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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C03B
管理番号 1069853
審判番号 不服2000-6669  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-02-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-05-08 
確定日 2003-01-08 
事件の表示 平成10年特許願第244405号「ガラス母材の延伸方法および延伸装置」拒絶査定に対する審判事件〔平成12年 2月29日出願公開、特開2000- 63135、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.本願の手続の経緯及び本願発明
本願は、平成10年8月14日に特許出願されたものであって、その請求項1乃至8に係る発明(以下、「本願発明1」乃至「本願発明8」という)は、明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】ガラス母材をヒーターにより加熱して延伸するガラス母材の延伸方法において、前記ヒーターの表面負荷密度を10W/cm2以上50W/cm2以下として、ガラス母材を加熱して延伸することを特徴とするガラス母材の延伸方法。
【請求項2】前記ヒーターのガラス母材軸方向の長さを20cm以下とすることを特徴とする請求項1に記載のガラス母材の延伸方法。
【請求項3】前記ヒーターの表面積を1600cm2以下とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガラス母材の延伸方法。
【請求項4】少なくともガラス母材を加熱して延伸するためのヒーターを具備するガラス母材の延伸装置において、前記ヒーターの表面負荷密度が10W/cm2以上50W/cm2以下であることを特徴とするガラス母材の延伸装置。
【請求項5】前記ヒーターのガラス母材軸方向の長さが20cm以下であることを特徴とする請求項4に記載のガラス母材の延伸装置。
【請求項6】前記ヒーターの表面積が1600cm2以下であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のガラス母材の延伸装置。
【請求項7】前記ヒーターが複数段配設されていることを特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載のガラス母材の延伸装置。
【請求項8】前記ヒーターがカーボンヒーターであることを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載のガラス母材の延伸装置。
2.原査定の理由
原査定の理由の概要は、本願発明1〜8は、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1(特開平4-305034号公報、以下「引用例1」という)、引用文献2(特開平8-12364号公報、以下「引用例2」という)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
3.引用例等の記載内容
引用例1、2には、それぞれ次の事項が記載されている。
(1)引用例1(特開平4-305034号公報)
(a)「【請求項1】カーボンヒータによって光ファイバ母材を加熱溶融してその部分から光ファイバを線引きする光ファイバの線引き方法において、前記カーボンヒータはその高温発熱部の電流密度を700A/cm2以下にして前記光ファイバ母材の加熱を行うことを特徴とする光ファイバの線引き方法。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(b)「本発明の目的は、光ファイバの強度低下を防止でき、且つカーボンヒータの長寿命化を図ることができる光ファイバの線引き方法を提供することにある。」(段落【0007】)
(c)「【作用】このようにカーボンヒータの高温発熱部の電流密度を700A/cm2以下にすると、該カーボンヒータの昇華を抑制できる。このため、SiC微粉の発生を抑制し、光ファイバの強度低下を防止でき、且つヒータ寿命の低下を防止できる。」(段落【0009】)
(d)「電流密度ΦはI(A)/A(cm2)である。」(第2頁第2欄右欄25〜26行、段落【0010】)
(2)引用例2(特開平8-12364号公報)
(a)「【請求項1】加熱しながら光ファイバ母材を延伸する際、加熱炉内に挿入された光ファイバ母材の表面に生ずるクリストバライト結晶の成長を抑えながら延伸することを特徴とする光ファイバ母材の延伸方法。
【請求項2】加熱しながら光ファイバ母材を延伸する際、加熱炉内に挿入された光ファイバ母材の表面温度が、1400〜1700℃である時間が1時間以内に納まるようにして延伸することを特徴とする光ファイバ母材の延伸方法。」(特許請求の範囲)
(b)「【発明が解決しようとする課題】ところが、・・・上記光ファイバ母材Mbの場合、その表面状態をよく観察すると、多数の小さな白い粒状の領域が存在することが判った。この粒状の領域部分は・・・結晶化した領域と考えられた。この結晶化領域部分が・・・一種の傷として作用し、上記気泡が発生するのではないかとの推論を得た。」(段落【0005】)
(c)「【実施例】炉芯管径=120mm、炉芯管長さ=600mm、加熱ヒータ出力=30KWの加熱炉において、・・・総時間が1時間以内に納まっている。」(段落【0014】)
