じるメタンガス発生量は約0.5mm粒径のとき最大となることが、
甲第9号証には、上記摘示事項(r)〜(s)より、廃棄トマトの粒径を小さくすれば、それだけ嫌気性消化によるメタンガス量が増加することが、
それぞれ記載されていると云えるが、バイオリアクターにおける微生物担体として炭素繊維製担体を用いる点は甲第1、3〜9号証に記載ないし示唆されていない。
そして、本件訂正1発明はこの点により、平成13年7月16日付意見書から、微生物担体として微生物の付着量及び強度の耐久性において顕著な効果を奏するものと認められる。
上記のとおり、少なくとも相違点(ハ)のバイオリアクターにおける微生物担体として炭素繊維製担体を用いる点が甲第1ないし9号証の記載から容易に導けるものではないから、その余の相違点について検討するまでもなく、訂正1発明が甲第1ないし9号証に記載された発明に基いて容易に想到し得るものとすることができない。
(2)請求項2〜5に係る発明について
本件請求項2〜5に係る発明は、請求項1に係る発明を直接又は間接的に引用し、請求項1に記載された要件に加えて、更に別の要件を付加したものであるから、前項で述べたように、請求項1に係る発明が、甲第1ないし9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない以上、請求項2〜5に係る発明も、同じ理由により、甲第1ないし9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
7.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1ないし5に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1ないし5に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
生ごみのエネルギー回収システム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】生ごみを平均数100ミクロンの大きさにまで細かく粉砕して生ごみ単位重量当りのバイオガス発生量が多い高有機物濃度の生ごみスラリーとする粉砕手段、該粉砕手段に連通し且つ高温メタン生成菌を主体とする嫌気性微生物が付着した炭素繊維製担体を充填した反応室及び該反応室を高温メタン生成菌の活性温度に保つ保温手段を有し前記生ごみスラリーを高温メタン生成菌によりバイオガスと消化液とに消化するバイオリアクター、前記バイオリアクターからのバイオガスにより電力及び高温水を発生する燃料電池、並びに前記バイオリアクターからの消化液中の残留有機物を更に浄化し余剰汚泥をコンポスト材料として沈殿させる二次処理施設を備え、前記燃料電池からの高温水により前記保温手段を加熱すると共に前記燃料電池からの電力の一部分により前記粉砕手段とバイオリアクターと二次処理施設とを駆動し、電力とコンポスト材料とを出力する生ごみのエネルギー回収システム。
【請求項2】請求項1のシステムにおいて、前記燃料電池からの高温水の一部分により前記保温手段を加熱し、電力と高温水とコンポスト材料とを出力する生ごみのエネルギー回収システム。
【請求項3】請求項1又は2のシステムにおいて、前記バイオリアクターと燃料電池との間にメタン精製設備を設けてなる生ごみのエネルギー回収システム。
【請求項4】請求項3のシステムにおいて、前記メタン精製設備に湿式精製装置を含め、該湿式精製装置の排水を前記二次処理施設へ送り前記消化液と共に処理してなる生ごみのエネルギー回収システム。
【請求項5】請求項1から4の何れかのシステムにおいて、前記粉砕手段に、高圧印加により生ごみを液状の粉砕ペーストとする高圧処理機と一対の無気孔砥石の対抗面間で前記粉砕ペーストを擦り潰す微粉砕機とを設けてなる生ごみのエネルギー回収システム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は生ごみのエネルギー回収システムに関し、生ごみを電気エネルギー、高温水熱エネルギー及びコンポスト材料として回収する生ごみのエネルギー回収システムに関する。
【0002】
本発明は、生ごみが廃棄されるスーパー、デパート、ホテル、病院、アミューズメント施設、食品工場、弁当工場、食品倉庫、空港施設、鉄道駅施設等幅広い分野で利用することができる。
【0003】
【従来の技術】
