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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 5項3号及び6項 請求の範囲の記載形式不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1068916
異議申立番号 異議2000-70975  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-09-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-06 
確定日 2002-09-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2946015号「安定な抗ウィルス点滴用注射剤」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2946015号の請求項1〜3に係る特許を維持する。 
理由 理 由
1.手続の経緯
本件特許第2946015号発明は、平成6年3月10日の出願であって、平成11年7月2日にその特許権の設定登録がなされ、その後、大橋直人より特許異議の申し立てがなされ、当審により取り消し理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年11月6日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
(i)訂正事項1
特許請求の範囲における請求項1の
「【請求項1】9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と安定化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。」を、
「【請求項1】0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、キレート剤およびそれらのアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化しうる安定化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。」と訂正する。
(ii)訂正事項2
特許請求の範囲における請求頃2の
「【請求項2】9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。」を、
「【請求項2】0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、亜硫酸塩、オキシカルボン酸およびオキシカルボン酸のアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルの酸化を防止し得る抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。」と訂正する。
(iii)訂正事項3
特許請求の範囲における請求項3の
「【請求項3】9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と安定化剤および抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。」を、
「【請求項3】0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、キレート剤およびそれらのアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化しうる安定化剤、および、亜硫酸塩、オキシカルボン酸およびオキシカルボン酸のアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルの酸化を防止し得る抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。」と訂正する。
(iv)訂正事項4
特許請求の範囲における請求項4を削除する。
(v)訂正事項5
特許請求の範囲における請求項5を削除する。
(vi)訂正事項6
特許請求の範囲における請求項6を削除する。
(vii)訂正事項7
特許明細書の段落【0008】の記載である
「上記目的を達成するために本発明が採用した安定な抗ウィルス点滴用注射剤の構成は、9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と安定化剤および/または抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とするものである。」を
「上記目的を達成するために本発明が採用した安定な抗ウィルス点滴用注射剤の構成は、0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、キレート剤およびそれらのアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化し得る安定化剤および/または亜硫酸塩、オキシカルボン酸およびオキシカルボン酸のアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルの酸化を防止し得る抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とするものである。」に訂正する。
(viii)訂正事項8
特許明細書の段落【0019】の記載である
「安定化剤である芳香族カルボン酸としては、安息香酸もしくはそのアルカリ金属塩等が好ましく、脂肪族カルボン酸としては、好ましくはC6〜12の脂肪族カルボン酸もしくはそのアルカリ金属塩、特に好ましくはカプリル酸ナトリウム、オキシカルボン酸としては、サリチル酸、クエン酸もしくはそれらのアルカリ金属塩等が好ましく、キレート剤としては、好ましくはポリアミノカルボン酸類、特に好ましくは、エチレンジアミン四酢酸およびその金属塩である。」を
「pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化し得る安定化剤である芳香族カルボン酸としては、安息香酸もしくはそのアルカリ金属塩等が好ましく、脂肪族カルボン酸としては、好ましくはC6〜12の脂肪族カルボン酸もしくはそのアルカリ金属塩、特に好ましくはカプリル酸ナトリウム、オキシカルボン酸としては、サリチル酸、クエン酸もしくはそれらのアルカリ金属塩等が好ましく、キレート剤としては、好ましくはポリアミノカルボン酸類、特に好ましくは、エチレンジアミン四酢酸およびその金属塩である。」に訂正する。
(ix)訂正事項9
特許明細書の段落【0021】の記載である
「抗酸化剤である亜硫酸塩としては、好ましくは亜硫酸水素塩、特に好ましくは亜硫酸水素ナトリウム、オキシカルボン酸またはそのアルカリ金属塩としては、好ましくは塩基性酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはクエン酸ナトリウムである。」を
「pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルの酸化を防止し得る抗酸化剤である亜硫酸塩としては、好ましくは亜硫酸水素塩、特に好ましくは亜硫酸水素ナトリウム、オキシカルボン酸またはそのアルカリ金属塩としては、好ましくは塩基性酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはクエン酸ナトリウムである。」と訂正する。
イ.訂正の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記の訂正事項(i)〜(vi)は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正事項(vii)〜(ix)は上記訂正事項(i)〜(iv)に付随して生じる記載の不備を解消するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、上記の訂正事項は、特許明細書に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
ウ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
ア.本件発明
特許第2946015号の請求項1〜3に係る発明は、訂正明細書の請求項1〜3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、キレート剤およびそれらのアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化しうる安定化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。
【請求項2】0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、亜硫酸塩、オキシカルボン酸およびオキシカルボン酸のアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルの酸化を防止し得る抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。
【請求項3】0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、キレート剤およびそれらのアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化しうる安定化剤、および、亜硫酸塩、オキシカルボン酸およびオキシカルボン酸のアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルの酸化を防止し得る抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。」
イ.申立の理由の概要
特許異議申立人大橋直人(以下、「申立人」という。)は、証拠として甲第1号証(Journal of Clinical Pharmacy and Therapeutics(1989)14, 451-456)、甲第2号証(点滴静注用ゾビラックス(登録商標)のインタビューフォーム)、甲第3号証(American Journal of Hospital Pharmacy 1987;44;1408-9)、甲第4号証(Handbook on Injectable Drugs, 7th edition, 1992年発行)、甲第5号証(Journal of Pharmaceutical Sciences, 75(7), 648-653, 1986)、甲第6号証(特開昭57-188515号公報)及び甲第7号証(医薬品添加物事典、(株)薬事日報社、1994年発行)を提出し、訂正前の本件請求項1、4〜6に係る発明は、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができず(主張1)、また、訂正前の本件請求項1〜6に係る発明は、甲第1号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し(主張2)、さらに本件請求項1〜4に係る発明の特許は、その明細書が特許法第36条第5項及び第6項の規定に適合していない出願に対してなされたものである(主張3)から、特許を取り消すべき旨主張する。
ウ.申立人が提出した甲号証記載の発明