(d)「【発明の効果】このように本発明によれば、光ファイバ母材の延伸にあたって、加熱温度と当該温度領域に晒される加熱時間の両条件を最適に設定するものであるため、クリストバライト結晶の発生や成長を極力抑えた優れた光ファイバ母材が得られる。」(段落【0018】)

4.当審の判断
4-1.本願発明1について
引用例1の上記(a)の記載からみて、引用例1には「カーボンヒータによって光ファイバ母材を加熱溶融してその部分から光ファイバを線引きする光ファイバの線引き方法において、前記カーボンヒータはその高温発熱部の電流密度を700A/cm2以下にして前記光ファイバ母材の加熱を行うことを特徴とする光ファイバの線引き方法。」の発明(以下、「引用発明1」という)が記載されているといえる。
そこで、本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1では、「光ファイバ母材を加熱溶融してその部分から光ファイバを線引きする」ことから、光ファイバ母材は「延伸」されているものとみれるので、両者は、「ガラス母材をヒーターにより加熱して延伸するガラス母材の延伸方法。」で一致するものの、
(イ)本願発明1が「ヒーターの表面負荷密度を10W/cm2以上50W/cm2以下とし」ているのに対し、引用発明1では「カーボンヒータはその高温発熱部の電流密度を700A/cm2以下にし」ている点
で相違がみられる。
なお、この点ついて、特許権者が平成14年10月11日付け手続補足書で提示した参考文献1や引用例1の上記(b)の記載からみて、本願発明1の「表面負荷密度」と引用発明1の「電流密度」は共にヒーターの特性を示す指標であり、ヒータ寿命に関係するものとはいえるが、本願明細書の「ヒーター表面の単位面積当たりにかかる電力(以下、表面負荷密度と呼ぶ)」(段落【0006】)との記載と引用例1の上記(d)の記載からみて、両者の定義は別異のものであり、両者は異なる指標であると云わざるを得ない。そして、本願発明1が「ヒーターの表面負荷密度を10W/cm2以上50W/cm2以下」とすることにより、「「ガラス母材の軟化部分の大きさを満足できる寸法精度で延伸可能な範囲とすることができ」、「ヒーター組織の劣化を防止し寿命を長く保ち粉塵の発生を抑えるので、満足できる品質のガラス母材を得ることができる。」」(段落【0040】)ものであるから、引用例1の上記(b)の記載の目的を達成するために導入している引用発明1の「電流密度」が本願発明1の「表面負荷密度」と同じヒーター特性指標であるとみることはできない。
上記相違点(イ)について他の引用例に基づいて検討すると、引用例2には上記(a)〜(d)の記載からみて、加熱しながら光ファイバ母材を延伸する際、加熱炉内に挿入された光ファイバ母材の表面に生じるクリストバライト結晶の成長を抑えながら延伸するために、光ファイバ母材の表面温度が、1400〜1700℃である時間が1時間以内に納まるようにすることが開示されているといえるが、引用例2には上記相違点(イ)のヒーターの表面負荷密度については何ら記載されていない。そして、引用例2の上記(b)の記載から分かるように引用例2に記載の発明は結晶化による弊害を除去しようとするものであり、「ガラス母材を満足できる寸法精度で延伸しつつ、ヒーターの劣化を防止して寿命を保ち粉塵の発生を抑えることができる」(段落【0009】)ようにした本願発明1とは技術的思想が相違していると共に、引用例2の上記(c)に実施例が記載されているが、ヒータの具体的な寸法が記載されていないので、表面負荷密度については不明と云わざるを得ない。
そして、本願発明1は、上記相違点(イ)にかかる特定事項を採用することにより、明細書に記載の、前記したとおりの効果を奏するものと認められる。
したがって、本願発明1は引用例1、2に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
4-2.本願発明2、3について
本願発明2、3は、いずれも請求項1を引用し、本願発明1をさらに限定したものであることから、上記4-1で検討した同じ理由により、引用例1、2に記載された発明に基づいて発明をすることができたものとすることはできない。
4-3.本願発明4について
本願発明4は、上記相違点(イ)にかかる事項をその特定事項の一部として備えるガラス母材の延伸装置に係る発明であるから、本願発明4は、本願発明1で検討した理由により、引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
4-4.本願発明5〜8について
本願発明5〜8は、いずれも請求項4を引用し、本願発明4をさらに限定したものであることから、上記4-3で検討した同じ理由により、引用例1、2に記載された発明に基づいて発明をすることができたものとすることはできない。
5.結び
以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2002-12-10 
出願番号 特願平10-244405
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C03B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 五十棲 毅深草 祐一武重 竜男  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 唐戸 光雄
岡田 和加子
発明の名称 ガラス母材の延伸方法および延伸装置  
代理人 好宮 幹夫  

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