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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1068964
異議申立番号 異議2001-72729  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-11-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-10-03 
確定日 2002-11-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第3153098号「潤滑性、化成処理性、接着剤適合性、溶接性に優れた亜鉛系めっき鋼板」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3153098号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.本件発明
特許第3153098号の請求項1に係る発明についての出願は、平成7年4月28日に特許出願され、平成13年1月26日に特許の設定登録がなされたもので、その特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりである。
「【請求項1】 めっき層表面にZnO系酸化物を生成し、その表面にMn-Zn-OH-PO4酸化物のアモルファス被膜を、Mn量として0.1〜100mg/m2及びP量として1〜100mg/m2、P/Mn比を0.3〜50として生成したことを特徴とする潤滑性、化成処理性、接着剤適合性、溶接性に優れた亜鉛系めっき鋼板。」

II.異議申立理由の概要
異議申立人川崎製鉄株式会社は、証拠として甲第1号証(特開平3-249182号公報)、甲第2号証(特開平4-21751号公報)、甲第3号証(特開平3-20477号公報)、及び参考資料(特許第3132979号公報)を提出して、請求項1に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1に係る発明の特許を取り消すべき旨主張している。

III.甲第1号証〜甲第3号証、及び参考資料の記載事項
1.甲第1号証:特開平3-249182号公報
(1a)「【請求項1】亜鉛系めっき鋼板表面にMn酸化物を5〜500mg/m2(Mnとして)、リン酸1000mg/m2以下(Pとして)及びその他酸化物からなるMn系酸化物皮膜を被覆したプレス成形性、化成処理性に優れた亜鉛系めっき鋼板。」(請求項1)
(1b)〔従来の技術〕欄には、「亜鉛めっき鋼板のプレス性を向上させる方法として、・・・めっき鋼板表面に電解クロメート処理を施しCr2O3の酸化物皮膜を生成せしめる方法や、・・・鉄亜鉛合金めっきを施す方法等の亜鉛系めっき鋼板上に硬い皮膜を形成し、・・・プレスの潤滑性の向上をはかることが開示されている。又・・・めっき鋼板の表面に有機潤滑皮膜や潤滑油等の有機物を塗布、または被覆しプレス性を向上させることが開示されている。」(第1頁左下欄第15〜右下欄8行)、
〔発明が解決しようとする課題〕欄には、「電解クロメート処理鋼板の場合は、化成処理工程で化成処理皮膜が形成せず、また潤滑油や潤滑皮膜などを塗布した鋼板の場合は、洗浄工程で油が落ちるので十分な潤滑性能を発揮しない。・・・鉄-亜鉛合金フラッシュめっきを施したものは電解クロメート処理に比較して鋼板のコストが高くなる等の問題点がある。
本発明はかかる現状に鑑みて、低コストで、化成処理が可能で、脱脂等の工程に負荷をかけずに製造し得るプレス成形性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供することを目的とする。」(第1頁右下欄第9〜第2頁左上欄8行)
(1c)「Mn系酸化物皮膜の構造は明確ではないが、Mn-O結合及びP-O結合からなるネットワ一クが主体で、部分的に-OH、CO3基等が、さらにはめっきから供給される金属が置換したアモルファス状の巨大分子構造であろうと推定している。」(第2頁右下欄第19〜第3頁左上欄3行)
(1d)実施例の酸化物皮膜生成条件として、「過マンガン酸カリウム:50g/l、リン酸:10g/l、硫酸3g/l、炭酸亜鉛:5g/lの溶液30℃で被処理鋼板を陰極として、Pt電極を陽極にし7A/dm2 で1.5秒電解を行った後、水洗、乾燥し、又、過マンガン酸カリウム、リン酸、硫酸、炭酸亜鉛の濃度及び溶液の温度、浸漬時間を調整して生成した。」(第3頁左下欄第5〜14行)
(1e)実施例1〜5、10〜14には、酸化物皮膜におけるMn量が7〜54mg/m2(Mn量)であり、P量が4〜70mg/m2(P量)であり、P/Mn比を算出すると、0.44〜2.19となる亜鉛系めっき鋼板(第3頁右下欄第1表)、が記載されている。

