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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 発明同一  C04B
管理番号 1068861
異議申立番号 異議2002-70225  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-01-30 
確定日 2002-09-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3193157号「低温焼成用誘電体磁器組成物及びそれを用いて得られた誘電体共振器若しくは誘電体フィルター並びにそれらの製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3193157号の訂正後の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3193157号の請求項1〜4に係る発明についての出願は、平成4年10月2日に特許出願され、平成13年5月25日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、菅野紀子より請求項1〜4に係る発明の特許について特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成14年7月15日付けで訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
平成14年7月15日付け訂正請求の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a〜eのとおりに訂正しようとするものである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1及び請求項2を、
「【請求項1】962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物を1050℃以上の温度で仮焼して得られる仮焼物を平均粒子径が0.8μm以下となるように粉砕してなる仮焼粉砕物を用い、この仮焼粉砕物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において配合せしめてなることを特徴とする低温焼成用誘電体磁器組成物。
【請求項2】962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物を1050℃以上の温度で仮焼して得られる仮焼物を平均粒子径が0.8μm以下となるように粉砕してなる仮焼粉砕物を用い、この仮焼粉砕物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において加え、更に、8.0重量部までのZnO粉末及び3.0重量部までのSiO2粉末のうちの少なくとも一方を、配合せしめてなることを特徴とする低温焼成用誘電体磁器組成物。」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項3及び請求項4を、
「【請求項3】誘電体磁器と、該誘電体磁器と同時焼成することにより該誘電体磁器内に形成された導体パターンを有する誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルターにおいて、該誘電体磁器を、下記(A)または(B)に記載の誘電体磁器組成物を焼成して得られる誘電体磁器にて構成する一方、前記導体パターンを、Ag単体若しくはAgを主成分とする合金材料にて形成したことを特徴とする誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルター。
(A)962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物。
(B)962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦Z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において加え、更に、8.0重量部までのZnO粉末及び3.0重量部までのSiO2粉末のうちの少なくとも一方を、配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物。
【請求項4】誘電体磁器と、該誘電体磁器内に設けられた導体パターンとを有する誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルターを製造するに際して、前記誘電体磁器を与える、下記(A)または(B)に記載の誘電体磁器組成物よりなる成形体若しくはその仮焼物に、前記導体パターンを与える、Ag単体若しくはAgを主成分とする合金材料にて形成される導体層を設け、それを同時焼成せしめることを特徴とする誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルターの製造方法。
(A)962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物。
(B)962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦Z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において加え、更に、8.0重量部までのZnO粉末及び3.0重量部までのSiO2粉末のうちの少なくとも一方を、配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物。」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書の段落【0010】(本件特許掲載公報第第3頁第5欄第39行〜第6欄第5行)の記載を、以下のとおり訂正する。
「【0010】【解決手段】すなわち、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その特徴とするところは、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希上類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物にある。」
(4)訂正事項d
明細書の段落【0011】(本件特許掲載公報第第3頁第6欄第6〜22行)の記載を、以下のとおり訂正する。
「【0011】また、本発明は、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕.yTiO2・z〔(1-c)RE2O3.cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において加え、更に、8.0重量部までのZnO粉末及び3.0重量部までのSiO2粉末のうちの少なくとも一方を、配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物をも、その特徴とするものである。」
(5)訂正事項e
明細書の段落【0037】(本件特許掲載公報第第7頁第14欄第18〜35行)の記載を、以下のとおり訂正する。
「【0037】【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明に従う誘電体磁器組成物は、酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化チタン(TiO2)、酸化レアアース(RE2O3)、及び酸化ビスマス(Bi2O3)の各成分が、主成分として、それぞれ、前記一般式にて示される特定量において含有せしめられていると共に、副成分として、B2O3粉末の所定量、またはB2O3粉末と共に、ZnO、SiO2の各粉末の所定量が含有せしめられていることにより、962℃(Agの融点)以下の焼成温度で、好ましくは900℃前後の焼成温度で焼結することが可能であり、これによって、導通抵抗の低いAg単体やAgを主成分とする合金材料を、内層導体として有するストリップライン型フィル夕等の誘電体フィル夕を有利に製造し得ることとなったのてあり、しかも得られる誘電体磁器は、高い比誘電率を有し、また無負荷Qが大きく、更に共振周波数の温度係数が小さい特徴を備えているのである。」
