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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B01D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B01D
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  B01D
管理番号 1068873
異議申立番号 異議2000-73568  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-09-21 
確定日 2002-09-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3023300号「高透過性複合逆浸透膜とその製造方法及び逆浸透処理方法」の請求項1ないし16に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3023300号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 1.本件の経緯
本件特許第3023300号は、平成7年12月19日(優先権主張日、平成6年12月22日、及び平成7年7月13日)の出願であって、平成12年1月14日(公報発行平成12年3月21日)に設定登録され、平成12年9月21日に東洋紡績株式会社及び東レ株式会社から特許異議の申立を受けたものであって、その後平成13年1月19日(発送日平成13年2月2日)付で取消理由通知がなされ、その指定期間内に訂正請求がなされ、その後平成14年4月18日(発送平成14年5月7日)再度の取消理由通知がなされ、先の訂正請求を取下げる共に、その指定期間内である平成14年7月3日に新たな訂正請求がなされたものである。
2.訂正の要旨
(1)訂正事項a
特許請求の範囲請求項1の「2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との反応生成物からなるポリアミド系スキン層薄膜と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さが55nm以上であることを特徴とする高透過性複合逆浸透膜。」とあるのを、「アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなるポリアミド系スキン層薄膜と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さが60nm以上であることを特徴とする高透過性複合逆浸透膜。」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲請求項12の「2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物を有する」(特許公報第2頁3欄12〜13行)とあるのを、「2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)を有する」と訂正するとともに、「から選ばれるアルコール化合物群、アニソール、エチルイソアミルエーテル・・・・ジメチルスルホキシド及びチオランから選ばれる含硫黄化合物群」(第2頁3欄29行〜4欄13行)を削除する。
(3)訂正事項c
特許請求の範囲の請求項13及び請求項14を削除し、以下、請求項15以降の各項数を2繰り上げる。
(4)訂正事項d
訂正前の特許請求の範囲請求項16の「複数の逆浸透膜を用いて液体を逆浸透処理する方法であって、負荷電荷性架橋ポリアミド系スキン層及びそれを支持する微多孔性支持体からなる高透過性複合逆浸透膜が、多段式逆浸透処理の2段目以降の処理段階で用いられ、前記負荷電荷性架橋ポリアミド系スキン層は2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物と2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能酸ハロゲン化合物の反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが55nm以上で、かつそのスキン層の表面を正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜されている高透過性複合逆浸透膜を用いることを特徴とする逆浸透処理方法」とあるのを、「複数の逆浸透膜を用いて液体を逆浸透処理する方法であって、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層及びそれを支持する微多孔性支持体からなる高透過性複合逆浸透膜が、多段式逆浸透処理の2段目以降の処理段階で用いられ、前記負荷電性架橋ポリアミド系スキン層は、アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメータが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上で、かつそのスキン層の表面が正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜されている高透過性複合逆浸透膜を用いることを特徴とする逆浸透処理方法」と訂正する。
(5)訂正事項e
訂正前の特許請求の範囲請求項17の「請求項16に記載の」とあるのを、「請求項14に記載の」と訂正する。
(6)訂正事項f
訂正前の特許請求の範囲請求項18の「平均粗面粗さが55nm以上である請求項16に記載の」とあるのを、「平均粗面粗さが60nm以上である請求項14に記載の」と訂正する。
(7)訂正事項g
発明の詳細な説明中、段落【0006】「【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明の第1番目の高透過性複合逆浸透膜は、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との反応生成物からなるポリアミド系スキン層薄膜と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さが55nm以上であることを特徴とする。前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さは10,000nm以下であることが好ましく、とくに好ましくは1,000nm以下である。」(特許公報第3頁6欄18〜28行)とあるのを、「【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明の第1番目の高透過性複合逆浸透膜は、アルコール類から選ばれる少なくとも一の溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなるポリアミド系スキン層薄膜と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さが60nm以上であることを特徴とする。前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さは10,000nm以下であることが好ましく、とくに好ましくは1,000nm以下である。」と訂正する。
(8)訂正事項h
発明の詳細な説明中、段落【0010】における「次に本発明の第2番目の高透過性複合逆浸透膜は、薄膜とこれを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記薄膜が、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との反応生成物からなる負荷電荷性架橋ポリアミド系スキン層であり、前記スキン層の平均面粗さが55nm以上であるとともに、前記スキン層の表面を正荷電性基を有する有機重合体の架橋層で被覆したことを特徴とする」(特許公報第4頁7欄3行)を、「次に本発明の第2番目の高透過性複合逆浸透膜は、薄膜とこれを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記薄膜が、アルコールから選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメータが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなる負荷電性架橋ポリアミド系スキン層であり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上であるとともに、前記スキン層の表面を正荷電性基を有する有機重合体の架橋層で被覆したことを特徴とする」と訂正する。
(9)訂正事項i
発明の詳細な説明中、段落【0028】「2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物を有する」(第5頁9欄24〜25行)とあるのを、「2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)を有する」と訂正するとともに、「から選ばれるアルコール化合物、アニソール、エチルイソアミルエーテル・・・・・ジメチルスルホキシド及びチオランから選ばれる含硫黄化合物群」(第5頁9欄40行〜10欄22行)を削除する。
(10)訂正事項j
発明の詳細な説明中、段落【0029】を削除する。
(11)訂正事項k
発明の詳細な説明中、段落【0031】における「負荷電荷性架橋ポリアミド系スキン層及びそれを支持する微多孔性支持体からなる高透過性複合逆浸透膜が、多段式逆浸透処理の2段目以降の処理段階で用いられ、前記負荷電荷性架橋ポリアミド系スキン層は2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物と2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能酸ハロゲン化合物の反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが55nm以上で、かつそのスキン層の表面を」(特許公報第5頁10欄41〜46行)を、「負荷電性架橋ポリアミド系スキン層及びそれを支持する微多孔性支持体からなる高透過性複合逆浸透膜が、多段式逆浸透処理の2段目以降の処理段階で用いられ、前記負荷電性架橋ポリアミド系スキン層は、アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上で、かつそのスキン層の表面が」と訂正する。
(12)訂正事項l
発明の詳細な説明中、段落【0033】における「55nm」(特許公報第6頁11欄8行)を、「60nm」と訂正する。
(13)訂正事項m
発明の詳細な説明中、段落【0034】に「【発明の実施の形態】前記した本発明の複合逆浸透膜は、たとえば2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との界面重縮合反応時に、溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3 )1/2の化合物、例えばアルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、ハロゲン化炭化水素類、及び含硫黄化合物類などから選ばれる少なくとも一つの化合物の存在させることにより製造することができる。」(特許公報第6頁11欄11〜28行)とあるのを、「【発明の実施の形態】前記した本発明の複合逆浸透膜は、たとえば2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との界面重縮合反応時に、溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3 )1/2の化合物、例えばアルコール類から選ばれる少なくとも一つの化合物を存在させることにより製造することができる。」と訂正する。
(14)訂正事項n
発明の詳細な説明中、段落【0035】(特許公報第6頁11欄29〜49行)を削除する。
(15)訂正事項o
発明の詳細な説明中、段落【0036】(特許公報第6頁11欄50行〜12欄4行)を削除する。
(16)訂正事項p
発明の詳細な説明中、段落【0037】(特許公報第6頁12欄5〜11行)を削除する。
(17)訂正事項q
発明の詳細な説明中、段落【0038】の「また含硫黄化合物類としては例えば、ジメチルスルホキシド、チオランが挙げられる。これらの中でも特にアルコール類、エーテル類が好ましい。」(第6頁12欄12〜14行)を削除する。
(18)訂正事項r
発明の詳細な説明中、段落【0039】【0058】【0078】【0080】【0110】【0111】における「55nm」(特許公報第6頁12欄23行、第8頁15欄6行、第9頁18欄32行、第10頁19欄26行、第12頁24欄36行、50行の6箇所)を、「60nm」と訂正する。
(19)訂正事項s
発明の詳細な説明中、段落【0040】に「本発明においては、平均面粗さが55nm以上でなければならない。55nm未満の場合は十分な透過流束が得られない。好ましくは60nm以上である。また、自乗平均面粗さは65nm以上が好ましい。65nm未満の場合は十分な透過流束が得られない。さらに好ましくは70nm以上である。」(特許公報第6頁12欄29〜34行)とあるのを、「本発明においては、平均面粗さが60nm以上でなければならない。60nm未満の場合は十分な透過流束が得られない。また、自乗平均面粗さは65nm以上が好ましい。65nm未満の場合は十分な透過流束が得られない。さらに好ましくは70nm以上である。」と訂正する。
(20)訂正事項t
発明の詳細な説明中、段落【0058】【0110】【0111】における「負荷電荷性」(特許公報第8頁15欄5行、第12頁24欄34行、44行、47行の4箇所)を、「負荷電性」と訂正する。
(21)訂正事項u
発明の詳細な説明中段落【0076】における「負荷電性架橋ポリアミド系スキン層及び」(特許公報第9頁17欄31〜32行)を「負荷電性架橋ポリアミド系スキン層及び」と訂正するとともに、「前記荷電性架橋ポリアミド系スキン層は2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物と2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物の反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが55nm以上で」(特許公報第9頁17欄34〜38行)を、「前記負荷電性架橋ポリアミド系スキン層は、アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメータが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上で」と訂正する。
(22)訂正事項v
発明の詳細な説明中段落【0086】における「実施例2〜4」(特許公報第10頁20欄37行)を、「実施例2」と訂正する。
(23)訂正事項w
発明の詳細な説明中【表1】(特許公報第11頁)における実施例3に関する欄を削除する。
(24)訂正事項x
発明の詳細な説明における「実施例5」を「実施例3」と、また「実施例6」を「実施例4」と、それぞれ訂正する。
本件公報 訂正前 訂正後
第11頁21欄10行 実施例5 実施例3
第11頁22欄24〜25行 実施例5 実施例3
第11頁22欄25〜26行 実施例5 実施例3
第11頁22欄29行 実施例5 実施例3
第11頁22欄31行 実施例5 実施例3
第11頁22欄32行 実施例5 実施例3
第12頁23欄 7行 実施例6 実施例4
第12頁24欄13行 実施例6 実施例4
第12頁24欄14行 実施例5 実施例3
(25)訂正事項y
発明の詳細な説明中段落【0091】における「グリタルアルデヒド」(特許公報第11頁21欄35行)を「グルタルアルデヒド」と訂正する。