2.甲第2号証:特開平4-21751号公報
(2a)「【請求項1】めっき層中にAlを0.05〜5.0重量%含有する溶融亜鉛系めっき鋼板を製造する際に、めっき鋼板の表面を、Zn金属に対して酸化力のある酸化剤を濃度0.1〜10重量%含有しかつpHが11以上で液温が40℃以上のアルカリ溶液に接触させることを特徴とするスポット溶接性、化成性及びプレス加工時の摺動性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。」(請求項1)
(2b)実施例には溶接条件として、「加圧力:250kgf、初期加圧時間:40Hz、通電時間:12Hz、保持時間:5Hz、溶接電流:11kA、チップ先端径:5.0φ、電極材質:Cu-Cr合金、連続打点数:4√tのナゲット径を確保できる打点数、t=板厚」(第3頁右下欄第13〜第4頁左上欄2行)、連続打点性として、Zn金属の酸化物被膜を持つ本発明例が連続打点数>6000点の溶接性に優れていること(第4頁第1表)、が記載されている。

3.甲第3号証:特開平3-20477号公報
「【請求項1】鋼板の少なくとも片面に亜鉛系めっきを施した亜鉛系めっき鋼板の該めっき面を、PHが0〜4でかつ過マンガン酸カリを0.1〜10重量%含有する水溶液に接触させることを特徴とするスポット溶接性に優れた亜鉛系めっき鋼板の製造方法。」(請求項1)

4.参考資料:特許第3132979号公報(出願;平成7年4月28日、特許権者;新日本製鐵株式会社)
「めっき層表面にMn-Zn-OH-PO4酸化物を、Mn量として0.1〜100mg/m2及びP量として1〜100mg/m2、P/Mn比を0.3〜50として生成したことを特徴とする潤滑性、化成処理性、接着剤適合性に優れた亜鉛系めっき鋼板。」(請求項1)

IV.当審の判断
1.本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という)は、従来の亜鉛系めっき鋼板にMn-Pの非結晶質無機系酸化物を生成すると、プレス性、化成処理性は向上するが、自動車、家電等で溶接の省略あるいは補強に使用されている接着剤の接着強度を低下させる等の課題があり、これを解決するため潤滑性、化成処理性、接着剤適合性に優れた亜鉛系めっき鋼板を提供することを目的とし、めっき層表面にZnO系酸化物を生成し、その表面にMn-Zn-OH-PO4酸化物のアモルファス被膜を、Mn量として0.1〜100mg/m2及びP量として1〜100mg/m2、P/Mn比を0.3〜50として生成した亜鉛系めっき鋼板であることを特徴とするものである(本件明細書【0002】、【0003】参照)。
これに対して、甲第1号証には、プレス成形性、化成処理性に優れた亜鉛系めっき鋼板として、めっき鋼板表面にMn酸化物を5〜500mg/m2(Mnとして)、リン酸1000mg/m2以下(Pとして)及びその他酸化物からなるMn系酸化物皮膜を被覆したこと(上記摘記事項(1a))、Mn系酸化物皮膜の構造として、明確ではないが、Mn-O結合及びP-O結合からなるネットワ一クが主体で、部分的に-OH基等が、さらにはめっきから供給される金属が置換したアモルファス状の巨大分子構造であろうこと(上記摘記事項(1c))、更に、実施例には、酸化物皮膜におけるMn量が7〜54mg/m2であり、P量が4〜70mg/m2であり、P/Mn比を算出すると、0.44〜2.19となること(上記摘記事項(1e))、が記載されている。
しかしながら、本件発明が主目的とする接着剤適合性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供すると言う技術課題、及びめっき層表面にZnO系酸化物を生成し、その表面にMn-Zn-OH-PO4酸化物のアモルファス被膜を生成することについては記載されていない。
次に、甲第2号証には、スポット溶接性、化成性及びプレス加工時の摺動性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法として、めっき鋼板の表面に特定条件でのアルカリ溶液を接触させ、Zn系酸化物被膜を生成すること、甲第3号証には、スポット溶接性に優れた亜鉛系めっき鋼板の製造方法として、めっき面をPHが0〜4でかつ過マンガン酸カリを0.1〜10重量%含有する水溶液に接触させ、Zn系酸化物被膜を生成すること、は記載されている。
しかしながら、両者とも本件発明が主目的とする接着剤適合性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供すると言う技術課題、及びめっき層表面のZnO系酸化物上に、Mn-Zn-OH-PO4酸化物のアモルファス被膜を、Mn量として0.1〜100mg/m2及びP量として1〜100mg/m2、P/Mn比を0.3〜50として生成することについては記載されていない。
以上のとおり、甲第1号証〜甲第3号証のいずれにも、本件発明の接着剤適合性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供すると言う技術課題についての記載はなく、甲第1号証の記載では、プレス成形性、化成処理性に優れた亜鉛系めっき鋼板を提供するために、亜鉛系めっき鋼板表面にMn-Zn-OH-PO4酸化物のアモルファス被膜を生成するもので、亜鉛系めっき鋼板表面にZnO系酸化物を生成させること、即ち、アモルファス被膜の下地として、ZnO系酸化物を生成させることを何ら示唆していない。また、甲第2号証、甲第3号証の記載では、スポット溶接性、化成性及びプレス加工時の摺動性に優れた亜鉛系めっき鋼板を提供するために、亜鉛系めっき鋼板表面にZnO系酸化物を生成させるもので、ZnO系酸化物表面上に、更に酸化物のアモルファス被膜を生成することを何ら示唆していない。
そうすると、本件発明の接着剤適合性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供すると言う技術課題が示唆されておらず、問題認識もない甲号各証において甲第1号証と甲第2号証又は甲第3号証の記載を組み合わせる動機付けがなく、当業者が容易に本件発明を想到し得るものではない。
そして、本件発明は、上記した構成により明細書に記載された、亜鉛系めっき鋼板の潤滑性、化成処理性の向上とともに、接着剤適合性も向上することができ亜鉛系めっき鋼板の適用範囲を拡大することができ、また、化成処理液の汚染がなく、プレス-接着-化成処理の一連の工程において生産性向上のみならず、化成処理液の劣化もなく、しかも排水処理の低減によるコスト軽減ができる等優れた効果が得られるという、甲第1号証〜甲第3号証の記載からは予測することができない格別な効果を奏しているものである。
よって、本件発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは云えない。