生ごみは従来、焼却法、埋め立て法、コンポスト(堆肥化)法で処理されている。しかし、焼却法はダイオキシン等の汚染物質が発生し、埋め立て法は地盤沈下が発生し、コンポスト法は安定した供給先が必要となるなど各々問題を含んでいる。
【0004】
これらの従来の生ごみ処理方法に代わる技術として、嫌気性微生物を利用した生ごみのメタン発酵処理技術の研究・開発が進められている。この技術は、生ごみを粉砕機で粉砕したのち水を加えてスラリー状とし、メタン発酵菌を主体とした嫌気性微生物によりスラリー状の生ごみを発酵させ、最終的にはバイオガス(メタン70%、二酸化炭素30%)と処理水および少量の汚泥とに分解するものである。バイオガスは約6,000kcal/m3の熱量を持っており、エネルギーとして回収できる利点がある。
【0005】
生ごみをメタン発酵処理する場合は、生ごみを粉砕し、可溶化した後にメタン発酵処理する方法が普通である。しかし生ごみは高濃度の有機物質を含み、またSS(固形分)も多量に含んでいるため、従来のメタン発酵処理方法であるUASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)法や固定床法、浮遊床法では、以下の問題があった。すなわちUASB法ではSSがバイオリアクター内に入ると顆粒状の微生物がリアクター外に流出する問題、固定床法ではSSが担体を閉塞する問題、浮遊床法では有機物が高濃度に含まれているため分解に長時問を要しバイオリアクターが非常に大型になるという問題がある。
【0006】
本発明者は、これらの問題解決のため、比較的高い温度(50〜60℃)で活性を示す高温メタン生成菌(以下、高温菌という。)に注目し、高温菌による排水の高温処理方法を特公平6-094037号に開示し、高温菌利用による厨芥の処理方法を特許第2708087号公報に開示した。高温菌は、中温度(35〜38℃)で活性を示す中温メタン生成菌(以下、中温菌という。)に比し約2倍の活性を持つため、厨芥その他の生ごみのような難分解性の有機物処理にとくに適している。
【0007】
特許第2708087号公報の厨芥の処理方法を、図5及び6を参照して、本発明の理解に必要な程度において説明する。厨芥を粉砕機27により粉砕し、粉砕後の厨芥が通過できる大きさの中空筒状であって且つ酸発酵とメタン発酵とを行なう高温菌群が付着したガラス繊維製担体21のろ床20を設けた嫌気槽26へ前記粉砕後の厨芥を送り、高温菌群が活性を示す温度で前記粉砕後の厨芥と高温菌群とを接触させて分解するものである。同方法は、厨芥以外の他の生ごみの処理にも適用することが可能である。
【0008】
担体21の一例は、図6に示すように、ガラス繊維製の多孔質周壁23を有する中空筒体22を枠体24に保持したものである。同図の担体21は従来の担体に比し低価格であり、中空筒体22の径の大きさを調節して閉塞を避けることができ、また高温菌を高濃度に固定化できるので、固形物の多い厨芥の処理に適している。なおガラス繊維に代えて炭素繊維を用いることができる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
図5の生ごみ処理で発生したバイオガスGは、嫌気槽26の加熱用燃料その他の温水やスチームボイラーの熱源にしたり、発生ガス量が多い時は発電に利用することができる。特に発電は、電力の用途が広いことから、大規模なメタン発酵処理施設では積極的に採用されている。
【0010】
しかし従来のバイオガスで発電する方法は、ガスエンジン(例えばレシプロ方式)に直接バイオガスを燃料として投入し、エンジンに直結した発電機を回転させて発電するものである。ガスエンジン式発電方法では、バイオガスによる発電効率が約30%と低い問題がある。この発電効率の低さは、例えば図5の嫌気槽26の加熱や粉砕機27及び循環ポンプ25の駆動などのエネルギーをバイオガスのエネルギーのみで賄い、システム外部からのエネルギー供給を不用とする自足的システムの構築の障害となっていた。生ごみのエネルギーを高効よく回収し、さらにはエネルギーを外部へ供給しうるシステムの開発が望まれている。
【0011】
またガスエンジン式発電は、エンジン内においてバイオガスを高温で燃焼させて発電するため、大気汚染物質であるNOx、SOxや煤塵が発生し易いという問題もある(特にNOx濃度が高く、数10ppm含まれる)。さらにガスエンジン式発電には、エンジン音が大きく振動するという問題もある。
【0012】