3.訂正の適否についての検討
(1)上記訂正事項aは、
a-1.2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との反応に、「アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で」という条件を付け加える訂正
a-2.2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物に「(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)」という限定を付け加える訂正
a-3.「多官能性酸ハロゲン化合物との反応生成物」を「多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物」とする訂正
a-4.スキン層の平均面粗さの最低限度を、「55nm」から「60nm」に限定する訂正
に細分することができる。
訂正事項a-1,a-2およびa-4は、いずれも特許請求の範囲の技術的事項を限定するものであり、訂正事項a-3は、「反応生成物」がアミノ基を有する化合物と多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させたものであることを明確にするものであるから、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正、及び明りょうでない記載の釈明の訂正に該当する。
そして、訂正事項a-1は本件特許明細書段落【0034】に、訂正事項a-4は本件特許明細書段落【0040】に、それぞれ記載された事項であり、訂正事項a-2については、本件特許明細書には「2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物」として、芳香環上に塩素置換基を含む化合物は記載されておらず、しかも当該限定は、本件取消理由通知で引用された先行技術との差異を明確にするためであるから、新規事項の追加に該当しない。
(2)上記訂正事項bは、
b-1.2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物に「(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)」という限定を付け加える訂正
b-2.溶液A、溶液B及び微多孔性支持体から選ばれる少なくとも一つに、存在させる化合物として、アルコール化合物群以外の化合物群を削除する訂正
に細分することができる。
そして、訂正事項b-1及びb-2は、いずれも特許請求の範囲の技術的事項を限定ないし減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、訂正事項b-1については、本件特許明細書には「2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物」として、芳香環上に塩素置換基を含む化合物は記載されておらず、しかも当該限定は、本件取消理由通知で引用された先行技術との差異を明確にするためであるから、新規事項の追加に該当しない。
(3)訂正事項cは、請求項の削除であって特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、項数の繰り上げは請求項13及び14の削除により生じる項数の不整合を正すものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
(4)訂正事項dは、
d-1.2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能酸ハロゲン化合物の反応に、「アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメータが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で」という条件を付け加える訂正
d-2.2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物に「(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)」という限定を付け加える訂正
d-3.「多官能性酸ハロゲン化合物の反応生成物」を「多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物」とする訂正
d-4.スキン層の平均面粗さの最低限度を、「55nm」から「60nm」に限定する訂正
d-5.「負荷電荷性」(2箇所)を「負荷電性」とする訂正
に細分することができる。
ここで、訂正事項d-1ないしd-4は、訂正事項a-1ないしa-4とほぼ同じであり、また、訂正事項d-5は、「負荷電荷性」が意味不明で、本件特許明細書の段落【0023】【0028】【0031】【0032】(特許公報第4頁8欄35行、第5頁9欄27〜29行、第5頁10欄38〜39行、第6頁11欄3行)の記載からみて、それが「負荷電性」の誤記であることは明らかである。
したがって、訂正事項dは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正、及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正、及び誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
(5)訂正事項eは、請求項13及び14の削除により、請求項の項数が繰り上がったことにより生じる引用請求項の項数の不整合を正すものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
(6)訂正事項fは、スキン層の平均面粗さの最低限度を、「55nm」から「60nm」に限定するとともに、請求項13及び14の削除により、請求項の項数が繰り上がったことにより生じる引用請求項の項数の不整合を正すものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正、及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
(7)訂正事項g,l,r,uは、本件特許明細書の発明の詳細な説明を、訂正された特許請求の範囲請求項1、請求項5,請求項12及び請求項14の記載に整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
(8)訂正事項h、kは、本件特許明細書の発明の詳細な説明を、訂正された特許請求の範囲請求項1、請求項5及び請求項14の記載に整合させる訂正、及び「負荷電荷性」を「負荷電性」に正すものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正、及び誤記の訂正に該当する。
(9)訂正事項iは、訂正事項bと同じであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明を、訂正された特許請求の範囲請求項12の記載に整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
(9)訂正事項j,n,o,p,qは、訂正事項a-1により不要になった記載や本件特許発明の技術的範囲でなくなった化合物についての記載を削除するものであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明を、訂正された特許請求の範囲請求項1の記載に整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
(10)訂正事項mは、
m-1.溶解度パラメータが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の例示を「アルコール類から選ばれる少なくとも一つの化合物」のみに限定する訂正
m-2.「化合物の」とあるのを「化合物を」とする訂正
に細分することができる。
ここで、訂正事項m-1は訂正事項a-1と実質的に同じであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明を、訂正された特許請求の範囲請求項1の記載に整合させるものであり、訂正事項m-2は、前後の文章からみて、「化合物の」とあるのは「化合物を」の誤記であることは明らかである。
したがって、訂正事項mは、明りょうでない記載の釈明及び誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
(11)訂正事項sは、訂正事項a-4により本件特許発明の技術的範囲でなくなった部分についての記載を削除し、本件特許明細書の発明の詳細な説明を、訂正された特許請求の範囲請求項1の記載に整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
(12)訂正事項v,w,xは、訂正事項a-4により本件特許発明の技術的範囲でなくなった「実施例3」についての記載を削除し、それ以降の実施例の番号を繰り上げ、段落【0086】直後のかっこ内の実施例番号を訂正後の表1と整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
(13)訂正事項tは、発明の詳細な説明中段落【0058】【0110】【0111】における「負荷電荷性」(特許公報第8頁15欄5行、第12頁24欄34行、44行、47行の4箇所)は意味が不明で、本件特許明細書の段落【0023】【0028】【0032】(特許公報第4頁8欄35行、第5頁10欄38〜39行、第6頁11欄3行)の記載からみて、それが「負荷電性」の誤記であることは明らかであるから、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
(14)訂正事項yは、発明の詳細な説明中段落【0091】における「グリタルアルデヒド」(特許公報第11頁21欄35行)は、そのような名称の化合物は存在せず意味が不明で、本件特許明細書の段落【0024】(特許公報第4頁8欄44〜46行)の記載からみて、それが「グルタルアルデヒド」の誤記であることは明らかであるから、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。

そして、上記訂正事項aないし訂正事項zは、実質的に特許請求の範囲を変更し、又は拡張するものでもない。
してみると、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定にそれぞれ適合するものであるから、上記訂正は認める。

4.特許異議申立人の主張の概要
(1)特許異議申立人東洋紡績株式会社(以下「申立人A」という)は、下記甲第1〜7号証、及び参考資料1〜4を提出し、
本件請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願前公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第2号の発明に該当し、甲第1ないし3号証に記載された発明であるから、同法第29条第1項第3号の発明に該当し、本件請求項1〜18に係る発明は、甲第1ないし5号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件請求項1〜18に係る発明は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開平6-47260号公報
甲第2号証:米国特許第4,772,394号明細書
甲第3号証:特表平4-507216号公報
甲第4号証:特開平5-309237号公報
甲第5号証:特開平4-341334号公報
甲第6号証:実験成績報告書(1)
甲第7号証:実験成績報告書(2)
参考資料1:高分子学会編、「高分子データ・ハンドブック、基礎編」培風館,pp.597-598(1986)
参考資料2:日東技報、34[2]、52〜56頁(1996.11月)
参考資料3:日東電工「ESシリーズ」パンフレット
参考資料4:講演録、「膜」、16[4]、p.223〜232(1991)

(2)特許異議申立人東レ株式会社(以下「申立人B」という)は、下記甲第1〜4号証を提出し、
本件請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願前公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第2号の発明に該当し、甲第1号証に記載された発明であるから、同法第29条第1項第3号の発明に該当し、少なくとも甲第1〜4号証記載の発明に基づいて容易に発明することができたものであるから同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項1及びその従属項である請求項2〜11に係る発明は、当業者が容易に発明を実施できる程度に明確かつ十分に明細書に記載されておらず、また、請求項1〜11の記述は不明確であり、特許法第36条第4項及び第6項第(2)号の規定を充足しないから、本件請求項1〜11に係る発明は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。
甲第1号証:「Jour.of Macromolecular Science-Pure and Applied Chemistry」、Nov.1994
甲第2号証:証明書(東レ(株))
甲第3号証:実験成績証明書
甲第4号証:「Jour.of Membrane Science」121(1996)209-215

5.取消理由の検討
5-1.明細書の記載不備について
(1)申立人Bは、本件発明は、平均面粗さ等の数値限定にのみ特徴があるものであるにも関わらず、その測定方法が具体的に記載されておらず、ある逆浸透膜が本件特許の請求項1記載の発明の技術的範囲に属するか否かを本件特許明細書の記述に従って知ることはできないから、本件特許明細書の記載は、平均面粗さを規定している請求項1記載の発明及びその従属請求形式で記載されている請求項2ないし11記載の発明については、当業者が容易に発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、請求項1〜11の記述は不明確であり、特許法第36条第4項及び第6項第2号の規定を満足しない旨主張している。
(2)しかしながら、訂正された本件請求項1に係る発明は、膜の微細構造、即ち膜性能にも特徴があるのであって、平均面粗さ等の数値限定にのみ特徴があるものではなく、しかも、本件特許明細書には、本件請求項1ないし4で規定する「平均面粗さ:Ra」、「自乗平均面粗さ:Rms」、「10点平均面粗さ:Rz」、「最大高低差:PV」が、【数1】ないし【数4】として明確に定義されており、当業者はこれらの定義に従い、ある逆浸透膜が本件特許の請求項1〜11記載の発明の技術的範囲に属するか否かを知ることができるのであり、その際、使用する測定機器の操作条件は、上記定義と、本件発明の目的効果を考慮すれば、自ずと決まるものであるから、操作条件が開示されていなかったからと云って不明確とはいえない。
したがって、本件特許明細書の記載は、当業者が容易に発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載おり、また、請求項1〜11の記述に不明確な点はなく、特許法第36条第4項及び第6項第2号の規定を満足している。

5-2.新規性進歩性の判断
(1)本件発明の認定
本件発明は、平成14年7月3日付け訂正請求により訂正された明細書の請求項1ないし16に記載された事項により特定された次のとおりのものである(以下「本件発明1」ないし「本件発明16」という)。
「【請求項1】 アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなるポリアミド系スキン層薄膜と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さが60nm以上であることを特徴とする高透過性複合逆浸透膜。
【請求項2】 複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の自乗平均面粗さが65nm以上である請求項1に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項3】 複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の10点平均面粗さが300nm以上である請求項1に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項4】 複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の最大高低差が400nm以上である請求項1に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項5】 複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の表面を、さらに正荷電性基を有する有機重合体の架橋層で被膜した請求項1に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項6】 複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の自乗平均面粗さが65nm以上である請求項5に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項7】 複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の10点平均面粗さが300nm以上である請求項5に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項8】 複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の最大高低差が400nm以上である請求項5記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項9】 正荷電性基を有する有機重合体の架橋層が、ポリエチレンイミンを架橋した有機重合体である請求項5記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項10】 正荷電性基を有する有機重合体の架橋層が、4級アンモニウム基および水酸基を有する重合体を、分子内及び分子間から選ばれる少なくとも一つで架橋した有機重合体である請求項5に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項11】 正荷電性基を有する有機重合体の架橋層の厚さが1nm以上10μm以下の範囲である請求項5に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項12】 微多孔性支持体上に、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)を有する溶液Aを被覆する工程、及び多官能性酸ハロゲン化物を含む溶液Bを上記溶液A層と接触させる工程を含む手段により、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層を形成させ、かつそのスキン層の表面が、正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜されている複合逆浸透膜を製造する方法であって、前記溶液A、溶液B及び微多孔性支持体から選ばれる少なくとも一つに、エタノール、プロパノール、ブタノール、ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、t-アミルアルコール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2-エチルブタノール、2-エチルヘキサノール、オクタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、t-ブタノール、ベンジルアルコール、4-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、ペンチルアルコール及びアリルアルコールから選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物を存在させることを特徴とする高透過性複合逆浸透膜の製造方法。
【請求項13】 正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層が、4級アンモニウム基および水酸基を有する重合体を、分子内及び分子間から選ばれる少なくとも一つで架橋した有機重合体である請求項12記載の高透過性複合逆浸透膜の製造方法。
【請求項14】 複数の逆浸透膜を用いて液体を逆浸透処理する方法であって、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層及びそれを支持する微多孔性支持体からなる高透過性複合逆浸透膜が、多段式逆浸透処理の2段目以降の処理段階で用いられ、前記負荷電性架橋ポリアミド系スキン層は、アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメータが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上で、かつそのスキン層の表面が正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜されている高透過性複合逆浸透膜を用いることを特徴とする逆浸透処理方法。
【請求項15】 高透過性複合逆浸透膜での逆浸透処理に先立つ処理が、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との反応生成物からなる負荷電性架橋ポリアミド系スキン層と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜を用いた処理である請求項14に記載の逆浸透処理方法。
【請求項16】 高透過性複合逆浸透膜での処理に先立つ処理で用いられる逆浸透性膜のスキン層の平均面粗さが60nm以上である請求項14に記載の逆浸透処理方法。」