甲第1号証は、デキストロース及び塩化ナトリウムを含む注射液中のアシクロビルナトリウムの安定性に関する文献であり、第451頁の「INTRODUCTION」の欄には、アシクロビルがヘルペスウィルスに対して活性を有する抗ウィルス薬であることが記載され、同頁の「MATERIALS and METHODS」の欄には、使用したアシクロビル粉末が、Burroughs Wellcome社のものであることが記載され、第452頁の「Preparation of acyclovir solutions for stability studies.」の項には、5.0mg/mlのアシクロビルナトリウム溶液を用いて、5%デキストロース(ブドウ糖に同じ)及び0.9%塩化ナトリウムを含む注射剤を調製し、このものは二分してプラスチックの袋に25℃及び5℃にて保存したことが記載され、さらに第455頁の[Table 1.」には、25℃及び5℃のいずれにおいても、37日経過後にアシクロビルナトリウムの薬効の損失はなく、またpHは当初から10であることが記載されている。
甲第2号証には、抗ウィルス点滴用注射剤であるゾビラックス(登録商標)が記載され、その第4頁の、「19 溶液として使用する製剤の溶解後の安定性」の項には、アシクロビル250mgを5%ブドウ糖注射液100mlに溶解した場合、溶解後24時間も変化しなかったことが記載され、同頁の、「20 溶液製剤のpH及び安定なpH域」の項には、本剤1バイアルを日局生理食塩液100mlに溶解したときのpHが約10.4であると記載され、同頁の、「21 製剤の配合変化」の項には、「pH等の変化により配合変化が起こりやすいので、他剤との混注は可能な限り避ける」と記載され、第12頁の、「8)本剤投与に当っての注意(続き)」の項の(2)には、「補液によっては白濁あるいは結晶が析出する場合があるのでそのような場合には使用しないこと。希釈溶液を含め、調製溶液の冷却は結晶の析出をまねきやすいので、冷却しないこと」と記載されている。
甲第3号証は、アシクロビルナトリウムと他の静注用薬剤との併用可能性に関する文献であり、その第1408頁左欄の冒頭には、アシクロビルがヘルペスウィルスに対して活性を有する抗ウィルス薬であることが記載され、同欄の、「Methods」の項には、「acyclovir sodiuma」と記載され、添字の「a」についてBurroughs Wellcome社のものであることが記載され、同頁右欄の第12〜14行には、25℃で露光して実験を行ったことが記載され、同頁右欄第18〜20行には、5mg/mlのアシクロビルナトリウム1mlと、試験薬溶液1mlとを混合したことが記載され(したがってアシクロビルナトリウムの濃度は2.5mg/mlということになる)、同欄の、「Results.」の項には、ドプタミン又はドーパミンとの組み合わせ以外については、くもり、凝集、色変化、ガス発生が認められなかったと記載され、第1409頁の「Table 1」には、静注用試験薬としてヘパリンナトリウム、硫酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウムが記載されている。
甲第4号証には、その第1頁の[Products」の項に、Burroughs Wellcome社のアシクロビルナトリウムを溶解するのに、パラベンまたはベンジルアルコールを含む注射用水を用いてはならないことが記載され、また同項には、アシクロビルナトリウムの溶液(500mgまたは1gのアシクロビルナトリウムに10mlまたは20mlの滅菌された注射用水を加えて溶解したもの)がpH10.5〜11.6であることが記載され、第7頁の「Additional Compatibility Information」の項には、凝集のおそれがあるので、アシクロビルに対してパラベンを含有する静菌水(bacteriostatic water)を用いてはならないことが記載され、また、アシクロビルナトリウムの点滴注射溶液(infusion solutions)として、5%デキストロース、0.9%塩化ナトリウム、両者の組み合わせ、乳酸リンゲル液(リンゲル液に乳酸ナトリウムを加えたもの)が推奨され、これらの点滴注射溶液で希釈後は室温で保存することができ、それらは24時間以内に使用するように記載されている。
甲第5号証は、アシクロビルの水溶性複合体を開示するものであり、pH7でアシクロビルはニコチン酸アミドと複合体を形成し、この複合体が6.0mMの溶解性を有することが記載されている。(第649頁のTable I、第651頁のTable III)
甲第6号証には、メタ亜硫酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、システイン酸、リンゴ酸、マレイン酸、リン酸、塩酸がドパミン類の水溶液の安定化剤として機能することが記載され、また、一般に医薬製剤の安定化剤として使用されうる化合物であっても、ドパミン類の水溶液において安定化作用を示さないことがあることが記載されている。(第3頁、第1表の比較例)
甲第7号証には、本件明細書の実施例1〜4、甲第1〜6号証に記載の化合物が安定化剤または抗酸化剤としての用途を有していることが記載されている。
エ.判断
(主張1について)
訂正前の本件請求項1は、上記訂正により「安定化剤」が「芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、キレート剤およびそれらのアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化しうる安定化剤」に限定された結果、甲第1及び2号証に記載のブドウ糖、甲第3号証に記載のヘパリンナトリウム、硫酸マグネシウム及び炭酸水素ナトリウムはいずれも本件請求項1に係る発明において用いられる安定化剤には含まれないものである。(なお、ヘパリンナトリウムは、ムコ多糖類の一種であるヘパリンのナトリウム塩であり、通常も、本件明細書においても、「オキシカルボン酸」には包含されない。)