そこで本発明の目的は、高温メタン発酵処理と燃料電池との組み合わせにより生ごみからエネルギーを高効率で回収できるシステムを提供するにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者は最近の燃料電池技術の進歩に注目した。燃料電池は原理的には水素と酸素とを電気化学的に反応させて発電するものであり、通常は原料として都市ガス(天然ガス)やナフサ、メタノールが使用されている。バイオガスはメタンを70%程度含んでおり、メタンを改質器に通して水素を発生させることにより、バイオガスを燃料電池の水素源として利用することができる。
【0014】
例えばリン酸型燃料電池の場合、発電効率は40〜50%程度であるが、温熱(又は温熱水)が排出されるので、この温熱を有効に利用すれば約80%の総合エネルギー効率が得られる(電気学会誌、116巻9号(1996年9月)、pp.595-597)。本発明者の計算によれば、高温メタン発酵式バイオリアクターと燃料電池とを組み合わせ且つ燃料電池からの出力温熱をバイオリアクターの加熱用として用いれば、生ごみのエネルギー回収効率を高め、システムの自足性を高め、さらに生ごみのエネルギーを電力としてシステム外部へ供給できる。本発明は、この知見に基づき完成に至ったものである。
【0015】
図1及び2の実施例を参照するに、本発明の生ごみのエネルギー回収システムは、生ごみを平均数100ミクロンの大きさにまで細かく粉砕して生ごみ単位重量当りのバイオガス発生量が多い高有機物濃度の生ごみスラリーSとする粉砕手段1、2、粉砕手段1、2に連通し且つ高温メタン生成菌を主体とする嫌気性微生物が付着した炭素繊維製担体21を充填した反応室及び該反応室を高温メタン生成菌の活性温度に保つ保温手段5aを有し生ごみスラリーSを高温メタン生成菌によりバイオガスGと消化液Eとに消化するバイオリアクター5、バイオリアクター5からのバイオガスGにより電力及び高温水を発生する燃料電池10、並びにバイオリアクター5からの消化液E中の残留有機物を更に浄化し余剰汚泥をコンポスト材料として沈殿させる二次処理施設6を備え、燃料電池10からの高温水により保温手段5aを加熱すると共に燃料電池10からの電力の一部分により粉砕手段1、2とバイオリアクター5と二次処理施設6とを駆動し、電力とコンポスト材料とを出力するものである。
【0016】
好ましくは、燃料電池10からの高温水の一部分により保温手段5aを加熱し、電力と高温水とコンポスト材料とを出力する。さらに好ましくは、バイオリアクター5と燃料電池10との間にメタン精製設備7を設ける。メタン精製設備7に湿式精製装置を含め、湿式精製装置の排水を二次処理施設6へ送り消化液Eと共に処理することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明では、生ごみスラリーSを高温メタン発酵式バイオリアクター5によりバイオガスGと消化液Eとに分解すると同時に、発生したバイオガスGを水素源として燃料電池10により発電する。生ごみスラリーSは有機物濃度が高い。例えば有機物濃度の指標として用いられるCODcr値では30〜40万mg/L(Lはリットルを表す。以下同じ。)を示し、発生するバイオガス量も非常に多く、燃料電池10により大きな発電量が得られる。
【0018】
図2に示す高温メタン発酵式バイオリアクター5には、図6に示すような炭素繊維の不織布でできた内径50〜70mmの円筒状担体21を縦に規則的に充填している。担体21には高温メタン生成菌を付着させることにより、バイオリアクター5内の微生物濃度を高くすることができる。また円筒状の担体21を縦に規則充填しているため、バイオガスが円筒21内をすり抜けることにより、SS等による担体21の閉塞を防止できる。
【0019】
バイオリアクター5の反応室は、高温菌の活動に最も適する条件、例えばpH6.5〜8.0で温度50〜60℃、好ましくは54〜56℃に保持する。本発明では、バイオリアクター5に設けた保温手段5aを燃料電池10からの高温水で加熱することにより、バイオリアクター5の反応室を高温菌の活動に適する温度に保持する。保温手段5aは、例えば図2に示すように、反応室内のスラリーSと燃料電池10からの高温水との熱交換器とすることができる。
【0020】
水を電気分解すると水素と酸素が発生するが、この逆の原理を応用したのが燃料電池10である。燃料電池10の基本構造は、水素極(燃料極)と酸素極(空気極)との間に電解質を挟む構造である(図示せず)。水素極では、水素が反応して電子を放出し水素イオンとなる。水素イオンは、電解質を通って酸素極へ移動し、外部より供給された酸素と反応して水を生じる。この結果、水素極から酸素極へ向かって電子が流れるので電力を取り出すことができる。