(2)請求項1〜4記載の発明が公知公用であるとの主張について
ア.申立人Aは、甲第7号証の第1表に示すように、市販の複合逆浸透膜であるフラットシートメンブレン(NTR-759HR;日東電工社製)について、本件特許明細書に記載された原子間力顕微鏡(AFM)を用いて平均面粗さ(Ra)、自乗平均面粗さ(Rms)、10点平均面粗さ(Rms)、最大高低差(Rz)、及び最大高低差(PV)を測定した結果は、本件特許の請求項1〜4に記載された複合逆浸透膜と同一であり、当該市販の逆浸透膜(NTR-759HR)が本件特許の優先日前から販売されていたことは参考資料3、4に、NTR-759HRを含む逆浸透膜が、多孔質支持体(UF膜)上にスキン層(NTR-759HRでは架橋芳香族ポリアミド)を積層した構造であることは参考資料4の図3に、それぞれ記載されているから、本件請求項1〜4に係る発明は、本件特許の優先日前から知られた発明であると主張する。
しかしながら、甲第7号証の第1表の結果によれば、市販の逆浸透膜NTR-759HRの平均面粗さの平均値は56.3nmであって、訂正後の本件請求項1に係る発明の60nm以上という条件を満たしていない。
したがって、本件請求項1〜4に係る発明は、市販の逆浸透膜NTR-759HRの製造販売によって、公知公用となった発明ということはできない。
イ.申立人Bは、申立人Bが提出した甲第1号証には、東レ社製逆浸透膜UTC-70が、スキン層の平均面粗さ以外の要件を全て満足することが記載され、甲第3号証の実験成績証明書によれば、UTC-70のスキン層の平均面粗さは60.29nmであり、本件請求項1で規定される範囲内に入っており、甲第2号証によれば東レ社製逆浸透膜UTC-70は昭和63年から日本国内において販売しているのであり、甲第3号証によれば、UTC-70のスキン層の自乗平均面粗さ、10点平均面粗さ、最大高低差は、それぞれ72.88nm、462.9nm、487.0nmであるから、本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、本件優先権日前から国内において市販された公用発明であると主張している。
しかしながら、甲第1号証には、訂正された請求項1に係る発明の構成要件である、トリアミノベンゼンとm-フェニレンジアミンとの反応に特定の溶解度パラメータのアルコール化合物を存在させることについての記載がなく、さらに、甲第3号証に記載される、東レ社製逆浸透膜UTC-70が、本件優先日前から販売されていたとする、製品と同一のものであるかが不明であり、しかも、その平均面粗さの測定値は、特許権者が意見書で示した測定値と異なる値であり、同測定方法が本件特許明細書に記載されている方法と異なっていることを考慮すると、甲第1ないし3号証の記載から、本件請求項1〜4に係る発明が甲第1号証に記載された発明、あるいは本件優先日前から公用された発明とすることはできない。

(3)刊行物記載の発明ないし各刊行物記載の発明から容易に発明をすることができたとする主張に対して
(3-1)取消理由通知に引用された刊行物記載の発明
ア.刊行物1(特開平6-47260号公報:申立人Aが提出した甲第1号証)
ア-1.「請求項1:微孔性ポリマー基質上における反応物の界面重合による半透膜の製造法において:a.該膜を形成する第1の反応物の溶液で該基質を処理し、b.さらに該基質を脂肪族炭化水素、該第1反応物と重合する少なくとも1種類の別の反応物、及び有機添加剤の溶液で処理することから成り、該有機添加剤が以下の基準:1)第1及び2の反応物と反応しない;2)脂肪族炭化水素より極性が大きいか又は脂肪族炭化水素と水の界面張力を減少させる;3)脂肪族炭化水素に可溶性である;4)使用濃度で多孔性ポリマー基質に損傷を与えない;及び5)膜形成後、膜から除去することができること、を満たすことを特徴とする方法。」(特許請求の範囲)
ア-2.「一般に本発明の膜は、多孔性基質上における第1の反応物と第2の反応物の界面重合により製造する。第1の反応物は水溶液の形態で与えられる。第2の反応物は、脂肪族炭化水素、及び溶媒の極性を増す、及び/又は溶媒と水の界面張力を減少させるが反応物の重合を妨げない、あるいは基質を損なわない可溶性有機添加剤を含む溶媒系に第2の反応物を溶解した溶液の形態で与えられる。本発明は一般的に半透膜の製造に有用であるが、特にポリアミド半透膜の製造に適している。ポリアミド半透膜は、多孔性ポリマー基質をジアミンの水溶液を含む第1の反応物で処理し、その後ジアミン処理基質を、脂肪族炭化水素溶媒と適した添加剤から成る溶媒系中のポリアシルハライド反応物を含む第2の反応物の溶液で処理することにより製造する。本発明で使用するのに適したジアミンの水溶液は、m-フェニレンジアミン及びp-フェニレンジアミンが最も好ましい。他の有用なジアミンにはキシレンジアミン、ピペラジンなどが含まれる。」(第2頁右欄40行〜第3頁左欄7行)
ア-3.「界面重合に関与することができる種々のポリアシルハライドを使用することができる。ポリアシルハライドの例には、・・・トリメソイルクロリド、イソフタロイルクロリド、・・・1,3,5-シクロヘキサントリカルボニルクロリド、テトラヒドロフラン-1,2,3,4-テトラカルボニルクロリドなどが含まれる」(第3頁左欄8〜18行)
ア-4.「脂肪族炭化水素には、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ナフサ、オクタンなどが含まれる」(第3頁左欄28〜30行)
ア-5.「添加剤には、・・・ジエチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン・・・アセトン、メチルイソブチルケトン、2-ブタノン・・・酢酸メチル、蟻酸エチル、酢酸エチル・・・ニトロエタン、ニトロメタン・・・1,1,1-トリクロロ工夕ン、ジクロロメタン・・・トリクロロエチレン、ジクロロエチレン・・・クロロベンゼン、フルオロベンゼン・・・ベンゼン、トルエン、フルオロベンゼン、クロロベンゼン・・・シクロヘキセン、へプテン、・・・フランなどが含まれる」(第3頁右欄1〜21行)
イ.刊行物2(米国特許第4,772,394号明細書:申立人Aが提出した甲第2号証)
イ-1.「多孔質支持体パッキング材料上に複合化された界面重合反応生成物を含む耐塩素性半透膜は、ポリスルホンのような多孔質支持体材料を芳香環上に塩素置換基を含む芳香族ポリアミンの水溶液と接触させることにより調製しえる。被覆された支持体材料は,次いで支持体材料の表面上で界面重合反応生成物を形成するのにこ十分な時間芳香族ポリカルボン酸クロリドの有機溶媒溶液と接触される。得られた複合膜は、かん水また海水の脱塩のような分離プロセスに使用し得、該膜は水中に存在する塩素による攻撃に耐性である。」(アブストラクト)
イ-2.「本発明の生成物の1成分からなる芳香環上にも塩素置換基を含む芳香族ポリアミンは、4‐クロロ-m-フェニレンジアミンまたは5-クロロ-m-フェニレンジアミンが含まれる。」(第6欄20〜24行)
イ-3.「界面重合生成物を形成するのに必要な他の成分を形成する芳香族ポリカルボン酸クロライドは、トリメソイルクロライド(1,3,5‐ベンゼントリカルボン酸クロリド)、イソフタロイルクロライド、テレフタロイルクロライドを含む。」(第6欄29〜35行)
イ-4.「存在し得るこれら添加剤例は、ラウリル硫酸ナトリウムなどのイオン性界面活性剤を含む界面活性剤、メタノール、エタノール、エチレングリコール、異性体プロパノール、ブタノールなどの低分子量アルコールまたはポリエチレングリコール.ポリプロピレングリコール、エチレングリコールプロピレングリコール共重合体などを含む」(第7欄8〜15行)
ウ.刊行物3(特表平4-507216号公報:申立人Aが提出した甲第3号証)
ウ-1.「多孔質支持体にアミンと反応性でない極性-非プロトン溶剤を含有するボリアミンまたはビスフェノールの水溶液を塗布し、過剰の溶液を除去し、塗布された多孔質支持体をハロゲン化ポリアシル、ハロゲン化ポリスルホニルまたはポリイソシアネートの有機溶剤溶液と接触させて、多孔質支持体の内部および/または表面に反応生成物を形成し、得られた複合材料を硬化条件で硬化させて高フラックス半透膜を形成することにより製造される高フラックス半透膜。」(特許請求の範囲)
ウ-2.「(i)モノマーポリアミンとしてピペラジン、メチルピペラジン、ジメチルピペラジン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、ビフェニレンジアミン、クロロフェニレンジアミン、N,N’-ジメチル-1,3-フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3’ジメチルベンジジン、3,3’ジクロロベンジジンが例示される;(ii)ポリアミンのキャリヤーとして用いられる溶液が、ポリアミンが約0.1-約20重量%の量で溶液中に存在する水からなる;(iii)極性-非プロトン溶剤がジオキサン、テトラヒドロフランを含む;(iv)芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物が、トリメソイルクロリド(1,3,5-ベンゼントリカルボン酸クロリド)、トリメリトイルクロリド(1,2,4-ベンゼントリカルボン酸クロリド)、イソフタロイルクロリド、テレフタロイルクロリドを含む;(v)芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物を溶解する有機溶剤は水と非混和性のものからなり、たとえばn-ペンタン、n-へキサン、n-へプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、ナフサなど、またはハロゲン化炭化水素からなること。」(第3頁右上欄19行〜右下欄22行)
エ.刊行物4(特開平5-309237号公報:申立人Aが提出した甲第4号証)
エ-1.「本発明においては、直列に連結した複数台の膜モジュールのうち、少なくとも1台の膜モジュールに正荷電性の特定の複合半透膜を用いればよく、例えば2段式のROシステムの場合、1段目に正荷電性でも負荷電性でもいずれの複合半透膜を用いても構わないが、2段目の複合半透膜は1段目とは逆の荷電性を持つものとする。通常は、原水にNaOHを添加して炭酸ガスをHCO3-やCO32-に変えて炭酸ガスを除くため、1段目は負荷電性の複合半透膜を用いるのが好ましい。ここで用いる負荷電性の複合半透膜とは、例えばポリスルホンなどからなる微多孔性支持層上に負荷電性を有する活性層が形成されたものである。かかる活性層とは、・・・架橋ポリアミド系重合体が好ましい。具体的には、ピペラジンポリアミドや芳香族ポリアミドなどを活性層とする複合半透膜を挙げることができる。」(第2頁2欄23〜41行)
オ.刊行物5(特開平4-341334号公報:申立人Aが提出した甲第5号証)
オ-1.「【請求項1】多孔性基材上に半透性超薄膜を有し、更にその上に4級アンモニウム基を有する重合体が架橋されてなる架橋重合体層を有することを特徴とする複合半透膜。【請求項2】架橋重合体が4級アンモニウム基及び水酸基を有する重合体をポリイソシアネートで分子間で架橋させてなることを特徴とする請求項1記載の複合半透膜。【請求項3】架橋重合体が4級アンモニウム基及び水酸基を有すると共に、ブロック化ポリイソシアネート又はアミンイミド基を有する重合体を分子内又は分子間で架橋させてなることを特徴とする請求項1記載の複合半透膜。」(特許請求の範囲)
カ.刊行物6(特開平4-200621号公報)
カ-1.「(1)負固定荷電基を有する架橋有機重合体からなる活性層と、これを支持する支持層とからなる複合半透膜において、該活性層の表面が正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被覆されてなることを特徴とする複合半透膜」(特許請求の範囲)
カ-2.「(3)架橋層が、ポリエチレンイミン、・・・から選ばれる正固定荷電基を有する有機重合体と、グルタルアルデヒドとの架橋物である請求項(1)記載の複合半透膜」(特許請求の範囲)
(カ-3)「複合半透膜の活性層は、その生成のし易さから架橋ポリアミドから成るものが主流であり、これは負の固定荷電基を有しているため、低濃度領域における無機塩の脱塩に関し、高pH域おいてアニオンの排除率は高いがカチオンのそれは低いため、全体としての排除率が低下してしまうという問題があった。」(第1頁右欄14〜末行)