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
上記訂正事項aは、具体的には、その内容は、a-1.請求項1の「構成された、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化レアアース、及び酸化ビスマスからなる組成物」を「構成される組成物」と訂正する、a-2.請求項1の「主成分組成物の100重量部」を「主成分組成物を1050℃以上の温度で仮焼して得られる仮焼物を平均粒子径が0.8μm以下となるように粉砕してなる仮焼粉砕物を用い、この仮焼粉砕物の100重量部」と訂正する、a-3.請求項2の「構成された、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化レアアース、及び酸化ビスマスからなる組成物」を「構成される組成物」と訂正する、a-4.請求項2の「主成分組成物の100重量部」を「主成分組成物を1050℃以上の温度で仮焼して得られる仮焼物を平均粒子径が0.8μm以下となるように粉砕してなる仮焼粉砕物を用い、この仮焼粉砕物の100重量部」と訂正するというものである。
先ず、a-1.とa-3.はそれぞれ、請求項1、2に記載された一般式において、a、b、cが0となる場合と、訂正前に酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化レアアース及び酸化ビスマスからなる組成物を主成分としていたこととの整合性をとるために訂正されたものであって、一般式に表現を整合させたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
次に、a-2.、a-4.は主成分組成物を製造条件で限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そしてa-1.、a-3.は、明細書にa、b、cがゼロとなりうることが一般式の解説として記載されており(本件特許掲載公報第3頁段落【0010】、【0011】)、実施例にもゼロの場合が記載されているところから(本件特許掲載公報第6頁表1、No.3〜8、10〜16、18、20〜23)、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、a-2.、a-4は、主成分組成物の製造条件については明細書に記載されているから(本件特許掲載公報第3頁段落【0012】、【0026】、【0027】)、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
次に、 上記訂正事項bは、具体的には、その内容は、b-1.請求項3の「前記請求項1または前記請求項2に記載の」を、「下記(A)または(B)に記載の」と訂正し、下記に「(A)962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物。
(B)962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において加え、更に、8.0重量部までのZnO粉末及び3.0重量部までのSiO2粉末のうちの少なくとも一方を、配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物。」と付記し訂正する、b-2.請求項4において上記b-1.と同じに訂正するものである。
上記(A)と(B)はそれぞれ訂正前の請求項1と請求項2において、上記a-1.の訂正事項、すなわち「構成された、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化レアアース、及び酸化ビスマスからなる組成物」を「構成される組成物」のとおり訂正したものと同じである。
ところで、上記a-1.については上述したとおり明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するから、上記(A)と(B)はそれぞれ訂正前の請求項1、請求項2を明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正したものに該当する。してみると、b-1.b-2.は、請求項1、2の上記訂正事項aの訂正に伴って、訂正前の請求項1、2を引用型式ででなく独立型式に書き直したものにすぎないと云えるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、上記訂正事項c、dは、訂正事項aの訂正に伴って明細書の記載を整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、上記訂正事項eは、具体的には「を主成分とし、それら各成分が、それぞれ、特定量において含有せしめられていると共に、」を、「の各成分が、主成分として、それぞれ、前記一般式にて示される特定量において含有せしめられていると共に、」と訂正するものであるが、上記a-1.についてで述べたとおり、主成分の表現を一般式の表現に整合させたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
2-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立てについて
3-1.特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として甲第1号証を提出して、(i)請求項1、2に係る発明は甲第1号証に記載された発明と同一であるから、請求項1、2に係る発明の特許は特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきものである、(ii)本件明細書は記載不備であるから、請求項1〜4に係る発明は、特許法第36条第4項及び第5項に違反してなされたものであり、取り消されるべきものであると主張している。
3-2.本件訂正発明
特許権者が請求した上記訂正は、上述したとおり、これを認容することができるから、訂正後の本件請求項1〜4に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された上記2-1.(1)(2)に示すとおりのものである(以下、それぞれ「本件訂正発明1〜4」という)。
3-3.特許法第29条の2違反の主張について(上記3-1.(i))
3-3-1.甲第1号証の記載内容
(1)甲第1号証:特願平3-262212号(特開平5-97508号)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、公開公報の頁、行で示す):取消理由通知の先願明細書
(a)「主成分としてのxBaO-yTiO2-zLnO3/2-aPbO-bBi2O3(但し、Lnはランタニド系元素のうち少なくとも1種を示す。)を100重量部に対して、添加剤3〜50重量部を配合してなり、前記x、y及びzが、0.02≦x≦0.2、0.4≦y≦0.7及び0.1≦z≦0.58 x+y+z=1の関係を満たし、前記主成分中において、(xBaO-yTiO2-zLnO3/2)を100重量%としたときに、前記a及びbが、それぞれ、17重量%以下の割合で、前記PbO及びBi2O3が含有されており、前記添加剤が、B2O3及びSiO2のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする、高周波用誘電体磁器組成物。」(請求項1)