【0021】
本発明で用いる燃料電池10の一例は、電解質としてリン酸水溶液を使用するリン酸型燃料電池である。リン酸型燃料電池の作動温度は約200℃である。ただし本発明で用いる燃料電池10はリン酸型燃料電池に限定されず,例えば溶融炭酸塩型、または固体電解質型の燃料電池を使用することができる。
【0022】
リン酸型燃料電池発電システムは、一般的には、燃料ガスを水素に改質する燃料改質装置、水素と酸素とを反応させて直流電力を出力する燃料電池10、燃料電池の内部で発生する熱を回収する排熱回収装置、及び直流電力を交流電力に変換する電力変換装置とで構成されている(前掲電気学会誌、p.596)。本発明では、バイオリアクター5からのバイオガスGを燃料改質装置に通し、発生した水素を燃料電池10内へ導き、燃料電池10において空気から得た酸素と水素とを電気化学的に反応させることにより発電する。
【0023】
燃料電池10は、従来のガスエンジンと違ってバイオガスを燃焼させることなく電気化学的に反応させるため、発電効率が40〜50%程度と高く、排ガス中にNOx、SOxや煤塵が殆ど含まれずクリーンである。また、効率が高い分だけ二酸化炭素の排出量が少なくなる。騒音、振動も小さい。
【0024】
さらに燃料電池10の場合、排熱回収装置が出力する高温熱を有効に利用することにより、総合エネルギー効率をさらに高めることができる。従来、バイオガスをバイオリアクターの熱源とする場合は、ボイラーなどを別途設けるか、又はガスエンジンの出力電力の一部分をバイオリアクターの保温用に供給していた。本発明では、燃料電池10の排熱である高温水を保温手段に有効に利用するので、ボイラーなどの装置を増設する必要はなく、また燃料電池10の出力電力を保温のために消費する必要もない。従って、例えば図1に示す粉砕手段1、2、バイオリアクター5のスラリー循環ポンプ25(図2)、二次処理施設6等の駆動に必要な電力を燃料電池10の出力で賄うことができるだけでなく、余剰の電力をシステム外へ供給することが可能となり、発電施設としての経済性が得られる。
【0025】
排熱回収装置からの高温水の量がバイオリアクターの保温に必要な量を超える場合は、過剰の高温水を、図1に示すように、高温水供給配管経由でシステム外部へ供給することができる。またバイオリアクター5からの消化液Eを二次処理施設6へ送り、排水は高度処理した後に処理水として下水道や河川に放流し、残留有機物をコンポスト材料として回収することができる。従って本発明によれば、生ごみを原料として電気エネルギー、高温水熱エネルギー及びコンポスト材料を出力しつつ、排水は高度処理されており、排ガスはNOx、SOxが極めて少ないので、環境に対する影響が少ないエネルギー回収システムを実現することができる。
【0026】
こうして本発明の目的である「高温メタン発酵処理と燃料電池との組み合わせにより生ごみからエネルギーを高効率で回収できるシステム」の提供が達成できる。
【0027】
【実施例】
図1の実施例では、粉砕手段として高圧処理機1及び微粉砕機2を設けている。高圧粉砕機1は、スクリューカッター等で所定大きさに砕いた生ごみに高圧を印加して液状の粉砕ペーストとするものであり、生ごみ以外の異物(プラスチックフィルム、木片等)を分別することができる。また微粉砕機2は、例えば一対の無気孔砥石の対抗面間で前記粉砕ペーストを擦り潰すものであり、粉砕ペーストをさらに平均数100ミクロン程度にまで細かく粉砕する。粉砕した生ごみは、その生ごみと等量ないし2倍の水と混合し、スラリー状にしてスラリータンク3へ一旦貯蔵する。スラリーSはスラリーポンプ4によりバイオリアクター5へ少しずつ送られる。
【0028】
バイオリアクター5内で80〜90%の有機物が高温菌により分解され、バイオガスG及び消化液Eとなる。CODcr値が30万mg/L程度の生ごみ1トンを高温メタン発酵式バイオリアクター5で分解すると130Nm3程度のバイオガスが発生する。バイオガスの組成はメタン(CH4)が平均70%、二酸化炭素(CO2)が30%、硫化水素が1500ppm程度である。熱量に換算すると、80万kcalとなる。
【0029】