(3-2)対比・判断
ア.本件発明1について
記載ア-1、記載ウ-1によれば、刊行物1及び刊行物3に記載される半透膜も、微多孔性支持体上にスキン層薄膜を形成した複合半透膜であり、記載ア-2、記載ア-3、及び記載ウ-2によれば、該スキン層を形成する化合物として本件発明の実施例と同じ「m-フェニレンジアミン」と「トリメソイルクロリド」が例示されているから、刊行物1及び刊行物3には、「2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなるポリアミド系スキン層薄膜と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜」が記載されていることになる。
したがって、本件発明1と刊行物1または刊行物3記載の発明とを対比すると、上記の点で一致し、ポリアミド系スキン層薄膜が、刊行物1では、記載ア-4,ア-5に例示されるような有機化合物を存在させて反応させたものであることが、また刊行物3では、記載ウ-2の(ii)、(iii)、(v)のような有機化合物を存在させたものであることが、それぞれ記載されているものの、「アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメータが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で」2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させたものであること、及び該ポリアミド系スキン層の平均面粗さが60nm以上であることについては、刊行物1又は刊行物3のいずれにも記載がない点で相違する。
一方、記載イ-1によれば、刊行物2に記載される半透膜も、微多孔性支持体上にスキン層薄膜を形成した複合半透膜であり、記載イ-3には、該スキン層を形成する化合物として本件発明の実施例と同じ「トリメソイルクロリド」が例示され、記載イ-4によれば、ポリアミドスキン層の反応時に、本件特許明細書でアルコール化合物として例示された「イソプロパノール」を存在させることが記載されているから、刊行物2には、「アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメータが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなるポリアミド系スキン層薄膜と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜」が記載されているといえるが、記載イ-2によれば、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させるのは、本件発明1で除外している芳香環上に塩素置換基を含む2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物である点で相違し、さらに該スキン層の平均面粗さが60nm以上であることについても、刊行物2には記載がない点で本件発明1とは相違する。
ところで、申立人Aが提出した甲第6号証には、刊行物3に記載される実施例を追試して製造した複合半透膜の平均面粗さを測定した結果、60nm以上であったことが記載されているが、たとえこの測定結果が正しいとしても、本件発明1のポリアミド系スキン層は、刊行物3記載のポリアミド系スキン層と比べ、その反応時に存在させる有機化合物が特定の溶解度パラメーターのアルコール類である点で異なり、その結果、逆浸透膜としての性能が、換算透過流束と塩阻止率が、本件発明1の実施例である実施例1及び2で1.7及び1.3[m3/m2・d]、99.7及び99.8%であるのに対し、刊行物3記載の膜は、乙第1号証に示される換算値によれば、1.14ないし2.09[m3/m2・d]、92.7ないし98.7%であって、換算透過流束は大差ないものの、塩阻止率の点で、本件発明の膜のほうが優れているのであるから、本件発明が刊行物3に記載された発明とすることはできない。
さらに、刊行物1ないし3に記載される複合半透膜が、本件発明1と同じように、高流束性能を達成するものであったとしても、本件発明1とは異なる構成で、その目的を達成するものである以上、その構成を変更する理由がなく、また刊行物4〜6にも、ポリアミド系スキンの生成反応時に特定の溶解度パラメーターのアルコール類を存在させることについては記載がないから、本件発明1は、刊行物1〜6記載の発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものとも認められない。
イ.本件発明2ないし11について
本件発明2ないし11は、直接ないし間接的に本件発明1を引用する発明であるから、上記と同様な理由で、刊行物1〜3に記載された発明とはいえず、また刊行物1〜6記載の発明に基づいて、本件発明を当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ.本件発明12について
記載(ア-1)における「微孔性ポリマー基質」、及び記載(ウ-1)における「多孔質支持体」が、本件発明12における「微多孔質性支持体」に相当し、記載(ア-2)によれば記載(ア-1)における「第1の反応物」として、また、記載(ウ-2)によれば記載(ウ-1)の「ポリアミン」として、それぞれ「m-フェニレンジアミン」が例示され、記載(ア-3)によれば、記載(ア-1)における「別の反応物」として、また、記載(ウ-2)によれば記載(ウ-1)における「ハロゲン化アシル」として、それぞれ「トリメソイルクロリド」が例示されているのであるから、刊行物1及び刊行物3に記載される発明を本件発明12の記載に則して表現すると、「微多孔性支持体上に、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)を有する溶液Aを被覆する工程、及び多官能性酸ハロゲン化物を含む溶液Bを上記溶液A層と接触させる工程を含む手段により、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層を形成させる複合逆浸透膜を製造する方法」が記載されている。
したがって、本件発明12と刊行物1及び刊行物3記載の発明とを対比すると、上記の点で一致するものの、刊行物1及び刊行物3には、(a)スキン層の表面に、正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜する点、(b)溶液Aと溶液Bとの反応に、アルコール化合物群から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物を存在させることについては、記載がない点で相違する。
記載(イ-3)によれば記載(イ-1)における「芳香族ポリカルボン酸クロリド」として「トリメソイルクロライド」が例示され、また記載(イ-4)によれば界面重合反応に存在しうる添加剤として「エタノール」が例示されているから、刊行物2に記載される発明を、本件発明12の構成に則して記載すると、「微多孔性支持体上に、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物を有する溶液Aを被覆する工程、及び多官能性酸ハロゲン化物を含む溶液Bを上記溶液A層と接触させる工程を含む手段により、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層を形成させる複合逆浸透膜を製造する方法であって、前記溶液A、溶液B及び微多孔性支持体から選ばれる少なくとも一つに、溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2のエタノールを存在させることを特徴とする高透過性複合逆浸透膜の製造方法」ということになる。
したがって、本件発明12と刊行物2記載の発明とを対比すると、上記の点で一致するものの、(a)刊行物2には、スキン層の表面に正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜することについて記載がない点、及び(c)刊行物2記載の発明では2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物として本件発明12で除外している「芳香環上に塩素置換基を含む化合物」を用いている点、で両者は相違する。
上記相違点について検討する。
相違点(a):記載(カ-1)(カ-2)によれば、刊行物6には、(カ-3)に記載されるような架橋ポリアミド活性層を有する複合半透膜が有する問題を解決するため、該活性層の表面が正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被覆する発明が開示されているのであるから、係る発明を、架橋ポリアミド活性層を有する複合半透膜という点で共通し、上記(カ-3)に記載されるような課題を有する刊行物1ないし3記載の発明に適用し、これら刊行物に記載される複合半透膜のスキン層の表面に、正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜することは、当業者が容易になし得ることといえる。
相違点(b)及び相違点(c):刊行物1ないし3に記載される複合半透膜が、本件発明12と同じように、高流束性能を達成するものであったとしても、本件発明12とは異なる構成、即ち、刊行物1及び刊行物3では特定の溶剤を使用すること、また刊行物2ではで芳香環上に塩素置換基を含む2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物を使用することによりその目的を達成するものである以上、上記の相違点が他の刊行物に記載されていたからといって、その構成を変更する理由付けがなく、さらに刊行物4〜6にも上記相違点(b)及び(c)に関する記載はない。
本件発明12は、上記の構成により、高流束性能だけでなく高脱塩性能も兼ね備えた逆浸透膜を製造しうるという明細書記載の作用効果を有するものである。
したがって、本件発明12は、刊行物1ないし3に記載された発明とはいえないばかりか、刊行物1〜6記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたものともいえない。
エ.本件発明13について
本件発明13は、本件発明12を引用する発明であるから、上記と同様な理由で、刊行物1〜6から容易に発明をすることができた発明とすることはできない。
オ.本件発明14について
記載(エ-1)によれば、2段目の複合半透膜は1段目とは逆の荷電性を持つものとするとし、通常、1段目は負荷電性の複合半透膜を用いるのが好ましいとしているのであるから、この場合、2段目のROシステムは、正荷電性の複合半透膜を用いたものとなる。
したがって、刊行物4に記載される発明を本件発明14の構成に則して表現すれば、「複数の逆浸透膜を用いて液体を逆浸透処理する方法であって、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層及びそれを支持する微多孔性支持体からなる高透過性複合逆浸透膜が、多段式逆浸透処理の2段目以降の処理段階で用いられ、前記負荷電荷性架橋ポリアミド系スキン層は、その表面を正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜されている高透過性複合逆浸透膜を用いることを特徴とする逆浸透処理方法。」ということになる。
本件発明14と刊行物4記載の発明とを対比すると、両者は、上記の構成である点で一致し、刊行物4には、上記スキン層が、2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能酸ハロゲン化合物の反応生成物からなる点、該反応が、アルコール化合物群から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物を存在させて行われる点、上記スキン層の平均面粗さが60nm以上である点、で相違する。
そして、2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能酸ハロゲン化合物を、アルコール化合物群から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物を存在させて反応させることが、上記刊行物1〜6に記載されておらず、それらの記載から容易に想到することができないものであることは本件発明12で検討したとおりであるから、本件発明14は、刊行物1〜6記載の発明から容易に発明をすることができた発明とすることはできない。
カ.本件発明15,16について
本件発明15及び16は、本件発明14を引用する発明であるから、本件発明14と同じ理由で、刊行物1〜6から容易に発明をすることができた発明とすることはできない。
(3-4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし12は、刊行物1〜3に記載された発明とすることはできず、これら刊行物1〜6記載の発明に基づいて、本件発明を当業者が容易に想到することができたものとも認められず、本件発明13ないし16は、刊行物1〜6から容易に発明をすることができた発明とすることはできない。
6.結び
以上のとおりであるから、本件発明1ないし16に係る特許は、特許異議申立の理由および証拠によっては取り消すことができない。
また、他に本件発明1ないし16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
高透過性複合逆浸透膜とその製造方法及び逆浸透処理方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなるポリアミド系スキン層薄膜と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さが60nm以上であることを特徴とする高透過性複合逆浸透膜。