また、甲第4号証には、アシクロビルナトリウムの希釈液の一種として乳酸リンゲル液も使用可能であることが記載されている。この乳酸リンゲル液は訂正後の請求項1に係る発明における「オキシカルボン酸のアルカリ金属塩」に包含される乳酸ナトリウムを含有するものであるが、乳酸リンゲル液は、乳酸ナトリウムのほかに塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどをも含有するものであり、ここに記載されているアシクロビルナトリウムの注射液は、そのまま直接点滴するものであって、これをさらに、例えば点滴をしている輸液などの瓶内に注入し、間接的に生体に投与するものではなく、たかだか24時間以内に使用するものであって、長期間保存を意図しないものである。一方、訂正後の請求項1に係る「安定な抗ウィルス点滴用注射剤」とは、「例えば点滴をしている輸液などの瓶内に注入し、間接的に生体に投与するもの」(特許明細書の段落【0014】)であって、例えば25℃、6ヶ月といった長期間の保存を意図するものであるから、両者は別異のものであり、甲第4号証には、訂正後の請求項1に係る発明は記載されていない。
また、訂正前の請求項4〜6は上記訂正により削除された。
したがって、申立人の主張1は妥当でない。
(主張2について)
訂正後の請求項1〜3に係る発明における「安定な点滴用注射剤」とは、上記したように、「生体に直接投与する剤ではなく、例えば点滴をしている輸液などの瓶内に注入し、間接的に生体に投与するもの」(特許明細書の段落【0014】)であって、たとえば25℃、6ヶ月間あるいは40℃、6ヶ月という長期間の保存に耐えるものであり、それまで溶液の状態では、熱及び酸に不安定で、短時間に結晶が析出してくるため、溶液状態では長期保存が困難であったアシクロビルを、特定の安定化剤および/または抗酸化剤と組み合わせることにより溶液状態で安定化されたアシクロビルの点適用注射剤である。
訂正後の請求項1〜3に係る「安定な点滴用注射剤」と、甲第1〜2号証に記載された発明とを対比すると、両者は、特定の濃度でアシクロビルを含有する水溶液からなる点滴用注射剤である点で一致するが、前者は特定の安定化剤および/または抗酸化剤を含有するpH10〜13のアシクロビルが安定化された塩基性水溶液であるのに対して、後者は上記のように水溶液中では不安定なアシクロビル(ナトリウム)の粉末を、点滴用注射液に通常用いられる溶解液または希釈液である5%デキストロース(=ブドウ糖)水溶液または0.9%塩化ナトリウム水溶液に溶解した水溶液である点で相違する。
そこで、この相違点について検討する。
申立人は、ブドウ糖は、甲第7号証により医薬品の安定化剤として知られているのであるから、ブドウ糖に代えて、同じく甲第7号証に医薬品の安定化剤として知られ、あるいは抗酸化剤として知られている甲第1〜6号証に記載の化合物をアシクロビルの安定化を目的として組み合わせて用いることは当業者が容易に想到しうるものである、と主張する。
しかしながら、甲1および2号証にアシクロビルナトリウムを溶解するものとして記載された0.5%デキストロース水溶液は、単に粉末状でバイアルに封入されているアシクロビルナトリウムを点滴注射するために溶解するためのものであり、得られる水溶液を長期保存することを意図したものでないことは、それが、0.9%塩化ナトリウム水溶液、注射用蒸留水などと同列に記載されていることから明らかであり、これら甲号証の記載から、ことさらブドウ糖に代えて、甲第7号証に安定化剤、抗酸化剤として記載された甲第3〜6号証に記載された化合物、すなわちヘパリン(甲第3号証)、乳酸ナトリウム(甲第4号証)、ニコチンアミド(甲第5号証)、クエン酸、酒石酸など(甲第6号証)あるいは甲第7号証に安定化剤、抗酸化剤として記載された化合物を用いることは、当業者が容易に想到し得ないものである。
申立人は、実施例と、安定化剤および/または抗酸化剤を含まない比較例とを対比すると、その効果が予測し得ない顕著なものではないとも主張するが、特許明細書の実施例と比較例とを対比すれば、その25℃、あるいは40℃での6ヶ月保存後のアシクロビルの残存率を比較すれば顕著な差異があることは明らかであり、その結果本件請求項1〜3に係る点滴用注射剤は、溶解する必要のない水溶液状態で保存することを可能にするという顕著な効果を奏するものである。
したがって、請求項1〜3に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をし得なかったものであり、請求人の主張2も妥当でない。
(主張3について)
申立人は、本件発明は「特定の」安定化剤及び抗酸化剤を選択、決定したことに特徴があるのであり、それらを何等特定していない訂正前の請求項1〜4は、発明の構成に不可欠な事項のみを記載したものではない、と主張するが、上記訂正により、請求項1〜3は特定の安定化剤および/または抗酸化剤に限定されたので、請求人の主張3ももはや妥当でない。
オ.むすび
したがって、本件特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことができない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
安定な抗ウィルス点滴用注射剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、キレート剤およびそれらのアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化し得る安定化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。
【請求項2】 0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、亜硫酸塩、オキシカルボン酸およびオキシカルボン酸のアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルの酸化を防止し得る抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。