(b)「主成分としてのxBaO-yTiO2-zLnO3/2-aPbO-bBi2O3 (但し、Lnはランタニド系元素のうち少なくとも1種を示す。)を100重量部に対して、添加剤3〜50重量部を配合してなり、前記x、y及びzが、0.02≦x≦0.2、0.4≦y≦0.7及び0.1≦z≦0.58 x+y+z=1の関係を満たし、前記主成分中において、(xBaO-yTiO2-zLnO3/2)を100重量%としたときに、前記a及びbが、それぞれ、17重量%以下の割合で、前記PbO及びBi2O3が含有されており、前記添加剤が、gB2O3-hSiO2-iZnOであり、前記g、h及びiが、下記の関係を満たすものであることを特徴とする、高周波用誘電体磁器組成物。0.05≦g≦0.7、0≦h≦0.25及び0.3≦i≦0.7 g+h+i=1 」(請求項3)
(c)「また、上記主成分の組成式中、PbO及びBi2O3の含有割合を示すa、bは、それぞれ、上記(xBaO-yTiO2-zLnO3/2)の含有量を100重量%としたときに、a及びbは、いずれも17重量%以下となる割合とされる。これは、PbOの含有割合が増加すると比誘電率εr が高くなり、かつ誘電体共振器を構成した場合の共振周波数が低くなる傾向があるが、上記範囲を超えてPbOを含有させると、1000℃以下で焼成した場合には焼結状態が不安定となり、所望とする特性の誘電体磁器を得ることができないからである。他方、Bi2O3の含有割合が高くなると比誘電率εr が高くなる傾向があるが、Bi2O3が上記範囲より多く含有されると、焼成に際して溶融し、所望とする磁器を得ることができないからである。 添加剤 本発明では、上述した主成分100重量部に対し、下記の添加剤3〜50重量部が配合される。」(第3頁第3欄第41行〜第4欄第7行)
(d)「実施例1 実施例1は、請求項1に記載の発明の実施例に相当する。 まず、主成分を構成する原料として、BaCO3、TiO2、Nd2O3、CeO2、Sm2O3、La2O3、Pr6O11、PbO、及びBi2O3の各粉末を用意した。次に、これらの原料粉末を用い、下記の表1及び表2に、試料番号1〜28で示す組み合わせとなるように各原料を秤量し、ボールミルで16時間湿式混合した後、蒸発・乾燥し、空気中で1000℃の温度で2時間仮焼・粉砕することにより、試料番号1〜28の各主成分の仮焼粉末を得た。」(第4頁第5欄第18〜28行)
(e)第5頁表2、第6頁表3の試料番号1〜28において、試料番号24のa=0を除いて他は全てaは10〜20の数値を持つことが記載されている。表3の試料番号24は、xが2、yが40、zが58であり(モル%)、bが8重量%であり、添加剤は種類Bが20重量%であることが記載されている。第6頁表4には添加剤の組成が記載されており、種類BはB2O3が100モル%であることが記載されている。また、第8頁表には、試料番号24の焼成温度が930℃であることが記載されている。
(f)「実施例3 実施例3は、請求項3に記載の発明についての実施例である。まず、実施例1で用いたのと同一の主成分原料を用い、実施例1の場合と同様にして下記の表13〜15に示す試料番号1〜36の各主成分の仮焼粉末を得た。他方、実施例1で用いたのと同一の添加剤原料を用い、実施例1と同様にして処理することにより、下記の表16に示す添加剤R〜Zを調製した。表13〜15の試料番号1〜36の主成分の仮焼粉末と、表13〜15に示した割合及び種類の添加剤R〜Zを用い、実施例1と同様にして試料番号1〜36の焼結体を得た。」(第14頁第26欄第18〜28行)
(g)第15頁表14、第16頁表15、第17頁表17において、試料番号1〜36のうち、試料番号24のa=0を除いて、それ以外の全ての試料にaは10〜20の数値が記載されている。第16頁表15において、試料番号24は添加剤Yを使用することが記載されている。第17頁表16において添加剤YにはPbOが45モル%含まれていることが記載されている。
3-3-2.対比・判断
(1)本件訂正発明1について
甲第1号証には、上記3-3-1.(1)(a)から「主成分としてのxBaO-yTiO2-zLnO3/2-aPbO-bBi2O3(但し、Lnはランタニド系元素のうち少なくとも1種を示す。)を100重量部に対して、添加剤3〜50重量部を配合してなり、前記x、y及びzが、0.02≦x≦0.2、0.4≦y≦0.7及び0.1≦z≦0.58 x+y+z=1の関係を満たし、前記主成分中において、(xBaO-yTiO2-zLnO3/2)を100重量%としたときに、前記a及びbが、それぞれ、17重量%以下の割合で、前記PbO及びBi2O3が含有されており、前記添加剤が、B2O3及びSiO2のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする、高周波用誘電体磁器組成物。」が記載されている。
ここでPbOについては、上記3-3-1.(1)(e)から、実施例1の試料番号24はPb酸化物を含有しない組成となっているところから、上記3-3-1.(1)(c)のPbOが17重量%以下という条件の中には、ゼロも含まれるものと解される。
また、上記3-3-1.(1)(e)から試料番号24の焼成温度が930℃であることがわかる。
してみると、甲第1号証には、「962℃以下の焼成温度で焼結させられる、PbOを含有することのない誘電体磁器組成物であって、主成分としてのxBaO-yTiO2-zLnO3/2-bBi2O3(但し、Lnはランタニド系元素のうち少なくとも1種を示す)を100重量部に対して、添加剤3〜50重量部を配合してなり、前記x、y及びzが、0.02≦x≦0.2、0.4≦y≦0.7及び0.1≦z≦0.58 x+y+z=1の関係を満たし、前記主成分中において、(xBaO-yTiO2-zLnO3/2)を100重量%としたときに、前記bが、17重量%以下の割合で、Bi2O3が含有されており、前記添加剤が、B2O3を含む高周波用誘電体磁器組成物。」という発明(以下、「甲1発明」という)が記載されていると云える。
ここで、本件訂正発明1においてa=0、b=0とすると、本件訂正発明1は「962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:xBaO・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにcが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物を1050℃以上の温度で仮焼して得られる仮焼物を平均粒子径が0.8μm以下となるように粉砕してなる仮焼粉砕物を用い、この仮焼粉砕物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において配合せしめてなることを特徴とする低温焼成用誘電体磁器組成物。」という発明である。
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ランタニド系元素」は本件訂正発明1の「希土類金属」に相当するから、両者は「962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:BaO-TiO2-RE2O3-Bi2O3(但し、REは希土類金属を示す)で表わされる組成物を主成分とし、かかる主成分組成物のに対して、副成分として、B2O3粉末を配合せしめてなることを特徴とする低温焼成用誘電体磁器組成物。」で一致し、また本件訂正発明1のBaOの比のxと甲1発明のBaOの比のxとは数値範囲が重複し、また本件訂正発明1のTiO2の比のyと甲1発明のTiO2の比のyとは数値範囲が重複し、本件訂正発明1のRE2O3の比のz(1-c)と甲1発明のLnO2/3の比のzとは数値範囲が重複し、本件訂正発明1のBi2O3の比のzとcとから導き出されるものと、甲1発明のBi2O3の比のbとは数値範囲が重複し、また上記(1)(c)から両者のB2O3の添加量の数値範囲は重複し、次の点で相違している。
相違点:本件訂正発明1では、主成分組成物として1050℃以上の温度で仮焼して得られる仮焼物を平均粒子径が0.8μm以下となるように粉砕してなる仮焼粉砕物を用いるのに対して、甲1発明ではその点が特定されていない点