【請求項2】 複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の自乗平均面粗さが65nm以上である請求項1に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項3】 複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の10点平均面粗さが300nm以上である請求項1に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項4】 複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の最大高低差が400nm以上である請求項1に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項5】 複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の表面を、さらに正荷電性基を有する有機重合体の架橋層で被膜した請求項1に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項6】 複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の自乗平均面粗さが65nm以上である請求項5に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項7】 複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の10点平均面粗さが300nm以上である請求項5に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項8】 複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の最大高低差が400nm以上である請求項5記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項9】 正荷電性基を有する有機重合体の架橋層が、ポリエチレンイミンを架橋した有機重合体である請求項5記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項10】 正荷電性基を有する有機重合体の架橋層が、4級アンモニウム基および水酸基を有する重合体を、分子内及び分子間から選ばれる少なくとも一つで架橋した有機重合体である請求項5に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項11】 正荷電性基を有する有機重合体の架橋層の厚さが1nm以上10μm以下の範囲である請求項5に記載の高透過性複合逆浸透膜。
【請求項12】 微多孔性支持体上に、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)を有する溶液Aを被覆する工程、及び多官能性酸ハロゲン化物を含む溶液Bを上記溶液A層と接触させる工程を含む手段により、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層を形成させ、かつそのスキン層の表面が、正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜されている複合逆浸透膜を製造する方法であって、前記溶液A、溶液B及び微多孔性支持体から選ばれる少なくとも一つに、エタノール、プロパノール、ブタノール、ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、t-アミルアルコール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2-エチルブタノール、2-エチルヘキサノール、オクタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、t-ブタノール、ベンジルアルコール、4-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、ペンチルアルコール及びアリルアルコールから選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物を存在させることを特徴とする高透過性複合逆浸透膜の製造方法。
【請求項13】 正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層が、4級アンモニウム基および水酸基を有する重合体を、分子内及び分子間から選ばれる少なくとも一つで架橋した有機重合体である請求項12記載の高透過性複合逆浸透膜の製造方法。
【請求項14】 複数の逆浸透膜を用いて液体を逆浸透処理する方法であって、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層及びそれを支持する微多孔性支持体からなる高透過性複合逆浸透膜が、多段式逆浸透処理の2段目以降の処理段階で用いられ、前記負荷電性架橋ポリアミド系スキン層は、アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上で、かつそのスキン層の表面が正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜されている高透過性複合逆浸透膜を用いることを特徴とする逆浸透処理方法。
【請求項15】 高透過性複合逆浸透膜での逆浸透処理に先立つ処理が、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との反応生成物からなる負荷電性架橋ポリアミド系スキン層と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜を用いた処理である請求項14に記載の逆浸透処理方法。
【請求項16】 高透過性複合逆浸透膜での処理に先立つ処理で用いられる逆浸透性膜のスキン層の平均面粗さが60nm以上である請求項14に記載の逆浸透処理方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は各種液体混合物を選択分離するための複合逆浸透膜とその製造方法及び逆浸透処理方法に関する。さらに詳しくは、たとえば半導体製造に必要不可欠な超純水の造水ラインにおいて、低濃度無機塩に対しての脱塩や、カチオン系有機物を排除するための複合逆浸透膜とその製造方法及び逆浸透処理方法に関するものであり、エネルギー的に有利な低圧操作下で、より高純度な水を得たり、廃水を回収したりすることができる複合逆浸透膜に関する。また、食品用途等で有効成分の濃縮等にも用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
従来より、非対称逆浸透膜とは構造の異なる逆浸透膜として、多孔性支持体上に実質的に選択分離性を有する薄膜を形成してなる複合逆浸透膜が提案されている。
【0003】
現在、かかる複合逆浸透膜として、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物との界面重合によって得られるポリアミドからなる薄膜を支持体上に形成したものが多く提案されている(例えば特開昭55-147106号公報、特開昭62-121603号公報、特開昭63-218208号公報、特開平2-187135号公報等)。また、多官能芳香族アミンと多官能脂環式酸ハロゲン化物との界面重合によって得られるポリアミドからなる薄膜を支持体上に形成したものも提案されている(例えば特開昭61-42308号公報等)。また、複合逆浸透膜の活性層は、その製造のし易さから架橋ポリアミドからなるものが主流であり、これは負の固定荷電基を有しているため、低濃度領域における無機塩の脱塩に関し、高pH域においてアニオンの排除率は高いがカチオンのそれは低いため、全体としての排除率が低下してしまうという問題があった。かかる問題を解決するために、活性層表面に正の固定荷電基を有する有機重合体を被覆してなる複合逆浸透膜(特開昭62-266103号公報)が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記従来の複合逆浸透膜は、高い脱塩性能及び水透過性を有するが、さらに高い脱塩性能を維持したまま水透過性を向上させることが、効率面などの点から望まれている。これらの要求に対し、各種添加剤などが提案されているが(例えば特開昭63-12310号公報等)、まだ現在の複合逆浸透膜では不十分であり、さらに高い水透過性を有する複合逆浸透膜が求められている。また、前記従来の特開昭62-266103号公報による提案の複合逆浸透膜は、その製造方法からして吸着膜として働くように製造されていることにより、繰り返しの使用に際し、ある程度の有機重合体の脱落を伴い、膜の所望の性能が低下する場合があるという点で不十分であった。特に最近開発されてきた技術で、半導体製造における超純水造水ラインの前段における2段式逆浸透処理(RO)の2段目の膜としては満足のいくものではない。即ち、1段目に高脱塩率の負荷電膜を用い、その透過液を2段目に供給するため、同じ性質の膜では、十分に脱塩性能を発現しないことが判明した。また、正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜されている為、透過流束が低くなり、経済的に不十分であり、透過流束の高い膜が望まれている。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、高塩阻止率と高水透過性を併せ有する複合逆浸透膜とその製造方法及び逆浸透処理方法を提供することを第1番目の目的とする。本発明の第2番目の目的は、低濃度領域での無機塩の脱塩、及びカチオン系有機物の排除に優れ、しかも高水透過性を併せ有する複合逆浸透膜とその製造方法及び逆浸透処理方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明の第1番目の高透過性複合逆浸透膜は、アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなるポリアミド系スキン層薄膜と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さが60nm以上であることを特徴とする。前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さは10,000nm以下であることが好ましく、とくに好ましくは1,000nm以下である。
【0007】
前記構成においては、複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の自乗平均面粗さが65nm以上であることが好ましい。前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の自乗平均面粗さは20,000nm以下であることが好ましく、とくに好ましくは2,000nm以下である。
【0008】
また前記構成においては、複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の10点平均面粗さが300nm以上であることが好ましい。前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の10点平均面粗さは50,000nm以下であることが好ましく、とくに好ましくは10,000nm以下である。
【0009】
また前記構成においては、複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の最大高低差が400nm以上であることが好ましい。前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の最大高低差は100,000nm以下であることが好ましく、とくに好ましくは20,000nm以下である。
【0010】
次に本発明の第2番目の高透過性複合逆浸透膜は、薄膜とこれを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記薄膜が、アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなる負荷電性架橋ポリアミド系スキン層であり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上であるとともに、前記スキン層の表面を正荷電性基を有する有機重合体の架橋層で被膜したことを特徴とする。前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さは60nm以上10,000nm以下であることが好ましく、とくに好ましくは1,000nm以下である。この範囲を外れると十分な透過流束は得にくい。
【0011】
前記構成においては、複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の自乗平均面粗さが65nm以上であることが好ましい。前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の自乗平均面粗さは70nm以上であり、20,000nm以下であることが好ましく、とくに好ましくは2,000nm以下である。この範囲を外れると十分な透過流束は得にくい。
【0012】
また前記構成においては、複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の10点平均面粗さが300nm以上であることが好ましい。前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の10点平均面粗さは305nm以上であり、50,000nm以下であることが好ましく、とくに好ましくは10,000nm以下である。この範囲を外れると十分な透過流束は得にくい。
【0013】
また前記構成においては、複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の最大高低差が400nm以上であることが好ましい。前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の最大高低差は410nm以上100,000nm以下であることが好ましく、とくに好ましくは20,000nm以下である。この範囲を外れると十分な透過流束は得にくい。
【0014】
前記における平均面粗さは、下記式(数1)で定義される。
【0015】
【数1】