【請求項3】 0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、キレート剤およびそれらのアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化し得る安定化剤、および、亜硫酸塩、オキシカルボン酸およびオキシカルボン酸のアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルの酸化を防止し得る抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、安定性に優れた新規な抗ウィルス点滴用注射剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(以下、アシクロビルという)は、単純ヘルペスウィルスおよび水痘・帯状疱疹ウィルスに起因する感染症、即ち免疫機能の低下した患者(悪性腫瘍・自己免疫疾患等)に発症した単純疱疹・水痘・帯状疱疹、脳炎・髄膜炎の治療剤として有効な薬物である。
【0003】
しかしながら、アシクロビルは、水に溶けにくく、結晶自体は比較的安定であるにも拘らず、溶液の状態では、熱および酸に不安定である。さらに短時間に結晶が析出してくるため、長期保存も困難である、という欠点が知られている。
【0004】
この対策として、バイアル(無色、ガラス製)中で、アシクロビルおよび緩衝剤等の溶液を、真空凍結乾燥し、窒素ガスでバイアル中の空気を置換後、密栓をして製品とし、使用直前に適当な溶解剤を加えて注射剤として利用する方法、薬効に影響を及ぼさない範囲で、アシクロビルの構造の一部を変えて可溶性誘導体、例えばモノホスフェート体に変えて液剤(眼科用溶液、注射溶液)とする方法(特開昭53-108999)等が知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前述の真空凍結乾燥する方法は優れた方法であり、また、製品として保存可能である。しかし、真空凍結乾燥するための装置や設備が必要であり、さらに、アシクロビルの溶液を製し、凍結乾燥させるため、工程上時間も要することから多大の費用を必要とする。また、使用する際には、事前に溶解剤を添加する必要がある。誘導体化する方法もまた優れた方法ではあるが、前者同様、装置や設備等で多大の費用を必要とする。これらのことより、溶解操作なしのアシクロビルを用いた抗ウィルス注射剤が実用上望まれる。
【0006】
そこで、本発明者らは、水溶液の状態で長期にわたり安定でしかも、結晶析出がおこらない注射剤の製法について鋭意研究を重ねた。通常注射剤の作製時に用いられる種々の溶解剤、例えば水酸化ナトリウム、プロピレングリコール等、また、抗酸化剤、例えばアスコルビン酸等を常用量から常用量の数倍まで漸次増量して注射剤を製したが、一般的な保存条件(4、25および40℃)において含量低下が認められるもの、大量に結晶が析出するもの、着色がみられるもの等、商品性を著しく損なう注射剤が大半であり、依然問題は解決されなかった。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の難点を解消し、安定性に優れた新規な抗ウィルス点滴用注射剤を提供することを目的としてなされた。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明が採用した安定な抗ウィルス点滴用注射剤の構成は、0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、キレート剤およびそれらのアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化し得る安定化剤および/または亜硫酸塩、オキシカルボン酸おいびオキシカルボン酸のアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルの酸化を防止し得る抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とするものである。
【0009】
即ち、本発明者が研究を鋭意続行したところ、意外にも、第三物質を添加することによって、可溶性錯塩、会合体または可溶性塩を生成させて溶解させる方法が有効であることがわかった。さらなる研究の結果、特定の安定化剤または抗酸化剤を常用量添加した点滴用注射剤を製したところ、一般的な保存条件において6カ月後でも含量低下、結晶析出および着色が認められず、さらに、両方を添加した点滴用注射剤においては、100℃、30時間の苛酷な条件の下でも結果の向上が確認できた。
【0010】
また、この注射剤のpHについて観察すると、pH9以下で明かにアシクロビル結晶が大量に析出するが、上記注射剤を特定のpHに調節することにより注射剤の安定性が格段に向上するという新知見が得られた。
【0011】
本発明は、これらの新知見に基づき完成されたもので、アシクロビルを真空凍結乾燥する方法および可溶性誘導体に変える方法とは全く異なり、安定化剤および抗酸化剤のうちの少なくとも一方とアシクロビルをアルカリ水溶液に溶解し、特定のpHに調節することによって得られる安定な抗ウィルス点滴用注射剤である。
【0012】
さらに、本発明によればアシクロビルを真空凍結乾燥および誘導体化する工程が不要であることから、そのための装置や設備も不要である。また、使用に際しても、真空凍結乾燥品のように、溶解剤、例えば蒸留水、生理食塩水等を添加して溶解する必要もなく、取扱いが容易である。
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明は上記の通り抗ウィルス点滴用注射剤に関するものであり、これは生体に直接投与する剤ではなく、例えば点滴をしている輸液等の瓶内に注入し、間接的に生体に投与するためのものである。
【0015】
本発明の抗ウィルス点滴用注射剤における主剤は、式
【化1】

で表される9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン、すなわち、アシクロビルである。
【0016】