そこで検討すると、甲第1号証には、上記3-3-1.(1)(d)に「空気中で1000℃の温度で2時間仮焼・粉砕することは記載されているが、「1050℃以上の温度で仮焼して得られる仮焼物を平均粒子径が0.8μm以下となるように粉砕」することは何も示唆されていない。
そして、本件明細書には、1050℃以上の仮焼により「焼成温度の低下」に顕著な効果があることが(本件特許掲載公報第5頁段落【0026】)、平均粒子径が細かくなるほど「焼成温度の低下」が促進されることが(本件特許掲載公報第5〜6頁段落【0027】)、それぞれ記載されている。
なお、BaO、TiO2、RE2O3系の低温焼成用磁器組成物の製造法の発明の特許公報である特許掲載第2613722号公報で、「原料組成物を1050℃以上の温度で仮焼せしめ、次いでその得られた仮焼物を平均粒径が0.8μm以下となるように微粉砕」することによる効果が説明されている。
したがって、本件訂正発明1は甲第1号証に記載された発明と同一とすることはできない。
(2)本件訂正発明2について
上記(1)において、甲第1号証におけるSiO2を必須成分として認定すると、甲第1号証には「962℃以下の焼成温度で焼結させられる、PbOを含有することのない誘電体磁器組成物であって、主成分としてのxBaO-yTiO2-zLnO3/2-bBi2O3(但し、Lnはランタニド系元素のうち少なくとも1種を示す)を100重量部に対して、添加剤3〜50重量部を配合してなり、前記x、y及びzが、0.02≦x≦0.2、0.4≦y≦0.7及び0.1≦z≦0.58 x+y+z=1の関係を満たし、前記主成分中において、(xBaO-yTiO2-zLnO3/2)を100重量%としたときに、前記bが、17重量%以下の割合で、Bi2O3が含有されており、前記添加剤が、B2O3及びSiO2を含む高周波用誘電体磁器組成物。」という発明(以下、「甲1’発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明2と甲1’発明とを、上記(1)と同じように対比すると、両者はSiO2の数値範囲が重複しており、次の点で相違している。
相違点:本件訂正発明2では、主成分組成物として1050℃以上の温度で仮焼して得られる仮焼物を平均粒子径が0.8μm以下となるように粉砕してなる仮焼粉砕物を用いるのに対して、甲1’発明ではその点が特定されていない点
この相違点については上記(1)と同じことが云えるから、本件訂正発明2は甲第1号証に記載された発明と同一とすることはできない。
3-4.特許法第36条第4項及び第5項違反の主張について(上記3-1.(ii))
特許異議申立人は、具体的には(1)本件発明の磁器組成物はSrO、CaO、Bi2O3をも主成分としているが、請求項1、2の一般式でa=0、b=0、c=0も含んでおり、矛盾している、(2)明細書段落【0016】(本件特許掲載公報第4頁)の前段と後段の記載は記載不備である、(3)明細書段落【0020】(本件特許掲載公報第5頁)のBi2O3置換量の記載は不当であるというものである。
そこで検討すると、(1)については訂正の結果解消している。(2)について検討すると、後段の「従って、これらSrO、CaOの添加により、共振周波数の温度係数の制御が有利に実現されるのである。」は、前段の「例えばBaOの一部をSrOにて置換すると・・・」、「BaOの一部をCaOにて置換した場合・・」を受けた記載であり、特許異議申立人の云うように、この後段の記載が、SrO、CaO両者の同時の置換を意味するものとは云えない。
(3)について検討すると、段落【0020】では最後に「実用的には、30モル%以下(c≦0.30)が適切である。」としており、「実用的に」考えた場合の適切な上限に言及したものであるから、不当とも云えない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用することができない。
4.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正後の本件請求項1〜4に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
低温焼成用誘電体磁器組成物及びそれを用いて得られた誘電体共振器若しくは誘電体フィルター並びにそれらの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物を1050℃以上の温度で仮焼して得られる仮焼物を平均粒子径が0.8μm以下となるように粉砕してなる仮焼粉砕物を用い、この仮焼粉砕物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において配合せしめてなることを特徴とする低温焼成用誘電体磁器組成物。
【請求項2】 962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物を1050℃以上の温度で仮焼して得られる仮焼物を平均粒子径が0.8μm以下となるように粉砕してなる仮焼粉砕物を用い、この仮焼粉砕物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において加え、更に、8.0重量部までのZnO粉末及び3.0重量部までのSiO2粉末のうちの少なくとも一方を、配合せしめてなることを特徴とする低温焼成用誘電体磁器組成物。
【請求項3】 誘電体磁器と、該誘電体磁器と同時焼成することにより該誘電体磁器内に形成された導体パターンを有する誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルターにおいて、該誘電体磁器を、下記(A)または(B)に記載の誘電体磁器組成物を焼成して得られる誘電体磁器にて構成する一方、前記導体パターンを、Ag単体若しくはAgを主成分とする合金材料にて形成したことを特徴とする誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルター。
(A)962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物。
(B)962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において加え、更に、8.0重量部までのZnO粉末及び3.0重量部までのSiO2粉末のうちの少なくとも一方を、配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物。
【請求項4】 誘電体磁器と、該誘電体磁器内に設けられた導体パターンとを有する誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルターを製造するに際して、前記誘電体磁器を与える、下記(A)または(B)に記載の誘電体磁器組成物よりなる成形体若しくはその仮焼物に、前記導体パターンを与える、Ag単体若しくはAgを主成分とする合金材料にて形成される導体層を設け、それを同時焼成せしめることを特徴とする誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルターの製造方法。
(A)962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z,並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物。
(B)962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦;0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において加え、更に、8.0重量部までのZnO粉末及び3.0重量部までのSiO2粉末のうちの少なくとも一方を、配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】