【0016】
また、前記における自乗平均面粗さは、下記式(数2)で定義される。
【0017】
【数2】

【0018】
また、前記における10点平均面粗さは、下記式(数3)で定義される。
【0019】
【数3】
10点平均面相さ:Rz
指定面における、最高から(10/2)番目までの山頂の標高の平均値と最深から(10/2)番目までの谷底の標高の平均値の差。
【0020】
また、前記における最大高低差は下記式(数4)で定義される。
【0021】
【数4】

【0022】
これらの平均面粗さ、自乗平均面粗さ、10点平均面粗さ、最大高低差を求める方法は、一般に表面粗さを求める手法に従い求めることができる。例えば、原子間力顕微鏡(AFM)、摩擦力顕微鏡(FFM)、非接触原子間力顕微鏡(NC-AFM)、トンネル顕微鏡(STM)、電気化学-原子間力顕微鏡(EC-AFM)、走査電子顕微鏡(SEM,FE-SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)等が挙げられるが、表面粗さを求めることができれば特に手法は制限されない。
【0023】
本発明の第2番目の複合逆浸透膜の発明においては、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層の表面が、正荷電性基を有する有機重合体の架橋層で被膜されていなければならない。被膜されていないと、低濃度無機塩に対しての脱塩や、カチオン系有機物を排除することが十分にできない。
【0024】
ここで正荷電性基を有する有機重合体とは、ポリエチレンイミンが挙げられる。本発明の架橋層は、上記正荷電性基を有する有機重合体を架橋剤で架橋して活性層表面を被覆してなるものであり、かかる架橋剤としては、グリオキサール、グルタルアルデヒド等が挙げられるが、特に分子量の点から、グルタルアルデヒドが好ましく用いられる。すなわち、正荷電性基を有する有機重合体の架橋層が、ポリエチレンイミンを架橋した有機重合体であることが好ましい。
【0025】
また正荷電性基を有する有機重合体の架橋層は、4級アンモニウム基および水酸基を有する重合体を、分子内または/及び分子間で架橋した有機重合体であってもよい。
【0026】
前記において、正荷電性基を有する有機重合体の架橋層の厚さが1nm以上10μm以下の範囲であるこが好ましい。本発明において活性層表面を架橋層で被覆する方法は特に限定されないが、例えば、活性層に上記正荷電性基を有する有機重合体の水溶液を塗布又は含浸した後、上記架橋剤で架橋させたり、また逆浸透処理を行いながら、その原水に正荷電性基を有する有機重合体を添加し、次いで水洗後同方法により架橋剤を添加する方法などが採用できる。この場合、正荷電性基を有する有機重合体の濃度は、通常0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%、また架橋剤の濃度は、通常0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。
【0027】
本発明においては、上記の如く負固定荷電を有する活性層の表面に、正荷電性基を有する有機重合体が架橋した状態で被覆されているため、即ち吸着機構に加え3次元架橋されているため、従来の未架橋の場合と比べて、得られた複合半透膜を繰り返し使用しても、正荷電性基を有する有機重合体が脱落しないので、性能が低下しないという作用・効果がある。
【0028】
次に本発明の高透過性複合逆浸透膜の製造方法は、微多孔性支持体上に、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)を有する溶液Aを被覆する工程、及び多官能性酸ハロゲン化物を含む溶液Bを上記溶液A層と接触させる工程を含む手段により、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層を形成させ、かつそのスキン層の表面が、正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜されている複合逆浸透膜を製造する方法であって、前記溶液A、溶液B及び微多孔性支持体から選ばれる少なくとも一つに、エタノール、プロパノール、ブタノール、ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、t-アミルアルコール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2-エチルブタノール、2-エチルヘキサノール、オクタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、t-ブタノール、ベンジルアルコール、4-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、ペンチルアルコール及びアリルアルコールから選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物を存在させることを特徴とする。
【0029】
【0030】
また前記構成においては、正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層が、4級アンモニウム基および水酸基を有する重合体を、分子内及び分子間から選ばれる少なくとも一つで架橋した有機重合体であることが好ましい。
【0031】
次に本発明の逆浸透処理方法は、複数の逆浸透膜を用いて液体を逆浸透処理する方法であって、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層及びそれを支持する微多孔性支持体からなる高透過性複合逆浸透膜が、多段式逆浸透処理の2段目以降の処理段階で用いられ、前記負荷電性架橋ポリアミド系スキン層は、アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上で、かつそのスキン層の表面が正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜されている高透過性複合逆浸透膜を用いることを特徴とする。
【0032】
前記処理方法においては、高透過性複合逆浸透膜での逆浸透処理に先立つ処理が、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との反応生成物からなる負荷電性架橋ポリアミド系スキン層と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜を用いた処理であることが好ましい。
【0033】
また前記処理方法においては、高透過性複合逆浸透膜での処理に先立つ処理で用いられる逆浸透性膜のスキン層の平均面粗さが60nm以上であることが好ましい。
【0034】
【発明の実施の形態】
前記した本発明の複合逆浸透膜は、たとえば2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との界面重縮合反応時に、溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物、例えばアルコール類から選ばれる少なくとも一つの化合物を存在させることにより製造することができる。かかるアルコール類としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、t-アミルアルコール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2-エチルブタノール、2-エチルヘキサノール、オクタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、t-ブタノール、ベンジルアルコール、4-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、ペンチルアルコール、アリルアルコールが挙げられる。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
これらの化合物は単独であるいは複数で存在させることができる。
【0039】
前記した本発明の第1番目の複合逆浸透膜の構成によれば、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との反応生成物からなるポリアミド系スキン層薄膜と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さが60nm以上であることにより、高塩阻止率と高水透過性を併せ有する複合逆浸透膜が実現できる。この理由は、膜の表面粗さを大きくすることで、実際に塩等を分離するスキン層の有効面積が増加するため、塩阻止率を維持したままで水透過性を上げることができるからと考えられる。
【0040】
本発明においては、平均面粗さが60nm以上でなければならない。60nm未満の場合は十分な透過流束が得られない。また、自乗平均面粗さは65nm以上が好ましい。65nm未満の場合は十分な透過流束が得られない。さらに好ましくは70nm以上である。
【0041】
また、10点平均面粗さは300nm以上が好ましい。300nm未満の場合は十分な透過流束が得られない。さらに好ましくは305nm以上である。また、最大高低差が400nm以上が好ましい。400nm未満の場合は十分な透過流束が得られない。さらに好ましくは410nm以上である。
【0042】
透過流束と複合逆浸透膜の表面粗さについて密接な関係があることを見い出し本発明をするに至った。本発明で用いられるアミン成分は、2つ以上の反応性のアミノ基を有する多官能アミンであれば特に限定されず、芳香族、脂肪族、または脂環式の多官能アミンが挙げられる。
【0043】
かかる芳香族多官能アミンとしては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、8,5-ジアミノ安息香酸、2,4-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン等が挙げられる。また脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン等が挙げられる。また、脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、4-アミノメチルピペラジン等が挙げられる。これらのアミンは、単独として用いられてもよく、混合物として用いられてもよい。
【0044】
また本発明で用いられる多官能性酸ハロゲン化物は、特に限定されず、芳香族、脂肪族、脂環式等の多官能性酸ハロゲン化物が挙げられる。かかる芳香族多官能性酸ハロゲン化物としては、例えば、トリメシン酸クロライド、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、ビフェニルジカルボン酸クロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸クロライド、ベンゼンジスルホン酸クロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸クロライド等が挙げられる。
【0045】
また脂肪族多官能性酸ハロゲン化物としては、例えば、プロパントリカルボン酸クロライド、ブタントリカルボン酸クロライド、ペンタントリカルボン酸クロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライド等が挙げられる。
【0046】
また脂環式多官能性酸ハロゲン化物としては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸クロライド、シクロブタンテトラカルボン酸クロライド、シクロペンタントリカルボン酸クロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸クロライド、シクロヘキサントリカルボン酸クロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸クロライド、シクロペンタンジカルボン酸クロライド、シクロブタンジカルボン酸クロライド、シクロヘキサンジカルボン酸クロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸クロライド等が挙げられる。
【0047】
本発明においては、前記アミン成分と、上記酸ハライド成分とを、界面重合させることにより、多孔性支持体上に架橋ポリアミドを主成分とする薄膜が形成された複合逆浸透膜が得られる。
【0048】
本発明において上記薄膜を支持する多孔性支持体は、薄膜を支持し得る物であれば特に限定されず、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンのようなポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンなど種々のものを挙げることができるが、特に、化学的、機械的、熱的に安定である点から、ポリスルホン、ポリアリールエーテルスルホンからなる多孔性支持膜が好ましく用いられる。かかる多孔性支持体は、通常、約25〜125μm、好ましくは約40〜75μmの厚みを有するが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0049】
より詳細には、多孔性支持体上に、前記アミン成分を含有する溶液からなる第1の層を形成し、次いで前記酸ハライド成分を含有する溶液からなる層を上記第1の層上に形成し、界面重縮合を行って、架橋ポリアミドからなる薄膜を多孔性支持体上に形成させることによって得ることができる。
【0050】
多官能アミンを含有する溶液は、製膜を容易にし、あるいは得られる複合逆浸透膜の性能を向上させるために、さらに、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等の重合体や、ソルビトール、グリセリン等のような多価アルコールを少量含有させることもできる。
【0051】
また、透過流束を高める為、多官能アミンを含有する溶液または/かつ酸ハライド成分を含有する溶液に、溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物を添加することができる。
【0052】
また、特開平2-187135号公報に記載のアミン塩、例えばテトラアルキルアンモニウムハライドやトリアルキルアミンと有機酸とによる塩等も、製膜を容易にする、アミン溶液の支持体への吸収性を良くする、縮合反応を促進する等の点で好適に用いられる。
【0053】
また、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤を含有させることもできる。これらの界面活性剤は、多官能アミンを含有する溶液の多孔性支持体への濡れ性を改善するのに効果がある。
【0054】
さらに、上記界面での重縮合反応を促進するために、界面反応にて生成するハロゲン化水素を除去し得る水酸化ナトリウムやリン酸三ナトリウムを用い、あるいは触媒として、アシル化触媒等を用いることも有益である。
【0055】
上記酸ハライドを含有する溶液及び多官能アミンを含有する溶液において、酸ハライド及び多官能アミンの濃度は、特に限定されるものではないが、酸ハライドは、通常0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜1重量%であり、多官能アミンは、通常0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%である。
【0056】
このようにして、多孔性支持体上に多官能アミンを含有する溶液を被覆し、次いでその上に多官能酸ハライド化合物を含有する溶液を被覆した後、それぞれ余分の溶液を除去し、次いで、通常約20〜150℃、好ましくは約70〜130℃で、約1〜10分間、好ましくは約2〜8分間加熱乾燥して、架橋ポリアミドからなる水透過性の薄膜を形成させる。この薄膜は、その厚さが、通常約0.05〜2μm、好ましくは約0.10〜1.0μmの範囲にある。
【0057】
また本発明の複合逆浸透膜の製造方法において、特公昭63-36809号公報に記載されているように、次亜塩素酸等による塩素処理を行って塩阻止性能をさらに向上させることもできる。
【0058】
次に前記した本発明の第2番目の複合逆浸透膜によれば、薄膜が2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との反応生成物からなる負荷電性架橋ポリアミド系スキン層であり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上であるとともに、前記スキン層の表面を正荷電性基を有する有機重合体の架橋層で被膜したことにより、低濃度領域での無機塩の脱塩、及びカチオン系有機物の排除に優れ、しかも高水透過性を併せ有する複合逆浸透膜を実現できる。すなわち、本発明者らは、透過流束と、複合逆浸透膜の表面粗さについて密接な関係があることを見い出し、ベース膜の表面粗さを規制することにより、正固定荷電層を設けても十分に高い透過流束が得られることが判り、本発明をするに至った。前記において、スキン層の表面を正荷電性基を有する有機重合体の架橋層で被膜したこと以外は第1番目の発明と同一であるので説明を省略する。本発明においては、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層の表面が、正荷電性基を有する有機重合体の架橋層で被膜されていなければならない。被膜されていると、低濃度無機塩に対しての脱塩や、カチオン系有機物を排除することがさらに効果的に発揮できる。
【0059】
本発明で用いる複合逆浸透膜とは、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層の表面が、正荷電性基を有する有機重合体の架橋層で被覆されたものであればよく、その有機重合体の構造は特に限定されるものではない。
【0060】
しかしながら、本発明においては作業性、加工性などの点から、当該有機重合体自体は溶媒に可溶であることが望ましく、そのため複合逆浸透膜上に被覆後に3次元架橋するものが好ましい。このような有機重合体としては、分子内に正荷電性基と、架橋反応を起こす官能基を持つものであり、それ自体は溶媒に可溶なものが用いられる。例えば一例として、正荷電性基と共に分子内に少なくとも2つの水酸基及び/またはアミノ基を有する重合体(以下重合体Aという)や、正荷電性基と共に分子内に少なくとも2つの水酸基及び/またはアミノ基と2つの保護されたイソシアネート基を有する重合体(以下重合体Bという)などが挙げられる。
【0061】
ここで正荷電性基としては、アンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基などを挙げることができる。また、保護されたイソシアネート基とは、ブロック化剤を用いてブロックされたイソシアネート基、またはアミンイミド基の形で保護されているイソシアネート基をいう。
【0062】
イソシアネート基をブロックするためのブロック化剤は、種々のものが知られており、例えば、フェノール、クレゾールなどのフェノール系、メタノール、エタノール、メチルセロソルブなどのアルコール系、メチルエチルケトオキシム、アセトアルデヒドオキシムなどのオキシム系を挙げることができる。
【0063】
上記重合体Aとしては、例えばメタクリル酸ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドの単独重合体および他の重合体可能なモノマーとの共重合体、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライドとメタクリル酸ヒドロキシエチルとの共重合体、4-ビニルピリジンとメタクリル酸ヒドロキシエチルとの共重合体の4級化物などを挙げることができる。
【0064】
また、上記重合体Bとしては、例えば2-メタクリロイルオキシエチレンイソシアネートを適宜のブロック化剤でブロックしてなるイソシアネート単量体とメタクリル酸ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドとの共重合体、上記ブロック化イソシアネートと4-ビニルピリジンおよびメタクリル酸ヒドロキシエチルとの共重合体の4級化物、1,1-ジメチル-1-(2-ヒドロキシプロピル)アミンメタクリルイミドのようなアミンイミド基を有するビニル単量体とメタクリル酸ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドとの共重合体などを挙げることができる。
【0065】
上記の重合体AおよびBは、いずれも水やアルコールに可溶性である。したがって、本発明において架橋重合体層は、例えば次のような種々の方法によって複合逆浸透膜のスキン層の上に形成することができる。
【0066】
重合体Aを架橋してなる架橋重合体層を形成するには、重合体Aの水溶液またはアルコール溶液を複合逆浸透膜に塗布した後、乾燥し、多官能架橋剤としてのポリイソシアネート化合物を溶解させた溶液を接触させ、必要に応じて加熱して、重合体Aを分子間にて架橋させればよい。
【0067】
また別の方法として、重合体Aの水溶液またはアルコール溶液に前記したようなブロック剤にてブロック化した多官能ポリイソシアネート化合物を加え、得られた溶液を複合逆浸透膜に塗布した後、このブロック化ポリイソシアネートの解離温度以上の温度に加熱し、ポリイソシアネート化合物を遊離させ、重合体Aと架橋反応させてもよい。
【0068】
ここで用いるポリイソシアネート化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、トリレンジイソシアネートやジフェニルメタンジイソシアネート、それらの多量体、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(p-イソシアネートフェニル)チオフォスファイト、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの付加体、トリメチロールプロパンとキシリレンジイソシアネートとの付加体などを挙げることができる。
【0069】
また、前記重合体Bの架橋重合体層を複合逆浸透膜上に形成するには、例えば重合体Bの水またはアルコール溶液を複合逆浸透膜上に塗布し、ブロック化イソシアネートの解離温度以上の温度に加熱し、イソシアネート基を遊離させて、分子間及び/または分子内で架橋させればよい。
【0070】
また、前記したイソシアネート基と水酸基による架橋反応を促進するために、架橋反応に際して、必要に応じて、3級アミンや有機スズ化合物などの触媒を用いることもできる。
【0071】
また上記のように有機重合体が架橋性の官能基を持たなくても、複合逆浸透膜上に正荷電を持つ有機重合体を被覆後電子線を照射したり、あるいは有機重合体溶液中に過酸化物を混入し、複合逆浸透膜上に被覆後加熱するなどの方法によって、有機重合体骨格上にラジカルを生じさせ、3次元架橋させることもできる。
【0072】
本発明において、このようにして形成される架橋重合体層の膜厚は、通常10オングストローム(1nm)乃至10μmの範囲が好ましい。10オングストローム(1nm)よりも薄いときは、得られる複合逆浸透膜を2段式逆浸透システムに用いても塩の除去性能がほとんど改善されず、他方、10μmを超えるときは、得られる膜の透水性能が著しく低下するので好ましくない。
【0073】
前記正荷電性基を有する有機重合体としてポリエチレンイミンを用い、グルタルアルデヒドを架橋剤として用いた場合、下記式(化1)のような反応によりポリエチレンイミン架橋層が形成される。
【0074】
【化1】