本発明の抗ウィルス点滴用注射剤におけるアシクロビルの濃度としては、0.1〜10%W/V、好ましくは0.1〜5%W/V、特に好ましくは0.1〜2.5%W/Vである。
【0017】
本発明の抗ウィルス点滴用注射剤は、上記アシクロビルに加え、安定化剤および抗酸化剤のうちの少なくとも一方を含有する。
【0018】
安定化剤とは、一般に医薬品は製剤化されると不安定になり、変質するものが多く、製剤を保存する際、自然に起こる化学変化や状態の変化、変質を防ぐために加える物質をいう。
【0019】
pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化し得る安定化剤である芳香族カルボン酸としては、安息香酸もしくはそのアルカリ金属塩等が好ましく、脂肪族カルボン酸としては、好ましくはC6〜12の脂肪族カルボン酸もしくはそのアルカリ金属塩、特に好ましくはカプリル酸ナトリウム、オキシカルボン酸としては、サリチル酸、クエン酸もしくはそれらのアルカリ金属塩等が好ましく、キレート剤としては、好ましくはポリアミノカルボン酸類、特に好ましくは、エチレンジアミン四酢酸およびその金属塩である。
【0020】
抗酸化剤とは、光や熱等の条件下における酸素の作用(自動酸化)を防止または抑制する性質を持つ物質をいう。
【0021】
pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルの酸化を防止し得る抗酸化剤である亜硫酸塩としては、好ましくは亜硫酸水素塩、特に好ましくは亜硫酸水素ナトリウム、オキシカルボン酸またはそのアルカリ金属塩としては、好ましくは塩基性酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはクエン酸ナトリウムである。
【0022】
なお、本発明における安定化剤および抗酸化剤の添加量としては、すでに述べたように常用量で良いが、いずれも例えば0.1%W/V以上であることが好ましい。
【0023】
また、本発明の抗ウィルス点滴用注射剤のpHは、10〜13の範囲にある必要があり、pHをこの範囲とすることにより安定な抗ウィルス点滴用注射剤とすることができる。尚、特に好ましいpHは、11〜12である。
【0024】
上記のように構成される本発明の抗ウィルス点滴用注射剤は、アシクロビルの塩基性水溶液において、上記安定化剤および抗酸化剤のうちの少なくとも一方を添加し、塩基性水溶液のpHを10〜13に調節し、常法により点滴用注射剤とすることにより製造し得る。
【0025】
【作用】
本発明の抗ウィルス点滴用注射剤におけるアシクロビルの分解および結晶化がどのようにして防止されるのかは必ずしも明確ではないが、特定のpHで第三物質を添加することにより、可溶性錯塩もしくは会合体を生成、または複分解により可溶性塩を形成し、これが安定化に寄与していることは推測できる。本発明によって得られた注射剤は、温度および光に対する安定性に優れている。
【0026】
【実施例】
以下実施例をあげて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
安定性試験としては、冷蔵庫内保存を想定した4℃および日常温度における保存を想定した25℃について最長6カ月間、試験を行った。また、夏場の保存を想定した40℃、6カ月間の保存試験も行い、医薬品として要求される安定性を確認した。さらに参考までに、通常では想定し難い苛酷な条件下での安定性を観察するため、100℃、30時間での熱に対する苛酷試験を、直射日光、30時間の光に対する苛酷試験をあわせて行った。
【0028】
実施例1

【0029】
安息香酸ナトリウム30mgを0.5N水酸化ナトリウム水溶液2.5mlに溶解した後、アシクロビル250mgを加えて溶解した。この液に、0.5N塩酸水溶液を少量ずつ加えて、pHを11.0に調節し、蒸留水を加えて10mlとした。この液を孔径約0.4μmのメンブランフィルターを用いてろ過し、ろ液を10mlアンプル(無色、ガラス製)に入れ、窒素ガスでアンプル中の空気を置換後、熔閉して、注射剤を製した。
【0030】
作製直後のアシクロビル含量を100%とした各種安定性試験の結果を表1に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
作製した注射剤は、微黄色澄明の液で、4、25および40℃の各条件下で6カ月間保存しても、いずれも性状の変化、含量低下は認められず、後述する比較用注射剤と比して著しく優れたものであった。また参考までに行った苛酷試験においては、100℃、30時間で着色および若干の含量低下(4.2%)が認められたものの、製品価値を著しく損なうものではなかった。
【0033】
実施例2


【0034】
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム10mgを0.5N水酸化ナトリウム水溶液2.5mlに溶解した後、アシクロビル250mgを加えて溶解した。この液に、0.5N塩酸水溶液を少量ずつ加えて、pHを11.0に調節し、蒸留水を加えて10mlとした。この液を孔径約0.4μmのメンブランフィルターを用いてろ過し、ろ液を10mlアンプル(無色、ガラス製)に入れ、窒素ガスでアンプル中の空気を置換後、熔閉して、注射剤を製した。
【0035】
作製直後のアシクロビル含量を100%とした各種安定性試験の結果を表2に示した。
【0036】
【表2】

【0037】
作製した注射剤は、微黄色澄明の液で、4、25および40℃の各条件下で6カ月間保存しても、いずれも性状の変化、含量低下は認められず、比較用注射剤と比して著しく優れたものであった。また参考までに行った苛酷試験においては、100℃、30時間で着色および若干の含量低下(4.9%)が認められたものの、製品価値を著しく損なうものではなかった。
【0038】
実施例3


【0039】