本発明は、低温焼成用誘電体磁器組成物に係り、特にトリプレート構造のストリップライン型フィルタ-等の、内層導体を有する誘電体共振器の製造に好適に用いられる、低温焼成の可能な高周波用誘電体磁器組成物に関するものである。また、本発明は、そのような誘電体磁器組成物を用いて得られた誘電体共振器若しくは該共振器の複数から構成される誘電体フィルター、更にはそれら誘電体共振器若しくは誘電体フィルターの有利な製造手法に関するものである。
【0002】
【背景技術】
今日、携帯電話や自動車用電話等では、高誘電率磁器組成物を使用した同軸型誘電体フィルタが広く用いられているが、かかる同軸型誘電体フィルタは、筒形状の誘電体ブロックの内周面と外周面に、それぞれ、内部導体と外部導体とが設けられてなる同軸型の共振器を複数個結合して、構成されてなるものであるところから、その小型化には限度があり、そのために誘電体内に導体を内層してなるトリプレート構造のストリップライン型のものが検討されている。このストリップライン型フィルタにあっては、板状の誘電体内に導体が所定パターンで配列されて、一体的に設けられ、複数の共振器を構成せしめた構造であるところから、フィルタの高さ(厚さ)を低くすることが出来、以てその小型化が可能となるのである。
【0003】
而して、かかるストリップライン型フィルタの如き内層導体を有する誘電体フィルタを作製するに際しては、内層導体と誘電体磁器組成物の同時焼成が必要となるが、従来からの誘電体磁器組成物は、その焼成温度が著しく高いものであるところから、内層導体として使用可能な導体材料に制約を受け、導通抵抗の低いAg系材料を用いることは困難であった。例えば、内層導体としてAg-Pd系合金またはAg-Pt系合金を使用するには、誘電体磁器組成物の焼成温度は1000℃以下とする必要があり、特に導通抵抗の低いAgを単体にて使用するには、誘電体磁器組成物の焼成温度は900℃前後とする必要がある。このため、そのような低い焼成温度で焼結可能であり、高周波特性に優れた誘電体磁器組成物が必要とされているのである。
【0004】
一方、従来から、誘電体磁器組成物に関しては、種々なる組成のものが提案されており、中でも、Ba-Ti-RE-Bi系酸化物(RE:希土類金属)にて構成される誘電体磁器組成物は、比誘電率が高く、且つ無負荷Qが大きく、更に共振周波数の温度係数が小さい材料として知られており、また特開昭62-216107号公報や特開平1-275466号公報等においては、そのような組成系に、更にSrOを導入することにより、比誘電率の向上、共振周波数の温度係数の増大を図っているが、それら誘電体磁器組成物においては、何れも、その焼成温度が1300℃〜1400℃と高いところに問題があり、そのために、Pb酸化物等を添加することにより、その焼成温度の低下を図る試みが為されてきている。
【0005】
例えば、米国特許第3811937号明細書においては、酸化バリウム、酸化チタン、及び酸化レアアースの仮焼混合物に、CdO-PbO-Bi2O3系ガラスを8〜30重量%の割合で配合してなる組成物が明らかにされており、そのような組成物は、982℃〜1150℃程度の温度で焼成が行なわれている。また、特開昭59-214105号公報においては、BaO-TiO2-Nd2O3系組成物に対して、PbO,Bi2O3,SiO2及びZnOの各粉末を混合して、1050℃〜1150℃の温度で焼成することが明らかにされている。更に、特開昭60-124306号公報には、BaTiO3-Nd2O3-TiO2-Bi2O3系組成物に対して、Pb3O4,B2O3,SiO2,ZnOのそれぞれを所定量配合してなる誘電体磁器組成物が明らかにされ、それは、1000〜1050℃の焼成温度で焼成し得ることが明らかにされている。更にまた、特開平2-44609号公報には、BaTiO3,Nd2O3,TiO2,Bi2O3,及びPb3O4からなる組成物に対して、2CaO・3B2O3,SiO2,及びZnOを添加した誘電体磁器組成物が示され、それは、1000〜1050℃の焼成温度で焼結することが明らかにされている。
【0006】
しかしながら、これら低温焼成が可能とされている従来の誘電体磁器組成物にあっても、その焼成温度は未だ1000℃前後或いはそれ以上と高く、導通抵抗の低いAg単体やAgを主体とする合金材料を内部導体として用いることが出来ないのである。そのために、導通抵抗の大きなPdの含有量を高めた、Ag-Pd系合金しか用いられ得ないのが、実情である。しかも、それら従来の低温焼成用誘電体磁器組成物においては、Pb酸化物を多量に添加せしめたものであるところから、Pb酸化物の毒性に鑑み、その取り扱い上においても、問題のあるものであった。
【0007】
このように誘電体磁器組成物の焼成温度を1000℃前後まで低下させる先行技術は幾つか知られているが、Agの融点:962℃以下、望ましくは950℃以下、更に望ましくは900℃前後で焼成可能とする技術については、未だ、知られていない。
【0008】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その課題とするところは、高い比誘電率を有し、また無負荷Qが大きく、共振周波数の温度係数が小さな誘電体磁器を与える、962℃(Agの融点)以下の焼成温度で、好ましくは900℃前後の焼成温度で焼結が可能であり、また多量のPb酸化物を含有せしめる必要のない低温焼成用誘電体磁器組成物を提供することにある。また、本発明の他の課題とするところは、そのような誘電体磁器組成物を用いて得られた誘電体共振器若しくは該共振器の複数から構成される誘電体フィルター、更にはそれら誘電体共振器若しくは誘電体フィルターの有利な製造手法を提供することにある。
【0009】
そして、かかる課題を解決するために、本発明者等が種々検討を重ねた結果、BaO-SrO-CaO-TiO2-RE2O3-Bi2O3系の誘電体磁器組成物に対して、B2O3粉末の所定量、またはB2O3粉末と共に、ZnO、SiO2の各粉末の所定量を含有せしめることにより、その優れた特性を確保しつつ、その焼成温度を有利に低下せしめ得る事実を見い出したのである。
【0010】
【解決手段】
すなわち、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その特徴とするところは、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物にある。
【0011】
また、本発明は、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において加え、更に、8.0重量部までのZnO粉末及び3.0重量部までのSiO2粉末のうちの少なくとも一方を、配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物をも、その特徴とするものである。
【0012】
なお、本発明にあっては、かくの如き低温焼成用誘電体磁器組成物を製造するに際して、前記主成分組成物を与える原料組成物を1050℃以上の温度で仮焼せしめ、次いでその得られた仮焼物を平均粒径が0.8μm以下となるように微粉砕した後、前記副成分たるB2O3、ZnO、SiO2の各粉末を配合することにより、かかる低温焼成用誘電体磁器組成物を製造する手法が、有利に採用されるものであり、このような製造工程を採用することによって、かかる誘電体磁器組成物の焼成温度の低下が著しく促進され、しかも比誘電率の向上や無負荷Qの増大も有利に達成され得ることとなる。
【0013】
また、本発明は、誘電体磁器と、該誘電体磁器と同時焼成することにより該誘電体磁器内に形成された導体パターンを有する誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルターにおいて、該誘電体磁器を、上述の如き誘電体磁器組成物、即ち前記請求項1または前記請求項2に記載の誘電体磁器組成物を焼成して得られる誘電体磁器にて構成する一方、前記導体パターンを、Ag単体若しくはAgを主成分とする合金材料にて形成したことを特徴とする誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルターをも、その要旨とするものである。