【0075】
前記において使用するポリエチレンイミンの好ましい平均分子量は、300以上、さらに好ましくは500以上である。また得られたポリエチレンイミン架橋層の好ましい厚さは1nm〜10μmの範囲である。
【0076】
次に本発明の高透過性複合逆浸透膜を用いた逆浸透処理方法によれば、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層及びそれを支持する微多孔性支持体からなる高透過性複合逆浸透膜が、多段式逆浸透処理の2段目以降の処理段階で用いられ、前記負荷電性架橋ポリアミド系スキン層は、アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上で、かつそのスキン層の表面を正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜されている高透過性複合逆浸透膜を用いることにより、低濃度領域での無機塩の脱塩、及びカチオン系有機物の排除に優れ、しかも高水透過性を併せ有する逆浸透膜処理が実現できる。たとえば、半導体製造における超純水造水ラインの前段における2段式逆浸透処理(RO)の2段目の膜として有用である。
【0077】
前記処理方法において、前記高透過性複合逆浸透膜を使用する以前の段階で、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物を界面重縮合させた負荷電性架橋ポリアミド系スキン層と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜を用いて多段式逆浸透処理を行うという好ましい例によれば、1段目に高脱塩率の負荷電膜を用い、その透過液を1段目とはイオン的に異なる正固定荷電基を有する膜を2段目に用いるため、高い脱塩性能を発現し、高い透過流束を保って超純水を製造できる。
【0078】
また前記処理方法において、前段階で使用する複合逆浸透膜が、スキン層の平均面粗さが60nm以上であるという好ましい例によれば、さらに高い脱塩性能を発現し、高い透過流束を保って超純水を製造できる。
【0079】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0080】
図1は本発明で使用する多段式逆浸透処理プロセスの一例である。図1において、1はたとえば井戸水や工業用水などの原液(原水)の供給ライン、2は前記原液(原水)をためておく原液槽、3は原液槽2と第1送液ポンプ4とを連結する送液ライン、5は第1送液ポンプ4と第1段目の膜モジュール10とを連結する送液ライン、11は第1段目の膜モジュール10の原液室、12は同モジュールの透過液室である。原液(原水)の供給ライン1の前段階では、粗濾過、生物処理などの任意の前処理を行ってもよい。第1段目の膜モジュール10の原液室11と透過液室12との間には逆浸透膜が存在し、第1段目の逆浸透処理が行われる。透過液室12を出た第1段透過液は送液ライン6に送られ、中間受けタンクまたは一定量が滞留できるたとえばパイプヘッダーのような滞留手段7でいったん受け、第2送液ポンプ8を用い、送液ライン9を通過させて、第2段目の膜モジュール20に送液する。第2段目の膜モジュール20の原液室21と透過液室22との間には本発明の逆浸透膜が存在し、第2段目の逆浸透処理が行われる。透過液室22を出た第2段透過液(超純水)は取り出しライン13から取り出される。31は第1段目の膜モジュール10の原液室11の出口に設けた調圧バルブ、32は第2段目の膜モジュール20の原液室21の出口に設けた調圧バルブであり、各バルブ31,32により原液室11,21の操作圧力をそれぞれ調整する。前記多段式逆浸透処理プロセスにおいては、1段目の膜モジュール10の一例として、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物を界面重縮合させた負荷電性架橋ポリアミド系スキン層と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜を用いることが好ましい。また、2段目の膜モジュール20として、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との反応生成物からなる架橋ポリアミド系スキン層と、これを支持する微多孔性支持体とからなり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上で、かつそのスキン層の表面をたとえばポリエチレンイミン等の正荷電性基を有する有機重合体の架橋層で被膜した複合逆浸透膜を用いる。
【0081】
なお、下記の実施例中、前記式(数1)で定義される平均面粗さ(Ra)、前記式(数2)で定義される自乗平均面粗さ(Rms)、前記式(数3)で定義される10点平均面粗さ(Rz)、前記式(数4)で定義される最大高低差(PV)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した値を使って算出した。また、平均面粗さ(Ra)はJIS B0601で定義されている中心線平均粗さRaを、測定面に対して適用できるよう三次元に拡張したもので、基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値である。ここで測定面とは全測定データの示す面をいい、指定面とは粗さ計測の対象となる面で、測定面のうちクリップで指定した特定の部分をいい、基準面とは指定面の高さの平均値をZOとするとき、Z=ZOで表される平面をいう。次に自乗平均面粗さ(Rms)は、断面曲線に対するRmsを、測定面に対して適用できるようRaと同様に三次元に拡張したもので、基準面から指定面までの偏差の自乗を平均した値の平方根である。次に10点平均面粗さ(Rz)は、JIS B0601で定義されているRzを三次元に拡張したもので、指定面における、最高から5番目までの山頂の標高の平均値と最深から5番目までの谷底の標高の平均値の差である。次に最大高低差(PV)は、指定面において、最も高い山頂の標高Zmaxと最も低い谷底の標高Zminの差である。なお、以上の測定方法そのものは良く知られた方法である。
【0082】
(実施例1)
m-フェニレンジアミンを2.0重量%、ラウリル硫酸ナトリウムを0.15重量%、トリエチルアミンを2.0重量%、カンファースルホン酸を4.0重量%、イソプロピルアルコール20重量%を含有した水溶液を、多孔性ポリスルホン支持膜に接触させて、余分の溶液を除去して支持膜上に上記溶液の層を形成した。
【0083】
次いで、かかる支持膜の表面に、トリメシン酸クロライドを0.15重量%含むヘキサン溶液を接触させ、その後120℃の熱風乾燥機の中で3分間保持して、支持膜上に重合体薄膜を形成させ、複合逆浸透膜を得た。
【0084】
得られた複合逆浸透膜を水洗し、乾燥後、AFMにて複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の表面粗さを測定したところ、前記式(数1)で定義される平均面粗さ(Ra)は87.1nm、前記式(数2)で定義される自乗平均面粗さ(Rms)は105nm、前記式(数3)で定義される10点平均面粗さ(Rz)は433nm、前記式(数4)で定義される最大高低差(PV)は555nmであった。
【0085】
また、得られた複合逆浸透膜の性能は、1500ppmの塩化ナトリウムを含むpH6.5の食塩水を、15kgf/cm2の圧力で評価したところ、透過液電導度による塩阻止率は99.7%、透過流束は1.7m3/(m2・日)であった。
【0086】
(実施例2、比較例1〜2)
実施例1において、イソプロピルアルコールの濃度を変える以外は、実施例1と同様にして複合逆浸透膜を得た。その結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
(実施例3)
m-フェニレンジアミン3.0重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15重量%、トリエチルアミン3.0重量%、カンファースルホン酸6.0重量%、イソプロピルアルコール10重量%を含有した水溶液を、微多孔性ポリスルホン支持膜に接触させて、余分の溶液Aを除去して支持膜上に上記溶液の層を形成した。
【0089】
次いで、かかる支持膜の表面に、トリメシン酸クロライド0.20重量%を含むヘキサン溶液を接触させ、その後120℃の熱風乾燥機の中で3分間保持して、支持膜上に重合体薄膜を形成させ、複合逆浸透膜を得た。
【0090】
得られた複合逆浸透膜の一部を水洗し、乾燥後、AFMにて複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の表面粗さを測定したところ、Raは76.8nm、Rmsは93nm、Rzは324nm、PVは555nmであった。これは溶液Aにイソプロピルアルコールを添加したことにより、界面重縮合反応の際に逆浸透膜の表面形状が変化したものである。イソプロピルアルコール以外であっても溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物を界面重縮合反応の際に存在させると、同様に逆浸透膜の表面形状が変化することを本発明者らは確認している。
【0091】
次にポリエチレンイミン1重量%を供給純水中に添加し、逆浸透処理した後、系内を水洗し、供給純水中にグルタルアルデヒドを1重量%を添加し、処理を行いポリエチレンイミンを架橋させて、正固定荷電性を有する複合逆浸透膜を得た(複合逆浸透膜A)。
【0092】
次にm-フェニレンジアミン2.0重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.25重量%、トリエチルアミン2.0重量%、カンファースルホン酸4.0重量%を含有した水溶液を、微多孔性ポリスルホン支持膜に数秒間接触させて、余分の溶液を除去して支持膜上に上記溶液の層を形成した。
【0093】
次いで、かかる支持膜の表面に、トリメシン酸クロライド0.10重量%、イソフタル酸クロライド0.15重量%を含むヘキサン溶液を接触させ、その後120℃の熱風乾燥機の中で3分間保持して、支持膜上に重合体薄膜を形成させ、複合逆浸透膜を得た(複合逆浸透膜B)。得られた複合逆浸透膜Bの表面粗さは、Raは51nm、Rmsは62nm、Rzは296nm、PVは345nmであり、これは従来の逆浸透膜と同等の表面形状のものであった。
【0094】
次に図1に示したプロセスを用いて、1段目に複合逆浸透膜Bを用い、2段目に複合逆浸透膜Aを用い、電導度100μs/cm,pH6.5の井戸水を原液として、30kgf/cm2の操作圧力で複合逆浸透膜Bを透過した液を供給液とし、操作圧力15kgf/cm2で複合逆浸透膜Aの膜性能を測定したところ、比抵抗値は9.9MΩ・cm、透過流束は1.3m3/(m2・日)であった。また、その状態のまま、1000時間内の連続通水テストを行ったところ、1000時間目での比抵抗値は9.9MΩ・cm、透過流束は1.4m3/(m2・日)と性能低下は認められなかった。
【0095】
(比較例3)
複合逆浸透膜B(従来の逆浸透膜と同等の表面形状のもの)をベースとして、実施例3と同様に正荷電性を有する複合逆浸透膜Cを得た。実施例3と同様、複合逆浸透膜Bを前段とし複合逆浸透膜Cを後段として使用したところ、その膜性能は、比抵抗値は9.0MΩ・cm、透過流束は0.7m3/(m2・日)であった。実施例3に比較して透過流束は低いとともに、比抵抗値も低かった。
【0096】
(比較例4)
実施例3において、グリタルアルデヒドで処理しなかった以外は実施例3と同様にして膜性能を測定したところ、比抵抗値は9.8MΩ・cm、透過流束は1.3m3/(m2・日)であった。また、1000時間目での比抵抗は5.2MΩ・cm、透過流束は1.5m3/(m2・日)と性能が低下した。
【0097】
以上の様に、本発明で得られた複合逆浸透膜は、多段式逆浸透膜システムなどでの低濃度領域での無機塩の脱塩及びカチオン系有機物の排除に優れ、かつ高透過性及び耐久性を併せ有していることが確認できた。
【0098】
(参考例1)
メチルエチルケトキシム29gをベンゼン50gに溶解し、この溶液に25℃の温度で2-メタクロイルオキシエチレンイソシアネート51.6gを約40分を要して滴下し、さらに45℃で2時間攪拌した。得られた反応生成物をプロトンNMRにて分析して、2-メタクロイルオキシエチレンイソシアネートにほぼ定量的にメチルエチルケトキシムが付加しているブロック化物であることを確認した。
【0099】
(参考例2)
メタクリル酸ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド16gと参考例1で得たブロック化イソシアネート化合物8gとをメタノール60gに溶解させ、これにアゾビスイソブチロニトリル0.4gを加え、窒素ガス雰囲気下に60℃で6時間攪拌して、4級アンモニウム基を有する共重合体を得た。
【0100】
(実施例4)
m-フェニレンジアミン3.0重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15重量%、トリエチルアミン3.0重量%、カンファースルホン酸6.0重量%、イソプロピルアルコール10重量%を含有した水溶液を溶液Aとして、微多孔性ポリスルホン支持膜に接触させて、余分の溶液Aを除去して支持膜上に上記溶液Aの層を形成した。
【0101】
次いで、かかる支持膜の表面に、トリメシン酸クロライド0.20重量%を含むヘキサン溶液を溶液Bとして調整し、溶液Aと接触させ、その後120℃の熱風乾燥機の中で3分間保持して、支持膜上に重合体薄膜を形成させ、複合逆浸透膜を得た。
【0102】
得られた複合逆浸透膜の一部を水洗し、乾燥後、AFMにて複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の表面粗さを測定したところ、Raは76.8nm、Rmsは93nm、Rzは324nm、PVは555nmであった。これは溶液Aにイソプロピルアルコールを添加したことにより、界面重縮合反応の際に逆浸透膜の表面形状が変化したものである。イソプロピルアルコール以外であっても溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物を界面重縮合反応の際に存在させると、同様に逆浸透膜の表面形状が変化することを本発明者らは確認している。
【0103】
参考例2で得た共重合体1gを水に溶解させ、1重量%水溶液を作製した。これに架橋触媒として1,4-アザビシクロ(2,2,2)オクタン0.005gを加えた。このようにして得られた溶液を、上記の複合逆浸透膜上に塗布し、150℃で10分間加熱し、共重合体を架橋させて正荷電性を有する複合逆浸透膜を得た(複合逆浸透膜C)。
【0104】
次にm-フェニレンジアミン2.0重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.25重量%、トリエチルアミン2.0重量%、カンファースルホン酸4.0重量%を含有した水溶液を溶液Aとして、微多孔性ポリスルホン支持膜に数秒間接触させて、余分の溶液Aを除去して支持膜上に上記溶液Aの層を形成した。
【0105】
次いで、かかる支持膜の表面に、トリメシン酸クロライド0.10重量%、イソフタル酸クロライド0.15重量%を含むヘキサン溶液を溶液Bとして調整し、溶液Aと接触させ、その後120℃の熱風乾燥機の中で3分間保持して、支持膜上に重合体薄膜を形成させ、複合逆浸透膜を得た(複合逆浸透膜D)。得られた複合逆浸透膜Dの表面粗さは、Raは51nm、Rmsは62nm、Rzは296nm、PVは345nmであり、これは従来の逆浸透膜と同等の表面形状のものであった。
【0106】
次に図1に示したプロセスを用いて、1段目に複合逆浸透膜Dを用い、2段目に複合逆浸透膜Cを用い、電導度100μs/cm,pH6.5の井戸水を原液として、30kgf/cm2の操作圧力で複合逆浸透膜Dを透過した液を供給液とし、操作圧力15kgf/cm2で複合逆浸透膜Cの膜性能を測定したところ、比抵抗値は9.4MΩ・cm、透過流束は1.6m3/(m2・日)であった。
【0107】
(比較例5)
複合逆浸透膜D(従来の逆浸透膜と同等の表面形状のもの)をベースとして、実施例4と同様に正荷電性を有する複合逆浸透膜Eを得た。実施例3と同様、複合逆浸透膜Dを前段とし複合逆浸透膜Eを後段として使用したところ、その膜性能は、比抵抗値は7.7MΩ・cm、透過流束は0.9m3/(m2・日)であった。実施例1に比較して透過流束は低いとともに、比抵抗値も低かった。
【0108】
以上の様に、本発明で得られた複合逆浸透膜は、多段式逆浸透膜システムなどでの低濃度領域での無機塩の脱塩及びカチオン系有機物の排除に優れ、かつ高透過性を併せ有していることが確認できた。
【0109】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明の第1番目の複合逆浸透膜は、高塩阻止率と高透過性を併せ有し、比較的低圧で実用性のある脱塩を可能にする複合逆浸透膜を提供し、例えば、かん水、海水等の脱塩による淡水化や、半導体の製造に必要とされる超純水の製造や排水の汚物源、有効物質の除去回収や食品用途等での有効成分の濃縮等に好適に用いることができる。
【0110】
また本発明の第2番目の複合逆浸透膜によれば、薄膜が2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との反応生成物からなる負荷電性架橋ポリアミド系スキン層であり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上であるとともに、前記スキン層の表面を正荷電性基を有する有機重合体の架橋層で被膜したことにより、低濃度領域での無機塩の脱塩、及びカチオン系有機物の排除に優れ、しかも高水透過性を併せ有する複合逆浸透膜を提供できる。
【0111】
また、本発明の製造方法によれば、前記の複合逆浸透膜を効率よく合理的に製造できる。また本発明の高透過性複合逆浸透膜を用いた逆浸透処理方法によれば、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層及びそれを支持する微多孔性支持体からなる高透過性複合逆浸透膜が、多段式逆浸透処理の2段目以降の処理段階で用いられ、前記負荷電性架橋ポリアミド系スキン層は2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物と2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能酸ハロゲン化合物の反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上で、かつそのスキン層の表面を正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜されている高透過性複合逆浸透膜を用いることにより、低濃度領域での無機塩の脱塩、及びカチオン系有機物の排除に優れ、しかも高水透過性を併せ有する逆浸透膜処理が実現できる。たとえば、半導体製造における超純水造水ラインの前段における2段式逆浸透処理(RO)の2段目の膜として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で使用する多段式逆浸透処理プロセスの一例である。