2.異議申立人は、甲第1号証には、実施例1〜14としてMn系酸化物皮膜のMn量、P量が記載され、P/Mn比を計算すれば、本件発明の範囲内であるから、甲第1号証の記載は当然に接着剤適合性に優れているものであり、更に参考資料を提示し本件発明の効果が格別でない旨主張している。
しかしながら、甲第1号証の記載は、既に上記で検討したとおり、亜鉛系めっき鋼板の表面にMn-Zn-OH-PO4酸化物のアモルファス被膜を生成したものではあるが、この亜鉛系めっき鋼板は、めっき層表面にZnO系酸化物を生成しておらず層構成が、本件発明とは異なるものである。
そうすると、いくら実施例においてMn-Zn-OH-PO4酸化物のアモルファス被膜のP/Mn比が、本件発明で特定する範囲内の値であるからと言っても、通常、めっき層表面にZnO系酸化物を生成し、その表面にMn-Zn-OH-PO4酸化物のアモルファス被膜を生成した亜鉛系めっき鋼板と、めっき層表面にMn-Zn-OH-PO4酸化物のアモルファス被膜を生成した亜鉛系めっき鋼板とが、全く同じ表面特性を示すとも云えず、また、このことを裏付ける証拠もないから、甲第1号証記載の亜鉛系めっき鋼板が、当然に本件発明と同程度の接着剤適合性を有しているものとまでは云えない。
また、参考資料は、本件特許権者の本件特許と同日の出願に係る特許公報であって、そこでの実施例の記載において、本件発明の実施例の記載とめっき板、無機酸化物、不純物元素、性能評価でのプレス性、化成処理性について同じ記載がある。しかし、本件発明と参考資料記載の亜鉛系めっき鋼板とは、本件発明ではZnO酸化物を生成しており、溶接性をも評価している点で異なるのであるから、参考資料の記載をもってして、本件発明の効果が格別なものでないことが根拠ずけられるものではない。
よって、異議申立人の上記主張は採用することはできない。

V.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-10-23 
出願番号 特願平7-106117
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C23C)
最終処分 維持  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 市川 裕司
池田 正人
登録日 2001-01-26 
登録番号 特許第3153098号(P3153098)
権利者 新日本製鐵株式会社
発明の名称 潤滑性、化成処理性、接着剤適合性、溶接性に優れた亜鉛系めっき鋼板  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 綿貫 達雄  
代理人 名嶋 明郎  
代理人 三和 晴子  
代理人 山本 文夫  

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