【0014】
さらに、本発明は、誘電体磁器と、該誘電体磁器内に設けられた導体パターンとを有する誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルターを製造するに際して、前記誘電体磁器を与える、前記請求項1または前記請求項2に記載の誘電体磁器組成物よりなる成形体若しくはその仮焼物に、前記導体パターンを与える、Ag単体若しくはAgを主成分とする合金材料にて形成される導体層を設け、それを同時焼成せしめることを特徴とする誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルターの製造方法をも、その要旨とするものである。
【0015】
【具体的構成】
ところで、かかる誘電体磁器組成物において、x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕は、主成分の一つたるBaOの一部がSrO及び/又はCaOにて置換されることを示しており、それらBaO,SrO,CaOの合計の含有量が10モル%よりも少なくなると(x<0.10)、得られる誘電体磁器の比誘電率が低くなってしまう問題があり、一方、20モル%を越えるようになると(x>0.20)、共振周波数の温度係数が大きくなり過ぎてしまうという問題を惹起する。
【0016】
なお、このBaOの一部置換は、SrO及びCaOの少なくとも一方にて実施され、例えばBaOの一部をSrOにて置換すると、その置換に伴い、高い誘電率を維持したまま、無負荷Qを向上し、共振周波数の温度係数を小さくすることが出来る。しかし、その置換割合が0.40より多くなると(a>0.40)、誘電率や無負荷Qが共に劣化してしまう問題を生じる。また、BaOの一部をCaOにて置換した場合には、高い誘電率及び無負荷Qを維持したまま、共振周波数の温度係数を大きくすることが出来るが、その置換割合が0.20より多くなると(b>0.20)、無負荷Qが急速に劣化してしまう問題を惹起する。従って、これらSrO,CaOの添加により、共振周波数の温度係数の制御が有利に実現されるのである。
【0017】
また、TiO2については、その含有量が60モル%未満となると(y<0.60)、焼結が困難となって、緻密な焼結体が得られなくなるのである。一方、75モル%を越えるようになると(y>0.75)、共振周波数の温度係数が正の方向に大きくなり過ぎてしまうという問題を惹起する。
【0018】
さらに、RE2O3とBi2O3の合計量に関して、換言すれば〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕の値については、その合計の含有量が10モル%よりも少なくなると(z<0.10)、共振周波数の温度係数が正に大きくなり過ぎてしまい、一方、25モル%を越えるようになると(z>0.25)、焼結性が悪く、比誘電率が小さくなってしまう問題を惹起する。
【0019】
なお、本発明において、RE2O3におけるRE(希土類金属)としては、Nd,Sm,La,Ce,Pr等であり、中でも、有利にはNdまたはNdと共にSm及び/又はLaが組み合わせて用いられる。Ndと共にSm及び/又はLaを組み合わせて用いる場合にあっては、高い誘電率、無負荷Qを保ったまま、温度係数を制御することが出来る。しかしながら、そのようなSm及び/またはLaを組み合わせる場合にあっては、RE全体に占めるSm又はLaの割合を20モル%以下にすることが望ましく、それを越えると、共振周波数の温度係数が負または正に大きく変化する問題を生じる。なお、REとして、CeやPrを用いる場合にあっては、三価の原子に換算して、導入されることとなる。
【0020】
また、Bi2O3にてRE2O3を置換すると、比誘電率が増加せしめられ、共振周波数の温度係数を小さくすることが出来る。特に、このBi2O3による充分な置換効果を得るには、5モル%以上(c≧0.05)の置換が望ましい。しかしながら、BiO2の置換量が15〜20モル%以上に至ると、温度係数が増加し始めるのであり、またBi2O3の置換量が増えるにつれ、無負荷Qが減少していくことから、Bi2O3の置換量は、実用的には30モル%以下(c≦0.30)が適切である。
【0021】
本発明は、上記の如き割合において、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化レアアース及び酸化ビスマスにて構成される磁器組成物を主成分とするものであって、このような主成分組成物に対して、後述の如く、所定の副成分を配合含有せしめるようにしたものであるが、また、そのような主成分磁器組成物に対して、無負荷Qの向上や共振周波数の温度係数を補正する等の目的で、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化マンガン、酸化クロム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ジルコニウム等の金属酸化物を添加したりすることも、何等差支えない。
【0022】
また、かくの如き本発明に従う主成分磁器組成物に対して、副成分として添加せしめられるB2O3粉末、またはB2O3粉末並びにZnO及び/又はSiO2の各粉末は、かかる主成分磁器組成物の100重量部当り、酸化ホウ素(B2O3)が0.1〜7.5重量部、更にはかかる酸化ホウ素と共に、酸化亜鉛(ZnO)が0〜8.0重量部及び/又は酸化ケイ素(SiO2)が0〜3.0重量部となる割合において、用いられる必要がある。
【0023】
けだし、B2O3の添加量が0.1重量部未満の場合には、誘電体磁器組成物の焼成温度が高くなる問題があり、一方7.5重量部を越えるようになると、無負荷Qが小さくなる問題を惹起するからである。また、ZnOは、その添加により、比誘電率を向上させることが出来るが、その添加量が8.0重量部を越えるようになると、目的とする誘電体磁器組成物の無負荷Qが小さくなってしまう問題を惹起するからである。更に、SiO2は、その添加により、無負荷Qを向上させることが出来るが、その添加量が3.0重量部を越えるようになると、ガラス化が困難となることに加えて、目的とする誘電体磁器組成物の焼成温度が高くなる問題を惹起するからである。なお、かかるB2O3、ZnO、SiO2の各粉末の好ましい配合範囲としては、B2O3粉末が0.5〜3.0重量部、ZnO粉末が0.5〜5.0重量部、SiO2が0.5〜1.0重量部である。
【0024】
特に、本発明において、B2O3成分を、他の添加成分と合成して化合物とせずに、単独成分(粉末)として添加するのは、B2O3単独では、その融点が450℃前後と低く、焼成温度を低下させる効果が大きいからである。なお、このB2O3粉末としては、B2O3そのものの粉末の他に、B2O3を与えるH3BO3(ほう酸)粉末を使用することも可能である。何故なら、H3BO3は、300℃前後でB2O3粉末に変化するからである。これに対し、例えばZnOとB2O3の化合物を用いた場合、その融点は961℃(ZnO・B2O3)以上と高く、そのため焼成温度を充分に低下せしめることが困難となるのである。
【0025】
また、かかるB2O3粉末に対して、更に、ZnO成分やSiO2成分も各々単独粉末として添加されるが、特にZnO-B2O3系等の酸化ホウ素を含む化合物、例えばZnO・B2O3、5ZnO・2B2O3等の形態での添加は避けなければならない。けだし、化合物の形態で添加した場合には、前述のB2O3粉末の単独添加の効果が得られないばかりでなく、前述のZnO、SiO2成分の添加効果も、小さなものになってしまうからである。また、ZnO成分は、焼成後、B2O3成分やSiO2成分と化合物を成すわけではなく、TiO2と共存していることから解るように、単独成分としての働きが重要と考えられるからである。
【0026】