【符号の説明】
1 原液(原水)供給ライン
2 原液槽
・ 送液ライン
4 第1送液ポンプ
7 滞留手段
8 第2送液ポンプ
10 第1段目の膜モジュール
11 第1段目の膜モジュールの原液室
12 第1段目のモジュールの透過液室
13 超純水取り出しライン
20 第1段目の膜モジュール
21 第2段目のモジュールの原液室
22 第2段目のモジュールの透過液室
31,32 調圧バルブ
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.特許第3023300号の明細書中特許請求の範囲の請求項1「2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との反応生成物からなるポリアミド系スキン層薄膜と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さが55nm以上であることを特徴とする高透過性複合逆浸透膜。」とあるのを、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として「アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなるポリアミド系スキン層薄膜と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さが60nm以上であることを特徴とする高透過性複合逆浸透膜。」と訂正する。
2.特許第3023300号の明細書中特許請求の範囲の請求項12「2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物を有する」(第2頁3欄12〜13行)とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)を有する」と訂正するとともに、「から選ばれるアルコール化合物群、アニソール、エチルイソアミルエーテル・・・・ジメチルスルホキシド及びチオランから選ばれる含硫黄化合物群」(特許公報第2頁3欄29行〜4欄13行)を削除する。
3.特許第3023300号の明細書中特許請求の範囲の請求項13及び請求項14を、特許請求の範囲の減縮を目的として削除し、以下、請求項15以降の各項数を2繰り上げる。
4.特許第3023300号の明細書中特許請求の範囲請求項16の「複数の逆浸透膜を用いて液体を逆浸透処理する方法であって、負荷電荷性架橋ポリアミド系スキン層及びそれを支持する微多孔性支持体からなる高透過性複合逆浸透膜が、多段式逆浸透処理の2段目以降の処理段階で用いられ、前記負荷電荷性架橋ポリアミド系スキン層は2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物と2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能酸ハロゲン化合物の反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが55nm以上で、かつそのスキン層の表面を正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜されている高透過性複合逆浸透膜を用いることを特徴とする逆浸透処理方法」とあるのを、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明及び誤記の訂正を目的として「複数の逆浸透膜を用いて液体を逆浸透処理する方法であって、負荷電性架橋ポリアミド系スキン層及びそれを支持する微多孔性支持体からなる高透過性複合逆浸透膜が、多段式逆浸透処理の2段目以降の処理段階で用いられ、前記負荷電性架橋ポリアミド系スキン層は、アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメータが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上で、かつそのスキン層の表面が正固定荷電基を有する有機重合体の架橋層で被膜されている高透過性複合逆浸透膜を用いることを特徴とする逆浸透処理方法」と訂正する。
5.特許第3023300号の明細書中特許請求の範囲請求項17の「請求項16に記載の」とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として「請求項14に記載の」と訂正する。
6.特許第3023300号の明細書中特許請求の範囲請求項18の「平均粗面粗さが55nm以上である請求項16に記載の」とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として「平均粗面粗さが60nm以上である請求項14に記載の」と訂正する。
7.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中、段落【0006】「【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明の第1番目の高透過性複合逆浸透膜は、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との反応生成物からなるポリアミド系スキン層薄膜と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さが55nm以上であることを特徴とする。前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さは10,000nm以下であることが好ましく、とくに好ましくは1,000nm以下である。」(特許公報第3頁6欄18〜28行)とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として「【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明の第1番目の高透過性複合逆浸透膜は、アルコール類から選ばれる少なくとも一の溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなるポリアミド系スキン層薄膜と、これを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さが60nm以上であることを特徴とする。前記複合逆浸透膜表面のポリアミド系スキン層の平均面粗さは10,000nm以下であることが好ましく、とくに好ましくは1,000nm以下である。」と訂正する。
8.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中、段落【0010】における「次に本発明の第2番目の高透過性複合逆浸透膜は、薄膜とこれを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記薄膜が2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との反応生成物からなる負荷電荷性架橋ポリアミド系スキン層であり、前記スキン層の平均面粗さが55nm以上であるとともに、前記スキン層の表面を正荷電性基を有する有機重合体の架橋層で被膜したことを特徴とする」(特許公報第4頁7欄3行)とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として「次に本発明の第2番目の高透過性複合逆浸透膜は、薄膜とこれを支持する微多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜において、前記薄膜が、アルコールから選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメータが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなる負荷電性架橋ポリアミド系スキン層であり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上であるとともに、前記スキン層の表面を正荷電性基を有する有機重合体の架橋層で被膜したことを特徴とする」と訂正する。
9.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中、段落【0028】に「2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物を有する」(第5頁9欄24〜25行)とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として「2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)を有する」と訂正するとともに、「から選ばれるアルコール化合物、アニソール、エチルイソアミルエーテル・・・・・ジメチルスルホキシド及びチオランから選ばれる含硫黄化合物群」(第5頁9欄40行〜10欄22行)を削除する。
10.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中、段落【0029】を、明りょうでない記載の釈明を目的として削除する。
11.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中、段落【0031】における「負荷電荷性架橋ポリアミド系スキン層及びそれを支持する微多孔性支持体からなる高透過性複合逆浸透膜が、多段式逆浸透処理の2段目以降の処理段階で用いられ、前記負荷電荷性架橋ポリアミド系スキン層は2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物と2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能酸ハロゲン化合物の反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが55nm以上で、かつそのスキン層の表面を」(特許公報第5頁10欄41〜46行)とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として「負荷電性架橋ポリアミド系スキン層及びそれを支持する微多孔性支持体からなる高透過性複合逆浸透膜が、多段式逆浸透処理の2段目以降の処理段階で用いられ、前記負荷電性架橋ポリアミド系スキン層は、アルコール類から選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上で、かつそのスキン層の表面が」と訂正する。
12.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中、段落【0033】における「55nm」(特許公報第6頁11欄8行)を、明りょうでない記載の釈明を目的として「60nm」と訂正する。
13.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中、段落【0034】に「【発明の実施の形態】前記した本発明の複合逆浸透膜は、たとえば2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との界面重縮合反応時に、溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物、例えばアルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、ハロゲン化炭化水素類、及び含硫黄化合物類などから選ばれる少なくとも一つの化合物の存在させることにより製造することができる。」(特許公報第6頁11欄11〜28行)とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として「【発明の実施の形態】前記した本発明の複合逆浸透膜は、たとえば2つ以上の反応性のアミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性の酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物との界面重縮合反応時に、溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物、例えばアルコール類から選ばれる少なくとも一つの化合物を存在させることにより製造することができる。」と訂正する。
14.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中段落【0035】(特許公報第6頁11欄29〜49行)を、明りょうでない記載の釈明を目的として削除する。
15.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中段落【0036】(特許公報第6頁11欄50行〜12欄4行)を、明りょうでない記載の釈明を目的として削除する。
16.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中段落【0037】(特許公報第6頁12欄5〜11行)を、明りょうでない記載の釈明を目的として削除する。
17.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中、段落【0038】の「また含硫黄化合物類としては例えば、ジメチルスルホキシド、チオランが挙げられる。これらの中でも特にアルコール類、エーテル類が好ましい。」(第6頁12欄12〜14行)を、明りょうでない記載の釈明を目的として削除する。
18.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中、段落【0039】【0058】【0078】【0080】【0110】【0111】における「55nm」(特許公報第6頁12欄23行、第8頁15欄6行、第9頁18欄32行、第10頁19欄26行、第12頁24欄36行、50行の6箇所)を、明りょうでない記載の釈明を目的として「60nm」と訂正する。
19.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中、段落【0040】に「本発明においては、平均面粗さが55nm以上でなければならない。55nm未満の場合は十分な透過流束が得られない。好ましくは60nm以上である。また、自乗平均面粗さは65nm以上が好ましい。65nm未満の場合は十分な透過流束が得られない。さらに好ましくは70nm以上である。」(特許公報第6頁12欄29〜34行)とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として「本発明においては、平均面粗さが60nm以上でなければならない。60nm未満の場合は十分な透過流束が得られない。また、自乗平均面粗さは65nm以上が好ましい。65nm未満の場合は十分な透過流束が得られない。さらに好ましくは70nm以上である。」と訂正する。
20.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中、段落【0058】【0110】【0111】における「負荷電荷性」(特許公報第8頁15欄5行、第12頁24欄34行、44行、47行の4箇所)を、「負荷電性」と訂正する。
21.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中、段落【0076】における「負荷電荷性架橋ポリアミド系スキン層及び」(特許公報第9頁17欄31〜32行)、「前記荷電性架橋ポリアミド系スキン層は2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物と2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物の反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが55nm以上で」(特許公報第9頁17欄34〜38行)とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として「負荷電性架橋ポリアミド系スキン層及び」、「前記負荷電性架橋ポリアミド系スキン層は、アルコールから選ばれる少なくとも一つの溶解度パラメータが8〜14(cal/cm3)1/2の化合物の存在下で、2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物(但し、芳香環上に塩素置換基を含む化合物を除く)と、2つ以上の反応性酸ハライド基を有する多官能性酸ハロゲン化合物とを反応させた反応生成物からなり、前記スキン層の平均面粗さが60nm以上で」と訂正する。
22.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中、段落【0086】における「実施例2〜4」(特許公報第10頁20欄37行)を、明りょうでない記載の釈明を目的として「実施例2」と訂正する。
23.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中【表1】(特許公報第11頁)における実施例3に関する欄を、明りょうでない記載の釈明を目的として削除する。
24.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明における「実施例5」を「実施例3」に、また「実施例6」を「実施例4」に、それぞれ明りょうでない記載の釈明を目的として訂正する。


25.特許第3023300号の明細書中発明の詳細な説明中段落【0091】における「グリタルアルデヒド」(特許公報第11頁21欄35行)を、誤記の訂正を目的として「グルタルアルデヒド」と訂正する。
異議決定日 2002-09-02 
出願番号 特願平7-330268
審決分類 P 1 651・ 534- YA (B01D)
P 1 651・ 113- YA (B01D)
P 1 651・ 531- YA (B01D)
P 1 651・ 121- YA (B01D)
P 1 651・ 112- YA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 杉江 渉  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 唐戸 光雄
岡田 和加子
登録日 2000-01-14 
登録番号 特許第3023300号(P3023300)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 高透過性複合逆浸透膜とその製造方法及び逆浸透処理方法  
代理人 佐藤 公博  
代理人 谷川 英次郎  
代理人 三枝 英二  
代理人 池内 寛幸  
代理人 佐藤 公博  
代理人 池内 寛幸  

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