クエン酸ナトリウム10mgを0.5N水酸化ナトリウム水溶液2.5mlに溶解した後、アシクロビル250mgを加えて溶解した。この液に、1.0N塩酸水溶液を少量ずつ加えて、pHを11.0に調節し、蒸留水を加えて10mlとした。この液を孔径約0.4μmのメンブランフィルターを用いてろ過し、ろ液を10mlアンプル(無色、ガラス製)に入れ、窒素ガスでアンプル中の空気を置換後、熔閉して、注射剤を製した。
【0040】
作製直後のアシクロビル含量を100%とした各種安定性試験の結果を表3に示した。
【0041】
【表3】

【0042】
作製した注射剤は、微黄色澄明の液で、4、25および40℃の各条件下で6カ月間保存しても、いずれも性状の変化、含量低下は認められず、比較用注射剤と比して著しく優れたものであった。また参考までに行った苛酷試験においては、100℃、30時間で着色および若干の含量低下(4.8%)が認められたものの、製品価値を著しく損なうものではなかった。
【0043】
実施例4

【0044】
亜硫酸水素ナトリウム50mgを0.5N水酸化ナトリウム水溶液2.5mlに溶解した後、アシクロビル250mgを加えて溶解した。この液に、0.5N塩酸水溶液または0.5N水酸化ナトリウム水溶液を少量ずつ加えて、pHを11.0に調節し、蒸留水を加えて10mlとした。この液を孔径約0.4μmのメンブランフィルターを用いてろ過し、ろ液を10mlアンプル(無色、ガラス製)に入れ、窒素ガスでアンプル中の空気を置換後、熔閉して、注射剤を製した。
【0045】
作製直後のアシクロビル含量を100%とした各種安定性試験の結果を表4に示した。
【0046】
【表4】

【0047】
作製した注射剤は、無色澄明の液で、4、25および40℃の各条件下で6カ月間保存しても、いずれも性状の変化、含量低下は認められず、比較用注射剤と比して著しく優れたものであった。また参考までに行った苛酷試験においては、100℃、30時間で若干の含量低下(4.3%)が認められたものの、製品価値を著しく損なうものではなかった。
【0048】
実施例5


【0049】
エチレンジアミン四酢酸10mgおよび亜硫酸水素ナトリウム10mgを0.5N水酸化ナトリウム水溶液2.5mlに溶解した後、アシクロビル250mgを加えて溶解した。この液に、0.5N塩酸水溶液または0.5N水酸化ナトリウム水溶液を少量ずつ加えて、pHを11.0に調節し、蒸留水を加えて10mlとした。この液を孔径約0.4μmのメンブランフィルターを用いてろ過し、ろ液を10mlアンプル(無色、ガラス製)に入れ、窒素ガスでアンプル中の空気を置換後、熔閉して、注射剤を製した。
【0050】
作製直後のアシクロビル含量を100%とした各種安定性試験の結果を表5に示した。
【0051】
【表5】

【0052】
作製した注射剤は、無色澄明の液で、4、25および40℃の各条件下で6カ月間保存しても、いずれも性状の変化、含量低下は認められず、比較用注射剤と比して著しく優れたものであった。また参考までに行った苛酷試験においても、性状の変化、含量低下は認められなかった。
【0053】
比較例


【0054】
アシクロビル250mgを0.5N水酸化ナトリウム水溶液2.5mlに溶解した後、0.5N塩酸水溶液を少量ずつ加えて、pHを11.5(11.0ではアシクロビル不溶)に調節し、蒸留水を加えて10mlとした。この液を孔径約0.4μmのメンブランフィルターを用いてろ過し、ろ液を10mlアンプル(無色、ガラス製)に入れ、窒素ガスでアンプル中の空気を置換後、熔閉して、比較用注射剤を製した。
【0055】
この比較用注射剤では、液のpHが11.0(後の実施例では全てpH11.0)ではアシクロビルは完全には溶解せず、懸濁液状になった。この為、注射剤のpHを11.5とし、完全に溶解したものを比較用注射剤とした。
【0056】
作製した注射剤は、微黄色澄明の液で、安定化剤および抗酸化剤が添加されていないため、4、25および40℃において結晶の析出や着色が認められ、製品としての品質が保持できないものであった。また、100℃、30時間の苛酷試験においては、アシクロビルの含量低下(約20%)も認められた。
【0057】
【表6】

【0058】
実施例1〜5および比較例の結果より、安定化剤もしくは抗酸化剤のいずれか一方を用いた注射剤においては、一般的な保存条件下で長期安定が確認でき、製品としての価値が十分期待できるものであった。
【0059】
また、安定化剤および抗酸化剤の両方とも添加した注射剤においては、いずれか一方しか添加しない注射剤と比して、一般的な保存条件下における安定性は変わらないが、苛酷な条件下(苛酷試験)においては、残存率の向上が認められた。
【0060】
以上より、本発明は、比較用注射剤よりも明らかにアシクロビルの含量低下および結晶化を抑制し、さらに注射剤を製するための特別な装置や設備等も不要であるため、通常の製剤方法により低コストで、かつ作業上の煩雑さもなく比較的容易に抗ウィルス点滴用注射剤を製することができた。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(i)訂正事項1
特許請求の範囲における請求項1の
「【請求項1】9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と安定化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。」を、
「 【請求項1】0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、キレート剤およびそれらのアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化しうる安定化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。」と訂正する。
(ii)訂正事項2
特許請求の範囲における請求頃2の
「【請求項2】9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。」を、