ところで、本発明に従う誘電体磁器組成物は、前記した主成分磁器組成物に対して、上記の如きB2O3粉末、またはB2O3、ZnO、SiO2の各粉末を副成分として配合せしめて製造されるものであるが、かかる副成分たるB2O3、ZnO、SiO2粉末の配合に先立って、前記した主成分磁器組成物は、その組成を与える原料組成物を仮焼せしめ、そして粉砕することによって準備されることとなる。そして、その仮焼に際して、900℃以上の仮焼温度を採用すると、仮焼温度の高温化に伴なう誘電体磁器組成物の焼成温度の低下、比誘電率及び無負荷Qの増加が認められるのである。特に、1050℃以上の仮焼温度で、その効果が顕著であるところから、本発明にあっては、好適には、1050℃以上の温度で仮焼が行なわれる。しかしながら、仮焼温度が1350℃を越えるようになると、仮焼後に仮焼物の硬化が著しく、取り扱い上において問題を生じるので、好ましくは1100℃〜1300℃の仮焼温度が有利に採用されることとなる。
【0027】
また、このようにして仮焼して得られた仮焼物を粉砕するに際しては、その粉砕物の平均粒子径が細かくなるほど、誘電体磁器組成物の焼成温度の低下が促進され、比誘電率及び無負荷Qを増加することが可能となる。従って、本発明にあっては、有利には、0.8μm以下の平均粒子径となるように仮焼物が粉砕されることとなる。しかしながら、仮焼粉砕物の平均粒子径が0.1μmよりも小さくなると、得られる誘電体磁器組成物の成形性が低下し、例えば、通常のドクターブレード法等によるテープ成形が困難となるところから、仮焼粉砕物の平均粒子径は0.1〜0.8μm程度に制御することが望ましい。なお、このような微細な粉砕物の粒子径は、一般に、レーザー回折散乱法を用いて測定されることとなる。
【0028】
【実施例】
以下に、本発明の幾つかの実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって何等の制約をも受けるものでないことは言うまでもないところである。また、本発明には、以下に示される実施例の他にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが理解されるべきである。
【0029】
実施例 1
高純度の炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ランタン及び酸化ビスマスを用い、それら成分を、下記表1において示される各種のx,y,z,RE,a,b,c値を与えるようにそれぞれ秤量して、ポリエチレン製ポットの中に、ジルコニア玉石と共に投入して、純水を加え、湿式混合せしめた。そして、その得られた混合物を、ポットから取り出して乾燥した後、アルミナ製坩堝に入れ、1250℃の温度で、4時間、空気雰囲気下に仮焼を行なった。次いで、その仮焼物を解砕し、再び、ポリエチレン製ポットの中にジルコニア玉石と共に投入して、レーザー回折散乱法を利用して測定される平均粒子径が0.8μm以下になるまで、粉砕を行ない、各種の仮焼粉砕物を得た。
【0030】
次いで、かくして得られた各種の仮焼粉砕物100重量部と、副成分としてのB2O3粉末、ZnO粉末及びSiO2粉末の所定量(表1に示される量)とを、ジルコニア玉石と共に、ポリエチレン製ポットの中に投入し、純水を加えて、湿式混合せしめた。その際、バインダーとして、PVAを1重量%加えた。得られた混合物を乾燥した後、目開き:355μmの篩を通して、造粒した。
【0031】
かくして得られた各種の造粒粉体を、プレス成形機を用いて、面圧:1ton/cm2にて成形して、それぞれ20mmφ×15mmtの大きさの円板状の試験片を得た。そして、この得られた試験片を、空気中において、900℃の温度で2時間、焼成することにより、各種の誘電体磁器サンプルを作製した。更に、この焼成して得られたサンプルを16mmφ×8mmtの大きさの円板状に研磨し、それぞれ、その誘電体特性を測定した。なお、比誘電率(εr)と無負荷Qは、平行導体板型誘電体共振器法によって測定し、また共振周波数の温度係数(τf)は、-25℃〜+75℃の範囲で測定した。測定周波数は、2〜4GHzであった。得られた結果を、表2に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
実施例 2
実施例1においてNo14として得られた仮焼粉砕物を用い、それの100重量部と、B2O3粉末(外配1.0重量部)、ポリビニルブチラ-ル(外配8重量部)、可塑剤及び解膠剤を、ジルコニア玉石と共に、アルミナ製ポットの中に投入し、更にトルエンとイソプロピルアルコ-ルの混合溶液を加えて、湿式混合せしめた。
【0035】
次いで、かかる混合物を、脱泡した後、ドクタ-ブレ-ド法により厚さ:250μmのグリ-ンテ-プに形成した。そして、この得られたグリ-ンテ-プに、印刷用Agペ-ストを用いて、900MHz帯2段バンドパスフィルタの導体パタ-ンを印刷した。次いで、この導体パタ-ンを印刷したグリ-ンテ-プを挟み込むように、20枚のグリ-ンテ-プを、温度:100℃、圧力:100kgf/cm2の条件で積層した。そして、その積層物を切断した後、空気中において900℃の温度で2時間焼成することにより、図1に示される如き構造のストリップライン型フィルタを作製した。なお、この図1に示されるストリップライン型フィルタにおいて、誘電体基板16は3層構造を有し、導体との同時焼成によって一体化せしめられるものである。そして、この誘電体基板16の一つの層に複数の共振用電極12,12が内蔵され、また、それとは異なる層に一対の結合用電極20,20が内蔵されている。一方、該誘電体基板16の外表面には、略全面にア-ス電極14が設けられると共に、対向する一対の側面において、該ア-ス電極14と非接続な状態で、一対の入出力端子18,18が、設けられている。そして、前記結合用電極20,20が延長されて、その延長部分20aの端部が、誘電体基板16の外表面にまで引き出されていることにより、外表面の入出力端子18と内部の結合用電極20とが、接続せしめられているのである。
【0036】
かくして得られたストリップライン型フィルタについて、ネットワ-クアナライザ-を用い、そのフィルタ特性を測定した結果、中心周波数:900MHz、挿入損失:1.5dBであった。
【0037】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明に従う誘電体磁器組成物は、酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化チタン(TiO2)、酸化レアアース(RE2O3)、及び酸化ビスマス(Bi2O3)の各成分が、主成分として、それぞれ、前記一般式にて示される特定量において含有せしめられていると共に、副成分として、B2O3粉末の所定量、またはB2O3粉末と共に、ZnO、SiO2の各粉末の所定量が含有せしめられていることにより、962℃(Agの融点)以下の焼成温度で、好ましくは900℃前後の焼成温度で焼結することが可能であり、これによって、導通抵抗の低いAg単体やAgを主成分とする合金材料を、内層導体として有するストリップライン型フィルタ等の誘電体フィルタを有利に製造し得ることとなったのであり、しかも得られる誘電体磁器は、高い比誘電率を有し、また無負荷Qが大きく、更に共振周波数の温度係数が小さい特徴を備えているのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
実施例2にて製造される誘電体フィルタ-の積層構造の形態を示す説明図である。
【符号の説明】
12 共振用電極
14 アース電極
16 誘電体基板
18 入出力端子
20 結合用電極
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第3193157号発明の明細書を、本件訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1及び請求項2を、