バイオガスGは燃料電池10の原料として次の工程へ送られる。一方バイオリアクター5内に残った10〜20%の有機物を含む消化液Eは二次処理施設6へ送られて浄化され、処理水として下水道や河川に放流される。二次処理施設では、通常は、好気性微生物を使った活性汚泥処理等が行なわれる。
【0030】
バイオガスGは主にメタンと二酸化炭素との混合ガスであるが、組成は生ごみスラリーの有機物濃度や量によって変動する。メタン濃度が大きく変動すると燃料電池10での安定的な発電が難しくなるため、燃料電池10へ入力するメタン濃度を80〜90%以上に維持する必要がある。またバイオガスG中の硫化水素も燃料電池10の触媒毒となるため除去する必要がある。
【0031】
図1の実施例では、バイオリアクター5と燃料電池10との間にメタン精製設備7を設け、バイオガス中の二酸化炭素と硫化水素とを除去している。メタン精製施設7は大きく湿式と乾式に分けられる。図1の符号7aは湿式メタン精製施設を表し、7bは乾式メタン精製施設を表す。ただしメタン精製設備7は図示例に限定されず、湿式又は乾式の何れか一方のメタン精製施設を設ければ足りる。
【0032】
図3にメタン精製施設7の一例を示す。図3(A)に示す湿式メタン精製施設7aでは、まず水洗塔12でバイオガスGを水で洗浄し、二酸化炭素を水に吸収する。硫化水素はバイオガス中の濃度が低いため僅かに吸収されるだけである。吸収された二酸化炭素は放散塔13で放散され、水だけが再び水洗塔12に循環される。硫化水素は、湿式脱硫塔14で水酸化ナトリウムを含んだアルカリ水溶液で洗浄することにより、脱硫する。脱硫処理後のアルカリ排水は、pH調整設備18(図1参照)において例えば塩酸で中和したのち二次処理施設6へ送り、バイオリアクター5からの消化液Eと共に処理することができる。最終的には硫化水素は、硫酸ナトリウム等の塩類として、二次処理施設6から排水とともに放流される。
【0033】
図3(B)に示す乾式メタン精製施設7bでは、まず酸化鉄のような脱硫剤15aを充填した乾式脱硫塔15にバイオガスを通して硫化水素を除去し、その後水洗塔12で二酸化炭素を水で吸収させる。水洗塔12の作用は図3(A)で説明した通りである。乾式脱硫塔15の脱硫剤15aは定期的に交換する。乾式メタン精製施設7bでは、図3(C)に示すように、乾式脱硫塔15で脱硫した後、PSA(Pressure swing adsorption)式の吸着塔16で二酸化炭素を吸着除去する方法もある。
【0034】
図1では、バイオガスGから二酸化炭素と硫化水素を除去した後、さらにその他の微量アンモニア等の不純物を取り除くため活性炭吸着塔8を通してバイオガスGを精製している。ただし活性炭吸着塔8は本発明に必須のものではない。
【0035】
精製したバイオガスGは一旦バッファタンク9に貯留した後、燃料電池10の原料とする。バッファタンク9を経由することにより、燃料電池10に対するバイオガスGの安定な定量的供給が可能となる。ただし、バイオガスの不足時に都市ガス等を補足的に燃料電池10へ供給することにより、バッファタンク9を小型化あるいは省略することも可能である。また図1に示すように、バイオガス不足時のバックアップ用として都市ガスを使用することもできる。
【0036】
また図1の実施例では、燃料電池の停止時やバイオガスの過剰時に対応するため、補助的設備として、バイオガスを熱源として高温水を供給する温水ボイラー11を設けている。燃料電池10の反応熱は冷却水で回収し、バイオリアクター5の加熱や暖房熱源、吸収式冷凍機の熱源等に使用する。
【0037】
図4は、生ごみを1日15トン処理する場合の物質収支、エネルギー収支を示す。15トンの生ごみに対し20トンの希釈水を混合して粉砕し、スラリー化する。スラリータンク3から1.5m3/Hの流量でバイオリアクター5に投入する。バイオリアクター5からはメタン70%、二酸化炭素30%のバイオガスGが80m3/H発生する。これは熱量に換算すると約48万kcal/Hである。バイオガスGは精製し、メタン85%の濃度にして燃料電池に送る。燃料電池10ではバイオガスG及ぴ空気を原料として発電し、400V,200kwhの電力エネルギーを発電する。燃料電池からは約17万kcalの反応熱が発生するため冷却水で冷却し反応熱を回収する。回収先はバイオリアクターの加熱(約6万kcal/H)や暖房、吸収式冷凍機等の熱源に使用できる。
【0038】
生ごみのCODcrは約30万mg/L、BODは20万mg/L,SSは6万mg/L程度であるが最終処理水の水質を、例えば下水道放流基準以下(BOD,SSが600mg/L以下)にすれば処理水を下水道へ放流することができる。