「【請求項2】0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、亜硫酸塩、オキシカルボン酸およびオキシカルボン酸のアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルの酸化を防止し得る抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。」と訂正する。
(iii)訂正事項3
特許請求の範囲における請求項3の
「【請求項3】9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と安定化剤および抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。」を、
「【請求項3】0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、キレート剤およびそれらのアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化しうる安定化剤、および、亜硫酸塩、オキシカルボン酸およびオキシカルボン酸のアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルの酸化を防止し得る抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とする安定な抗ウィルス点滴用注射剤。」と訂正する。
(iv)訂正事項4
特許請求の範囲における請求項4を削除する。
(v)訂正事項5
特許請求の範囲における請求項5を削除する。
(vi)訂正事項6
特許請求の範囲における請求項6を削除する。
(vii)訂正事項7
特許明細書の段落【0008】の記載である
「上記目的を達成するために本発明が採用した安定な抗ウィルス点滴用注射剤の構成は、9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と安定化剤および/または抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とするものである。」を
「上記目的を達成するために本発明が採用した安定な抗ウィルス点滴用注射剤の構成は、0.1〜10%W/Vの濃度の9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニン(アシクロビル)と、芳香族カルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、キレート剤およびそれらのアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化し得る安定化剤および/または亜硫酸塩、オキシカルボン酸およびオキシカルボン酸のアルカリ金属塩より選ばれる1種、または2種以上の混合物であって、pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルの酸化を防止し得る抗酸化剤とを、pHが10〜13の塩基性水溶液中に含有することを特徴とするものである。」に訂正する。
(viii)訂正事項8
特許明細書の段落【0019】の記載である
「安定化剤である芳香族カルボン酸としては、安息香酸もしくはそのアルカリ金属塩等が好ましく、脂肪族カルボン酸としては、好ましくはC6〜12の脂肪族カルボン酸もしくはそのアルカリ金属塩、特に好ましくはカプリル酸ナトリウム、オキシカルボン酸としては、サリチル酸、クエン酸もしくはそれらのアルカリ金属塩等が好ましく、キレート剤としては、好ましくはポリアミノカルボン酸類、特に好ましくは、エチレンジアミン四酢酸およびその金属塩である。」を
「pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルを安定化し得る安定化剤である芳香族カルボン酸としては、安息香酸もしくはそのアルカリ金属塩等が好ましく、脂肪族カルボン酸としては、好ましくはC6〜12の脂肪族カルボン酸もしくはそのアルカリ金属塩、特に好ましくはカプリル酸ナトリウム、オキシカルボン酸としては、サリチル酸、クエン酸もしくはそれらのアルカリ金属塩等が好ましく、キレート剤としては、好ましくはポリアミノカルボン酸類、特に好ましくは、エチレンジアミン四酢酸およびその金属塩である。」に訂正する。
(ix)訂正事項9
特許明細書の段落【0021】の記載である
「抗酸化剤である亜硫酸塩としては、好ましくは亜硫酸水素塩、特に好ましくは亜硫酸水素ナトリウム、オキシカルボン酸またはそのアルカリ金属塩としては、好ましくは塩基性酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはクエン酸ナトリウムである。」を
「pHが10〜13の塩基性水溶液中において前記アシクロビルの酸化を防止し得る抗酸化剤である亜硫酸塩としては、好ましくは亜硫酸水素塩、特に好ましくは亜硫酸水素ナトリウム、オキシカルボン酸またはそのアルカリ金属塩としては、好ましくは塩基性酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはクエン酸ナトリウムである。」と訂正する。
異議決定日 2002-09-04 
出願番号 特願平6-67892
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A61K)
P 1 651・ 113- YA (A61K)
P 1 651・ 535- YA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 小柳 正之
深津 弘
登録日 1999-07-02 
登録番号 特許第2946015号(P2946015)
権利者 小林化工株式会社
発明の名称 安定な抗ウィルス点滴用注射剤  
代理人 小林 雅人  
代理人 小林 雅人  

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