「【請求項1】962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物を1050℃以上の温度で仮焼して得られる仮焼物を平均粒子径が0.8μm以下となるように粉砕してなる仮焼粉砕物を用い、この仮焼粉砕物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において配合せしめてなることを特徴とする低温焼成用誘電体磁器組成物。
【請求項2】962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物を1050℃以上の温度で仮焼して得られる仮焼物を平均粒子径が0.8μm以下となるように粉砕してなる仮焼粉砕物を用い、この仮焼粉砕物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において加え、更に、8.0重量部までのZnO粉末及び3.0重量部までのSiO2粉末のうちの少なくとも一方を、配合せしめてなることを特徴とする低温焼成用誘電体磁器組成物。」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項3及び請求項4を、
「【請求項3】誘電体磁器と、該誘電体磁器と同時焼成することにより該誘電体磁器内に形成された導体パターンを有する誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルターにおいて、該誘電体磁器を、下記(A)または(B)に記載の誘電体磁器組成物を焼成して得られる誘電体磁器にて構成する一方、前記導体パターンを、Ag単体若しくはAgを主成分とする合金材料にて形成したことを特徴とする誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルター。
(A)962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物。
(B)962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦Z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜75重量部の割合において加え、更に、8.0重量部までのZnO粉末及び3.0重量部までのSiO2粉末のうちの少なくとも一方を、配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物。
【請求項4】誘電体磁器と、該誘電体磁器内に設けられた導体パターンとを有する誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルターを製造するに際して、前記誘電体磁器を与える、下記(A)または(B)に記載の誘電体磁器組成物よりなる成形体若しくはその仮焼物に、前記導体パターンを与える、Ag単体若しくはAgを主成分とする合金材料にて形成される導体層を設け、それを同時焼成せしめることを特徴とする誘電体共振器若しくは該共振器よりなる誘電体フィルターの製造方法。
(A)962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物。
(B)962℃以下の焼成温度で焼結せしめられる、Pb酸化物を含有することのない誘電体磁器組成物であって、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦Z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜75重量部の割合において加え、更に、8.0重量部までのZnO粉末及び3.0重量部までのSiO2粉末のうちの少なくとも一方を、配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物。」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書の段落【0010】(本件特許掲載公報第第3頁第5欄第39行〜第6欄第5行)の記載を、以下のとおり訂正する。
「【0010】【解決手段】すなわち、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その特徴とするところは、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕・yTiO2・z〔(1-c)RE2O3・cBi2O3〕(但し、REは希上類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+z=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.20,及び0≦c≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物にある。」
(4)訂正事項d
明細書の段落【0011】(本件特許掲載公報第第3頁第6欄第6〜22行)の記載を、以下のとおり訂正する。
「【0011】また、本発明は、一般式:x〔(1-a-b)BaO・aSrO・bCaO〕.yTiO2・z〔(1-c)RE2O3.cBi2O3〕(但し、REは希土類金属を示す)で表わされ、且つ該一般式中のx,y,z並びにa,b,cが、それぞれ、次式:0.10≦x≦0.20,0.60≦y≦0.75,0.10≦z≦0.25,x+y+1=1,0≦a≦0.40,0≦b≦0.30を満足するように構成される組成物を主成分とし、かかる主成分組成物の100重量部に対して、副成分として、B2O3粉末を0.1〜7.5重量部の割合において加え、更に、8.0重量部までのZnO粉末及び3.0重量部までのSiO2粉末のうちの少なくとも一方を、配合せしめてなる低温焼成用誘電体磁器組成物をも、その特徴とするものである。」
(5)訂正事項e
明細書の段落【0037】(本件特許掲載公報第第7頁第14欄第18〜35行)の記載を、以下のとおり訂正する。
「【0037】【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明に従う誘電体磁器組成物は、酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化チタン(TiO2)、酸化レアアース(RE2O3)、及び酸化ビスマス(Bi2O3)の各成分が、主成分として、それぞれ、前記一般式にて示される特定量において含有せしめられていると共に、副成分として、B2O3粉末の所定量、またはB2O3粉末と共に、ZnO、SiO2の各粉末の所定量が含有せしめられていることにより、962℃(Agの融点)以下の焼成温度で、好ましくは900℃前後の焼成温度で焼結することが可能であり、これによって、導通抵抗の低いAg単体やAgを主成分とする合金材料を、内層導体として有するストリップライン型フィルタ等の誘電体フィルタを有利に製造し得ることとなったのてあり、しかも得られる誘電体磁器は、高い比誘電率を有し、また無負荷Qが大きく、更に共振周波数の温度係数が小さい特徴を備えているのである。」
異議決定日 2002-09-03 
出願番号 特願平4-289412
審決分類 P 1 651・ 161- YA (C04B)
P 1 651・ 531- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 武重 竜男  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 野田 直人
唐戸 光雄
登録日 2001-05-25 
登録番号 特許第3193157号(P3193157)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 低温焼成用誘電体磁器組成物及びそれを用いて得られた誘電体共振器若しくは誘電体フィルター並びにそれらの製造方法  
代理人 中島 三千雄  
代理人 中島 三千雄  

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