【0039】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の生ごみのエネルギー回収システムは、炭素繊維製担体に付着させた高温メタン生成菌により生ごみを消化してバイオガスと消化液とに分解するバイオリアクターと、バイオガスを原料として電力及び高温水を発生する燃料電池と、消化液中の残留有機物を更に浄化し余剰汚泥をコンポスト材料として沈殿させる二次処理施設とを備え、燃料電池からの高温水によりバイオリアクターを加熱すると共に燃料電池からの電力の一部分により前記バイオリアクターと二次処理施設とを駆動し、電力とコンポスト材料とを出力するので、次の効果を奏する。
【0040】
(イ)生ごみのエネルギーを電気エネルギー及びコンポスト材料、さらには高温水熱エネルギーとして高効率で回収し、有効に利用することができる。
(ロ)活性の高い高温メタン生成菌により生ごみを処理するため、バイオリアクター等の装置がコンパクトになり、経済的にも有利である。
(ハ)従来の生ごみ処理方法の問題点であるダイオキシンの発生、地盤沈下、安定した供給先の確保等の問題点がない。
(ニ)バイオガスを原料とした燃料電池で発電するため、効率が良く、その分、二酸化炭素の発生が少なくなる。またNOx、SOx、煤塵の発生が殆どなく、騒音、振動も少ない。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、本発明の一実施例の図式的流れ図である。
【図2】は、本発明におけるバイオリアクターの説明図である。
【図3】は、メタン精製設備の説明図である。
【図4】は、本発明の物質収支、エネルギー収支を示す図である。
【図5】は、従来の高温菌による厨芥処理方法の説明図である。
【図6】は、高温菌の固定に適するガラス繊維又は炭素繊維製担体の説明図である。
【符号の説明】
1…高圧処理機 2…微粉砕機
3…スラリータンク 4…スラリーポンプ
5…バイオリアクター 6…二次処理施設
7…メタン精製設備 7a…湿式メタン精製設備
7b…乾式メタン精製設備 8…活性炭吸着塔
9…バッファタンク 10…燃料電池
11…温水ボイラー 12…水洗塔
13…放散塔 14…湿式脱硫塔
15…乾式脱硫塔 15a…脱硫剤
16…PSA式吸着塔 16a…吸着剤
18…pH調整設備 20…ろ床
21…担体 22…中空筒体
23…多孔質周壁 24…枠体
25…スラリー循環ポンプ 26…嫌気槽
27…粉砕機 28…脱硫器
E…消化液 G…バイオガス
S…スラリー
【図面】






 
訂正の要旨 特許第3064272号の明細書を、
特許請求の範囲の減縮を目的として、
訂正事項a:特許請求の範囲の請求項1に「該粉砕手段に連通する反応室」とあるのを「該粉砕手段に連通し且つ高温メタン生成菌を主体とする嫌気性微生物が付着した炭素繊維製担体を充填した反応室」と訂正する。
明りょうでない記載の釈明を目的として、
訂正事項b:明細書の段落【0015】に「粉砕手段1、2に連通する反応室」とあるのを「粉砕手段1、2に連通し且つ高温メタン生成菌を主体とする嫌気性微生物が付着した炭素繊維製担体21を充填した反応室」と訂正する。
訂正事項c:明細書の段落【0018】に「ガラス繊維又は炭素繊維の不織布」とあるのを「炭素繊維の不織布」と訂正する。
訂正事項d:明細書の段落【0039】に「高温メタン生成菌により生ごみを消化して」とあるのを「炭素繊維製担体に付着させた高温メタン生成菌により生ごみを消化して」と訂正する。
訂正事項e:明細書の【図面の簡単な説明】欄の図6の説明に「ガラス繊維製担体」とあるのを「ガラス繊維又は炭素繊維製担体」と訂正する。
異議決定日 2002-09-20 
出願番号 特願平10-346888
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B09B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 山田 充
西村 和美
登録日 2000-05-12 
登録番号 特許第3064272号(P3064272)
権利者 鹿島建設株式会社
発明の名称 生ごみのエネルギー回収システム  
代理人 市東 篤  
代理人 市東 禮次郎  
代理人 市東 禮次郎  
代理人 市東 篤  

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